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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)152号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決理由の要点)については、当事者間に争いのないところである。

二 取消事由の存否について判断

1 前記争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証の二(本願特許願書添付の明細書、以下「本願明細書」という。)、同号証の三(同添付の図面)及び甲第三号証(昭和六〇年一一月六日付手続補正書)を総合すると、本願発明は、電線周囲へ架橋絶縁材料を押出す方法及び装置に関するものであるが、従来公知の装置においては、架橋絶縁材料を得るのに必要な材料(第1図の3)であるポリエチレンのような架橋性絶縁材料と架橋剤(有機過酸化物)とを同時に押出機の供給ホツパー(同図4)に導入していたので、押出ヘツドのハウジング内で早期に架橋するのを防止するために比較的低温に維持し、かつ残留時間をも比較的に短くする必要があつたために、架橋性絶縁材料を能率的に濾過できない(同図の10のフイルターに細かい目のものを使うとハウジング内にデツドゾーンができて初期架橋が起きてしまう。)という欠点があつたこと(本願明細書四頁一二行ないし五頁一一行、昭和六〇年一一月六日付手続補正書二頁(1))、粉末または粒状物として供給される架橋性絶縁材料は、棒状物を切断して製造されるものであるので、その際の微細な金属片の混入が避けられず、これが架橋性絶縁材料で被覆された電線(同図7)の良好な絶縁性を害する原因となるところから、能率的な濾過を行うことは重要な必要条件となつていたこと(本願明細書五頁一一行ないし六頁六行)、他方、装置の規模の点についても、早期の架橋を抑えるためにハウジング内では架橋温度より低く維持しなければならないので、従来公知の装置においては、架橋を能率的に行うための温度の上昇操作を押出ダイの下流で行う必要があり、そのため架橋オーブン(同図9)の長さを増大させ、さらに成形加工プラント全体を増大させることにもなるという欠点があつたこと(本願明細書六頁七行ないし一六行、昭和六〇年一一月六日付手続補正書二頁(3))、本願発明は、従来公知の装置における右のごとき欠点を解消するため、架橋性絶縁材料と架橋剤とを同時に供給することをせずに、まず、架橋性絶縁材料のみを供給して最大の流動性状態をもたらすように、最大温度に近い温度で加熱し、この加熱流動状態にした架橋絶縁材料を濾過手段を通過させることによつて異物を除去し、その後冷却したのち、この冷却架橋性絶縁材料に架橋剤を入れて、架橋性絶縁材料と架橋剤とを混合することとして、特許請求の範囲第一項記載の構成を採択したものであることが認められる。

2 引用例に審決認定のとおりの記載があり、本願発明と引用例記載の発明との間に審決摘示のとおりの共通点及び相違点があることについては、当事者間に争いがないところ、原告は、本願発明と引用例記載の発明との間にはさらに構成上重要な相違点があり、これによつて効果上も差異の生ずることを審決は看過した旨主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない甲第五号証(特開昭五〇―三六九八五号公報)によれば、引用例記載の発明は、架橋プラスチツクケーブルの製造方法に関するものであり、ポリエチレンのような架橋性絶縁材料と有機過酸化物などの架橋剤とを予め混合したポリエチレン組成物を用いて電線などの導体を押出被覆する従来の方法における欠点、すなわち、「(従来の方法では)押出機に供給されるポリエチレン組成物中に含まれている空気や異物を、またホツパースクリユー内で巻き込まれた空気が押出物中で欠陥やボイドを形成するのを防止できないという欠点」(引用例四二一頁右下欄五行ないし九行)があり、異物については、押出機のブレーカープレートに取り付けられたスクリーンによつてある程度までの異物が除去されているが、早期架橋反応を生じさせることになることからスクリーンは網目の比較的大きなものしか使えなかつたので、小さな異物は架橋性絶縁材料の中に残留してしまいケーブルの耐電圧の向上等の妨げとなつていたこと(四二一頁右下欄末行ないし四二二頁左上欄八行)、また「架橋剤が予め混入されたポリエチレン組成物を押出機に挿入する方法では、長時間運転により押出機内で一部架橋剤が分離してポリエチレンの架橋反応が起こり、押出機の表面性を悪くしたり、押出不能になることがしばしば起こり、連続して長尺のケーブルを製造する際に問題があつた。」(四二二左上欄九行ないし一五行)等の欠点を解消するために、「二段型のスクリユー押出機を用い、第一段押出機から第二段押出機に入るまでの間においては、架橋剤を含まないプラスチツク組成物の脱気、異物除去操作を行い、第二段押出機では外部より前記組成物に架橋剤を圧入混練」する構成(引用例の特許請求の範囲の記載)を採用したものであることが認められる。したがつて、本願発明と引用例記載の発明とは、共通した技術的課題の解決のために、架橋性絶縁材料の濾過工程と架橋剤の添加・混練工程とを分離するという構成を採用している点で基本的構成が一致していることは明らかであり、審決は、右認定に係る引用例の特許請求の範囲に記載された発明について、その構成、右構成における具体的な加熱温度、使用される架橋性絶縁材料・架橋剤及び右構成により奏される効果を、本願発明の構成、効果と対比したものと認められるのである。

原告は、取消事由として、引用例記載の発明においては、架橋剤配合後の架橋性材料を押出機の出口直前で再度濾過する構成(引用例第1図のスクリーン12)を採用しており、この「再度の濾過」は引用例記載の発明の必須の構成要件であるから、本願発明とは、この点で構成上の重要な相違点があり、かつこの差異が作用効果の点でも大きな差異を生じさせる旨主張するが、本願発明と構成上対比された引用例記載の発明の特許請求の範囲には、原告のいう「再度の濾過」手段が何ら規定されていないうえに、これが引用例記載の発明の前記認定のような技術的課題の解決に不可欠な構成であるとも認められないから、原告主張のように「再度の濾過」手段が引用例記載の発明において必須の構成要件であるとみることはできない。確かに、前掲甲第五号証によれば、引用例には、その発明による架橋ポリエチレンケーブルの製造方法の一例を示す概略図として第1図が示され、そこには、スクリーン12が図示され、かつ、発明の詳細な説明欄には「上記架橋剤混入部Fで注入された溶融架橋剤は、再び従来程度のメツシユを有するスクリーン12を通過し、押出ヘツド13に送られ、」(四二三頁右上欄一五行ないし一七行)との記載があるが、スクリーン12の作用については何ら具体的な説明はないものの、引用例記載の発明においては、すでに第一段押出機の出口端に設けられたスクリーン8(従来の一〇〇メツシユ前後の網目より細かい二〇〇ないし八〇〇メツシユのものが用いられる。)(四二三頁左上欄六ないし九行)によつて脱気や異物の除去操作がなされ、更に第二段押出機中で混練が行われ(実施例によれば、混練は同機中のスクリユーにより行われる。)ているのであるから、第二段押出機の出口端に設けられているスクリーン12は、第二段押出機中で行われるポリエチレンと架橋剤の混練のため不可欠な手段ではなく、主としてこれをさらに均質化するために使用されているものと判断するのが合理的である。このことは、本願発明における架橋剤注入段階の実施態様として、本願明細書に「デイフユーザ25内にバツフル(図示せず)またはより一般的にはブレンド材料の流れが貫通するような偏向手段を設けることによつて、追加の均質化を得てもよい。」(本願明細書一二頁八行ないし一一行、昭和六〇年一一月六日付手続補正書三頁)と記載されており、本願発明の実施に当たつても、架橋剤注入後適当な混練手段が適宜用いられるものであるのに、この点の混練手段が本願発明の特許請求の範囲に規定されていないのと同列である。右のように引用例のスクリーン12の技術的意義を検討してみても、「再度の濾過」を行うことが引用例記載の発明の必須の構成要件とは認められないのであるから、これを前提とする原告の構成及び作用効果(本願発明と引用例記載の発明における温度差の点)の違いについての主張は採用の限りでない。なお、原告は、本願発明と引用例記載の発明とにおける濾過前の架橋性絶縁材料の温度及び架橋剤の配合時の温度の違い及び本願発明においては架橋剤を混練した後の架橋性絶縁材料を押出機を出る直前に押出許容最大温度まで上昇させることができることを根拠として、引用例記載の発明においては、再度の濾過を行うが故に、本願発明のごとく押出機内の混合物温度を比較的高く保持することも、押出機出口で混合物を加熱することもできないものである旨主張する。しかしながら、前掲甲第五号証によれば、引用例記載の発明においても、「ポリエチレンの融点より高くし、細かい網目のスクリーンを使用しても樹脂圧力が高くならない温度に加熱溶融される」(引用例四二二頁右下欄一一行ないし一四行)ものであり、また、第二段押出機の温度も「ポリエチレン融点より高く架橋剤の分解温度より低く設定する。」(四二三頁右上欄五行ないし六行)とされ、第二段押出機を通過した後の段階についても、「架橋剤が分解する温度より高温で、例えば水蒸気その他いずれの架橋方法によつても加硫され、これによつて架橋ポリエチレンケーブルコアーが完成され」る(四二三頁右上欄一七行ないし左下欄四行)と記載されていることからすると、引用例記載の発明における加熱温度も、引用例に例示された第一段押出温度を一五〇℃とし、第二段押出温度を一二〇℃とする場合に限られるものではないことが明らかであり、また、押出ヘツドを出る直前に架橋性絶縁材料の温度を押出許容最大温度に上昇させる点も、押出成形におけるエネルギーバランスと架橋剤の分解を考慮すれば、当業者が適宜になし得る事柄にすぎないのであるから、原告の主張する右の事項は、いずれも、原告主張のように、引用例記載の発明においては「再度の濾過」手段が必須の構成要件であるとみるべき根拠とはなり得ない。審決の本願発明と引用例記載の発明との対比判断は正当であつて、審決には、原告主張のような相違点の看過はない。

3 そうすると、本願発明と引用例記載の発明との間には、審決認定のとおり<1>濾過前の架橋性絶縁材料の温度と架橋剤の注入・混練時の温度並びに<2>架橋剤混練後の架橋性絶縁材料が押出ヘツドを出る前にその温度を押出許容最大温度に上昇させることについての相違点があるだけであるところ、本願発明は、架橋性絶縁材料の濾過工程と架橋剤の添加・混練工程を分離し、架橋剤を分解させることなく濾過の効率を高めるという引用例記載の技術思想を踏襲したものである(この点は原告も争わないところである。)うえに、本願発明で用いられる架橋性絶縁材料が特定されているものではないし、本願発明における架橋性絶縁材料の濾過温度及び架橋剤の添加・混練温度の限度に臨界的意義も認められず、反面、引用例記載の発明においても、架橋性絶縁材料の濾過温度と架橋剤の添加・混練温度は前記の加熱温度に限定されるものではなく、種々の架橋性絶縁材料に応じて、濾過温度をその融点より高く設定して流動性を与え、細かい網目のスクリーンを使用しても樹脂圧力が高くならない温度に加熱溶融できるのであり、架橋剤の添加・混練温度も用いられる架橋性絶縁材料の融点より高く架橋剤の分解温度より低く設定できるものであるから、<1>の本願発明における濾過温度及び架橋剤添加・混練温度は、用いる架橋性絶縁材料に応じて当業者が適宜選択し得る範囲のこととみざるを得ない。また、<2>架橋剤混練後の架橋性絶縁材料の温度を押出ヘツドを出る前に押出許容最大温度に上昇させるとした点についても、架橋性絶縁材料を成形するに当たつては架橋剤の分解と硬化工程におけるエネルギーバランスとを考慮することによつて、当業者が容易になし得る事柄であり、本願発明が、これにより顕著な効果を奏することを認め得る証拠はない(甲第一〇号証の宣誓供述書の内容は第二のスクリーンを用いた場合とこれを用いない場合の結果の比較であつて、これによつても、このように規定したことによる顕著な効果を認めることはできない。)。

4 右のとおりであるから、本願発明は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした審決の判断は正当であり、審決には、原告主張のような違法の点はない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないので、これを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明(特許請求の範囲第一項記載の発明)の要旨は左のとおりである。

分離的に架橋剤を添加して架橋せしめられる絶縁材料を密閉環境で連続押出するにあたり、出口端部の近くに濾過手段を設けるとともに該出口端部に押出ヘツドを設けた押出機に架橋性絶縁材料を通過させ、該押出機を二〇〇℃~二二〇℃に加熱するとともに上記架橋性絶縁材料が流動状態となるようにその温度を略該架橋性絶縁材料の許容最大温度にせしめ、濾過した架橋性絶縁材料を上記架橋剤の反応温度より若干低い一四〇℃~一五〇℃に冷却し、上記冷却架橋性絶縁材料に上記架橋剤を注入し、該架橋性絶縁材料と架橋剤を混合し、その後、該混合物が上記押出ヘツドを出る前にその温度を略当該溶融材料の押出許容最大温度に上昇させることを特徴とする架橋材料の押出法(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

(以下省略)

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