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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)160号 判決

一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。

二 認定判断の誤り第1点、同第2点について

1(一) 請求の原因四1の(一)中、布を構造によつて分類した場合には、織物、編物、組物、レース、網等の種類があり、この分類上では、編物と網(構造上の網)は異なるものであることが技術常識であることは当事者間に争いがない。

成立について当事者間に争いのない甲第六号証(「最新メリヤス辞典一九六五」一九六五年(昭和四〇年)一月一〇日メリヤス辞典刊行会発行)、甲第七号証(「増補改訂現代繊維辞典」昭和四三年一二月一日株式会社センイ・ジヤアナル発行)によれば、右のように構造によつて分類した場合の網(構造上の網)とは、縦又は横の方向の糸を一定の間隔を保ちながら順次結節によつて結び合わせて、透孔又は網目を形成したものをいうことは、辞典類に登載されるような技術常識であることが認められる。

成立について当事者間に争いのない乙第五号証(山口正隆他共著「被服材料学」昭和六二年一〇月一日株式会社建帛社発行)によれば、被服材料学の教科書あるいは概説書である同号証には、「その他の布帛材料」の章の「(3)ネツト」の項に、「網とは元来、結び目をもつて無数の連続した平面的空間を占めるもので、網目は網糸を結び合わせて四個の結節で構成された単位の繰り返しからなつている。」との記載があることが認められるが、右記載も前記の構造上の網を説明したものと認められる。

(二) 他方、網という名称は、糸を織り、編み、組み、あるいは結節して、透孔、即ち、網目を連続的に形成したものの総称として用いられる場合(形態上の網)があることが技術常識であること、請求の原因四1の(二)記載のとおり、種々の布地に「網」ないしは「ネツト」があること、これらのものは全て透孔即ち網目があり、通気性を有し、かつ伸縮性もあること、それらのことも技術常識であることは、当事者間に争いがない。

被告は、網編の編物、編物製の網等は構造上の網地及び構造上の編地のいずれの範疇にも属さない第三のグループに属すると主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

(三) また、「網地」という語における「地」とは、加工をする前の材料としての布(生地)を表す言葉であることは明らかであるから、「網地」という用語は、前記構造上の網の生地を表す場合と、前記形態上の網の生地を表す場合とがあるものと解することができる。

(四) 当事者間に争いのない前記請求の原因二の本件考案の要旨にいう「網地」が、前記構造上の網の生地を表すものか、前記形態上の網の生地を表すものかについて検討する。

(1) 成立について当事者間に争いのない甲第二号証(昭和五七年第三一七七八号実用新案出願公告公報、本件考案の実用新案出願公告公報)によれば、本件考案の明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件考案の「綱地」が、構造上の網の生地を表すものか、形態上の網の生地を表すものかについて明確な記載はなく、これを示唆する記載もないことが認められる。

被告は、本件考案の「網地」が、原告主張のように形態上の網であるならば、その明細書上の表現は「網状地」、「網状布」などとするのが常識的であり、本件明細書において、特に「網地」と表現して構造上の網に特定したものである旨主張するが、形態上の網であるならば、その明細書上の表現は「網状地」、「網状布」などとするのが常識的であること、及び、本件明細書において、特に「網地」と表現することにより構造上の網に特定したものと解釈できることを認めるに足りる証拠はない。

(2) 本件審決の認定判断したとおり、本件考案は「装着時の暑苦しい不快感を解消し、息づかいによつて胴部の径が大きくなつたり小さくなつたりすることがあつても伸縮するので装着時の息苦しい不快感を与えたりする欠陥がない。」という本件明細書記載の作用、効果を奏するものであることは当事者間に争いがない。

前記甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の欄には、右装着時の暑苦しい不快感を解消し得る効果は、胴巻ベルトを網地製としたことによる旨、及び、息づかいによつて胴部の径が大きくなつたり小さくなつたりすることがあつても胴巻ベルトが伸縮するので装着者に息苦しい不快感を与えたりする欠陥がない効果は、網目の存在によるものである旨(甲第二号証一枚目2欄一三行から一九行まで)の記載があることが認められるから、本件考案の網地は、通気性がよく装着時に暑苦しい不快感を与えないもので、伸縮性のあるものであることを要し、かつそれで足りるものというべきである。

そして、通気性のよさ及び伸縮性があることは多数の透孔即ち網目を連続して生地に設けていることによるものであるから、右のような効果を奏するためには、構造上の網地に限らず、透孔即ち網目を連続して生地に設けているもの、即ち形態上の網地であればよい。

被告は、「編物は糸のループによつて構成されている関係で、保温性は当然高くなる。これに対し、構造上の網である網地は網糸間の透き間(透孔即ち網目)によつて通気性が顕著であり、かつ、横もしくはバイアス方向への伸縮性も極めて大であつて、保温性は皆無に等しい。」旨主張するが、通気性や伸縮性は、透孔即ち網目の大きさ及びその形態、更には透孔以外の部分の広さや糸の構成によつて左右されるものであることは自明であり、構造上の網地が、それ以外の形態上の網地よりも、通気性、伸縮性に富んでいるとは必ずしもいうことができず、被告の主張は採用できない。

(3) 本件考案の実施例の図面においては、単に多数の円形の透孔を描いて網地を表していることは当事者間に争いがない。

前記甲第二号証によれば、本件考案の登録出願願書に添附された図面(本判決別紙図面)は、第1図が本件考案の実施例の全体の斜視図、第2図が実施例の胴巻ベルトの長手方向の断面図、第3図が実施例の胴巻ベルトの貴重品収納袋体が形成された中間部の上下方向の断面図であること、第2図及び第3図の断面図では、透孔即ち網目は、そうでない部分とほぼ等間隔に交互に並んだ空間として表されており、透孔でない部分の糸の構成は表されていないこと、第1図の斜視図には網地の状況を示す部分拡大図が付されているが、全体の斜視図においても、部分拡大図においても、網地は単に多数の円形の透孔を描いて表されていることは前記のとおりであり、これを更に詳しく見るとその円形の透孔は上下左右に列をなし、隣接する列とは千鳥がけになるように並んでいること、透孔でない部分は面状に表され、糸の構成は表されてなく、糸と糸が結節されている状況とは見られないこと、が認められる(別紙図面参照)。

さらに、およそ、明細書の考案の詳細な説明の欄には、必要があるときは、当該考案の構成が実際上どのように具体化されるかを示す実施例を記載するものとされ、その実施例は、出願人が最良の結果をもたらすと思うものを掲げるものとされ(実用新案法施行規則第二条の規定に基づく様式第三の備考13のロ参照)、また、願書に添附する図面は、考案の内容を理解しやすくするため明細書の補助として使用されるものである(本件出願後の昭和五九年通商産業省令第二一号による改正後の実用新案法施行規則第三条の規定に基づく様式第四の備考4は、本件出願につき適用されないが、考案の内容を理解しやすくするために、願書添附の図面には可能な限り当該考案の特徴が表されているものと解するのが相当である。)ところ、本件考案の構成が実際上どのように具体化されるかを示す実施例の図である本件考案の登録出願願書に添附された図面中第1図において、前記のとおり、網地は単に多数の円形の透孔を描いて表され、透孔でない部分は面状に表され、糸の構成は表されていないのであるから、右図面は、本件考案の網地は、透孔が連続して並ぶ点に特徴があり、透孔でない部分の糸の構成には特徴がないことを示しているものと解することができる。

(4) 右(1)ないし(3)に判断したところを総合すると、本件考案の「網地」は、構造上の網地に限定されるものではなく、通気性、伸縮性をもたらす多数の透孔即ち網目を連続して形成した布地の総称、つまり、形態上の網地を意味するものと解するのが相当である。

(五) なお、被告が代表者をしている株式会社コンサイスが、原告にあてて差し出した昭和五八年八月一二日付内容証明郵便において、腹巻形式の旅行用現金、パスポート入れである「貴重品ホルダー」のうち、織物の一種であるメツシユ(網目織)の生地を用いた物が、本件考案の技術的範囲に属するものである旨述べていること及び株式会社コンサイスは、同社が製造販売していた腹巻形式の旅行用現金、パスポート入れである「キヤツシユベルト」に、本件実用新案の登録番号を付していたが、その「キヤツシユベルト」の本体は編布でできていたことは当事者間に争いがなく、同社が被告から本件考案の実施権を許諾されたものであることは、被告の自認するところである。右各事実によれば、本件考案の実用新案権者である被告が、本件考案の実用新案登録後において、本件考案の「網地」には織物又は編物からなる形態上の網地を含み、構造上の網地に限定されるものではないと認識していたことが認められ、この事実も右(四)に判断したところに沿うものである。

被告は、原告主張の内容証明郵便の発送当時、被告は、原告の製品の生地が構造上の網地であると、また、株式会社コンサイスの「キヤツシユベルト」の生地も構造上の網地であると、いずれも錯覚していたものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。それのみか、原本の存在及び成立に争いのない甲第九号証(昭和五八年八月一二日付株式会社コンサイス代理人から原告代理人あて内容証明付き書簡)及び本件口頭弁論の全趣旨によれば、右内容証明付き書簡は、株式会社コンサイスと原告間の本件実用新案権の侵害の有無についての紛争の中で差し出されたものであることが認められ、そのような慎重な検討が行われる状況の中で、当業技術者である被告及び株式会社コンサイスの関係者が相手方である原告の製品の生地の構造を錯覚したという主張は極めて不自然であり、また、編布製の自社の製品の生地を構造上の網地と錯覚したという主張も極めて不自然である。

2 したがつて、本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「網地製」には、構造上の編物である編布であつても形態上の網地にあたるもの、即ち、通気性、伸縮性をもたらす多数の透孔即ち網目を連続して形成したものにより製造されたものをも含むものと認められる。

編布の一種である「網目編(ネツト編)」に透孔即ち網目があり、通気性を有し、かつ伸縮性があることは当事者間に争いがないから、網目編の編布のうち透孔即ち網目の多いものは、形態上の網地にあたるものというべきである。

3 原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証(昭和五八年六月一日付実用新案法第八条第二項の規定による実用新案登録願の写し、先願考案の実用新案登録願写し)、成立について当事者間に争いのない甲第四号証(昭和六二年第七一三〇号実用新案出願公告公報、先願考案の出願公告公報)によれば、先願考案は、「通気性の良好な編布」からなることが認められるところ、右2記載の、構造上の編物である編布であつても形態上の網地にあたるもの、例えば、編布の一種である「網目編」の編布のうち透孔即ち網目の多いものは、先願考案の「通気性の良好な編布」に含まれるものということができる。

4 そうすると、先願考案の「通気性の良好な編布」に含まれる構造上の編物である編布であつても形態上の網地にあたるものは、本件考案の「網地」にも含まれるものであり、本件考案の「網地」と先願考案の「編布」とは別異のものとした本件審決の認定判断は誤りであり、その結果、本件審決は、本件考案の「網地製」と先願考案の「通気性の良好な編布」から成ることとは、表現こそ異なるが実体は一致する場合があること(部分的一致)を看過誤認し、本件考案と先願考案は同一考案とは認められないと認定判断を誤つたものである。

しかして、右認定判断の誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

三 よつて、その主張の点に違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容する。

〔編注〕本件考案の要旨は左のとおりである。

網地製の胴巻ベルトの中間に貴重品収納袋体を形成すると共に当該胴巻ベルトの両端に相互に係合するベルベツト式フアスナー等係止具を取付けて成る貴重品携帯具。

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