東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)164号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
二 本願発明について
原本の存在及び成立について当事者間に争いのない甲第二号証の一ないし三によれば、本願発明の目的、構成、作用効果は、次のとおりであることが認められる。
1 本願発明の目的
ウーロン茶の抽出液は、通常の方法で抽出した場合エキス分中の蛋白質やたんにんのため、直ちに沈澱物を生じ、著しい濁りを生ずる。
又、その抽出液を缶詰等として加熱殺菌して保存すると、着色したり、苦み、渋味を増し、pHが低下して飲用に適さなくなる。
そこで、本願発明は、これ等の欠点を除き長期間保存に耐える缶、びん又は袋詰等としたウーロン茶ドリンクを提供すべくなしたものである(甲第二号証の一、二頁二行から一〇行まで)。
2 本願発明の構成
前記請求の原因二(本願発明の要旨)のとおりの特許請求の範囲。
3 本願発明の作用効果
(一) 抽出に用いる水中にナトリウム又はカリウムの炭酸塩類あるいは燐酸塩類、例えば、重炭酸ソーダを溶解し、ウーロン茶葉を加えて加熱抽出すると、抽出液中で沈澱を生ずる物質の一部の溶出を抑制し、一部は可溶化し、抽出液中での沈澱と濁りを防止できることがわかつた(甲第二号証の一、二頁一二行から一七行まで)。
(二) しかし、このままでは、香味が悪く、缶詰等として保存中にpHが低下したり、着色が生じる欠点が残ることも判明した。
そこで、上記処理をした抽出液に抽出後直ちにアスコルビン酸を添加し、pHを約六・〇~七・〇に再調整してから缶詰等にすると、香味が改良され、変色も起こらず、pHも長期間安定した。
このアスコルビン酸の添加による安定作用については明確ではないが、還元作用並びに緩衝作用によるものと考えられる(甲第二号証の一、二頁一八行から三頁九行までに補正を加えたもの)。
(三) ナトリウムの炭酸塩類等及びアスコルビン酸の添加量については、茶葉の品質、使用量、抽出条件などで異なるが、抽出時pHが約七・〇~八・〇となるような量及び抽出液のpHを約六・〇~七・〇に再調整するような量とするのが重要な要件である。
即ち、抽出時にたとえばpH八・五以上であれば、ポリフエノール類が分解され、着色、香味の劣化等を生じ、pH六・〇以下では、葉部のポリフエノールが安定化し、容易に溶出せずに、本来のウーロン茶の香味が得られず、異臭(イモ臭)を生じてしまう。また、抽出液がpH六・〇以下では、カフエインとテアフラビン、テアルビジンとの不溶性複合物質の形成が促進され、濁度が増し、又、カテキン類の縮合が生じて渋味が生じてしまうことになり、pH七・〇以上ではポリフエノール類の分解が促進され、抽出液の褐変化、香味の劣化が生じてしまう(甲第二号証の一、三頁一〇行から一四行までに補正を加えたもの)。
三 第一引用例の記載について
成立について当事者間に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には次のような記載があることが認められる。
1 特許請求の範囲
(一) 茶の熱浸出液(六〇℃~一一〇℃)に、アンモニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、酸化物、リン酸塩、ポリリン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩およびケイ酸塩のいずれか一つもしくはそれ以上を〇・〇一%~五%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度で添加することにより「クリーム」の形成なしで茶の冷抽出物を製造する方法(特許請求の範囲第1項)。
(二) 第1項との組合わせにおいて、たとえばアルギン酸またはペクチン酸のようなマンニユロン酸鎖構造を有する安定剤、たとえばセルローズのような同様の繰返し単位を有する化合物、あるいはそれら安定剤のいずれかを含有する天然物質の可溶形を〇・〇一~五%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度において添加することによる、茶抽出物の沈澱の程度を遅延させる方法(特許請求の範囲第2項)。
(三) 第1項および第2項との組合わせにおいて、安息香酸、亜硫酸、没食子酸およびソルビン酸の可溶性塩を個々にまたは集合的に添加することにより、茶抽出物を有効に保存する方法(特許請求の範囲第3項)。
(四) 第1項、第2項および第3項との組合わせにおいて、たとえばアスコルビン酸、またはブチル化ハイドロキシアニソールのような抗酸化剤を〇・〇一%~〇・一%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度において添加することにより、茶の香気の劣化を防止する方法(特許請求の範囲第4項)。
(五) 第1項、第2項及び第4項との組合わせにおいて、滅菌により、茶抽出物を有効に保存する方法(特許請求の範囲第5項)。
(六) 第1項、第2項、第3項または第5項および第4項との組合わせにおいて、熱いまたは冷たい、甘味化しまたは甘味化しない、ミルク入りまたはミルクなし、香料入りまたは香料なし、そして炭酸化しまたは炭酸化しない、茶の抽出物の製剤(特許請求の範囲第6項)。
2 発明の詳細な説明
(一) 本発明は冷却した飲料に適した茶抽出物を製造する方法に関する、澄明で色彩に富んだ収斂性の茶浸出液は熱水または沸騰水(六〇℃~一一〇℃)を紅茶に対し添加(水五〇ml当たり〇・五~三g)することによつて製造できる。それら熱浸出液を冷却するとき、上記の望ましい品質の大部分は、茶の業界で「クリーム(Cream)」として示されている帯褐色懸濁物の形成に基づき失われてしまう。従つて、茶の熱浸出液を冷却することにより、よい品質を有する茶の冷抽出液を製造することは不可能である。冷却の際の、「クリーム」の形成は蛋白―色素―カフエイン―ポリフエノール複合体の形成に基づくものである。そして多分また、ポリサツカライドが「クリーム」の形成に部分的に役割をはたしているのであろう(甲第三号証二頁左上欄二行から一七行まで)。
(二) 茶の抽出液における「クリーム」の形成は、茶の熱浸出液(六〇℃~一一〇℃)に対し次の化合物の一つもしくはそれ以上を〇・〇一%~五%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度で添加することによつて防止できる。アンモニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウムの炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、酸化物、リン酸塩、ポリリン酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩およびケイ酸塩(甲第三号証二頁左上欄一八行から右上欄六行まで)。
上記方法によつて製造される茶の熱浸出液は、三〇種類以上の化合物を含有し、そのうちあるものは、茶液体の品質に対し責任を負つている。それら化合物は……カフエイン……主要ポリフエノール類、カテキン類、および酸化着色ポリフエノール類、テアフラビン類、テアルビゲン類を包含する(甲第三号証二頁右上欄七行から一四行まで)。
(三) 上記方法によつて製造される茶浸出液は二%ないし一五%の庶糖(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)または庶糖とたとえばサツカリン、サイクラメート等のような人工甘味料とで甘味化しうる(甲第三号証二頁右上欄一九行から左下欄三行まで)。
(四) たとえばアルギン酸またはペクチン酸のようなマンニユロン酸鎖構造を有する安定剤、またはたとえばセルローズのような同様の繰返し単位を有する化合物、またはそれら安定剤のいずれかを含有する天然物質の可溶性形を〇・〇一~五%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度において加えうる(甲第三号証二頁左下欄三行から九行まで)。
(五) 上記のように処理された茶抽出物は、たとえばアスペルギルスおよびペニシリウム種のようなカビ類そしてまた他の有害微生物の生長のための高度の栄養源である。処理された茶抽出物中におけるそれら微生物の生長は防腐剤の添加によりあるいは滅菌(これは後に工程の最終段階において行われる)により防止することができる。前者の場合、安息香酸、亜硫酸、没食子酸およびソルビン酸の可溶性塩が、個々にまたは集合的に〇・〇一%~一%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度で使用でき、ただし処理された茶浸出液は一種もしくはそれ以上の防腐剤の最高有効性のための正しいpHに維持される(甲第三号証二頁右下欄五行から一七行まで)。
(六) ついで香料が、使用されるエツセンス類の品質に依存し、香料と茶成分との正しい混合物が得られるように〇・一%~一%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度で処理された茶抽出物に加えられうる(甲第三号証三頁左上欄三行から八行まで)。
(七) 処理された茶抽出物の劣化を防止するために、たとえばアスコルビン酸またはブチル化ハイドロキシアニソールのような抗酸化剤を、〇・〇一%から一%(茶抽出物一〇〇ml当たりのgにおける重量に基づき)程度の濃度で加えうる(甲第三号証三頁左上欄一〇行から一四行まで)。
(八) 処理された茶抽出物はついで、ポストミツクスまたはシロツプ化系中あるいはプレミツクスまたは連続混合系中のいずれかにおいて〇℃が一五℃の間の温度で炭酸化されうる。最終生成物はビンづめまたはカンづめできる(甲第三号証三頁左上欄一五行から一九行まで)。
(九) もしも化学防腐剤が使用されていないならば、ついで滅菌を四五℃ないし八〇℃の温度で五秒間ないし三〇分間のあいだ行うことができる(甲第三号証三頁左上欄一九行から右上欄二行まで)。
四 認定判断の誤り第1点について
1 現在の法令用語としての「又は」が選択的意味と併合的意味を併せ持つ接続詞であるのに対し、「及び」は併合的意味のみを有する接続詞であることは、当裁判所に顕著である。
また、一般用語としても、「又は」の語が、「(接続詞)これかあれかと二つ並べていう時に用いる語。<1>A・B……の少なくとも一つが成り立つ意。<2>A・B……のどれか一つだけが成り立つ意。」(昭和五八年一二月六日岩波書店発行「広辞苑第三版」二二五三頁)、「(接続詞)並列的な、または選択的な関係にある事柄を列挙することを示す。」(昭和五六年一二月一〇日小学館発行「国語大辞典」二二三二頁)とされているのに対し、「及び」の語は、一般に「(接続詞)主に名詞相互をつなぎ、それらの指すものに一括して言及する意を表す。ならびに。かつ。……も……もみな。」(前記「広辞苑第三版」三六四頁)、「(接続詞)先行の事柄と、後続の事柄とが並列の関係にあることを示す。ならびに。また。と。」(前記「国語大辞典」四〇三頁)と説明されていることも当裁判所に顕著である。
しかし、「関西、中国及び九州方面に向かう車で、高速道路が混雑した。」、「トマトは、レタス、キヤベツ、キユウリ及びアスパラガスと組み合わせてサラダにできる。」という表現における「及び」が選択的意味をも併せ持つものと理解して何ら違和感がないことからすれば、それが厳密な意味で正しい用法か否かはさておき、「及び」という接続詞が、並列的(併合的)意味のみではなく選択的意味をも併せ持つものとして用いられる場合も少なくないものと推認することができる。
2 第一引用例の特許請求の範囲第2項は第1項との組合わせにおいて安定剤を添加することを含んでいることは、前記第一引用例の特許請求の範囲から明らかであるから、もし第一引用例の特許請求の範囲における「および」の語が、並列的意味のみを有するものとすると、特許請求の範囲第3項の「第1項および第2項との組合わせにおいて」との表現は、単に「第2項との組合わせにおいて」とすれば足りるはずであるのに対し、選択的意味をも有するものとすると、右のとおりの「第1項および第2項との組合わせにおいて」との表現には意味がある。
同様に、もし第一引用例の特許請求の範囲における「および」の語が、並列的意味のみを有するものとすると、第一引用例の特許請求の範囲第3項が第1項および第2項との組合わせにおいて防腐剤を添加することを含んでいることは、前記第一引用例の特許請求の範囲から明らかであるから、特許請求の範囲第4項の「第1項、第2項および第3項との組合わせにおいて」との表現は、単に「第3項との組合わせにおいて」とすれば足りるはずであるのに対し、選択的意味をも有するものとすると、右のとおりの「第1項、第2項および第3項との組合わせにおいて」との表現には意味がある。
したがつて、第一引用例の特許請求の範囲における「および」は、選択的意味をも有する趣旨で用いられたと解する方が合理的であるとみられる。
3(一) 前記三(第一引用例の記載について)1(一)によれば、第一引用例の特許請求の範囲には第1項として、茶の冷抽出物を製造する方法において、クリームの生成を抑制する目的で、茶の熱浸出液に、アンモニウム、ナトリウム等の炭酸塩、重炭酸塩等を添加する技術が独立した発明として記載されていることが認められ、重炭酸ソーダがナトリウムの重炭酸塩であり、重炭酸アンモニウムがアンモニウムの重炭酸塩であることは一般常識として当裁判所に顕著である。
(二) 前記三1(二)、同2によれば、第一引用例の特許請求の範囲第2項には、第1項の発明を前提として、これに付加して、茶抽出物の沈澱の程度を遅延させるためにアルギン酸、セルローズ等の安定剤を添加する技術が、独立の発明として記載されていることが認められるが、前記三2(四)の記載、特に「加えうる。」と記載されていること及び前記三2認定の発明の詳細な説明には、右安定剤の添加が、第1項の発明、前記三2(三)の甘味料の添加、(五)の防腐剤の添加、(六)の香料の添加、(七)の抗酸化剤の添加、(八)の炭酸化、ビンづめ、カンづめ、(九)の滅菌処理に必要不可欠の要素であることを示す記載のないことによれば、右安定剤の添加は、第1項の発明、前記三2(三)の甘味料の添加、(五)の防腐剤の添加、(六)の香料の添加、(七)の抗酸化剤の添加、(八)の炭酸化、ビンづめ、カンづめ、(九)の滅菌処理との関係では、任意の付加的技術であるものと認められる。
(三) 前記三1(四)、同2によれば、第一引用例の特許請求の範囲第4項には、第1項の発明を前提として、これに付加して、茶抽出物の香気の劣化を防止する目的で、アスコルビン酸等の抗酸化剤を添加する技術が、独立の発明として記載されていることが認められるが、前記三2(七)の記載、特に「加えうる。」と記載されていること及び前記三2認定の発明の詳細な説明には、右抗酸化剤の添加が、第1項の発明、前記三2(三)の甘味料の添加、(四)の安定剤の添加、(五)の防腐剤の添加、(六)の香料の添加、(八)の炭酸化、ビンづめ、カンづめ、(九)の滅菌処理に不可欠の要素であることを示す記載のないことによれば、右抗酸化剤の添加は、第1項の発明、前記三2(三)の甘味料の添加、(四)の安定剤の添加、(五)の防腐剤の添加、(六)の香料の添加、(八)の炭酸化、ビンづめ、カンづめ、(九)の滅菌処理との関係では、任意の付加的技術であるものと認められる。
4 右1ないし3の事実によれば、前記三1認定の第一引用例の特許請求の範囲の第3項に、「第1項および第2項との組合わせにおいて」とあり、同第4項に、「第1項、第2項および第3項との組合わせにおいて」とあり、同第5項に、「第1項、第2項および第4項との組合わせにおいて」とあり、同第6項に、「第1項、第2項、第3項または第5項および第4項との組合わせにおいて」とある「および」の語は、並列的(併合的)意味と選択的意味とを併せ有する接続詞として使用されているものと認められる。
したがつて、第一引用例の特許請求の範囲第6項には、第4項(その内、第1項と組合わせたアスコルビン酸等の抗酸化剤の添加による、茶の香気の劣化を防止する方法)との組合わせによる茶の抽出物の製剤が記載されているものと認められ、かつ、その製造方法が開示されているものと認められる。
よつて、第一引用例には、安定剤を添加する工程のない製造方法も開示されているものであり、本件審決には、原告主張のような、本願発明と第一引用例記載の方法との相違点の看過誤認は認められない。
五 認定判断の誤り第2点について
1 成立について当事者間に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例には次のような記載があることが認められる。
(一) 特許請求の範囲
(1) 水性溶液で茶の葉を抽出する茶の抽出物を得る方法において、茶の葉を重炭酸アンモニウムの水性溶液で抽出することを特徴とする方法(特許請求の範囲第(1)項)。
(2) 前記第(1)項から第(10)項の任意の一に記載の方法によつて製造された抽出物を含む抽出物を噴霧乾燥することによつて製造したインスタント・テイー粉末(特許請求の範囲第(11)項)。
(二) 発明の詳細な説明
(1) 本発明は、茶の葉の抽出に関する。インスタント・テイー例えば冷水可溶性(氷添加)インスタント・テイーなどの製品は、茶の葉の熱湯抽出物を通常は含んでいる。このような製法は、……「Food Processing Review」第一一号の二九ページから六三ページに……記載されているが、……米国特許第二九〇二三六八号が特に参考となりうる。優れた製品が得られているが、可溶性茶固体の収率を改善することがきわめて望ましいであろうとは長い間認められてきた(甲第四号証二頁左上欄一四行から右上欄七行まで)。
(2) 本発明の主要な目的は、単に熱湯抽出を使用して得られるものよりも実質上高い収率で、茶の葉を抽出する方法を提供することにある。
重炭酸アンモニウム又はアンモニアの水性溶液を使用して茶の葉から可溶性固体を抽出すれば、水を使用する以外は同一条件を使用して得られた収率を基準として、収率が少なくとも約三〇%増加することが見出された。
重炭酸アンモニウム又はアンモニアは、いかなる温度でも茶の葉から可溶性固体を水性抽出するのに役立つであろう。しかし実際的な条件下では、通常、温度では五〇℃以上、好ましくは九〇℃以上でなければならない。温度の上限は、風味の消失及び褐色の発現、及び抽出物中のアンモニア又は重炭酸アンモニウム(この場合には分解が先行する)の量が、例えば大気中への排出によつて減少する速度によつて左右される(甲第四号証二頁右上欄一〇行から左下欄六行まで)。
わずかな量の重炭酸アンモニウム又はアンモニアの存在さえ、収率の改善に影響を与えるであろうが、実際的な効果を得るためには、水の重量を基準として〇・一%又は好ましくは〇・五%の最低量が推奨される(甲第四号証二頁右下欄一三行から一七行まで)。
考えられる大部分の他の化学的抽出補助剤より重炭酸アンモニウムやアンモニアが優れている点は、それらが茶以外の残渣を無視し得る量しか残さないということである。しかし、分解が先行する重炭酸アンモニウムの場合には、抽出補助剤が系から除去される速度、及び従つて最初に存在する好ましい最大量は、温度と時間の両者及び茶の葉の付随的な成分等の他の要因によつて左右される(甲第四号証三頁左上欄二行から一〇行まで)。
(3) 使用する茶の葉は、任意の種類のもの、例えば緑茶、紅茶又はウーロン茶であつてもよいが、本発明は、発酵させた茶(紅茶)の茶の抽出において特に有用である。……本発明の製法は……以前に抽出されていない、すなわち新鮮な茶の葉の抽出、又は使用済みの葉、例えば熱湯で以前に抽出されたことのある茶の葉の抽出に使用することができる(甲第四号証三頁左下欄二〇行から右下欄七行まで)。
(4) 本発明の方法は、可溶性の茶の固体の高い収率が得られるという大きな利点を有し、得られた抽出物は通常の方法で処理できるが、その抽出物は少なくともそれが未乾燥で使用済みの葉の場合には極端に粘稠である。このことは、例えば噴霧乾燥の前に、例えば抽出物を濃縮する場合には種々の問題を生じる可能性がある。また、冷硬水に可溶な製品を製造するのに抽出物を使用する場合には、このような製品の残念なほど低い収率のものしか得られない。主方法の種々の修正法……が考案され、これらの問題が緩和された。……問題を生じる原因又はいくつかの要因となつている、おそらくは高分子量の茶のペクチンは、好ましくは過酸化水素の存在下に、三・五ないし八・五のpHで水性溶液又は懸濁液中で加熱することによつて、熱処理を行わなければならない。pHは五ないし八が好ましいが、八・五より高いpHは絶対に使用してはならない(甲第四号証四頁左上欄一三行から右上欄一一行まで)。
熱処理は、抽出された可溶性茶固体の部分(この部分には有害物質が濃縮されている)のみに用いるのが有利である。このような濃縮は……米国特許第二八九一八六六号に広範囲に記載されているように、例えばカルシウム塩、特に塩化カルシウムを用いた茶のクリームの沈澱によつて達成することができる。……熱処理……は、茶のクリームのアルカリ処理の前段階を形成するのが都合がよい。(茶のクリームを可溶化するためのアルカリ処理は、周知の技術であり、その例は、例えば前記の……「Food Processing Review」第一一号の九二ページから一二六ページに記載されている)(甲第四号証四頁左下欄一一行から右下欄九行まで)。
重炭酸アンモニウム抽出物又はアンモニア抽出物をオートクレーブ中で処理した後には、その抽出物をうまく一緒にし、その混合物のクリームを除去し、その茶のクリームを従来通りアルカリで処理してまだ冷水に不溶である成分を可溶化し、次に過酸化水素で処理して色を薄くし、さらに処理した茶のクリームを抽出物の混合物に添加してなおす(甲第四号証五頁右上欄一五行から左下欄二行まで)。
(5) 新鮮な葉を前に熱湯で抽出して得られた使用済みの葉の使用済み葉抽出物、すなわち本発明に従つた抽出物は、六・八~八・五のアルカリ性pHを有する。……pHは、必要な場合には完全茶の通常の熱湯抽出物又は毒性的に認容しうる酸(例えばクエン酸又は塩酸)あるいは両者を使用して、通常の茶製品のpH、すなわちpH四・五~六に調節することができる。……本発明に従つて、新鮮な茶の葉の向流抽出から得られる抽出物は、通常は、五ないし六・五の範囲のpHを有することが見出されている(甲第四号証五頁左下欄七行から二〇行まで)。
(6) 茶の葉の重炭酸アンモニウム抽出によつて得られる抽出物は、多くの用途に使用することができる。例えば、……水性重炭酸アンモニウム又はアンモニアによる新鮮な茶の葉の抽出から得られた抽出物は、好ましくは前記の熱処理、特にそれに続くアルカリ処理によつて、さらにクリームを可溶化し、インスタント・テイーを製造するのに使用することができる(甲第四号証五頁右下欄三行から一一行まで)。
2 右1認定の事実によれば、第二引用例には、緑茶、紅茶及びウーロン茶を含む茶の、新鮮な葉又は前に熱湯で抽出した後の使用済みの葉の、抽出物を、例えば噴霧乾燥して、インスタント・テイーを製造するための可溶性茶固体の収率を高める目的で、「水性溶液で茶の葉を抽出する茶の抽出物を得る方法において、茶の葉を重炭酸アンモニウム又はアンモニアの水性溶液で抽出することを特徴とする方法。」の発明が記載されていることが認められる。
右にいう茶の可溶性茶固体を抽出するとは、茶の葉の中にある可溶性固体を固体として取り出すのではなく、水溶液中に溶解させて取り出すものであり、右の方法で抽出された状態ではクリームは形成されていない。
ところで、右方法に使用される重炭酸アンモニウムは、第一引用例に、重炭酸ナトリウムと共にクリームの形成を防止するための添加剤として挙げられているものであり、且つ、前記1(一)(1)及び同(二)(2)記載のとおり、第二引用例においては、重炭酸アンモニウムの使用割合については限定がなく、水の重量を基準として〇・一%又は好ましくは〇・五%の最低量が推奨されるとされているのみであるから、抽出中の重炭酸アンモニウムの分解を考慮して、抽出後に、第一引用例においてクリームの形成を防止するのに必要とされている程度の濃度の重炭酸アンモニウムが残存するように計算された濃度の重炭酸アンモニウム水溶液を使用する場合も含まれていることは明らかである。
なるほど、第二引用例記載の前記方法は、抽出物をそのまま液体として保存して茶飲料とすることを目的とするものではなく、噴霧乾燥等によつてインスタント・テイーとすることを目的とするものであるから、クリームの形成を許容する場合も含まれるであろうが、積極的にクリームを形成するものとか、クリームの形成を必須とするものとは認めることはできず、クリームの形成が防止される場合も含む、幅のある技術思想に立脚するものと認められる。
したがつて、本件審決には、原告主張のような、第二引用例記載の方法の技術思想の誤認並びに第二引用例記載の方法と第一引用例記載の方法の技術思想の相違の看過は認められない。
第一引用例に、重炭酸ナトリウムと共にクリームの形成を防止するための添加剤として挙げられている重炭酸アンモニウムを加えた水性溶液で、茶の葉を抽出する技術が第二引用例に記載されているのであるから、重炭酸ナトリウムを抽出する水に添加するか、抽出液に添加するかは当業者が適宜に変更し得る程度のことであると認められ、これと趣旨を同じくする本件審決の認定判断に、原告主張の誤りはない。
3(一) 前記1認定の事実、特に1(二)(4)認定の事実によれば、第二引用例には、主方法としての前記2に挙げた茶の抽出方法の他に、その方法から生じる問題点の解決のための修正法として、前記主方法によつて抽出された抽出物に塩化カルシウム等の塩化物を加えて、クリームを沈澱させることにより可溶性茶固体を濃縮し、そのクリームに、好ましくは過酸化水素の存在下で熱処理を行つた上、クリームを可溶化するために公知の方法でアルカリ処理を行い、可溶化されたクリームを、前記のようにクリームを除去した抽出物の残部に添加しなおす方法が記載されていることが認められる。
したがつて、右修正法では抽出液中にクリームが存在することを前提に、これを沈澱させて濃縮した上、これに熱処理、アルカリ処理を加え、もとの抽出物に添加しなおすのであるから、その限りでは一旦形成させたクリームを積極的に処理しようとするものであるとはいえる。
しかしながら、右の修正法は、前記主方法とは別の技術として記載されていることは明かであり、修正法についての発明の詳細な説明の記載である第二引用例五頁右上欄一五行から左下欄二行までの記載を理由に、主方法がクリームを積極的に形成させる技術であると認めることはできない。
なお、被告は、第二引用例記載のクリームは、茶の抽出物にカルシウム塩を添加して沈澱させたものであり、本願発明や第一引用例記載のクリームとは全く別異のものである旨主張するが、右主張は第二引用例の記載に照らして採用できない。
(二) 原告は、第二引用例二頁右上欄一〇行から一七行までの、高い収率(約三〇%増)で茶の葉から可溶性固体を抽出する旨の記載を理由に、第二引用例記載の方法は、積極的にクリームを形成させるものである旨主張するが、前記主方法についての右2の認定判断を併せ考えると、右記載から直ちにクリームを積極的に形成させるものとは認められない。
また、原告は、第二引用例記載の方法では、重炭酸アンモニウムの使用量が、本願発明の実施例に示された使用量に比して著しく多い量であり、この点もクリームを積極的に形成する技術思想の表れである旨主張する。
しかし、第二引用例記載の主方法において重炭酸アンモニウムの使用量、特にその下限に限定がないことは前記1(一)(1)、同(二)(2)及び前記2のとおりであり、重炭酸アンモニウムの使用量が本願発明よりも多いとはいえないから、右主張は採用できない。
(三) 原告は、第二引用例記載の方法は、通常の水で抽出し、クリームを形成させないことを目的とした第一引用例記載の方法の技術思想とも相容れないものである旨主張する。
第二引用例記載の前記2認定の主方法のクリームの形成が防止される場合と第一引用例記載の方法との間には、抽出に用いる水に重炭酸アンモニウムを添加するか、水で抽出した抽出液に重炭酸アンモニウムを添加するかの相違はあるが、両者は、重炭酸アンモニウムを添加することによつて、茶の葉の抽出液にクリームが形成されることを防止する点において技術思想が共通であり、右主張は理由がない。
(四) また、原告は、第二引用例記載の方法では、香味の保持は十分に達し難いから、第二引用例記載の技術思想は、その目的、効果において本願発明の技術思想とは相容れないものであり、第一引用例記載の方法にも、本願発明における重炭酸ソーダで香味を保持せしめて抽出を行うという基本的思想がない旨主張する。
しかし、前記二(本願発明について)3(二)、(三)認定のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明においては、重炭酸ソーダ等を溶解した水でウーロン茶を抽出したままのものは、香味が悪いとされる一方、抽出時にpHを約七・〇~八・〇に調整する理由として、抽出時にpH八・五以上であれば、ポリフエノール類が分解され、着色、香味の劣化等を生じ、pH六・〇以下では、葉部のポリフエノールが安定化し、容易に溶出せずに、本来のウーロン茶の香味が得られず、異臭(イモ臭)を生じてしまうとされていることによれば、本願発明の特許請求の範囲中の「香味を保持せしめながら抽出を行い、」とは、抽出液を直接飲用した場合の香味が良いという意味ではなく、本来のウーロン茶の香味の重要成分であるポリフエノールを、それが分解したり、不溶性となつたりしないようにpHを調整して、抽出するという趣旨であると認められる。
ところで、本来のウーロン茶の香味とは、通常の湯で抽出したウーロン茶の香味であり、通常の湯で抽出したウーロン茶は、ポリフエノールを含有し、かつ、その香味を有するはずである。重炭酸ソーダを添加することによつて初めて「香味を保持せしめながら抽出する」ことができるわけではない。
第一引用例記載の方法は、通常の湯で茶を抽出するものであるから、本来の茶の香味を保持せしめながら抽出しているものであり、実際に第一引用例記載の方法による茶の熱浸出液には、主要ポリフエノール類、酸化着色ポリフエノール類が含まれていることは前記三(第一引用例の記載について)2(二)のとおりであるから、香味を保持せしめて抽出を行う点で、本願発明との間に相違点はない。
また、重炭酸ソーダを加えても、抽出時のpHを八・五~六・〇の間に調整すれば、香味を保持せしめて抽出が行えるのであり、第二引用例記載の主方法においても、抽出時のpHが右の範囲内の場合を含み、抽出される可溶性茶固体には、香味の重要成分のポリフエニール類を含むものと認められるから、香味を保持せしめて抽出を行う点で、本願発明との間に相違点はない。
(五) 更に、原告は、第二引用例が重炭酸アンモニウムのみを用いる技術として開示されているのは、アンモニアが揮発性物質であるので、大量添加しても後に残らないことも考慮されたものであると考えられ、不揮発性の重炭酸ソーダを同列に捉えることはできないのであり、第一引用例で抽出後に添加するとしている重炭酸ソーダの添加時期を、第二引用例を理由に適宜に変更し得るものとすることはできない旨主張する。
前記1(二)(2)認定の事実によれば、第二引用例記載の方法において、重炭酸アンモニウムやアンモニアが使用されたのは、アンモニアが大気中へ排出され、後にはほとんど残らないためと認められるが、前記三(第一引用例の記載について)認定の事実及び前記甲第三号証によれば、第一引用例の方法では、添加した重炭酸ソーダを後に特に除去してはいないから、重炭酸ソーダ又はそれが変化したものが抽出液中に残存しても支障はないものと認められ、揮発性か否かは、第一引用例で抽出後に添加するとしている重炭酸ソーダの添加時期を、第二引用例を理由に適宜に変更し得るものとすることができない根拠にはならない。また、第二引用例記載の主方法においては、重炭酸アンモニウムの添加量に限定はないことは、前記2のとおりであり、第二引用例記載の方法が重炭酸アンモニウムを多量に用いることを前提とする主張は失当である。
6 原告は、重炭酸アンモニウムを抽出前に添加した場合には、残渣、残基(アンモニア)がほとんど残らないから、後にアスコルビン酸を加えてもアスコルビン酸塩ができにくくなるおそれがあり、緩衝能が低いものとなつて、経時的に酸性度が高くなる(劣化する)ので、本願発明の効果は奏することができない旨主張する。
しかし、本件審決は、重炭酸ソーダを抽出液に添加することは第一引用例に記載されており、そのように抽出液に添加するか、抽出に用いる水に添加するものとするかは当業者が適宜変更しうる程度のことと判断しているのであり、第二引用例記載の方法による抽出物にアスコルビン酸を加えることを前提とするものではないから、右主張は失当である。
六 認定判断の誤り第3点について
1 前記二(本願発明について)認定の本願明細書の記載によれば、本願発明において、抽出に用いる水に重炭酸ソーダを添加してその抽出液のpHを七・〇~八・〇に調整することを要件とする理由として、特許請求の範囲自体に、沈澱性物質成分の溶出を抑制すると共に香味を保持せしめながら抽出を行う旨の記載はあるが、発明の詳細な説明の欄には、同二3(一)認定のとおり、重炭酸ソーダを溶解した水でウーロン茶を加熱抽出すると、抽出液中で沈澱を生ずる物質の一部の溶出を抑制し、一部は可溶化し、抽出液中での沈澱と濁りを防止する旨、同二3(三)認定のとおり、抽出時にたとえばpH八・五以上であれば、ポリフエノール類が分解され、着色、香味の劣化等を生じ、pH六・〇以下では葉部のポリフエノールが安定化し、容易に溶出せずに、本来のウーロン茶の香味が得られず、異臭(イモ臭)を生じてしまい、また、pH六以下では、カフエインとテアフラビン、テアルビジンとの不溶性複合物質の形成が促進され、濁度が増し、カテキン類の縮合が生じて渋味が生じてしまう旨が記載されているのみである。
右にいう「香味を保持せしめながら抽出を行う」とは、抽出液を直接飲用した場合の香味が良いという意味ではなく、本来のウーロン茶の香味の重要成分であるポリフエノールを、それが分解したり、不溶性となつたりしないようにpHを調整して、抽出するという趣旨であることは、前記五3(四)に判断したとおりである。また、抽出液中での沈澱と濁りを防止するとは、不溶性複合物質、即ち、クリームの形成を防止するという趣旨であると認められる。
そして、前記本願明細書の記載によれば、「香味を保持せしめながら抽出を行」い、抽出液中での沈澱と濁りを防止するために要求されるpHの限定は、pH八・五より低く、pH六・〇より高いという範囲であるものと認められる。
前記二の認定及び前記甲第二号証の一ないし三によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、右沈澱性物質成分の溶出を抑制することについては、それが具体的にどのような物質の溶出を抑制しているのか、物質名が不明ならば溶出の抑制がどのような方法で確認されたのか、そのような溶出の抑制のためにpHがどのような範囲に限定されるかの記載は一切ないことが認められる。
したがつて、本願明細書の詳細な説明の欄に開示された「香味を保持せしめながら抽出を行」い、抽出液中での沈澱と濁りを防止するために要求されるpH八・五より低く、pH六・〇より高いという限定の範囲内であれば、香味を保持せしめながら抽出を行うことができ、クリームの形成を防止できるのであつて、本願発明における、抽出液のpHを七・〇~八・〇に調整するという要件は、pH八・五より低く、pH六・〇より高いという限定の範囲内で、安全側に余裕を見たという以上に格段の意義のある限定とは認められない。
2 しかし、重炭酸ソーダ又は重炭酸アンモニウムを使用して、茶の葉の香味を保持せしめながら抽出すること及びクリームの形成を防止する技術思想自体は、第一引用例記載の方法及び第二引用例記載の主方法に開示されていることは、前記三(第一引用例の記載について)2(一)(二)、前記五(認定判断の誤り第2点について)2、3(四)に認定判断のとおりである。
前記五(認定判断の誤り第2点について)1(二)(4)認定のとおり、第二引用例には、「pHは五ないし八が好ましいが、八・五より高いpHは絶対に使用してはならない。」との記載があり、これは、第二引用例記載の主方法の修正法としてペクチンを過酸化水素の存在下に熱処理する際のpHについての記載ではあるが、その直前の、重炭酸アンモニウムの水性溶液の熱湯で茶の葉から可溶性固体を抽出する段階のpHの限定をも示唆するものと認められ、実際、第二引用例記載の方法においては、重炭酸アンモニウムの使用量には限定がないにもかかわらず、前記五1(二)(3)及び(5)認定のとおり、ウーロン茶を含む茶の使用済み葉の主方法に従つた抽出物のpHは六・八~八・五、新鮮な葉の向流抽出から得られる抽出物のpHは五~六・五と、いずれも五・〇以上八・五以下であり、また、前記甲第四号証によれば、第二引用例に実施例として記載されている紅茶の葉の第二引用例記載の方法による抽出液のpHもいずれも八・五以下である。
したがつて、第二引用例記載の主方法による抽出されたウーロン茶を含む茶の抽出物のpHは、本願明細書の詳細な説明の欄に開示された「香味を保持せしめながら抽出を行う」ために要求されるpH八・五より低く、pH六・〇より高いという限定の範囲内のものを含むものである。
また、前記五1(二)(3)及び(5)認定のとおり、ウーロン茶を含む茶の通常の茶製品のpHが四・五~六とされ、主方法に従つた、新鮮な葉の向流抽出から得られる抽出物のpHは五~六・五と記載されているから、第二引用例記載の主方法においては、重炭酸アンモニウムの水性溶液の使用により、抽出物のpHが〇・五から二・〇程度上昇させるものであることが明らかである。
そして、前記甲第二号証の一によれば、本願明細書には、比較対象用として、重炭酸ソーダ及びアスコルビン酸を用いないで作つたウーロン茶ドリンク缶詰の製造直後のpHが六・四〇であつた旨、原本の存在及び成立について当事者間に争いのない甲第五号証によれば、同号証には、ウーロン茶葉を熱湯で三分間浸出し、通常の飲用濃度とした缶詰の製造後一日目のpHが六・〇五であつた旨の各記載があること、成立について当事者間に争いのない甲第一〇号証及び甲第一一号証によれば、財団法人日本缶詰検査協会清水検査所で、ウーロン茶を九〇℃の純水で三分間浸出したもののpHは五・三三であり、同じく沸騰した市水で浸出後、室温まで冷却したもののpHは五・一七であつたことが認められる。
これらのウーロン茶の熱湯抽出物のpHが〇・五~二・〇程度上昇させられたものは、いずれも、「香味を保持せしめながら抽出を行う」ために要求されるpH六・〇~八・五という限定の範囲内はもとより、本願発明の抽出液のpH七・〇~八・〇という限定の範囲内のものを含むものと認められる。
以上の各事実によれば、本願発明の抽出液のpHを七・〇~八・〇とすることは、ウーロン茶をアルカリ性物質である重炭酸ソーダを加えた熱湯で抽出することによつて、通常のウーロン茶の熱湯抽出物よりも高くなるpHの範囲を、第二引用例に記載された抽出物のpH、第二引用例に示唆されている茶の抽出物のpHの上限、重炭酸アンモニウムの添加によつて上昇するpH値と通常のウーロン茶の熱湯抽出物のpHを考慮して適宜定めることができ、当業者にとつて格別困難なことではないと認められる。
3 本願明細書には、比較対象用として、重炭酸ソーダ及びアスコルビン酸を用いないで作つたウーロン茶ドリンク缶詰の製造直後のpHが六・四〇であつた旨の記載があり、甲第五号証には、ウーロン茶葉を熱湯で三分間浸出し、通常の飲用濃度とした缶詰の製造後一日目のpHが六・〇五であつた旨の記載があることは、右2に認定のとおりであり、ウーロン茶を熱湯で抽出したものに、pH六台のものがあることは当業者であれば容易に知り得るものと認められる。
第一引用例記載の方法では、茶抽出液にまず重炭酸ソーダを添加し、次いでアスコルビン酸を添加するものであるから、重炭酸ソーダの添加によつて高くなつたpHが、アスコルビン酸の添加により低くなるものと認められるところ、アスコルビン酸の添加に当たつて、右のようなウーロン茶本来のpH値に含まれるpH六台のものを参考に、pH値を六・〇~七・〇に調整することは、重炭酸ソーダの添加によつて高くなつたpHを、ウーロン茶本来のpHの範囲内に戻すことに外ならず、そのことは当業者にとつて格別困難なことではないものと認められる。
4 原告は、本願発明は、その第一段階においてpHを七・〇~八・〇に調整して限定するものであるが、第二引用例には、この技術思想を示唆する開示はない旨主張するが、右主張は、前記2に判断したとおり理由がなく、採用できない。
また、原告は、一般に水は、地質、地域、水道局その他の条件によつてかなり幅広くpHが変化しているものであり、通常の茶の抽出液のpHはこれに左右されるものであるから、pH六台のウーロン茶を熱湯で浸出したものをもつて、普通の水で抽出したもののpH又はpHをもとに戻す意味でのpHの根拠とすることができない旨主張する。
しかし、本件審決が「普通の水」というのは、地質、地域、水道局その他の条件によつて、特殊な性質を有する水ではなく、pHについていえば、極端にpHが偏つたものではないものを指すことは明らかであり、条件によつて特殊なpH値を示す水があることを根拠とする右主張は採用できない。
第二引用例には、通常の茶製品のpHは四・五~六であると記載されており、また、財団法人日本缶詰検査協会清水検査所で、ウーロン茶を九〇℃の純水で三分間浸出したもののpHは五・三三であり、同じく沸騰した市水で浸出後、室温まで冷却したもののpHは五・一七であつたことが認められるが、本願明細書には、比較対象用として、重炭酸ソーダ及びアスコルビン酸を用いないで作つたウーロン茶ドリンク缶詰の製造直後のpHが六・四〇であつた旨、甲第五号証には、ウーロン茶葉を熱湯で三分間浸出し、通常の飲用濃度とした缶詰の製造後一日目のpHが六・〇五であつた旨の各記載があり、原告自身ウーロン茶の抽出液のpHは六台であるのが通常であると認識していたことがうかがわれ、客観的にも、ウーロン茶の抽出液のpHは、そうでないものがあるとしても、六台であるものも一般的であるとしてよいと認められる。
原告は、普通の水で抽出したウーロン茶は、缶詰にした場合は、直ちに濁りと苦みが生じて飲用に供し難くなつてしまうという問題点を解決した本願発明のpH再調整を、普通の水で抽出したもののpHを考慮してpH範囲を定めること、即ちpHをもとに戻す程度のことと判断するのは、普通の水では差し支えがあるのにかかわらず普通の水に戻す、というに等しく、理論の矛盾である旨主張するが、茶の葉の抽出液に重炭酸ソーダを添加した後、アスコルビン酸を添加する方法が第一引用例に記載されていることは前記四(認定判断の誤り第1点について)の認定判断のとおりで、その際のpH値の限定が問題点であり、普通の水では差し支えがあるのにかかわらず普通の水に戻すというに等しいものでは全くない。
更に、原告は、本願発明の場合は、普通の水と異なつて再調整によつて抽出液中に化学変化が生じ、アスコルビン酸ナトリウムイオンが形成され、これがpHの変化を安定化させることになるから、通常の飲用水の状態に戻すことと、本願発明のpHを所定の範囲に再調整して限定することとは技術思想が異なるものであるのに、本件審決はその点を誤認している旨及び第一引用例記載の方法にはpHを再調整して限定するという技術思想はない旨主張するが、茶の葉の抽出液に重炭酸ソーダを添加した後、アスコルビン酸を添加する方法が第一引用例に記載されている以上、当業者であれば、アスコルビン酸を添加することはpHを再調整する意味を有し、右方法による調整を加えられた抽出液中で、アスコルビン酸ナトリウムイオンが形成され、これがpHの変化を安定化させることになることは自明であり、その点に本願発明と第一引用例記載の右方法との間に差異はなく、前記主張は採用できない。
以上のとおりであるから、本件審決の相違点(2)についての判断は正当であり、認定判断の誤り第3点の主張は理由がない。
七 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないから棄却することとする。
〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。
ウーロン茶の葉のエキス分を抽出するに当り、抽出に用いる水に重炭酸ソーダを添加してその抽出液のpHを七・〇~八・〇に調整することによつて沈澱物質成分の溶出を抑制すると共に香味を保持せしめながら抽出を行い、抽出後直ちにそれにアスコルビン酸を添加してその抽出液のpHを六・〇~七・〇に調整することにより抽出液のその後の香味、pH等の保持が安定するようにした通常の飲用状態のウーロン茶抽出液を常法によつて缶、びん又は袋詰等とする長期保存可能なウーロン茶ドリンクの製造方法。