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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)189号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二号証(本願発明の出願公告公報、以下「本願明細書」という)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。

本願発明は、チツプ形電子部品の収納帯に関するもので、特にプリント基板等への自動マウントの行い易い形態でチツプ形電子部品を収納した収納帯に関するものである(本願明細書第一頁第一欄第一八行ないし第二一行)。

従来、リード線を持たないいわゆるチツプ形電子部品の配線基板への供給には、筒状収納体に復数個のチツプ形電子部品を積層して収納するマガジン方式や、縦横に複数個の凹所を有する平板状収納体の各凹所に、それぞれチツプ形電子部品を収納させたパレツトによつてチツプ形電子部品を供給するパレツト方式が提案されていたが、これらの方式は、プール量が少なく、頻繁に交換を必要とし、また、マガジンやパレツトの取扱いが不便であつた。そして、チツプ形電子部品の自動取出時には、電子部品の送り出し、引き出しあるいは位置決めのための装置を必要とし、さらにはマガジン方式では隣合うチツプ形電子部品が接触して損傷する等の欠点があつた(同第一頁第一欄第二二行ないし第二頁第三欄第一五行)。本願発明は右のような問題点を解消し得るチツプ形電子部品収納帯を提供することを目的とし(同第二頁第三欄第一六行ないし第一八行)、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである。

本願発明は右構成を採用したことにより、<1>自動製造機や自動マウント機等の自動機による取扱いを長時間連続して行えて、機械の稼働率を高め、生産性を著しく高めることができること、<2>送り穴をカバーシートで封止することのないようにしているため、送り穴の寸法精度がすぐれ、自動機の送り機構による送りが良好に行え、プリント基板等へのマウントを確実に行えること、<3>カバーシートの引き剥がしが円滑に行え、収納部から電子部品が飛び出したりすることがなく、安定な操作が行われること、<4>従来の二、三倍の速度で信頼性の高いマウントが可能になること、<5>収納された電子部品の数量を、収納帯の長さによつて把握でき、さらに、マウント時に至るまで一貫して電子部品の劣化や破損を避けることができること等の作用効果を奏するものである(同第四頁第七欄第一〇行ないし第八欄第一八行)。

(二) 他方、第一引用例及び第二引用例には、前記「審決の理由の要点」第2項記載の技術的事項が記載されていることは当業者間に争いがない。

2 一致点の認定について

(一) 本願発明の構成要件(E)と第一引用例記載の発明の構成要件(ヘ)との対比

本願発明における構成要件(E)は、「このカバーシートと前記透孔により形成された各収納部にそれぞれ収納されたチツプ形電子部品と、」というものであり、第一引用例記載の発明における構成要件(ヘ)は、「前記ポケツトに収納される集積回路ダイのような部品10と」というものである(この点は当事者間に争いがない。)ところ、これらはいずれも、チツプ形電子部品又は部品が、本願発明におけるテープ状体に形成された収納部又は第一引用例記載の発明におけるテープに形成されたポケツトに収納されているとの構成を示しているにすぎず、右チツプ形電子部品又は部品が右収納部又はポケツト内においてどのような状態で収納されているかを示すものではない。そして、右構成要件(E)と(ヘ)は、いずれも部品が収納部(ポケツト)に収納されていることを示している構成である点において相違はなく、右構成要件(E)は構成要件(ヘ)に相当するとした審決の認定に誤りはない。

ところで、第一引用例には「開口14の片側を閉鎖して部品10のためのポケツトを形成するための感圧接着性の層16と(構成要件(ニ))」との記載があることは前記認定したとおりであり、右記載からすれば、部品10は感圧接着性の層に接着してポケツトに収納されていることが認められるのに対し、本願発明においては、前掲甲第二号証によるも、本願明細書中には、チツプ形電子部品が収納部に収納されている状態に関して何らの記載も認められず、チツプ形電子部品は右収納部に比較的自由な状態で収納されているものと解せられるから、両者の間には部品が収納されている状態について右のような相違があることが認められる。しかしながら、前記判示のとおり、構成要件(E)と構成要件(ヘ)は、ともに、部品は収納部(ポケツト)に収納されているとの構成を示しているにすぎず、本願発明と第一引用例記載の発明との間に前記の相違があつても、そのことは構成要件(E)と構成要件(ヘ)との対比に影響を及ぼすものではない。

なお、両者の前記相違について、審決は、本願発明のカバーシートは接着性の層を有するものでないのに対し、第一引用例記載の発明では接着性の層を有するものである点で相違するとして相違点一で認定しているものである。

(二) 本願発明の構成要件(F)と第一引用例記載の発明の構成要件(ト)の対比

本願発明における構成要件(F)は、「よりなることを特徴とするチツプ形電子部品収納帯」というものであり、第一引用例記載の発明における構成要件(ト)は、「よりなる電子装置等のパツケージ」というものである(この点は当業者間に争いがない)ところ、これらはいずれも、発明が対象とする物品の特定を行つているものである。

ところで、原告は、本願発明は、特にプリント基板等への自動マウントの行い易い形態でチツプ形電子部分を収納した収納帯であるのに対し、第一引用例記載の発明は、単に電子部品の輸送及び保管に供されるにすぎないものであるから、右構成要件(F)は構成要件(ト)に相当するとはいえない、と主張する。

しかしながら、前記1(一)で認定したとおり、本願発明の特許請求の範囲には、その末尾に単に「チツプ形電子部品収納帯」と記載されているだけであつて、チツプ形電子部品収納帯が「特にプリント基板等への自動マウントの行い易い形態でチツプ形電子部品を収納した収納帯」を意味することを表す直接の記載ないし示唆は認めることができない。本願発明の「チツプ形電子部品収納帯」の用語が表す意味は、チツプ形電子部品を収め入れる帯の形状をしたものと文字どおり解して明確である。したがつて、本願発明は、プリント基板等への自動マウントに用いることはその構成要件としておらず、本願明細書中の、プリント基板等への自動マウントに用いることの記載は本願発明の使用方法の一例を説明したものにすぎないものである。

そして、右のように解される本願発明における「チツプ形電子部品収納帯」と、前記1(二)で認定したとおり、構成要件(イ)ないし(ト)を有する第一引用例記載の発明における「電子装置等のパツケージ」とは、ともに帯状体をなし、その長さ方向に設けられた蓋付きの多数の収納部(ポケツト)に電子部品が収納されてなる物品である点において違いがなく、その構造上、電子部品の輸送及び保管にも供されるものであることは技術上自明のことであると認められるから、本願発明における構成要件(F)が第一引用例記載の発明における構成要件(ト)に相当し、この点において両者は一致するとした審決の認定に誤りはない。

原告は、本件出願当時、特にプリント基板等への自動マウントの行い易い形態でチツプ形電子部品を収納した収納帯なる商品はなかつたため、これを「チツプ形電子部品収納帯」と命名したものである、と主張する。

しかしながら、本願発明におけるチツプ形電子部品収納帯が、特にプリント基板等への自動マウントの行い易い形態でチツプ形電子部品を収納した収納帯との意味をもつものであるならば、本件出願当時、それに類した商品がなく、しかもそれを簡潔に表現したとしても、少なくとも特許請求の範囲において「自動マウントに用いる」等の構成が示される必要があるというべきである。しかるに、本願発明においては、前記認定のとおり、特許請求の範囲にその旨の構成は示されておらず、原告の右主張は採用し得ない。

また、原告は、チツプ形電子部品は、そのままプリント基板等へマウントされるものであるから、「チツプ形電子部品」の用語には、プリント基板等へマウントされる電子部品であるとの意味が含まれており、「チツプ形電子部品収納帯」を文字どおり解しても、それはプリント基板等へマウントされるチツプ形電子部品を収納する収納帯と解し得るものである、と主張する。

しかしながら、チツプ形電子部品の収納帯は、チツプ形電子部品をプリント基板等へマウントするためだけにチツプ形電子部品を収納したものではなく、前記認定したとおり、チツプ形電子部品を輸送したり保管するために収納する場合もあるのであるから、「チツプ形電子部品収納帯」が、直ちに、プリント基板等へマウントされるチツプ形電子部品を収納する帯状のものであるとはいえない。

3 相違点一の判断について

第二引用例には、中央部に複数個のチツプ18を等間隔に収納保持するための一例の凹部12が設けられている帯状体10とカバー20とから成り、帯状体10の凹部12及びカバー20は共に接着性の層を有しない半導体部品用の搬送体が記載されている(別紙図面三参照)ことは前記1(二)で認定したとおりである。そして、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例記載の発明は、「個々の半導体部品を、搬送体内の所定位置に保持し、埃や機械的な損傷から保護しつつ、保管しあるいは出荷することが可能な半導体部品のための搬送体に関するものである(第一欄第二六行ないし第二九行)。」と記載されていることが認められる。右事実によれば、第二引用例記載の発明は、本願発明や第一引用例記載の発明と同様の、帯状体の長さ方向に沿つて多数の凹部が形成され、右凹部に蓋体を設けることによつて凹部内に電子部品を収納されるようにした構成を有し、電子部品の保管や輸送等にも適した電子部品収納帯に関するものである、そして、電子部品を収納保持するに当つては、第一引用例記載の発明とは異なり、電子部品を単に凹部に収納するのみで、これを接着保持することのないものであることが認められる。

このように、電子部品収納帯に関するものにおいて、収納部に電子部品を接着保持させないで収納する形態は第二引用例記載の発明において公知であるから、部品を収納部に接着保持するようにしたものを接着保持しない形態に代えること、本願発明に即していえば、第一引用例記載の発明における感圧接着性の層に代えて、接着性を有しないカバーシートを用いる程度のことは、当業者が容易になし得ることである。

したがつて、電子部品を接着保持しないで収納する構成である第二引用例記載の発明から、第一引用例記載の発明の感圧接着性の層16に代えて単にカバーシートを用いて本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得ることであるとした審決の判断に誤りはない。

原告は、第二引用例記載の発明は、本願発明のようなプリント基板等への自動マウントに適したチツプ形電子部品収納帯を提供しようとするものではない、と主張する。しかしながら、前記2(二)で判示したとおり、本願発明は特にプリント基板等への自動マウントの行い易い形態でチツプ形電子部品を収納した収納帯であると限定することはできないものであるから、原告の右主張は採用し得ない。

原告は、第一引用例に記載の技術的事項と第二引用例に記載の技術的事項とを対比し、互いに相違する要素を置換しても本願発明のようなチツプ形電子部品収納帯は得られない、と主張する。

しかしながら、審決が相違点一について判断していることは、前記「審決の理由の要点」記載のとおり、<1>第二引用例記載の発明は、本願発明と同様に電子部品収納帯に関するものであり、電子部品の収納保持に当つては、凹部に電子部品を接着保持していないこと、<2>このことから、電子部品を収納保持する際、接着保持するか否かの選択は、当業者が適宜行えるものであること、<3>したがつて、第一引用例記載の発明の感圧接着性の層に代えて単にカバーシートを用いて本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得ることの三点である。しかるに、原告の右主張は、審決の右判断事項に直接係わりのない、審決が引用していない第一引用例に記載の技術的事項と第二引用例に記載の技術的事項を対比し、これらの技術的事項を寄せ集めて云々しているものにすぎず、審決が何ら判断していない事項についての主張であつて、主張自体失当である。

4 以上のとおりであるから、本願発明と第一引用例記載の発明との一致点及び相違点についての認定、判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

(A) テープ状体と、

(B) このテープ状体の長手方向に沿つて等間隔に設けられた複数個の透孔と、

(C) 前記テープ状体の長手方向に沿つて等間隔に設けられ、かつ前記透孔とはテープ状体の長手方向に沿つて重合しないように一定の位置関係で配置された複数個の送り穴と、

(D) 前記テープ状体の両面に、前記透孔を封止し、送り穴を封止することのないように貼着されたテープ状体よりも狭い幅を有するカバーシートと、

(E) このカバーシートと前記透孔により形成された各収納部にそれぞれ収納されたチツプ形電子部品と、

(F) より成ることを特徴とするチツプ形電子部品収納帯。

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