東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)214号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否を検討する。
1 成立に争いない甲第二号証(特許公報中の図面)、第七号証(昭和六一年八月二七日付け手続補正書中の明細書)及び第八号証(昭和六二年一二月一四日付け手続補正書)によれば、本願発明は左記のような技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙図面一参照)。
(一) 技術的課題(目的)
本願発明は、例えばガラスあるいはセラミツクのような脆い材料から成る管あるいはロツド状の製品(以下「脆性管」という。)を、破損及び汚染から保護し得るようにした包装方法に関する(明細書第三頁第二〇行ないし第四頁第四行)。
従来、脆性管は、その束を包装用紙に封入し紐で括るか糊で接着する方法、あるいはクツシヨンを介して硬質カートンに挿入し両端のフードを折り返して管用パケツトを形成する方法によつて、搬送ないし貯蔵していた。しかしながら、これらの方法は、時間及び労力の点において煩わしいのみならず、複数の脆性管が比較的ルーズな状態に配置されて束ねられるのでパケツト全体の機械的強度が特に強まることがないし(衝撃あるいは打撃によつて破壊し屑が管内に残留すると、思わぬ被害を生ずる。)、包装時における外部からの汚染にも十分な対策が講じられていない(同第四頁第五行ないし第五頁第一〇行)。
本願発明の目的は、従来の方法における問題点を解決するために、脆性管の束を包装したパケツトに大きな機械的強度を持たせ、被包装物の少なくとも末端を汚さぬように保護し、かつ、形成された包装品が多数積み重ね得るような形状を有する、脆性管の包装方法を提供することに存する(同第五頁第一七行ないし第六頁第一二行)。
(二) 構成
右課題を解決するために、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(昭和六二年一二月一四日付け手続補正書第二頁第一六行ないし第三頁第一五行)。
すなわち、本願発明は、左記のようなステツプによつて構成される(明細書第七頁第一二行ないし第一四行)。
<1> 分離
脆性管を等長にカツトする(同第七頁第一六行ないし第一八行)。
<2> 纏めと充填
等長の脆性管が、パツケージステーシヨンに送られ、同ステーシヨンにおいて互いに平行に並べられ一つの束に纏められるが、その束は、脆性管が最も集密な状態、すなわち、隣接する二本の脆性管のそれぞれ中心から最も近い位置に、第三の脆性管が位置する状態に充填される(同第八頁第四行ないし第一三行)。
これを図1によつて説明すると、6は、底面が水平面と鋭角をなすように傾斜して配置された容器であつて、その断面の形状は所望のパケツトの断面に合致するように構成され、両端部が開口されている。脆性管は、第一搬送手段1から、短い間隔を置いて、パツケージステーシヨン3に配置されている容器6の内壁近傍に落下し、その傾斜面を最も低い位置にまでローリングして行く結果、脆性管は互いに平行に隙間なく並び、断面が密接した列を形成する。一列が完全に満たされると、次の脆性管は、下に形成されている列を越えて容器6の縁部までローリングし、下に形成されている列の隙間のうち最も外側に位置する隙間に静止する。なお、脆性管が右隙間を越えてローリングすることを避けるためのストツパ2が設けられており、右ストツパ2は、新しい列の最も外側の脆性管を容器6の壁から必要な間隔を置いて静止する働きを行う。このようにして順次に充填が行われ、最も集密にパツクされた脆性管のパケツトが完成する(同第八頁第一四行ないし第一〇頁第九行)。
<3> 結束
脆性管のパケツトは、第二搬送により包装ステーシヨン4へ誘導され、柔軟性を有するフード材料によつて包装される(同第一〇頁第二〇行ないし第一一頁第三行)。
フード材料は、包装ステーシヨン4内あるいはそれに近接した所に緊張してセツトされており(同第一一頁第一一行ないし第一四行)、パケツトの少なくとも末端にテープのように巻かれて切断措置5により適当な長さでカツトされると共に、長手方向に沿つてシールされる。次いで、パケツト末端から突出しているテープ巻状の先端部分が内側に折り込まれて、同様にシールされる(同第一一頁第一八行ないし第一二頁第七行)。パケツトを包み込んでシールされたフード材料は、加熱室(収縮筒)8に運ばれ、内部のパケツトに密着するように収縮作用を受ける(同第一二頁第八行ないし第一三行)。
パケツト化した脆性管は、フード材料の収縮によつて堅固に結束され、パケツト自体が十分な機械的強度を有することになる(同第一二頁第一三行ないし第一七行)。
図2及び図3に本願発明の実施例が示されており、図2はパケツトの平面図であつて、パケツト内に脆性管10が最も集密な状態に配置され、その両端部がフード材料12a及び12bによつて包まれている。図3には、パケツトの断面形状が示されている(同第一五頁第一行ないし第九行)。
<4> 積載
以上のステツプによつて安定化されたパケツトは、従来と同様の方法によつて積載あるいは搬送されることができる(同第一二頁第一九行ないし第一三頁第一行)。
(三) 作用効果
本願発明は、最密充填状態に配置した脆性管を堅固かつ安定に密着包装するため、包装品の機械的強度が大きく、積重ねも容易であり(同第一六頁第一六行ないし第一八行)、特に、一つのパレツト上に従来に倍して積載することが可能である(同第一三頁第五行及び第六行)。また、個々のパケツトに、従来のパケツトに比して二〇%以上多くの脆性管を収容することができる(同第一四頁第一五行ないし第二〇行)。
また、本願発明の方法は、密閉された室内でも行うことができるので、清潔度を要求される医療関係の脆性管の包装に、特に有利である(同第一六頁第一九行ないし第一七頁第七行)。
2 一方、引用例1に審決認定の技術的事項が記載されており(別紙図面二参照)、本願発明と引用例1記載の発明が審決認定の二点においてのみ相違することは、原告も認めて争わないところである。
3 相違点<1>の判断について
物を包装するに当たつて被包装物を最密状態で包装すれば、完成した包装品がコンパクトになることは、もとより技術常識であり、従来から慣用されているところである。被包装物を容器に収納してから包装する場合も同様であつて、(容器に収納したまま包装するか、容器はいわば枠として利用するのみで包装が完成したのち右容器を取り外すかは別論として)包装品をコンパクトなものとするためには、被包装物を容器に最密状態に充填することが最も望ましいことは、当業者ならずとも容易に予測し得る事項であるというべきである。
前掲甲第七号証及び成立に争いない甲第三号証(引用例1)によれば、本願発明及び引用例1記載の発明が対象としているのは「管あるいはロツド」、すなわち断面が円形の棒状のものであり、両発明は共に、複数の「管あるいはロツド」を断面が長方形あるいは正方形の包装品とするために、断面が長方形あるいは正方形の容器をいわば枠として利用し包装が完成したのち右容器を取り外すことを基本的な技術的思想とするものであることは明らかである。したがつて、「管あるいはロツド」の包装品をよりコンパクトなものとするためには、引用例1の「製品は一つのジグ中に積み上げられ」(第一欄第二〇行及び第二一行)、あるいは「チユーブはジグまで運ばれ、そこに積まれ」(同欄第五九行及び第六〇行)の状態に代えて、周知慣用の「最密充填状態」に配置する方が有利であること自体は、当業者ならば容易に予測し得た事項というべきであり、右判断は、本願発明の「管あるいはロツド」が脆性管であること、あるいはその容器がパケツトの少なくとも両端部を包装させる機能を有するものであることによつて、左右されるものではない。
しかしながら、「最密充填状態」の脆性管を包装することによつて、強度を高め自立包装品とすること、及び、右「最密充填状態」を実現する手段として引用例2に記載されている方法を採用することは、直ちに予測性があつた事項とはいえない。すなわち、
成立に争いない甲第四号証によれば、(別紙図面三参照)引用例2記載の発明は、「ナツト付ボルトの整列方法及びその装置」に関するものであつて(第一頁左下欄第三行)、
複数のナツト付ボルトを箱詰する場合等は規則正しく整列させることが必要であるが、単に並べるだけでは第3図に示されているようにナツトの角どうし又は面どうし、あるいは角と面とが接触するものがあつて各ナツトの方向が定まらないので各ボルトの中心位置が一定にならず、ひいては単位数量の整列幅Lが不揃いになつて不都合であり(同頁右下欄第六行ないし第一五行)、特に列を多段に重ねる場合は第6図に示されているように各ナツトの面どうしが接触した状態で整列させると空間が最小になつて好都合であるが、人手によつて一本ずつそのような状態に整列させることは著しい手間を必要とするとの知見に基づいて(第一頁右下欄第一九行ないし第二頁左上欄第六行)、
ナツト付ボルトを各ナツトの面どうしが接触した状態で整列させる動作を連続自動的に行い、さらにその状態で多段に積み重ね得るように整列させることを目的とするものであり(同頁左上欄第七行ないし第一一行)、
その実施例として、機台1の上に傾斜したフレーム2を設け、フレーム2上に水平に対して適宜の角度θ傾斜する滑走板3を前後摺動可能に設け(同頁右上欄第一行ないし第五行)、チエンコンベヤー10によつて送られて来るナツト付ボルトAを傾斜シユート9から滑走板3に順次供給し、滑走板3の先端部にこれと平行に昇降板11を設け(同頁右上欄第九行ないし第一二行)、昇降板11の一端に滑走板3の先端と対峙するストツパー19を設けるとの構成が示され(同頁右上欄第二〇行ないし左下欄第二行。第7図参照)、
このように構成することによつて、傾斜シユート9から滑走板3に供給されたナツト付ボルトは、その軸部が滑走板3に載つた状態で滑走板3の傾斜に基づく速度で回転しながら滑走し、滑走板3の先端部において、ボルト両端のナツトがストツパー19に当接することによつて、第10図に示されているように両ナツト面がストツパー19に密接した状態で停止し、続いて供給されたボルトも、同様に滑走板3上を滑走して来て、その両端のナツトが先行ボルトの両端のナツトに当接して停止するから、両ボルトは、第11図に示されているようにナツト面どうしが接触した状態で整列し、以下、順次送られて来るボルトの両端のナツトが先行ボルトの両端のナツトに面接触して整列することになり(同頁左下欄第一三行ないし右下欄第九行)、
所要本数のボルトの整列が終れば、滑走板3を昇降板11の上から後退させることによつて、滑走板3上に整列していたボルト列は、ナツトの面接触の状態のまま落下して、第13図に示されているように昇降板11に載置されることになり(同頁右下欄第一〇行ないし第一五行)、
右操作後、滑走板3を前進させると共に、ストツパー19の前面に設けたナツト対面寸法Bの半分の厚さを有するスペーサ20を下降させるので、次に滑走板3上を滑走して来たボルトは、第14図に示されているようにスペーサ20に当接してこれに面接触して停止し、以下同様に後続ボルトの両端のナツトが先行ボルトの両端のナツトに当接停止する操作が行われ、滑走板3上には第15図に示されているように昇降板11上のボルト列より一本少ない本数のボルトが、面接触の状態で、かつ、各ボルトが昇降板11上のボルト列のボルトの中間に位置するように半ピツチずれて整列することになり(同頁右下欄第一八行ないし第三頁左上欄第九行)、
以上の操作が終れば、滑走板3を昇降板11の上から後退させることによつて、滑走板3上のボルト列を面接触の状態のまま落下させ、第16図に示されているように昇降板11上のボルト列に積み重ねるのであり(同頁左上欄第九行ないし第一三行)、
次にスペーサ20を引き上げ、昇降板11を先の第二段ボルト列が第一段ボルト列の高さになるまで下降させ、滑走板3を前進させた後、前記の整列操作を繰り返すことによつて、
第6図に示されているようにナツト付ボルト列を何段にも整然と重ねることができるものと認められる(同頁左上欄第一三行ないし第一八行)。
右認定事実によれば、引用例2記載の発明は、複数の面を有するナツトが付いたボルトのみを対象とし、各ボルトのナツト面を正確に接触させた状態で整列させることを技術的課題としているからこそ、複雑な構成及び極めて煩雑な操作手順を必須のものとしていることが明らかである。のみならず、滑走板3を滑走して来たボルトの両端のナツト面は、ストツパ19、スペーサ20あるいは先行ボルトのナツト面に当接する瞬間には様々な角度であることを免れないから、滑走板3を滑走して来たボルトの両端のナツト面がストツパ19等に面接触の状態で停止するためには、ボルトを相当の速度をもつてストツパ19等に衝突させ、ボルトをいずれかの方向に回転させる力を生じさせる必要があると考えざるを得ない。
そうすると、引用例2記載の発明は、本願発明が対象とする断面が円形である脆性管の整列方法とは技術的課題を明らかに異にするのみならず、引用例2に具体的に記載されている前記構成は、被包装物であるボルト自体が高い強度を有することを前提として採用されているのであるから、本願発明が企図している、強度が極めて低い脆性材料から成る脆性管を整列させて包装し自立包装品を得る方法とは、かなり異質の分野に属するというべきである。したがつて、本件優先権主張日当時、引用例2に開示されている技術的思想を脆性管の整列方法にも適用する余地があると予測することは、当業者といえども困難であつたと解するのが相当である。
以上のとおりであるから、脆性管を最密充填状態に配置する手段として引用例2に記載されている方法を採用することは当業者ならば格別困難であつたとは認められないとした審決の判断は合理的根拠を欠くものであつて、右判断の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の取消事由の当否を検討するまでもなく審決は違法であつて、取消しを免れない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
等長にカツトされた脆性材料の「管ないしロツド」を、搬送手段を介して順次パツケージステーシヨンに送り、該パツケージステーシヨンにおいて、「管ないしロツド」が相互に平行に位置するように、最下部に位置する「管ないしロツド」の列を含む基本面を水平面と鋭角をなすように傾斜させた容器に、最下部から偶数番目に位置する列の最初の「管ないしロツド」をストツパによつて位置決めしながら、「管ないしロツド」を最密充填状態に配置して、複数の「管ないしロツド」を断面が長方形あるいは正方形に充填整列させ、このように充填整列されたパケツトを包装ステーシヨンに送り、パケツトの少なくとも両末端部を、収縮性柔軟材料から成るフードによつて堅固かつ安定に密着して包み、脆性材料製の多数の「管ないしロツド」の自立包装品とすることを特徴とする脆性材料、特にガラスあるいはセラミツク製の「管ないしロツド」の包装方法(別紙図面一参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
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別紙図面三
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