東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)219号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当時者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1(一) 成立に争いのない甲第三号証(補正明細書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。
本願発明は、モータの停止時に生じる逆誘導起電力を吸収して停止制御を良好にしたモータ駆動回路に関するものである(補正明細書第二頁第一七行ないし第一九行)。
モータの駆動制御では、モータの停止時、駆動用トランジスタをオフ状態に切り換えて駆動電流を解除すると、モータに逆誘導起電力が発生し、その放出のためモータは回転を持続し、速やかに停止させることが困難となる。従来のモータ駆動回路では、モータを速やかに回転停止させるためにモータの両端子間に逆誘導起電力吸収回路が設置されていたが、このような回路では、モータを正逆転制御する場合、その両端子を短絡状態にするために双方向性のスイツチング素子が必要であること、モータ駆動回路を集積回路で構成する場合、前記スイツチング素子は大電流の吸収をするため外部回路として付加する必要があること等の欠点があつた(同第二頁第二〇行ないし第四頁第一五行)。
本願発明は、右知見に基づき、集積回路によつて構成されるモータ駆動回路に集積回路の外部回路として特別な回路や素子を用いることなく、簡単な構成により、モータの停止を妨げる逆誘導起電力を吸収し、モータを速やかに停止させることができるモータ駆動回路を提供することを目的とし(同第四頁第一六行ないし第五頁第一行)、前記本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したものである。
本願発明は、前記構成を採用したことにより、集積回路で構成されたモータ駆動回路によつて正逆転駆動されるモータに対し、モータ駆動回路の一部を成す駆動トランジスタと、その駆動トランジスタに隣接して集積回路上のPN接合によつて形成された寄生ダイオードとをもつて放電ループを構成でき、集積回路の外部回路として特別な回路や素子を伴うことなく簡単な構成をもつて、駆動停止の際、モータの回転停止を妨げる逆誘導起電力を吸収でき、モータを速やかに停止させることができる、また、モータに逆誘導起電力が生じたときに導通する寄生ダイオードの特性を利用しているので、寄生ダイオードを含む放電ループがモータ駆動回路に何ら支障を与えることなく、逆誘導起電力の発生に対応して放電ループを動作させることができ、モータに生じた逆誘導起電力を確実に吸収消去し、モータの回転停止を速やかに行うことができるという作用効果を奏するものである(同第一八頁第一〇行ないし第一九頁第九行)。
(二) 他方、成立に争いのない甲第四号証によれば、第一引用例記載のものは、モータの正逆転回路に関するものであり、モータは停止時に過渡的に逆誘導起電圧が生じ、これによつて瞬時に停止できないという従来からの問題点を解決し、二つの入力端子に加えられる論理信号の組合せにより、モータの正転、逆転及び停止を迅速に自在に制御できるようにしたもので(明細書第一頁第一四行、同第二頁第一八行ないし第三頁第七行)、四個のトランジスタより成るトランジスタブリツジ回路の検出端子間に直流モータを接続して成るモータの正逆転回路において、前記モータの両端子間と電源の負側との間にダイオードを接続し、該ダイオードと並列に接続される前記トランジスタのベースに、モータ停止信号を入力するよう構成した(同第一頁第四行ないし第一一行)ものであつて、右構成により、シヤント用のパワー素子等を必要としないきわめて簡単な回路でありながら、モータの停止を迅速、確実に行うことができるという作用効果を奏するものである(同第七頁第一五行ないし第一八行)ことが認められる。
(三) また、成立に争いのない甲第五号証によれば、第二引用例記載のものは、半導体集積回路中のトランジスタのコレクタと基体間に、そのトランジスタのベース―コレクタ間降伏電圧値よりも低い降伏電圧値を有するダイオードを電気的に挿入した半導体装置に関するものであり(第一欄第三二行ないし第三六行)、トランジスタの破壊を防ぐ保護ダイオードを持つた半導体装置を提案することを目的としたもので(第一欄第二七行及び第二八行)、半導体基体として比抵抗値がトランジスタのコレクタ層の比抵抗値よりも低い高不純濃度を有するものを使い、この基体とN+埋込層との間のPN接合面を前記ダイオードとして使い、このダイオードをトランジスタのコレクタ層と基体間に電気的に挿入する、このダイオードの降伏電圧値は、トランジスタのコレクタ層の比抵抗よりも低い比抵抗の半導体基体を使うことにより、トランジスタのベース層とコレクタ層との間の降伏電圧値よりも低くし得るとのことから(第二欄第二九行ないし第二頁第三欄第一行)、所定導電形の半導体基体層の上に設けられた基体層と逆の導電形を有するトランジスタのコレクタ層内に設けられた前記基体層と同じ導電形のベースを備え、前記基体層の比抵抗を前記コレクタ層の比抵抗よりも小さくして、前記基体層とコレクタ層との間に、前記コレクタ層とベース層との間の降伏電圧値よりも低い降伏電圧値を有するダイオードを構成する半導体装置との構成を採用し(第四欄第四二行ないし第三頁第六欄第三行)、これにより、ダイオードによつてトランジスタを保護してトランジスタの寿命を増すことができ、また基体層の比抵抗を変えるだけでダイオードを構成できるので、工程数が特に増すこともなく、またこのダイオードの構成のための特別な領域が不要になるので、装置を小型化でき、さらにダイオードは半導体素子の内部に構成されるので、半導体素子の表面の影響がなく、その降伏電圧値の変化も抑制できるという作用効果を奏するものである(第四欄第三三行ないし第四〇行)ことが認められる。
2 一致点の認定について
(一) 「共通にベースに加えられる」の点について
本願発明の第一の駆動トランジスタが第一引用例記載のもののトランジスタ14に、第二の駆動トランジスタがトランジスタ13に、第三の駆動トランジスタがトランジスタ15に、第四の駆動トランジスタがトランジスタ16にそれぞれ対応することは当事者間に争いがない。そして、前記1(一)及び(二)で認定した本願発明及び第一引用例記載のものの構成よりすれば、両者はともに四つのトランジスタでブリツジ回路を構成した直流モータの正逆転駆動、停止回路によりモータを正転あるいは逆転させる場合、対辺をなす二つのトランジスタがともに導通することによつて、初めてモータに電圧が印加され、モータは回転し始めるように動作するものであると認められる。
そして、前掲甲第三号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には、構成要件C、Dが記載されていることが認められ、右各構成要件は、第一の駆動トランジスタと第三の駆動トランジスタを正転制御入力により(あるいは第二の駆動トランジスタと第四の駆動トランジスタを逆転制御入力により)ともに導通させることによつてモータを正転駆動(あるいは逆転駆動)させる構成を示しているものであつて、右特許請求の範囲には、第一の駆動トランジスタと第三の駆動トランジスタのベース、また、第二の駆動トランジスタと第四の駆動トランジスタのベースの具体的な回路の接続の構成については何ら記載はない。
原告は、構成要件C、Dに記載されている「共通に」の技術的意味を本願発明の実施例第2図に示されている回路接続の構成に基づいて説明し、本願発明と第一引用例記載のものとの相違を主張しているが、前掲甲第三号証によれば、本願明細書中には「共通に」の定義的な記載はなく、本願発明が別紙図面一の第2図に示された実施例に記載されるような回路接続の構成に限定され得るものではない。
右事実からすれば、トランジスタ14のベースとトランジスタ15のベースとの間には、トランジスタ19及び抵抗器21から成る直列回路が接続され、またトランジスタ13のベースとトランジスタ16との間には、トランジスタ20及び抵抗器22から成る直列回路が接続されており、回路接続上は、トランジスタ19、20を介して正転制御入力又は逆転制御入力が加えられるものであるが、トランジスタ19(又はトランジスタ20)の「オン」に伴つてトランジスタ14、15(又はトランジスタ13、16)が「オン」になるものであるから、トランジスタ14と15は正転制御入力によつて(トランジスタ13と16は逆転制御入力によつて)共に導通するものであり、トランジスタ14と15(又はトランジスタ13と16)の両者のベースに共通に正転制御入力(又は逆転制御入力)が加えられるということができる。
してみると、正転制御入力及び逆転制御入力を各トランジスタに加える構成において、本願発明と第一引用例記載のものとに異なる点はなく、「両者はともに、第一の駆動トランジスタと共通にベースに加えられる正転制御入力によつて導通する(中略)第三の駆動トランジスタ、及び第二の駆動トランジスタと共通にベースに加えられる逆転制御入力によつて導通する(中略)第四の駆動トランジスタという基本的構成において変わりはない」とした審決の認定に誤りはない。
(二) 「解除と同時に」の点について
原告は、本願発明は、正転制御入力又は逆転制御入力と停止信号とが独立して設定されており、正転制御入力間は逆転制御入力の解除と同時に、しかも第三及び第四の駆動トランジスタのベースに直接に停止信号を入力しているのに対し、第一引用例記載のものは、「H」「L」二レベルの単一の信号を用いて、「H」「L」のレベルの切替えによつて、正転、逆転又は停止の動作切替えを行い、これをナンドゲート29とダイオード30、31からなる論理回路によつて行うものであつて、第三及び第四の駆動トランジスタのベースに対する正転制御入力または逆転制御入力の解除と同時に停止信号を加えるようにしたものではなく、両者はこの点について構成上相違する旨主張する。
しかしながら、前掲甲第三号証(本願発明の補正明細書)によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「正転駆動信号の解除と同時にベースに加えられる停止信号によつて導通する第三の駆動トランジスタ(構成要件C)」「逆転駆動信号の解除と同時にベースに加えられる停止信号によつて導通する第四の駆動トランジスタ(構成要件D)」と記載されているだけであつて、原告主張のように、「停止信号は正転制御入力又は逆転制御入力とは独立して設定される」ことを意味する直接の記載ないし示唆は認めることができず、右主張は本願発明の要旨に基づかないものである。
他方、前掲甲第四号証によれば、第一引用例には、「入力端子25、26間には、集積回路からなるナンドゲート29の二つの入力端が接続されており、その出力端にはダイオード30、31のアノード側が接続されている。ダイオード30のカソード側はトランジスタ19のエミツタとトランジスタ15のベースに共通に接続され、ダイオード31のカソード側はトランジスタ20のエミツタとトランジスタ16のベースに共通に接続されている(明細書第四頁第一〇行ないし第一八行)。」「入力端子25、26がともに「L」レベルになつたときには、トランジスタ19、20はともに「オフ」になるので、トランジスタ13、14も「オフ」になつて、モーター12への供給電力は遮断され、モーター12は停止することになる。このときモーター12の両端には過渡的に逆起電圧が発生するが、このときナンドゲート29の出力は「H」レベル(停止信号)となつており、ダイオード30、31が導通してトランジスタ15、16は「オン」になるので、仮にモーター12の側が正電位、側が負電位になつていると、側からトランジスタ15を通して接地へ電流が流れ、側の電位はトランジスタ15のコレクタ飽和電圧VCEとなり、側へは接地(電源負側)からダイオード24を通じて電流が流れ込むために、側の電位はダイオード24の順方向飽和電圧―VFとなる。かくしてモーター12両端の電圧はVCE+VFのみとなり、モーター12は急激に停止することになる。次にモーター12の側が負電位、側が正電位になつている場合も、前述したトランジスタ15、ダイオード24の作用を、トランジスタ16、ダイオード23が代つて行なうことになり、同様な結果が得られることになる(明細書第五頁第一九行ないし第七頁第二行)。」と記載されていることが認められる。
右事実によれば、第一引用例記載のものは、正転又は逆転しているモータを停止させるため、入力端子25又は26のうちのいずれが「H」レベルになつている方の入力端子に加えられる信号を「L」レベルとして正転または逆転信号を解除し、それと同時にナンドゲート29により「H」レベルの停止信号が発生され、これがダイオード30、31を導通させてトランジスタ15、16を「オフ」状態にさせるものであるから、結局、正転又は逆転の解除と同時に、停止信号をトランジスタ15、16に加えているものであるということができる。
原告は、第一引用例記載のものは、停止動作には信号のレベル切替え時間及びナンドゲート29とダイオード30、31から成る論理動作時間が必要であるため、停止動作を遅延させる旨主張する。
しかしながら、第一引用例記載のものは、二つの入力端子に加えられる論理信号の組合わせにより、モータの正転、逆転及び停止を迅速に自在に制御できるようにしたものであることは前記1(二)で認定したとおりであるし、半導体素子による論理動作等における動作速度が高速度であることは技術常識であることからすれば、原告が指摘する動作速度がモータの停止動作を遅らせる要因になる程度のものとは考えられない。
してみると、正転又は逆転駆動信号の解除と同時に停止信号を、第三の駆動トランジスタ(第一引用例記載のもののトランジスタ15に対応する)及び第四の駆動トランジスタ(第一引用例記載のもののトランジスタ16に対応する)に加える構成において、本願発明と第一引用例記載のものとに異なる点はなく、「両者は、正転駆動信号の解除と同時にベースに加えられる停止信号によつて導通する第三の駆動トランジスタ、及び逆転駆動信号の解除と同時にベースに加えられる停止信号によつて導通する第四の駆動トランジスタという基本的構成において変わりがない」とした審決の認定に誤りはない。
3 相違点の判断について
第二引用例記載のものは、半導体集積回路中のトランジスタのコレクタ層と基体間に、そのトランジスタのベース―コレクタ間降伏電圧値よりも低い降伏電圧値を有するダイオードを電気的に挿入した半導体装置に関するものであり、トランジスタの破壊を防ぐ保護ダイオードを持つた半導体装置を提供することを目的としたものであることは、前記1(三)で認定したとおりである。そして、前掲甲第五号証によれば、第二引用例には、「集積回路中のトランジスタのコレクタ層13と基本11間に、そのトランジスタのベース―コレクタ間降伏電圧値よりも低い降伏電圧値を有するダイオードを挿入したことになる(第三欄第二六行ないし第二九行)。」と記載されていることが認められ、右記載事実及び第2図(別紙図面三参照)によれば、第二引用例記載のものは、集積回路中のトランジスタのコレクタ層13と半導体基体11との間でダイオードを形成していることは明らかである。
もつとも、前掲甲第五号証によれば、第二引用例には、「基体とN+埋込層との間のP―N接合面を上記ダイオードとして使い、このダイオードをトランジスタのコレクタ層と基体間に電気的に挿入する(第二欄第三一行ないし第三四行)。」と記載されていることが認められ、右記載からすると、右ダイオードは、原告主張のとおり、半導体基体11とN+埋込層12とのPN接合で形成されるものであることは明らかであるが、さらに、第二引用例には、「トランジスタのコレクタ抵抗を下げる意味で、上記半導体基体11にN+埋込層12を、sio2膜を利用して選択拡散する(第三欄第六行ないし第九行)。」と記載されていることが認められ、右記載からすれば、N+埋込層12はコレクタ層の抵抗を下げる意味で設けられたものであり、コレクタ層の一部を成すものと解されるから、結局、第二引用例記載のものは、コレクタ層13と半導体基体11との間でダイオードを形成していることになる。
したがつて、第二引用例には、集積回路中のトランジスタのコレクタ層13と半導体基体11との間でダイオードを形成することが記載されている、とした審決の認定に誤りはない。
原告は、第二引用例に記載のダイオードは寄生ダイオードではなく、本願発明の駆動回路としての役割を果たすものではないのであつて、このようなものを第一引用例記載のものに適用しても本願発明の構成を得ることは容易になし得ることではない旨主張する。
確かに、前掲甲第五号証によれば、第二引用例には、第二引用例記載のもののダイオードが寄生ダイオードであることを直接的に表現する記載はない。しかしながら、第二引用例の第2図(別紙図面三参照)によれば、集積回路中のトランジスタのN型であるコレクタ層(N+埋込層12を含む)と、このコレクタ層と隣接するP型領域(P型分散拡散層14とP型基体11)との間にPN接合が存在していることが認められ、これを寄生ダイオードということは技術常識である。そして、第二引用例には、「上記ダイオードの降伏電圧値は、N+埋込層12の不純物表面濃度が高く、且つその濃度勾配は急峻であるから、基体11の不純物濃度値(又は比抵抗値)によつて決まる。従つて基体11の比抵抗値を適当に変えれば、求める降伏電圧値を有するダイオードを製造し得る(第三欄第三〇行ないし第三五行)。」と記載されていることが認められ、右記載からして、第二引用例記載のものは、寄生ダイオードを積極的に回路素子として用いることを志向してP型基体11の不純物濃度を選定しているものであると解される。
そして、本件出願当時、モータ駆動回路を集積回路によつて構成することは周知の技術であつたこと(この点は当事者間に争いがない)からすれば、第一引用例記載のもののモータ駆動回路を集積回路で構成することは容易に考えられることであるし、その場合、第一引用例記載のもののダイオード23とダイオード24を、本願発明の第三、第四の駆動トランジスタに相当するトランジスタ15、16に隣接するPN接合(換言すれば寄生ダイオード)で形成することは、前記認定した第二引用例記載のものが教示するところをもつてすれば、当業者において容易であるといわざるを得ない。
したがつて、相違点について格別発明力を要するとすることはできないとした審決の判断に誤りはない。
原告は、周知例記載のものは、負荷出力安定化制御方式を集積回路で構成したものにすぎず、第一引用例及び第二引用例記載のものとは技術的課題、及び解決手段を全く異にするものであるから、かかる周知例を手掛かりとして本願発明の進歩性を否定した審決の判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、そもそも周知例は周知技術を示す一例として掲げられているにすぎないものであるところ、本件においてモータ駆動回路を集積回路によつて構成することが本件出願前周知の技術であつたことは原告も認めるところであるから、例え周知例記載のものが原告主張のようなものであつたとしても何ら問題とすべきことではない。しかも、成立に争いのない甲第六号証によれば、周知例には、「以下直流モータを負荷変動、電源電圧変動、温度変動に無関係に安定した速度で回転させるようにした制御回路につき、実施例図面を参照して詳細に説明する(第一頁右下欄第一〇行ないし第一三行)。」として以下説明がなされていること(第一頁右下欄第一四行ないし第二頁左下欄第三行)、及び「本発明による制御方式は制御トランジスタによる直流損失が極減できるので制御装置を含めた回路のIC化も容易となる(第二頁左下欄第九行ないし第一一行)。」と記載されていることが認められ、右事実からすると、周知例には、モータ駆動回路(前記直流モータの回転制御回路がこれにあたることは技術上自明のことである。)を集積回路によつて構成することが教示されているのであつて、審決が周知例記載のものを右周知技術を示す一例として掲記し、相違点についての判断をしたことに誤りはない。
4 作用効果の看過について
本願発明は、本願発明の要旨記載のとおりの構成を採用したことにより、<1>集積回路の外部回路として特別な回路や素子を伴うことなく簡単な構成でもつて足り、<2>放電ループによるモータに生じた逆誘導起電力を吸収消去し、モータの回転停止を速やかに行うことができる、という作用効果を奏するものであることは前記1(一)で認定したとおりである。
他方、第二引用例記載のものは、ダイオードの構成のための特別な領域が不要となるので装置を小型化できるという作用効果を奏するものであることは前記1(三)で認定したとおりであり、この作用効果は本願発明の奏する前記<1>の作用効果に対応するものであること明らかであり、また、前記<2>の作用効果は、第一引用例記載のものが奏する作用効果、すなわち、前記1(二)で認定したところの、モータの停止を迅速、確実に行うことができるということにほかならない。
してみると、本願発明の奏する作用効果は、第一引用例及び第二引用例記載のものから容易に予測し得るものであつて、顕著なものとは認められない。
したがつて、審決がこの点について特に言及しなかつたことに違法性はなく、審決に、作用効果についての看過誤認があつたとは認められない。
5 以上のとおりであるから、審決の、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点及び相違点についての判断は正当であり、かつ、本願発明の奏する作用効果についての看過は認められず、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
ベースに加えられる正転制御入力によつて導通し、モータに正転駆動電流を流す第一の駆動トランジスタと(以下「構成要件A」という。)、
ベースに加えられる逆転制御入力によつて導通し、前記モータに逆転駆動電流を流す第二の駆動トランジスタと(以下「構成要件B」という。)、
前記第一のトランジスタと共通にベースに加えられる前記正転制御入力によつて導通することにより前記正転駆動電流を前記モータに流し、前記正転駆動信号の解除と同時にベースに加えられる停止信号によつて導通する第三の駆動トランジスタと(以下「構成要件C」という。)、
前記第二のトランジスタと共通にベースに加えられる前記逆転制御入力によつて導通することにより前記逆転駆動電流を前記モータに流し、前記逆転駆動信号の解除と同時にベースに加えられる前記停止信号によつて導通する第四の駆動トランジスタと(以下「構成要件D」という。)、
前記第三の駆動トランジスタに隣接するPN接合で形成され、前記正転駆動電流の解除時、前記モータに生じる逆誘導起電力に応じて導通し、前記停止信号によつて導通する前記第四のトランジスタとともに前記モータに放電ループを形成する第一の寄生ダイオードと(以下「構成要件E」という。)、
前記第四の駆動トランジスタに隣接するPN接合で形成され、前記逆転駆動電流の解除時、前記モータに生じる逆誘導起電力に応じて導通し、前記停止信号によつて導通する前記第三のトランジスタとともに前記モータに放電ループを形成する第二の寄生ダイオードと(以下「構成要件F」という。)、
を備えたことを特徴とするモータ駆動回路(以下「構成要件G」という。)(別紙図面一参照)。
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面一
<省略>
別紙図面二
<省略>
別紙図面三
<省略>