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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)232号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第四号証(昭和六一年八月二〇日付け手続補正書中の明細書。以下「明細書」という。)によれば、本願第一発明は左記のような技術的課題(目的)、構成及び作用効果を有するものと認められる(別紙第一図面参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願第一発明は、テープ状担体に記録されたテレビジヨン信号の列から成る個々の画像(以下「単一画像」という。)を連続して再生する方法であつて、再生すべき画像に相当する信号をその都度画像メモリーに書き込み、かつ、そのメモリーから繰り返し読み出す方法に関する(第三頁第一七行ないし第四頁第二行)。

複数の隣接するトラツクに一つのフイールドを記録するテレビジヨンビデオレコーダにおいては、格別の処置を行わないと静止画像(以下「単一画像」という。)の再生ができない(第四頁第五行ないし第一三行)。

本願第一発明は、この課題を解決したものである。

(二) 構成

前記課題を解決するため、本願第一発明はその要旨とする構成を採用したものである。

別紙第一図面において、単一画像を再生しようとする場合、相応するボタンを操作してストツプ指令を出すと、この指令に続く画像2が画像メモリに書き込まれた後、テープは停止され、かつ、相応した制御によつて逆方向に戻される。その際、テープは、新たに順方向に走行する場合に画像2の一つ手前の画像(すなわち、画像4)の箇所において再生に必要な速度に達し得る位置(すなわち、3)まで戻されるのである。この戻しは、画像2の複数手前の画像を再生し得るように制御することができるが、過程の繰返しによつても行うことができる(第五頁第一九行ないし第六頁第一四行)。

画像4の手前の画像5を再生したい場合は「-1」ボタンを押す。「+1」ボタンを押した場合は、前に示された画像(例えば、画像5)に続く画像(画像6)が画像メモリに書き込まれ、このメモリから任意の長さにわたつて再生される(第六頁第一五行ないし第七頁第三行)。

(三) 作用効果

本願第一発明は、単一画像の再生を可能とするのみならず、最初に再生される画像から出発して一画像(望むならば複数の画像)順方向あるいは逆方向へ再生を進めることができるとの利点が得られる(第四頁第一四行ないし第二〇行)。

2 一方、引用例1記載の発明は静止周期性情報信号再生方式に関するものであつて、審決認定の技術的事項が記載されており、本願発明との間に審決認定の一致点及び相違点を有すること、及び、相違点<1>が格別のものでないことは、原告も認めて争わないところである。

3 そこで、相違点<2>の判断について検討するに、審決は、「テープ状担体から特定画像の信号を画像単位で正確に再生するにはテープ状担体が再生速度に達していなければならず、そのために準備走行を行わせることは、引用例2に記載されているように当然の事項である。」と判断している。

しかしながら、本願第一発明は、前記のとおり、テレビジヨン信号の単一画像を再生するに当たつて、所望の画像の再生を可能にするために、最初に再生される画像から一画像(望むならば複数画像)順方向及び逆方向のいずれにも再生を進め得るようにすることを技術的課題とするものである。

一方、成立に争いない甲第七号証によれば、引用例2にはVTR自動編集装置に関する技術的事項が記載されており、その第三一三頁の図9(別紙第二図面参照)は準備走行におけるテープの再生ヘツドに対する位置及び動作の関係を表したものと認められる。そして、その第三一三頁左欄第三一行ないし右欄第六行には、aは準備走行が完了して停止する位置(すなわち接合走行のスタート位置)であること、オリジナルビデオテープの現在位置がcより右に在る場合は早送り命令によつてオリジナルテープが早送りされ、cに達したとき停止命令が出ること、その場合のオリジナルテープの停止位置は走行慣性によつてbとcの中間になること、逆にオリジナルテープの現在位置がbより左に在る場合は巻戻し命令によつてオリジナルテープが巻き戻され、bに達したとき停止命令が出ること、その場合のオリジナルテープの停止位置もbとcの中間になること、及び、これらの中間停止位置から定常走行に入つてaで停止することが記載されていると認められる。

そこで、本願第一発明と引用例2記載の技術内容を対比してみると、本願第一発明の技術的課題が前記のとおりであるのに対し、引用例2記載の技術は、オリジナルテープに記録されているビデオ信号の一部を他のマスタービデオテープに記録するためのVTR自動編集装置(換言すれば、ビデオテープのダビング装置又はダビング方法)を対象とするものであつて、両者はその技術的課題を著しく異にするといわざるを得ない。のみならず、引用例2に記載されている具体的手段は、オリジナルテープとマスタービデオテープとを接合走行するために、オリジナルテープをあらかじめ準備走行させ接合走行開始に適した位置(a)に停止させておくものであつて、本願第一発明の構成とは著しく相違していることは明らかである。そうすると、引用例2のオリジナルテープとマスタービデオテープとを接合走行するためにオリジナルテープをあらかじめ準備走行させるとの記載から、直ちに「テープ状担体から特定画像の信号を画像単位で正確に再生するにはテープ状担体が再生速度に達していなければならず、そのために準備走行を行わせること」が当然の事項として導き出されるということはできない。

したがつて、相違点<2>に関する審決の前記判断部分は誤りである。

4 審決は、次いで、本願第一発明の構成は要するに「テープ状担体を再生速度に達するため必要最小限度の位置に停止しておくということにすぎない」と判断している。

本願第一発明が、次に再生されるべき画像の一画像手前において再生速度に達し得る位置にテープ状担体を停止させるように構成したものであることはその要旨から明らかであつて、右構成は「テープ状担体を再生速度に達するため必要最小限度の位置に停止しておく」ことにほかならないから、審決の右判断部分はその限りで誤りはない。

しかしながら、本願第一発明は、「次に再生されるべき画像」の位置と「直前に再生された(又は、現に再生されている)画像」の位置の関係を考慮し、「直前に再生された(又は、現に再生されている)画像」の次の画像を再生するための順方向ボタン(+1)及び「直前に再生された(又は、現に再生されている)画像」の前の画像を再生するための逆方向ボタン(-1)のそれぞれに対応して、「次に再生されるべき画像」の一画像手前において再生速度に達し得る位置を決定し、その位置にテープ状担体を正確に停止させるように構成することによつて、一画像(望むならば複数画像)順方向及び逆方向のいずれにも再生を進め得るとの作用効果を奏するものであるが、そのような構成及び作用効果は、引用例1及び引用例2には全く記載されていないところである。

この点について、被告は、単一画像の信号をメモリに書き込んだが後にテープを逆方向に動かす程度の構成は引用例2に開示されていると主張する。引用例2にオリジナルテープの現在位置がbより左に在る場合にオリジナルテープを巻き戻すことが記載されていることは前記のとおりであるが、この巻戻しは単にオリジナルテープの位置合わせにすぎないのであつて、本願第一発明のように順方向ボタン(+1)及び逆方向ボタン(-1)のそれぞれに対応して「次に再生されるべき画像」の一画像手前において再生速度に達し得る位置を決定し、その位置にテープ状担体を正確に停止させる構成とは著しく相違するものである。したがつて、本願第一発明と引用例2記載のものにおいては、テープ状担体を逆方向に動かすことの技術的な意味が全く異なつているといわざるを得ないから、引用例2のオリジナルテープの巻戻しの記載が、本願発明の単一画像の信号をメモリに書き込んだ後にテープ状担体を逆方向に動かすとの構成を示唆するものということはできず、被告の右主張は失当である。

また、被告は、変化画像のある瞬間を単一画像として見ようとする場合、画像を前後に送り得るように構成することは当然の技術的課題であると主張する。確かに、変化する画像のある瞬間を単一画像として再生しようとする場合、所望の単一画像を一度の操作によつて得ることは困難であるから、画像を前後に送り得る構成にすることは当然に要請される事項といえる。しかしながら、そのための手段として、本願第一発明のように、順方向ボタン(+1)及び逆方向ボタン(-1)のそれぞれに対応して「次に再生されるべき画像」の一画像手前において再生速度に達し得る位置を決定しその位置にテープ状担体を正確に停止させることは、引用例1及び引用例2には全く記載されておらず、そのような手段が自明あるいは周知であつたと認めるべき証拠もないから、被告の右主張も失当である。

したがつて、テープ状担体の停止位置を相違点<2>のように特定したことに格別の進歩性を認めることはできないとした審決の判断部分も誤りである。

5 以上のとおりであるから、審決は、本願第一発明記載の技術内容を誤認して、相違点<2>の判断を誤つた結果、本願第一発明は各引用例記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと誤つて判断したものであつて、違法であるから、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

テープ状担体に記録されたテレビジヨン信号の列からなる個々の画像(以下「単一画像」という。)を連続して再生する方法であつて、再生すべき画像に相当する信号を、その都度画像メモリーに書き込み、かつ、このメモリーから繰り返し読み出す方法において、

単一画像の信号を半導体画像メモリ(個体画像メモリ)に書き込んだ後に、テープ状担体を逆方向に動かし、かつ、

逆方向に動かしたテープ状担体を、新たな前送りの際に、前記半導体画像メモリに最後に書き込まれた画像の一画像手前において半導体画像メモリに書き込まれた信号の再生に必要な速度に達することができる位置に停止することを特徴とする、テープ状担体に記録されたテレビジヨン信号の個々の画像を再生する方法(別紙第一図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙第一図面

<省略>

(以下省略)

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