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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)266号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 成立に争いのない甲第二号証ないし第五号証によれば、本願明細書には、本願発明の目的、構成、作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

1 目的

(一) 本発明は、漢字を含む日本文等の作成作業に用いられるワードプロセツサに関するものであり、とくに漢字の読みから所期の漢字を選び出す和文ワードプロセツサに好適なワードプロセツサに関する(甲第二号証第三頁一八行ないし第四頁二行)。

(二) 従来、和文ワードプロセツサとしては漢字キーボードを用い、入力すべき漢字を漢字キーボード上で探して打鍵する方式が用いられる。このような漢字キーボードを用いる従来の方式では、第一に漢字キーボードの規模が大きくなる欠点がある。たとえば、一般的用途には四〇〇〇字種程度の漢字キーボードが必要とされるが、さらに人名や地名等の固有名詞用の漢字を用意するとなると、莫大な規模となつてしまう。第二に漢字キーボード上で所望の漢字を探すのに時間がかかり、熟練者以外にはとても扱い切れないという本質的な欠点がある。

これにかえ、漢字の読みをカナキーで入力し、この読みを持つ漢字を表示し、操作者がこの表示された漢字の一つを選択する方法も提案されている。

しかし、このカナ入力の従来技術では、同音異字が多い場合、所望の漢字を見つけることに時間を要する上に、見つけた漢字を指定するキーの選択に時間がかかる。(同第四頁三行ないし第五頁二行)

(三) 本発明は第一文字を入力してこれに対応する複数の第二文字を表示して選択する方法のワードプロセツサであつて、かつ、第二の文字の選択を容易にしたワードプロセツサを提供することを目的とする。

本発明は、このために、表示装置に表示される候補文字の中から、所望の漢字を選ぶにあたり、三行三列に配列された九個の配列を模した枠組を表示し、その表示の中に候補文字を表示し、候補文字の中から所期の漢字をテンキーで選ぶようにした。(同第五頁三行ないし七行)

2 構成

(一) 請求の原因二(本願発明の要旨、本願発明の特許請求の範囲)記載の構成の採用

(二) 第1図は本発明に係る和文ワードプロセツサを説明するための原理図であり、漢字を入力するための手順はつぎのようになる。(1)かなキーボード4から漢字の読みを入力する。一例として「完」という漢字を選び出すために「かん」と打鍵した場合を説明する。(2)制御装置3は読み漢字変換テーブルを参照して、読み入力コードに対応する漢字コードを出力し、表示装置1に送る。(3)表示装置1は、テンキー2を模し、その枠表示からなる仮想漢字キー5に、制御装置3から送られた漢字コードに応じた漢字パターンを表示する。図では九種類の漢字候補がある。(4)テンキー2の一番目のキーを押すことにより、そのキーに対応する「完」という漢字が選択され、制御装置には当該漢字コードが漢字入力として記憶される。このように、表示装置に仮想漢字キーを設けることにより、動的に漢字キーを変化させることが可能となると同時に、候補漢字の選択もテンキー2により瞬時に行なうことができ、装置の規模を小さくし、かつ漢字入力作業の生産性を向上させることが可能となる。

ここで、テンキー2は数字1~9に対する九個の数字キーと、数字0に対する0キーと、小数点キーとからなる。特に九個の数字キーが三×三のマトリツクス状に配列されているので、全体がコンパクトに形成される。

仮想漢字キー5は、このテンキー2のキー枠を表示したもので、その形状も、テンキー2の形状に相似になるように形成されている。(甲第二号証第五頁一三行ないし第七頁一行)

(三) 第2図は本発明に係る和文ワードプロセツサの一実施例である。……50はテンキーの形を模した仮想漢字キーである。20はキーボードであり、テンキー21、……かなキー40から成り、かなや漢字の読み入力と、候補漢字の選択のために使われる。……読み・漢字対応テーブル32は国語辞典のように読みから漢字コードを見つけるための辞書メモリである。……いまかなキー40から「か」が入力されると、「か」の漢字が仮想漢字キー50に表示され、ひき続き「ん」がかなキー40から入力されると、「かん」の漢字が仮想漢字キー50に表示されるように構成できる。このように、読み・漢字対応テーブル32を索引しながら、入力された読みに対応する漢字を動的に仮想漢字キー50に表示することが可能である。本発明の例では、仮想キー50に表示される漢字数を九個に絞つたが、候補文字が一〇個以上あるときには、テンキー21のキー0を押すことによつて次の九個の候補と置換するように構成することも容易であり、これにより、最初に表示される漢字群に希望のものがない時にも、あたかも辞書のページをめくるように、次々と表示して希望のものを見付け出すことができる。(甲第二号証第七頁五行ないし第九頁一六行)

3 作用効果

(一) 本発明では、カナ漢字変換のための文字入力キーより少ない三行三列に配列された九個のキーを、同音異字の選択用に割り当てることにより操作性の向上を図るものである。すなわち、同音異字を多数表示した場合、表示中に所望の文字があるか否かを識別するのに画面上の目視点を移動させる必要があり、また、表示中に所望の文字がないことを確認する場合でも表示文字が多いと、見落とすおそれがある上に、そのことが心理的に不安となり、再度見直すという操作を必要とする。しかるに、五~九個程度の文字を表示した場合にはこれらの問題はなく、一見してすぐ全表示文字を認識できる。

さらに、同音異字を多数表示した場合、表示された所望の文字に対応する選択用キーを操作するまでに、選択用キーが多いため時間がかかる。しかるに五~九個程度の文字を表示した場合には、表示文字に対応するキー位置は容易に―実質的にキーをみないで―判別できるため操作性が向上する。(甲第二号証第七頁一行ないし四行、甲第四号証第二頁一一行ないし第三頁八行、甲第五号証第二頁2、(2)及び(3))

(二) 一方、表示文字数を少なくした場合、所望の漢字を見つけるのに、表示をきりかえて、残りの同音異字を表示するように操作する回数が増大するおそれがあるが、実際にはこの回数は余り問題にはならない。たとえば、JIS第一水準の二九六五字について調べた結果は、下表(本判決別表参照)のとおりである。すなわち、九個の同音異字を有する読み見出しは一五個あり、同音異字数が一~九のいずれかである読み見出し数の総数は二一五二であり、全読み見出し数二二六六の九五%に相当する。したがつて、実際に読みを入れて、漢字に変換する操作を二〇回行うとその内に一回だけ九個の表示中に所望の漢字がないことになる。

したがつて、表示文字を九個に制限されても表示漢字が表示されていない確率は少ないため、操作性が悪くならない。

このように、本発明は表示漢字数が少なくても同音異字が表示されない確率が少なく、逆に操作性が向上することを利用したものである。すなわち、選択キーの操作における手、指の動きを分析してみると、選択キーとして使うのに最もよいのは人指し指、中指、薬指の三本である。小指はこれらより動きがわるく、親指はさらに悪い。したがつて、選択キーの配列は三列以下が望ましい。一方、行数も三行以下がよいことが分かる。すなわち、実験によれば三行以内なら、行数により余り操作性がかわらないが四行になるとかなりわるくなる。以上のことから、選択キーの操作性を低下させないための選択キーの行数、列数の最大値はともに三に等しいことが分かる。

一方、画面上の表示の選択においては通常比較的容易に識別できる最大数は五~九個である。以上のことから、三行三列に選択キーを配列すれば、候補文字が最初の画面に表示される確率をおとさないで画面上の認識、選択キーの操作を最大限に早めることができる。(甲第四号証第三頁一四行ないし第五頁九行、甲第五号証第二頁一四行ないし第三頁一一行)

(三) 本発明による和文ワードプロセツサでは、同音異義の多数の漢字の中から所望の漢字を取り出すことが極めて容易になり、ひらがなやローマ字による読み入力を基本にした和文ワードプロセツサの入力速度と操作性を大巾に向上することができる(甲第二号証第一八頁一八行ないし第一九頁三行)。

三 取消事由一について

1 原告は、本願発明においては、カナ漢字変換の結果の同音異字語が一〇個以上ある場合が必ず生じ、その場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示することを当然の前提として、一時に表示する同音異字語の数を九個に制限したところに、特徴の一つを有するものであるから、本願発明の特許請求の範囲に記載されたカナ漢字変換装置は、一〇個以上の同音異字語が必ず生じることがあるものと解すべきである旨主張するので検討する。

(一) 本願発明の特許請求の範囲には、前記のとおり、「文字キーの操作により入力された信号の内、入力すべきカナ漢字混り文の漢字に対する部分を対応する漢字に変換する装置と、該変換結果が複数個あるときに、三行三列に配列されたキー枠を表示し、各枠内に該変換結果を一つづつ表示する」と記載されているにすぎず、カナ漢字変換装置内の同音異字語の数と表示用キー枠の三行三列の同音異字語の最大数九個との関係については元よりのこと、同音異字語が一〇個以上ある場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示することについては、何ら記載されていない。

(二) 一方、本願明細書の発明の詳細な説明の欄には、本願発明の構成を示した原理図である第1図についての説明としては、「(2)制御装置3は読み漢字変換テーブルを参照して、読み入力コードに対応する漢字コードを出力し、表示装置1に送る。(3)表示装置1は、テンキー2を模し、その枠表示からなる仮想漢字キー5に、制御装置3から送られた漢字コードに応じた漢字パターンを表示する。図では九種類の漢字候補がある。」とのみ記載されていて、カナ漢字変換装置内の同音異字語の数と表示用キー枠の三行三列の同音異字語の最大数九個との関係について、具体的には記載されていないが、その作用効果として、前記のとおり、「一方、表示文字数を少なくした場合、所望の漢字を見つけるのに、表示をきりかえて、残りの同音異字を表示するように操作する回数が増大するおそれがある」、「九個の同音異字を有する読み見出しは一五個あり、同音異字数が一~九のいずれかである読み見出し数の総数は二一五二であり、全読み見出し数二二六六の九五%に相当する。したがつて、実際に読みを入れて、漢字に変換する操作を二〇回行うとその内に一回だけ九個の表示中に所望の漢字がないことになる。」「三行三列に選択キーを配列すれば、候補文字が最初の画面に表示される確率をおとさないで画面上の認識、選択キーの操作を最大限に早めることができる。」と記載されているところからすると、本願発明には、同音異字語が一〇個以上ある場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示するものを含むことは明らかである。

(三) そこで、本願発明が、同音異字語が一〇個以上ある場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示するものに限定されるか、すなわち、辞書内のすべての同音異字語を一括表示するものを含まないか否か検討する。

ところで、発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきところ、特許請求の範囲の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど特段の事情がある場合に限つて、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。

これを本件についてみるに、本願発明については、特許請求の範囲の記載は前記のとおりであつて、特許請求の範囲の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど特段の事情があるとは認められない。

そうであれば、本願発明については、同音異字語が一〇個以上ある場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示することが、特許請求の範囲に何ら記載されていないから、同音異字語が一〇個以上ある場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示するものに限定されると解することはできない。

(四) 原告は、特許請求の範囲の字句は、本願発明の対象及び目的並びに当業者の通常の理解に基づいて解釈されるべきであるから、本願発明のカナ漢字変換装置は、一〇個以上の同音異字語が生じることが必ずあるものと解され、それが合理的で自然な解釈である旨主張する。

しかしながら、本願発明は、同音異字語が複数個あるときに、三行三列の枠内にその複数個を一つずつ表示することを特許請求の範囲とするものであつて、辞書内に収容する同音異字語の数が一〇個以上あり、それらを順次に分けて表示することを特許請求の範囲とするものではない。

本願発明の目的、構成、原理、実施例及び効果については前記のとおりであり、それらの記載内容と特許請求の範囲の記載とが矛盾なく対応しており、何ら紛れがないことからすれば、特許請求の範囲の解釈に当たつては、特許請求の範囲に記載された文字どおりのものと解すべきであり、したがつて、読み漢字変換テーブル内の同音異字語の数が一〇個以上あるものと解すべき特定された構成要件は、本願発明には存在しないのであるから、原告の右主張は、本願の特許請求の範囲の記載から逸脱したものであつて失当である。

なお、原告の右主張は、すべての読みに対する同音異字語はすべて表示させなければならないとする考えを前提とするものであると解されるが、同音異字語を一定の個数に限つて辞書に収容し表示することも一つの設計思想であり、しかも、引用例1記載の発明のごとく、同音異字語をその使用頻度の順に一定の個数を一括して表示するものも発明として存するところである。

(五) また、原告は、本願発明の表示する装置は、カナ漢字変換の結果同音異字語が九個以下のときには全部が一度に表示され、それが一〇個以上のときには順次に分けて表示されるものである旨主張する。

しかしながら、原告の右主張は、カナ漢字変換の結果同音異字語一〇個以上あることを当然の前提とするものであるところ、本願発明がそのような発明を包含するものであることは、前記のとおりであるが、その点について特許請求の範囲に何ら記載のないことも、前記認定のとおりであるから、原告の主張は理由がない。

なお、本願明細書の第2図の説明においては、前記のとおり、「本発明の例では、仮想キー50に表示される漢字数を九個に絞つたが、候補文字が一〇個以上あるときには、テンキー21のキー0を押すことによつて次の九個の候補と置換するように構成することも容易であり、これにより、最初に表示される漢字群に希望のものがない時にも、あたかも辞書のページをめくるように、次々と表示して希望のものを見付け出すことができる。」と記載されているが、これは、実施例の一つを説明しているものにすぎないから、これをもつて、本願発明が「カナ漢字変換の結果の同音異字語が一〇個以上ある場合が必ず生じ、その場合にはそれらの同音異字語を順次に分けて表示する」ものであるとはいえない。

(六) さらに、原告は、すべての読みに対して辞書内のすべての同音異字語を一括表示するものを仮定すれば、辞書に収容する同音異字語の数をすべての読みに対して九個以下に制限しなければならず、実用的なワードプロセツサとならない旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、本願発明は、同音異字語が一〇個以上存する場合に、順次表示するものを含むものであるから、辞書に収容する同音異字語の数をすべての読みに対して九個以下に制限しなければならないものではなく、ただ、本願発明の特許請求の範囲の記載からは、同音異字語の数を九個以下に制限して一括表示するものが含まれるにすぎず、しかも、JIS第一水準の漢字二九六五字に対して、表示文字数を九個以下にしても表示漢字が表示されていない確率が少ないことからすれば、同音異字語の数を九個以下に制限したとしても、このことから直ちに実用的なワードプロセツサとならないとはいえない。したがつて、原告の右主張は理由がない。

2 原告は、本件審決は、本願発明が辞書内のすべての同音異字語を一括表示するものを含むと誤解して、この相違を看過した旨主張する。

しかしながら、本願発明は、辞書メモリ内の同音異字語の数について何ら特定されておらず、辞書メモリの同音異字語数が表示キー枠の最大個数以下の場合をも包含するものであり、すべての読みに対して辞書内のすべての同音異字語を一括表示するような同音異字語数を有する辞書メモリを備えたカナ漢字変換装置を包含するから、原告の右主張は理由がない。

四 取消事由二について

1 個数の選定の困難性について

(一) 原告は、引用発明(引用例1記載の発明)において、引用例2にならつてキー枠を表示すると仮定すれば、キー枠の数は、一つの読みに対する辞書内の同音異字語の数の最大値によつて一方的に決まり、実用的なワードプロセツサにおいて、辞書内の同音異字語の数の最大値は、到底「九」というような小さなものではあり得ない旨主張する。

しかしながら、原告の右主張は、同音異字語が一〇個以上必ずあることを前提とするものであるが、その主張が特許請求の範囲に記載のない事項を前提とした失当なものであることは、前記三において判示したとおりであり、しかも、本願発明が、辞書メモリ内の同音異字語の数の最大値は特定されておらず、かつ、表示文字を九個に制限しても操作性が悪くならない実用的なワードプロセツサであることも、前記のとおりである。

(二) ところで、成立に争いのない甲第六号証によれば、引用発明は、その特許請求の範囲を「発音に従つて入力された和文情報中の同音異字語をその使用頻度順に一括して表示する表示装置と、所望の同音異字語の属する番地を指定する指定装置と、この指定された同音異字語を同音異字語以外の和文情報と共に漢字カナ混り文として編集する編集装置とを有することを特徴とする和文情報編集装置」とするものであつて、発明の詳細な説明の欄には、次のとおり記載されていることが認められる。

(1) この発明によれば、例えばカナキーボードからカナ文字キー打鍵によつて和文情報を入力して表示・編集する際、漢字または熟語等の同音異字語に遭遇した場合には、陰極線管(CRT)などの表示装置の画面の一部―例えば下部二~三行に、辞書に記憶されている同音異字語を(なるべくは使用頻度の高いものから順に)すべて一時に表示させ、その中から所望の漢字または熟語等を選んで、画面上の前記所望の漢字または熟語等の表示位置に対応するカナ文字キーを打鍵する―すなわちこれらの語の属する番地を指定する―ことにより簡単かつ迅速に同音異字語を絞ることが可能となる(甲第六号証第二頁左下欄四行ないし一六行)。

(2) 引用発明によれば、同音異字語が使用頻度順に一括して表示されるので、オペレータは最も使用頻度の高い文字が表される位置から順に見て行き、所望の文字を見つけたときにそれに対応するカナ文字キーを打鍵すれば良いので、所望文字の選択が迅速にできることになり、労力を低減することができる(同第四頁右上欄一一行ないし一七行)。

(3) 引用発明において同音異字語、和文情報の表示される位置(配置)は、実施例に限るものではなく任意の場所でよい(同第四頁右下欄一行ないし三行)。

(4) 第1図(本判決別紙引用例1図)には、画面の下半分に「コウセイ」の同音異字語が三行五列にわたつて一一個表示されており、画面の下には縦五列横三行ないしそれ以上の行の選択キーのカナ文字キーの配列構成が示されている。

(三) 右事実によれば、引用例1における同音異字語の表示文字の配列は、第1図に示された三行五列の実施例に限らず任意に設定されるから、その表示文字に対応させてカナ文字キーの配列の任意の部分を選択キーとして設定することができることは明らかである。

また、本願発明において表示文字数を九個に制限しても同音異字語を選択する場合の操作性が悪くならないのであるから(前記二3(二))、引用例1の第1図の三行五列の一五個の表示文字数の場合では、本願発明の九個の場合に比べて、同音異字語が表示されない確率がより小さいものとなり、操作性がより改善されることになる。

したがつて、引用例1においても、同音異字語をその使用頻度順に一括表示する場合、実用的なワードプロセツサとして使用に耐えうるように、同音異字語数の最大値を表示文字数の最大値に合わせて表示文字数を設定することができるから、「引用例1の第1図の三行五列の配列は、全く非現実的なもので、単なる図示説明の便宜上の例にすぎず、実用上の実施例ではありえない。」旨の原告主張は、失当である。

(四) 原告は、一度に表示される同音異字語の数を限定するという前提に立つたとしても、その数を他ならぬ九個に特定することは、決して容易ではない旨主張する。

しかしながら、前記のとおり、引用例1において、同音異字語の表示文字の配列は第1図の三行五列の表示文字列の実施例に限らず、選択キーのカナ文字キーの範囲内で当業者が任意に設定し得る設計的事項にすぎず、しかも、乙第一号証、第二号証の例をまつまでもなく、テンキーは周知であるから、第1図の三行五列の配列構成から三行三列の九個の配列構成に改変し得ることは、当業者ならば容易に想到し得たものといわざるを得ない。

したがつて、原告の右主張は理由がない。

(五) また原告は、「本件審決が、本願発明において選択キーとキー枠をそれぞれ三行三列に配列したことを以つて、設計事項に属し、必要に応じて任意になし得ることとしたのは、個数の選定の問題を無視した結果、判断を誤つたものである。」旨主張する。

しかしながら、同音異字の表示文字を何個とするかは、当業者の設計的事項にすぎないことは前記認定のとおりであり、この点について本件審決は、「表示装置上の同音異字の漢字を表示する……行数と列数は表示対象である同音異字語の数や操作者の操作容易性等を勘案して適宜選定されるものであり、当業者における設計的事項に属するものであつて」と判断し、表示キー枠の数及び選択キーの数について判断しているから、原告の右主張は理由がない。

2 効果の顕著性について

(一) 原告は、「本願発明によるキー枠の三行三列の配列は、同じ九個の他の配列(たとえば横一列)、更には九に近い他の数のあらゆる配列と比較して、表示された比較的多数の語を一瞥で(視線をほとんど移動せずに)識別することの容易さと、各語の位置の把握の容易さとの総合において、断然優れている。」旨主張する。

原告の主張するところは、三行三列に配置された選択キーを文字キーとは別個に設けたことによる効果を主張するものではなく、表示文字及び選択キーを三行三列に配置したことによる効果を主張するものと解される。

しかしながら、前記のとおり、引用例1において、表示文字と選択キーの配列は第1図の実施例の三行五列の配列に限られるものではなく、三行三列、三行四列、四行三列等の配列も当業者が容易に想到し得るところであり、また表示装置の画面上の同音異字語の配列と選択キーの配列を対応させることによつて、前記(四1(二)(2))のとおり、「オペレータは最も使用頻度の高い文字が表される位置から順に見て行き、所望の文字を見つけたときにそれに対応するカナ文字キーを打鍵すれば良いので、所望文字の選択が迅速にできることになり、労力を低減することができる。」という効果を奏し、画面下部の表示文字の規則的な配列により所望文字の容易な確認と該所望文字に対応して選択キーの操作の容易さを示唆しているものと認められる。

したがつて、引用例1において表示装置の画面上の同音異字語の配列を三行三列とし、文字キーのうちそれに対応させて三行三列を選択キーとすれば、本願発明と引用例1との作用効果は、表示文字のキー枠の点を除けば同様であるから、特に三行三列の九個の配列とすることは、引用例1に比較して格別の効果を奏するものとはいえない。

(二) 原告は、「九個という限られた語数にもかかわらず、かえつて、同音異字語の数が多い場合には、引用例1の装置よりも本願発明の方が遥かに便利である。」旨主張する。

しかしながら、原告の右主張は、本願発明が同音異字語の群を順次表示することを前提とするものであるが、その前提が理由のないことは既に述べたところであり、したがつて、「同音異字語の数が多い場合には、引用例1の装置よりも本願発明の方が遥かに便利である。」とはいえない。

(三) 以上によれば、本件審決が、「上記相違点に基づき得られる効果も当然予想される範囲のものと認められる。」と判断したことに、原告主張の違法はない。

五 よつて、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

カナ文字又はローマ字を入力するための文字キーと、三行三列に配列された選択キーとを含む入力装置と、該文字キーの操作により入力された信号の内、入力すべきカナ漢字混り文の漢字に対する部分を対応する漢字に変換する装置と、該変換の結果が複数個あるときに、三行三列に配列されたキー枠を表示し、各枠内に該変換結果を一つづつ表示する装置とを有するワードプロセツサ(別紙本願発明図参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙 本願発明図

<省略>

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別紙 引用例1図

<省略>

(以下省略)

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