東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)281号 判決
一 特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点、本願商標の構成、指定商品及び登録出願日、並びに、引用商標の構成、指定商品、登録出願日、設定登録日及びその更新登録日が、いずれも原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、本願商標と引用商標との類否について判断する。
1 まず、当事者間に争いのない別紙(一)の本願商標の構成と別紙(二)の引用商標の構成とを対比すれば、その構成態様を異にし、外観上区別し得ることは明らかである。
2 次に、称呼の類否について検討するに、引用商標からは、これを構成する文字に相応した「コガネ」の称呼が生ずることについては、当事者間に争いがないので、本願商標から、これを構成する文字に相応した「ハコダテコガネ」の称呼のほかに、「コガネ」の称呼をも生ずるものとみるべきであるか否かについて、以下、検討する。
(一) 本願商標の後半部の「こがね」の文字部分は、その平仮名文字に対して「黄金」なる漢字をあてて「金(きん)」もしくは「金貨」を意味し、或いは「小金」なる漢字をあてて「少しばかりのまとまつた金」を意味する一般的用語として広範に利用される語であることは当裁判所に明らかなところであるから、「こがね」なる文字自体が有する識別力は比較的弱く、むしろさして多義的に用いられていない普通名詞に近いものと認めるのが相当である。そして、本願商標の前半部の「函館」の文字部分が、一面において、北海道南端に位置する漁業、工業などの港湾都市で産地、販売地を表示するものであるといいうるにしても、これが「函館産」「函館名産」「函館直送」等の表示で使用されている場合であれば格別、単に「函館」なる地名と比較的弱い識別力しか有しない「こがね」なる文字とが結合し、かつ、その構成が全体で僅か五文字からなり、総発音数も「ハコダテコガネ」の七音にすぎない簡潔な構成である本願商標にあつては、その取引の実情により、一体に結合した商標として自他商品識別機能を有するものと需要者、取引者に認識され、常に一連不可分の語として「ハコダテコガネ」の称呼のみが生ずる余地も十分に存するものと解される。
(二) そこで、本願商標の使用される指定商品(味付さきいか)の需要者、取引者の間における取引の実情についてみるに、いずれも成立に争いのない甲第八、第九号証、第一一号証の一ないし一四、第一二ないし第二〇号証、第四三ないし第五八号証、第七一ないし第一〇二号証、第一〇三号証の一ないし四八、第一〇四ないし第一七七号証、第一七九ないし第一八七号証及び乙第三号証の一、二並びに証人武藤利男の証言によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和四九年八月頃から、「函館こがね」なる標章を付して、新たな製法で開発した味付さきいかの販売を開始したが、その後、他の業者が相次いで、「ちぎりこがね」、「みそこがね」、「あさひこがね」、「マルエスこがね」、「荒波こがね」、「剣先こがね」、「こがねステツク」などそれぞれ製造に係る味付さきいかに、「こがね」なる文字を含む標章を付して販売するようになり、現在に至つている。製造業者と卸売業者、卸売業者と小売業者の間では、右のように「こがね」の文字を含む標章の付された味付さきいかを取引する場合に、単に「こがね」と称しただけでは、そのいずれの商品を指すか明らかでないため、希望する商品に付せられた前記標章を一連不可分のものとして用いることによりこれを特定していた。
(2) 本願商標商品である「函館こがね」が付された味付さきいかについても同様であり、原告は「函館こがね」のほか、「こがねさき」なる標章を付した味付さきいかも販売し、その販売地域は全国に及んでいた関係で、郵便により全国各地の消費者から直接これら味付さきいかの注文を受けることが多く、その際、注文者は必ず数量とともに、「函館こがね」、「こがねさき」とその一連不可分の標章により商品を具体的に特定して注文している。
以上の認定を覆すに足りる証拠はない(なお、原告の製造する味付さきいかの販売地域が全国に及んでいることは、前掲証拠、特に甲第八、第九号証、第七一ないし第一〇二号証、第一一〇ないし第一七七号証作成者の住所地がほぼ全国的に分布していることから推認して差支えない。)。
(三) 以上に認定した本願商標の構成態様、「こがね」の語の有する識別力の程度、「こがね」なる文言を含む標章の付された味付さきいかの取引の実情に照らせば、「函館」なる地名を表わす語をその構成の中に含むとはいえ、本願商標は、常時その構成どおり「函館こがね」として一連不可分のものとして使用され、その称呼もこれに応じ、その文字全体から「ハコダテコガネ」のみの称呼が生ずるものであると認めるのが相当であり、「こがね」の文字だけをとらえて本願商標からは「コガネ」の称呼をも生ずるものとは認められないから、本願商標と引用商標とが称呼上類似の商標であるとすることはできない。
3 更に、本願商標は、既に説示した事実に照らし、「函館こがね」として一連一体に観察されるところの特定の観念を持たない語と解するのが相当であり、引用商標から如何なる観念が生じようとも、観念の点で両者を比較することはできず、観念上も類似するものとは認めることが出来ない。
4 以上のとおりであるから、本願商標と引用商標とは、その外観、称呼及び観念のいずれからみても相紛れることのない非類似の商標であるから、これを類似の商標であるとした本件審決の判断は相当でなく、違法として取り消されるべきものである。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求を相当として認容する。
〔編注1〕本件に関する請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五二年七月一一日、別紙(一)表示のとおりの「函館こがね」の文字を左横書きしてなる商標(以下、「本願商標」という。)について、指定商品を、第三二類「食肉 卵 食用水産物 野菜 加工食料品(他の類に属するものを除く)」とし、登録第六五九九一六号商標外二件との連合商標の商標登録出願(昭和五二年商標登録願第四八二六七号)をし、その後、指定商品については、同五五年一〇月二九日付手続補正書をもつて「味付さきいか」に補正したが、昭和五六年三月二五日拒絶査定を受けたので、同年六月五日これを不服とする審判を請求した。特許庁は、同請求を同庁昭和五六年審判第一一四八一号事件として審理したうえ、昭和六三年一〇月二〇日「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は同年一一月一六日原告に送達された。
二 本件審決理由の要点
1 本願商標の構成、指定商品及び商標登録出願日は、前項記載のとおりである。
2 これに対し、原査定において、本願商標の拒絶の理由に引用した登録第三七七二四九号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙(二)表示のとおり「小金」の漢字を縦書きし、その右側に「コガネ」の片仮名文字を小さく縦書きしてなり、(旧)第四五類「他類に属しない食料品及び加味品」を指定商品として、昭和二二年一二月三一日商標登録出願、同二四年七月三〇日に設定登録され、その後、同四五年六月一七日及び同五四年九月二八日の二回に亘り商標権存続期間の更新登録がなされたものである。
3 本願商標は、「函館こがね」の文字を書してなるところ、該文字に相応して「ハコダテコガネ」の称呼を生ずる他に、その構成が「函館」の漢字と「こがね」の平仮名文字と書体を異にしてなるばかりでなく、前半部の「函館」の文字が北海道南端に位置する漁業、工業などの港湾都市で産地、販売地を表示するものであるから、本願商標に接した需要者、取引者をして自他商品の識別機能を有する後半部の「こがね」の文字をとらえて、これより生ずる称呼をもつて取引に資される場合も少なくないものとして、本願商標から該文字に相応して「コガネ」の称呼をも生ずるものとみるのを相当とする。
他方、引用商標は、「小金」の漢字とその振仮名と認められる小さく書した「コガネ」の片仮名文字を書してなるところ、該構成文字に相応して「コガネ」の称呼をも生ずるものである。
4 してみれば、本願商標は、引用商標と共通の「コガネ」の称呼を生ずる称呼上類似の商標であり、かつ、指定商品についても、前記のとおり、引用商標の指定商品中に包含する商品と同一または類似する商品に使用するものである。
したがつて、本願商標は、商標法四条一項一一号の規定に該当し、その登録を認めることができない。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙
(一) 本願商標
<省略>
(二) 引用商標
<省略>