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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)285号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本件発明の特許請求の範囲の記載及び審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二 右当事者間に争いのない本件発明の要旨(特許請求の範囲第一項の記載に同じ。)に成立に争いのない甲第二号証を総合すれば、本件発明は、ガラス板を一対の搬送手段で挟持搬送しながらガラス板の一端縁部を研削手段により面取り加工する方法に関する発明であること、従来のこの種の面取り加工方法は、右一対の搬送手段(ベルトコンベア)のベルトの内側にそれぞれ弾性の又はスプリング手段を有する剛性の押圧ロールを設け、これによりガラス板を可及的に真直状態に挟持搬送しながら研削手段(砥石)により面取りを行うものであつたため、研削開始とともにガラス板が研削荷重によりわずかに逃げ、研削終了とともに元の位置に復元することとなつて、ガラス板の始端と終端とで研削量に差異が生じ、面取りが不均一となる等の欠点があつたこと、右欠点を克服するためには、研削手段からの押圧力を受ける側に配置される押圧ロールに代えて、ベルトの内側部分を全面的に支持する平板状の当て板を設け、ガラス板を全面的にバツクアツプする方法が考えられるが、この方法によつても、ガラス板が薄板の場合にはガラス板が巨視的には波形状をなしており、また、研削手段の押圧力で変形し易いため、ガラス板面を当て板によつて完全には把えがたく、殊に、均一な面取り面を得るために重要なガラス板の下端部(面取りされる端部)すなわち研削手段に近接する部分を確実に固定支持することが困難であること、本件発明の方法は、以上のような問題点の解決をその目的として前記当事者間に争いのない本件発明の要旨のとおりの構成を採択したもので、殊に、「ガラス板を、搬送方向に直交するその断面形状が研削手段の位置する側に向つて(ガラス板の)一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で搬送する」点をその特徴とし、該構成により、研削手段からの研削荷重を受けてもガラス板が後方に変位したり振動したりすることがなく、均一な面取り面が得られるとの、前記目的に沿う作用効果を得ているものであることが認められる。

また、引用発明が審決記載のとおりの内容のものであること、引用発明におけるガラス板を凹面状に曲げられた状態にするための手段が鍵形状の長保持片により行われていること及び引用発明がガラス板の支持を右鍵形状の長保持片における研削手段から遠い方の鍵形の支持縁によつて行う(換言すればガラス板の支持を「面」でなく「線」で行う)ものであることは当事者間に争いがないところである。

三 取消事由に対する判断

1 取消事由(1)について

(一) 該取消事由における原告主張の主旨は、要するに、本件発明における「ガラス板を…彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で」なる構成は、ガラス板の支持を「彎曲状の支持面」(彎曲面)でもつて行うことまでを意味するものではないから、ガラス板の支持を「線」で行うものである引用発明と異なるところはなく、この点で審決は本件発明の要旨の解釈、認定を誤つたという点にあるものと解される。しかしながら、前記当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載上は、「彎曲状の面を有する支持部により」又は「彎曲状の面を有する支持部材により」と記載されているのではなく、「彎曲状の支持面により」と明記されているものであること、前記二の認定事実に徴すれば、本件発明の直接の課題が、ガラス板の逃げ等により面取り面が不均一となるのを防ぐためガラス板を全面的に支持する平板状の当て板を用いた場合でも、ガラス板が薄板であれば、ガラス板が巨視的には波形状をなしており、また、研削手段の押圧力で変形し易いため、当て板によつてガラス板面を完全には把えがたく、殊に、均一な面取り面を得るために重要なガラス板の下端部(面取りされる端部)を確実に固定支持するのが困難であるという問題点を解決する点にあることが明らかであること、前掲甲第二号証によつて認める本件発明の明細書にも、「要するに、本発明方法においては、研削手段近傍でガラス板を彎曲状の支持面により凹面状に彎曲することによりガラス板の面取り端部の逃げを防止するものである。」(本件公告三頁左欄二行ないし五行)との記載に加えて、本件発明の実施態様に関し、「第4図は一対のベルト4A、4Bにより挟持されたガラス板1を砥石5により面取り加工している状態を示すもので、このガラス板1は、フレーム8に固定された彎曲状表面7aをもつて当て板7により、一方のベルトを介してベルト4B側に押圧され、前記当て板7の内側面の形状に沿つて彎曲状に変形さる。従つてガラス板下端の砥石近接部は当て板7の下端部で確実に固定支持されており、砥石による研削荷重によりガラス板が後方に変位したり振動したりすることはない」(同欄二一行ないし三二行)と記載され、また、本件発明の方法を実施するための装置の具体例を示す添附図面第4図にも、当て板の彎曲面に沿つて凹面状に曲げられたガラス板が右彎曲面をもつて支持されたものが記載されている一方、その余の支持形態、例えば引用発明におけるようにガラス板の支持を「線」で行うようなものは明細書中に全く見られないこと、以上によれば、本件発明における「ガラス板を…彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で」なる構成は、ガラス板の支持が彎曲面(「彎曲状の支持面」)によつて行われる点をも意味するものと解するのが相当である。

(二) もつとも、原告は、本件発明の明細書の記載(審決を取り消すべき事由1(二)の<1>ないし<4>)を援用して、これらの記載は、本件発明の「彎曲状の支持面」がガラス板を彎曲面により支持するためのものではないことを示しているとの趣旨に解される(そうでなければ、該主張は意味がない。)主張をしており、また、前掲甲第二号証によれば、原告指摘のとおりの記載が認められるが、これらの記載は、いずれも、砥石の研削荷重によるガラス板の砥石近接部分の逃げ防止のためには、ガラス板の下端部を固定支持することが必要であることを指摘しているにとどまり、本件発明における「彎曲状の支持面」がガラス板を彎曲面により支持するためのものではないことまで示しているものとは解しがたいから、この点に関する原告の主張は採用できない。また、原告は、別紙図面(四)ないし(六)を援用して、これらの場合には、「彎曲状の支持面」がガラス板の下端部を支持するにとどまり、ガラス板の支持を「彎曲状の支持面」によつて行うことにはならないとも主張しているが、右の各図面記載のものは、いずれもガラス板の支持を彎曲面(「彎曲状の支持面」)によつて行なつているものではなく、また、その押圧ローラや支持面等の構造からして、そのように行い得るものでもないと認められるから、本件発明の方法を実施するものといえないことは明らかであり、このように本件発明の実施例に相当しないことが明らかな例をもつて、逆に、原告主張のように、本件発明がガラス板の支持を「彎曲状の支持面」によつて行うものではないとする根拠となすことができないことはいうまでもないから、原告のこの点の主張も採用できない。

(三) そうであれば、本件発明が、ガラス板の支持を「彎曲状の支持面により」行う構成を採用したものであり、該構成により、研削手段により近い所まで彎曲面により支持することができるものとした審決の認定判断に何ら誤りはなく、したがつて、右認定が誤りであることを前提として、審決が本件発明の進歩性に関する判断を誤つたとする原告主張の取消事由(1)は理由がない。

2 取消事由(2)について

(一) 本件発明が方法に係る発明であること、ガラス板を彎曲状の支持面により曲げられた状態で搬送するには、装置としては、支持面のほかにガラス板を挟んだ支持面とは反対側にガラス板を押圧する押圧手段を要することは当事者間に争いがない。

(二) しかして、前記二及び三1で認定説示したところ及び当事者間に争いのない本件発明の特許請求の範囲の記載に徴すれば、本件発明における「ガラス板を、搬送方向に直交する断面形状が研削手段の位置する側に向つて(ガラス板の)一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で、搬送する」という構成は、方法の発明としては、ガラス板を「彎曲状の支持面」の内側面(研削手段の位置する側)に沿つて凹面状に曲げ、かつ右支持面により支持した状態で搬送する点を要旨とするもので、敢えて特許請求の範囲の記載中に押圧手段に関する明記がなくとも、かかる手段を備えることを前提としていることは、明瞭というべきである。そして、右のような方法を実施するための装置的構成としては、前掲甲第二号証によつて認める本件発明の明細書中に、前記1でも認定したように、本件発明の実施態様として「ガラス板1は、フレーム8に固定された彎曲状表面7aをもつて当て板7により、一方のベルトを介してベルト4B側に押圧され、前記当て板7の内側面の形状に沿つて彎曲状に変形さる。」(本件公告三頁左欄二三行ないし二八行)と記載され、また、「本発明ガラス板の面取り加工方法を実施するための装置の具体例」(同五頁右欄二五行及び二六行)として、第4図に「彎曲面を有する当て板の配置及び押圧ローラの支持の機構を示した要部横断面図」(同欄二七行及び二八行)が記載されているほか、主として特許請求の範囲第二項記載の発明(装置の発明)に係るものではあるが、第5図に「ガラス板面取り加工装置の正面図」(同欄二八行及び二九行)が、第9図に「第5図に示された装置の概略横断面図」(同欄三三行及び三四行)が、第10図に「第9図に示すベルトコンベア要部の拡大断面図」(同欄三四行及び三五行)がそれぞれ記載されていることが認められ、当業者はこれらの記載事項に基づき容易にその実施をすることができることが明らかである。加えて、前掲甲第二号証によれば、本件発明の明細書の添付図面には、本件発明が改良の対象とする第1図ないし第3図記載の装置が示されており、そのうち第3図記載のものは、押圧手段(ローラ)を採用したものであることが認められる。

したがつて、前記本件発明の方法の実施のために、ローラその他周知の各種のものが考えられる押圧手段の点を含め、どのような手段を採用し、その具体的構成をどのようにするかの点は、当業者が本件発明を実施するに当たり、本件発明の明細書の記載に基づき任意に工夫し選択し得る事項というべきであり、方法の発明である本件発明の構成としては不可欠な事項であるとすることはできない。

(三) 原告は、本件発明が予定しているような押圧手段は本件出願前周知とはいえないのに、従来のガラス板面取り加工装置にもかかる押圧手段が存在したと即断した点において、審決の認定判断は既に失当である旨主張するが、前記のとおり、本件発明の方法の実施のための装置的な手段である押圧手段が、当業者において任意に工夫し選択し得る事項であつて、発明の構成として不可欠な事項といえない以上、本件出願前本件発明が予定するような押圧手段が周知であつたか否かの点は、審決の認定判断の結論に影響を及ぼすものではないから、原告の右主張は理由がない。

四 以上のとおり、原告主張の取消事由はすべて理由がないから、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編注1〕本件における特許請求の範囲は左のとおりである。

ガラス板を一対の搬送手段で挟持搬送しながらガラス板の一端縁部を研削手段で面取り加工する方法において、前記ガラス板を、搬送方向に直交するその断面形状が研削手段の位置する側に向つて前記一端縁部近傍まで延設された彎曲状の支持面により凹面状に曲げられた状態で、搬送することを特徴とするガラス板面取り加工方法(別紙図面(一)参照)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

図面(一)

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