東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)41号 判決
一 請求の原因一ないし四の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の本件審決を取り消すべき事由について判断する。
1 取消事由(1)について
(一) 本件発明について
成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件発明は、基礎杭の施工装置に関するものであること、本件公報の発明の詳細な説明の欄に、本件発明の目的について、「本発明は…孔周壁をきわめて強固に圧締し、周辺地盤との固結を計かると共に前記ケーシング挿入作業をきわめて円滑良好とし、更に従来懸案と為されていた大量の排土を著るしく僅少または皆無の状態(「状体」は誤記と認める。)として作業能率を大巾に短縮しようとするをその主な目的としているものである。」(本件公報一頁二欄四行ないし一〇行)と、効果について、「該掘進と同時に削孔Aせる孔周壁A´はオーガヘツド1の円錐状傾斜面にて外方に拡開され此れがスクリユー翼片2外周縁の圧土面2´によつて強固に拡開圧締されているが、同時にオーガ先端の掘削土Bも前記孔周壁A´面に自動的に圧土され此れが孔周壁A´面をより強固に押圧締結し以て作業中における孔周壁A´の落土崩壊を完全に防止し得る(「防止得る」は誤記と認める。)ものである。特に本発明による場合、前記スクリユー翼片2の圧土面2´の外径寸aが上下同一径寸にて形成されているために孔周壁A´が掘孔と同時に協力に圧締されるが、該固結せる孔周壁A´(「孔周壁A」は誤記と認める。)によつて進入困難なケーシング4も、前記と同一径寸bのらせん状凸条部分5がケーシング4の外周面に付設され、此れが地盤掘孔と同時に地中に廻転し乍らオーガに追従するので前記強力に固結せる孔周壁A´との摩擦抵抗が完全に切開され、故に何等の圧力をも必要とすることなくケーシング4の下降作動を頗ぶる円滑容易に行なわしめることができ得るのである。」(同一頁二欄三四行ないし二頁三欄一六行)及び「本発明は地中においてオーガヘツド1の円錐状傾斜面の作用にて地中の先端、土じようを外周方に押拡し、且つ該押拡せる土じようをして孔周壁に強固な圧締壁を形成し、更に追従せるケーシング4面にて何等の摩擦抵抗も生ぜしめることなくきわめて円滑容易にケーシング4を掘孔内に挿入行なわしめると共に従来の排土作業を大巾に軽減し得る(「軽減得る」は誤記と認める。)等構造簡単にて益大なる効果を有するものである。」(同二頁四欄六行ないし一四行)とそれぞれ記載されていることが認められる。右認定事実ならびに前記当事者間に争いのない本件発明の要旨及び前掲甲第二号証によつて認められる同号証の図面の記載(別紙(一)参照)によれば、本件発明は、「オーガヘツドの外周面に配したスクリユー翼片の外周縁が「圧土縁」に形成されている」こと及び「オーガヘツドが円錐状の傾斜面を有する」という構成を採用することにより、掘進と同時に削孔Aせる孔周壁A´はオーガヘツド1の円錐状傾斜面にて外方に拡開され此れがスクリユー翼片2外周縁の圧土面2´によつて強固に拡開圧締されると同時に、オーガ先端の掘削土Bも前記孔周壁A´面に自動的に圧土され此れが孔周壁A´面をより強固に押圧締結し以て作業中における孔周壁A´の落土崩壊を完全に防止し得る効果を奏するものと認められる。
(二) 第一引用発明について
成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用発明は、既製杭を地中に強制圧入する場合、あるいは、杭の載荷試験を行う場合などの反力杭として使用するアンカー杭機に関するものであること、第一引用例の発明の詳細な説明の欄には、従来技術の欠点について、「従来、既製杭の強制圧入および杭の載荷試験などを行なう場合反力杭としては、ロツドの外周にスクリユウ羽根を有したオーガースクリユウを地中に埋設し、このスクリユウにより杭の圧入反力を取るようにしたもの、あるいは、タイロツドやPSアンカー、もしくはこれらに準ずるものを地中に埋設し、このアンカーにより杭の反力を取るようにしたものなどがある。しかしながら、前者の場合はスクリユウ羽根により地盤が撹拌されるため大きな反力をそれ自体で得ることができず、必然的に多数の反力杭を必要とするものである。また、後者の場合には、複雑な工程が多いとともにモルタル等を充填する為、その硬化を待たねば反力杭として使用し得ないもので、長時間のロスタイムがあり、作業能率が著しく低下するものである。更には、ひとたび反力杭を形成した後に、それが不要になつたとき、これらを回収し再び使用することが出来ず、不経済なものである。」(第一引用例一頁右下欄一一行ないし二頁左上欄八行)と、第一引用発明の技術的課題について、「本発明は、上記従来の諸欠点を除去し、確実に強力な反力が得られるアンカー杭機を提供するものである。」(同二頁左上欄九行ないし一一行)と、同発明の構成について、「第1図のように、<省略>はアンカー杭となる鋼管杭を示し、その上端部は、適宜のタワー装置(図示せず)に吊設された駆動装置2に連結され、更にこの杭の外周には螺旋状にスクリユウ羽根3が設けられ、そして、その下端部には掘削ヘツド4を装着しており、従つてこの鋼管杭は上記駆動装置の駆動により回転掘削するアースオーガ機を形成している。…また、上記下部鋼管6には、この下方部の周囲に同一レベルで複数方向に開口部13、13が開口されており、このそれぞれの開口部に収納自在且つ開口部から外方へ拡開自在の拡開翼14、14が設けてある。…したがつて、第2図において、ロツド12が下方へ移行し可動板21が鋼管6内を下降すればアーム19、19は管体内に収納され、この作用により拡開翼14、14は収縮する。そして、この作動とは逆にロツド12を上方に引き抜き可動板21を上昇させれば、拡開翼14、14は鋼管外周方向に拡開する。」(同二頁左上欄一三行ないし左下欄一七行。別紙(二)参照)と、効果について、「本発明によれば、鋼管杭の下方部において、その鋼管外周方向に拡開する拡開翼を設け、スクリユウ羽根により撹拌されていない土質と拡開翼との緊合を可能とするものであるから強固な反力が得られ、また、ロツドの引き抜きにより拡開翼が拡開するようにしたため、ロツドに引き抜き力が加われば加わる程拡開翼は拡開し強力な反力が得られる。さらに鋼管杭を地中に埋設した後、ただちに反力杭として使用し得るもので、アンカー杭形成に要するロスタイムがほとんどない。さらにまた、反力杭として使用した後は、このアンカー杭機全体の回収が可能であり、極めて経済的である。」(同三頁右上欄四行ないし一六行)とそれぞれ記載されていることが認められる。右認定事実及び前掲甲第三号証によつて認められる同号証の図面の記載によれば、第一引用発明は、外周にスクリユウ羽根を有し、先端に掘削ヘツドを有する鋼管杭の下方部に拡開自在の拡開翼を設けた、強固な反力が得られるアンカー杭機の発明であることが認められる。
そして、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の発明の詳細な説明の欄には、「このアンカー杭機を削孔機として使用する場合、掘削途中において拡開翼を拡大させながら掘削することにより下方部で径の異なる掘削孔を形成し、その後に、コンクリートモルタルなどを充填することにより支持力の大きな場所打ち杭なども造成できるものである。」(第一引用例三頁左欄一八行ないし右欄三行)と記載されていることが認められ、右認定事実によれば、第一引用発明は、削孔機としても使用しうることが認められる。
しかし、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、本件発明が技術的課題(目的)としている前記「孔周壁をきわめて強固に圧締し、周辺地盤との固結を計かる」点についての記載がないこと、スクリユウ羽根の外周縁の圧締作用についての記載もないことが認められ、同号証により認めうるところの、第一引用例の発明の詳細な説明の欄の前記「鋼管杭の下方部において、その鋼管外周方向に拡開する拡開翼を設け、スクリユウ羽根により撹拌されていない土質と拡開翼との緊合を可能とするものである」との記載とを併せて考えると、第一引用例の場合には土質はスクリユウ羽根により撹拌されるものであり、したがつて、第一引用発明のオーガヘツドの外周面に配したスクリユウ羽根の外周縁は、圧締作用を及ぼすものと認めることはできない。したがつて、第一引用発明のスクリユー翼片の外周縁が圧締作用を及ぼすことを前提に、同外周縁も本件発明にいう「圧土縁」に相当する旨の原告の主張は採用できない。
(三) 前掲甲第三号証によれば、第一引用例の第1図には、原告が参考図1において指摘する朱の箇所に円錐状の傾斜面らしきものが記載されているようにも見えるが、同第3図、第4図においては右該当部分に円錐状の傾斜面が存在するか否かが明らかではないこと、第一引用例には、オーガヘツドが円錐状の傾斜面を有することの記載がないこと、第一引用例の図面は製作図面ではないことが認められ、これに前叙の、第一引用例には「孔周壁をきわめて強固に圧締し、周辺地盤との固結を計かる」点についての技術的課題の記載がないことを併せて考えると、第一引用例について、オーガヘツドが円錐状の傾斜面を有することを認めることができない。
(四) よつて、取消事由(1)は採用できない。
2 取消事由(2)について
(一) 第一引用発明のオーガヘツドの外周面に配したスクリユー翼片の外周縁が「圧土縁」に形成されていること及びオーガヘツドが円錐状の傾斜面を有する旨の原告の主張が採用できないことは前叙のとおりであるから、それらを前提とする原告の取消事由(2)の(一)の主張は採用できない。
(二) 第二引用例について
成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例の発明の詳細な説明の欄には、「スクリユウ羽根に空気噴射孔が設けられており、その噴射孔より空気を噴出するようになつているので、土砂が羽根に付着せず高能率で排土を行うことができ、したがつて掘削能率が向上する。」と記載されていることが認められる。右甲第四号証の記載、特に右認定事実によれば、第二引用例のスクリユウ羽根は土壌に圧締作用を及ぼすものとは認められないから、同旨の本件審決の認定判断に誤りは認められない。
原告は、第二引用例に示すアースオーガーは場所打ちぐいの築造に用いるものであり、場所打ちぐいの築造に当たつては、掘孔周壁が充分に圧締されていなければならないことを理由に、第二引用例のものは掘孔周壁の圧締作用を害さない範囲で空気を噴射するものと思われる旨主張するが、場所打ちぐいの築造に当たつては掘孔周壁が充分に圧締されていなければならないことから、もつて直ちに第二引用例のものが土壌に圧締作用を及ぼすとは認め難いので、原告の右主張は採用できない。
また、原告は、第二引用例のスクリユー翼片は厚肉に形成されているが、これは孔周壁の土壌に圧締作用を及ぼすことを意図したものと思われる旨主張するが、前掲甲第四号証によれば、第二引用例のスクリユウ羽根に厚みがあるのは羽根が中空とされているからであり、その羽根の噴射孔より空気を噴射するために中空羽根とされていることが認められるから、第二引用例のスクリユウ羽根が厚肉に形成されていることから直ちに孔周壁の土壌に圧締作用を及ぼすことを意図したものということはできない。よつて、原告の右主張も採用できない。
(三) 第三引用例について
成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例のものは、従来のオーガドリルが礫層に対しては効率よく掘進を行うことができないために、機械自体を大容量のものとする必要があり、このような大容量のものは、一般のものに比して経済的に不利であるという欠点があつたので、このような従来のオーガドリルを改良し、低容量で礫層に対しても効率よく掘進を行うことができるオーガドリルを提供することを目的とし、オーガドリル内に、パーカツシヨン機構を配置し、このパーカツシヨン機構によつて打撃されるスピヤーをオーガビツトの切削刃の中央から外方に突出せしめ、このパーカツシヨン作用を利用して効率よく掘進を行うものであること、したがつて、スパイラル歯が付設されたオーガロツドは、パーカツシヨン作用により振動するものであること、右スパイラル歯は、スピヤーによつて弛められ、切削刃によつて掘削された礫層の礫を上方に運ぶためのものであること、右スパイラル歯により孔の周壁を圧締することを示唆する記載はないことがそれぞれ認められる。右認定事実及び右甲第五号証によつて認められる同号証の図面の記載(別紙(四)参照)を総合すれば、第三引用例のスパイラル歯には土壌に対する圧締作用はないものと解するのが相当であり、同旨の本件審決の認定判断に誤りは認められない。原告は、第三引用例の図面におけるスパイラル歯の突条の形状を理由に、第三引用例のスクリユー羽根は土壌に圧締作用を及ぼすものと解される旨主張するが、右図面から直ちに原告の右主張事実を認めるに足りないので、原告の右主張は採用できない。
(四) 原告は、スクリユー翼片の外周縁を厚肉に形成することが慣用手段である以上、この慣用手段を第一引用発明と組合せて本件発明を発明することは当業技術者にとつて容易になしえるところである旨主張する。しかし、本件発明がスクリユー翼片の外周縁を「圧土縁」に形成すること及び該オーガヘツドが円錐状の傾斜面を有することを要件としているところ、第一引用発明が右の二要件を備えていることを認めることができないことは前記1(一)、(二)のとおりである。したがつて、仮に、スクリユー翼片の外周縁を厚肉に形成することが慣用手段であることが認められたとしても、これを第一引用発明と組合わせても本件発明を構成することはできないから、したがつて、本件発明を発明することが当業技術者にとつて容易になしえたものとすることもできないので、原告の右主張は採用できない。
(五) よつて、取消事由(2)も採用できない。
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却することとする。
〔編注〕本件発明の要旨は左のとおりである。
先端部に先掘刃3を配設すると共にスクリユー外周縁を上下略同径寸aの圧土縁2´を形成せるスクリユー翼片2を外周面に付設してなる円錐状の傾斜面を有するオーガヘツド1の上部に、前記スクリユー翼片2の外径寸aと略同径寸bのらせん状凸条部分5を形成設けてなるケーシング4を一体的に連設配置した基礎杭の施工装置。