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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)47号 判決

一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)及び以下に摘示する書証の成立は当事者間に争いがない。

二 本願発明の要旨に甲第二号証(本願発明の特許公報)を総合すると、本願発明は、パチンコ機の打球発射装置に関する発明であつて、右発射装置を構成する発射杆やその支持軸、駆動源等の部品の組立て作業及び組立て後の保守作業等を容易ならしめることを主たる課題(目的)として、前記本願発明の要旨のとおり(特許請求の範囲の記載に同じ。)の構成を採用したものであることが認められる。

また、第一引用例に審決の理由の要点2摘示(ただし、基板7に支持板23が螺着されているとの点及び支持板23の外面に電動機12が装着されているとの点は除く。)のとおりの記載があり、本願発明と引用例記載の装置との間には審決の理由の要点3摘示のとおりの一致点(ただし、ベース板に固定板を着脱可能に装着した点、ベース板に支持軸を回転自在に軸支した点及び固定板の外面に駆動源を装着した点で一致するとした点は除く。)及び相違点があることも当事者間に争いがなく、右相違点に関する審決の認定判断については原告もこれを争わないところである。

三 取消事由に対する判断

1 取消事由(1)について

(一) 本願発明における「固定板を着脱可能に装着」するための手段に「螺着」(ネジで取り付けること)を含むことは当事者間に争いがない。

これに対し、甲第三号証(第一引用例)によれば、第一引用例(以下「引用例」という。)には、支持板23(本願発明の「固定板」に相当することにつき当事者間に争いがない。)について、「基板7の裏側には支持板23を設け」(明細書五頁六行)との記載のあること、添附図面第2図及び第3図に、支持板23の四隅の短円筒状で頂部に溝様のすじの描かれた突出体が図示されており、その形状は右第3図に28として示されたネジの頭部の形状と酷似していること(28として示されたものがネジであることは、明細書中に「ネジ28」(五頁一二行)との記載があることからも明らかである。)、他に支持板23の装着手段と認められる図示や記載はないことが認められることに徴すれば、支持板23の四隅の突出体はネジの頭部であり、したがつて、支持板23はこのネジと認められるものによつて四隅を螺着されているものと認めることができ、他に右認定を妨げるに足りる証拠はない。

そうであれば、審決が支持板23の装着手段を「螺着」と認定した点に誤りはなく、引用例記載の装置においても、支持板23を、前記のとおり、本願発明が固定板を着脱可能にするために採用した手段と同様の手段によつて支持板23を装着していることになるから、この点に関する両者の構成に差異のないことは明らかである。

なお、甲第三号証によれば、引用例記載の装置では、原告主張のとおり、補助板22と支持板23との取付け構造に特徴があり、支持板23を取り外すまでもなく、これから電動機を容易に取り外せるものであることが認められるが、引用例記載の装置にあつても、本願発明と同様、支持板23自体を取り外すことによつても電動機を取り外すことができるものである以上、その点が前記判断を左右するものでないことは明らかである。

(二) なお、甲第二号証によれば、本願明細書には、第一固定板27aと第二固定板27bの二枚の固定板を使用した実施例が示されており、このような場合には両固定板を固定板27と総称していることが認められるから(三頁五欄二行ないし一四行並びに第1図、第2図及び第5図)、本願発明にいう「固定板」には、このように二枚の固定板からなるものを含むことは明らかであり、また、右実施例を図示した本願明細書の第1図、第五図と引用例の装置を図示した第2図を対比すると、本願発明の第二固定板27bが引用例記載の装置の支持板23に、第一固定板27aが引用例記載の装置の支持板Aにそれぞれ相当するものであることも明らかであるから、引用例記載の支持板23と支持板Aは、いずれも本願発明の「固定板」に相当するものというべきである。そして、そうであれば、同引用例記載の支持板23が、原告主張のとおり、直接基板7に取り付けられているものではなく、別途基板7に取り付けられた支持板Aに取り付けられているものであるとしても、甲第三号証によれば、右支持板Aの装着手段も、支持板23におけると同様の理由で「螺着」であると認められるものである以上、この点についても、本願発明と引用例記載の装置の構成及び効果に原告主張のような差異を認めることはできない。

(三) そうであれば、本願発明と引用例記載の装置は、「固定板をベース板に着脱可能に装着」した点において、その構成が同一であるとした審決の認定判断は相当であつて、誤りはない。

2 取消事由(2)について

(一) 本願発明の特許請求の範囲の記載中には、本願発明の発射杆の支持軸の軸支の態様に関し、「ベース板に設けた軸受に支持軸を回転自在に軸支し、」との記載がある他は何らの記載もない。そして、甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項の実施例に関する記載中には、「支持枠24は、前面板1の裏面に取り付ける上記ベース板25と、柱状スペーサ26……によりベース板25に対して所定間隔Dを配して固定された固定板27とからなる枠体であり、上記ベース板25と第一固定板27aとの所定間隔D内に支持軸23を回転自在に支承するとともに……」(同行ないし三頁五欄四行)、「第一固定板27aと第二固定板27bとの間隔内に突出させたロータリーソレノイド28の出力軸29と前記支持軸23との一端とを伝導部材30により接続する。なお、伝導部材30を前記所定間隔D内に位置させて駆動源を第一固定板27aの外面に設けるようにしてもよい。」(同欄八行ないし一四行)との記載があり、右実施例を図示したものである第一図及び第五図にも、固定板(第一固定板27a)の側には軸受とみられるものが図示されているとは認められないことからすれば、本願発明の実施例中に支持軸の軸支の態様として片持ち支持を採用するものがあることは明らかである。また、同号証によれば、本願明細書中には、本願発明の発射杆の支持軸を軸支するために、軸の両端をそれぞれ軸受によつて軸支するものである、いわゆる両持ち支持(これが右のような意味であることにつき当事者間に争いがない。)を採用し得ることを明示した記載もないことが認められる。

しかしながら、一方、甲第二号証によれば、本願明細書中には、発射杆の軸支の態様を片持ち支持に限定することの技術的意義に関する記載はもとより、それによる作用効果を明示した記載もないことが認められるし、また、両持ち支持においても、支持軸の一端を支持するベース板側にも軸受があるから(この点は当事者間に争いがない。)、特許請求の範囲の「ベース板に設けた軸受に支持軸を回転自在に軸支し」との記載は両持ち支持の構成と矛盾するものでもない。また、原告が、本願明細書の作用効果の記載中、支持軸の軸支を片持ち支持にした場合の作用効果を示唆するものとして挙げる「本発明に係る発射装置を組立てる場合には、ベース板を基準にして各部品をベース板に順次取り付けることにより各部品の位置関係が正確に合わさり、一つのユニツトとして組立てることができる」(甲第二号証四頁七欄三行ないし七行)、「ベース板を前面板裏面に装着したまま固定板を取り外して、修理又は部品交換を簡単に行うことができる」(同号証四頁八欄一六行ないし一八行)との点にしても、前記のように、両持ち支持の場合であつても、支持軸の一端はベース板側の軸受によつて支えられているものである以上、程度の差はあつても、他端を固定板側の軸受に軸支せず又は軸受から取り外したとしても、原告主張のように、直ちに、支持軸が外れたり、安定性を喪失したりするものとも断じがたいから、これをもつて片持ち支持でなければ実現できない作用効果と解することもできないし、その余の原告主張の作用効果にしても同様のことがいえる。更に、本願明細書(甲第二号証)の全記載を通覧しても、他に、本願発明の発射軸の軸支の態様を片持ち支持に限定しない限り、実現できないような記載や相矛盾する記載を見出すこともできない。

そうであれば、本願発明の発射杆の支持軸の他端の軸支の態様を明示するものではない前記摘示の特許請求の範囲の記載をもつて、原告主張のように本願発明における発射杆の支持軸の軸支の態様を片持ち支持に限定したものとは、にわかに断じがたいというほかなく、また、原告の主張する本願出願当時片持ち支持が既に一般的になつていたとの事情についても、仮にそれが認められたとしても、右認定判断を左右するものではないといわざるを得ない。

そうすると、原告主張の取消事由(2)は、その余の点を検討するまでもなく、理由がないものというべきである。

(二) なお、この点については、仮に、発射杆の支持軸の軸支の態様が、原告主張のとおり、本願発明が片持ち支持で、引用例記載の装置が両持ち支持であるとしても、片持ち支持及び両持ち支持のいずれもが、少なくとも本願出願当時においては、当業者が必要に応じ適宜選択し得る手段であつたことは、乙第一ないし第三号証、甲第六号証ないし一〇号証に照らしても明らかというべきであり、また、両者の間の作用効果の点でも、前記のとおり、両持ち支持の場合と片持ち支持の場合とで、特段の技術的意義を有するような差異があるものとは認めがたいから、軸支態様の差異は単なる設計事項の範疇に属するというべきであつて、この点が審決の結論に影響を及ぼすことはない。

3 取消事由(3)について

(一) 甲第三号証によれば、引用例記載の装置における電動機12の具体的な取付け構造は、まず電動機12及び減速機13を補助板22に取り付けたうえ、同補助板を支持板23に取り付けているものであることが認められる。

しかして、ある装置(A)を他の装置(B)に取り付ける場合に、適宜装置(A)の側にも何らかの取付用の仕組みを設けることがあることは自明であるところ、右第一引用例の記載によれば、右補助板22は、右電動機等を支持板に取付けるための取付用部材であるということができる。一方、本願発明においても、甲第二号証によれば、本願発明の実施例を図示するものである第一図及び第五図には、ローターリーソレノイド28(駆動源)の右横に円弧状の板が図示されていることが認められ、該板はネジ様のもので固定板27bに取り付けられていることが窺えることからして、これは本願発明の駆動源の取付部材と認められるのであつて、そうである以上、引用例記載の装置も本願発明の装置も、取付部材により固定板に駆動源を取り付けているものである点で何ら異なるものではない。もつとも、引用例記載の取付部材が電動機等と別部材であることが明らかであるのに対し、本願発明の右実施例のものが、ロータリーソレノイド28の別部材であるのか、あるいは、これと一体をなす部片であるのかは必ずしも明らかではないが、仮に、これがロータリーソレノイド28の一体をなすものであるとしても、その点は、当業者が必要に応じ適宜選択し得る事柄にすぎず、両者の間に技術的意義を異にするような差異を見出すことはできない。

(二) また、原告は、引用例記載の装置にあつては、電動機12と補助板22との間に減速機13が介在している(別紙(二)図面の第2図参照)ことも問題とするが、パチンコ機において発射杆の支持軸を駆動するための駆動源として電動機(モーター)を用いる場合に、通常は何らかの減速機構を併用する必要があることは、甲第七ないし第九号証からも窺われることであるし、また、パチンコ機における発射杆を間欠的に回動させるという駆動源の役割からも肯認し得るところ、甲第二号証によれば、本願明細書中には、「駆動源は、前記したロータリーソレノイド28に限定されるものではない。例えば、……固定板27の外面に適宜モーター等を構成してもよい。」(三頁六欄一〇ないし一五行)との記載があることが認められることからして、本願発明の装置の駆動源には、ロータリーソレノイドのみではなく、電動機(モーター)をも含むものであるから、本願発明にあつても、駆動源として、電動機(モーター)を使用する場合には、通常、引用例記載の装置と同様の減速機を介在させる必要があるものと考えられるから、この点においても、両者は構成を異にするものとはいえない。

(三) そうであれば、本願発明と引用例記載の装置は、電動機を固定板の外面に装着する点で構成を異にするものではなく、そうである以上、その作用効果に差異がある筈もないから、この点に関する審決の認定も相当である。

三 以上のとおり原告主張の取消事由はすべて理由がなく、他に審決を取り消すべき事情も認められないから、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

パチンコ機の前面板の裏面に取り付けるベース板に、該ベース板との間に所定の間隔を形成して固定板を着脱可能に装着し、ベース板に設けた軸受に支持軸を回転自在に軸支し、該支持軸に、上記間隔の上方に位置するガイドレールの発射位置に上端の弾発部を臨ませ、第一位置と第二位置との間を往復回動可能に発射杆の基部を固定し、上記間隔内に、ベース板に設けた発射杆の停止位置を規制するストツパと、上記支持軸に設けた発射杆に設けられて該発射杆の回動と一体的に作動する作動部材とを配設し、発射杆の回動により該発射杆と一体的に作動する作動部材には、球供給機構を作動させて球を一個宛発射位置に供給する連動部材の連携端部を係脱連動するように臨ませ、上記固定板の外面に装着した駆動源の駆動力を上記間隔内において伝導部材を介して発射杆に伝導させて、駆動源によつて回動される発射杆によつて発射位置に待機する球を弾発するとともに、発射杆の回動により該発射杆と一体的に作動する作動部材と係脱して作動する連携端部を有する連動部材によつて球供給機構を作動させて球を一個宛発射位置に供給するようにしたことを特徴とするパチンコ機の発射装置。

(別紙(一)図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙(一)

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別紙(二)

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