東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)72号 判決
一 請求の原因一、二は当事者間に争いがない。また、審決の理由の要点(右請求の原因二)1(本願意匠と引用意匠の構成等)及び同2のうち両意匠の一致点<1>、<3>、<4>についても当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
1 前記当事者間に争いのない審決の理由の要点1並びに本願意匠である別紙(一)及び引用意匠である別紙(二)に弁論の全趣旨を総合すれば、本願意匠及び引用意匠に係る物品は、いずれも清涼飲料水等の容器に使用される缶で、その構成態様は、本願意匠においては別紙(一)のとおりであつて、缶の胴体部を長円筒状とし、(イ)胴体部の上部は外面から内方へ小さな丸みを帯びて屈曲し、胴体部外面の鉛直線を基準に内方へ約四二度の角度で傾斜した部分を形成した後、(ロ)´外方へラツパ状に再傾斜して胴体部直径の約八八パーセントの外径(胴体部直径対開口部外径が一対約〇・八八)の開口部を形成し、また、(ハ)´胴体部の下部も外面から内方へ小さな丸みを帯びて屈曲し、胴体部外面の鉛直線を基準に内方へ約二七度の角度で傾斜して逆円錐台形状の底部周縁部を形成したうえ胴体部直径より小さい直径の底部に至つているものであり、これに対し、引用意匠においては別紙(二)のとおりであつて、缶の胴体部を長円筒状とし、(イ)´胴体部の上部は外面から内方へゆるやかな丸みを帯びて傾斜した部分を形成した後、(ロ)´外方へラツパ状に再傾斜して胴体部直径とほぼ等しい外径の開口部を形成し、(ハ)´胴体部の下部は外面から内方へわずかに丸みを帯びて絞られた底部周縁部を形成したうえ胴体部直径よりやや小さな直径の底部に至つているものであることが認められる。
2 先ず、原告が両意匠の顕著な相違点と主張する「肩部」について検討する。
(一) 審決が摘示した「肩部」とは、缶の胴体部の上方における内方への丸みを帯びた傾斜部を指称するものと認められるところ、前記1認定の(イ)(イ)´によれば、本願意匠及び引用意匠ともかかる意味での「肩部」を有することは明らかである。そして、その傾斜度合に差異は存するものの、別紙(一)及び(二)の両意匠を一見すれば、肩部から開口部まで占める部分は缶全体に比し、いずれも極めて小さく、かつその占める割合もほぼ等しいとの印象を受けるものということができるから、看者は両者の肩部について視覚上ほとんど別異感をいだくことはないものと認めて差支えない。そうであれば、両意匠において、「肩部を丸面状」としている点を一致点と認めた審決の判断(審決の理由の要点2<2>)に誤りはない。
(二) 引用意匠の肩部から首部にかけてのくびれが原告主張のように缶を一体成型して製造する際に必然的に生ずる形状であるか否かについてはこれを認めるに足りる証拠はないし、仮にそうであつたとしても、そのことにより本件における両意匠の類否判断自体が直接に左右されるものではない。原告の「肩部」の相違点に関する主張は理由がない。
(三) しかして、別紙(一)及び(二)によれば、審決が本願意匠と引用意匠の一致点と摘示した<1>、<2>、<3>、<4>(<1>、<3>、<4>の一致点については前記のように当事者間に争いがない。)は、缶全体の外観、飲み口周辺の形状に関するもので、いずれも清涼飲料水等の容器に使用される缶を物品とする両意匠において、基本的形状に係わるものと認められるから、両意匠はその基本的構成態様において具体的に一致しているものということができる。
3(一) また、原告が両意匠の顕著な相違点と主張する開口部の直径、底部の周縁及び直径、側面形状の三点についても、両意匠をそれぞれ一体として観察した場合、前記1認定によれば、個別的な差異はあるものの、それらがいずれも、外観上特に看者の目を引きつける程度のものとまで認めることはできない。
すなわち、本願意匠の開口部の外径と胴体部の直径の比は一対約〇・八八であるから、両者がほぼ等しい引用意匠と対比し外観上著しく近似しているものと認めて差支えなく、底部周縁部については、引用意匠においても傾斜度合に差異はあるものの、本願意匠同様胴体部から内方へ絞られた形で形成され胴体部直径より小さい直径の底部に至つているのであり、また、部位が底部周辺であることに徴すれば、その外観上の差異は看者に対し特段の印象を与えるものと認めることはできない。更に側面形状については、引用意匠にも本願意匠同様上部及び下部に傾斜部が存するから、肩部、胴体部及び下部の三部分に区別できるのであり、しかも、前記のように、両意匠における肩部及び下部の差異は顕著なものと認められないから、側面形状の外観には著しい差異はないものというべきである。したがつて、審決には原告主張のような相違点の誤認、看過は認められない。
(二) 原告は本願意匠の開口部内径と胴体部直径を比較しているが、開口部において看者の視覚に訴えるのはその外径というべきであるから、内径を比較の対象とすることは相当ではない。また、引用意匠の底部周縁(その形状は原告の主張にもかかわらず、別紙(二)により前記認定のように看取し得るところである。)が缶を一体成型する際に必然的に生ずる形状であるか否かについてはこれを認めるに足りる証拠はなく、仮にそうであつても、そのことにより本件における両意匠の類否判断自体が直接に影響を受けるものではない。このように、原告の以上の相違点に関する主張は理由がない。
4(一) 前記2で説示したように、本願意匠及び引用意匠はその基本的構成態様において一致しており、また、前記3で説示したように、それ以外の部分の構成態様に差異は存するものの、全体として両意匠を観察した場合、その差異が看者に対し右の基本的構成態様における一致点により受ける印象を越え、両者について別異の印象を与える程顕著なものとは到底認めることはできない。
(二) ところで、原告は、本願意匠及び引用意匠に係る缶の形状は、その用途、機能及び製造上の必要から必然的に制約を受けるから、意匠的創作にも限界があり、公知の意匠との共通性は避けられず、審決が本願意匠と引用意匠の一致点として摘示する両意匠の基本的及び具体的構成態様は、いずれも、右のような制約からもたらされる必然的な形状に係るものにすぎないとして、原告主張の相違点(取消事由1の(一)ないし(四))の顕著性を強調する。しかし、本件全証拠によるも、右審決摘示の一致点が原告主張のように必然的な形状に係るものであることを認めることはできない。しかして、基本的形状に係わる構成は両意匠において共通しており、その他原告主張の相違点がいずれも微差にすぎないものであることは既に認定したとおりであるから、結局、原告の前記主張は理由がないものといわざるを得ない。
5 そうすると、本願意匠と引用意匠とは、その基本的構成態様を同じくするもので、前記の両意匠間の差異も、全体として観察すれば、これを非類似の意匠とするに足りないものであり、また、両意匠の意匠に係る物品が同一であることは叙上認定に照らし明らかであるから、本願意匠と引用意匠とは類似するものというべきであり、これと同旨の審決は相当であつて、何ら違法の点はない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。
〔編註その一〕 本件に関する特許庁における手続の経緯および審決理由の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五六年一〇月二二日、意匠に係る物品を「缶」とし、その構成態様を別紙(一)のとおりとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき、イギリス国において一九八一年四月二三日にした意匠登録出願に基づく優先権を主張し、昭和五六年意匠登録願第七九九一号を本意匠として、類似意匠登録出願(同年意匠登録願第四七二四九号)をしたところ、昭和六〇年二月二七日拒絶査定を受けたので、同年七月五日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右請求を同年審判第一三八三七号事件として審理したうえ、昭和六二年一一月二四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」(出訴期間として九〇日を附加)との審決をし、その謄本は、同年一二月二三日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願意匠は、意匠に係る物品及びその構成態様を前項記載のとおりとし、審査官が拒絶査定の理由とした引用の意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和四九年四月三〇日特許庁受入れの外国雑誌「Modern Packaging」一九七四年一月号第六五頁所載(資料番号第四九四九五四七号)のもので、意匠に係る物品を「包装用缶」とし、その構成態様を別紙(二)のとおりとしたものであると認める。
2 両意匠を比較するに、意匠に係る形態について、両者は、<1>胴体部を長円筒状とした点、<2>肩部を丸面状とし、<3>首部をやや凹弧面状に絞つた点、<4>上端の開口部をややラツパ状に広げた点等の各部の基本的形状及びそれらによつて構成された全体の基本的構成態様が一致しているものと認められる。更に全体の具体的構成態様についても、次の各点につき差異が認められるのみであつて、その余の、<5>底部寄りの周縁をやや絞つた点等につき一致しているものと認められる。すなわち、(a)開口部につき、本願意匠は上端の直径を胴体部の直径よりわずかに小さいものとしているのに対し、引用意匠は胴体部直径とほぼ等しいものとしている点、(b)底部寄りの周縁につき、本願意匠は引用意匠よりわずかに強めに絞つている点の二点で差異が認められる。
3 以上の一致点、差異点等を綜合して両意匠を全体として考察するに、上記の差異点は、両者の具体的構成態様のうちの一部分、あるいは細部等における差異と認められるものである。すなわち、前記(a)の開口部上端の差異は、本願意匠が、その部位を胴体部直径よりわずかに小さいものに改変した結果生じた微差にすぎないものであつて、両者とも、ややラツパ状に広げたという点では共通するものであり、前記(b)の底部寄りの周縁の差異も、意匠的にはほとんど重要でない一部位における微差と認められるものであり、何れの差異も、前記<1>ないし<5>等のその余の一致点を凌駕して看者に別異感を与えるほどには未だ到つていないから、全体の具体的構成態様を著しく変更したと認められるほどの差異ということはできない。
4 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠と上記の各点につき差異が認められるものであるが、その余において前記のとおり一致点が認められるものであり、全体として引用意匠に類似するものといわざるを得ないから、意匠法三条一項三号に規定する意匠に該当するものとして、意匠登録を受けることができない。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙(一)
背面図、左、右側面図は、正面図と同一。
<省略>
別紙(二)(省略)