東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)79号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 成立に争いのない甲第二号証ないし第四号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成、及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。
(一) 本願発明は、関節形ロボツトの腕機構に関するもの(本願公報第二欄第一〇行、第一一行)であつて、第1図(別紙図面(一)参照)に示すような従来の関節形ロボツトにおいては、腕機構は、クランクレバー3、4によつて構成され、本体1とクランクレバー3との結合点には、クランクレバー3を回動させるモータ5が、クランクレバー3と4の結合点にはクランクレバー4を回動させるモータ6が、クランクレバー4と手機構2の結合点には手機構2を回動させるモータ7がそれぞれ備え付けられていたが、迅速に手機構の姿勢及び位置を制御できない、振動及びすべりを誘起させる、複雑な制御動作が緩慢になる等の問題点があり、その解決を図つた昭和四七年特許出願公開第七四一八号公報記載のものも、シリンダの制御を複雑にし、低速運転しかできない、円滑な動作及び手機構の姿勢の変更ができない、複雑な組立作業や加工作業ができない等の欠点があつた(同欄第一二行ないし第三欄第一七行)との知見に基づき、従来技術の右欠点をなくし、位置決め駆動制御を容易にして円滑な運動をさせることができるようにするとともに、高速運転を可能にし、かつ、手機構の姿勢を変え、複雑な組立作業や加工作業が行えるようにした関節形ロボツトの腕機構を提供することを目的とする(同欄第一八行ないし第二三行)ものである。
(二) 本願発明は前記目的を達成するため特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成(昭和六三年一月二二日付け手続補正書第二枚目第二行ないし第三枚目第五行)を採用した。
(三) 本願発明は、前記構成を採用したことにより、位置制御が簡単であるとともに高速で円滑な動作をすることができ、しかも手機構を精度よく伝達することが可能となつたため、手機構に複雑な動作をとらせることができ、かつ、耐久性に優れ、高信頼度でもつて高速動作ができ、重量バランスもよく安定した動作ができる等の作用効果を奏する(本願公報第七欄第四四行ないし第八欄第三四行)ものである。
2 第一引用例に審決の理由の要点2摘示の技術内容が記載されていること、本願発明と第一引用例記載のものとの一致点、相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。
原告は、本願発明と第一引用例記載のものとは、「肩部に配置した第一の駆動モータに連結された第一の腕部材と、前記肩部に配置した第二の駆動モータに連結された第一のリンク部材とを、軸心が同一になるようにして肩部に回転自在に支持する」点において一致すると認定しているが、右認定は、両者の構成上の相違点を看過している旨主張するので、まずこの点について検討する。
前記当事者間に争いのない審決認定の第一引用例記載の技術事項によれば、第一引用例記載のものは、取付部材22に回転自在に支持され、かつ装置により回転駆動される尖出した従動支持部材20を備え、該従動支持部材20に配置した作動器45に連結された上方腕材11と、前記従動支持部材20に配置した作動器55に連結された中間部材48とを、軸心が同一になるようにして従動支持部材20に回転自在に支持した構成のものであり、右取付部材22、装置、従動支持部材20、作動器45、上方腕材11、作動器55、中間部材48がそれぞれ本願発明のロボツト本体、回転形駆動モータ、肩部、第一の駆動モータ、第一の腕部材、第二の駆動モータ、第一のリンク部材に対応するから、本願発明と第一引用例記載のものとを対比すると、両者は「肩部に配置した第一の駆動モータに連結された第一の腕部材と、前記肩部に配置した第二の駆動モータに連結された第一のリンク部材とを、軸心が同一になるようにして肩部に回転自在に支持する」点において一致するというべきである。
この点について、原告は、前記一致点の認定に対応する本願発明の構成は、「肩部の一方の側に配置した第一の回転形駆動モータに連結された第一の回転駆動軸を直角に備えた第一の腕部材と、該肩部の他方の側に配置した第二の回転形駆動モータに連結された第二の回転駆動軸を直角に備えた第一のリンク部材とを、右第一及び第二の回転駆動軸の軸心が同一になるようにして肩部に回転自在に支持」したものであり、審決の前記認定における肩部に配置した第一の駆動モータに連結されているものは第一の回転駆動軸、第二の駆動モータに連結されているものは第二の回転駆動軸であるのに対し、第一引用例記載のものにおいては、それぞれ直線運動をするピストンロツド46と56である、また、本願発明は第一及び第二の回転駆動軸の軸心が同一になるようにして肩部に回転自在に支持したものであるのに対して、第一引用例記載のものにおいては、二つの回動部材が単に回動の中心を共通にして一本の支持軸に支持されているものであるから、両者の構成は一致していない旨主張する。
前記本願発明の要旨によれば、本願発明において肩部に配置した第一の駆動モータに連結されているのは第一の回転駆動軸、第二の駆動モータに連結されているのは第二の回転駆動軸であつて、第一の腕部材は第一の回転駆動軸を介して、第一のリンク部材は第二の回転駆動軸を介してそれぞれ軸心が同一になるように肩部に回転自材に支持されているのに対し、成立に争いのない甲第五号証によれば、従動支持部材20(肩部)に配置したシリンダ部46とピストン部47を持つ作動器45(第一の駆動モータ)に連結されているのは上方腕材11(第一の腕部材)であり、同じくシリンダ部56とピストン部57を持つ作動器55(第二の駆動モータ)に連結されているのは中間部材48(第一のリンク部材)であり、この上方腕部11と中間部材48は第一水平軸21を共通軸として肩部に回転自在に支持されていることが認められる。したがつて、両者は、第一の腕部材と第一のリンク部材とが本願発明ではそれぞれ回転駆動軸を介して駆動モータに連結され軸心が同一になるよう肩部に回転自在に支持されているのに対し、第一引用例記載のものでは直接駆動モータに連結され第一水平軸21を共通軸として軸心が同一になるよう肩部に回転自在に支持されている点で相違している。しかしながら、右の相違点は、結局駆動モータを回転形とし、これに連結される回転駆動軸を設けたことに基づくものであつて、前記審決の理由の要点によれば、審決はこの点を両者の一致点から除外し、相違点<1>において、「本願発明では、第一の駆動モータが肩部の一方の側に、第二の駆動モータが肩部の他方の側にそれぞれ配置され、またそれらが回転形であり、それぞれ(中略)第一の回転駆動軸と(中略)第二の回転駆動軸に連結されているのに対し、第一引用例記載のものでは、そのような構成を具備していない点」を両者の相違点として認定しているのであるから、審決の一致点の認定に誤りはなく、また、審決に相違点の看過も存しないことが明らかである。
なお、原告は、本願発明は前記腕機構の構成を採用したことにより、取消事由1記載の作用効果を奏する旨主張するが、この作用効果は右に述べたことから明らかなとおり、右一致点に相違点<1>に係る構成を採用したことによる作用効果であるから、後記3において判断する。
したがつて、審決に原告主張の相違点を看過した誤りは存しない。
3 次に、原告は、相違点<1>についての審決の判断は誤りである旨主張するのでこの点について判断する。
審決認定のとおり、本件出願当時、回転形の駆動モータ自体は周知であり、また、回転駆動源に連結される回転駆動軸を腕機構又はリンク部材に直角に備えることも周知の技術であることは、当事者間に争いがない。
そして、第二引用例には、関節形ロボツトの手機構を駆動するものであるが回転形駆動モータを肩部に備える構成が開示されていることは後記4認定のとおりであり、右構成が公知である以上、当業者において第一引用例記載のものの往復形駆動モータに代えてその腕機構を駆動するために回転形駆動モータを採用してみることは容易に想到し得たことであり、その場合、回転駆動力を腕機構又はリンク部材に伝達するために前記周知の構成を採用することに格別の困難があるとは認められず、また、第一の駆動モータを肩部の一方の側に、第二の駆動モータを肩部の他方の側に配置することは関節形ロボツトの全体の構成上のバランス等を配慮して適宜採用できる程度のことと認められるから、結局第一引用例記載のものに第二引用例記載の右技術及び周知技術を適用して相違点<1>に係る本願発明の構成を得ることは当業者が容易に想到し得たことというべきである。
原告は、相違点<1>に係る審決の認定、判断は、回転形駆動モータと作動器とを同義と認めた上で両者の間に存する駆動装置としての動作形態の相違を完全に無視し、本願発明の相違点<1>の構成をいくつかの事項に分断し、これらの個々の事項の周知性もしくは容易性を論じているが右構成の容易推考性は、これらの相互に有機的な関連性があることを論ずることなく導き出せるものでないから、相違点<1>についての審決の判断は誤りである旨主張する。
前掲甲第五号証によれば、第一引用例記載のものの作動器45、55は駆動シリンダー46、56とピストン47、57とから成る往復動形の駆動モータであることが認められ、本願発明の回転形駆動モータが回転運動を行うものであるのに対し、往復動運動を行うものである点でその動作形態を異にすることは明らかである。しかしながら、前記審決の理由の要点によれば、審決は、第一引用例記載のものにおける作動器45、作動器55がそれぞれ本願発明における第一の駆動モータ、第二の駆動モータに対応すると認定しているのであつて、右作動器と回転型駆動モータとがその動作形態を同一であると認定しているのではない。そして、審決は、相違点<1>において、本願発明の駆動モータは回転形であるのに対し、第一引用例記載のものはそのような構成を具備しない旨認定して作動器が回転形でないことを明らかにしているから、その点についての審決の認定には何らの誤りも存しない。そして、駆動モータとして周知の回転形のものを用いるか往復形のものを用いるかは、当業者が適宜選択し得る事項であることはその技術内容からみて明らかである。
また、前記審決の理由の要点によれば、審決は、相違点<1>に係る本願発明の構成について、(1) 第一の駆動モータが肩部の一方の側に、第二の駆動モータが肩部の他方の側にそれぞれ配置されていること、(2) 駆動モータが回転形であること、(3) 該駆動モータがそれぞれ第一の腕部材に直角に備えられた第一の回転駆動軸と第一のリンク部材に直角に備えられた第二の回転駆動軸に連結されていることに分けた上、前記周知技術及び第二引用例の記載事項に基づいて相違点<1>に係る本願発明の構成を採用したことに格別の困難はないとしたものであり、その場合にこれらの構成の持つ関連性は前記判示のとおりであつて、審決が(1)ないし(3)の構成の関連性を無視して容易推考の結論を導き出したとはいえない。
この点を本願発明の腕機構に関する作用効果との関連において更に検討してみると、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願発明における位置制御が簡単であるとともに高速で円滑な動作ができるとの作用効果は、前記(2)、(3)の構成を採用したことにより、各回転形アクチユエータ(モータ)と第一の腕部材及び第一のリンク部材が回転連結可能となること、各回転形アクチユエータ(モータ)の回転量と第一の腕部材及び第一のリンク部材とが一定の比例関係となることに基づくものであるが、前記(2)と(3)とは本件出願当時周知の技術であることは前述のとおりであり、この周知技術を組み合わせることに格別の困難があるとは認められないから、この周知技術の適用によつて右のような作用効果を奏することは当業者であれば当然予測し得る範囲を出るものではない。
原告は、本願発明の腕機構により第一の腕部材及び第一のリンク部材の回転駆動軸と回転支持軸とがそれぞれ一本の軸によつて構成されて機構が簡素化されている旨主張し、右作用効果は前記(3)の構成に基づくものと認められるが、これが周知の技術に基づく構成であること前述のとおりであるから、格別のものとすることはできない。
このように、相違点<2>に係る本願発明の構成によつて奏される作用効果は、その構成全部が有機的に結合することによつて初めて奏し得るものではなく、しかも当業者が通常予測し得る範囲のものにすぎないから、原告の前記主張は理由がない。
したがつて、相違点<1>について、第一引用例記載のものに第二引用例記載の技術を適用して本願発明のように構成することは、当業者が格別困難なことではなく、そうすることによつて、予期し得る以上の効果が生じるものとも認められないとした審決の判断に誤りはない。
4 さらに、原告は、審決は、第二引用例記載のものの技術内容を誤認した結果、相違点<2>についての判断を誤つた旨主張する。
そこで、まず、本願発明の手機構の構成について検討すると、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願明細書にはこの点について次のとおり記載されていることが認められる。
(イ) 「更にこの従来の関節形ロボツトでは手機構を姿勢を変えることが出来ず、複雑な組立作業や、加工作業を行うことが出来ない欠点も有する。」(本願公報第三欄第一四行ないし第一七行)
(ロ) 「本発明の目的は、上記従来技術の欠点をなくし、位置決め駆動制御を容易にして円滑な運動をさせることが出来るようにすると共に高速運転も可能にし、しかも手機構の姿勢を変え、複雑な組立作業や加工作業が行なえるようにした関節形ロボツトの腕機構を提供するにある。」(同欄第一八行ないし第二三行)
(ハ) 「21は物体を保持するチヤツク等から成る手機構を先端に取付けたロツドにして、後端に相対向して傘歯車22及び23を回転自在に支持している。」(第五欄第四行ないし第七行)
(ニ) 「更に上記第二の腕部材の先端に手機構を取付け」(第三欄第三五行、第三六行)
(ホ) 「この回転軸24とレバー29等で第一の回転部材を構成している。」(第五欄第一七行ないし第一九行)
(ヘ) 「24は第二の腕部材19の先端に回転自在に支持された回転軸にして、一端に上記傘歯車22及び23に噛合う傘歯車25を固着している。」(同欄第七行ないし第一〇行)
(ト) 「29はレバーにして、一端を上記回転軸24に固着し、他端をピン30を介してリンク部材31の一端と回転自在に結合している。」(同欄第一五行ないし第一七行)
前記記載事項によれば、本願発明の手機構は、その姿勢を変えることをその主目的の一つとし、実施例として開示された姿勢変更手段は、複数の連結部材、回転部材を介在させてモータからの動力を手機構に伝えその姿勢位置を変更するものであり、回転部材中で一番手機構に近い回転軸24、26とレバー29、43等から成る第一の回転部材の回転位置によつて手機構の姿勢位置が決定され、第一の回転部材の特定位置での停止により手機構がその特定位置に支持されるから、第一の回転部材は、その手機構をその特定姿勢位置に支持する機能を有するものと認められる。そして、前掲甲第二ないし第四号証によれば、本願発明の要旨とする「手機構を(中略)支持する第一の回転部材」における「支持」の技術的意味については本願明細書に記載されていないが、前記(ハ)、(ニ)記載のように、手機構は第一の回転部材ではなく、ロツド21もしくは第二の腕部材の先端に取り付けるとしていること、第一の回転部材はその語句のとおり、回転することにより手機構に作用することを主機能とするものと認められることから、前記「支持」は「手機構の姿勢位置の支持」を意味するものというべきである。
一方、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例は、「動き回つてハンドリングするロボツト」と題する文章であつて、第二引用例には、「写真は、研究・開発中のロボツトで、これからわかるように、このロボツトは、それぞれ独立に制御可能な左右の駆動軸と、前後の自由に動くキヤスタで支えられた台車のうえに、六自由度のマニピユレータを搭載したものである。マニピユレータの六つの自由度とは、肩部の旋回(+-四五度)、上腕の上下の回転(+-四五度)、前腕の前後の回転(+-六〇度)、手首の回転運動(+-一八〇度)、手首のあおり運動(+-九〇度)指の開閉(〇~一〇〇mm)である。これらの自由度はすべて直流サーボ機構で位置制御される。本体をコンパクトに構成するために、モータは腕のつけ根付近にまとめられており、そこから歯車列、タイミングベルト、リンク機構を用いて動力を伝達している。」(第七頁左欄第一六行ないし第二九行)と記載され、右記載に対応するロボツトの写真(別紙(三)(1)参照)が掲載されていることが認められる。
右記載事項によれば、右写真に示されているロボツトは、(a)肩部、(b)上腕、(c)前腕、(d)手首及び(e)指とを備えていること、これらの部材は、直流サーボ機構により位置制御されるものであり、(a)肩部において旋回制御、(b)上腕において上下回転制御、(c)前腕において前後の回転制御、(d)手首において回軸運動制御とあおり運動制御、(e)指において開閉制御が行われること、これらの位置制御を行うための直流サーボ機構を構成するモータはいずれも腕のつけ根付近にまとめられ、複数配置されていること、これらのモータから各部材への制御位置への動力伝達は、歯車列、タイミングベルト、リンク機構を用いて行うものであること、前記(a)ないし(e)の部材を備えたマニピユレータは、駆動輪とキヤスタで支えられた台車の上に搭載されていることが理解できる。
ところで、ロボツトの技術分野においては、その操作部の各部材を人体の名称を用いて称呼することが一般に行われていることは技術常識であり、第二引用例記載のマニピユレータの前記各部材もこのような通例に従つて人体、特に腕部分の名称を用いているものと認められる。そして、各部材に人体の名称を使用する場合、人体のそれぞれの部分の機能と配置に沿うように付けるのが自然であり、第二引用例に記載された各部材の名称もこのことを考慮して付けられたと見るのが相当である。したがつて、前記マニピユレータの各部材の結合関係・順序は、(e)指→(d)手首→(c)前腕→(b)上腕→(a)肩部の順に結合配置されていると理解できる。
また、前記記載事項によれば、モータは腕のつけ根付近にまとめられ、そこから歯車列、タイミングベルト、リンク機構を用いて各部材に動力が伝達されるものであるから、部材(a)~(e)の部分には、歯車列、タイミングベルト、リンク機構等の動力伝達部材が一体となつて装置されているものと理解できる。
以上の認定事実に基づき、第二引用例の写真(別紙(三)(1)参照)に示された各部材について検討すると、
(a) 指は、マニピユレータの操作先端部分に配置されるものであるから、写真の左下端の部材1(別紙(三)(2)参照、本項における数字は別紙(三)(2)に示す数字である。)が指であることが明らかである。
(b) 手首は、回軸運動とあおり運動をし、かつ、指に連なり指を支持するものであるから部材2と認められる。
(c) 前腕は、手首に連なり指を支持するものであるから部材3であり、上部、軸支部を中心に前後回転するものと認められる。
(d) 上腕は、左側が前腕に連なり右側が肩部に取り付けられているものを指すと解されるところ、写真には、前腕3の上部に横方向上下に若干の距離を隔てて二本の部材4・6が示されている。このうち、上方の部材6はその右端が短い部材7に取り付けられ、部材7はその形状からして肩部と見ることができないとともに、下方の部材4はロボツトの本体部分に取り付けられ、かつ部材6に対して横幅を大きくしてあるので強度の点で前腕等を支持するのに適切と認められるから上腕であり、本体側部分の軸支部を中心に上下回転するものと認められる。
(e) 肩部は、マニピユレータの各部材中、一番本体側に配置され、台車の上に搭載されるとともに上腕を支持するものであり、また、本体、すなわち、台車に対して旋回するものであるから、部材10は駆動輪、部材12はキヤスタに相当し、該部材10、12の上部に配置された部材11が台車であると認められる。そして、肩部は、台車に搭載されるとともに上腕を支持するものであるから、台車11と上腕4との間に配置されている部材5が肩部であると認められる。部材5が肩部であることは、台車11が駆動輪10の回転方向と平行に配置されているのに対して、部材5は、上腕4及び前腕3と同じ方向、すなわち、写真左前方に傾いた配置となつており、台車11とはその向きを異にしているからある角度旋回した状態を示していると理解できることからも明らかである。
次に、前記写真に示されたマニピユレータの各部材の位置制御のための動力伝達機構について検討すると、
(ⅰ) 直流サーボ機構を構成するモータについては、第二引用例には前記のとおり「モータは、腕のつけ根付近にまとめられており、そこから歯車列、タイミングベルト、リンク機構を用いて動力を伝達している。」との記載があり、モータの動力は、歯車及びベルトにより伝達されるものであるから、モータは回転形駆動モータであると理解できること、通常、回転形駆動モータは円筒状をしていることは技術常識であること、第二引用例記載のものにおいてモータは腕のつけ根付近にまとめられていることを踏まえて写真を見ると、円筒様部材14、15が上腕4のつけ根付近に配置されており、右つけ根付近にはこれ以外にモータを想起させる部材は配置されておらず、かつ、この円筒様部材14、15を回転形駆動モータ以外の部材であるとの理由も見いだせないので、この円筒様部材14、15が回転形駆動モータと認められる。
そして、腕機構を駆動するためのモータは、腕機構及び指によつて把持する物品の重量による大きな負荷に耐えるものであることを必要とするから、比較的大きい円筒様部材14がこれに該当し、比較的小さい円筒様部材15は手首を駆動するためのモータに該当すると理解できる。
(ⅱ) 手首と指への動力伝達機構については、第二引用例の前記記載によると、モータからの動力は「歯車列、タイミングベルト、リンク機構を用いて」伝達され、マニピユレータ各部材を操作するものであるところ、前腕3と上腕4との位置に該部材3、4に沿つて配置されているベルト状部材8、9は、前腕3の下部、前腕3の上部と上腕4の前部との軸支部、及び上腕4の肩部5への軸支部にそれぞれ複数配置されたスプロケツト様部材13、16、17に係合し無端帯状をなしていると認められる。したがつて、上腕4の肩部5への軸支部に配置されているスプロケツト様部材17の回転により、ベルト状部材9、スプロケツト様部材16、ベルト状部材8、そして、スプロケツト様部材13へと動力が伝達され、この動力は更に軸18に伝えられるものと理解できる。そして、この軸18の下部には手首2と指1が配置されているから、軸18に伝えられた動力が手首2と指1との操作に用いられ、手首の回軸運動・あおり運動等を行う、言い換えると、軸18の特定回転位置に基づいて手首の姿勢が特定位置に支持されるものと理解できる。
以上の動力伝達機構に関する認定事実を総合すると、第二引用例には、(1) 手首2、指1機構を駆動する回転形駆動モータ15、(2) 手首2、指1機構を前腕3の先端において支持する軸18とスプロケツト様部材13、(3) 前腕3の軸支部に設けられ、軸18とスプロケツト様部材13とベルト状部材8を介して連結されたスプロケツト様部材16、(4) スプロケツト様部材16とベルト様部材9を介して連結されたスプロケツト様部材17が開示されており、前記回転形駆動モータ15からの動力をスプロケツト様部材17に伝達する具体的手段については明記されていないが、右モータ15もスプロケツト様部材17も回転により動力を伝達しているものである以上、モータ15からスプロケツトへの動力は回転部材を介して伝達されているものであることは、当業者にとつて自明であると認められるから、第二引用例の記載及び写真に基づき回転形駆動モータに連結された動力伝達部材、すなわち回転部材が自明な事項として認識できるというべきである。
以上の点について、原告は、第二引用例の記載事項から第二引用例記載のものの構成を推論するのは誤りである旨主張するが、以上認定の本件出願当時の技術水準、技術常識に基づいて第二引用例の記載事項を検討すると、当業者であれば第二引用例記載のものの構成は以上のとおりのものと理解できるというべきであるから、原告の右主張は理由がない。
以上の認定事実に基づき、相違点<2>に係る本願発明の構成と第二引用例記載のものとを対比すると、(イ) 本願発明の「手機構」、「第三の回転形駆動モータ」は第二引用例記載のものの「手首2・指1機構」、「回転形駆動モータ15」にそれぞれ相当し、(ロ) 本願発明の「第二の腕部材」は第二引用例記載のものの「前腕3」に相当し、(ハ) 本願発明の「第一の回転部材」、「第一の連結部材」、「第二の回転部材」は第二引用例記載のものの「軸18とスプロケツト様部材13」、「ベルト状部材8」、「スプロケツト様部材16」にそれぞれ相当し、(ニ) 本願発明の「第二の連結部材」が第二引用例記載のものの「ベルト状部材9とスプロケツト様部材17」に相当し、(ホ) 本願発明の「第三の回転形駆動モータに連結された第三の回転部材」は第二引用例に明記されていないが、第二引用例記載のものもこれを備えていることが自明である。
したがつて、第二引用例には、相違点<2>に係る本願発明と同一の構成すなわち、手機構を駆動する第三の回転形駆動モータと、手機構を第二の腕部材の先端において支持する第一の回転部材と、第二の腕部材の軸支部に設けられ、第一の回転部材と第一の連結部材を介して連結された第二の回転部材と、第二の回転部材と第二の連結部材を介して連結され、かつ第三の回転駆動モータに連結された第三の回転部材とを備えている構成が開示されているというべきである。そして、第一引用例記載のものにおいて、第二引用例に記載された右構成を適用して相違点<2>に係る本願発明の構成を得ることに当業者が格別の困難を要するものとは認められない。
したがつて、相違点<2>についての審決の判断に誤りはない。
5 以上のとおりであるから、本願発明と第一引用例記載のものとの対比における審決の認定、及び相違点<1>、<2>についての審決の判断に誤りはなく、本願発明は第一引用例及び第二引用例記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。
少なくとも一つの回転形駆動モータを配置したロボツト本体に回転自在に支持され、かつ前記駆動モータに連結した回転軸により回転駆動されるべく該回転軸の先に尖出した肩部を備え、該肩部の一方の側に配置した第一の回転形駆動モータに連結された第一の回転駆動軸を直角に備えた第一の腕部材と、前記肩部の他方の側に配置した第二の回転形駆動モータに連結された第二の回転駆動軸を直角に備えた第一のリンク部材とを、前記第一及び第二の回転駆動軸の軸心が同一になるようにして肩部に回転自在に支持し、さらに前記第一の腕部材及び第一のリンク部材と回転自在に連結されて平行四辺形リンク機構を構成する第二の腕部材及び第二のリンク部材から成る腕機構を備え、前記第二の腕部材の先端に取り付けられた手機構を備え、該手機構を駆動する第三の回転形駆動モータと、前記手機構を前記第二の腕部材の先端において支持する第一の回転部材と、前記第二の腕部材の軸支部に設けられ、前記第一の回転部材と第一の連結部材を介して連結された第二の回転部材と、前記第二の回転部材と第二の連結部材を介して連結され、かつ前記第三の回転形駆動モータに連結された第三の回転部材とを備えたことを特徴とする関節形ロボツトの腕機構。(別紙図面(一)参照)
〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
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別紙図面(二)
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(以下省略)