東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)85号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1(一) 成立に争いのない甲第二号証(本願考案公告公報)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び効果は次のとおりであると認められる。
本願考案は、主に建材に使用される化粧板に関し、天然木〓板にクリスタル状の反射の輝きを与えると共に、床材としたときは、従来の平滑な床材にありがちの歩行時における足のべたつきを解消し、快適な歩行感を与える化粧板を提供するものである(本願考案公告公報第一頁第一欄第六行ないし第一一行)。
従来の天然木〓板貼り化粧板の表面は、〓板の木目模様を損なうことなく平滑に仕上げられていたが、このような表面平滑な化粧板は、見掛けが単調で変化に乏しく、一方床材として使用した場合は歩行時に汗で足の裏にべたついて不快感を与えたり、また水などをこぼしたりした場合は滑り易く思わぬ怪我をすることもあつた(同公報第一頁第一欄第一二行ないし第二二行)。
本願考案は、右欠点を解決した化粧板を提供することを目的とし(同公報第一頁第一欄第二三行ないし第二六行)、前記本願考案の要旨のとおりの構成を採用したものである。
本願考案は、右構成を採用したことにより、透明又は着色透明の被膜を通して下地の天然木〓板表面の木目模様が透視できると共に、布目状の凹凸被膜が光線を乱反射してクリスタルの光沢を付与し、特異な見掛けの化粧板となり、また、これを床材として使用したとき、床面は凹凸被膜により接触面が少ないためにべたつかず、かつ滑りにくい等の効果を奏するものである(同公報第二頁第三欄第一四行ないし第四欄第七行)。
(二) ところで、基板表面に貼着された天然木〓板表面に平滑な透明被膜を形成した化粧板は本件出願前周知であること、本願考案が右周知の化粧板と比較して、透明被膜として布目状の凹凸を有する被膜を形成した点において相違すること及び引用例には「合板基材の表面に紙貼着用接着剤層を施して後、その表面に地色及び任意木材の柾目模様を印刷表示した薄葉紙を一体に貼着し、前記柾目模様の表面に濃淡条の平行による縞目透明上塗り塗料層又は膜を一体に塗装又は被着させた化粧合板」が記載され、さらに、「この化粧合板においては、柾目模様の表面に透明上塗り塗料層を濃淡面のある縞目状の凹凸被膜として一体に被着させたので、従来の単なる透明な平板被膜の施着と相違し、わずかに凹凸のある濃淡の縞目が柾目模様に重なることにより、極めて立体的な実物感が表出され、また光線の屈折を生じることによつて、平滑な表面被膜のように鏡面感を与えることなく、陰影の豊かな色彩感を表出でき、杉や檜の柾目板と同等の風合を好適に有することとなる。」と記載されていることは当事者間に争いがない。
2 原告は、「審決は、本願考案が、べたつかず、かつ滑りにくいという格別の効果を奏するものであることを看過している。」と主張する。
しかしながら、前記1(一)で認定したとおり、本願考案は化粧板に係るものであり、床材をその構成要件としてはいない。したがつて、原告の主張する右効果は、本願考案を床材として使用したという特定の場合に奏するものでしかなく、本願考案特有の効果とはいえないものである。
また、本願考案を床材として使用した場合に限つてみても、前記1(二)から明らかなとおり、引用例記載の化粧合板も、柾目模様の表面に平行な縞目状の凹凸被膜を被着させたものであつて、これを床材として使用した場合、化粧合板の表面に形成されている右凹凸によつて、接触面が少なくなり(したがつて歩行時における足のべたつきが減少し)、かつ、一方向とはいえ滑りにくくなるという効果を奏することは技術常識に属することであるから、本願考案の前記効果が格別のものとは認められない。
そして、審決は、「本願考案は(中略)透明被膜として布目状の凹凸を有する被膜を形成した点に特徴を有するものと認める。」と認定し、「本願考案が、前記構成を採用したことによりもたらされる効果も、(中略)格別のものとはいえない。」と判断しているのであるから、この構成に基づく前記効果の点についても当然判断しているものと認められる。したがつて、審決に原告主張の効果についての看過はない。
3 また、原告は、「本願考案は、天然木〓板表面に透明の布目状の凹凸を有する被膜を形成させたという構成により、引用例記載の発明に比して、クリスタルの光沢を付与し、特異な見掛けの化粧板となるという格段に優れた効果を奏する。」と主張する。
しかしながら、引用例に、「柾目模様の表面に透明な凹凸のある縞目状の被膜を被着させることによつて、立体的な実物感を表出し、かつ、光線の屈折により平滑な表面被膜のような鏡面感を与えることなく陰影の豊かな色彩感を表出できるという効果を奏する」との記載があることは前記1(二)に判示のとおりであるから、右公知の技術から、平滑な表面に仕上げられている天然木〓板貼り化粧板の表面に透明な凹凸のある被膜を施すことは当業者ならば容易に想到し得るところであり、右構成を採用することによつて天然木〓板の木目模様が透視できると共に、光線乱反射によるクリスタルの光沢を付与するという効果が奏されることも引用例記載の発明から予測し得る程度のことにすぎないものと認められる。そして、引用例記載の発明においては、透視される木目が柾目模様であることからこれを生かすために平行な縞目状の凹凸被膜としたのであり、本願考案においては、透視されるものが〓板の模様であることから、引用例記載の発明のように柾目模様にとらわれることなく被膜の凹凸を布目状に形成することが可能になるといえるのであつて、凹凸被膜を縞目状とするか、布目状とするかは、透視される木目の模様がどのようなものであるかによつて適宜なし得る程度のことであると解される。
してみると、本願考案において、凹凸被膜を布目状に形成したことにより、光が縦横に存する凹凸に当たつてその乱反射が引用例記載の発明に比べてより複雑になるとしても、右効果は基材表面に貼着された素材とこれに相応する被膜の模様に基づいて多少趣が異なるという程度にすぎないものであつて、被膜の凹凸による光の反射(屈折)を利用して化粧板表面の模様に変化を生じさせることにおいて引用例記載の発明と差異はなく、本願考案の該効果が格別優れたものであるとはいえない。
4 以上のとおりであるから、本願考案がその構成を採用することは引用例記載の発明及び本件出願前周知の技術事項から極めて容易であり、その奏する効果も格別のものではないとした審決の判断に誤りはない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却することとする。
〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。
常用基板表面に貼着された天然木〓板表面に透明又は着色透明の布目状の凹凸を有する被膜を形成させた化粧板。