東京高等裁判所 昭和63年(行コ)70号 判決 1990年4月25日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人を申立人とし郵政大臣及び博多南郵便局長を被申立人とする公労委昭和五六年(不)第一号事件につき、昭和五八年一二月二二日付けでした命令(命令第四五号。以下「本件命令」という。)を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、控訴人の主張として次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示及び当審記録中の書証目録に記載のとおりである(ただし、原判決一四枚目八行目の「博多南局長」を「博多南郵便局長」と、原判決二六枚目表三行目の「掲示許可等」を「掲示許可願」と、それぞれ改める。)から、これを引用する。
一 郵政大臣の団体交渉拒否関係
本件においては、当局側に対し、昭和五六年二月一三日までに、組合の結成日、名称、所在地、代表者、団体交渉委員及び窓口担当者が明らかにされ、更に、今永公男を除き、高田裕和、長野徹夫を含む組合員全員が博多南郵便局の職員である事実が明らかにされている。そうすると、当局側は、遅くとも右の時点までに、控訴人が、郵政省に対応する団体交渉の相手方となるべき郵政職員の加入する労働組合であることについて、確定的な認識を持つに至っていたというべきである。右の時点において控訴人の組織実態に関し明らかにされていない事項は、組合規約、組合員数と一部組合員の氏名だけであるが、団体交渉を開始するための前提条件としてこれらをすべて明らかにしなければならない合理的理由はない。
したがって、郵政大臣は、同大臣の交渉委員を指名してその名簿を提出し、交渉担当者を決定するという自己の行為のみによって、団体交渉を開始するための前提条件をすべて満たし、団体交渉を開始することができたはずである。それにもかかわらず、郵政大臣があくまで控訴人の組合規約等を提出するように求め、本件話合いの提案を行ったのは、第一に、郵政省の労務政策上、新たに結成された労働組合の組織実態を全組合員に至るまですべて把握しようとしたからであり、第二に、やはり同省の労務政策上、全逓、全郵政以外の労働組合の要求する団体交渉には絶対に応じない、すなわち、それらの労働組合の団結権を認めない、という意図・目的があったからにほかならない。郵政大臣としては、速やかに、同大臣の交渉委員を指名してその名簿を控訴人に提出するという義務を履行すべきであったのであり、これをすることなく右のような意図・目的に基づく話合いの提案を行ってきた同大臣の控訴人に対する対応は、到底、誠意ある対応とは評価し得ないものである。
そのほか、団体交歩の手続に関する事項は、公共企業体等労働関係法(昭和六一年一二月四日法律第九三号による改正前のもの。以下「公労法」という。)一一条に規定された明白な団体交渉対象事項であり、団体交渉の手続に関する事項については、交渉場所も含めて主張の対立が予想されるからこそ、交渉委員をして調整を行うべきことが法定されているのであって、事前の話合いの提案をもって団体交渉を拒否する正当理由とすることはできない。
二 博多南郵便局長の団体交渉拒否関係
団体交渉につき使用者として応諾義務を負う者がだれであるかは、行政組織上の権限とは別に労働法上の理論により定められるべきものであり、当該団体交渉対象事項を実質的に解決することのできる立場にある者、すなわち、当該労働条件につき決定権限・処理権限を有する者は、当該労働条件に関する限度で使用者として団体交渉応諾義務を課せられるといわなければならない。博多南郵便局長は、郵便局長の地位にある者として決定権限・処理権限を有する団体交渉対象事項については、その独自の義務として団体交渉応諾義務を負うのである。そして、博多南郵便局における服務表の変更は、同局長に委任された労働条件に関する事項であり、同局長が決定権限・処理権限を有するのであるから、同局長は、これに関する団体交渉の申入れに対しては、独自の義務として応諾義務を負うというべきである。
また、組合事務室及び組合掲示板の使用の問題は組合活動に重大な影響、利害を及ぼす事柄であるところ、団体交渉権が保障されている趣旨にかんがみると、団体交渉の対象事項には、労働条件の直接的な維持改善に関する事項に限られず、労働者の団体がその本来の活動を行う上で必要な事柄に関する事項も含まれるというべきである。したがって、組合事務室及び組合掲示板の使用許可に関する事項は団体交渉対象事項であり、また、これについては博多南郵便局長が決定権限・処理権限を有するのであるから、同局長は、右事項につき団体交渉応諾義務を負うのである。
理由
当裁判所も、原審と同じく、本件命令の取消しを求める控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却すべきものであると判断するが、その理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の理由説示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二九枚目裏四行目及び原判決三〇枚目表八行目の「適性化」をいずれも「適正化」と、原判決三三枚目表二行目の「最少限度」を「最小限度」と、原判決三四枚目表六行目の「同月一六日」を「同年二月一六日」と、原判決三九枚目表九行目の「右認定に係る証拠」を「右掲記のその他の証拠」と、原判決四一枚目表五行目、同八行目、原判決四二枚目表四行目及び原判決五四枚目表八行目の「組合事務所」をいずれも「組合事務室」と、原判決四二枚目表五、六行目の「普通局等」を「普通局分会等」と、原判決四六枚目二行目の「正す」を「質す」と、原判決四八枚目表末行の「行っていること」を「行っており」と、それぞれ改め、原判決五三枚目裏七行目の「労働組合であって」の次に「、同局長は」を加え、原判決五六枚目裏初行の「組合事務所」を「組合事務室等」と改め、原判決五八枚目表三行目の「第三、」の次に「第四、第六(ただし、原本の存在・成立とも)、」を、同八行目冒頭の「三、」の次に「第一〇九、」を、同末行の「乙第九一」の前に「甲第七号証、」を、それぞれ加え、同行の「第一一〇、」を削除する。
二 原判決理由第四項の説示に、次のとおり付加し補充する。
1 郵政大臣の団体交渉拒否関係
引用に係る原判決が確定するとおり、控訴人は昭和五六年二月二日に結成されたばかりの労働組合であって、郵政大臣としては、控訴人が対応する労使関係の当事者であるとの一応の判断をしていたものの、控訴人において組合規約等を明らかにしていなかったため、いまだその組織実態について正確な認識を有してはいなかったものであり、加えて、従来労使関係において団体交渉の手続について全く協議がなされておらず、殊に、労使双方の所在地からして、団体交渉を開催する場所について一致を見ない可能性が高かったことにもかんがみるならば、本件において、郵政大臣が、直ちに団体交渉のための交渉委員を指名することなく、いわば事前折衝ないし予備折衝としての性格を有する話合いの提案をしたことは、新設の労働組合から初めて団体交渉の申入れを受けた場合の使用者側の対応として、誠意を欠くものということはできないし、また、団体交渉の円滑な実施を図った公労法一〇条、一一条の趣旨に反するものでもない。控訴人が、特段支障があるとは解されないのに、その組合規約等を郵政大臣に明らかにすることもせず、かつ、郵政大臣の右話合いの提案に応答することもなく、組合結成後一か月を経ないで、団体交渉の拒否があったとして本件救済申立てに及んだのは、性急な対応であるとの謗りを免れないといわなければならない。結局、本件においては、いまだ郵政大臣に団体交渉拒否による不当労働行為があったということはできない。
2 博多南郵便局長の団体交渉拒否関係
郵便等の事業において使用者として団体交渉に応ずべき義務を負う者は、企業経営の主体として法律上独立した権利義務の帰属主体となる国(郵政大臣)であって、郵便局長は、これから交渉委員の指名を受け交渉権限を委任されることなしには、団体交渉を行い得るものではない。そして、このことは、服務表の作成・変更のように、各局所の実情と関連し、かつ、郵政大臣から郵便局長に職務権限が委任されている事項についても、異なるところはないと解される。したがって、本件においては、郵政大臣から交渉委員の指名を受けていない博多南郵便局長に団体交渉拒否による不当労働行為があったということができないのはもとより、引用に係る原判決の認定する事情に照らすと、郵政大臣において正当な理由がなく服務表の変更に関する団体交渉を拒否したものと判断することもできない。
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた分を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉井直昭 裁判官 小林克已 裁判官 河邉義典)