東京高等裁判所 昭和63年(行コ)95号 判決 1989年6月30日
控訴人
小林吉久
右訴訟代理人弁護士
福地絵子
同
福地明人
被控訴人
沼津市
右代表者市長
渡辺朗
右訴訟代理人弁護士
島田稔
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金七八一万二一〇四円及びこれに対する昭和六〇年四月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。
1 控訴人
改正条例付則四項は、地方公務員法一三条、二四条一項及び教育公務員特例法二五条の五に違反し、無効である。すなわち、
地方公務員法一三条は、憲法一四条の趣旨を受け、「すべて国民は、この法律の適用について平等に取り扱わなければならない」旨規定し、また、同法二四条一項は、「職員の給与は、その職務と責任に応ずるものでなければならない。」と職務給の原則を定め、地方公務員のうち、教育公務員については、教育公務員特例法により、「教育を通じて国民全体に奉仕する教育公務員の職務とその責任の特殊性に基づき」「給与の種類及び額は、当分の間国立学校の教育公務員の給与の種類及びその額を基準として定めるものとする。」(同法二五条の五)とされている。したがって、地方公共団体は、教育公務員特例法二五条の五に違反する基準を設ける条例を制定することはできない。
改正法附則三条の規定により退職した国立学校の教育公務員については、国家公務員等退職手当法附則一九項により、定年退職者としての退職金を支給するという基準が設けられている以上、地方公共団体は、地方公務員のうち、教育公務員で改正法附則三条の規定により退職する者については、右基準に反する条例を制定することができないのである。
改正条例付則四項は、国立学校の教育公務員に関する基準と全く異なるものであるから、教育公務員特例法二五条の五に違反し、無効である。また、教育公務員の給与と一般公務員の給与を混同することは、地方公務員法二四条一項の職務給の原則にも違反し、更に、教育公務員である控訴人の給与を教育公務員特例法二五条の五によらずに定めることは、法の下の平等を定めた地方公務員法一三条にも違反している。
2 被控訴人
控訴人の1の主張は、争う。
三 証拠関係<省略>
理由
一当裁判所も、控訴人の本訴請求は棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり、付加するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
1 控訴人は、改正条例付則四項が国立学校の教育公務員に関する基準と異なる点において教育公務員特例法二五条の五に違反していると主張している。
ところで、教育公務員特例法二五条の五第一項は、「公立学校の教育公務員の給与の種類及びその額は、当分の間、国立学校の教育公務員の給与の種類及びその額を基準として定めるものとする。」と規定し、国家公務員については、定年制施行日において、既に六〇歳に達している者についても、一般の定年退職者と同様に取り扱うこととされている(国家公務員等退職手当法附則一九項参照)ことは明らかである。しかし、地方公務員の給与等の勤務条件は各地方公共団体の条例で定める(地方公務員法二四条六項)こととされているところ、教育公務員特例法の前記規定は、公立学校の給与等を定める指針を定めたものではあるが、定年制施行に伴う公立学校の教育公務員の退職金についての経過規定が国家公務員たる教育公務員と同一であることまで規定したものではないことは右規定の文言上明らかであり、かかる事項は、地方公共団体の議会が当該地方公共団体における従前の勧奨退職の慣行の存否・その状況など諸般の事情を考慮し、合理的な裁量に基づき決しうることであり、それに合理的根拠が存する以上、議会に委ねられた裁量の問題であり、違法となることはないものと解される。そして、被控訴人において、昭和六〇年一月一日において六〇歳を超える者の退職金に差異を設けたことに合理的理由があることは、前示(原判決理由二)のとおりであり、改正条例付則四項は、議会に委ねられた裁量の範囲内の問題であり、違法ではない。
2 控訴人は、改正条例付則四項が教育公務員の給与を一般公務員と混同することは地方公務員法二四条一項の職務給の原則に違反し、教育公務員である控訴人の給与を教育公務員特例法二五条の五によらずに規定することは地方公務員法一三条に違反していると主張している。しかしながら、改正条例付則四項が合理的な根拠に基づくもので教育公務員特例法二五条の五に違反しない等前叙するところから、改正条例付則四項は地方公務員法二四条一項にも同法一三条にも違反しないというべきである。
他に、改正付則四条が違憲ないし違法とすべき事情を認めるに足りる証拠はない。
二以上の次第であって、控訴人の本訴請求は理由がなく棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官鈴木弘 裁判官伊東すみ子 裁判官筧康生)