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東京高等裁判所 昭和64年(行ケ)1号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、第一発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二 取消事由に対する判断

1 前記争いのない第一発明の要旨と成立に争いのない甲第三号証(昭和六〇年三月六日付手続補正書による全文訂正明細書及び訂正図面)、甲第四号証(昭和六〇年五月二九日付手続補正書)並びに甲第五号証(昭和六二年二月二〇日付手続補正書)を総合すると、第一発明は、被写界の中央部に対する焦点合せ情報に基づいて撮影レンズの焦点合せを自動的に行う自動焦点合せ式カメラのうち、焦点合せ情報としてピントズレの有無及びその方向の情報を検出し、この情報に応じてそのピントズレに追随してこれを修正するように常に撮影レンズの駆動を続け、ピントズレのない時にはレンズ駆動を停止する方式による(原告のいう「第二のタイプ」)自動焦点合せ式カメラに係る発明であるが、この焦点合せ方式においては、ピントズレが生じると、常に撮影レンズ用モーターが駆動し追従し続けるので、一旦ピントが合つて撮影レンズが停止しても、手振れや被写体の横方向の移動などによつてカメラが狙つている被写体部分がずれてピントズレが検出されると、これを修正すべくモーターの駆動が始まり、シヤツターレリーズするまでこの動作が繰り返される(焦点合せの後で構図を変更しようとするとピントズレが生じてモーターの駆動が開始する。)ので、撮影者、特に初心者にとつては、適時に自動焦点合せ動作を打切ることがむずかしかつた(シヤツターレリーズの決断が躊躇され、徒にレンズ駆動が繰り返される。)こと、第一発明は、撮影者をして、このような適時に自動焦点合せ動作を打切る意志をもつことから解放することを主な課題として、構成(a)ないし(f)に規定したようなピント合わせ用モーター、自動焦点検出装置、モーターの駆動を停止する制御回路、初期操作によつて自動焦点検出動作を開始させるシヤツターレリーズボタン、モーターの駆動を自動的に禁止する禁止装置及び禁止装置の動作をやり直させるリセツト装置とを有機的に組み合わせた自動焦点合せ式カメラとしたものであること、第一発明の課題ないし目的が、前記の点にあることに照らして、特に「シヤツターレリーズボタンの初期操作後その初期操作の継続中において自動焦点検出装置の出力がピントズレの現にないことを最初に示したことに応答してそれ以降モーターの駆動を自動的に禁止する禁止装置」(構成e)とこれを前提とした「シヤツターレリーズボタンの初期操作が一旦解除された後再び初期操作が行われるとこの禁止装置による禁止を解除し禁止装置の動作をやり直させるリセツト装置」(構成f)に構成上の特徴があること、並びに第一発明は、その発明の要旨のとおりの構成を採用することによつて、<1>撮影者をして自動焦点合せ動作を打切る意志をもつことから解放して、自動焦点合せ動作を開始する意志をもつだけで簡単に焦点合せを完了させることができること及び<2>自動焦点合せのやり直しに際しても、撮影者は、再び自動焦点合せを行うという意志をもつだけで十分であり、禁止装置とリセツト装置の機能によつて撮影者のこの意志に従つて撮影レンズは元の位置から次の停止位置へ速やかに移動するので、焦点合せ後の構図の変更にも簡単に対応できることなどの効果を奏するものであることなどが認められる。

右認定に係る第一発明の課題ないし目的及びこれを達成するために規定された第一発明の要旨に照らしても、第一発明における「禁止装置」は、ピントズレの現にないことを最初に示したことに応答して単にモーターの駆動が停止した状態に維持されているという機能(モーター停止後手振れなどによつてピントズレが生じた場合には再びモーターの駆動が開始することになる。)をいうのではなく、ピントズレの現にないことを最初に示したことに応答してそれ以降は「モーターの駆動を自動的に禁止する装置」であり、また、第一発明における「リセツト装置」もこのような禁止装置を前提として、シヤツターレリーズボタンの初期操作が一旦解除された後再び初期操作が行われると、モーターの駆動停止を解除して禁止装置の動作をやり直させる装置であることは明らかである。なお、第一発明における「禁止装置」及び「リセツト装置」の技術的意義についての被告の理解が誤りであることは、相違点<1><2>についての判断において詳細に認定説示するとおりである。

2 原告は、審決が第二引用例に開示された技術内容を誤つて理解したために、相違点<1><2>についての判断を誤り、結果として第一発明の進歩性を誤つて否定したものである旨主張するので、まず、審決の第二引用例の理解の当否について検討する。

(一) 第二引用例(特公昭四八―一九二五〇号公報)に、審決認定のとおり(イ)ないし(ニ)の記載があること、並びに自動焦点合せ式カメラにおける距測はシヤツターレリーズボタンの初期操作時に行われることは周知技術であること及び第二引用例の蓄積装置は始動スイツチによつて開始する距測時に動作するものであつて、始動スイツチはシヤツターレリーズボタンの初期操作時に作動せしめられ、これに伴つて蓄積装置はリセツトさせるとともに新たな蓄積動作を開始するものであることについては、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第七号証(第二引用例)によれば、第二引用例に記載された発明は、被写体に向けてビーム状の光など電磁波パルスを投射し、目的物で反射した反射波を目的物までの距離に応じて位置を異にして配置された検出素子で受信し、出力変化を示した検出素子の位置に基づいて目的物までの距離を求める距離計に係る発明であること、第二引用例には実施例として、<1>単独の距離計(第1図ないし第5図)が示されているほか、<2>この距離計を映画カメラに使用して計測した距離に撮影レンズを移動させる自動焦点合せ機構を有するカメラ(第6図)、<3>写真及び映画に使用する距離計において、投射した光の反射光をレンズの特性値である視野の深さ範囲の外側に配置した受光素子で受光し、目的物がレンズの視野の深さ、すなわち被写界深度内にあるか外にあるかを指示するようにした指示装置(第7図、第8図)が示されていることが認められる。そして、前掲甲第七号証によれば、審決が指摘した(イ)及び(ロ)の記載は、実施例として示された前記<1>及び<2>に関する記載であり、ここには、目的物に向けて光パルスを投射する毎に測距を行い、その都度距離情報を蓄積装置に蓄積することを繰り返して逐次モーターを駆動して撮影レンズを追従させること、また光パルスの投射を行う始動スイツチは手動操作することができるが、光パルスの発信器をあるパルス列(このパルス列の周波数は距離計と目的物との相対的速度による)で動作させるのが望ましいこととする記載のあることが認められる。しかしながら、審決の指摘した(ハ)の記載、正確には、「写真および映画の場合には目的物までの距離の絶対値を知る必要があることがしばしばある。自動焦点あわせは像の最適の構成につながらないことがある。」との記載は、前掲甲第七号証である第二引用例における右記載の位置ないし脈絡、その開示内容に徴すると、前記実施例<3>の指示装置に関する記載であり、目的物がレンズの視野の深さ、すなわち被写界深度の範囲内にあるか外にあるかを指示するようにした指示装置に関する記載の導入部の記載であり、審決の指摘する(ハ)の記載は、要するに、写真及び映画には自動焦点合せによらず、手動で焦点合せをすることが像の最適構成を得るのによい場合があることを指摘し、この場合、被写体までの距離を測定して撮影レンズをその距離に設定するとき、撮影レンズと被写体までの距離とから定まる撮影レンズの特性値である視野の深さ(被写界深度)の範囲を知ることが像の最適な構成、すなわち距離の異なる複数の被写体のいずれにもピントの合つた撮影(自動焦点合せによるときは最も近い被写体にピントが合うとその後の位置にある被写体にはピントが合わないことがままある。)などをするうえで重要であることを述べたものであることは明らかである。したがつて、審決は、第二引用例の(ハ)の記載の意味を誤つて理解したものといわざるを得ない。審決と同様に理解すべきであるとする被告の主張は採用の限りでない。このように第二引用例における(ハ)の記載は、前記認定以上の事項を開示ないし示唆しているものとは認められないのであるから、第二引用例における(ロ)及び(ハ)の記載から、最適な像の構成を得るために、被写体の動きに応じて自動焦点合せを行わず、焦点合せを強制的に固定して構図を考えながら撮影することが示唆されているとみた審決の認定は誤りであり、審決の指摘する前記(イ)ないし(ニ)の記載からは勿論、第二引用例全体を精査しても、審決の認定のように「逐次モーターの駆動を追従させる自動焦点合せ式カメラにおいて、特殊な撮影目的によつては一回の距測に基づく焦点合せ状態を強制的に固定すること」が第二引用例に示唆されているとみることはできない。

右のとおり、第二引用例には「モーターの駆動を自動的に禁止し焦点合せ状態を強制的に固定する構成」は開示ないし示唆されているとは認められないのであるから、相違点<1>についての判断において、「(第二引用例に記載された)モーターの駆動を自動的に禁止し焦点合せ状態を強制的に固定する構成を第一引用例記載の自動焦点検出装置を備えた自動焦点合せ式カメラに組み込んで、ピントズレの現にないことを最初に示したことに応答してそれ以降モーターの駆動を自動的に禁止する禁止装置」を設けることが当業者にとつて容易になし得ることとした審決の認定判断は明らかに誤りである。

(二) 審決は、相違点<1>についての判断に当たつて、第一発明における禁止装置が何ら具体的な構成を限定するものでなく、その具体的な意義及び機能は、被写体が動体でないものを撮影する場合に適するという使用上の意義があるに過ぎないものとし、また最初に焦点が合つた状態をフリーズし以後カメラを他の方向に向け本当はカメラの焦点が外れても焦点合せの動作を再開させないという機能のものとみているところ、第一発明における禁止装置自体の構成としては具体的な手段性が特定されてはいないが、前記認定説示のとおりピントズレに逐次モーターの駆動を追従させる自動焦点合せ式カメラにおいて、第一発明は、撮影者をして適時に自動焦点合せ動作を打切る意志をもつことから解放することを主な課題として、これを達成するために、構成(a)ないし(f)に規定したような各構成を有機的に組み合わせた自動焦点合せ式カメラとしたものであつて、その構成のうちの「禁止装置」として、ピントズレの現にないことを最初に示したことに応答してそれ以降は「モーターの駆動を自動的に禁止する装置」(強制的に固定する装置)としたものであり、リセツト装置と相俟つて前記の課題を解決するとともに、高速で簡単な焦点合せ動作ができるという効果を実現したものであるから、第一発明における「禁止装置」や「リセツト装置」の機能ないし意義もこのような自動焦点合せ式カメラの動作態様に関連づけて理解されるべきものであり、審決における禁止装置についての理解は極めて一面的であるといわざるを得ない。

更に、被告は、第一発明における禁止装置は、ピントズレの現にないことを最初に示したことに応答してそれ以降モーターの駆動の停止を自動的に維持し続ける機能をも含むものであるとしたうえで、最初にピントが合つた時に自動焦点合せ動作を打切ることを撮影者の意志にかからしめずに、自動焦点合せ装置自体により自動的に打切るようにすることは普通に知られていたことである旨主張し、その裏付けとして周知例(前記公報<1>)を挙げる。

しかしながら、第一発明における禁止装置は、ピントズレに追従してモーターが常に駆動する構造のものにおける禁止装置であるから、ピントが合つた時単にそれ以降モーターの駆動の停止を自動的に維持し続ける機能のものでなく、リセツト装置によつて禁止状態が解除されるまで「モーターの駆動を自動的に禁止する装置」であることは前記認定説示のとおりであるから、第一発明の禁止装置を被告のように理解することはできない。そこで、前掲甲第七号証(第二引用例)によれば、第二引用例の第4図ないし第6図に基づいて理解される蓄積装置には、ピントが合つた時に停止したモーターの停止状態を維持する機能があるといつても、合焦状態が継続していることによつてモーターの駆動が再開しないだけのことであつて、一旦ピントズレが生ずるとモーターの駆動が再開されるものであると認められるから、第二引用例の蓄積装置を第一発明における禁止装置とみることはできない。加えて、被告が挙げる周知例(特公昭四一―一八二九六号公報)は、審決が自動焦点合せ式カメラにおいてシヤツターレリーズボタンの初期手動操作(一段押し操作)と最終手動操作(二段押し操作)が周知技術であることの例示として挙げたものであり、被告の右の主張の裏付けとして示されたものではないが、この点は措くとして、成立に争いのない甲第九号証(特公昭四一―一八二九六号公報)によれば、右周知例には、撮影レンズ14の焦点正合に対応する光電変換素子10の正合が終了すると、制御器11からモーター12への通電が止み、自動焦点合せが終了することが記載されているのみであることが認められ、これが第一発明のようにピントズレの有無の検出方式を前提としたものであるとしても、第一発明の構成cのモーターの駆動を停止する機能に相応する機能についての記載であり、第一発明の禁止装置についての開示はないのであるから、右の周知例は、最初にピントが合つた時に自動焦点合せ動作を打切ることを撮影者の意志にかからしめずに、自動焦点合せ装置自体により自動的に打切るようにすることが普通に知られていたことの裏付けになるものではない。

(三) 前記認定説示のとおり、第二引用例の蓄積装置を第一発明における禁止装置とみることはできず、第二引用例には、ピントズレに追従して常にこれを修正する方向にモーターが駆動し続ける方式の自動焦点検出方式において「モーターの駆動を自動的に禁止し焦点合せ状態を強制的に固定する構成」が記載されているとはいえず、また、この構成が普通に知られていることともいえないとすると、たとい、自動焦点合せ操作のやり直しのためにシヤツターレリーズボタンとリセツト装置とを関連させることが第二引用例の前記蓄積装置の電源スイツチに関する(ニ)の記載から教示されることであるとしても、これによつて第一発明のようなリセツト装置を想到し、これを第一引用例記載の自動焦点合せ式カメラに組み込むことが容易であるとはいえない。なぜなら、第二引用例の前記(ニ)の記載から明らかなごとく蓄積装置に設けられた電源スイツチは単に先の測定結果をクリアーする(蓄積装置の電気回路への電源供給を断つことによりそれまで維持されていた測定結果が消失する。)ものであるのに対して、第一発明のリセツト装置は、禁止装置やモーターへ電源が供給された状態のもとにおいて、禁止装置によつてモーターの駆動を自動的に禁止している状態から解放してモーターを駆動できる状態に置くものであり、第二引用例の蓄積装置に設けられた電源スイツチと第一発明のリセツト装置とは目的ないし機能が全く異なるからである。

したがつて、審決の相違点<2>についての認定判断は誤りといわざるを得ない。

3 右のとおり審決は、第二引用例の記載内容を誤解したことによつて、相違点<1><2>についての認定判断を誤つたものであるから、審決は違法として取消しを免れない。

三 以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものとして、これを認容することとする。

〔編注1〕本件における特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「第一発明」という。)の要旨は左のとおりである。

(a)撮影レンズのピント合わせを実行するピント合わせ用モーターと、

(b)上記撮影レンズ被写界の中央部に対する上記撮影レンズのピントズレの有無及びその方向を検出する自動焦点検出装置と、

(c)この自動焦点検出装置の出力に応じ、上記ピントズレがあるときには検出されたピントズレ方向に応じてそのピントズレを減少する方向に上記モーターを駆動するとともに上記ピントズレのない時には上記モーターの駆動を停止する制御回路と、

(d)初期手動操作を経て最終手動操作に移行することによりシヤツターレリーズを行うとともに上記初期操作にて自動焦点検出動作を開始させるシヤツターレリーズボタンと、

(e)このシヤツターレリーズボタンの初期操作後その初期操作の継続中において上記自動焦点検出装置の出力が上記ピントズレの現にないことを最初に示したことに応答してそれ以降上記モーターの駆動を自動的に禁止する禁止装置と、

(f)上記シヤツターレリーズボタンの初期操作が一旦解除された後再び初期操作が行われるとこの禁止装置による禁止を解除し上記禁止装置の動作をやり直させるリセツト装置

を設けたことを特徴とする自動焦点合せ式カメラ(別紙図面一参照)。(aないしfの符号は便宜上付したものであり、以下それぞれ「構成(a)ないし構成(f)」ということがある。)。

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

図面一

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図面三

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