東京高等裁判所 昭和24(を)新140 高裁判例
主 文
原判決を破棄する。
被告人を懲役二年に処する。
原審における未決勾留日数中六十日を右本刑に算入する。
当審の訴訟費用は被告人の負担とする
理 由
本件控訴の趣意は末尾に添附してある弁護人西村兼吉作成名義控訴趣意書と題す
る書面記載の通りである。
これに対し当裁判所は左の如く判断する。
論旨第一点について。
<要旨第一>判決で認定する事実はそれが犯罪構成要件に該当する事実であると犯
罪の違法性や責任性を阻却する事由若</要旨第一>しくは刑の加重、減免の事由刑の
量定に影響ある事由であると右犯罪の日時場所に関するものであるとに拘ら<要旨第
二>ずすべて証拠によつてこれを認定することを要しその証拠は公判に於て適法に証
拠調をなし被告人の意見弁解</要旨第二>を聴くか少くともその機会を与え且異議あ
るものには反証の機会を与えたものであることを要する右証拠調をしない証拠を以
て事実を認定することは不意打で公正な訴訟手続ということはできないこれは刑事
訴訟法第一条の精神にもとるから斯かる措置は許されないものと解すべきであるた
だ判決に証拠説明をするには最少限度の要求として罪となるべき事実に対する証拠
を示せばよいことになつていてその半面右事実以外の事実については証拠説明を必
要としないことになつているが、このことから罪となるべき事実以外の事実はいか
なる証拠によつて認めても差支えないように解するのはそれは事理を究明しないこ
とに基く誤解である原判決を見ると被告人の前科の事実認定の証拠として前科調書
を引用しているが原審公判調書を調べると検察官から前科調書を提出した形跡なく
従つて裁判官においてこれを取調べた証跡もない全記録を繰返して見ても前科調書
は記録に編綴せられていない斯くの如き全く公判に顕出せられなかつた証拠―前科
調書といえども他人の名を騙つて裁判を受けたためにはからずも前科者になつてい
たということは皆無の事実でないことに想倒すべきである―を以つて前科の事実を
認定したのは違法である。論旨理由あり原判決は破棄せらるべきである
(その他の判決理由は省略する。)
(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)