松山地方裁判所 平成10年(ワ)959号 判決 2001年6月22日
原告
甲野春子
(以下「原告春子」という。)
同
甲野夏子
(以下「原告夏子」という。)
同
甲野太郎
(以下「原告太郎」という。)
原告三名訴訟代理人弁護士
米田功
同
市川武志
同
大熊伸定
被告
乙川二郎
(以下「被告乙川」という。)
同
松山市
同代表者市長
中村時広
同訴訟代理人弁護士
田中重正
同
稲瀬道和
主文
1 被告らは、連帯して、原告春子に対し金九九〇万円、原告夏子及び原告太郎に対し各金一六九六万九五五二円並びにこれらに対する平成七年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。
4 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告らは、連帯して原告春子に対し金四五三九万四一七九円、原告夏子及び原告太郎に対し各金二五三六万二〇八九円並びにこれらに対する平成七年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、松山市中央消防署の消防士であった被告乙川が、同署の署長であった甲野三郎を殺害したことにつき、相続人である原告らが、被告乙川とその使用者である被告松山市に対し、不法行為に基づく責任があるとして損害賠償を請求した事案である。
1 争いのない事実
(1) 当事者
ア(ア) 甲野三郎(以下「亡三郎」という。)は、昭和三五年四月松山市に消防士として採用され、平成四年四月に松山市南消防署長、平成五年四月に松山市東消防署長にそれぞれ就任し、平成七年四月以降、松山市中央消防署(以下「中央消防署」という。)の署長として勤務していた者である。
(イ) 原告春子は亡三郎の妻、原告夏子は亡三郎の長女、原告太郎は亡三郎の長男である。
イ 被告乙川は、平成六年四月松山市に消防士として採用され、平成七年四月以降、中央消防署に勤務していた者である。
ウ 被告松山市は、亡三郎と被告乙川が勤務していた中央消防署を設置し、管理運営していたものであり、同署消防職員の使用者である。
(2) 本件犯行
被告乙川は、平成七年一一月二八日午前一〇時ころ、松山市本町<番地略>所在の中央消防署庁舎の六階フロアーにおいて、亡三郎を殺害した(以下「本件犯行」という。)。
2 争点
①原告らは、本件犯行による損害が、被用者である被告乙川が事業の執行につき第三者に加えた損害に当たるから、被告乙川とともに、被告松山市は使用者責任を負うと主張するのに対し、②被告松山市は、被告乙川の本件犯行についての使用者責任を争い、③被告乙川は、原告らの損害額を争うほか、本件犯行に至る要因と態様を考慮して過失相殺(五割)すべきであると主張する。
第3 争点に対する判断
1 本件犯行の職務行為関連性
(1) 前記争いのない事実、証拠(甲7ないし9、10の1・2、11ないし16、18ないし21、乙5ないし10、19、丙1ないし5、7、8)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる(以下の認定に反する甲15、16、18ないし21、乙7ないし10、丙4、5の被告乙川の各供述調書の記載の一部は採用できない。)。
ア 本件犯行当日に至るまでの概括的な経過
(ア)a 亡三郎は、平成七年四月、中央消防署署長として着任し、総員八〇名の中央消防署の事務を統括し、所属の消防職員を指揮監督していた(消防組織法一三、一四条参照)。
b 被告乙川は、平成七年四月、亡三郎と同時期に、松山市南消防署から中央消防署に異動し、中央消防署甲部第一小隊第一分隊(分隊長丙山四郎消防士長、以下「丙山分隊長」という。)所属の消防士(消防職員)として着任した。
(イ)a 亡三郎は、平成六年一二月ころには、被告乙川がいわゆる問題職員であるということを聞き及んでおり、被告乙川と同じ職場となった平成七年(以下、同年の出来事については月日のみで示す。)四月以降、知り合いの松山東警察署所属の警察官に対し、同月以降の被告乙川に関する悩みを打ち明けたりするようなことがあった。
b 亡三郎は、四月の中央消防署着任後まもなく、家庭でも、原告春子に対し、部下となった被告乙川の指導について、悩みを話すこともあった。
(ウ)a 丙山分隊長は、四月以降の被告乙川につき、遅刻が多い、勤務時間中にしばしば所在が分からなくなるなどの問題があると考えていた。
b 亡三郎は、夏ころ、丙山分隊長らの部下から、被告乙川について、これらの問題行動のほか、休暇の際に申告した連絡先に連絡を取ろうとしても連絡が取れないなどの具体的な報告を受け、被告乙川に対し、丙山分隊長等立ち合いの上、自ら直接注意したこともあった。
(エ) 亡三郎は、一〇月二五日、被告乙川が七月二七日に交際中の女性に対する傷害事件(以下「別件傷害事件」という。)を起こして数回にわたって松山東警察署で取調べを受けている事実を知り、一一月三日には、一〇月三一日から一一月二日まで年休を取っていた被告乙川に電話をして出勤を促し、さらに、一一月六日には、出勤した被告乙川に対し、警察に呼び出された理由等を尋ねたが、被告乙川からは、「もうすみました。もうええでしょう。」などとして、明確な回答は得られなかった。
なお、亡三郎は、そのころ、被告乙川に対し、「傷害事件を起こしているのだから自重した行動を取れよ。事件をやっているやっていないは別として、今問題を起こしたら辞めてもらわないかん。首の皮一枚ぞ。」などと話していた。
(オ) 亡三郎は、一一月二一日、前記警察官から、被告乙川の別件傷害事件が同月一三日に検察庁に送致された事実を確認するとともに、同警察官に対し、被告乙川について、所属長として何もしない訳にはいかない、事件が送致されているのであれば分限処分の対象にしてでも退職させなければならない、近日中に処分するつもりであることを本人に言おうと思う、などと話していた。
(カ) 亡三郎は、上司である松山市消防局長から、被告乙川を処分するためには、規律違反の状態を記録に残し、積み上げる必要があるとの助言を受けていたが、被告乙川が別件傷害事件を起こした後の一一月二四日、亡三郎が、同局長に対し、別件傷害事件につき、被告乙川否認のまま書類送検されたようであると報告した際にも、同局長から、被告乙川の処分に関し、同様の助言を受けていた。
(キ) 亡三郎は、当時、被告乙川の直属の上司である丙山分隊長に対し、被告乙川の問題行動を報告書として提出するよう指示し、これに基づき、丙山分隊長から、被告乙川の勤務態度等に関し、次のような事項を内容とする報告書四通の提出を受けていた。
a 勤務中の勤務場所離脱及び報告の励行等(八月八日付)
b 私事旅行に伴う週休変更及び休暇願出(九月二六日付)
c 頭髪前髪の染色(一〇月二五日付)
d 遅刻及び消防吏員章の無断借用等(一一月一二日付)
(ク)a 被告乙川は、前記のとおり、四月に中央消防署に異動になった後、職場内で軋轢を起こし、七月二七日には交際中の女性に対する別件傷害事件を起こし、警察で取り調べを受けるなどしていたが、本件犯行直前ころまで消防士としての仕事を続ける意思を有していた。
b 被告乙川は、一一月二二日、岡山での私事用務を理由に一二月六日の休暇を同月八日に変更してもらうため、管轄外旅行願簿に署長の決裁が必要となる週休変更の願い出を行ったが、一一月二六日、中央消防署副署長から、「署長が日程表を出さんと印鑑押さんと言いよる。」などとして、日程表等を提出するように指示されたことから、亡三郎が休暇の変更に圧力をかけてきたものと認識していた。
イ 本件犯行当日の状況
(ア) 被告乙川は、本件犯行当日である一一月二八日、午前九時ころから中央消防署庁舎の三階事務所で執務に就いていたが、近くのトイレへ行こうと席を立ち、トイレに行き、トイレから出た際、廊下で、署長室から総務課に向かっていた亡三郎と出会ったことから、亡三郎に対し、週休変更について話がある旨申し出たところ、亡三郎からは、四階の総務課に用事があるので、五分後に六階の屋上に来るように指示された。
(イ) そこで、被告乙川は、所有するスタンガンを持ち出した上、中央消防署庁舎の六階フロアーに赴き、亡三郎との間で、当初は週休変更についての話をしていたが、亡三郎から、このまま消防にいてもらっては困る、消防におらすわけにはいかない、などという発言があったことなどから、前記(1)アにおける亡三郎の指導等に対する感情的不満を背景として、午前一〇時ころ、亡三郎に対し、殺意をもって、その首を付近にあった電気コードで締め付けた上、その右側頸部を所携の中央消防署庁舎二階の調理場に置いてあった包丁(刃体の長さ約11.5センチメートル)で二回突き刺し、よって、そのころ、亡三郎を右内頸静脈及び右総頸動脈の刺創に基づく失血により死亡させた。
(ウ) 被告乙川は、本件犯行後、中央消防署庁での通常の勤務体制に就いたが、同日夕方ころ、松山東警察署に任意同行を求められ、翌二九日、亡三郎の殺害を自供するに至った。
(2) 以上の事実をもとに検討する。
ア 本件犯行が故意に基づく違法な行為であり、被告乙川の行為が不法行為に該当することは明らかである。
イ そして、本件犯行は、被告乙川が、被告松山市の消防士として勤務中、勤務場所において敢行されたものであり、その背景には、かねてより上司である亡三郎から勤務態度等についての指導を受けていたという事情があり、さらに、本件犯行直前、亡三郎との間で、休暇の変更についてのやりとりがなされ、消防士としての地位の喪失にかかわるような発言等がなされた挙げ句、亡三郎の指導に対する感情的不満が爆発したものと推認しうるところであるから、本件犯行は、事業執行の過程中に行われたものと評価することができる。
ウ 他方、被告松山市は、本件犯行は典型的な計画的暴行犯であり、これに先立つ何らの事業執行行為も存在しないなどと主張するが、証拠上本件犯行が計画的なものであったと認めることは困難であり、また、前記認定のとおり、本件犯行直前には、休暇の変更等の職務に関するやりとりがあり、職務行為は存在したというべきであるから、上記の主張をそのまま採用することはできない。
エ これらのことからすれば、亡三郎が被った損害は、被告乙川が、被告松山市の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為によって生じたものであるから、被告乙川が、被告松山市の事業の執行につき加えた損害に当たるというべきである(なお、被告乙川は、本件犯行は公共団体の公権力の行使に当たる公務員である被告乙川による公務中の不法行為であるから、本件損害賠償請求に対しては、被告松山市が国家賠償法一条一項に基づいて賠償の責に任ずるものであり、原告らが被告乙川個人に対し、不法行為責任を問うことはできないと主張するが、被告乙川の本件犯行自体からして「公権力の行使」に該当するとは考えられないし、被告乙川が本件犯行直前に上司(公務員)である亡三郎と前記認定のやりとりなどをしていたことをもって「公権力の行使」に該当するということもできず、本件は国家賠償法一条一項の適用場面ではないというべきである。)。
2 損害額
(1) 逸失利益(原告らの新ホフマン係数8.590、生活費控除率三〇パーセントによる請求総額・五二二四万八三五八円)
ア 証拠(甲2の1・2、3、4、23ないし25、原告太郎)及び弁論の全趣旨によれば、①亡三郎(昭和一一年一〇月二八日生)は、短大卒業後、被告松山市の消防士として採用され、本件犯行による死亡当時は満五九歳であったこと、②亡三郎は、平成九年三月三一日に定年退職する予定であり、退職後は民間企業に就職することを意図していたこと、③亡三郎は、平成六年一二月から平成七年一一月までの一年間において、合計八六八万九二三三円の給与・賞与等の支給を受けていたこと、④亡三郎の死亡当時、原告春子(昭和一五年一月一五日生)は満五五歳の専業主婦であり、原告夏子は満二八歳で保母として、原告太郎は満二三歳で作業療法士として、それぞれ稼動していたことが認められる。
イ 以上の事実を総合して、亡三郎の逸失利益を控え目に検討することとし、①満六〇歳までの約一年間の年収を八六八万九二三三円とし、②満六一歳からは、平成七年簡易生命表の満五九歳の平均余命21.07年の二分の一である一〇年間六九歳までを就労可能とし、その間の基礎となる年収を平成七年賃金センサス・産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計六〇歳ないし六四歳の平均年収額である五一〇万九六〇〇円とし、③これらに生活費控除率を扶養者一人の場合の四〇パーセントとして中間利息をライプニッツ方式により控除することとして算定すると、次のとおり二五七一万八二〇八円となる(一円未満切り捨て)。
8,689,233円×(1−0.4)×0.9523=4,964,853円
5,109,600円×(1−0.4)×(7.7217−0.9523)=20,753,355円
4,964,853円+20,753,355円=25,718,208円
(2) 葬儀関係費用(原告春子の請求額・五一五万円)
証拠(甲4、5の1の1・2、5の2〜7)によれば、亡三郎の葬儀関連費用として五一五万円を要したことが認められるが、前記認定の亡三郎の年齢、職業、中央消防署長としての社会的地位等に照らすと、そのうち二〇〇万円を本件と相当因果関係のある原告春子の損害と認めるのが相当である。
(3) 遺族固有の慰謝料(原告らの請求額各一〇〇〇万円)
前期認定の本件殺害行為自体、その態様、亡三郎の年齢、職業、家族関係その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、亡三郎の死亡についての遺族固有の慰謝料は、原告らにつき各九〇〇万円とするのが相当である。
(4) 小計
上記(1)ないし(3)によれば、原告春子の損害は、亡三郎の逸失利益の相続分二分の一、葬儀関係費用、慰謝料の合計額二三八五万九一〇四円であり、原告夏子及び原告太郎の各損害は、亡三郎の逸失利益の相続分各四分の一、慰謝料の合計額各一五四二万九五五二円となる。
原告春子
(25,718,208円÷2)+200万円+900万円=23,859,104円
原告夏子及び原告太郎
(25,718,208円÷4)+900万円=15,429,552円
3 過失相殺
(1) 被告乙川は、本件犯行は、亡三郎が、被告乙川を退職に追い込むために自ら包丁を持参し、被告乙川が亡三郎に対し包丁を用いて事件を起こしたかのようにする演出(以下「本件狂言」という。)を画策したことが契機となって発生したものであるなどとして、過失相殺(五割)をすべきであると主張し、証拠(甲15、16、18ないし21、乙7ないし10、丙4、5)によれば、被告乙川は、本件犯行の刑事被告事件において、これに沿うような各供述をしていることが認められる。
(2) しかしながら、上記の供述の内容自体が極めて不自然なものであり、前記認定の亡三郎の消防署長としての立場、当時の被告乙川の置かれていた状況等に照らしても、亡三郎について、本件狂言をしてまで被告乙川を退職させなければならない動機ないし必要性を見出すことは困難であり、亡三郎が包丁を持参し、本件狂言を画策したことなどの事実を認めることはできない。
(3) そして、本件犯行が被告乙川の故意に基づく殺人行為であり、犯行態様が一方的なものであることにかんがみると、違法行為の発生及び損害の拡大について亡三郎に原因があったということはできず、他に亡三郎の過失を認めるに足りる的確な証拠もない以上、過失相殺の主張を採用することはできない。
4 損害の填補
(1) 遺族補償年金及び遺族共済年金
ア 原告春子は、本件口頭弁論終結日である平成一三年四月六日当時、①地方公務員災害補償法(以下「災害補償法」という。)に基づく遺族補償年金として、既に一八六八万八一三一円の支給を受け(同年三月分まで)、同年四月分として二九万四六八三円(同年六月五日振込予定の五八万九三六六円の二分の一)の支給を受けることが確定していること(災害補償法四〇条参照)、②地方公務員等共済組合法(以下「共済組合法」という。)に基づく遺族共済年金として、既に九八〇万八一八八円の支給を受け(同年一月分まで)、同年四月分までとして四七万六八六八円(同年四月一三日振込予定の三一万七九一二円に同年六月一五日振込予定の三一万七九一二円の二分の一を加えたもの)の支給を受けることが確定していること(共済組合法七五条参照)をそれぞれ自認しており、その合計額は、二九二六万七八七〇円となる。
イ 証拠(甲26、27)及び弁論の全趣旨によれば、本件において、遺族補償年金及び遺族共済年金の受給権者は、原告春子のみであることが認められる(災害補償法三二条、共済組合法九九条の四参照)。
ウ そして、これらの年金の支給は、損害の填補を目的としているものと解されるから(災害補償法五九条、共済組合法五〇条参照)、原告春子が本件口頭弁論終結日までに受給し、又は受給することが確定していた上記合計二九二六万七八七〇円については、原告春子が相続する亡三郎の逸失利益一二八五万九一〇四円から控除すべきである。
エ そうすると、原告春子の相続した逸失利益は、全額填補されたこととなる。
(12,859,104円−29,267,870円)=−16,408,766円
(2) 葬祭補償
ア 原告春子は、災害補償法に基づく葬祭補償として一一八万一四六〇円の支給を受けていることを自認している。
イ そして、葬祭補償の支給は、損害の填補をも目的としているものと解されるから(災害補償法五九条参照)、上記金額については、原告春子の葬祭関係費用の損害額二〇〇万円から控除すべきである。
ウ そうすると、原告春子の葬儀関係費用の残高は八一万八五四〇円となるが、さらに、葬儀関係費用が財産的損害であることなどを考慮して、これを前記(1)の遺族補償年金及び遺族共済年金から原告春子が相続した亡三郎の逸失利益を控除した残額一六四〇万八七六六円によって控除すると、葬儀関係費用は、全額填補されたこととなる。
(818,540円−16,408,766円)=−15,590,226円
(3) 遺族特別支給金、遺族特別援護金及び遺族特別給付金
ア 原告らは、本件口頭弁論終結日である平成一三年四月六日当時、災害補償法四七条(同法施行規則三八条)の福祉施設における遺族特別支給金として三〇〇万円、遺族特別援護金として九〇〇万円、遺族特別給付金として三七三万七六三一円の支給を受けていることを自認している。
イ そして、被告乙川は、これらについても賠償すべき損害額から控除すべきであると主張するが、これらは、その性格上同法五九条の求償の対象とはならないから、控除は否定すべきである。
(4) 弔慰金
ア 原告らは、地方公務員法四二条及び四三条による松山市役所職員共済会規約に基づく弔慰金として五〇〇万円の支給を受けていることを自認している。
イ そして、被告乙川は、これについても賠償すべき損害額から控除すべきであると主張するが、弔慰金は、遺族に対する弔慰の趣旨で支給されたものであり、損害を填補する性質を有していないから、控除は否定すべきである。
(5) 原告春子の損害残額
上記(1)、(2)の填補を原告春子の損害に充当すると、原告春子の損害残額は、固有の慰謝料九〇〇万円となる(相続した逸失利益、葬儀関係費用については全額填補されている。なお、逸失利益、葬儀関係費用を填補した前記(2)ウの遺族補償年金及び遺族共済年金の残額をもって慰謝料を填補することは、慰謝料が財産的損害ではなく精神的損害であることなどに照らし、相当でないと解する。)。
5 小括
以上の損害を小括すると、原告春子が九〇〇万円、原告夏子及び原告太郎が各一五四二万九五五二円となる。
6 弁護士費用(原告らの請求額・原告春子につき四一二万円、原告夏子及び原告太郎につき各二三〇万円)
本事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を考慮すると、原告らの本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、原告春子につき九〇万円、原告夏子及び原告太郎につき各一五四万円と認めるのが相当である。
7 結論
以上によれば、原告らの被告らに対する請求は、原告春子につき九九〇万円、原告夏子及び原告太郎につき各一六九六万九五五二円並びにこれらに対する平成七年一一月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・豊永多門、裁判官・中山雅之、裁判官・末弘陽一)