松山地方裁判所 平成12年(ワ)812号 判決 2001年10月29日
原告
甲山花子
外七名
同原告ら訴訟代理人弁護士
田所邦彦
同
吉田正彦
被告
あいおい損害保険株式会社
(旧商号 大東京火災海上保険株式会社)
同代表者代表取締役
瀬下明
同被告訴訟代理人弁護士
野垣康之
同
島林樹
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 原告の請求
被告は、原告甲山花子に対し金三三五〇万円、原告乙川三郎、原告乙川四郎、原告乙川五郎、原告乙川六郎、原告甲山春子、原告甲山次郎、原告甲山秋子に対し各金四七八万五七一四円及び上記各金員に対する平成一二年一〇月一九日から支払済みまで年六分の割合による金員をそれぞれ支払え。
第2 事案の概要
本件は、被告との間で傷害保険契約を締結していた甲山太郎(以下「太郎」という。)が、平成一〇年一一月二八日、事故によって死亡したことにつき、太郎の相続人である原告らが、傷害保険契約に基づき、被告に対し、保険金の支払を求めた事案である。
1 争いのない事実
(1) 本件事故の発生及びその結果
発生日時 平成一〇年一一月二八日午後一〇時二〇分ころ
発生場所 高知市旭町二丁目3番先路上(別紙交通事故現場見取図第1図・第2図(略図)参照。以下「見取図1・2」という。)
被害者 太郎
加害車甲 事業用普通乗用自動車(タクシー、高知55い××××)
運転者A(以下、加害車甲を「甲車」、Aを「A」という。)
加害車乙 自家用軽四乗用自動車(高知50そ○○○○)
運転者B(以下、加害車乙を「乙車」、Bを「B」という。)
事故の態様 太郎は甲車・乙車に轢過され、肺挫傷等の傷害を負い死亡した。
(2) 太郎と被告との傷害保険契約(以下「本件保険契約」という。)
① 証券番号 <省略>
契約締結日 平成一〇年一月二九日
保険期間 平成一〇年一月二九日から平成一一年一月二九日まで
支払事由 急激かつ偶然な外来の交通事故によって傷害を負い死亡した場合
保険金 一六〇〇万円
受取人 太郎の法定相続人
② 証券番号 <省略>
契約締結日 平成一〇年二月四日
保険期間 平成一〇年三月一日から平成二〇年三月一日まで
支払事由 交通事故によって傷害を負い死亡した場合
保険金 一〇〇万円
受取人 太郎の法定相続人
③ 証券番号 <省略>
契約締結日 平成一〇年三月三一日
保険期間 平成一〇年三月三一日から平成一一年三月三一日まで
受取人 太郎の法定相続人
ア 支払事由 急激かつ偶然な外来の事故によって傷害を負い死亡した場合
保険金 二〇〇〇万円(普通傷害保険金)
イ 支払事由 交通事故によって傷害を負い死亡した場合
保険金 アの外に二〇〇〇万円(交通事故傷害保険金)
④ 証券番号 <省略>
契約締結日 平成一〇年五月一一日
保険期間 平成一〇年六月二六日から平成一一年六月二六日まで
支払事由 急激かつ偶然な外来の事故によって傷害を負い死亡した場合
保険金 五〇〇万円
受取人 太郎の法定相続人
⑤ 証券番号 <省略>
契約締結日 平成一〇年八月二六日
保険期間 平成一〇年八月二六日から平成一一年八月二六日まで
支払事由 急激かつ偶然な外来の事故によって傷害を負い死亡した場合
保険金 五〇〇万円
受取人 太郎の法定相続人
2 太郎の相続関係(弁論の全趣旨により認める)
太郎の相続人は、妻原告甲山花子(以下「花子」という。)、先妻乙川冬子との間の子原告乙川三郎、原告乙川四郎、原告乙川五郎、原告乙川六郎、原告花子との間の子原告甲山春子、原告甲山次郎、原告甲山秋子である。
太郎の相続に関する法定相続分は、原告花子が二分の一、その余の原告らが各一四分の一である。
3 争点
本件事故が傷害保険の適用を受ける「急激かつ偶然な外来の事故」であると認定できるか否か。
(1) 原告らの主張
太郎は本件事故現場付近の路上を歩いていたところ、A運転の甲車の前方を走行していた車に跳ねられ、見取図1file_3.jpgの地点に転倒したところを、後続を走行してきたA運転の甲車、続いてB運転の乙車に轢過され、死亡した。
(2) 被告の主張
太郎の死亡は、偶然発生したものとは言い難く、むしろ事業不振及び健康不安を苦にして飲酒酩酊のうえ、夜間疾走してくる車に飛び込んだか、あるいは、路上に横臥して自らの生命を絶ったものであるとみるのが合理的である。
第3 争点を判断するための事実認定
以下の事実は、認定事実冒頭の括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨により認める。
1 太郎の身上関係(甲16、乙4、5、21、25、原告花子)
(1) 太郎(昭和一九年二月二〇日生)は、昭和六三年六月二二日、内装仕上工事業等を目的とする□□建装有限会社(以下「□□建装」という。)を設立し、妻の原告甲山花子に経理関係を担当させ、本件事故当時、従業員二名を雇用して、これを経営してきた。
(2) 太郎は、身内に不幸が重なったこと等から、平成九年か平成一〇年に神戸に本部のある霊法会に、妻の原告花子とともに入会した。
(3)ア 太郎は、酒好きで、ほぼ毎日、四合か五合の酒を飲み、慢性アルコール性肝障害で治療を受けていたが、平成九年六月一六日、松山市民病院でアルコール性肝炎と診断されて入院したこともあった。
イ 太郎は、平成一〇年一〇月二三日、同月二一日に転倒して後頭部を挫傷したとして、坪井整形外科の診察を受け、頚部脊柱管狭窄症、頚部挫傷、上気道感染症と診断され、治療のため同病院に通院していたが、その間の同月三〇日には、首の痛みが激しくなったとして、救急車で松山赤十字病院に搬送され、頚椎椎間板障害と診断された。
ウ 太郎は前記症状の治療のため、坪井整形外科に、平成一〇年一〇月二三日から本件事故前日の平成一〇年一一月二七日まで、一日約三〇分間程ではあるが、ほぼ毎日治療に通い、理学療法、投薬を受けていた(三六日のうち治療実日数二六日)。
2 太郎の小野川転落事故(甲16、17、乙21、証人松下裕樹、原告花子)
(1) 太郎は、仕事が終わり、愛媛県伊予群松前町大字大間<番地略>の自宅で飲酒した後、平成一〇年一一月二七日午後一二時ころ、先祖の仏壇の引き取りの件で揉めていた兄甲山七郎を訪ねると言って、自動車で出かけ、松山市内の河川小野川左岸の堤防道路から、小野川に転落した(以下「小野川転落事故」という。)。
(2)ア 松山南警察署自動車警ら係松下裕樹(以下「松下」という。)は、平成一〇年一一月二八日午前零時過ぎころ、自動車が転落したという一一〇番通報を受け、現場に赴いた(以下、同月二八日の出来事については、日付を省略する。)。
イ 太郎運転の自動車は、小野川の土手から川の方向に向かって斜めに走行して小野川に落ち込み、前部フロントガラスが割れ、自動車の前のフェンダー部分が少し水に浸かった状態で停止していた。なお、自動車の車体に横転した痕跡はなかった。
ウ 太郎は、自動車脇の川の中に立っており、松下に対して、「警察なんか呼んでない。近寄るな。」というような意味のことを言い、松下が事故の原因を質問すると、「死のうと思って車で川に飛び込んだ。」と答え、興奮し、精神的に不安定な状態であったので、松下は、事件の処理を刑事課に引き継いだ。
エ 松下は、その際太郎の額に、前部フロントガラスに頭から突っ込んだためにできたと思われる傷を認め、また、太郎の左手首付近に、自動車の割れた前部フロントガラスの破片でできたと思われる切創を認めた。
3 本件事故直前までの状況(甲16、乙5、21、証人松下、原告花子)
(1) 原告花子は、松山南警察署から太郎が川に落ちたという連絡があり、午前四時過ぎころ太郎を迎えに行った。太郎は興奮しており、警察でも迷惑を掛けている状態であり、原告花子は、午前六時ころ、太郎を自宅に連れ帰ったが、その際、太郎の左手首に数条の傷があるのに気付いた。
(2) 太郎は、帰宅後、風呂に入り眠ったのち、午前九時ころ、「神戸の霊法会に拝みに行く。」と言って、原告花子から一〇万円を渡され、バックも持たないまま家を出た。
(3) 太郎は、午後三時か四時ころ、原告花子に対し、電話で現在高知に居ることを告げた。
(4) 原告花子は、太郎の身辺に何か異変が起こっているのではないかと心配になり、知人に太郎のことを相談した後、高知県警本部に電話して、太郎の捜索を依頼した。
4 本件事故について
(1) 本件事故現場の状況(甲7の1・2、15)
本件事故現場は、ほぼ東西に走る国道三三号線上で、その中央に幅員五メートルの電車軌道が、東の高知市上町方面へ北から幅員2.8メートルの第二通行帯と幅員2.0メートルの第一通行帯の二車線が、西の本宮町方面へ二車線がそれぞれある。また、本件事故現場は、市街地で、歩車道の区別があり、直線で明るく、見通しも良く、アスファルト舗装され、平坦で、路面は乾燥しており、制限速度は四〇キロメートルで、転回禁止の規制がある。その状況は、見取図1・2のとおりである。
(2) 濱村和朗(以下「濱村」という。)の目撃状況(甲11ないし15、証人濱村)
ア 濱村は、ウォーキングないしジョギングの途中、本件事故現場にさしかかり、見取図2のfile_4.jpgで、本件事故現場の第一通行帯南側の歩道上の見取図2のfile_5.jpg点に太郎がうつ伏せに寝ているのを目撃し、酔っぱらって倒れているのだと思い、起こそうと考え、声をかけに行こうとしたら、太郎が立ち上がったので、声をかけないまま、その側を通り過ぎた。
イ 濱村は、その後、ウォーキングないしジョギングを続けたが、太郎が自動車の運転手に絡むような声が聞こえたので、見取図2のfile_6.jpgとfile_7.jpgの間で、振り返ったところ、太郎が、車道に立ち、車の通路を塞いで、自動車の運転手と口論しているのが見えた。
ウ 濱村は、さらに、ウォーキングないしジョギングを続け、見取図2のfile_8.jpgの地点に至ったとき、ドンという音を聞き、振り向き、本件事故現場まで引き返したところ、本件事故現場に太郎が倒れ、その横に甲車(タクシー)と車一台が止まっていた(なお、証人濱村は、太郎が口論している声を聞いて振り返ってからドンという音を聞くまでに、濱村の側方を何台かの車が通ったとは思うが、はっきりはしないと証言する。)。
エ 見取図2file_9.jpgとfile_10.jpgの距離は、42.5メートルで濱村は、その間を約三〇秒程で通過した。
オ 濱村は本件事故直後に、本件事故現場で、警察から、Aが「当たったかもしれない。」と言っていると伝え聞いた。
(3) 本件事故状況(乙6、7、証人A、同B)
ア(ア) Aは、タクシー運転手であるが、客を乗せて甲車(タクシー)を運転して、第二通行帯上を先行する二台の自動車の25.3メートルないし25.5メートル後方に付いて西に走行していたところ、先行車のうち、先頭の自動車が左(南)の第一通行帯方向へ回避したので、何か道路に落ちているのかと考えたが、続いて二台目が右(北)の電車軌道方向へ回避したときに、初めて、前方一〇メートルの地点に、太郎が頭部を電車軌道側にして南北に仰向けに横たわっているのに気が付き、ハンドルを右(北)に切ったが、よけきれずに、見取図1のfile_11.jpg地点において、甲車の左前輪で仰向けに横たわっていた太郎の頭部を轢いた。なお、先行車二台は、太郎と衝突していない。
(イ) Aは、本件事故直前に第一通行帯ないし第二通行帯を横断している人影を見てないし、太郎を轢く直前にドンという音も聞いていない。
(ウ) Aは、本件事故に関し、刑事処分を受けていない。
イ(ア) Bは、甲車の後方約8.2メートルを乙車を運転して時速約四〇キロメートルないし五〇キロメートルで走行していたが、甲車が右(北)へ回避した後、初めて、前方6.2メートルの第二通行帯上の見取図1のfile_12.jpg点に、太郎が頭部を電車軌道側にして南北に横たわっているのに気が付き、ハンドルを右(北)に切ったが、よけきれずに、見取図1のfile_13.jpg地点において、左前輪で仰向けに横たわっていた太郎を轢いた。
(イ) Bは、本件事故直前において、第一通行帯を先行して走行する車を認めず太郎を轢く前に、ドンという音も聞いていない。
(ウ) なお、Bは、本件事故直後、Aが、「当たったかもしれない。」と言うのを聞いた。
(エ) Bは、本件事故に関し、刑事処分も行政処分も受けていない。
ウ 本件事故直後、現場には、太郎の左右の靴が散らばっていた。左足の靴は、第一通行帯上で、太郎が轢過された見取図1のfile_14.jpg地点から東約5.40メートル地点にあり(甲車の進行方向の後方で見取図2のfile_15.jpg付近、なお、距離は見取図1を基礎にして計算した。)、右足の靴は、第二通行帯上で見取図1のfile_16.jpg地点から南約8.60メートルの地点にあった(甲車の進行方向の前方、なお、距離は左足の靴と同様の方法により計算した。)。その状況は、見取図1のとおりである。
(4) 太郎の死体の状況
ア 太郎の死体の実況見分調書(甲7の3)
本件事故当日、高知警察署司法警察員が近森病院若林和樹医師の立会のもとに、太郎の死体(身長一五六センチメートル)を外部から目視した結果は、要旨、次のとおりである。
(ア) 頭部顔面
①右側頭部には、挫裂傷があって出血し、②前頭部には、眉間から上方に向けて裂傷等があって出血し、③顔面には、骨折によると思われる変形が認められ、唇上下には挫裂傷、前顎部にはかぎ様の挫裂傷があって出血が認められた。
(イ) 頸部
正面正中よりやや左に擦過傷があり、内出血が認められた。
(ウ) 胸部
①胸部には、右鎖骨下に打撲、擦過傷があり、小量の出血及び内出血があり、②腹部には、横方向に擦過傷が認められた。
(エ) 背部
頭頂部から下方約五七センチメートルの左側腹部寄り部分に打撲、擦過傷があり、頭頂部から下方約五三センチメートルの左側腹部に擦過傷があり、内出血が認められた。
(オ) 左手
①上腕前部に打撲、擦過傷があり、内出血が認められ、②手首内側には、一〇条程の切創があり、小量の出血の凝固が認められた(なお、この切創は、小野川転落事故の際にできた傷と思われる。)。
(カ) 右手
①上腕後部に拳大の打撲があり、内出血が認められ、②くるぶし外側に擦過傷があり、小量の出血が認められた。
(キ) 左足
顕著な損傷は認められなかった。
(ク) 右足
踵の上方に打撲、擦過傷があり、内出血が認められた。
イ 死体検案書(甲9)
近森病院若林和樹医師が作成した死体検案書によれば、次のとおり、記載されている。
(ア) 死亡時間 午後一〇時四五分
(イ) 直接死因 肺挫傷、血気胸、下顎損傷
(ウ) 死亡時の状況 路上で倒れている所を車にひかれた
ウ 飲酒状況(乙21)
太郎の本件事故による死亡後の血中アルコール濃度は、一ミリリットル当たり3.3ミリグラムで、泥酔状態であった。
エ 私的鑑定意見書(乙22の1〜3)
前順天堂大学客員教授医学博士乾道夫は、被告訴訟代理人弁護士島林樹から、本件事故についての意見を求められ、平成一三年六月一一日付「鑑定意見書」と題する書面を作成したが、その中で左手首の傷につき、次のような意見を述べている。
「太郎が、前部フロントガラスに手を触れただけでは、手関節内側のみに選択的に切創が形成されることはありえないから、この傷は、太郎が小野川転落事故により割れた前部フロントガラスの破片で、手関節内側に自殺者にしばしば見られる「ためらい傷」を自傷したものである可能性が多い。」
(5) 甲車、乙車の状況
ア 甲車(甲7の4)
高知警察署司法警察員がA運転の甲車を実況見分した結果は、要旨、次のとおりである。
(ア) 車体外面の状況
外面は、各面とも土砂等の付着物はなく乾燥しており、全面(前面の誤記と思われる)、後面、左右面には、衝突痕等の車両損傷箇所は認められない。
(イ) タイヤの状況
左前輪外側に擦過痕が認められた。
(ウ) 車体底部の状況
①エンジンカバー左側部左前付近、中央部後端部、オイルパン部に払拭痕が認められ、②エキゾーストパイプ部、フロントフロアーバン部左側に擦過痕が認められた。
イ 乙車(甲7の5)
高知警察署司法警察員がB運転の乙車を実況見分した結果は、要旨、次のとおりである。
(ア) 車体外面の状況
外面は、各面とも土砂等の付着物はなく乾燥しており、前部バンパー右角及び後部バンパー左角に擦過痕が認められた。
(イ) 車体底部の状況
①フロントストラットバー左取り付け部に肉片様の付着物及び血痕様のもの、②フロントサスペンションロアアーム部、フロントフロアーバン部、ガソリンタンクカバー部、左後輪タイヤハウス内部及び泥除け部にそれぞれ血痕様のものの付着が認められ、③ストラットバー左側部、ストラットバー右取り付け部に擦過痕が認められた。
(ウ) タイヤの状況
左後輪内側に払拭痕が認められた。
5 本件事故直後の状況(甲16、原告花子)
(1) 原告花子は、午後一一時前に高知警察署から本件事故の連絡を受け、直ちに、高知警察署に赴いた。
(2) 原告花子は、本件事故の状況を聞く前は、太郎が自殺したのか否か半信半疑であったが、目撃者である濱村の話を聞き、事故と考えるようになった。
6 太郎の経済状態(乙5、8ないし13、17ないし21、原告花子)
(1) 太郎の経営する□□建装の税務申告による売上及び経常損益は、次のとおりであった。
ア 平成七年四月一日から平成八年三月三一日まで
売上八八四四万四九四〇円、経常損失六九万八二七六円
イ 平成八年四月一日から平成九年三月三一日まで
売上七二三五万九七七八円、経常利益五二万〇九七二円
ウ 平成九年四月一日から平成一〇年三月三一日まで
売上五五九四万八四三八円、経常損失九八万六二三六円
(2) 太郎及び□□建装の本件事故当時の借入金明細は、次のとおり合計五二四九万八〇六九円である。
ア 太郎の愛媛信用金庫に対する借入金残高三六一七万三九一三円
イ □□建装の株式会社日栄に対する借入金残高一一八〇万円
ウ □□建装の株式会社商工ファンドに対する借入金残高一八〇万円
エ 太郎の株式会社ニッシンに対する借入金残高一五万円(ただし平成一〇年一二月三〇日時点)
オ □□建装の株式会社マツシンに対する借入金残高五〇万円
カ □□建装の有限会社松本興産に対する借入金残高一七七万〇五九六円
キ □□建装の株式会社三和新建材に対する借入金残高三〇万三五六〇円
(3)ア 太郎ら家族の住居である太郎所有の愛媛県伊予群松前町大字大間小ノ町<番地略>ほか四筆の宅地地積合計439.80平方メートルには、①平成七年一月二七日設定の債権者愛媛信用金庫、債務者太郎、極度額二六四〇万円の根抵当権、②平成八年二月一九日設定の債権者住宅金融公庫、債務者太郎および原告花子、債権額一五〇〇万円の抵当権がそれぞれ設定されている(なお、同所<番地略>所在の太郎と原告花子共有の建物には、①平成八年二月一九日設定の債権者住宅金融公庫、債務者太郎及び原告花子、債権額一五〇〇万円の抵当権、②平成八年一〇月二八日設定の債権者愛媛信用金庫、債務者太郎、極度額二六四〇万円の根抵当権がそれぞれ設定されている。)。
イ アの太郎所有の各土地の平成一〇年度固定資産課税台帳に記載されている評価額は、合計一五八四万三四六四円である。
(4) 本件事故前後の□□建装振出の支払手形の明細によると、①株式会社日栄に対し、支払期日を、ア 平成一〇年一一月九日とする二五〇万円と二九万一一七七円の二口、イ 同年一二月八日とする二五〇万円と三三万二八九〇円の二口、ウ 平成一一年二月二日とする一〇〇万円と一一万六五二七円の二口、エ 同年三月二日とする一五〇万円と一六万六二八〇円の二口、②松山税務署に対し、支払期日を、平成一〇年九月三〇日とする一口、同年一〇月三一日から平成一一年七月三一日まで毎月末日とする二〇万円の一〇口、同年八月三一日とする一三八万七三七六円の一口、③株式会社マツシンに対し、支払期日を、平成一〇年一一月六日、同年一二月一一日、平成一一年一月一一日、同年二月一六日とする各五〇万円の四口がある。
(5)ア 太郎は、昭和五八年六月一五日ころ株式会社ニッシンと取引を始めたが、紛争となり、昭和六三年一二月二三日、和解した。また、□□建装は、平成五年六月二二日ころから株式会社日栄と取引を始め、平成八年六月二〇日ころから株式会社商工ファンドと、平成九年三月四日ころから株式会社マツシンと取引を始めた。
イ なお□□建装は、愛媛信用金庫から担保がないと貸せないといわれ、株式会社日栄、株式会社マツシンから主に借入れるようになった。
ウ 太郎、原告花子は、□□建装からの収入合計約三〇万円をもって、愛媛信用金庫に対する住宅ローンの支払(住宅金融公庫分を含む)、生活費等を賄っていた。
7 その他(甲16、乙5、21、原告花子)
(1) 太郎は、平成九年一月一六日から平成一〇年九月六日まで、被告から、本件保険契約に基づき、太郎、原告らが傷害を負ったとして、八回にわたり、合計一一万二〇〇〇円の保険金の支払を受けている。
(2)ア 太郎は、アリコジャパンの死亡保険金六五〇〇万円のほか、本件保険契約五口に加入していた。
イ 原告らは、本件事故に関し、アリコジャパンの死亡保険金六五〇〇万円のうち、二五〇〇万円を受け取ったが、四〇〇〇万円については、泥酔時の事故であるとして保険金を受け取ることはできなかった。
ウ また、原告らは、本件事故に関し、自賠責保険から三〇〇〇万円、Bの加入する任意保険から平成一三年四月に二〇〇〇万円を受け取った。
(3) 原告花子は、本件事故の前日である平成一〇年一一月二七日、それまで口座引き落としができなかった本件保険契約に基づく保険料を一括して被告に支払った。
第4 争点に対する判断
1 ①ア 太郎は本件事故前の平成一〇年一〇月二一日に転倒して頚部脊柱管狭窄症、頚部挫傷等と診断され、以後、ほぼ毎日短時間ではあるが坪井整形外科に通院していたこと、同月三〇日には、頚椎椎間板障害で松山赤十字病院に救急車で搬送されたこともあり、これらの事実からすると、太郎は□□建装の仕事も十分にこなすことはできなかったのではないかと推認されること、イ 太郎は、本件事故前後ころ、□□建装の株式会社日栄、株式会社マツシン、松山税務署に対する手形の決済やその他の負担していた多額の債務の支払に追われていたこと、ウ小野川転落事故に関し、それに至る経過、その時間帯、態様、太郎が、興奮し、精神的にも不安定な状態で、警察官松下に対し、「死のうと思って車で川に飛び込んだ。」と答えていること、エその際、太郎の左手首内側には、一〇条程の切創があるが、これはその部位等からして、太郎が、自動車の割れた前部フロントガラスの一部を用いて自傷したいわゆる「ためらい傷」であると考える余地もあること、以上のアないしエを総合すると、太郎は、小野川転落事故に際し□□建装の債務の支払等に追われており、これに自己の健康状態も思わしくないことなどが重なった結果、自殺を試みるに至ったと推認しても不合理ではないと考えられること、②太郎は、小野川転落事故を起こして、警察官に取り調べられた数時間後であるにもかかわらず、その当日の午前九時ころ、カバンも持たずに、愛媛県伊予群松前町所在の自宅から、神戸の霊法会本部へ行くといって出かけ、しかも、実際には、方角の全く異なる高知市へ赴いており、興奮状態が持続し、かつ、言うことと行動が一致せず、情緒不安定な状態であったと推認されること、③原告花子は、このような太郎の様子から、不安になって、高知県警察本部に捜索を依頼していること、④ア 太郎の顔面等の傷害からすると、太郎が顔面を上にした状態で轢過されていると考えられること、イ最初に太郎を轢過した甲車の車体外部に損傷箇所がなく、その車体底部に擦過痕等があること、以上のア・イを総合すると、太郎は酒に酔っていたとはいえ、自ら、自動車が頻繁に行き交う高知市の幹線道路の中央にある電車軌道側に頭を置いた状態で仰向けとなって横たわっていた状態であったと考えられること、⑤原告花子は、本件事故の連絡を高知警察署から受けて太郎が自殺したのではないかと一旦は半信半疑になったこと、これら①ないし⑤を総合すると、本件事故は太郎が自ら招来した自損事故と推認するのが合理的であると考えられるから、本件事故が、偶然に生じた事故であると認定することはできないと言わなければならない。
file_17.jpg| | / SEMUAORAB AN (OF LED (6D) | | a2(1)ア 濱村によれば、太郎は、本件事故直前には、見取図2のfile_18.jpg点に横たわっており、その後、立ち上がって、車道に進入したことが認められるから、見取図2のfile_19.jpg地点と本件事故発生地点である見取図1のfile_20.jpg地点との距離が短いこと、太郎が立ち上がってから、本件事故が発生するまでの時間が短時間であることからすると、太郎が、甲車の前を先行して走行する車に衝突した可能性も考えられなくはない。
イ しかし、①前記認定のとおり、A運転の甲車の前を先行して走行していた自動車二台は、太郎を避けて走行しており、これら二台の車が太郎に衝突したとは考えられないし、②乙車を運転していたBも、乙車で太郎を轢過するまでにドンという音を聞いていないこと、③濱村も、ドンという音を聞いて即座に太郎の倒れている地点に駆け付けると、甲車・乙車が停止しているのを確認したとするだけで、甲車の前を走行していた先行車が衝突したのを見たわけではないこと、④加えて、本件全証拠によるも、本件事故直前直後の目撃者である濱村に不信を抱かせるような動きをした他の車が存在した形跡もないこと、以上の①ないし④からすると、先行車が、太郎に衝突したと認定することはできず、そうすると、A運転の甲車、B運転の乙車が轢過したのは、電車軌道上に仰向けとなって横たわっている太郎であり、結局、本件事故が、偶然に生じた事故であるとはいえないこととなる。
(2)ア 次に、①太郎の両足の靴が、轢過地点から、右足分が南西へ約8.60メートルの地点、左足分が東へ約5.40メートルにそれぞれあり、散らばっていたこと、②太郎の背部の頭頂部から下方約五三センチメートルないし五七センチメートルの左側腹部に打撲、擦過傷があり内出血も認められたこと、③濱村がドンという音を聞いたこと、これらの事実からすると、甲車に先行して走行していた他の車が、甲車が轢過する前に、仰向けに横たわっていない状態の太郎に衝突した可能性も考えられなくはない。
イ しかし、後続の乙車の車体には、その底部のみならず、前部バンパー右角及び後部バンパー左角に擦過痕が認められることからすると、仰向けに横たわっている太郎を甲車が轢過して太郎の体に衝撃が加えられた直後に、乙車が続いて太郎を轢くとともに太郎の体の一部と接触したとも考えられるから、甲車の車体底部と太郎との接触、乙車の車体底部及び前後の各バンパーとの接触により、①太郎の右足の靴は、轢過地点から甲車進行方向の南西へ約8.60メートルに飛ばされ、左右の靴が異なる方向に散らばり(ただし、左足の靴は、甲車進行方向の後方の東約5.40メートルの当初太郎が横たわっていた見取図2のfile_21.jpg付近にあるが、これが、酪酊していた太郎が立ち上がった際にすでに脱げてその場に放置されたものか、あるいは、その後の甲車、乙車の轢過ないし接触により、飛び散ったのかは、いずれも決めがたい。)、②太郎の背部に損傷を与え、③ドンという音を発した可能性もないではないこと、その他、太郎を轢過したA、B、目撃者である濱村において、いずれも、太郎と衝突した甲車に先行して走行していた他の車の存在を勾わすような証言を一切していないことに照らすと、これら①ないし③の事実から、太郎が甲車に先行して走行していた他の車に衝突したと解することはできず、前記1の認定を左右することはできないといわなければならない。
file_22.jpgA SSHBAG NE OR 2 ED) GEL) f Gane & fers f ts m= 4 H ! es EERE ee = ees AR Et Beberareme3 以上のとおりであり、①本件事故当時の太郎の健康や経済状態、②本件事故直前の小野川転落事故の状況、③本件事故に至までの太郎の精神状態、④本件事故の態様、⑤本件事故原因についての原告花子の印象等からして、本件事故を偶然の事故であると認定することはできない。
第5 結論
よって原告らの本訴請求は、理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官・豊永多門)