松山地方裁判所 平成12年(行ウ)11号 判決 2003年2月13日
原告
A株式会社
同代表者代表取締役
甲
同訴訟代理人弁護士
矢野真之
同
五葉明徳
同
森岡宗平
同補佐人税理士
木村茂雄
被告
今治税務署長 愛宕敏幸
同指定代理人
金村敏彦
同
横山和可子
同
片野正樹
同
近藤徳好
同
安藤英昭
同
富﨑能史
同
石丸邦彦
同
今井優
同
玉井正英
同
松田修治
同
大澤玄瑞
同
和泉康夫
同
坂東利定
同
鈴木久市
同
倉本幸芳
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告の原告に対する次の処分を取り消す。
(1) 平成9年4月4日付、今法第1号、自平成6年9月1日至平成7年8月31日事業年度分法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分
(2) 平成9年4月4日付、今法第2号、自平成7年9月1日至平成8年8月31日事業年度分法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分のうち、役員賞与の損金不算入額を1億3592万2331円とした部分、雑益を69円とした部分及び過大な役員報酬額を1583万1633円とした部分。
(3) 平成9年4月4日付、今法第3号、自平成6年9月1日至平成7年8月31日課税期間分消費税の更正処分及び加算税の賦課決定処分
(4) 平成9年4月4日付、今法第4号、自平成7年9月1日至平成8年8月31日課税期間分消費税の更正処分及び加算税の賦課決定処分
(5) 平成9年4月4日付、今法第54号、平成9年度源泉所得税の納税告知処分及び加算税賦課決定処分のうち乙の受取家賃及び支払手数料にかかる部分及び丙・丁・戊の各受取家賃にかかる部分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第2争いのない事実
1 当事者等
(1) 原告は、愛媛県越智郡菊間町に本店を置く、港湾建設業を営む株式会社である。なお、同所に本店を置き、原告と役員をほぼ共通とする関連会社B株式会社(以下「B」という。)がある。
(2) 乙について
乙は原告の創業者及び元代表者であり、現在では取締役等からは退いているが、後記2の被告今治税務署長による処分について、法人税法2条15号、同法施行令7条1号にいう「役員」に該当するものである。また、平成5年1月から平成9年2月までの間、乙及びその家族は、原告所有に係る、愛媛県越智郡菊間町の土地及び同所にある建物(以下、当該土地5筆を「本件土地」、当該建物を「本件建物」、本件土地及び本件建物を「本件社宅」という。)に無償で居住していた。
(3) 丙、戊及び丁(以下「丙ら」という。)について
ア 丙
平成7年8月から平成9年2月までの間、原告取締役丙及びその家族は原告が借り受けている原告大分支店(大分県別府市)に無償で居住していた。
イ 戊
平成7年10月から平成9年2月までの間、原告取締役戊は、原告所有の原告東京支店(東京都千代田区)に無償で居住していた。
ウ 丁
平成5年1月から平成9年2月までの間、原告取締役丁及びその家族は、B所有の原告名古屋営業所(名古屋市中区)に無償で居住してしいた。
2 被告今治税務署長による処分(以下の各処分をまとめて「本件各処分」という。)
(1) 平成6年9月1日から平成7年8月31日までの事業年度(以下「平成7年8月期」という。)ないし同課税期間について
原告の乙に対する支払手数料1億7578万8049円について、当該支払手数料は法人税法35条4項に規定する役員賞与に該当し、同条1項の規定により損金の額に算入すべきでないこと、また消費税法2条1項12号に規定する課税仕入れに該当せず、当該支払手数料に対する消費税3パーセント相当額527万3641円は控除対象仕入税額に算入すべきでないこと(争点1参照)を主な理由として、被告は平成9年4月4日付で以下の各処分を行い、原告に通知した。
ア 法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(甲1)
所得金額 1億8086万7570円
法人税額 6706万5100円
既に納付の確定した本税額 142万2100円
差引法人税額 6564万3000円
過少申告加算税 977万4500円
イ 消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(甲3)
税額合計 1億1698万6950円
控除対象仕入税額 9726万4767円
差引税額 1972万2100円
既に確定した差引税額 1444万8500円
更正決定により納付すべき本税額 527万3600円
過少申告加算税 52万7000円
(2) 平成7年9月1日から平成8年8月31日までの事業年度(以下「平成8年8月期」という。)ないし同課税期間について
<1>原告の乙に対する支払手数料1億3592万2331円について、当該支払手数料は法人税法35条4項に規定する役員賞与に該当し、同条1項の規定により損金の額に算入すべきでないこと、また消費税法2条1項12号に規定する課税仕入れに該当せず、当該支払手数料に対する消費税3パーセント相当額407万7669円は控除対象仕入税額に算入すべきでないこと(争点1参照)、<2>原告が乙に対して本件社宅を無償で貸与していることにつき、被告において算出した乙に対する賃貸料相当額合計3680万4033円が、法人税法34条2項の規定により、同人に対する役員報酬と認められ、同人に対する役員報酬の対価として相当と認められる金額2097万2400円を超える1583万1633円について、同条1項及び法人税法施行令69条1項の規定により損金の額に算入すべきでないこと(争点2参照)を主な理由として、被告は平成9年4月4日付で以下の各処分を行い、原告に通知した。
ア 法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(甲2)
所得金額 1億3858万2913円
法人税額 5120万8200円
既に納付の確定した本税額 150万4400円
差引法人税額 4970万3800円
過少申告加算税 737万9500円
イ 消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(甲4)
税額合計 1億0306万2420円
控除対象仕入税額 8821万9849円
差引税額 1484万2500円
既に確定した差引税額 1076万4900円
更正決定により納付すべき本税額 407万7600円
過少申告加算税 40万7000円
(3) 源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(甲5の1ないし5の6)
原告が所有ないし賃借している不動産を、乙、丙らに対して個人の住居として無償で貸与していることにつき、被告において算出した同人らに対する各賃貸料相当額が、それぞれに対する経済的利益と認められ、いずれも所得税法28条1項に規定する給与所得に該当し、その結果平成5年1月分から平成9年2月分に係る源泉所得税が徴収漏れとなっていること(乙について争点2参照。丙らについて争点3参照。)を主な理由として、被告は平成9年4月4日付で以下の各処分を行い、原告に通知した。
ア 源泉所得税額 1億9826万6768円
イ 不納付加算税額 1980万7000円
3 原告は本件各処分を不服として、いずれも平成9年6月3日に異議申立てをしたが、同月24日に棄却され、同年7月23日国税不服審判所長に対し審査の請求をしたが、平成12年6月20日付で審査請求を棄却する旨の裁決がされたため(甲6参照)、同年9月14日、原告は第1記載のとおりの判決を求めて本件訴えを提起した。
4 なお、本件各処分に先立つ平成8年11月から翌9年3月末にかけて、国税実査官による原告に対する税務調査が行われたが(以下「本件調査」という。)、原告及び乙からは、後述の仮払金及び貸付金の具体的支払先は明らかにされず、これに関する資料も提出されなかった。また、本件社宅についても図面等の資料は提出されず、国税実査官による本件社宅への立ち入り見分も乙の許可を得ることができず実現しなかったため、被告は菊間町役場から入手した本件社宅の家屋見取図(乙8)に基づいて本件各処分を行った。
第3争点
1 原告が乙に対して有する仮払金及び貸付金債権(以下「本件仮払金等」という。)を、同人に対して負う支払手数料債務(以下「本件支払手数料」という。)と清算ないし相殺したことが、同人に対する役員賞与の支給に該当するか否か。
(1) 原告の主張
ア 本件支払手数料及び本件仮払金等の実態は以下のとおりであり、乙に経済的な利益はない。法人税法35条4項によれば、役員賞与とは(税務上の)役員に対して支給される経済的な利益を含むものとされているが、乙に経済的な利益がない以上、本件支払手数料と本件仮払金等との清算・相殺処理は役員賞与には該当しない。
(ア) 本件支払手数料の実態
平成7年8月期については、期末である平成7年8月31日付で当該年度に発生した仮払金4406万1690円を税込みの手数料に振り替え、また税込みで1億3700万円の支払手数料を計上し、未払金とした上で、平成7年9月1日付で貸付金1億3700万円と相殺処理したものである。
また、平成8年8月期については、期末である平成8年8月31日付で当該年度に発生した仮払金4680万円と貸付金80万円の合計4760万円を税込みの支払手数料に振り替え、また税込みで9240万円の支払手数料を計上し、未払金とした上で、同日貸付金9240万円と相殺処理している。
以上のとおり本件支払手数料は、いずれも現金が支給されているものではなく、仮払金の清算ないしは貸付金との相殺という形で処理されているものであり、これが乙に対する経済上の利益となるか否かは本件仮払金等の実態により判断されるべきである。
(イ) 本件仮払金等の実態
原告から乙に交付されている本件仮払金等は、原告が工事を受注するための経費であり、乙はこれを自己の利益とすることなく、原告の工事受注のため第三者に交付していたものである。
すなわち、原告は昭和61年の和議認可決定を受けて再建の途を歩むことになったが、信用の低下はいかんともし難く、思うように工事の受注ができなかったため、地元有力者と交際の深い乙が工事受注活動を行うこととなった。その際には、有力者に紹介料や手数料等の見返りを支払うことが必要となり、誰にどの程度の額を支払うかは乙の裁量に委ねられており、原告は臨時株主総会で工事受注のために必要と判断される経費は、乙からの申し出があれば1回5000万円を限度に支出する旨の決議をし、この決議に従い仮払金として乙に金員を交付していた。
また、乙に対する貸付金は、もともと仮払金として残していたものを、長期化したため振替処理によって貸付金としたものであり、その実態は仮払金と同じである。
なお、平成7年8月期になるまで清算・相殺処理をしなかったのは、それまでの原告の決算内容では欠損金が資本金の20パーセントを超えてしまい、建設業法15条の特定建設業の許可基準を維持できなくなる状況だったからである。
本件仮払金等として乙に渡された金銭は、具体的には別紙各明細のとおり、Cほかに支払われたものである。
a 平成7年8月期の仮払金4406万1690円
別紙仮払金明細1記載のとおり、乙からCに対して支払われた。
Cは、新居浜市選出の県会議員であり、県会議長、自民党県連幹事長を歴任した有力者であった。同人は、平成8年12月に死亡したが、乙とは古くから深い親交があった。そこで、乙はCに公共工事等の受注のための尽力を継続的に依頼しており、その見返りとして、別紙仮払金明細1記載のとおりに金員を支払った。
b 平成8年8月期の仮払金4680万円
別紙仮払金明細2(No1)、同(No2)記載のとおり、乙からC、Dに対して支払われている。
C、Dはいずれも別紙仮払金明細2「交付の目的たる工事」欄記載の工事に影響力を及ぼすことができる人物であった。乙は同人らに公共工事等の受注のための尽力を依頼することの見返りとして、別紙仮払金明細2のとおり、金員を交付したものである。
c 平成7年8月期の貸付金1億3700万円
平成7年8月31日現在において、原告には乙に対する貸付金が合計9億7390万6854円計上されており、その中には、別紙貸付金明細1(No1)、同(No2)記載の貸付金合計1億2215万円及び別紙貸付金明細2(No1)、同(No2)記載の貸付金合計1920万円の、合計1億4135万円が含まれており、そのうちの1億3700万円を実質に従って清算したものである。
d 平成8年8月期の貸付金9320万円
平成8年8月31日、原告は仮払金1億8105万2830円を貸付金に振り替えているが、その中には別紙仮払金明細(No1)、同(No2)記載の仮払金合計1億2923万2390円が含まれている。
平成8年8月31日現在において、原告には乙に対する貸付金が合計11億5834万5481円計上されており、その中には、前述の別紙仮払金明細(No1)、同(No2)記載の仮払金合計1億2923万2390円及び別紙貸付金明細3記載の貸付金2080万円の合計1億5003万2390円が含まれており、そのうちの9320万円を実質に従って清算したものである。
イ 損金性について
(ア) Cに対する支払い
乙がCに交付した金員については、特定の工事受注のためのものと、特定の工事受注との関連性のないものとがある。
a 特定の工事受注のためのもの
原告が目的とした工事は、ほとんどが公共工事であり、建前からすれば工事受注のために必要な費用はないはずである。しかし、実情として、まず指名を受けるために有力者の働きかけが必要であり、さらに落札のためには指名業者間での調整が必要であることは、半ば公然の事実である。これらの活動のために資金が必要であることはあるべき姿ではないものの、現実としては資金を使わなければ工事はとれないのであり、特定の工事受注のために支出した金員は、原告にとって必要な費用であり、損金となるべきものである。
b 特定の工事受注との関連性のないもの
Cが原告のために継続して工事受注のための活動をしてくれていることの謝礼としての意味があり、乙の個人的な支払でないことだけは明らかである。ただ特定の工事との関連がない以上、工事受注のための費用とはいい難い面があり、原告の費用ではあっても、その実態は税務上の交際費であると考える。交際費については、その損金算入について税法上制約があり、原告の場合損金算入は認められない。したがって、役員賞与に該当するということとは別の理由で、税務上損金不算入とされることはやむを得ないものと考える。
(イ) E、F及びGに対する支払い
いずれも特定の工事受注のためのものであり、原告にとって必要な費用であり、損金となるべきものである。
(ウ) D、H及びIに対する支払い
乙がD、H及びIにそれぞれ交付した金員については、本来は特定の工事受注のためのものであり、原告にとって必要な費用であり、損金となるべきものであった。しかし内部資料の提供という程度のことはあったものの、同人らが工事受注のために活動した形跡はなく、工事受注のための活動費用という名目で金銭を詐取されたというのが実情である。
したがって、本件金員については、原告にとって必要な費用であったとはいえない。しかし現金の支出が損害となっている以上、原告に税法上の損金が発生していることは事実である(本来の科目としては、雑損として処理すべき損金である。)。
ウ 損金処理の時期について
乙が第三者に交付した金員については、交付した日の属する決算期に損金として処理されるべき性格のものであったが、結果として原告においてはこの損金算入の時期が平成7年・平成8年決算期まで繰り延べられている。
このことは一見利益操作による租税回避のように見られるが、乙が第三者に交付した金員について交付した日の属する決算期に損金として処理していたなら、当該決算においては繰越欠損金が発生し、この繰越欠損金は5年間は繰り越しが税務上認められているため、平成7年・平成8年決算期における税額には、何ら変更はないものである。
(2) 被告の主張
原告が乙に対して負うとされる本件支払手数料にはその実質がなく、原告が同人に対して有する本件仮払金等と相殺することは、乙に経済的な利益を与えるものであり、法人税法35条4項に規定する「賞与」に該当する。
ア 本件支払手数料の実態
本件支払手数料の平成7年8月期及び平成8年8月期における経費処理については原告が主張するとおりであり、本件支払手数料が乙に対する役員賞与に当たるか否かの判断について、本件仮払金等の実態によるべきであるとする点に異論はない。
イ 本件仮払金等について
原告は、本件仮払金等は、別紙仮払金明細等のとおり、乙が公共工事等の受注のための紹介料や手数料等としてC、Dら7名に対して支払った金員であるから、損金性を有する旨主張する。
しかし、本件調査時点においては原告から支払日、支払先等の具体的な説明及び資料提示はなかったこと、本件訴訟における主張も客観的資料に裏付けられたものではなく、もっぱら乙らの供述によるものにすぎないこと、原告は乙からの求めに応じ、その使途、返済時期及び返済方法等について何ら審査検討することなくその都度支出していたことなどからすると、各金員の支払いが現実に行われたこと、仮にその支払いがあったとしても、上記各金員が公共工事等の受注のための紹介料や手数料等として支払われたものであることにはいずれも合理的な疑いが存するのであって、原告の上記主張は失当である。
以上のとおり、本件仮払金等が工事受注のために支払われた手数料であると認めることはできない。
ウ 役員賞与該当性について
原告は本件仮払金等につき、平成7年8月期及び平成8年8月期いずれも期末にそれぞれ振替え又は相殺により本件支払手数料として損金に計上しているが、前述のとおり、本件支払手数料は実態のないものであるから、これを本件仮払金等と相殺することは、乙が原告に対して負っている債務を消滅させることにほかならず、原告が乙に対し経済的な利益を与えたものとみるのが相当である。したがって、本件支払手数料は法人税法35条4項に規定する「賞与」に当たる。
エ なお、原告は本件支払手数料と相殺された本件仮払金等について、乙から第三者への支払いの事実がある以上、乙には経済的利益はなく、したがって役員賞与に当たらないとの趣旨の主張をするが、役員が会社から受領した賞与については、その使途に限定はないから、役員が会社から受領した金員を第三者に支払ったとしても、その事実は、当該金員が役員賞与であることと矛盾するものではなく、原告の主張は失当である(役員賞与であることが否定されるためには、役員から第三者に支払いがなされ、役員の手元に残らなかったというだけでは足りず、それが受注のための資金など、会社のための経費として、使途が限定されて役員に交付されたものであることが必要であるが、本件については、そのような事実は立証されていない。)。
2 原告所有の本件社宅に乙が無償で居住していることにつき、被告が行った乙に対する賃貸料相当額の算出方法が合理的なものだったか否か。
(1) 被告の行った乙に対する賃貸料相当額の算出方法(当事者間に争いがない。)
ア 平成7年9月30日までの本件社宅の賃貸料相当額(月額)の計算式(所得税基本通達36-40)
賃貸料相当額(月額)=(その年度の家屋の固定資産税の課税標準額×10/100+その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×6/100)×1/12
これによると、本件社宅の賃貸料相当額(月額)は168万1436円となる。
(176,415,820円×10/100+42,260,893円×6/100)×1/12=1,681,436円
イ 平成7年10月1日以降の本件社宅の賃貸料相当額(月額)の計算式
(ア) 平成7年10月1日以降に支払いを受けるべき本件社宅の賃貸料相当額の計算については、いわゆる改正役員住宅通達(平成7年4月3日課法8-1、課所4-4国税庁長官通達「使用者が役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算に当たっての取扱いについて」・乙2参照)が適用されうるところ、本件社宅は、本件土地面積8467.74平方メートル、本件建物総床面積940.73平方メートル、加えてプール、テニスコート等の設備もある上、乙に無償で貸与されていることなどから、改正役員住宅通達にいう「社会通念上一般に貸与されている住宅等と認められない」住宅等(いわゆる豪華社宅)に該当するものと認定し、改正役員住宅通達を適用した。
その具体的計算方法として、所得税法施行令84条の2に規定する「その資産の利用につき通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額」を算出するものとして、次の計算式を合理的な賃貸料の算定方法として採用した。
賃貸料相当額(月額)=(土地・建物の取得価額×期待利回り部分+必要経費)×1/12
(イ) 「土地・建物の取得価額」については、帳簿等により正確な取得時期及び取得価額が把握できなかったため、本件法人税の更正処分に当たっての調査時に唯一把握できた昭和58年9月1日から昭和59年8月31日までの事業年度(以下「昭和59年8月期」という。)の期末帳簿価額5億7180万6992円を採用した。
(ウ) 「期待利回り」については、当時の経済情勢等を総合的に勘案して5パーセントとした。
(エ) 「必要経費」としては、通常の賃貸借における賃料に含まれる必要経費を考慮し、次のものを算入した(aないしcの合計1573万9582円)。
a 建物の平均固定資産税額(建物に対する平成5年度から平成8年度までの平均固定資産税額241万5250円)
b 土地の平均固定資産税額(土地に対する平成5年度から平成8年度までの平均固定資産税額56万5850円)
c 建物、電気設備等に関する減価償却費合計額(1275万8482円)
その詳細は以下のとおり。なお、減価償却費については、前述のとおり、帳簿等により正確な取得時期及び取得価額が把握できなかったため、調査時に唯一把握できた昭和59年8月期における帳簿価額を基に定額法で算出した。
(減価償却資産名) (耐用年数) (減価償却費)
建物 60年 4,144,567
電気設備 15年 1,140,000
給排水設備 15年 1,718,400
冷暖房設備 15年 1,474,275
昇降設備 15年 53,610
庭 20年 1,823,298
道路舗装 15年 1,024,200
塀 30年 836,100
プール 30年 260,682
テニスコート 30年 283,350
合計 12,758,482
(オ) 以上によると、本件社宅の賃貸料相当額(月額)は369万4160円となる。
(571,806,992円×5%+(2,415,250円+565,850円+12,758,482円))×1/12=3,694,160円
ウ 本件社宅における乙使用部分の認定方法
被告は、菊間町役場から提出を受けた本件社宅の家屋見取図(乙8)中の名称及び構造等から判断して、応接室82.81平方メートル、ゲストルーム39.75平方メートルを法人使用部分とし、建物総床面積940.73平方メートルから法人使用部分合計122.56平方メートルを除いた818.17平方メートルを個人的使用部分と認定した。
エ 以上の計算によると、平成8年8月期における、本件社宅のうち乙個人使用部分に係る賃貸料相当額、すなわち乙に対する賃貸料相当額は、3680万4033円となり、これが原告の乙に対する役員報酬となる。
1,681,436円×818.17/940.73=1,462,375円
3,694,160円×818,17/940.73=3,212,878円
1,462,375円×1か月+3,212,878円×11か月=36,804,033円
オ 近隣署管内の同業種法人から、売上高が原告の2倍以下で、かつ2分の1以上の法人を抽出し、これらの法人の代表者の報酬平均額として算出された2097万2400円が、原告の乙に対する役員報酬として相当な額であり、これを超える部分の金額(1583万1633円)につき、法人税法34条1項及び同法施行令69条1号の規定により、損金の額に算入されないものとした。
カ 本件調査について
なお、本件調査においては、原告側から本件社宅が来客用の接待・宿泊施設であるとの説明があったが、その使用を証明する具体的な資料の提出はなかった。そのため、国税実査官が本件社宅の利用状況の確認を行いたい旨を申し出たところ、原告側から、居住者である乙の許可がないと確認には応じられない旨の回答があった。そこで、調査担当者は、居住者である乙に確認の許可を求めたが、同人は利用状況については図面等で確認可能である旨を主張し、本件社宅の見分を拒否した。
(2) 被告の主張
以下のとおり、被告の行った乙に対する賃貸料相当額の算出方法は合理的かつ相当である。
ア 平成7年9月30日までの本件社宅の賃貸料相当額の算出は、所得税基本通達36-40(乙1参照)に掲げられた計算式を基に算出したものであり、問題はない。
イ 平成7年10月1日以降の本件社宅の賃貸料相当額の算出
(ア) 同期間について、被告は改正役員住宅通達(乙2参照)を適用した。同通達には具体的計算方法は掲げられていないが、本件社宅のような、いわゆる豪華社宅の賃貸料相当額は、時価(実勢価格)によるものとされており(乙3参照)、ここでいう「時価」とは、「通常支払うべき使用料その他その利用の対価に相当する額」(所得税法施行令84条の2)をいい、具体的には、客観的にみて合理的と認められる賃貸料の額をもって「通常支払うべき使用料」とみるのが相当であると解される。
被告は、これを算出する計算式として、いわゆる積算法(対象不動産について基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費を加算して賃貸料相当額を算出する方法。)を採用した。
a 積算法は、投下資本については、合理的経済人であるならば当然にその回収を図るであろうことを基礎にしているため、対象不動産の取得価額を基礎価格とすべきであるが、被告は原告及び乙から本件社宅の取得時期及び取得価額等を証する資料の提供が得られなかったため、やむなく昭和59年8月期末の帳簿価額を基礎価格としたものである。
b 期待利回りとは、アパート等の経営において空室等があることを見込んで設定される「賃貸借等に供する不動産を取得するために要した資本に相当する額に対して期待される純利益のその資本相当額に対する割合」をいい、通常は取得価額の10パーセント前後に設定されるものである。
しかし、被告は、バブル崩壊後における経済情勢等の事情にかんがみると、本件社宅につき10パーセント前後の期待利回りを設定したのでは実態に即していないと判断した。その上で、被告は、本件社宅が専ら乙の趣味・嗜好に従って建設され、同人が個人的に居住してきたことを勘案し、本件社宅は原告から役員である乙に対して貸し付けられた資金によって取得されたものと同視できるものと判断した。そして、所得税基本通達36-49(乙4参照)の「使用者が役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息相当額については、…その貸付金が役員又は使用人の居住の用に供する家屋又はその敷地の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利の取得資金に充てるためのもの…である場合には、おおむね年5%の利率により評価する」との規定を考慮して、期待利回りを年5パーセントと設定したものである。原告主張のように単に民法上の法定利率を採用したものではない。
c なお、通常の調査であれば、源泉徴収義務者の側から十分な資料が提供され、それらを総合勘案した上で適正な賃貸料相当額を算出することができるのであるが、本件の場合、前述のとおり原告及び乙から十分な協力が得られなかったため、被告としてはやむを得ず、本件調査時点においてとり得た最も合理的な方法により、本件社宅の賃貸料相当額を算出したものである。現実の賃貸料相場をみても、さほど頻繁に賃貸料が変動するわけではないところ、被告採用の方法によれば、大きな偏りがなく、定額に近い賃貸料を設定でき、合理的である。
(イ) 原告提出の不動産鑑定評価(甲7。以下「本件評価書」という。)について
原告は、本件社宅の賃貸料相当額につき、本件評価書を提出し、同評価書に記載された金額が相当であり、被告算出結果は不相当である旨主張する。しかし、本件評価書には、以下のような問題点があり、これらを踏まえて検討すると、本件社宅の平成7年10月1日以降における賃貸料相当額を算定するに当たり、被告が本件社宅の基礎価格としたところが不当でないことは明らかである。
a 評価方法について
本件評価書は、本件社宅の適正賃貸料を、積算賃料及び賃貸事例比較法を援用する方法に基づく比準賃料を関連づけて決定された鑑定評価額を採用する。しかしこのような評価方法では、実際には賃貸借が行われていない自用の住宅地についても、賃貸借の存在を仮定し、借地権等を勘案した土地の評価を行うこととなり、評価の対象となる資産の価額が実際の資産の運用とは全く異なって算定される結果となってしまうから、合理性のある評価方法であるとはいえない。
また、本件社宅はいわゆる豪華社宅であるが、豪華社宅の形態等は様々であり、一般社宅に比べて個別性が強いものである。その意味で、豪華社宅の賃貸料相当額を算定するにつき、近隣の同規模の住宅や社宅の価額を参考にする方法を用いることには、ある程度の限界があるというべきである。
b 本件土地の基礎価格について
(a) 個別的要因としての規模大として30パーセントの減額を考慮しているが、いわゆる潰れ地となる部分の割合を考えると、本件土地は間口約133.5メートル、奥行約68メートルの長方形(略台形)の形をした土地であるから、幅4メートル×長さ68メートルの道路を3本敷設すること、すなわち、本件土地面積の10パーセント足らずである約816平方メートルの土地を道路とすることで、本件土地の有効な区画化が可能となるから、規模大として考慮すべき個別的要因は10パーセント程度とみるべきである。
(b) 本件土地を賃貸市場が未成熟の地域にあるものとし、収益価格を10パーセントのウエイトで加味しているが、むしろ賃貸市場の形成が期待できない地域というべきであるから、収益価格は考慮すべきでない。
(c) 10パーセントの建付調整(建付減価)をしているが、建付地は、地上建物等を取り壊すことによって更地にすることができるため、当該建物等の取り壊し費用の範囲内において建付原価率を求めるという考え方が一般的であり、実際の土地評価に当たっての建付原価率は、地価水準と取り壊し費用の関係において一様ではないが、最大でも5パーセント程度である。
(d) 以上を踏まえて、本件評価書の計算方式により本件土地の基礎価格を算出すると、3億1984万円となる。
c 本件建物の基礎価格について
(a) 本件建物及び附属設備の取得価額は昭和56年9月1日から昭和57年8月31日までの事業年度(以下「昭和57年8月期」という。)の確定申告書から4億5300万1367円と認められるところ、本件建物の再調達原価の算出に当たっては、取得当時の1平方メートル当たりの建設単価と鑑定評価時点の1平方メートル当たりの建設単価とを比較して求める方法が、合理性と簡便性に基づいた妥当な計算方法であると考えられる。そこで、本件建物の再調達原価を求める算式を上記の方法に基づいて示すと、
取得原価×平成7年の鉄筋コンクリート造建物の1平方メートル当たりの建設単価/昭和56年の鉄筋コンクリート造建物の1平方メートル当たりの建設単価=再取得原価
となり、これに建設統計年報(財団法人建設物価調査会発行)の建設単価を基にした具体的な数値を当てはめて計算すると、本件建物の再調達原価は、次のとおり6億4994万4282円となる。
453,001,367円×199,000円/138,700円=649,944,282円
(b) 本件評価書では、鉄筋コンクリート造ルーフィング葺陸屋根3階建である本件建物の耐用年数を40年として計算しているが、平成7年10月1日当時に適用されていた「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」(昭和40年3月31日大蔵省令第15号)の別表第一においては、鉄筋コンクリート造の住宅用建物の耐用年数は60年と定められている(乙5)。
(c) 本件評価書では、本件建物の観察減価を30パーセントとしているが、本件建物はゲストルームとしても利用されていることから、維持管理には十分な配意がされているはずであり、減価償却額を超える大きな減価は考えられず、せいぜい10パーセント程度とみるのが相当である。
(d) 以上を踏まえて、本件評価書の計算方式により本件建物の基礎価格を算出すると、4億0036万円となる。
d 本件社宅の基礎価格及び被告による算出結果の相当性について
b及びcによれば、本件社宅の基礎価格はこれらを合計した7億2020万円となるところ、被告が本件社宅の算出方法において基礎価格とした5億7180万6992円を大きく上回っている。
(ウ) 固定資産評価額との関係
本件社宅の平成7年10月1日以降の賃貸料相当額算定の基礎価格について、固定資産評価額との関係からみた本件土地の時価及び本件建物及び附属設備の減価償却後の価額を算定して検討すると、以下のとおり、被告が本件社宅の基礎価格としたところが不当でないことは明らかである。
a 固定資産評価額から判断される本件土地の時価について
本件土地の平成7年度における固定資産評価額は3億7088万7012円である(乙17)ところ、固定資産評価額は地価公示価格の約7割を指すものと解されるから(乙15、16参照)、本件土地取引の指標となる価額は、固定資産評価額を0.7で割り戻した価額5億2983万8588円であると判断される。
さらに、この価額に前述した規模大の減算要素10パーセント及び建付調整の減算要素5パーセントを加味すると、本件土地の時価は4億5036万2799円となる。
b 本件建物及び附属設備の平成7年10月1日現在における減価償却後の価額について
本件建物及び附属設備の取得価額は、前記のとおり4億5300万1367円と認められるところ、取得時から改正役員住宅通達適用時である平成7年10月1日の前日まで定額法に基づき減価償却を行ったとすると、同日における減価償却後の本件建物及び附属設備の価額は2億7757万2230円となる。
c 本件土地の時価と本件建物の減価償却後の価額について
a及びbによれば、本件土地の時価と本件建物の減価償却後の価額の合計額は7億2793万5029円となる。この額は、前記(イ)dの算出結果7億2020万円とほぼ同額であり、やはり被告が本件社宅の算出方法において基礎価格とした5億7180万6992円を大きく上回っている。
ウ 本件社宅の使用割合について
(ア) 前記のとおり、本件調査時には原告及び乙から協力が得られなかったため、唯一入手していた本件社宅の家屋見取図(乙8)のみに基づいて使用割合を判断せざるをえなかったものである。
(イ) 本件社宅に対する乙の個人的使用割合に関する原告の具体的主張は、本件訴訟になってから提出されたものである上、宿泊者名簿や使用実績簿等の客観的、具体的な資料に基づくものではなく、そのほとんどが乙ら原告側関係者からの聴取に基づくものに過ぎないから、到底信用するに足りるものではない。
(ウ) 本件社宅に係る経済的利益の享受者について
なお、原告は、乙の家族のうち独立して生計を営んでいる者が使用している部分は、乙が経済的利益を受けているのではない旨主張するが、親族が同一家屋内に起居している場合にあっては、明らかに互いに独立して生活を営んでいると認められる場合を除き、これらの親族は生計を一にするものと解され、そのような場合には、社宅に居住することによる経済的利益は生計の主宰者のみが受けるというべきである。そして、明らかに互いに独立して生計を営んでいるというためには、少なくとも家事上の共通経費について実費精算が行われ、当事者間で支出した金銭については、債権債務の発生や決済の状況が明確にされていることが必要と解すべきであるが、本件ではこのような事情は認められないから、原告の主張は理由がない。
(3) 原告の主張
ア 本件社宅の賃貸料相当額の算出方法について
上記被告による賃貸料相当額の算出方法は、以下のとおり、土地建物に投下した資本から5パーセントの純利益を原告が常時得るものとして仮定して算定されたものに過ぎず、通常の使用料、時価、実勢価格といった賃貸料を算出するに当たって当然に重要視しなければならない概念とはかけ離れた異質なものであり、不相当である。
(ア) 被告は本件社宅の時価を問題とせず、本件社宅の取得価額(原告の投下資本)を賃貸料算出の基礎としている。このため、本件建物の老朽化に関わりなく、賃貸料はいっでも同額となる。
(イ) 被告は土地と建物の区別なく、期待利回りを一律に5パーセントとしている。被告は経済情勢等を総合的に勘案して決定したかのように主張しているが、民法上の法定利率を採用しているのではないかと考えられる。
イ 本件評価書(甲7)について
原告が不動産鑑定士に依頼して鑑定を受けた結果、本件社宅の適正賃貸料相当額(月額)は、以下のとおり、145万9000円とされた。これに比して、被告による算出結果は不当である。
(ア) 本件土地を更地と仮定した場合の適正価格を3億0910万円と評価し、10パーセントの建付調整をして積算価格を2億7820万円と評価する。
本件建物の再調達価格を3億0970万円と評価し、経過年数(13.8年)、経済的残存耐用年数(耐用年数40年として26.2年)及び管理の状態(観察減価30パーセント)等を総合して現価率を0.459とし、積算価格を1億4210万円と評価する。
(イ) 本件社宅は通常より広大な敷地上に、しかも高額な内装材を施して建築されたもので、土地建物一体としては、その規模、価格大により市場性の減価が認められる。そこで、積算価格から20パーセントを減価して、本件土地の基礎価格を2億2256万円、本件建物の基礎価格を1億1368万円、合計3億3624万円と評価する。
(ウ) 以上で算定した基礎価格に期待利回りを乗じて得た額に、必要経費である固定資産税等を加算して土地建物の積算賃貸料を求める。土地の期待利回りを3.5パーセントとし、建物の期待利回りを6パーセントとしてそれぞれの積算賃貸料を算定すると、本件土地の積算賃貸料は年額838万1300円、本件建物の積算賃貸料は年額929万0600円となり、本件社宅の年額積算賃貸料は1767万1900円、月額に直すと147万3000円となる。
(エ) この積算賃貸料を、賃貸市場の動向を考慮した比準賃料で修正した結果、適正賃貸料相当額(月額)は145万9000円となる。
ウ 本件社宅の使用割合について
(ア) 本件社宅は、原告における来客接待用のゲストハウス兼乙及びその家族の住居として建築されたものであり、平成5年1月から平成9年2月までの間においては、以下のとおりの使用状況であった。
a 来客接待・宿泊専用の部分
別紙図面1及び2の赤線で囲んだ部分。床面積合計は531.190833平方メートル。
b 乙の家族のうち、独立して生計を営んでいる者が居住していた部分
別紙図面2の青線で囲んだ部分。床面積合計100.751平方メートル。
乙の長男甲及びその家族、三男丙、五男J並びに六男戊がそれぞれ乙とは独立した立場で使用していた。
c 乙とその扶養家族が居住の用に供していた部分
別紙図面1の黄線で囲んだ部分。床面積合計74.2932平方メートル。
d 共用部分
aないしc以外の部分。床面積合計は221.527685平方メートル。
(イ) なお、乙の報酬とみなされるべき賃貸料相当額は、乙が個人の住居として使用している部分のものに限定されるべきであることはもちろんであるが、住居として使用している部分であっても、乙の家族のうち、独立して生計を営んでいる者が使用している部分は、乙が経済的利益を受けているのではないのであって、乙とその扶養家族が個人の住居として使用している部分についてのみ、それに対する賃貸料相当額が乙の報酬とみなされるというべきである。
そして、共用部分についてはそれぞれの専用面積の割合に応じて帰属するものと考えられ、乙居住部分に帰属する共用部分は、23.303857平方メートルである。
エ 乙の報酬とみなされるべき賃貸料相当額
上記イのとおり、本件社宅の適正賃貸料相当額(月額)は145万9000円であり、同ウのとおり、乙が住居として使用していたのは、総床面積927.762718平方メートルのうち、97.597057平方メートル(帰属共用部分を含む。)であるから、乙の報酬とみなされるべき賃貸料相当額は15万3481円となる。
したがって、乙が本件社宅の一部に居住することにより受けていた利益が役員報酬に該当すること、役員報酬として相当な額が被告算出の2097万2400円であることは認めるが、賃貸料相当額は役員報酬として相当な額を超えるものではない。
3 原告が所有し、または借りている各不動産に、原告の取締役である丙らが無償で居住することによって賃貸料相当額の経済的利益の供与を受けていることについて、その利益が非課税となるか否か。
(1) 被告の主張
ア 丙らが受ける経済的利益である賃貸料相当額は非課税所得とは認められない。
(ア) 所得税法9条1項6号は、非課税所得の一つとして「給与所得を有する者がその使用者から受ける金銭以外の物(経済的な利益を含む。)でその職務の性質上欠くことのできないものとして政令で定めるもの」と規定している。
職務の遂行上必要な現物給付が非課税とされているのは、給与所得者の役務提供の対価として支給されるものでないこと又はその対価性が希薄であること、収入金額に含めるとしても、それは職業上の必要のために供されるものとして同時に必要経費に充てられたものとみることができ、その意味で所得の発生が認められないことなどを理由とするものである。
(イ) そして、所得税法施行令21条4号では、「…給与所得を有する者でその職務の遂行上やむを得ない必要に基づき使用者から指定された場所に居住すべきものがその指定する場所に居住するために家屋の貸与を受けることによる利益」は非課税と規定されている。なお、所得税基本通達9-9(乙6)は、職務の遂行上やむを得ない必要に基づき貸与を受ける家屋に該当するものとして、船舶乗組員に対し提供した船室等を例示している。
(ウ) このような家屋の貸与を受けることによる利益が非課税とされているのは、この種の家屋は、通常の社宅等とは異なり、その供与が使用人等に給与の一形態としてのサービスを供与するために行われるものではなく、むしろ使用者の業務の遂行上与えられた住居で居住する以外に方法がなく、かつ、当該住居での居住が不可欠であることを要件とじて行われるものであって、これにより使用人等が受ける経済的利益は反射的なものに過ぎないところから、これを給与等に当たるとして課税することは妥当でないとする考え方に基づくものである。
(エ) 本件についてみると、丙らはいずれも原告の取締役であり、給与所得者ではあるものの、原告が丙らを原告の所有ないし賃借している不動産に居住させることにつき、原告の業務の遂行上与えられた住居で居住する以外に方法がなく、かつ、当該住居での居住が職務の遂行上必要不可欠であると認められる事情は何ら存在しないのであって、むしろ、単に便宜的に居住しているものとみるのが相当である。したがって、同人らが原告から受けた経済的利益である賃料相当額は、非課税所得には該当しないものである。
イ なお、原告は、丁に対して賃貸料相当額の経済的利益を供与しているのは、原告ではなく、同人が居住していた不動産の所有者であるBである旨主張するものと解されるが、丁はBの役員ではないこと(乙7)などからすると、Bが自己所有の不動産を原告に無償で貸与し、それを原告が丁に無償で使用(居住)させていたとみるべきである。したがって、賃貸料相当額については、原告が丁に対して経済的利益を供与したものと認めるのが相当であるから、原告の主張は失当である。
(2) 原告の主張
ア 原告の営業戦略上、愛媛県外に支店ないし営業所を設置する必要があるものの、原告には現地で従業員を雇うだけの余裕はなく、かつ対外的に支店ないし営業所と表示する以上、常時電話などに対応できる体制にしておく必要がある。
このため原告は、取締役である丙らを支店ないし営業所に派遣し、事務所とは別に住居を借りるだけの資金余裕もないため、同人らに住居として居住させているものである。
このように丙らの居住は、職務上の必要により原告から義務づけられているものであり、その賃貸料相当額は所得税法所定の非課税所得に該当するものであるから、原告に源泉徴収の義務はない。
イ なお、丁居住の不動産については、所有者であるBが無償で貸与しているものである。原告が無償貸与しているものではない。
第4当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 本件各処分の段階、すなわち本件調査においては、原告は本件仮払金等が最終的に第三者に渡ったことを示す資料を何ら提出していなかったものであるから(争いのない事実)、被告において本件仮払金等が第三者に渡ったことを認定することなく、乙が最終受益者であるとして役員賞与に含まれるとの判断をしたことは相当であったというほかない。
原告は、本件訴訟においてこの点を争うのであるから、少なくとも本件仮払金等が乙から第三者に交付されたことについて、具体的な主張・立証をする必要があるというべきである(国税通則法116条参照)。
(2) そこで検討するも、以下のとおり、原告提出の証拠はいずれも具体性・客観性に欠けるものに過ぎず、その信用性には疑問があるといわなければならない。
ア 全般について
証人乙、同K、原告代表者甲、甲36・41・42(同人らの陳述書)は、いずれも原告主張のとおり本件仮払金等は乙を介して第三者に渡されている旨述べるが、これら各供述によると、本件仮払金等の金額は、原告ではなく乙の側で決めていたこと、原告においては乙から要求があればその使途等を確認することなく金銭を支出していたこと、原告の主張する支払いのなされた当時、原告において当該第三者に対して金銭を受領したか否かを確認してはいないこと、本件仮払金等の交付先についての原告主張は受注契約書等を照らし合わせて乙に確認したに過ぎないものであることが認められる。
以上の事実に照らすと、本件仮払金等はいわば乙のいうがままに支出されたものというべきで、そもそも工事受注のための費用たるものであったかは疑問というほかない。また、原告において本件仮払金等が第三者に渡されたとする主たる根拠は乙の記憶しかないところ、その乙は原告の創業者、元代表者であり、原告と強い利害関係を有する人物であるうえ、本件調査時には具体的支出先は明らかとしていなかったことに照らすと、その信用性は低い。
イ G関係
甲33(訴状写し)、39(Gの陳述書)によると、平成5年10月頃から(甲33では平成6年2月頃からとある。)平成6年10月末日までの間に乙から旅費宿泊費交際費その他費用を含めて6400万円を受領したことをGが認めているところ、これは平成5年10月20日ころから平成6年5月26日ころまで合計6430万円をGに渡したという甲36〔乙の陳述書。なお、別紙仮払金明細(No2)参照〕と大筋で合致している。
しかし、甲33、39によっても、Gが、いつ、いくらずつ受領したのか、これが甲36で乙の述べる支出日時・金額と合致しているのかは不明であり、この点の裏付けがない以上、原告支出に係る本件仮払金等がGに渡されたとするには合理的な疑問が残るというほかない。
ウ D関係
甲27(確認書)は、Dが、平成7年9月6日にBから4000万円を、同月13日に原告から3000万円を、それぞれ地方改善施設整備事業工事受注経費として受領したことを認める内容となっている。
しかし、甲27は本件訴訟係属後の平成13年2月27日付で作成されたものであり、その作成時期に照らしても信用性は甚だ低いし、Dにおいて6年近く前の受領年月日や受領金額、さらには金銭交付者の別まで正確に認識・記憶していたとはにわかに信じ難い。
なお、甲36(乙の陳述書)によると、甲26(メモ)はDが必要資金として9000万円が必要であることを記載して、本件社宅で乙に渡したものであり、これに基づいて甲27記載の合計7000万円の金銭を、いずれも京都の「L」という料理屋でDに渡したものとされる(2000万円は負けてもらったという。)。
確かに、甲26には「菓子箱 2千4個 1千1個 うち2個明日中 あと10~13日中」と記載されており、Dが9000万円を要求したことの証拠と認められなくはない。
しかし、この程度の内容であるなら、簡単に口頭で要求できるし、その方が証拠を残さず都合がよいと考えられるのに、わざわざ証拠となりうるようなメモを渡して金銭要求をしたというのはいかにも不自然といわなければならない。当該作成者とされるDからはこの点に関する合理的な説明もされておらず、甲26には作成者や作成日をうかがわせる記載もないことをも併せ考えると、その証拠価値は低いというほかない。
エ I関係
甲31(枝番号あり。催告書及びこれに対するIの返事等。)は、平成5年10月頃、M東予新工場の建設工事参入の活動資金として、株式会社Nから2000万円を受け取ったことをIが認める趣旨の内容であると解されるところ、これは、平成5年6月25日ころ、Iに2000万円を渡したという甲36〔乙の陳述書。なお、別紙仮払金明細(No1)<8>参照。〕とほぼ合致している。
しかし、甲31は金銭授受当時ではなく、平成8年になってはじめて確認されたものであること、催告内容は甲36とは支払日時も異なっている上、原告ではなく株式会社N名義でなされていること、Iからの返事では、金銭を受け取った日時、金額、その使徒等について何ら明らかにされていないこと、Iはいわば原告の協力者であったものと解されることなどに照らすと、その信用性にはやはり疑問があり、原告が平成5年6月25日に支出したという2000万円がIに渡されたと認定するには合理的な疑問が残るといわなければならない。
オ C関係
証人O、甲25の1(同人の陳述書)は、乙から頼まれてCへ金銭を渡したことが多数回あったとするが、その年月日・金額等は明確ではなく、原告が主張する各支払があったことわ裏付けとはなり得ない。
(3) 結局、本件全証拠によっても、乙が受け取った本件仮払金等につき、同人が第三者に交付したとの事実を認めることはできない(原告から乙に交付された本件仮払金等のうち、第三者に交付されたものが仮に存在するとしても、それを特定するに足りる証拠はない。)。
(4) 争点1の結論
以上によれば、本件仮払金等については乙が返還債務を負うというべきところ、これを原告が実体のない本件支払手数料で清算・相殺したことは乙に経済的利益を与えたことになるから、法人税法35条4項に規定する「賞与」に該当するものと認められる。
2 争点2について
(1) 本件社宅の賃貸料相当額の算出方法について
ア 平成7年9月30日までの本件社宅の賃貸料相当額の算出方法については、被告が所得税基本通達36-40に定められた具体的計算式に基づいて行ったものであるところ(争いがない)、通達の内容自体はもちろん、被告による具体的算定についても特段の問題があるとはうかがわれない。
イ 平成7年10月1日以降の本件社宅の賃貸料相当額の算出方法
(ア) 積算法を用いたことについて
被告はいわゆる積算法(積算式評価法)を用いているが、この方法は、賃貸料算定のための一方法として一般的に是認されているものと認められ、被告がこれを採用したことには合理性があるというべきである。
原告は、本件評価書(甲7)に基づき、積算賃料及び賃貸事例比較法に基づく比準賃料の双方を関連づけて適正賃料を決定すべきと主張するものと解されるところ、一般にはそのような手法も合理性を有するというべきであるが、甲7にもあるとおり、本件社宅はその規模、構造等に照らして類似する賃貸事例はほぼ皆無であると認められる。そうすると、本件では賃貸事例比較法が有用とはいい難く、この点についての原告の主張は理由がない。
(イ) 本件社宅の基礎価格設定について
a 積算法による場合、本来、対象不動産の評価の基準となる時点における基礎価格は、その当時の経済価値を反映するものであるから、被告において、十数年前における本件社宅の取得価額をそのまま基礎価格として採用し、本件建物の再調達原価の算定等の復成現価把握を行っていない点は、一般には相当とはいい難い。
しかし、本件調査においては原告及び乙からの協力が得られず、結果として本件社宅を立ち入り見分する機会もないまま、家屋見取図(乙8)のみをもとにして賃貸料相当額を算出しなければならなかったこと(争いのない事実)に照らすと、被告が取りうる計算方法にもおのずと限界があり、実際の見分等を前提とする復成現価把握を行わなかった点にもやむを得ない面があったといわなければならない。
b 固定資産評価額との関係
ところで、平成7年度における本件土地の固定資産評価額は3億7088万7012円であること(乙17)、平成6年度の土地の評価替え以降における固定資産評価額は地価公示価格の7割程度を目安として算定された価額であること(乙15、16参照)に照らすと、平成7年当時の本件土地の地価公示価格は、およそ5億3000万円と評価されたものと解される。そして、甲7は本件建物の再調達価格を3億0970万円と評価していることをも併せ考えると、各種の減算要素(なお、後述のとおり減算要素のとらえ方には一定の幅があり、一義的な数値が導かれるものではない。)を考慮しても本件社宅の適正価額は相当高額となる(少なくとも、被告の採用した基礎価格を下回るものでないことは容易に予測される。)ものというべきで、被告が本件社宅の基礎価格とした5億7180万6992円が、本件社宅の適正価額とかけ離れた数額であるとはいい難い。
c 以上の事情を総合すれば、被告が基礎価格として本件社宅の取得価額を用いたことには合理性がないとはいえず、許されるものというべきである(なお、正確な取得価額・取得時期に関する資料がなかったため昭和59年8月期末の帳簿価額を採用している点についても、これが本件調査時に把握しうる最も取得価額に近い価額と解されることに照らすと、許されるものというべきである。)。
(ウ) 期待利回りを5パーセントとしたことについて
甲36(乙の陳述書)、証人乙及び弁論の全趣旨によれば、本件社宅はゲストハウス兼乙の自宅として原告が昭和56年ころに建築したものであること、本件社宅が建築されて以来、乙及びその家族が居住してきたことが認められる。
これらの事実に照らせば、被告において、本件社宅が原告から役員である乙に対して貸し付けられた資金によって取得されたものと同視できるものとして、所得税基本通達36-49(乙4参照)の「使用者が役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息相当額については、…その貸付金が役員又は使用人の居住の用に供する家屋又はその敷地の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利の取得資金に充てるためのもの…である場合には、おおむね年5パーセントの利率により評価する」との規定を考慮したことには合理性があるというべきである(なお、当該通達の内容について、特段の問題があるとはうかがわれない。)。
また、本件評価書(甲7)においても、本件土地の期待利回りは3.5パーセントが、本件建物の期待利回りは6パーセントがそれぞれ相当と判断されており、被告による利率がこれと不当にかけはなれたものともいえない。
以上より、被告が期待利回りを5パーセントとしたことには、合理性があると認められる。
(エ) 必要経費のうちの建物等の減価償却費について
(イ)と同様、被告において建物等の正確な取得時期・取得価額が把握できなかったことから、昭和59年8月期末の帳簿価額によっていることは合理的で許されるものというべきである。また、減価償却費を定額法で算出している点も、一般に用いられている手法であり、相当なものと認められる。
ウ 本件評価書(甲7)について
原告は、本件評価書(甲7)によって導かれた賃貸料相当額が適切な額である旨主張する。しかし、以下のとおり、本件評価書は採用し難いというべきである。
(ア) 賃貸事例比較法について
本件評価書は賃貸事例比較法を採用しているが、前記説示のとおり、本件社宅については賃貸事例比較法が相当とはいい難い。
(イ) 本件土地の基礎価格について
本件評価書は、本件土地の個別的要因として、規模大として30パーセントの減額を相当としているが、その具体的根拠は必ずしも明らかではない。かえって、甲7によると、本件土地は間口約133.5メートル、奥行約68メートルの長方形(略台形)の形をした土地であると認められ、被告主張のとおり、幅4メートル×長さ68メートルの道路を3本敷設すること、すなわち、本件土地面積の10パーセント足らずである約816平方メートルの土地を道路とすることで、本件土地の有効な区画化が可能となるといえるから、規模大として考慮すべき個別的要因は10パーセント程度であるとの被告の主張により説得力があるというべきである。
(ウ) 本件建物の基礎価格について
本件評価書は、基礎価格を算定するに当たり、鉄筋コンクリート造ルーフィング葺陸屋根3階建である本件建物の耐用年数を40年としているが、これについては、乙5のとおり、40年としてではなく60年とするのが妥当と解されるし、本件建物の観察減価についても、ゲストルームとして維持管理に特に配慮しているものと認められるから、30パーセントより低い減価とみるのが相当というべきである。
これらに照らすと、本件社宅の賃貸料相当額として本件評価書が算定した額は、実態に即した適正額とはいい難い。
エ 以上によれば、被告の行った本件社宅の賃貸料相当額の算出方灘は合理性があるというべきである。
(2) 本件社宅の使用割合について
ア 被告による認定について
本件調査において、原告からは本件社宅に関する具体的資料の提出がなく、また本件社宅への立入見分も許可されなかったこと(争いのない事実)に照らすと、被告が唯一入手していた本件社宅の家屋見取図(乙8)のみを資料として使用割合を認定したことはやむを得なかったものというべきである。そして、乙が原告の創業者であること、本件社宅への立ち入りについては乙の承諾が必要とされたこと(いずれも争いのない事実)からすると、本件社宅全体について乙の占有・管理が及んでいることが強く推認されるというべきであるから、被告が、家屋見取図から把握できる各部屋の名称及び構造から応接室及びゲストルームを法人使用部分として除外し、残りすべてを乙が借り受けているものと判断したことは適切であったと認められる。
イ 原告主張の使用割合について
原告は、実際には被告認定と異なる使用割合であった旨主張し、証人乙もこれに沿う供述をしているが、上記供述を裏付けるに足りる宿泊者名簿、使用実績簿等、当時の本件社宅の使用状況を示す書証はなく、上記供述はにわかに措信し難い。他に本件社宅が原告主張のとおりの使用状況であったことを認めるに足りる証拠はない。
なお、原告は乙の家族のうち独立して生計を営んでいる息子らが使用している部分は乙が経済的利益を受けているのではない旨主張する。
しかし、前述のとおり乙が原告の創業者であること、本件社宅はもともとゲストハウスにするとともに乙の居宅とすることを目的として建てられたものであること、現実に乙が居住し続けていることなどに照らすと、独立して生計を営んでいるという家族が特に原告から直接借り受けているなどの事情がない限り、その使用部分も当然乙が借り受け、経済的利益を受けているものと推認するのが相当である。
しかして、乙の息子らが直接に原告から本件社宅の一部を借り受けていたととを示す証拠はない。
(3) 争点2の結論
以上によれば、本件社宅に乙が無償で居住していることにつき、被告が行った乙に対する賃貸料相当額の算出方法は相当であると認められる。
3 争点3について
(1) 所得税法9条1項6号、同法施行令21条4号、さらには所得税基本通達9-9(乙6参照)の各規定に基づいて家屋の貸与を受けたことによる経済的利益が非課税所得とされるのは、所得税法9条1項6号の文言どおり、「その職務の性質上欠くことのできないもの」と認められる場合に限られるところ、本件における丙らの業務内容が、一般の建設会社等の本店・支店・営業所における業務と比較し、特に異なっていると認めるに足りる証拠はなく、同人ら従業員が支店ないし営業所に居住し、いわば24時間の業務を行う必要があるといえるだけの事情は認めることができない。
原告は、営業戦略上の支店等の必要性、資金的余裕がないことを強調するが、非課税所得該当性は、前記のとおりその職務の性質に照らして判断されるというほかないから、これらの事情を考慮することは相当ではない。
(2) なお、丁居住の不動産の貸借関係については争いがあるところ、丁はBの役員ではないこと(乙7)、同人居住の不動産所在地が原告の名古屋営業所として表示されていること(乙13)、税務調査時、当該不動産には「丁」「A株式会社」双方の表札がかかっていたこと(乙12)の各事実が認められる。これらの事実に照らすと、所有者たるBが関連会社である原告に当該不動産を貸与し、原告はこれを名古屋営業所として使用し、さらに原告がその役員である丁に居宅として貸与したとの法律関係があるものと認められる。
これに対し、原告は、所有者たるBが丁個人に直接当該不動産を貸与している旨主張するが、Bが丁に当該不動産を無償貸与して経済的利益を与える根拠は見出し難い上、また、原告が当該不動産を名古屋営業所としていたことも説明できず、採用できない。
(3) 争点3の結論
したがって、丙らが、原告の所有ないし賃借する不動産に無償で居住していることによって受けている賃貸料相当額の経済的利益は、非課税所得に該当しない。
4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する。
(裁判長裁判官 坂倉充信 裁判官 中山雅之 裁判官 大嶺崇)
別紙
(A)
仮払金明細 1
<省略>
(A)
仮払金明細 2(No.1)
<省略>
(A)
仮払金明細 2(NO.2)
<省略>
貸付金明細 1(NO.1)
<省略>
貸付金明細 1(NO.2)
<省略>
貸付金明細 2(NO.1)
<省略>
貸付金明細 2(NO.2)
<省略>
貸付金明細 3
<省略>
仮払金明細(NO.1)
<省略>
仮払金明細(NO.2)
<省略>
図面1
1階
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図面2
2階
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