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松山地方裁判所 平成14年(行ウ)10号 判決 2003年6月25日

原告

被告

愛媛県知事 加戸守行

同指定代理人

横山和可子

清水博志

和田哲治

小川満

今井優

西山蜂子

松田修治

大澤玄瑞

宇佐美伸次

日野伸二

眞田倫明

田中直樹

主文

1  被告が、平成13年4月17日付け愛媛県指令農政第804号でなした原告とAの農地賃貸借契約の解約不許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  無断転貸と用法違反に関する事実関係

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

(1)  Aとの紛争のはじまり

ア  Aは、父のBが死亡後、Cに連絡を取ったところ、Cから、本件土地をDに耕作させている以上、Aを賃借人とは認められず、賃料も受けとれないと、説明された。そして、その後も、Cは、何度か、電話などで、Aに対し、Aを賃借人とは認めることができないと発言した。

イ  Cは、さらに、平成元年ころと平成4年ころの2度、Aに対して、<1>本件土地をDに耕作させないこと、<2>賃料を毎年納めること、<3>この二点について覚書を作って、差し入れることを求めたが、しかし、Aが、これに応じなかった。

ウ  なお、Aは、平成3、4年ころ、クモ膜下出血のため、その治療を受けたことがある。

(2)  和解仲介の申立てとその打切り

ア  Cは、平成5年にも、Aに、<1>本件土地をDに耕作させないこと、<2>賃料を納めることを求めたが、Aは返事をしなかった。そのため、Cは、平成6年3月、農業委員会に対し、和解の仲介をするように申し入れた。

イ  農業委員会の和解の仲介に基づく事情聴取におけるAとCの各供述の要旨は以下のとおりである。

a まず、Aは、<1>本件土地は、昭和51年から18年間、Dに耕作させてきたが、Dから年貢は受け取っていない、<2>Cは、小作料の受領を拒否している、<3>Aから本件賃貸権を相続して、小作人の名義をAのものにする予定であるが、相続人間に争いがあって実現していないなどと述べた。

b これに対し、Cは、<1>昭和52年ころ、Dが本件土地を耕作しているのを見つけて、その中止を求めた、<2>Aは、本件賃料を供託しているが、保留扱いにしている、<3>Aに、Dに耕作させることをやめ、賃料を毎年納めることを約束する書類を出してほしいと求めたのに、応じてもらえない、<4>Bの死亡後、いまだに相続関係が確定していないと言われることは納得できないなどと述べた。

そして、Cは、その後の平成6年4月3日になって、農業委員会に対し、Aの説明は納得できないし、農業委員会も話合いを勧めるだけのように思えるとして、本件賃貸借契約の解約に踏み切りたい旨の意向を伝えた。

c これを受けて、Aは、和解の仲介の場で、「Dの耕作を止めるにつき、Dの了承をとってくる。」(〔証拠略〕)と発言し、その数日後には、農業委員会に対し、「Dから更地にして、本件土地を返してもらった。」(同上)などと連絡してよこした。

Aは、また、同年5月にも、「今後は、自らが耕作する」(〔証拠略〕)旨の始末書を作り、Cに差し入れ、さらに、同年6月になると、相続問題の解決のため、およそ2か月程度の時間的な猶予がもらいたいなどとも発言した。

d これに対し、Cは、Aに対し、上記始末書は、Aが契約に違反してきたことを直截に認めていない点で納得できない、これまでにも小作料の不払が重なっているから、本件賃貸借契約を解約することの適否について農業委員会の判断を仰ぎたい、始末書が差し入れられたことで、Aが小作を続けることを認めるものではないから、耕作を直ちに中止されたいなどと求めた。

e 農業委員会は、平成6年9月、双方の最終的な意向を確認した上、同年10月5日、和解仲介を打ち切るとの決定をして、双方に通知した。

(3)  賃貸人からの小作拒否の通知

Cは、平成6年10月20日、Aに対し、賃料の不払とDへの転貸を理由として、本件賃貸借契約は終了済みであり、今後、本件土地で小作することは一切拒否する旨の内容証明郵便を送付した。

(4)  その後の本件土地の状況

a  しかし、Aは、その後もDに対し、従前のとおり、本件土地の耕作をさせていた。しかも、そのことは、平成10年初夏になり、Dの側から、高齢にもなったので耕作を取りやめたいとの申入れがあるまで、続けられた。

なお、Aは、平成10年にクモ膜下出血を再発させ、再度、その治療を受けている。

b  Aは、平成10年に、本件土地を、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律に基づいて「休耕」(一部を保全管理、一部で里芋の転作を行うこととした。)にし、平成11年にも、同法律に基づいて、本件土地の全部を「休耕」(保全管理)にした。

c  Aは、平成11年に本件土地を休耕とすることを決めた際に、本件土地に土を入れ、イチジクを栽培した。しかし、農業委員会から用法違反であるとの注意を受け、また、Cからも同年6月12日に抗議を受けたため、イチジクを撤去した。

しかし、Aは、イチジクを撤去した後、すぐに田に戻すことはしなかった。本件土地を田に戻したのは、平成12年夏のことであり、同年秋には、稲が実るまでにはなった。もっとも、Aが、どこまで、実際の耕作を行っているのかは明らかでない。Aは、Eに、田植を頼んで、稲作を行ったと説明している。

2  農地法20条2項1号の該当性

(1)  Aの転貸、用法違反

以上の事実が認められる。ところで、Aは、Dに耕作させていたことは手間替えであって、転貸ではないと説明する。そして、本件の各証拠によっても、Dが、Aに対し、賃料ないし対価を支払っている事実を認めるに足りるものはなく、被告とAとの間でどのような取決めがされていたのか、その詳細も明らかなものはない。

しかし、前認定したところでは、Aが、反対に、Dの耕作を手伝っていた様子はなく、Dが、ほぼ一方的に、本件土地の耕作を手伝ってきたという他はない。その意味で、AとDとの間に、相互扶助的な手間替えがされていたとは、認めることができない。加えて、Aは、和解の仲介に当たった農業委員会に対し、「Dへの耕作を止めさせるについて、Dの承諾を得てくる。」「Dに話をし、Dから、本件土地を更地にしてもらって、返還を受けた。」旨の説明ないし報告を行った。しかし、このような説明ないし報告は、Dが、本件土地の耕作をするについて、何らかの利益を得ていたとか、若しくは、Dに、一定の期間を定め、耕作することを許していたなど、Dが、本件土地の耕作を継続することについて、一定の発言権を持っていたことを意味するのである。すなわち、Dは、本件土地を耕作することに関して、何らかの法的な利益を有してたものと推認することが相当であり、他に、かかる推認を左右するに足りるものはない。

そこで、Aは、Dに対し、本件土地を転貸していた、若しくは、実質上、本件土地を転貸したのと同視できる行為があったものと認めることが相当である。加えて、前認定した経緯からも明らかなとおり、Aは、賃貸人のCから、再三にわたって、Dに耕作させることをやめるように注意されながら、しかし、あいまいな言い訳をすることに終始し、さらに、平成6年4、5月のころには、Dに耕作させることはやめる、Dから本件土地を返してもらったと説明しながら、和解の仲介が不成立に終わるや、その後は、以前と同様の行為を行って、それを平成10年まで続けてきたのである。さらに、Aには、本件土地を畑にして、イチジク栽培を行うなど、用法違反行為があることも、前判示のとおりである。

(2)  賃借人の信義に反する行為

このようなAの行為は、賃貸人に対して、信義に反する行為といわざるを得ないものであり、Aは、かかる信義に反する行為を繰り返し、かつ、再三にわたる注意にも従わなかったものというべきである。

そこで、本件においては、農地法20条2項1号の賃貸借契約の解約事由があると解することが相当である。そして、かかる判断は、本件田の耕作に伴って、AとDとの間に、金銭ないし対価の授受があったか否かということには左右されないものと解することが適当である。

被告は、A自身が直接に耕作できなかったことは、病気等の理由でやむを得ず、イチジク栽培がされ、本件土地が畑に変えられたことも、イチジクをすぐに撤去し、田に戻っているので実害がない、農地所有者の利益を保護も必要であるが、農地の確保や、農業従事者の利益なども総合的に考慮すべきであるなどと指摘するが、しかし、かかる指摘された事情を勘案してみても、なお、Aの信義に反する行為というものは、本件賃貸借契約の継続が許されない程度に、執拗で、重大なものであると解される。よって、前記の結論を左右することはない。

第4 結論

以上によれば、その余の検討を行うまでもなく、本件では、Aによる信義に反する行為があったと認めることが相当であり、原告の本件賃貸借契約解除を求める申請は、農地法20条2項1号の解約許可事由があるとして、許可されるべきものである。そこで、原告のかかる申請を不許可とした本件処分は、農地法20条2項1号の適用を誤ったものとして、取消しを免れないものである。

よって、原告の本件請求は理由があるから、これを認容し、主文のとおり判決する。なお、原告は、本件土地につき、農地転用を行うことが相当であるなどと主張するが、本判決は、農地転用の当否についての判断を行っているわけではない。念のため、付言する。

(裁判長裁判官 上原裕之 裁判官 森實将人 荒井章光)

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