松山地方裁判所 平成14年(行ウ)4号 判決 2004年2月10日
主文
1 被告が平成10年9月29日付けでした原告の平成6年8月1日から平成7年7月31日まで,平成7年8月1日から平成8年7月31日まで及び平成8年8月1日から平成9年7月31日までの事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を取り消す。
2 被告が平成10年9月29日付けでした原告の平成6年8月1日から平成7年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分,平成7年8月1日から平成8年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分並びに平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2前提事実(特に証拠等の掲記のないものは当事者間に争いがない。)
[用語例]
(1) 平成6年8月1日から平成7年7月31日までの事業年度を「平成7年7月期」と,同期間の課税期間を「平成7年課税期間」と,平成7年8月1日から平成8年7月31日までの事業年度を「平成8年7月期」と,同期間の課税期間を「平成8年課税期間」と,平成8年8月1日から平成9年7月31日までの事業年度を「平成9年7月期」と,同期間の課税期間を「平成9年課税期間」という。
(2) 平成7年7月期,平成8年7月期及び平成9年7月期の3事業年度を「本件各事業年度」と,平成7年課税期間,平成8年課税期間及び平成9年課税期間の3課税期間を「本件各課税期間」という。
(3) 本件各事業年度に係る法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分と本件各課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分及び加算税の賦課決定処分を併せて「本件更正処分等」という。
1 当事者等
(1) 原告は,愛媛県今治市α5番地2において海運業を営む資本金1500万円の同族会社であり,昭和58年6月,パナマ共和国にTWIN BRIGHT SHIPPING CO.,S.A.(以下「ツインブライト社」という。)を設立した。
(2) 原告は,ツインブライト社を設立して以来,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益はすべて内国法人親会社である原告に帰属するものとして法人税及び消費税等の確定申告をしてきており,本件各事業年度及び本件各課税期間においても,同様に,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益が原告に帰属するものとして青色申告を行った。
2 本件更正処分等
(1) 被告は,原告に対する法人税等の調査を行い,平成10年9月29日付けで,原告に対して,ツインブライト社が租税特別措置法(以下「措置法」という。)66条の6第1及び第2項に規定される特定外国子会社等に該当する会社であり,同条3項に規定される適用除外の規定の適用がないため,同条の規定が適用されることを主な理由として,下記のとおり,法人税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った(なお,ツインブライト社が,措置法66条の6第1及び第2項により規定される特定外国子会社等の要件を満たす外国法人であることは,当事者間に争いがない。以下,措置法66条の6第1及び第2項に規定される特定外国子会社等に該当する外国法人を,単に「特定外国子会社等」ということがある。)。
ア 平成7年7月期(乙1の1)
(ア) 所得金額 3269万9392円
(内訳)
(a) 確定申告における所得金額 319万9213円
(b) 損金の過大計上 3010万8550円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,原告が所得金額から減額した同社の損失の額3010万8550円を所得金額に加算した。
(c) 交際費等の損金不算入額 51万0471円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,原告がツインブライト社の船舶交際費として支出した金額は,原告の損金の額から除かれることとなり,交際費等の損金不算入額を再計算し,損金不算入額減少額51万0471円を所得金額から減算した。
(d) 未払消費税の認容額 9万7900円
原告が消費税の控除対象仕入税額に含めていたツインブライト社が支払った消費税を除くことにより,新たに増加することとなった未払消費税の額9万7900円を所得金額から減算した。
(計算)
(a)+(b)-(c)-(d)=3269万9392円
(イ) 納付すべき税額 877万4000円
(内訳)
(a) 所得金額に対する法人税額 1150万2125円
(b) 確定申告における控除所得税額等 272万8057円
(計算)
(a)-(b)=877万4000円
(ただし,国税通則法119条1項により100円未満切り捨て)
(ウ) 過少申告加算税 127万0500円
イ 平成8年7月期(乙1の2)
(ア) 所得金額 6848万0873円
(内訳)
(a) 確定申告における欠損金額 447万1002円
(b) 損金の過大計上額 7737万1637円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,原告が所得金額から減額したツインブライト社の損失の額7737万1637円を所得金額に加算した。
(c) 交際費等の損金不算入額 96万7662円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,原告がツインブライト社の船舶交際費として支出した金額は,原告の損金の額から除かれることとなり,交際費等の損金不算入額を再計算し,損金不算入額減少額96万7662円を所得金額から減算した。
(d) 未払消費税の認容額 3万5200円
原告が,消費税の控除対象仕入税額に含めていたツインブライト社が支払った消費税を除くことにより,新たに増加することとなった未払消費税の額3万5200円を所得金額から減算した。
(e) 事業税の損金不算入額 341万6900円
前事業年度である平成7年7月期の更正処分による増加税額に係る未納事業税341万6900円を所得金額から減算した。
(計算)
-(a)+(b)-(c)-(d)-(e)=6848万0873円
(イ) 納付すべき税額 2427万8400円
(内訳)
(a) 所得金額に対する法人税額 2492万0000円
(b) 確定申告における控除所得税額等 64万1575円
(計算)
(a)-(b)=2427万8400円
(ただし,国税通則法119条1項により100円未満切り捨て)
(ウ) 過少申告加算税の額 361万5500円
ウ 平成9年7月期(乙1の3)
(ア) 所得金額 1億0186万1069円
(内訳)
(a) 確定申告における所得金額 570万1045円
(b) 損金の過大計上額 1億0065万3242円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,原告が所得金額から減額したツインブライト社の損失の額1億0065万3242円を所得金額に加算した。
(c) 繰越欠損金の当期控除額の過大額 447万1002円
平成8年7月期の更正処分により,当期には繰越欠損金額がないこととなり,前期の所得金額から控除した繰越欠損金447万1002円を所得金額に加算した。
(d) 交際費等の損金不算入額 92万5120円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,原告がツインブライト社の船舶交際費として支出した金額は,原告の損金の額から除かれることとなり,交際費等の損金不算入額を再計算し,損金不算入額減少額92万5120円を所得金額から減算した。
(e) 未払消費税の認容額 13万6500円
原告が,消費税の控除対象仕入税額に含めていたツインブライト社が支払った消費税を除くことにより,新たに増加することとなった未払消費税の額13万6500円を所得金額から減算した。
(f) 事業税の損金算入額 790万2600円
前事業年度である平成8年7月期の更正処分による増加税額に係る未納事業税790万2600円を所得金額から減算した。
(計算)
(a)+(b)+(c)-(d)-(e)-(f)=1億0186万1069円
(イ) 納付すべき税額 3788万5500円
(内訳)
(a) 所得金額に対する法人税額 3743万7875円
(b) 同族会社の留保金額に対する税額 121万0500円
原告は法人税法67条1項の「内国法人である同族会社」に該当するところ,原告の本事業年度における留保金額5029万0886円から留保控除額3818万5067円を差し引いた1210万5000円(ただし,国税通則法118条1項により1000円未満切り捨て)に法人税法67条1項1号所定の100分の10の割合を乗じた121万0500円を留保金額に対する税額とした。
(c) 確定申告における控除所得税額等 76万2847円
(計算)
(a)+(b)-(c)=3788万5500円
(ただし,国税通則法119条1項により100円未満切り捨て)
(ウ) 過少申告加算税 564万3000円
(2) また,被告は,上記調査に基づき,同日付けで,下記のとおり,消費税及び地方消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
ア 平成7年課税期間(乙2の1)
(ア) 控除対象仕入税額 332万2415円
(内訳)
(a) 確定申告における控除対象仕入税額 342万0302円
(b) 控除対象仕入税額に算入できない金額 9万7887円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,ツインブライト社が支払った消費税額9万7887円は,本課税期間における控除対象仕入税額に算入できない金額と認めた。
(計算)
(a)-(b)=332万2415円
(イ) 納付すべき税額 662万1400円
(内訳)
(a) 確定申告における消費税額 994万3830円
(b) 控除対象仕入税額 332万2415円
(計算)
(a)-(b)=662万1400円
(ただし,国税通則法119条1項により100円未満切り捨て)
(ウ) 過少申告加算税の額 9000円
イ 平成8年課税期間(乙2の2)
(ア) 控除対象仕入税額 2421万9843円
(内訳)
(a) 確定申告における控除対象仕入税額 2425万5048円
(b) 控除対象仕入税額に算入できない金額 3万5205円
上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,ツインブライト社が支払った消費税額3万5205円は,本課税期間における控除対象仕入税額に算入できない金額と認めた。
(計算)
(a)-(b)=2421万9843円
(イ) 還付税額 1372万7823円
(内訳)
(a) 確定申告における消費税額 1049万2020円
(b) 控除対象仕入税額 2421万9843円
(計算)
(a)-(b)=-1372万7823円
ウ 平成9年課税期間(乙2の3)
(ア) 控除対象仕入税額 260万0784円
(内訳)
(a) 確定申告における控除対象仕入税額 271万6516円
(b) 控除対象仕入税額に算入できない金額 11万5732円上記のとおり,本件では措置法66条の6が適用されることから,ツインブライト社が支払った消費税額11万5732円は,本課税期間における控除対象仕入税額に算入できない金額と認めた。
(計算)
(a)-(b)=260万0784円
(イ) 納付すべき税額(地方消費税を含む。) 697万0200円
a 消費税額 650万1700円
(内訳)
(a) 確定申告における消費税額 910万2550円
(b) 控除対象仕入税額 260万0784円
(計算)
(a)-(b)=650万1700円
(ただし,国税通則法119条1項により100円未満切り捨て)
b 地方消費税額 46万8500円
平成9年4月以降の取引については地方消費税が課されるところ,原告の平成9年4月以降の取引に係る消費税額187万4000円に地方税法72条の83所定の100分の25の割合を乗じた46万8500円(ただし,国税通則法119条1項により100円未満切り捨て)を地方消費税額とした。
(ウ) 過少申告加算税の額 1万3000円
(3) 本件更正処分等及びこれに対する不服申立等の経過は,別紙1ないし3課税等経過表のとおりである。平成13年12月21日付け審査請求裁決は,平成14年1月15日,原告に送達され(甲1),同年4月15日,原告は本件訴えを提起した。
第3争点
1 特定外国子会社等に係る欠損を内国法人の損金の額に算入することは,措置法66条の6によって禁止されるか。
(1) 被告の主張
ア 措置法66条の6第2項2号及びこれを受けた措置法施行令39条の15は,適用対象留保金額の基礎となる未処分所得の金額について,当該特定外国子会社等に生じている各事業年度開始の日の前5年以内の繰越欠損金について調整した上で算出するとの仕組みを採用しているが,このような欠損繰越控除規定が設けられた趣旨は,措置法第7節の4「内国法人の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例」に規定される税制(以下「子会社に係る所得課税特例制度」という。)が,特定外国子会社等の各事業年度の留保所得がある場合にのみ,これを親会社たる内国法人の所得の金額の計算上,益金の額に算入するものであることから,特定外国子会社等に係る欠損についても一定の手当を講じるとともに,その処理につき統一的な取扱いを定める点にある。
このような欠損繰越控除規定の趣旨に鑑みれば,措置法66条の6第2項2号は,特定外国子会社等に係る欠損について,5年間は翌事業年度以降の未処分所得の金額の計算において控除すべきものとして繰り越すことを強制し,単年度ごとに親会社たる内国法人の所得の金額の計算上,損金の額に算入することを禁止している規定であると解すべきである。
したがって,ある事業年度において特定外国子会社等に係る欠損は,措置法66条の6第2項2号によって5年間は繰越しが強制されるという意味において,措置法66条の6の適用があるということができる。
イ 仮に,原告主張のように,特定外国子会社等が欠損を生じた事業年度には,同条は全体として適用される余地はないということになれば,特定外国子会社等に係る欠損の金額について翌事業年度以降の未処分所得の金額を計算する上において差し引く旨の上記措置法66条の6第2項2号は,まったく無意味な規定となり,そのような規定を置くこと自体,立法政策上あるいは立法技術上も考え難い上,内国法人に対する課税上の不公平を改善することを目的として規定された同条2項2号の立法趣旨に悖ることになる。
ウ また,原告は,措置法66条の6第2項2号は単なる計算規定であるから,原告の確定申告を否認する根拠にはなり得ないと主張するが,措置法66条の6第2項2号が,国税通則法24条の「国税に関する法律の規定」であることは明らかであって,同号が計算規定であるということをもって,本件更正処分等が許されないということにはならない。
エ 以上のとおり,特定外国子会社等に欠損が生じた場合にも措置法66条の6の適用があり,これによって上記欠損を内国法人の所得の金額の計算上,損金の額に算入することは禁止されるから,ツインブライト社において各事業年度に生じた欠損の金額は,翌事業年度以降の同社の未処分所得の金額を計算する過程において差し引かれることとなるのであって,その欠損の金額を内国法人たる原告の所得の金額の計算上,損金の額に算入することは当然に否定される。
(2) 原告の主張
ア 措置法66条の6は,課税要件として同条1項所定のとおり,特定外国子会社等であること,及び適用対象留保金額があることを規定するものであり,このうち後者の要件を充たさない本件においては,措置法66条の6が適用されることはない。
イ また,措置法66条の6第2項2号は,未処分所得の金額の計算方法を規定しているものに過ぎず,措置法66条の6によって特定外国子会社等に係る欠損は翌事業年度以降の未処分所得の会社の計算において控除すべきものとして繰り越すことを強制され,単年度ごとに親会社たる内国法人の所得の金額の計算上,損金の額に算入することが禁止されるということはできない。
2 租税回避のおそれがない場合には,措置法66条の6の適用が否定されるか。
(1) 被告の主張
措置法66条の6は,文理上,租税回避目的それ自体を要件とはせず,特定外国子会社等について課税対象留保金額がある場合に,これを内国法人の収益とみなして,同条所定の事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入するとしたものであるから,当該外国関係法人が特定外国子会社等に該当する場合であれば,租税回避のおそれの有無にかかわらず,同条が適用されると解すべきである。
(2) 原告の主張
ア そもそも措置法66条の6は,海外の子会社を利用して親会社たる内国法人に対し当該年度の利益を配当せず,再投資に向けるなどの事態に対し,法人税法11条に基づく否認手続では限界があるため,益金については,税務当局による海外課税関係資料による立証なくして利益が発生したものとみなして親会社たる内国法人に課税することとする反面,損金については,上記のような不誠実な課税義務者に対する不利益として内国法人の損金の額に算入することを認めないものとして,課税の公平を図るとともに,納税者の自発的かつ誠実な申告を促したものである。このような措置法66条の6の立法趣旨等からすれば,措置法66条の6は,租税回避のおそれがない場合には,適用されないというべきである。
イ ツインブライト社は,いわゆるペーパーカンパニーであり,原告の一部門であって,ツインブライト社に実質的に帰属する資産,負債及び損益はない。そのため,原告は,ツインブライト社設立以来,一貫して,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益はすべて実質的には原告に帰属するものとして,原告の決算に含めて確定申告をしてきたものであるから,原告の所得の金額の計算上,ツインブライト社の損益を原告に帰属するものとすることには,何ら租税回避のおそれはない。したがって,ツインブライト社が形式的には特定外国子会社等に該当するとしても,該当しないものとして取り扱い,措置法66条の6の適用は否定されるべきである。
3 措置法66条の6は本件更正処分の根拠となりうるか。
(1) 被告の主張
措置法66条の6は,ツインブライト社に係る欠損の金額を原告の所得の金額の計算上,損金に算入することができない根拠となりうるから,措置法66条の6を適用して本件更正処分等の適法性を基礎づける理由としたことは適法である。理由附記には違法はない。
(2) 原告の主張
仮に,ツインブライト社に係る欠損の金額を原告の所得の金額の計算上,損金に算入することができないとしても,その根拠は,措置法66条の6ではなく,別個の法人については所得の金額の計算も別個に行うとの法人税法の一般原則に求められるべきである。したがって,措置法66条の6を根拠としてツインブライト社に係る欠損を原告の所得の金額の計算上,損金の額に算入することを否認することはできず,更正通知書の理由附記にも違法がある。
第4当裁判所の判断
1 争点1(特定外国子会社等に係る欠損を内国法人の損金の額に算入することは,措置法66条の6によって禁止されるか。)について
(1) 本件において,被告は,上記のとおり,ツインブライト社が特定外国子会社等に該当することから,ツインブライト社には措置法66条の6の規定が適用される結果,ツインブライト社に係る欠損につき,内国法人の所得の金額の計算上,その損金の額に算入することは禁止されるとしてこれを否認し,本件更正処分等を行ったものである。
この点につき,被告は,特定外国子会社等に欠損が生じた場合にも措置法66条の6が適用され,当該外国法人が特定外国子会社等に該当すれば,その法人に係る欠損を内国法人の所得の金額の計算上,損金に算入することが禁止されることになると主張するので,その当否につき,検討する。
(2) 証拠(甲2,5,6,9の1ないし9の3,19ないし21,29,乙5ないし9)及び弁論の全趣旨によれば,子会社に係る所得課税特例制度の立法趣旨等は,以下のとおりであると認められる。
我が国経済の国際化の進展に伴い,内国法人が,法人の所得等に対する税負担が全くないか,又は極端に低い国又は地域(いわゆるタックスヘイヴン)に子会社を設立して経済活動を行いながら,本来内国法人に帰属すべき所得をその子会社に留保することによって,税負担の不当な回避ないし軽減を図る事態が生じるようになった。これに対し,課税庁は,実質所得者課税の原則を定めた法人税法11条を適用し,子会社の損益が内国法人に帰属するものとして課税するなどの方法により対処していたが,同条の適用に当たっての所得の実質的な帰属の判断基準が明確でないため,課税執行面における安定性の点で問題があり,同条の適用による対処には一定の制約ないし限界があった。そこで,課税執行面の安定性を確保しながら,外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減を防止して税負担の実質的公平を図るため,昭和53年に子会社に係る所得課税特例制度(いわゆるタックスヘイブン対策税制)が導入され,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が我が国における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いなどの所定の要件を満たす外国法人(特定外国子会社等)が,未処分所得の金額から留保したものとして,未処分所得に必要な調整を加えて算出される適用対象留保金額を有する場合に,そのうち一定の金額(課税対象留保金額)を内国法人の所得の金額の計算上,益金の額に算入することとされた(措置法66条の6第1項)。
(3) 以上のような子会社に係る所得課税特例制度の立法趣旨等に照らすと,措置法66条の6は,特定外国子会社等の所得の金額に所定の調整を加えた上でなお所得が生じていると認められる場合に,これを一定限度で内国法人の所得の計算上,益金の額に算入する取扱いを規定したものにすぎず,特定外国子会社等に欠損が生じた場合にそれを内国法人との関係でどのように取り扱うべきかということまでも規定したものではないというべきである。
(4) 被告は,措置法66条の6第2項2号が,特定外国子会社等の未処分所得の金額につき,特定外国子会社等の所得に,その所得に係る事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えたものとすることを定めていることから,措置法66条の6は,特定外国子会社等に欠損が生じた場合には,それを5年間は当該特定外国子会社等の未処分所得算出において控除すべきものとして繰り越すことを強制しており,内国法人の所得の金額の計算上,損金の額に算入することを禁止するものであると主張する。
しかし,同条が内国法人の所得の計算における特定外国子会社等に係る欠損の取扱いについて定めた規定であると解釈することは,その文理に照らして疑問である上,措置法は,法人税法等の特例であるところ(措置法1条),法人税法22条3項は,内国法人の損金の額に算入すべき金額について,別段の定めがあるものを除き,同項1ないし3号所定の額と定めており,内国法人と法人格を異にする特定外国子会社等に係る欠損の金額がこれに含まれないことは明らかである(なお,措置法66条の6第2項2号が,法人税法22条3項の別段の定めに当たらないことも明らかである。)。だとすれば,措置法66条の6が,上記のような法人税法の規定に加えて,特定外国子会社等に係る欠損の金額を内国法人の損金の額に算入することができない旨を特に規定したと解することは相当でなく,同条は,本則である法人税法22条3項によって,特定外国子会社等に係る欠損の金額が内国法人の損金の額に算入されないことを前提として,特定外国子会社等に生じた所得が内国法人の益金の額に算入されることとの均衡上,特定外国子会社等の所得を算定するに当たり,5年以内に生じた欠損の額を控除することを定めたものにすぎないというべきである。
(5) また,被告は,措置法66条の6第2項2号が特定外国子会社等に係る欠損につき,内国法人の損金の額に算入することを禁止したものと解さなければ,同号の規定は無意味なものになると主張するが,同号の規定は,前記のような趣旨に基づくものであり,同号の規定がなければ,特定外国子会社等に係る欠損の金額を特定外国子会社等の所得の算出に当たり控除することができなくなる可能性もあるから,同号を被告主張のように解さなければ,同号の規定が無意味になるということはできない。
(6) 以上によれば,特定外国子会社等に係る欠損を内国法人の損金の額に算入することが,措置法66条の6によって禁止されるとすることはできない。
2 結論
以上のとおり,被告の措置法66条の6に基づく本件更正処分等は,その余について検討するまでもなく,違法といわざるをえず,原告の請求にはいずれも理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂倉充信 裁判官 角谷昌毅 裁判官 大嶺崇)