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松山地方裁判所 平成15年(む)3号 決定 2003年2月12日

主文

1  別紙押収品目録記載3ないし6の押収物件につき、申立人が平成14年10月29日にした還付請求に対し、同日、松山海上保安部司法警察員がした却下処分を取り消す。

2  申立人のその余の申立てを棄却する。

理由

第1  申立ての趣旨及び理由

本件申立ての趣旨及び理由は、別紙「準抗告請求書」と題する書面記載のとおりであって、要するに、<1>申立人からの押収物件の還付請求に対して松山海上保安部司法警察員がした却下処分の取消しと、<2>同押収物件の還付を各求めるものである。

第2  裁判所の判断

1  まず、松山海上保安部司法警察員がした還付請求の却下処分の取消しを求めている点について検討する。一件記録によれば、被疑者不詳が別紙被疑事実の要旨記載の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)を犯したことを疑うに足りる理由があること、別紙押収品目録記載の各物件中、(同目録記載7、8を除くもの(以下、「本件物件」という。また、同目録記載1の動力漁船博丸及び同目録記載2のコンプレッサーを総称して「本件船舶」という。))は、いずれも本件捜索差押許可状記載の差し押さえるべきものであり、本件被疑事実の全貌を立証する上で重要な証拠価値を有すると認められ、差押えの必要性が明らかであること、本件差押処分は適法に行われていることが各認められる。

次に、本件物件の還付を請求したところ、松山海上保安部司法警察員によって却下がされているので、その当否について検討する。差押物件についての留置の必要性は、犯罪の態様、軽重、留置物の証拠としての価値、重要性、留置物が隠滅毀損されるおそれの有無、留置によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らして総合的に判断されるべきであるが、本件被疑事実は、被疑者不詳の者が、操業を禁止されている時間において、本件船舶及び潜水器漁具を使用して潜水器漁業を操業したものであること、同船には船員が約4名、潜水夫が約2名がいたこと、本件船舶は、本件被疑事実にかかる潜水器漁業に用いられたものと思料されるが、現在でも、前記関係者の特定はなされておらず、申立人も、その当日に同船を使用した事実及び同船を使用した者について明確な供述をしていないことなども合わせ考慮すると、本件物件は、本件被疑事実に関する唯一の証拠ともいえるほどにその証拠価値、重要性が高いものと言わざるを得ない。加えて、潜水に使用されたエアーホース、水中ライトなどの漁具はいまだ発見されておらず、本件被疑事実の全貌解明のためには、今後、被疑者及び本件被疑事実において使用された潜水器漁具を発見し、同船及び同潜水器漁具を用いて実況見分を行い、場合によっては鑑定を行うなどの捜査が必要不可欠であること、本件被疑事実は、数隻の船により、多数回行われている密漁の一環であって、多数関係者が関与していることが疑われるところ、仮に本件船舶を還付すれば、その形状の変更や処分などによる罪証隠滅行為がされる危険性が高いと思料されることなど、諸般の事情を考えると、差押え後相当期間が経過したとはいえ、本件船舶の還付請求を却下することにもやむを得ない理由があると解される。申立人は、本件船舶を使い、延なわ漁業を行い、生活を立てていきたい旨述べるが、同船には、高馬力のエンジンが搭載され、さらにコンプレッサーなどの潜水器漁業用の設備が備わっているばかりか、エアホースの取付口と水中ライトの取付口がそれぞれ4つもあることなど、本件船舶は、当初から密漁目的で改造されたことが強く疑われると言わざるを得ず、同船舶の留置を継続されることによる不利益はさほど大きいものとは認められない(なお、同コンプレッサーを取り外した上、漁船博丸のみを仮還付する余地も検討したが、コンプレッサーを取り外すことにより、本件船舶やコンプレッサーを毀損するおそれがあること、仮に毀損しないまでも、取り外すことにより原状回復が困難となるおそれがあることなどからすると、本件船舶の全部について留置する必要性があると認められる。)。また、別紙押収品目録記載9ないし11の留置物についても、密漁目的で本件船舶に積載されていた可能性が高く、同様に留置の必要性が認められるし、これらの経済的価値からしても、これらの留置が継続されることによる不利益はさほど大きいものではない。

但し、別紙押収品目録記載3ないし6の留置物は、既にその謄抄本が作成され、更新手続などのために申立人が使用する必要性も認められることからすると、なおこれらを留置しなければならない必要性はない。

そうすると、本件物件中、別紙押収品目録記載3ないし6の留置物については留置の必要性が認められないが、その余の留置物については留置の必要性がないとはいえないから、松山海上保安部司法警察員がした還付請求却下処分は、同目録3ないし6の留置物以外については相当である。

2  次に、本件物件の還付を求めている点について検討するに、刑事訴訟法430条2項は、押収処分の取消変更を認めているにすぎず、それ以上にその還付の裁判を求めることはできないものと解され、差押物件の還付を求める理由もない。

3  以上によれば、本件準抗告の申立ては、申立人が平成14年10月29日にした還付請求に対し、同日松山海上保安部司法警察員がした却下処分のうち、別紙押収品目録記載3ないし6の押収物件について取消しを求める限度で理由があるから、刑事訴訟法432条、426条2項によりこれを取り消すが、その余の申立てはいずれも理由がないから、刑事訴訟法432条、426条1項により棄却することとして、よって、主文のとおり決定する。

(別紙押収品目録省略)

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