大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 平成16年(ワ)612号 判決 2006年6月07日

主文

1  被告は、

(1)  原告X1に対し、154万7670円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

(2)  原告X2に対し、24万4360円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

(3)  原告X6に対し、21万4625円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

(4)  原告X7に対し、3万円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

(5)  原告X8に対し、39万1000円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

(6)  原告X10に対し、1万7630円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

(7)  原告X11に対し、114万5410円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員

を支払え。

2  原告X1、原告X2、原告X6、原告X7、原告X8、原告X10、原告X11のその余の請求をいずれも棄却する。

3  原告X3、原告X4、原告X5、原告X9の請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、原告X1に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X1の負担とし、原告X2に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X2の負担とし、原告X3に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X3の負担とし、原告X4に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X4の負担とし、原告X5に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X5の負担とし、原告X7に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X7の負担とし、原告X8に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X8の負担とし、原告X9に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X9の負担とし、原告X10に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X10の負担とし、原告X11に生じた費用と被告に生じた費用の11分の1を原告X11の負担とし、原告X6に生じた費用と被告に生じた費用のその余の部分を被告の負担とする。

5  この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は、

ア 原告X1に対し、1632万1800円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

イ 原告X2に対し、98万1200円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

ウ 原告X3に対し、56万5400円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

エ 原告X4に対し、52万1400円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

オ 原告X5に対し、27万7688円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

カ 原告X6に対し、41万9375円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

キ 原告X7に対し、126万2800円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

ク 原告X8に対し、162万8000円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

ケ 原告X9に対し、130万4600円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

コ 原告X10に対し、13万8600円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

サ 原告X11に対し、1196万5800円及びこれに対する平成16年1月1日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金

を支払え。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

(3)  仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、原告らは、指定暴力団a組系2次団体b会(以下「b会」という。)幹部らによるヤミ金融グループ(以下「b会系ヤミ金融組織」という。)の各ヤミ金融店舗から、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)に違反する高金利を取り立てられた被害者であり、被告は、b会系ヤミ金融組織の統括経営者であったと主張して、原告らが、被告に対し、民法709条、710条又は715条又は719条1項前段に基づき損害賠償を求める事案である。

2  原告らの主張

(1)  当事者

ア 原告らは、b会系ヤミ金融組織の各ヤミ金融店舗から出資法違反の高金利を取り立てられた被害者である。

イ 被告は、b会系ヤミ金融組織の統括経営者であり、「ヤミ金の帝王」と呼ばれた者である。

(2)  被告の不法行為責任(民法709条)

ア b会系ヤミ金融組織

(ア) ヤミ金融組織の概要

a b会系ヤミ金融組織においては、末端の10~30店舗ずつが1つのグループに束ねられ、複数のグループを「社長」と呼称されるグループ長が統括し、それを会長である被告がまとめるというピラミッド構造が形成されていた。

b 被告は、「会長」としてヤミ金融組織の頂点に立ち、組織全体を統括していた。

c 会長直属の「社長」は十数人おり、中でも「C七人衆」と呼称されていた幹部らは、被告の関連企業の役員を兼ねるなどしていた。この幹部らの氏名のイニシャル等にちなんで、「c」、「d」等と名付けられたグループが27グループ存在した。

各グループは、更に複数の小グループやブロック等に分けられ、「グループリーダー」、「ブロック長」、「集金人」等と呼ばれる中間管理者がおり、末端店舗の店長への指示、売上金の管理等を行っていた。

(イ) 関係グループ

a cグループ

cグループの責任者は、b会傘下の暴力団A17組組長のA17である。cグループは、平成12年秋に開設され、傘下には「バグース」、「アリーナ」、「アクション」、「アライブ」等、約14店舗が存在した。

cグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

b eグループ

eグループの責任者は、b会傘下の暴力団2代目f組本部長のDである。Dは、平成11年ころからヤミ金融店舗を経営し、傘下には「アームズ」、「リスタ」、「すみれキャッシング」、「ユウユウクレジット」等、数十店舗を置いていた。

eグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

c dグループ

dグループのグループ長は、C七人衆の1人であるA3である。dグループは、傘下に「スタート信販」、「もみじファイナンス(ガリバー)」、「セレクトファイナンス」、「フラワーサポート」、「アトラスサービス」等、22店舗を抱えていた。また、dグループのセンター責任者は、A69及びA70である。

dグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

d gグループ

gグループのグループ長は、C七人衆の1人であるBである。同人の別名「A6」のイニシャルから、gグループと呼ばれた。同人は、平成12年秋ころグループ長になり、傘下の約22店舗を統括していた。gグループは、B配下の執行幹部A71が5人の「集金人」を抱え、集金人が末端店舗22店を管理するというピラミッド構造になっていた。

gグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

e hグループ

hグループのグループ長は、C七人衆の1人であるA1である。同人は、平成12年2月、同グループのグループ長になった。

hグループは、A1の下にグループ内ナンバー2のA34がおり、そのA34の下に4人のブロック長がいて店舗を5~6店ずつ統括するというピラミッド構造になっていた。hグループは、傘下に「三都信販」、「ドカントサポート」等、約30店舗を抱えていた。

hグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

f iグループ

iグループのグループ長は、A8である。同人は、平成10年7月ころ、b会系ヤミ金融組織傘下のヤミ金融店舗に従業員として入店し、平成12年ころ、iグループのグループ長に就任した。同グループの最盛期には、配下に4人のブロック長がおり、11店の末端店舗と6店の直営店舗があった。

iグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

g jグループ

jグループ傘下のヤミ金融店舗は、別紙1「店舗一覧表」のとおりである。

イ ヤミ金融店舗店長らの加害行為

(ア) 加害行為

ヤミ金融店舗の店長らは、業として金銭の貸付けを行うに当たり、各店舗において現金で受領する方法、あるいは店長ら指定の普通預金口座に振込送金を受ける方法などにより、出資法5条2項に定める1日当たり0.08%(年率29.2%)の割合を超える利息を含む金銭を受領していた。

本件原告らが、出資法5条2項に定める利率を超える利息を支払ったヤミ金融店舗名、支払時期、支払方法、支払金額等個別具体的な事実は、別紙2「被害明細表」記載のとおりである。

また、ヤミ金融店長らは、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、脅迫行為等を行った。

(イ) 加害行為の違法性

a 出資法による高金利の禁止は、金融秩序の維持とともに資金需要者の保護を図ることを目的とする。資金需要者の保護を図るために、出資法に著しく違反する貸金契約は私法上も無効とされる(貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業規制法」という。)、出資法の平成15年改正の提案理由及び改正貸金業規制法42条の2参照)。これは、暴利行為は公序良俗に違反するものであるから、民法90条により無効であるとの考えに基づくものであり、「出資法に違反するような高金利を目的とする貸付けをしてはならない。」という私法上の禁止規範が存在することを意味する。このような私法上の禁止規範に違反して行われた金銭の貸付けの勧誘、金銭の貸付け及び受領行為、つまりヤミ金融営業のすべての行為は、貸付客に対する不法行為に当たる。

b このように解しても、正当な経済活動に対する萎縮効果を危惧する必要はない。そもそも、暴利行為は公序良俗違反だからである。また、このように解釈しなければ、資金需要者保護の目的は達成できない。なぜなら、ヤミ金融は、数十万人もの多数の市民を標的とする組織犯罪であり、市民社会から「広く、浅く」巨額の犯罪収益を稼ぐ犯罪類型である。ヤミ金融による犯罪収益は、罰金の法定最高額をはるかに超えており、また、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。)では、犯罪被害財産に当たる犯罪収益は没収できない。さらに、貸金業規制法が業務停止や登録取消等の行政処分を定めているが、金銭的な制裁を定めてはいない。このように刑罰や行政による規制、監督だけでは、犯罪収益を吐き出すことのないヤミ金融が儲かることになるのであって、ヤミ金融を抑止するには足りないからである。

したがって、出資法5条2項に著しく違反する金銭の貸付けの勧誘、金銭の貸付け及び受領行為、つまりヤミ金融営業のすべての行為は、貸付客に対する不法行為に当たると解し、その犯罪収益をもって被害者に対し賠償させるのが相当である。

c 本件店長らによるヤミ金融営業は、別紙2「被害明細表」の「利率」欄記載のとおり、罰則金利である年率29.2%の何十倍、何百倍という超高金利を目的とするものであり、出資法5条2項に違反する程度が著しいものである。

したがって、本件店長らによる金銭の貸付けの勧誘、金銭の貸付け及び受領行為は、原告らに対する不法行為に当たる。

ウ 被告の加害行為

(ア) 組織の構築とノウハウの考案

被告は、グループ内店舗の貸付客に対する貸付け、返済状況等をコンピュータで一元管理する「センター」を設けさせた。センターは、いわゆる名簿屋を通じて不正に取得した個人信用情報をデータベース化しており、各店舗は、センターのデータを基に勧誘を行うと同時に、貸付客から更に個人情報を聞き出してセンターに報告した。このようにして、債務者の自宅や勤務先、携帯電話の番号、親類や知人の職業や連絡先、他のヤミ金融からの借入状況、返済期限等の債務者データが次第に詳細になって蓄積されていった。債務者データは返済日ごとに検索可能であり、センターからグループ内の各店舗へ、返済日が近づいた債務者の情報が流され、更なる貸付けに利用される仕組みだった。効率的な集客も、貸付客を高金利の罠に誘い込む「システム金融」の手法も、センターという心臓部の存在が不可欠であり、個々の店長がばらばらに稼働したのでは、これを実現することは不可能であった。

このように被告が構築した組織とノウハウが、大がかりな集金マシーンを動かすことを可能にした。システム化されていればこそ、就職情報誌で応募した若者でも、一定の訓練を経れば店長としての機能を果たすことができたのである。そして、経験を積んだ従業員に資金を提供して新たなヤミ金融店舗を出店させることを繰り返し、被告の支配下に巨大なb会ヤミ金融組織が形成された。

(イ) ノルマの設定

被告は、グループ長ら各グループの責任者に対して、1ヶ月毎に被告へ上納すべき金額についてノルマを決め、各グループの責任者を通じて、傘下のヤミ金融店舗による違法営業を推進させた。

グループの規模に応じてノルマ金額は異なり、配下の店舗が10店未満の場合は1店当たり300万円、10店以上の場合は100万円であった。ノルマの設定があったことで、グループ長や、その下のグループリーダー、ブロック長、集金人らは、店長会議を開催し、ノルマが達成できなかった店長らに対して厳しく追及するなどしていた。

例えば、dグループでは、毎月26日現在の貸付残高を基準にして、① その120%から160%に相当する利息をその後の1ヶ月間で回収する(年率1440%から1920%に当たる)、② 貸付残高を1ヶ月で100万円増加させる、というノルマを課していた。その双方とも達成できなかった場合には、各店舗における月々の純利の1割ないし3割程度と定められていた店長の歩合給を半分カットすることとし、ノルマを達成した店舗においては店長以外の従業員に対しても特別にボーナスを支給するなど、いわばアメとムチを用いて売上金を伸ばすことに躍起となっていた。

(ウ) 恐怖支配

被告は、警察の動きを警戒して、配下のグループ長らを通じて店長らに対し、日報等の書類は必要がなくなれば直ちに処分して余計な証拠を残さないこと、もし警察に摘発された場合は店長が全責任を取り、グループの他店舗の名前や上位者の名前は絶対に明かさないことなどの指示を与えていた。店長や従業員らは、上位者に暴力団関係者がいることを知っていたので、「しゃべったら殺される。」という恐怖に支配され、辞めたくても辞められず、被告及び配下のグループ長らの意のままにコントロールされていた。

(エ) 利益の収奪

末端の店長らは、毎日の売上金と日報をブロック長などの中間管理者に届けていた。ブロック長ら中間管理者は、1ヶ月毎に月報を作成してブロック全体の売上げを集計するとともに、ブロック全体で支出すべき費用と店長や従業員らの給料等を差し引いてグループ長に上納した。そして、グループ長から被告へと、上納金が渡っていた。

例えば、dグループでは、傘下の各店舗に対して、毎月150万円を被告に上納すべき金額として計上させていた。このため各店長らは、締め日である毎月25日の日報の経費欄に、「E150」、「+150」等の記載をしていた。「E」とは、「Y会長」という被告の呼び名をイニシャルで表したものである。

このように、被告は、ヤミ金融店長らが原告らから取り立てた金銭を、自己に上納させた。

(オ) 犯罪収益の隠匿

被告は当初、上納金を現金で受領していたが、収益拡大に伴い、平成13年以降、当時は本人確認が不要だった無記名式の割引金融債を購入させ、これを受領するという方法に切り替えた。

しかし、平成14年以降は、本人確認が行われるようになったため、ヤミ金融店舗の店長らを使って偽名で米ドルに両替させるという方法に変更した。米国ラスベガスのカジノの預託金を使えば書類が残らないことから、被告は、預託金を装って国内の貸金庫に保管して隠匿した。

被告は、このような資金洗浄の方法を指示し、犯罪収益の隠匿を行った。

(カ) b会会長への上納

被告は、b会会長であるFに対し、ヤミ金融で得た金銭を上納しており、被告は、暴力団の資金源とする目的で、ヤミ金融グループを支配していた。

(キ) まとめ

被告は、暴力団の資金源とする目的で、システム金融の方法と組織を構築し、自己の支配下に巨大なヤミ金融グループを形成した上で、配下のグループ長から店長へ至る指揮命令系統を利用して、違法なヤミ金融営業により原告らから金銭を取り立てることを指示、命令し、原告らから取り立てた金銭を自己に上納させた。被告のこのような行為は、原告らに対する不法行為に該当する。

エ 被告とヤミ金融店舗店長らとの共謀又は共同の認識

被告がグループ長らに対してヤミ金融営業の方法や売上金の上納等について指示し共謀し、その指示を受けたグループ長らが配下のブロック長ら中間管理者に指示して共謀し、その指示を受けたブロック長らが店長らに指示して共謀し、その指示を受けた店長らが原告らに対する違法な貸付け、取立てを実行したのであるから、これらの者すべての間にヤミ金融営業に関する共謀が行われた。

被告は、自ら作り上げたヤミ金融グループの組織全体の仕組みや各店舗による貸付けの方法、自己への利益の還流方法等の仕組みを認識し、配下のグループ長を通じてヤミ金融店長に至る指揮命令関係を認識した上で、違法なヤミ金融により原告らから金銭を取り立てること、取り立てた金銭を自己に上納することを指示、命令していたのであるから、ヤミ金融店舗店長らの各行為により原告らに損害を与えることについては、少なくとも未必の認識、認容があった。

オ 小括

以上のとおり、被告は、ヤミ金融店舗店長らと共謀し又は共同の認識をもって、原告らに対する加害行為を指示、命令し、これによって原告らに損害を被らせたのであるから、民法709条の不法行為責任を負う。

(3)  被告の不法行為責任(民法715条)

ア 事業性

被告は、ヤミ金融という事業を行っており、事業性は問題なく認められる。

この点、民法715条の「事業」は、合法的な事業を前提としており、不法行為を行うことを事業の内容とするものは含まないとする考え方も存在するが、最高裁判所平成16年11月12日判決は、指定暴力団であるa組の組長に対する判決において、「上告人は、a組の下部組織の構成員を、その直接間接の指揮監督の下、a組の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業に従事させていた」という判断をしており、民法715条の「事業」は合法的な事業に限られるものではない。

イ 使用者性

被告は、暴力団の資金源とする目的で、システム金融の方法と組織を構築して自己の支配下に巨大なヤミ金融グループを形成し、配下のグループ長から店長らへ至る指揮命令系統を利用して、店長らに対し違法なヤミ金融営業により原告らから金銭を取り立てることを指示、命令し、取り立てた金銭を自己に上納させており、被告と店長らとの間には、実質的な指揮監督関係が存する。

ウ 事業執行性

店長らの原告に対する加害行為は、ヤミ金融という事業そのものであり、事業執行性は問題なく認められる。

(4)  被告の不法行為責任(民法719条1項前段)

被告及び店長らは、それぞれ民法709条の不法行為の要件を充足し、また、被告と店長らとの間には、客観的共同関係が認められることから、被告に対し、民法719条1項前段の不法行為責任が認められるべきである。

(5)  損害

ア 財産的損害(民法709条)

(ア) 各原告は、別紙3「請求債権目録」の「店舗」欄記載の店長らに対し、それぞれ「支払額」欄記載の金額を支払い、同額の損害を被った。各原告の財産的損害の合計額は、同目録の「財産的損害」欄記載のとおりである。

(イ) 原告らが被った財産的損害の算出に当たっては、各原告らが受領した元本相当額を控除すべきではないし、損益相殺もすべきではない。

仮に、元本相当額を損害額から控除したり、損益相殺したりするならば、それは犯罪者のために元本を保証することになる。元本といっても、個々の貸付けの場面で表面的にそう見えるだけである。被告らは、犯罪収益を元手に年率1000%を超える高利で運用してきた。元本とされた金銭も、その内実は膨張された犯罪収益であり、これを控除の対象にしたり、損益相殺したりしてはならない。

また、b会系ヤミ金融組織と原告らとの間の関係は、外形的には金銭消費貸借契約関係のように見えるものの、実態は巧妙に仕組まれた犯罪的金銭収奪システムの設営者と被害者との関係であり、振り込まれた金銭は、b会系ヤミ金融組織が、原告らを収奪システムに巻き込むために交付したものであって、犯罪行為の手段にすぎないのであり、法的保護に値しない。かかる観点からしても、ヤミ金融店舗が原告らに振り込んだ元金名目の金員を考慮する必要はない。

イ 非財産的損害(民法710条)

(ア) 精神的苦痛に対する慰謝料

a 原告らは、暴力的取立てに怯えつつ、違法な金利の支払を余儀なくされた。それも年率1000%を超えるような極端な暴利である。支払日は1店舗毎に1週間か10日、複数店舗から貸付けを受けた場合には、連鎖的に支払日が到来するようになる。どのように生活費を削ろうとも、通常の稼働収入で負担できるものではない。親族や友人から借入れをしても、これを返済するより前に、次の金策に追われ、周囲への負い目を積み残してしまう。その罪悪感や無力感を逃れるすべはない。絶え間のない恐怖と恥辱は、もしも破滅を避け偽りの平衡を保とうとするなら、その人を精神的に荒廃させずにはおかないものである。

これは、被告によって仕組まれた罠であった。被告は、原告らの無知と窮迫に乗じ、脅迫と侮辱を加えて人格を踏みにじり、原告らをただの金集めの道具として利用した。

本件は、このように、加害の方法、態様が著しく不法であるという特段の事情が存する場合であるから、原告らは、財産的被害の回復をもってもなお回復し得ない精神的損害を受けたと認められる。

b また、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄に記載のある原告らは、ヤミ金店長や従業員から脅迫を受け、私生活及び業務の平穏、名誉を侵害されるなどして、更に著しい精神的苦痛を被った。

精神的自由や私生活及び業務の平穏は、財産的被害とは別個の法益である。その侵害によって、原告らは、財産的被害の回復をもってもなお回復し得ない精神的損害を受けた。

(イ) 懲罰的損害賠償(制裁的慰謝料)

a 何万人もの一般市民を標的とする組織犯罪では、個別の被害額は少額で、訴訟の動機に乏しい。しかし、犯罪組織が市民社会から「広く、浅く」かき集める犯罪収益は、莫大なものとなる。個々の被害者は、背後で犯罪組織を操っている真の加害者を知らない。刑事裁判で公訴提起の対象となるのは、ごく一握りの被害者にすぎない。大部分の被害者の被害事実は、明らかにされないままである。多くの被害者は、自分の借りた店舗がb会系ヤミ金融組織の店舗だったことさえ知らないままに放置されている。「相互に連携のない多数の一般市民」対「犯罪組織」という構造に由来する提訴の困難を乗り越えられるのは、たまたま機会と条件(気力、体力、知識、経験、必要な費用が出せるか、どの地域に住んでいるか、被害者組織や法律専門家の支援を受けられるような接点があるか)に恵まれた一部の被害者に限られる。そのため犯罪組織は、大部分の被害者に対する損害賠償責任を事実上免れてしまう。

罰金、没収、追徴、あるいは課税処分など、考えられるあらゆる手段を駆使しても、犯罪収益を剥奪するに十分とは限らない。だが、巨額の犯罪収益が剥奪されずにおかれるならば、同種の不法行為が繰り返し行われる条件を除去するに足りない。ヤミ金は儲かるから止まないのである。

犯罪収益を剥奪することは、公益にかなう。公益性のある訴訟の原告となる個人は、その社会問題において選ばれた代表者である。それは、たまたま機会と条件に恵まれたということだが、そのために提訴するか否かの決断を迫られたのだから、災いを降り当てられたようなものである。原告らは、犯罪組織からの報復等の恐怖を乗り越え、自ら当事者となって提訴することによって法の実現に貢献するのだから、その決断あるいは労力に報いることも、慰謝料算定の一要素とされなければならない。

このような場合、賠償の方法として、懲罰的ないし制裁的性質を有する慰謝料の支払義務を課すことが相当である。損害を「賠償する」方法は、損害額と等価のものを経済的に補償することに限らなければならないものではない。それを上回る倫理的な「償い」をさせて、二度と同じ不法行為をしないことの証とさせることは、法の趣旨に反しない。

b 被告は、自らの指示によって得られた金員が違法行為の対価と知っていたからこそ、後記のようなマネーロンダリングを行っていたのであり、被告が違法性を知っていながらあえて当該違法行為に及んだこと、あるいは、それが計画的不法行為であることは明白である。したがって、本件原告らに対しては、単なる精神的損害の賠償にとどまらず、制裁的機能が存在する慰謝料が支払われるべきである。

また、本件においては、刑事上の制裁及び行政上の制裁によっては不法行為者である被告の再度の不法行為を阻止することは全く不可能であり、現時点で、被告から犯罪収益の吐き出しを行わない限り、今後不法行為者による更なる被害者が出ることは確実であるから、制裁的慰謝料の支払が命じられるべきである。

最高裁判所平成9年7月11日判決(民集51巻6号2573頁)は、加害者に対する制裁や、将来における行為の抑止といった一般予防を目的とする懲罰的損害賠償制度は、我が国では認められないとしながら、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあること自体は認めている。さらに、我が国においては、加害者に対して制裁を科し、将来の同様の行為を抑止することは刑事上又は行政上の制裁に委ねられているとしている。

そうであるとするならば、不法行為者に対する刑事上又は行政上の制裁では不法行為者に対する将来の違法行為抑止にならない場合に、例外的に懲罰的損害賠償を認めることによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生じさせることは、前記最高裁判所判決と何ら矛盾するものではない。したがって、加害者の行為が単なる過失ではなく、例えば邪悪な動機あるいは他人の権利に対する意識的な無配慮等、倫理的な非難に値するという要件を満たす場合であって、刑事上及び行政上の制裁では将来の違法行為の抑止が期待できないか不十分である場合には、前記最高裁判所判例の下でも、十分懲罰的損害賠償を認めることは可能である。

c 制裁としての金銭支払の典型は罰金であり、最近の法改正においては、罰金による抑止的効果を強化するために、1億円程度への金額の引き上げが相次いでいる。また、付加刑としての没収、追徴の制度も存在する。確かに、高額な罰金刑又は没収、追徴により、犯罪収益をすべて被告から回収することができれば、我が国の刑事上の制裁として十分機能しているといえる。

しかしながら、本件では、いわゆるマネーロンダリング(資金洗浄)により、犯罪収益として、51億円の資金がスイス・チューリッヒにあるクレディ・スイス本店に、43億円の資金がクレディ・スイスのシンガポール支店に、米ドル200万100ドル(約2億1680万円)が警視庁に押収(現在は、東京地方検察庁に領置)されて存在している。

これらの莫大な犯罪収益に見合う罰金制度は我が国には存在しない。また、犯罪収益であっても、それが犯罪被害財産でもあるときには、没収ができないとされている(組織犯罪処罰法13条2項)ことから、没収、追徴についても、本件における被告に対する制裁としては十分ではない。現に、被告に対する平成17年2月9日の東京地方裁判所における刑事判決では、検察官の懲役7年、罰金3000万円、没収170万ドル、追徴金約51億円という求刑に対して、懲役7年、罰金3000万円の判決を言い渡し、没収、追徴については、組織犯罪処罰法を根拠にこれを認めなかった。

このように、現在の我が国の刑事上の制裁では、本件不法行為者に対する将来の不法行為抑止には不十分若しくは実効性が全くないのである。

d 行政による利益の吐き出しを正面からうたった制度としては、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反のカルテルの場合の公正取引委員会の課徴金の制度が存在するのみである。また、公正取引委員会の排除命令制度も存在するが、いずれも本件事案に適用されるものではない。すなわち、本件においては、行政上の制裁については何ら存在しない。

e 本件の犯罪収益については、上記のように、スイスに51億円、シンガポールに41億円、米ドル紙幣として約2億1680万円が存在する。

スイスにある51億円については、平成16年9月にチューリッヒ州検察庁が、凍結していた預金の没収手続を行ったため、被告に戻る可能性はなくなった。しかし、シンガポールに存在する41億円については、シンガポール当局の捜査協力を得られないために、この資金の行方は解明できないでいる。また、米ドル紙幣については前記のように、没収、追徴される可能性は低い。

このように、犯罪収益による莫大な資産は、被害者に対する吐き出し法制度のない我が国の現状下においては、いずれ、被告に戻る可能性が非常に高いのである。その金額も、シンガポールに存在する犯罪収益の資産だけでも41億円という莫大な金額である。

f 以上のように、莫大な犯罪収益の資産が存在する本件では、刑事上も行政上も被告に対する制裁としては不十分である。すなわち、今まで被告は、これら莫大な犯罪収益をもとに、違法な超高金利の利息を得ることを目的に、多重債務で苦しむ被害者に対し、無理矢理貸付けを行い、そして、精神疾患発病や自殺にまで追い込まれるほどの取立てを行い、お金がお金を生む違法行為を繰り返してきたのである。かかる犯罪収益が被告にいずれ戻った場合には、同じような手段若しくは形を変えた手段で、お金が莫大なお金を生む違法な行為により同じような被害者を生むことは明らかである。

このように、本件においては、刑事上及び行政上の制裁では不十分であり、将来の不法行為を抑止するためには、慰謝料に制裁的機能を認めるべき特別な事情が存在するのである。

(ウ) まとめ

上記(ア)及び(イ)の事情を斟酌すれば、上記アの「財産的損害」と同額の金額を慰謝料として賠償させるのが相当である。

ウ 弁護士費用

本件の弁護士費用は、上記ア及びイの合計額の1割が相当である。

(6)  結論

よって、原告らは、被告に対し、民法709条、710条又は715条又は719条1項前段の不法行為による損害賠償請求権に基づき、別紙3「請求債権目録」の各「請求金額」欄記載の金員及びこれに対する不法行為成立時以後であることが明らかな平成16年1月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める。

3  被告の主張

(1)  当事者

ア 原告らが、各ヤミ金融店舗から出資法違反の高金利を取り立てられた被害者であるか否かについては、不知。

イ 被告が「ヤミ金の帝王」と呼ばれていることは認める。被告は、b会とは無関係である。

(2)  被告の不法行為(民法709条及び710条)

ア b会系ヤミ金融組織

(ア) ヤミ金組織の概要について

被告が、ヤミ金融組織のトップであるとされていることは、特に争わない。しかし、ヤミ金融組織は巨大化しており、被告自身、組織の全容を把握していないし、具体的な貸付行為や取立行為については不知である。

(イ) 関係グループについて

dグループ、gグループ、hグループ、iグループが被告のグループであるということが、刑事裁判において認定されたことは認める。cグループ、eグループがb会傘下の組織であるとすれば、被告とは関係がない。原告らが主張するその余の事実については不知。

イ ヤミ金店長らの加害行為

加害行為及び加害行為の違法性については、不知。

ウ 被告の加害行為

前述のとおり、組織が大きくなりすぎていて、被告自身も十分把握していない。ただ、刑事裁判においても、被告がb会会長に上納したとは認定されていない。

エ 被告の責任

被告としては、証拠によって被告に責任があると認定されるのであれば、責任を負担しなければならないこともやむを得ないと認識している。

(3)  被告の不法行為(民法715条)

不知ないし争う。

(4)  被告の不法行為(民法719条1項前段)

不知ないし争う。

(5)  損害

ア 財産的損害

財産的損害の額及び内容については、不知である。ただし、証拠によって、原告らが、被告が関係していた店舗から金を借り、金を返したということが認定されるのであれば、裁判所が証拠に基づき判断した金額を返済しなければならないと考えている。

イ 非財産的損害の賠償

精神的苦痛に対する慰謝料及び制裁的慰謝料に関する原告らの主張については、不知ないし争う。

刑事裁判で問題となった被害者との間では、受け取りすぎた利息を支払って和解したと聞いているので、その被害者らとの公平を考慮すべきである。

第3判断

1  認定事実

(1)  組織の概要について

証拠(甲A3号証の2、甲A4号証の2、3、5、甲A5号証の2、甲A11号証の1。以下、特記しない限り、証拠番号は、平成16年(ワ)第612号事件及び平成17年(ワ)第69号事件において付されたものを指す。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 被告は、「k」と呼称されていた組織の会長であった。

イ 被告の下には、kの「旧執行部」と呼称されたA2(以下「A2」という。)、A3(以下「A3」という。)、A1(以下「A1」という。)、A4(以下「A4」という。)、A5(以下「A5」という。)、A6ことB(以下「A6」という。)、A7(以下「A7」という。)の7名がおり、A2においてはlグループを、A3においてはdグループを、A1においてはhグループを、A4においてはmグループを、A5においてはnグループを、A6においてはgグループを、A7においてはoグループをそれぞれ統括していた。

また、被告の下には、kの「新執行部」と呼称されたA8(以下「A8」という。)、A9、A10、A11、A12、A13、A14、A15、A16の9名がおり、A8においてはiグループを、A12においてはpグループをというように、それぞれが各自のグループを統括していた。

さらに、被告の下には、新旧執行部に入っていないグループ長もおり、A17(以下「A17」という。)は、cグループを統括していた。

各グループ長は、自己のグループに所属する貸金業店舗を統括する地位にあり、「社長」と呼称されていた。

ウ 各グループは、グループ長の下に「ブロック長」と呼称される中間管理者が、各ブロック長の下に「店長」と呼称される各貸金業店舗の現場責任者が置かれ、更に店長の下にアルバイト従業員が置かれるという組織構造になっており、各貸金業店舗で働く従業員の中から店長が選ばれ、店長のうち優秀な者がブロック長になり、更に独立したグループ長になるという仕組みが取られていた。

エ このような組織構成や組織の拡大方法は、すべて被告が決定していた。

(2)  kにおける組織運営について

証拠(甲A4号証の2から4まで、8、11から13まで、15、甲A6号証の2、甲A7号証の2、甲A8号証の2、甲A9号証の2、甲A11号証の1、7、9、甲A12号証の1)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 執行部について

執行部は、前記認定のとおり、kのグループ長のうち一部の者で構成されていた機関であり、被告の下で、店舗展開等の経営方針や警察対策を考案し、k全体の組織運営を図っていた。

執行部は、新旧執行部のグループ長及び副グループ長が集まって、月1回の定例会議や臨時会議を行っていた。定例会議は、執行部役員に対し、被告が決定したことを伝達する場であり、被告はこれに出席せず、会議後、A2等が被告に内容報告を行っていた。他方、臨時会議には、被告も出席していた。

執行部会議においては、客から振り込まれた金員を引き出すために銀行へ出向く際の注意や、警察の捜査や摘発が、組織全体に及ばないようグループ内の管理をしっかり行うようにとの指示が出されるなどしていた。

イ グループ長について

各グループ長は、自己のグループにおける店舗展開、ブロック長の統括、k事務所の当番、各ブロック長から届けられた店舗の収益金の受領、収益金の被告への上納等を行っていた。

ウ ブロック長について

各ブロック長は、自己の下に置かれた数店舗の店長を束ねる役割であり、店長らに対して営業上の指導をしたり、店長らから各店舗の収益を集めたりしていた。また、グループ長からの指示を各店舗に伝える役割も果たしていた。

ブロック長は、就任当初は、自己の店舗の店長を兼ねており、ブロック長の経験を積んで配下の店舗数が増加すると、ブロック長に専念するという慣例になっていた。

エ 店長について

kにおいては、「自営店」と呼称された店舗と「直営店」と呼称された店舗とが存在し、自営店においては、店長はグループ長に雇用され、他方、直営店においては、店長は被告に雇用される形になっていた。

各店舗の店長は、現場の責任者として、店舗の宣伝をして顧客獲得を目指し、借入れの申込みがあった際には、審査の上貸付けを行うなどしていた。

また、各店長は、自己が所属するグループのグループ長に対し、店舗の売上げ、諸経費を記載した表等を渡し、収支報告をするとともに、収益金を渡していた。

オ 新規店舗開店について

各グループにおいて、新しく店舗を出す際には、被告に報告し、承諾を得る必要があった。また、被告の収益を少しでも多く確保するため、新規出店に条件が付されることもあり、例えば平成13年4月当時は、4店舗目以降の店舗を出すには、①各グループで独自に「センター」を設置すること、②「k研修生」と呼称されていたk幹部の付き人を派遣するか、被告の直営店を出すことが条件とされていた。

新規出店に当たっては、店長を命じられた者が貸金業の登録を行ったり、事務所となるマンションの一室を借り、事務機器用品を準備したりするなどしていたが、開店資金や貸付元金は、グループ長が出資していた。

カ 上納金について

(ア) グループ長は、被告に対し、毎月一定の金額を上納することを義務づけられ、上納金のことを「義理」、「締め」、「上納」などと称していた。上納金の金額は、基本的には、1店舗目は300万円、2店舗目からは1店舗毎に200万円と決められ、平成14年1月ころからは、1店舗目300万円、2店舗目、3店舗目はそれぞれ150万円、4店舗目以降は1店舗毎に100万円と変更された。

他方、直営店においては、店長の給料を経費に計上した上で、収益から経費を差し引いた金額すべてを上納していた。ただし、直営店の店長が直接被告に上納金を届けるのではなく、当該店長が所属するグループのグループ長を通じて被告に届けられていた。

(イ) 旧執行部のA2、A4、A3らは、毎月3回程度、東京都内にあるホテルの一室で、各グループの上納金を回収する作業を行っており、平成10年から11年ころには、被告も回収作業に立ち会い、A2等から上納金を受け取っていた。しかし、平成12年ころからは、被告が立ち会わなくなったことから、ホテル以外のk事務所等で集めるなどしていた。

また、平成14年1月ころからは、回収担当が、A9、A11、A10、A12に交代した。さらに、平成15年に入ってからは、集金方法が、それまでの各グループ長が同じ場所に上納金を持参する形から、集金担当者がそれぞれ回収する形に変更になり、また集金回数も、月1回程度に減少した。

(ウ) 各グループ長は、自己が統括する各店舗の店長から売上げの報告を受けるとともに、収益を回収し、その中から被告に上納する金銭を支出していた。

(エ) なお、原告らは、被告が、b会会長であるFに対し、ヤミ金融で得た金銭を上納していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

(3)  kにおける中央管理システムについて

証拠(甲A4号証の2、8、甲A6号証の3、甲A13号証の2、7)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 全体の中央管理システム

(ア) kでは、各店舗に借入れを申し込んできた客に関する貸付けや返済の状況、k内他店舗における借入残高、弁護士や警察への相談や通報歴の有無等の情報を管理する場所があり、同所は「センター」と呼称されていた。

各店舗では、客から借入れの申込みがあった場合、まずセンターに電話連絡をし、客に関する情報を得てから融資を実行していた。

(イ) k内の各店舗の店長は、毎日、kのセンターに、貸付状況と入金状況を記した日報をファクシミリ送信していた。センターでは、この各店舗の日報をもとに、客に関する情報を集積、整理していた。

また、月に1回程度、新執行部の各グループ長や旧執行部のナンバー2が、各グループの情報を記録したMOを持ち寄って、k全体のセンターに集まり、そこで情報をパソコンで1つにまとめた上、更新された情報を再度MOに記録して持ち帰っていた。

イ 各グループにおける中央管理システム

各グループは、平成12年ころから、被告の指示で、独自のセンターを設置するようになった。独自のセンターを設置した理由は、k全体の店舗数が増え、1つのセンターでは対応しきれなくなったこと、センターが1つしかないと、その場所に警察の捜査が及んだ場合にk全体が壊滅してしまうことから、その危険を分散することであった。

グループ毎のセンター設置に当たっては、A18が、センターの立ち上げやソフト開発を行っていた。

さらに、hグループにおいては、平成15年2月ころ、各ブロック毎にセンターを設置した。

(4)  kにおける営業形態について

証拠(甲A4号証の9、10、甲A5号証の2、甲A6号証の2、甲A7号証の3、甲A8号証の2、3、甲A9号証の2、甲A10号証の3)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア k内のヤミ金融店舗の店長は、新聞紙に広告を掲載したり、いわゆる名簿屋から、大手金融業者から借入れをすることができない多重債務者の名簿を購入し、この名簿をもとにダイレクトメールを送付したりするなどして各店舗の宣伝を行っていた。当初は、未払の状態が継続した場合に取立てに出向くことができるという理由で、関東周辺の客を対象としていた。

店長や従業員らは、広告やダイレクトメールを見た客が借入申込みの電話を架けてきた場合には、客の氏名、住所、生年月日、自宅電話番号、勤務先とその電話番号、希望借入額を聞いた上で、審査を行うので後で架電してくるよう告げて一旦電話を切り、客から聴取した住所や勤務先に所在確認の電話を架けるとともに、センターに電話を架け、当該客の他店舗からの借入れの有無、返済状況等を調査していた。

調査の上、貸付け可と判断した客に対しては、客が再度架けてきた電話において、来店するよう指示し、来店した客と面接した結果で、万単位で貸付金額を決めていた。

しかし、競合店舗が多くなり、客範囲を関東周辺でとどめていたのでは、顧客獲得につながらないため、次第に、全国の多重債務者等にダイレクトメールを送付し、貸付けも振込みで行うようになった。

イ k内の各店舗では、一般的に、返済期限を一律10日間とし、10日以内に元本に利息を加えた額を振り込んでくれば完済とするが、それができない場合には、利息に借換手数料を加えた金額を振り込ませ、返済期限を10日繰り延べるという貸付方法を取っていた。

また、利息は、例えばiグループでは、5万円以上の貸付けは10日間で4割、4万円以下の貸付けは10日間で5割と決まっていたが、客の返済状況、利用回数等から優良債務者と認めた場合や、高金利であることに抗議してきた場合などには、基準より低い金利で貸し付けていた。

ウ kでは、各貸金業店舗で働く従業員の中から店長が選ばれ、店長のうち優秀な者がブロック長になり、更に独立したグループ長になるという仕組みが取られていたため、ある店舗において従業員に教育した営業方法が、新店舗にも継承されていった。

エ k組織内では、従業員に対し、警察が捜査に入り、営業実態について尋ねてきた場合には、「貸付けは社長が一人でやっていて、自分たちはアルバイトで雑用しかやっていないから詳しいことは分からない。社長に聞いてくれ。」と話し、社長とは、グループ長の名前を出すよう指示をしていた。このような従業員教育を行った理由は、違法な貸金営業に対する警察の捜査をグループ長で止め、被告にまで及ばないようにするためであった。

また、グループ内の店長会議等において、過去に警察に駆け込んだ客には貸さない、警察に駆け込んだ客には、すぐに過払金を返済する、取り締まりの厳しい県の客には貸さない、警察に捕まったときには組織のことを絶対言わないといった、警察対策の情報が周知されていた。さらに、他のグループの店長が捕まったときには、その店長が警察でどのようなことを聴取されているかの情報が入り、それに対してどのようなことを答えればよいかというマニュアルが、各店舗にファクシミリで送信されることもあった。

(5)  k組織内グループについて

ア cグループについて

証拠(甲A2号証の1から4まで、甲A19号証の2から5まで)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 前記認定のとおり、cグループのグループ長は、A17であった。同人は、平成12年8月ころ、「アリーナ」(平成12年3月1日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)という商号で貸金業を営んでいたA19(以下「A19」という。)と知り合い、「アリーナ」を中心にして、A19が出店させた「フォレックス」、「ポエム」により構成されたヤミ金融グループの運営に関わるようになった。A19が組織したヤミ金融グループは、同人が最初に出店した店舗の「アリーナ」という商号にちなんで、cグループと呼称されていた。

(イ) cグループには、A20が店長を務める「アクション」(平成14年8月30日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)、A21が店長を務める「アライブ」(平成13年2月28日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)、A22が店長を務める 「バグース」(平成13年1月31日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)が所属していた。

イ eグループについて

原告らは、eグループは、被告が統括していたヤミ金融グループの1つであり、その責任者は、b会傘下の暴力団2代目f組本部長のDであって、傘下には「アームズ」、「リスタ」、「すみれキャッシング」、「ユウユウクレジット」のほか、別紙1「店舗一覧表」のとおりの店舗が存在したと主張する。

しかし、eグループというヤミ金融組織が存在していたこと及び同グループが、被告が組織するkに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

ウ dグループについて

前記認定のとおり、dグループのグループ長は、A3であった。

原告らは、「スタート信販」をはじめとして、別紙1「店舗一覧表」のとおりの店舗が、dグループに所属していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

エ gグループについて

原告らは、「ボビー」をはじめとして、別紙1「店舗一覧表」のとおりの店舗が、gグループに所属していたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

オ hグループについて

証拠(甲A2号証の37から43まで、甲A11号証の1、7、甲A12号証の1、2、4から7まで、12、13、甲A13号証の2、4、甲A14号証の2、6)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 前記認定のとおり、hグループのグループ長は、A1であった。同人は、平成11年7月ころ、hグループのグループ長に就任し、その配下に、副グループ長としてA34(以下「A34」という。)を、ブロック長としてA35(以下「A35」という。)、A36(以下「A36」という。)、A37(以下「A37」という。)、A38(以下「A38」という。)の3名を置いていた。

hグループは、平成15年7月末ころ、解散した。

(イ) hグループの副グループ長であったA34は、平成12年4月ころ、「ほのぼのプラン」という商号で貸金業の登録を行い(東京都知事(1)第<省略>号)、同店舗の店長として貸金業を営み始め、その後、平成13年9月28日に、「フレッシュプラン」と商号を改めた。A34は、平成14年5月ころ、更に「サムライ」と商号変更した上で、A39に同店舗の店長を命じ、自らは、「カナリヤ」という店舗とサムライの2店舗の営業を管理監督する立場となった。

(ウ) hグループのブロック長であったA36は、平成12年4月18日、「ポパイ」という商号で貸金業の登録を行い(東京都知事(1)第<省略>号)、同店舗の店長として貸金業を営み始めた。A36は、平成13年9月28日、同店舗の商号を「ヒノキ」と改め、平成14年8月20日には同店舗を廃業した。

A36は、平成13年6月ころ、A40が店長を務める「ミント」(平成13年4月16日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)の営業の管理監督を行うようになったほか、その後、A41が店長を務める「カラフル」(平成13年3月30日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)、A37が店長を務める「レッスル」(平成13年7月23日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)の営業の管理監督も行うようになり、平成14年6月には、hグループのブロック長に就任した。

また、A36は、平成15年3月ころ、A1の指示により、カラフルの従業員であったA42を店長にして「ドカントサポート」を開店させた上で、ブロック長として同店舗の管理を行っていた。

A36が統括するブロックには、他に、A43が店長を務める「トップファイナンス」、A44が店長を務める「誠」、A45が店長を務める「スプラッシュ」、A11が店長を務める「ロングサポート」(平成14年12月25日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)が所属していた。

A36は、平成15年6月25日ころ、hグループを脱退した。

(エ) hグループのブロック長であったA37は、平成13年7月23日、「レッスル」という商号で貸金業の登録を行い(東京都知事(1)第<省略>号)、同店舗の店長として貸金業を営み始め、平成15年2月15日には廃業した。

A37は、平成14年7月ころ、A36の指示を受けてレッスルの店長を辞め、ブロック長をしていたA36の補佐役として、同人が管理していた店舗の管理を手伝うようになった。その後、A37は、平成15年1月、hグループのブロック長に就任した。

A37が統括するブロックには、A46が店長を務める「三都信販」(平成14年11月末ころ、貸金業の登録を受けずに開業)、A47が店長を務める「ビックサポート」(平成14年4月10日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)、A48が店長を務める「ダイアモンド」(後に、「ライアーコーポレーション」と商号変更)、「シルク」、「シェリー」が所属していた。

A37が統括していた各店舗は、平成15年7月末にすべて廃業した。

カ iグループについて

証拠(甲A2号証の48から53まで、甲A4号証の3、6から8まで、27、30、甲A6号証の2から4まで、甲A7号証の2から4まで、甲A8号証の2、甲A9号証の2、甲A10号証の2)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 前記認定のとおり、iグループのグループ長は、A8であった。同人は、平成12年7月ころ、iグループのグループ長に就任し、その配下に、A49(以下「A49」という。)、A50(以下「A50」という。)、A51(以下「A51」という。)の3人のブロック長とブロック長に準じた地位にあったA52(以下「A52」という。)を置いていた。また、iグループには、直営店店長として、A53及びA54(「大樹」の店長)が所属していたほか、元々はhグループ下の直営店店長であったが、A1がA8に指示したことによって、iグループに所属するようになったA55、A56、A57、A58が所属していた。

iグループは、平成15年7月初めころ、解散した。

(イ) iグループのブロック長であったA49は、平成12年6月16日、「ドリーム」という商号で貸金業の登録を行い(東京都知事(1)第<省略>号)、同店舗の店長として貸金業を営み始めた。その後、平成14年2月15日に、同店舗の商号を「チャンス」と改めた上で、引き続き店長として営業を行っていたが、同年8月ころ、同店舗の店長を辞め、iグループのブロック長に就任した。A49は、平成15年1月31日、チャンスを廃業し、同年4月ころには、kを脱退した。

A49が統括するブロックには、A59が店長を務める「こぶたちゃん」、A60が店長を務める「ユープラン」、A61が店長を務める「帝国信用」が所属していた。

(ウ) iグループのブロック長であったA50は、平成13年1月31日、「テルミー」という商号で貸金業の登録を行い(東京都知事(1)第<省略>号)、同店舗の店長として貸金業を営み始め、平成15年2月15日に廃業し、その後はブロック長に専念する予定であったが、同月19日、iグループのA51が逮捕されたことにより、iグループが混乱したため、ブロック長に専念するには至らなかった。

A50が統括するブロックには、A62が店長を務める「ほのか」(平成14年10月21日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)、A63が店長を務める「アップルファイナンス」、A64が店長を務める「新光信販」が所属していた。

(エ) iグループのブロック長であったA51は、平成12年10月ころ、「ユープランニング」という商号で貸金業を営み始めたが、平成13年1月ころ、同店舗の商号を「ミサキ」と改め、その後、更に「グローバル」と変更した。

A51は、平成14年1月ころ、ブロック長に就任し、同年10月ころまでは、ブロック長と同人自身の店舗営業とを兼任していたが、その後は、平成15年2月19日に逮捕されるまでの間、ブロック長の仕事に専念していた。

A51が統括するブロックには、A65が店長を務める「けやき」(平成14年3月19日貸金業登録、東京都知事(1)第<省略>号)、A66が店長を務める「大江戸信販」、A67が店長を務める「スペースプラン」が所属していた。

(オ) iグループのブロック長に準じる役割を果たしていたA52は、「武蔵野リース」や「みなみ」という商号で貸金業の登録を行い、同店舗の店長として貸金業を営み、A68が店長を務める「北星信販」を統括していた。

(カ) iグループに所属する直営店の店長であったA53は、平成13年6月29日、「スマート」という商号で貸金業の登録を行い(東京都知事(1)第<省略>号)、同店舗の店長として貸金業を営み始め、平成15年6月13日、廃業した。

キ jグループについて

原告らは、jグループは、被告が組織していたヤミ金融グループの1つであり、その傘下には、別紙1「店舗一覧表」のとおりの店舗が存在したと主張する。

しかし、jグループというヤミ金融グループが存在していたこと及び同グループが、被告が組織するkに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

(6)  各原告の借入れ及び弁済について

ア 原告X1の借入れ及び弁済について

(ア) 証拠(甲1号証の2から18まで、株式会社UFJ銀行の平成17年9月9日受付の調査嘱託の結果)によれば、原告X1は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載の貸金業店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

これに対し、原告X1は、別紙2「被害明細表」に記載されたとおりの弁済を行ったと主張し、これに沿う陳述書(甲1号証の1及び19)も存在するが、株式会社UFJ銀行の平成17年9月9日受付の調査嘱託の結果によれば、原告X1の陳述とは異なる弁済の事実が判明するなどしており、これらの陳述書を直ちに信用することはできず、また、他に上記認定以外の弁済を行ったと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また、原告X1は、「G」名義の銀行口座に宛てて送金を行ったが、同口座名義人は、「アクセス」の店長であり、同店舗は被告下のiグループに所属していたと主張する。

この点、甲A2号証の54、甲A17号証の2から5までによれば、Gが、平成13年1月15日、「アクセス・ジャパン」との商号で貸金業の登録を行って(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)、貸金業を営んでいたことが認められるものの、同店舗が被告下のiグループに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

イ 原告X2の借入れ及び弁済について

証拠(甲2号証の2から4まで、甲2号証の5の1から4まで、甲2号証の6の1から3まで)によれば、原告X2は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載のk所属店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

ウ 原告X3の借入れ及び弁済について

(ア) 証拠(甲3号証の3及び株式会社三井住友銀行の平成17年6月16日受付の調査嘱託の結果)によれば、原告X3は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載の貸金業店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

これに対し、原告X3は、別紙2「被害明細表」に記載されたとおりの弁済を行ったと主張し、これに沿う陳述書(甲3号証の1及び4)や振込み後の控えを基に取引経過を書き起こしたメモ(甲3号証の2)も存在するが、これらを直ちに信用することはできず、また、他に上記認定以外の弁済を行ったと認めるに足りる証拠はない。

(イ) また、原告X3は、「A23」名義、「A28」名義、「A30」名義の各銀行口座に宛てて送金を行ったが、これらの口座名義人は、それぞれ「フレンド」、「アトラスサービス」、「グランド信販」の店長であり、これら3店舗は、被告下のdグループに所属していたと主張する。

この点、甲A2号証の27によれば、フレンドが、平成13年3月30日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA23であったこと、甲A2号証の14によれば、アトラスサービスが、平成13年7月23日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA28であったことが認められ、また、甲A2号証の18によれば、グランド信販が、平成12年10月30日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA30であったことが認められるものの、上記3店舗が、dグループに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

エ 原告X4の借入れ及び弁済について

(ア) 証拠(甲4号証の2の1及び2、甲4号証の3の1から4まで、甲4号証の4及び5、甲4号証の6の1及び2、甲4号証の7)によれば、原告X4は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載の貸金業店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

(イ) これに対し、原告X4は、平成14年3月19日に1000円を送金した相手方である「A27」は、「フラワーサポート」の店長であり、同店舗は、「ルーキー」と同一店舗であると主張する。

この点、甲A2号証の13によれば、フラワーサポートが、平成14年5月8日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA27であったことが認められるものの、甲A2号証の28によれば、ルーキーは、平成13年6月29日に貸金業の登録をした貸金業者であること(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)が認められるから、両店舗が同一の店舗であったと認めることはできない。

(ウ) また、原告X4は、「A26」名義、「A24」名義、「A32」名義、「A23」名義、「A28」名義、「A29」名義、「A33」名義の各銀行口座に宛てて送金を行ったが、これらの口座名義人は、それぞれ「セレクトファイナンス」、「ルーキー」、「ユウキプラン」、「フレンド」、「アトラスサービス」、「エイトスター」、「未来」の店長であり、これら7店舗はいずれも、被告下のdグループに所属していたと主張する。

この点、前述のとおり、フレンド及びアトラスサービスが、dグループに所属していたとは認められない。

また、甲A2号証の12によれば、セレクトファイナンスが、平成12年11月16日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA26であったことが、甲A2号証の28によれば、ルーキーが、平成13年6月29日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA24であったことが、甲A2号証の21によれば、ユウキプランが、平成13年8月30日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA32であったことが、甲A2号証の16によれば、エイトスターが、平成12年10月30日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA29であったことが、甲A2号証の22によれば、未来が、平成13年9月17日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA33であったことが、それぞれ認められるものの、これら5店舗が、dグループに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

オ 原告X5の借入れ及び弁済について

証拠(甲5号証の2及び3)によれば、原告X5は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載のk所属店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

カ 原告X6の借入れ及び弁済について

証拠(甲6号証の2から7まで)によれば、原告X6は、別紙4「取引経過一覧表」のとおり、kに所属していたスマートとの間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

キ 原告X7の借入れ及び弁済について

(ア) 証拠(甲7号証の3から5まで)によれば、原告X7は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載の貸金業店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

(イ) これに対し、原告X7は、「A25」名義及び「A28」名義の各銀行口座に宛てて送金を行ったが、これらの口座名義人は、それぞれ「スタート信販」、「アトラスサービス」の店長であり、スタート信販及びアトラスサービスは、被告下のdグループに所属していたと主張する。

この点、前述のとおり、アトラスサービスが、dグループに所属していたとは認められない。

また、甲A2号証の10によれば、スタート信販が、平成14年3月8日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA25であったことが認められるものの、同店舗が、dグループに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

ク 原告X8の借入れ及び弁済について

証拠(甲8号証の2から10まで)によれば、原告X8は、別紙4「取引経過一覧表」のとおり、ほのぼのプランとの間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

また、前記のとおり、ほのぼのプランの店長は、A34であり、同店舗は、被告下のhグループに所属していたことが認められる。

ケ 原告X9の借入れ及び弁済について

(ア) 証拠(甲9号証の3の1から5まで)によれば、原告X9は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舖名」欄記載の貸金業店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

(イ) これに対し、原告X9は、「A27」名義、「A31」名義の各銀行口座に宛てて送金を行ったが、これらの口座名義人は、それぞれ「フラワーサポート」、「ネオ・インターナショナル」の店長であり、両店舗は、被告下のdグループに所属していたと主張する。

この点、前述のとおり、フラワーサポートが、平成14年5月8日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA27であったことは認められるが、同店舗が被告下のdグループに所属していたと認めるに足りる証拠はない。また、甲A2号証の20によれば、ネオ・インターナショナルが、平成13年7月10日に貸金業の登録をした貸金業者であったこと(登録番号東京都知事(1)第<省略>号)及び同店舗の店長がA31であったことが認められるものの、同店舗が、dグループに所属していたことを認めるに足りる証拠はない。

コ 原告X10の借入れ及び弁済について

証拠(甲10号証の2)によれば、原告X10は、別紙4「取引経過一覧表」のとおり、ドカントサポートとの間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

また、甲A13号証の2、甲A15号証の1によれば、ドカントサポートは、A42が店長となって、平成15年3月ころ、東京都知事の登録を受けないまま貸金業の営業を開始した店舗であり、被告下のhグループに所属していたことが認められる。

サ 原告X11の借入れ及び弁済について

(ア) 証拠(平成17年(ワ)第540号事件の甲1号証の1から25まで、同甲2号証の1から15まで、同甲3号証の1から5まで、同甲4号証の1から3まで、同甲5号証の1から3まで、同6号証、同7号証)によれば、原告X11は、別紙4「取引経過一覧表」の「店舗名」欄記載のk所属店舗との間で、同表記載の年月日に、同表記載の金額の借入れ又は弁済を行ったことが認められる。

(イ) これに対し、原告X11は、「G」名義の銀行口座に宛てて送金を行ったが、この口座名義人は、「アクセス」の店長であり、同店舗は、被告下のiグループに所属していたと主張する。

しかし、前述のとおり、同店舗が被告下のiグループに所属していたとは認めることができない。

(7)  借入れの利率について

原告らは、原告らが被告が組織するkの各貸金業店舗から金銭を借り入れた際の利率を計算する方法につき、最終的には元利を一括で支払わなければ完済と扱われず、次の借入れも認められなかったと主張して、1回の弁済額が借入額より少ない場合には、それまでの支払によって弁済額合計が借入額を超えていた場合でも、当該期日における弁済は、利息の支払と扱われるべきであると主張する。

しかし、原告らは、完済しない限り、次の借入れができなかったと主張する一方で、完済しないうちに次の借入れを行ったと主張することもあり、元利を一括弁済するまでは、利息の支払を継続していたとする原告らの主張を採ることはできない。

したがって、複数回の弁済により、弁済総額が借入元本額を超えた場合には、最終回の弁済のみを捉えると借入元本額に満たない場合でも、それまでの弁済の合計により、元本の返済があったとみるのが相当である。

この裁判所が相当と認めた方法により計算を行った結果、kに所属していた貸金業店舗(ドリーム、ミサキ、ミント、レッスル、テルミー、ほのか、チャンス、スマート、アリーナ、ほのぼのプラン、ドカントサポート、カラフル、ヒノキ)から金銭を借り入れたことを認定できる原告X1、原告X2、原告X5、原告X6、原告X7、原告X8、原告X10、原告X11が、これらの店舗から金銭を借り入れた際の利息の割合は、別紙4「取引経過一覧表」の「年率」欄記載のとおりと認められる。そして、この利率は、出資法5条2項に定める年29.2%の利率を数倍から約1860倍をも上回るものである。

また、同表中、原告X1の弁済においては、年23.17%や年27.97%の利率による支払が存在するが、これらは、原告X1が主張するとおりの弁済の事実が認定できなかったため、元本を長期間借り入れていたと認定して計算を行った結果であり、証拠により認定することができた取引経過やそれを基にした年率計算の結果等からすれば、これらの利息支払も、出資法5条2項が規定する年29.2%の利率を超過するものであったと推認することができる。

(8)  脅迫行為等の有無について

ア 原告X2について

原告X2は、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、被告が統括するヤミ金融グループの一員から電話を受け、「中学校にいる子供がいるだろう。学校の行き帰りに注意せえよ。」などと言って脅迫を受けるなどしたと主張し、これに沿う陳述書(甲2号証の1)が存在する。

しかし、原告X2の夫の職場に虚偽の電話を架けてきたHと名乗る男性が、被告組織に属する者であることを示す他の証拠が存在しないこと、原告X2自身が受けた脅迫電話については、いつ、いかなる人物からのものかが不明確であることから、前記陳述書を直ちに信用することはできず、また、他に原告X2が主張する事実があったと認めるに足りる証拠はない。

イ 原告X3について

原告X3は、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、被告が統括するヤミ金融グループの一員から、「返さないと殺すぞ。」と言われたほか、同人の子が通う学校に連絡され、聞くに耐えないような文言を言われるなどして脅迫を受けたと主張し、これに沿う陳述書(甲3号証の1)が存在する。

同人は、どのヤミ金融店舗の従業員から上記文言を言われたのか覚えていないと言うのであるが、仮に、同人が借入れを行ったフレンド、グランド信販、アトラスサービスの店員らが上記文言を言ったと認められたとしても、上記3店舗が、被告組織に所属していたことが認められない以上、被告が統括するヤミ金融組織の一員によって、上記文言による脅迫行為が行われたと認めることはできない。

ウ 原告X4について

原告X4は、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、被告が統括するヤミ金融グループの一員が、「今から行って殺してやる。」などと言って脅迫したと主張し、これに沿う陳述書(甲4号証の1)が存在する。

同人は、上記文言を、いつ、誰が言ったのかを明確に陳述していないのであるが、仮に同人が借入れを行ったセレクトファイナンス、ルーキー、ユウキプラン、フレンド、アトラスサービス、エイトスター、未来の店員らが上記文言を言ったと認められたとしても、上記7店舗が、被告組織に所属していたことが認められない以上、被告が統括するヤミ金融組織の一員によって、上記文言による脅迫行為が行われたと認めることはできない。

エ 原告X6について

原告X6は、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、スマートの担当者であるI、J、Kから、「つべこべ言わないで、金を払え。払わないと身内に電話して取り立てる。息子をマグロ漁船に乗せて働かせる。娘を風俗に売り飛ばす。」などと言われて脅迫を受けたと主張し、これに沿う陳述書(甲6号証の1)が存在する。

この点、X6は、スマートの担当者から脅迫を受けたことを明確に記憶し、陳述しており、その供述は信用できる。

したがって、被告が統括するkに所属するスマートの店員によって、X6に対し、上記のような脅迫があったことが認められる。

オ 原告X7について

原告X7は、被告が統括するヤミ金融グループの一員が、「死ね。」、「子供をさらって売り飛ばす。子供の通っている学校は分かるから学校に行って子供をさらって韓国に連れて行って売る。嫌なら支払え。」などと言って脅迫したと主張し、これに沿う陳述書(甲7号証の1及び2)が存在する。

しかし、同人は、単に、ヤミ金に上記文言を言われたと陳述するにすぎないのであり、直ちに上記陳述書を信用することはできず、また他に、被告が統括するヤミ金融組織の一員によって、上記文言による脅迫行為が行われたと認めるに足りる証拠はない。

カ 原告X9について

原告X9は、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、被告が統括するヤミ金融グループの一員が、自己や家族等に対し、「(自営のぶどう園を)つぶしてやるぞ。」、「組の者を5、6人連れて行くぞ。」などと言って脅迫したと主張し、これに沿う陳述書(甲9号証の1)が存在する。

同人は、上記文言を、いつ、誰が言ったのかを明確に陳述していないのであるが、仮に同人が借入れを行ったフラワーサポート、ネオ・インターナショナルの店員らが上記文言を言ったと認められたとしても、上記2店舗が、被告組織に所属していたことが認められない以上、被告が統括するヤミ金融組織の一員によって、上記文言による脅迫行為が行われたと認めることはできない。

キ 原告X11について

原告X11は、別紙2「被害明細表」の「特記事項」欄記載のとおり、被告が統括するヤミ金融グループの一員から、「殺しに行くぞ。」などと電話が架かってきたり、「大至急連絡しろ。連絡なき場合は、地獄の回収活動が始まる。」などという内容の電報が届いたりして脅迫を受けたと主張し、これに沿う陳述書(平成17年(ワ)第540号事件の甲8号証)が存在する。

しかし、同人は、単に、ヤミ金に上記文言を言われたと陳述するにすぎないのであり、直ちに上記陳述書を信用することはできず、また他に、被告が統括するヤミ金融組織の一員によって、上記文言による脅迫行為が行われたと認めるに足りる証拠はない。

2  不法行為の成否

(1)  出資法5条2項は、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、同条項に規定する利率を超える割合による利息の契約をした場合には、この者を処罰することとしており、これによって、金融秩序の維持を図るとともに資金需要者の保護を図っている。

かかる出資法の趣旨からすれば、同条項が規定する利率を著しく上回る割合によって利息の契約をし、これに基づいて利息を受領することは、違法性の程度が高く、不法行為に該当するということができる。

さらに、平成15年7月25日の貸金業の規制等に関する法律の改正により、年109.5%を超える利息の契約をしたときは、原則として当該消費貸借契約は無効とされ、同日の出資法の改正により、高金利の処罰規定が引き上げられた経緯があること、その背景には、いわゆるヤミ金を巡り、その被害者である多重債務者の自殺、返済目的のための財産犯罪多発等の社会問題が存していたことは、当裁判所に顕著であり、これらの事情によると、本件は、上記改正前の貸付けにかかるものではあるが、前記認定のとおり、出資法5条2項に定める年29.2%の利率を数倍から約1860倍上回る利率による貸付けであることから、消費貸借契約自体が公序良俗に反し、違法かつ無効な契約であるというべきである。

(2)  本件においては、上記認定のとおり、被告が組織するkに所属していた各貸金店舗(ドリーム、ミサキ、ミント、レッスル、テルミー、ほのか、チャンス、スマート、アリーナ、ほのぼのプラン、ドカントサポート、カラフル、ヒノキ)は、原告X1、原告X2、原告X5、原告X6、原告X7、原告X8、原告X10、原告X11に対し、出資法5条2項に定める年29.2%の利率を数倍から約1860倍をも上回る利率によって利息の支払をする約定で金銭を貸し付けたことが認められる。したがって、出資法5条2項が規定する利率を著しく上回る割合によって利息を支払うことを約定して、金銭消費貸借契約を締結させたということができ、これらの行為は、いずれも不法行為に該当する。

(3)  被告の責任

前記認定事実によれば、被告は、① 自らの側近として執行部を置いた上で、執行部やグループ長らがグループ長としてブロック長や各店舗の店長らを管理指導することによってヤミ金融グループを運営するという組織構成を発案し、② 自らが執行部に指示を与えれば、上記組織構成における指揮命令系統を通じて末端店舗の店員に至るまでこれが行き届くことを認識して、警察の捜査に対する対策やセンターと呼称された客に関する情報集約システムの構築等を指示し、客との間の取引が円滑に進み、k全体が収益を上げることを企図し、③ 各店舗が出資法5条2項の規定を著しく上回る割合の利率によって利息契約を締結し、これに基づいて利息を取得することによって売上げを伸ばしていることを認識しながら、この売上げを上納金として受け取り、ヤミ金融営業による収益を自己に集積させていたということができる。

かかる事情の下では、被告は、k組織内の各店舗の店長や従業員らの行為を利用し、また、店長らも、自己の行為が被告の利益につながることを認識して貸金業を営んでいたということができるから、被告は、原告らとの間で取引を行っていた各店舗の店長や従業員らと一体となって、出資法5条2項の規定を著しく上回る割合の利率によって利息の支払をする約定で金銭消費貸借契約を締結させるという不法行為を行ったと評価できる。

したがって、被告は、原告X1、原告X2、原告X5、原告X6、原告X7、原告X8、原告X10、原告X11に対し、民法719条1項前段に基づく損害賠償責任を負うべきである。

3  財産的損害

(1)ア  原告らは、原告らが被った財産的損害の算出に当たっては、各原告が受領した元本相当額を控除すべきではないし、損益相殺もすべきではないと主張する。

また、原告らは、被告組織と原告らとの間の関係は、外形的には金銭消費貸借契約関係のように見えるものの、実態は巧妙に仕組まれた犯罪的金銭収奪システムの収奪者と被害者との関係であり、振り込まれた金銭は、被告組織が、原告らを収奪システムに巻き込むために交付したものであって、犯罪行為の手段にすぎないのであり、法的保護に値しないと主張する。

この点、認定した事実によれば、kにおいては、大手貸金業者等から借入れのできない多重債務者の名簿を購入し、これらの者に対してダイレクトメールを送付する方法によって宣伝、借入れの勧誘を行っていたのであり、生活費や借金返済に窮した状況にある債務者らを顧客対象にしていたということができる。

しかしながら、原告らは、kに所属していた貸金業店舗からのダイレクトメール等を見て、自らの意思で借入れを申込み、返済条件を承知した上で貸付けを受けたのであって、経済的利益を受ける意思があったし、また、現実に経済的利益を受けたということができる。

したがって、原告らの損害を算定するに当たっては、損益相殺の考え方により、各原告が被った損害から、各原告が借入れによって得た利益を控除するのが相当である。

イ  前記のように、出資法5条2項に定める年29.2%の利率を著しく上回る利率によって利息を支払うことを約定したときは、消費貸借契約自体が公序良俗に反し、違法、無効なものであると解される。

不法原因給付の観点からすると、違法な貸付けにより貸主が交付した元金については、不法原因給付として貸主から借主に対する返還請求権は否定されるが、借主が当該元金をも返済した後に、改めてその返済した元金の返還を求めることはできないものである。

このように考えると、消費貸借契約自体が公序良俗に反し、違法なものであるとしても、交付された元金につき、損益相殺の考えにより、その損害から控除することまで否定できるものではないというべきである。

(2)  原告らが被った財産的損害について

ア 原告X1が被った財産的損害について

原告X1については、別紙4「取引経過一覧表」のうち、kに所属していたことが認定できるドリーム、ミサキ、ミント、レッスルの4店舗との取引において支払った総額549万9000円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この549万9000円から借入額総額409万1330円を差し引くことにより求められる140万7670円につき、被告はこれを賠償すべきである。

イ 原告X2が被った財産的損害について

原告X2については、別紙4「取引経過一覧表」のとおり、kに所属していたことが認定できるテルミー、ほのかの2店舗との取引において支払った総額44万6000円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この44万6000円から借入額総額22万3640円を差し引くことにより求められる22万2360円につき、被告はこれを賠償すべきである。

ウ 原告X5が被った財産的損害について

原告X5については、別紙4「取引経過一覧表」のとおり、kに所属していたことが認定できるチャンス、スマートとの取引において支払った総額12万6222円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この12万6222円から借入額総額13万円を差し引きすると、原告X5は、なお3778円の経済的利益を受けたといえるから、被告において賠償すべき損害はない。

エ 原告X6が被った財産的損害について

原告X6については、別紙4「取引経過一覧表」のうち、kに所属していたことが認定できるスマートとの取引において支払った総額19万0625円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この19万0625円から借入額総額9万5000円を差し引いたことにより求められる9万5625円につき、被告はこれを賠償すべきである。

オ 原告X7が被った財産的損害について

原告X7については、別紙4「取引経過一覧表」のうち、kに所属していたことが認定できるアリーナとの取引において支払った総額7万円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この7万円から借入額総額4万2000円を差し引いたことにより求められる2万8000円につき、被告はこれを賠償すべきである。

カ 原告X8が被った財産的損害について

原告X8については、別紙4「取引経過一覧表」のうち、kに所属していたことが認定できるほのぼのプランとの取引において支払った総額74万円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この74万円から借入額総額38万4000円を差し引いたことにより求められる35万6000円につき、被告はこれを賠償すべきである。

キ 原告X10が被った財産的損害について

原告X10については、別紙4「取引経過一覧表」のうち、kに所属していたことが認定できるドカントサポートとの取引において支払った総額6万3000円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この6万3000円から借入額総額4万6370円を差し引いたことにより求められる1万6630円につき、被告はこれを賠償すべきである。

ク 原告X11が被った財産的損害について

原告X11については、別紙4「取引経過一覧表」のうち、kに所属していたことが認定できるカラフル、ヒノキ、レッスルの3店舗との取引において支払った総額152万円の財産的損害を被ったということができる。

そして、この152万円から借入額総額47万8590円を差し引いたことにより求められる104万1410円につき、被告はこれを賠償すべきである。

4  非財産的損害

(1)  脅迫による精神的苦痛について

前記のとおり、原告X6に対しては、kに所属するスマートの店員らが、「つべこべ言わないで、金を払え。払わないと身内に電話して取り立てる。息子をマグロ漁船に乗せて働かせる。娘を風俗に売り飛ばす。」などと言って脅迫を用いた取立て行為を行ったことが認められる。かかる取立て行為は権利を実現する手段としての程度を超えており、不法行為が成立し、原告X6が被った精神的苦痛の慰謝料としては、10万円が相当である。

(2)  不法な貸付けによる精神的苦痛について

原告らは、被告が組織するkの各店舗の営業行為は、原告らの無知と窮迫に乗じ、また脅迫と侮辱を加え、原告らの人格を踏みにじる行為であり、かかる行為によって原告らは精神的苦痛を受けたから、慰謝料の支払を認めるべきであると主張する。

しかし、財産的損害が填補されている本件において、財産的損害を填補してもなお回復し得ない精神的損害があると認めるべき特別な事情はない。

したがって、被告の原告らに対する、不法な貸付行為ないし利息契約締結行為を原因とする慰謝料支払義務は認められない。

(3)  懲罰的損害賠償について

原告らは、本件においては、ヤミ金融による将来の不法行為を抑止するためには、刑事上及び行政上の制裁では不十分であり、慰謝料の支払に制裁的機能を認めるべき特別な事情が存在すると主張する。

しかし、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般的予防を目的とするものではない(最高裁平成5年(オ)第1762号、同9年7月11日第二小法廷判決、民集51巻6号2573頁)のであって、原告らの主張を採用することはできない。

5  弁護士費用について

(1)  原告らは、被告の不法行為によって、やむなく弁護士に依頼し、訴えを提起するに至ったのであり、その弁護士費用を被告に負担させるのが相当である。

(2)  原告らの弁護士費用について

ア 原告X1の弁護士費用は、14万円と認められる。

イ 原告X2の弁護士費用は、2万2000円と認められる。

ウ 原告X6の弁護士費用は、1万9000円と認められる。

エ 原告X7の弁護士費用は、2000円と認められる。

オ 原告X8の弁護士費用は、3万5000円と認められる。

カ 原告X10の弁護士費用は、1000円と認められる。

キ 原告X11の弁護士費用は、10万4000円と認められる。

6  結論

以上によれば、原告X1、原告X2、原告X6、原告X7、原告X8、原告X10、原告X11の各請求については、主文のとおりの限度において理由があるからそれぞれ認容することとし、原告X1、原告X2、原告X6、原告X7、原告X8、原告X10、原告X11のその余の請求及び原告X3、原告X4、原告X5、原告X9の各請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については、民訴法61条、64条ただし書きを、仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 澤野芳夫 裁判官 竹尾信道 白石裕子)

(別紙)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例