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松山地方裁判所 平成17年(ワ)378号 判決 2005年12月21日

原告 甲

被告 国

同代表者法務大臣 杉浦正健

同指定代理人 近藤康文

同 高山達司

同 栗岡和男

同 吉岡義仁

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は、原告に対し10万円を支払え。

2  訴訟費用被告負担

第2事案の概要

1  本件は、原告が、平成6年12月ころ、相続税を申告するに当たり、相続財産である「金の茶釜」の評価額の算定方法について相談するため八幡浜税務署を訪ねたところ、対応した同署職員から、「金の茶釜」については、金の地金価格ではなく実勢価格で申告しなければ違法、脱税になる旨の説明(以下「本件説明」という。)を受けたが、その後、原告が金の地金価格で相続税の申告をしたにもかかわらず、同税務署から何ら指摘を受けなかったことから、本件説明は虚偽であり、これにより精神的苦痛を被ったとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき慰謝料を請求するものである。

2  原告の主張

(1)  原告は、平成6年12月ころ、相続税の申告に当たり、八幡浜税務署の税務相談の窓口に赴き、同署の職員に対し、亡父の遺産である「金の茶釜」(実勢価格は500万円相当である。)の相続税の算定につき説明を受けたが、その際、同職員は、本件説明をした。

(2)  ところが、原告が税理士や弁護士から「金の茶釜も地金の相場でよい。」との説明を受け、実際、地金の相場で申告したところ、何ら脱税の指摘を受けることはなかった。このことから、本件説明は虚偽であることが判明した。

(3)  虚偽の説明は、国家公務員法の服務違反であり、これによって、原告は精神的損害を被った。これを慰謝するには10万円が相当である。

3  被告の反論

(1)  原告の主張(1)のうち、「金の茶釜」の実勢価格が500万円相当であることは知らない。同(1)のうち、その余の点は否認ないし争う。

(2)  同(2)のうち、原告が税理士や弁護士から「金の茶釜も地金の相場でよい。」との説明を受けたことは知らない。原告が相続税の申告をしたことは認め、原告がした相続税の申告につき、現在まで脱税の指摘がされていないことは争わない。八幡浜税務署の職員の説明が虚偽の説明であるということであれば争う。

(3)  同(3)は争う。

第3判断

1  原告が主張するように、「金の茶釜」の算定につき、八幡浜税務署の職員が原告に対し本件説明をしたとしても、相続税法によれば、特別の定めがあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるとされている(相続税法22条)のであり、時価(実勢価格)による評価を原則としているのであるから、本件説明は、相続財産の評価は実勢価格によるべきであるとの原則を一般論として説明したものにすぎないと評価できるのであって、何ら違法なところはない。

2  また、本件説明に何らかの違法があったとしても、原告は時価を下回る地金価格をもって相続税の申告をし、これに基づいて納税したのであって、何ら経済的損失を被っているものではないし、精神的損害といっても本件では、原告において法的に保護された権利ないし利益が侵害されたものとは認められない。

3  よって、原告の請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 澤野芳夫)

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