松山地方裁判所 平成18年(ワ)36号 判決 2006年6月20日
主文
1 被告Y1及び被告Y2は、原告に対し、連帯して、5万2943円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みに至るまで年21.9%の割合による遅延損害金を払え。
2 被告Y1及び被告Y3は、原告に対し、連帯して、22万6687円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みに至るまで年21.9%の割合による遅延損害金を払え。
3 被告Y1及び被告Y4は、原告に対し、連帯して、12万6777円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みに至るまで年21.9%の割合による遅延損害金を払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 この判決は、第1項ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
主文同旨
2 請求の趣旨に対する答弁(被告ら共通)
(1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
1 36号事件
(1) 請求原因
ア 原告は、平成17年6月27日、被告Y1に対し、以下の条件で300万円を貸し付けた。
(利息)年29.2%(1年365日の日割特約)
(遅延損害金)年29.2%(1年365日の日割特約)
(弁済期など)平成17年8月から平成22年7月まで、毎月1日に元金5万円及び経過期間分の利息を持参又は送金して支払う。
(特約)支払を怠ったときは通知、催告なくして当然に期限の利益を失い、残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。
イ 被告Y2は、平成17年6月27日、アの債務を連帯保証した。
ウ 平成17年8月1日が経過した。
エ よって、被告Y1及び被告Y2は、原告に対し、連帯して、利息制限法所定の制限利息による充当計算をした後の本件貸付金の元本の残金5万2943円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みに至るまで同法所定の年21.9%の割合による遅延損害金を支払え。
(2) 請求原因に対する認否(被告Y1、被告Y2共通)
請求原因ア及びイは認める。
(3) 抗弁(被告Y1、被告Y2共通)
ア 抗弁1(期限の利益の喪失なし)
被告Y1及び被告Y2は、平成17年8月1日に支払う約束の元利金を全く支払っていない。しかし、以下の理由から、それまでの被告Y1及び被告Y2の支払状況からすれば、同日に支払があったものと同視すべきであり、この日に期限の利益を喪失してはいない。
最高裁判所第2小法廷は、平成18年1月13日、分割弁済の合意のある金銭消費貸借契約に付された期限の利益の喪失の合意について、利息制限法所定の利息の制限額を超える利息の支払を怠ることを期限の利益の喪失の条件とする合意は、借主に対し、同法の制限額を超える利息の支払を事実上強制するものに該当するから、期限の利益の喪失の合意のうち、同法所定の利息の制限額を超える利息の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとの部分は無効であり、支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り期限の利益を喪失するものと解するのが相当である旨判決した。そして、この判決にいう「支払期日に約定の元本又は同法所定の利息の制限額の支払を怠った場合」とは、当該支払期日に支払を怠ったか否かのみで判断すべきではなく、問題となる支払期日までに支払った金額の合計が、支払期日までに支払うべき元本及び同法所定の利息の制限額の合計を超過するか否かで判断するべきであることは、超過している状態であれば支払のなかった支払期日の分を含めて既に債務の本旨に従った弁済行為が行われたというべきであることから当然というべきである。
このように解した場合、被告Y1は、平成17年8月1日の時点で、その支払期日を含めてそれまでに支払うべき元本及び同法所定の利息の制限額によって支払うべき金員の合計である465万1107円(うち、38号事件分302万2990円、37号事件分153万4967円、36号事件分9万3150円)に対して既に594万1609円(うち38号事件分394万9053円、37号事件分199万2556円)支払っているから、同日に分割弁済の期限の利益を喪失することはない。
イ 抗弁2(期限の利益の喪失の主張の信義則違反)
仮に分割弁済の期限の利益の喪失が認められるとしても、原告は、被告Y1及び被告Y2に対し、それを宥恕又は黙示に期限の利益を再度付与したことが以下の事実関係から認められるから、原告が期限の利益の喪失を主張することは信義則上許されない。
(ア) 原告は、被告Y1及び被告Y2が平成17年8月1日分の支払をしなかったことを認識しながら、それ以降も被告Y1及び被告Y2に対して、債務の一括返済や遅延損害金の支払を求めた事実がないばかりか、以降の被告Y1らの返済を異議なく受領している。
(イ) 原告は、被告Y1らが37号事件及び38号事件の各請求原因記載の貸付けについて、平成16年9月1日分の支払をしなかったことを認識しながら、それ以降も被告Y1、被告Y3及び被告Y4に対して、債務の一括返済や遅延損害金の支払を求めた事実がないばかりか、被告Y1に請求原因記載の貸付けを新規に行っている。
(ウ) 平成17年8月1日までに被告Y1らが37号事件及び38号事件の各請求原因記載の貸付けに対して支払った弁済額の合計金額は、抗弁1で主張したように、36号事件、37号事件及び38号事件の各請求原因記載の各貸付けに対するその日までに支払うべき元本及び利息制限法の制限利息を合計した金額を超過している。
(4) 抗弁に対する認否
ア 抗弁1について
被告Y1及び被告Y2の主張は争う。
被告Y1及び被告Y2が自認するように、平成17年8月1日に支払われた金額は一切なく、被告Y1及び被告Y2が引用する最高裁判所の判断からも、利息制限法の制限金額内の利息の支払がない以上、合意に基づき、被告Y1及び被告Y2は当然に期限の利益を喪失するものである。
そもそも、同法に違反する利息を受領した際には、その利息としての支払分は元本に当然に充当されるものであり(最高裁判所昭和39年11月18日判決)、被告Y1及び被告Y2も残債務額の計算の際にはこれに従っている。この裁判例を前提とする限り、同法に定める利息を超える金額の支払は、元本に当然に充当されたものであり、期限の利益の喪失との関係で超過利息を利息のように主張する被告Y1及び被告Y2の主張は失当というほかない。
イ 抗弁2について
被告Y1及び被告Y2の主張は争う。
原告は、平成17年8月1日以降に被告Y1らからされた弁済については、遅延損害金として受領することを常に明示しているし、一括返済ができないからこそ一部入金として受領していたにすぎない。元利損害金の一括請求は借主に酷となる場合が多く、また、権利者である貸主が借主に対して常に一括請求することを強制される根拠はないのであるから、元利損害金を一括請求しなかったことをもって、黙示に期限の利益を再度付与した、又は期限の利益の喪失を主張できないとする主張は失当と言わざるを得ない。
2 37号事件
(1) 請求原因
ア 原告は、平成16年4月5日、被告Y1に対し、以下の条件で350万円を貸し付けた。
(利息)年29.0%(1年365日の日割特約)
(遅延損害金)年29.2%(1年365日の日割特約)
(弁済期など)平成16年5月から平成21年4月まで、毎月1日に元金5万8000円(但し、平成21年4月1日のみ7万8000円)及び経過期間の利息分を持参又は送金して支払う。
(特約)支払を怠ったときは通知、催告なくして当然に期限の利益を失い、残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。
イ 被告Y3は、平成16年4月5日、アの債務を連帯保証した。
ウ 平成16年9月1日が経過した。
エ よって、被告Y1及び被告Y3は、原告に対し、連帯して、利息制限法所定の制限利息による充当計算をした後の本件貸付金の元本の残金22万6687円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みに至るまで同法所定の年21.9%の割合による遅延損害金を支払え。
(2) 請求原因に対する認否(被告Y1、被告Y3共通)
請求原因ア及びイは認める。
(3) 抗弁(被告Y1、被告Y3共通)
ア 抗弁1(期限の利益の喪失なし)
被告Y1及び被告Y3は、平成16年9月1日に支払う約束の元利金を全く支払っていない。しかし、36号事件の抗弁1で主張したことと同じ理由から、被告Y1らは、平成16年9月1日の時点で、その支払期日を含めてそれまでに支払うべき元本及び利息制限法所定の利息の制限額によって支払うべき金員の合計である245万3179円(うち、38号事件分195万6630円、37号事件分49万6549円)に対して既に313万7899円(うち38号事件分258万3472円、37号事件分55万4427円)支払っているから、同日に分割弁済の期限の利益を喪失することはない。
イ 抗弁2(期限の利益の喪失の主張の信義則違反)
仮に分割弁済の期限の利益の喪失が認められるとしても、原告は、被告Y1及び被告Y3に対し、それを宥恕したか又は黙示に期限の利益を再度付与したことが以下の事実関係から認められるから、原告が期限の利益の喪失を主張することは信義則上許されない。
(ア) 原告は、被告Y1及び被告Y3が平成16年9月1日分の支払をしなかったことを認識しながら、それ以降も被告Y1及び被告Y3に対して、債務の一括返済や遅延損害金の支払を求めた事実がないばかりか、以降の被告Y1らの返済を異議なく受領している。
(イ) 原告は、被告Y1らが38号事件の請求原因記載の貸付けについて平成16年9月1日分の支払をしなかったことを認識しながら、それ以降も被告Y1及び被告Y4に対して、債務の一括返済や遅延損害金の支払を求めた事実がないばかりか、被告Y1に36号事件の請求原因記載の貸付けを新規に行い、これについても同様の行動に至っている。
(ウ) 平成16年9月1日までに被告Y1らが37号事件及び38号事件の各請求原因記載の各貸付けに対して支払った弁済額の合計は、抗弁1で主張したように、37号事件及び38号事件の各請求原因記載の貸付けに対してその日までに支払うべき元本及び利息制限法の制限利息を合計した金額を超過している。
(4) 抗弁に対する認否
ア 抗弁1について
被告Y1及び被告Y3の主張は争う。
被告Y1及び被告Y3が自認するように、平成16年9月1日に支払われた金額は一切なく、36号事件の抗弁1に対する主張と同様の理由から、その主張は失当というほかない。
イ 抗弁2について
被告Y1及び被告Y3の主張は争う。
原告は、平成16年9月1日以降に被告Y1らからされた弁済については、遅延損害金として受領することを常に明示しているし、一括返済ができないからこそ一部入金として受領していたにすぎない。元利損害金の一括請求は借主に酷となる場合が多く、また、権利者である貸主が借主に対して常に一括請求することを強制される根拠はないのであるから、元利損害金を一括請求しなかったことをもって、黙示に期限の利益を再度付与した、又は期限の利益の喪失を主張することができないとする主張は失当と言わざるを得ない。また、36号事件の請求原因記載の新規の貸付けの存在から、別の契約について期限の利益の喪失を宥恕したと評価されるいわれはない。
3 38号事件
(1) 請求原因
ア 原告は、平成15年3月6日、被告Y1に対し、以下の条件で400万円を貸し付けた。
(利息)年29.0%(1年365日の日割特約)
(遅延損害金)年29.2%(1年365日の日割特約)
(弁済期など)平成15年4月から平成20年3月まで、毎月1日に元金6万6000円及び経過期間の利息分を持参又は送金して支払う。
(特約)支払を怠ったときは通知、催告なくして当然に期限の利益を失い、残債務及び残元本に対する遅延損害金を即時に支払う。
イ 被告Y4は、平成15年3月6日、アの債務を連帯保証した。
ウ 平成16年9月1日が経過した。
エ よって、被告Y1及び被告Y4は、原告に対し、連帯して、利息制限法所定の制限利息による充当計算をした後の本件貸付金の元本の残金12万6777円及びこれに対する平成17年12月2日から支払済みに至るまで同法所定の年21.9%の割合による遅延損害金を支払え。
(2) 請求原因に対する認否(被告Y1、被告Y4共通)
請求原因ア及びイは認める。
(3) 抗弁(被告Y1、被告Y4共通)
ア 抗弁1(期限の利益の喪失なし)
被告Y1及び被告Y4は、平成16年9月1日に支払う約束の元利金を全く支払っていない。しかし、36号事件の抗弁1で主張したことと同じ理由から、被告Y1は、平成16年9月1日の時点で、その支払期日を含めてそれまでに支払うべき元本及び利息制限法所定の利息の制限額によって支払うべき金員の合計である245万3179円(うち、38号事件分195万6630円、37号事件分49万6549円)に対して既に313万7899円(うち38号事件分258万3472円、37号事件分55万4427円)支払っているから、同日に分割弁済の期限の利益を喪失することはない。
イ 抗弁2(期限の利益の再度付与)
仮に分割弁済の期限の利益の喪失が認められるとしても、原告は、被告Y1及び被告Y4に対し、それを宥恕したか又は黙示に期限の利益を再度付与したことが以下の事実関係から認められるから、原告が期限の利益の喪失を主張することは信義則上許されない。
(ア) 原告は、被告Y1及び被告Y4が平成16年9月1日分の支払をしなかったことを認識しながら、それ以降も被告Y1及び被告Y4に対して、債務の一括返済や遅延損害金の支払を求めた事実がないばかりか、以降の被告Y1らの返済を異議なく受領している。
(イ) 原告は、被告Y1らが37号事件の請求原因記載の貸付けについて平成16年9月1日分の支払をしなかったことを認識しながら、それ以降も被告Y1及び被告Y3に対して、債務の一括返済や遅延損害金の支払を求めた事実がないばかりか、被告Y1に36号事件の請求原因記載の貸付けを新規に行い、これについても同様の行動に至っている。
(ウ) 平成16年9月1日までに被告Y1らが37号事件及び38号事件の各請求原因の貸付けについて支払った弁済額の合計は、抗弁1で主張したように、37号事件及び38号事件の各請求原因記載の貸付けに対してその日までに支払うべき元本及び利息制限法の制限利息を合計した金額を超過している。
(4) 抗弁に対する認否
ア 抗弁1について
被告Y1及び被告Y4の主張は争う。
被告Y1及び被告Y4が自認するように、平成16年9月1日に支払われた金額は一切なく、36号事件の抗弁1に対する主張と同様の理由から、その主張は失当というほかない。
イ 抗弁2について
被告Y1及び被告Y4の主張は争う。
原告は、平成16年9月1日以降に被告Y1からされた弁済については、遅延損害金として受領することを常に明示しているし、一括返済ができないからこそ一部入金として受領していたにすぎない。元利損害金の一括請求は借主に酷となる場合が多く、また、権利者である貸主が借主に対して常に一括請求することを強制される根拠はないのであるから、元利損害金を一括請求しなかったことをもって、黙示に期限の利益を再度付与した、又は期限の利益の喪失を主張することができないとする主張は失当と言わざるを得ない。また、36号事件の請求原因記載の新規の貸付けの存在から、別の契約について期限の利益の喪失を宥恕したと評価されるいわれはない。
第3当裁判所の判断
1 36号事件
ア 請求原因について
請求原因ア及びイは当事者間に争いがなく、請求原因ウは顕著な事実であるから、請求原因には理由がある。
イ 抗弁1について
被告Y1及び被告Y2が、元金5万円及び経過期間分の利息を弁済期日である平成17年8月1日に弁済しなかったことは当事者間に争いがない。
被告Y1及び被告Y2は、金銭消費貸借契約及び利息制限法の制限利息を超える利息の契約の弁済方法について分割弁済及び弁済を怠ったときには分割弁済の利益を喪失するとの特約がある場合に、過去に弁済した総額が、それら分割弁済の際に支払うべき元金及び利息制限法に定める上限金利で計算した利息金額の合計額を超えていれば、分割弁済の約定の日に一切の弁済をしなくても期限の利益を喪失することはない旨主張するが、被告Y1及び被告Y2が引用する最高裁判所第2小法廷判決平成18年1月13日の判決は、同法を超える利息の支払を条件とする部分に限って期限の利益の喪失の合意を一部無効とする一方、同法所定の利息の範囲内では期限の利益の喪失の合意を有効と判断したものであるし、同法の制限利息を超過する利息の弁済は、民法491条の適用により、当然に貸付元本に充当されるものであって(最高裁判所大法廷判決昭和39年11月18日・民集18巻9号1868頁)、元本に充当されることなく来るべき後の弁済期日のために原告に留保されると解していないのであるから、平成17年8月1日に元本分さえ弁済のなかった被告Y1及び被告Y2について、期限の利益を失わないと解する余地はない。
以上のとおりであるから、抗弁1には理由がない。
ウ 抗弁2について
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第80ないし第85号証及び弁論の全趣旨によれば(一部争いのない事実を含む。)、①原告は、被告Y1及び被告Y2が平成17年8月1日の弁済期日分の弁済をしなかった以降も、被告Y1及び被告Y2に対し、36号事件の提起に至るまで元本や遅延損害金などの一括弁済を積極的に求めていない、②平成17年8月1日以降同年12月2日までになされた弁済は、被告Y2がした平成17年8月26日の5万円、同月30日の5万円、同年10月25日の10万1000円、被告Y1がした同年12月1日の299万1260円、同月2日の1万6720円である、③原告は、②の各弁済について、元本と利息と遅延損害金を明確に区別して領収をして、その内容を示す領収書を発行し、被告Y1及び被告Y2はこれを受領した、との事実が認められる。
しかし、これら事実を総合しても、原告が被告Y1及び被告Y2に対し、黙示に期限の利益を再度付与又は期限の利益の喪失を宥恕したというには足りず、被告Y1及び被告Y2の主張には理由がないというべきである。何故ならば、原告は①のような行動をしてはいるが、一般に、債務の履行を遅滞した債務者に対して、債務の一括履行を請求をするか否かの判断は、原則として権利者である債権者の自由意思にまかされるべきものであるから、債権者である原告が積極的に一括請求をしないという不作為のみによって、合意に従った法的効果である期限の利益の喪失の効果を主張し得なくなると解することは極めて困難であるし、本件においては、②のとおり、被告Y1及び被告Y2において、遅滞した分の弁済や、その後に従前の契約条項に従った、又はある程度の規則性のある分割弁済を実施などした事実はない一方、③のとおり、原告においても被告Y1及び被告Y2の弁済を遅滞のない状態と黙示的にでも認めたことを示す事実はないのであって、原告と被告Y1及び被告Y2との間において、期限の利益の再度付与に該当するような事実関係は存在しないからである。
以上のとおりであるから、抗弁2には理由がない。
エ したがって、原告の被告Y1及び被告Y2に対する請求は理由がある。
2 37号事件
ア 請求原因
請求原因ア及びイは当事者間に争いがなく、請求原因ウは顕著な事実であるから、請求原因に理由がある。
イ 抗弁1
被告Y1及び被告Y3が、元金分の5万8000円及び経過期間分の利息の弁済を弁済期日である平成16年9月1日にしなかったことは当事者間に争いがない。また、36号事件における抗弁1に対しての判断と同じ理由により、被告Y1及び被告Y3の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、抗弁1には理由がない。
ウ 抗弁2
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第59ないし第70号証、第74号証の2、第75証の2、第76号証の2、第77号証の2、第78号証の2及び弁論の全趣旨によれば(一部争いのない事実を含む。)、①原告は、被告Y1及び被告Y3が平成16年9月1日の弁済期日分の弁済をしなかった以降も、37号事件の提起に至るまで、被告Y1及び被告Y3に対して遅延損害金を含めた一括弁済を積極的に求めていない、②平成16年9月1日以降平成17年7月1日までに被告Y1らがした弁済について、原告は、充当される元本、利息及び遅延損害金をそれぞれ明示して受領し、その旨の受領書を作成して被告Y1らに交付した、③②の弁済は、平成16年9月6日に14万8948円、同年10月12日に13万1687円、同年11月10日に7万3561円、同月19日に7万0965円、平成17年1月5日に11万7410円、同月17日に17万4602円、同年2月3日に9万8500円、同年3月1日に11万8736円、同年4月5日に13万8136円、同年5月13日に14万3241円、同年6月6日に10万4132円、同年7月1日に11万8211円である、④原告は、被告Y1に対して平成17年6月27日に新規の貸付け(36号事件の契約)をした、との事実が認められる。
しかし、これら事実を総合しても、原告が被告Y1及び被告Y3に対し、黙示に期限の利益を再度付与又は期限の利益の喪失を宥恕したというには足りず、被告Y1及び被告Y3の主張には理由がないというべきである。何故ならば、36号事件で述べたとおり、原告は①のような行動をし、ほかに②及び③のような事実関係はあるが、これをもって合意に従った法的効果である期限の利益の喪失の効果を債権者である原告が主張し得なくなると判断するには足りず、④のような原告からの新たな与信についても、本件では連帯保証人を別にするなどの事情も認められるところであり、このような別契約の存在によって、37号事件の遅滞についてこれを宥恕したと解釈することは困難と言わざるを得ないからである。
以上のとおりであるから、抗弁2には理由がない。
エ したがって、原告の被告Y1及び被告Y3に対する請求は理由がある。
3 38号事件
ア 請求原因
請求原因ア及びイは当事者間に争いがなく、請求原因ウは顕著な事実であるから、請求原因に理由がある。
イ 抗弁1
被告Y1及び被告Y4が、元金分の6万6000円及び経過期間分の利息の弁済を弁済期日である平成16年9月1日にしなかったことは当事者間に争いがない。また、36号事件における抗弁1に対しての判断と同じ理由により、被告Y1及び被告Y4の主張は採用できない。
以上のとおりであるから、抗弁1には理由がない。
ウ 抗弁2
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第25ないし第36号証、第46号証の2、第47証の2、第48号証の2、第49号証の2、第50号証の2及び弁論の全趣旨によれば(一部争いのない事実を含む。)、①原告は、被告Y1及び被告Y4が平成16年9月1日の弁済期日分の弁済をしなかった以降も、38号事件を提起するに至るまで、被告Y1及び被告Y4に対して遅延損害金を含めた一括弁済を積極的に求めていない、②平成16年9月1日から平成17年7月1日までに被告Y1らがした弁済について、原告は、充当される元本、利息及び遅延損害金をそれぞれ明示して受領し、その旨の領収書を作成して被告Y1らに交付した、③②の弁済は、平成16年9月6日に15万1052円、同年10月12日に14万5313円、同年11月10日に10万6439円、同月19日に1万9035円、平成17年1月5日に15万2590円、同月17日に7万5398円、同年2月3日に10万1500円、同年3月1日に11万1264円、同年4月5日に13万3574円、同年5月13日に14万1759円、同年6月6日に10万5868円、同年7月1日に12万1789円である、④原告は、被告Y1に対して平成17年6月27日に新規の貸付け(36号事件の契約)をした、との事実が認められる。
しかし、これら事実を総合しても、37号事件の抗弁2での判断理由と同じ理由により、原告が被告Y1及び被告Y4に対し、黙示に期限の利益を再度付与又は期限の利益の喪失を宥恕したというには足りず、被告Y1及び被告Y4の主張には理由がないというべきである。
以上のとおりであるから、抗弁2には理由がない。
エ したがって、原告の被告Y1及び被告Y4に対する請求は理由がある。
第4結語
以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法65条1項本文、61条を、仮執行宣言については同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹尾信道)