松山地方裁判所 平成18年(行ウ)15号 判決 2007年8月28日
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 松山税務署長が原告に対し,平成17年7月8日付けで原告の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額1億1168万3024円,納付すべき税額3487万9100円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
2 松山税務署長が原告に対し,平成17年7月8日付けで原告の平成14年6月1日から平成15年5月31日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額1億1587万1557円,納付すべき税額3638万0200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度(以下「平成14年5月期」という)及び平成14年6月1日。から平成15年5月31日までの事業年度(以下「平成15年5月期」という。)の法人税に関し,松山税務署長が,譲渡資産を建物のみとし買換資産を土地とした買換えについては,租税特別措置法(平成14年5月期においては,平成14年4月24日法律第29号による改正前のもの。平成15年5月期においては,平成15年5月20日法律第54号による改正前のもの。以下,いずれも「措置法」という。)65条の7(以下「本件特例」という。)第2項の規定の対象となり,譲渡資産である土地の面積が零となり取得した土地の面積の全部が零を超える部分に対応するものとなることから,取得した土地は買換資産には該当しないものとなり,本件特例第1項22号に規定する固定資産圧縮損加算の特例の適用は認められないとしてした各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。また,これと本件各更正処分とを合わせて「本件課税処分」という。)について,原告がこれらを不服として,本件各更正処分のうち納付すべき税額が原告らの申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
1 法律の概要
(1) 本件特例第1項22号は,法人が,昭和45年4月1日から平成18年3月31日までの間(対象期間)に,当該法人により取得をされた日から引き続き所有されていた国内にある土地等,建物又は構築物で所有期間が10年を超えるもの(以下「譲渡資産」という。)の譲渡をした場合において,当該譲渡の日を含む事業年度において,国内にある土地等,建物,構築物などの資産の取得をし,かつ,当該取得の日から1年以内において,当該取得をした資産(以下「買換資産」という。)を譲渡資産があった地域の外において,事業の用に供したとき又は供する見込みであるときにおいて,当該事業年度終了の時において,その圧縮取得価額に差益割合を乗じて計算した金額の100分の80に相当する金額(以下「圧縮限度額」という。)の範囲内で,その帳簿価額を損金経理により減額し,又はその帳簿価額を減額することに代えてその圧縮限度額以下の金額を損金経理により引当金勘定に繰り入れる方法により経理した時に限り,その減額し,又は経理した金額に相当する金額は,当該事業年度の所得の金額の計算上,損金の額に算入すると定める。
(2) 本件特例第2項は,本件特例第1項を適用する場合において,当該事業年度の買換資産のうちに土地等があり,かつ,当該土地等の面積が,当該事業年度において譲渡をした土地等に係る面積を基礎として政令で定めるところにより計算した面積を超えるときは,同項の規定にかかわらず,当該買換資産である土地等のうち政令でその超える部分の面積に対応するものは,同項の買換資産に該当しないものとすると定める。
(3) 租税特別措置法施行令(平成14年5月期においては,平成14年3月31日政令第105号による(一部)改正前のもの。平成15年5月期においては,同年5月21日政令第229号による改正前のもの。以下,合わせて「本件施行令」という)39条の7第19項は,本件特。例第2項に規定する政令で定めるところにより計算した面積を,次の各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定める面積とすると定める。
1号 本件特例第1項の譲渡をした資産(以下この項において「譲渡資産」という。)が同条第1項の表の第5号の上欄に規定する地域(次号において「市街化区域等の地域」という。)内にある畜産農業の用に供する土地等であり,かつ,買換資産が同表の第5号の下欄に規定する地域(次号において「市街化区域等以外の地域」という。)内にある土地等で大規模な畜産農業の用に供するために公的資金により計画的に整備される区域として農林水産大臣が指定する区域内に存するものである場合において,農林水産大臣が当該土地等の取得をする者の営む畜産農業の規模その他の事情に照らし適当であると認めるとき。
当該譲渡資産である土地等に係る面積に30を乗じて計算した面積
2号 譲渡資産が市街化区域等の地域内にある農業の用に供する土地等であり,かつ,買換資産が市街化区域等以外の地域内にある農業の用に供する土地等である場合において,当該地域内の農業委員会が当該土地等の取得をする者の営む農業の規模その他の事情に照らし適当であると認めるとき(前号に掲げる場合に該当する場合を除く。)。
当該譲渡資産である土地等に係る面積に10を乗じて計算した面積
3号 譲渡資産が本件特例第1項の表の第14号の上欄に規定する区域又は地区内にある土地等であり,かつ,買換資産が同号の下欄に規定する土地等(同欄に規定する建築物の敷地の用に供されている土地等を除く。)で同号の上欄のイに掲げる区域内にある場合
当該譲渡資産である土地等に係る面積に2を乗じて計算した面積
4号 譲渡資産が土地等である場合(前3号に掲げる場合に該当する場合を除く。)
当該土地等に係る面積に5を乗じて計算した面積
2 本件課税処分の経緯とその内容
本件課税処分の経緯は別紙1・2記載のとおりである。
本件各更正処分において課税所得金額及び税額が原告の申告額より増加したのは,原告が所得金額の算出に当たって,本件特例第1項22号の適用により別紙3ないし7の「譲渡資産」欄記載の建物を譲渡資産として同「買換資産」欄記載の土地を買換資産として計上した固定資産圧縮損は,本件特例第2項の適用により,上記「買換資産」欄記載の土地は本件特例の買換資産に該当しないので固定資産圧縮限度超過額となると判断したことによるものであり,原告も,この点以外は本件各更正処分に違法がある旨主張していない。
本件各賦課決定処分は,本件各更正処分を前提とすると,原告は平成14年事業年度及び平成15年事業年度の納付すべき所得税額を過少に申告していたこととなり,新たに納付すべきこととなった税額全額に国税通則法65条4項所定の正当な理由は認められないとして,同条1,2項を適用して過少申告加算税を算出してなされたものである。原告は,本件各賦課決定処分固有の違法事由は主張していない。
3 前提事実(当事者間に争いがないか証拠により明らかに認められる事実。)
原告は,別紙3ないし7の「譲渡資産」欄各記載のとおりその所有していた土地及び建物を譲渡し,別紙3ないし7の「買換資産」欄記載のとおり土地を取得したが,譲渡した土地及び建物のうち建物のみを譲渡資産として申告を行った。
(争いがない。乙1の1ないし3,乙2の1ないし3)。
4 争点及び当事者の主張
本件の争点は,譲渡資産を建物のみとし,買換資産を土地とした場合に,本件特例第2項の適用があるか否かである。
(被告の主張)
1 課税の影響による再投資縮小を回避するため,法人の固定資産の譲渡代金で事業用固定資産を購入した場合に圧縮記帳を認める制度が認められていたが,同制度は,買換えの認められる範囲が極めて広いこと,土地の不急需要を招くなど土地政策上好ましくない結果を生じさせていることなどの問題点があった。本件特例は,これらの問題点を解決するために昭和44年度税制改正に際し設けられた規定である。同税制改革の際に設けられた本件特例第2項は,不要不急の土地等の取得を税制面で奨励することは土地政策上も好ましくないから,取得した土地等のうち一定割合を超える部分の面積に対応するものは買換資産に該当しないこととする面積制限措置を規定している。
建物を譲渡して土地等を取得することは,正に不要不急の土地等の取得に該当するのであるから,上記本件特例第2項の趣旨があてはまり,建物を譲渡資産とし土地等を買換資産とする場合も本件特例第2項が適用される。
2 本件で,原告は,建物のみを譲渡資産とし,土地を買換資産して申告している。そして,譲渡資産が建物であることから,面積制限の計算の基礎となる土地等の面積は存在しないことになり,買換資産である土地等は,すべてが面積制限を超えるものとして本件特例第1項22号の適用を受けることはできない。
したがって,本件特例第2項を適用してなされた本件各更正処分は適法であり本件課税処分に違法はない。
(原告の主張)
処分庁は措置法65条の7の解釈を誤り,本件各更正処分は原告の所得を過大に認定して課税した違法なものである。以下,その根拠を述べる。
1(1) 昭和44年改正以前において,買換えの認められる範囲は極めて広く,建物から土地等への買換えも一様に認められていた。昭和44年改正の趣旨は,買換えの認められる範囲を限定しようとする点にあるが,同改正後も,本件特例第1項1号及び5号のように個別的に建物から土地等への買換えを認めていた。このことは裏を返せば,個別に規定した場合には従前の例を受けて,建物から土地等への買換えを認めるとする趣旨だったことになる。このような沿革をみると,昭和44年改正の前後を通じて建物から土地等への買換えが一律に否定されるべきであるというような事情は看取できない。さらに,平成10年3月法律第23号により,本件特例第1項22号は従前「既成市街地等以外の地域内にある建物」とあったのが「国内にある土地等,建物」と改正されたが,この改正においても建物から土地等への買換えが認められることが前提となっている。
(2) 昭和44年の税法改正により設けられた本件特例第2項の趣旨は,新たに面積制限措置を導入することにより,譲渡した土地の面積に比して著しく広い土地等を取得することなどにより土地の不急需要を生んでいた買換特例制度の行き過ぎを是正することにある。しかし,「面積制限」という規制方法は,もともと建物から土地等への買換えには適用できないところ,立法者は「面積制限」という基準を考案しているのであるから,立法者は建物から土地等への買換えに本件特例第2項が適用されることを想定していなかったといえる。本件特例第2項を受けた本件施行令39条の7第19項第1号ないし第4号は,いずれも譲渡資産が土地等である場合の規定であり譲渡資産が建物である場合は全く想定されていないが,これは,譲渡資産が建物であり買換資産が土地等である場合には面積制限は設けようがないというのが法の趣旨だからである。
(3) 以上のような本件特例第2項の立法趣旨,文言,改正経緯に照らすと,建物から土地等への買換えが一律に否定されるような解釈はとるべきではない。
したがって,建物から土地等への買換えについて本件特例第2項を適用してされた本件各更正処分は違法であり,本件課税処分は取り消されるべきである。
2 処分庁は,本件特例第2項は,本件特例第1項を適用する場合の条件を加重的に規定したものであり,本件特例第1項を適用するためには本件特例第2項の制約を受けると解釈している。
しかし,建物から土地への買換えは,本件特例第1項22号で完結的に肯定されていると解すべきである。なぜなら,本件特例第2項は,「前項の規定を適用する場合において,・・・同項の規定にかかわらず,・・・同項の買換資産に該当しないものとする」としており,文理上明らかに本件特例第1項が適用されることを前提として,一定の条件を充たさないものを本件特例第1項の適用から排除するための規定であって,本件特例第1項の適用要件の加重規定ではないからである。
3 被告は,譲渡資産が建物である場合は土地等の面積が零であり,政令の定めに従えば,零に倍数を乗じても零であるから本件特例第2項により本件特例を適用できないとする「零面積論」により本件各更正処分が適法である旨主張する。
しかし,「零面積論」によると,本件特例第1項は「建物」と「土地等」とを別個の資産として明確に分けて規定しているのに,本件特例第2項及びこれを受けた政令においては,「土地等」に「建物」が含まれるという解釈をとらなければならなくなる。このような解釈は,同一法条内で用語の意味を統一的に理解できないという事態を生ずるのであり,不自然きわまりないものである。仮に被告の主張する解釈を前提に本件特例が規定されているとするならば,それは著しい立法の過誤であるが,そのようなことがあるはずがない。
4 仮に被告の主張するように,第2項が規定された当初より建物から土地等への買換えの場合にも当然にその適用なるものが予定されていたとするならば,本件特例第1項1号及び5号が建物から土地等への買換えを認めたにもかかわらず,同時に規定された本件特例第2項の適用によって,結局,建物から土地等への買換えは本件特例第1項の対象に一切ならないことになってしまうが,このような解釈は,沿革的にみても合理性は認められない。
第3当裁判所の判断
1 本件特例の立法の沿革並びに本件特例第1項22号及び本件特例第2項の立法趣旨などは以下のようなものである(乙6,11,12,弁論の全趣旨)。
(1) 本件特例の立法の沿革
昭和38年3月の税制改革において,設備の更新,工場移転等に伴う固定資産の譲渡について課税することは再投資を縮小させることとなるとする考え方から,法人の有する固定資産を譲渡し,その譲渡代金で事業用の固定資産を購入(取得)した場合は,圧縮記帳を認めるという制度が新たに設けられた。同制度は,3年間の時限立法として設けられたが,その後も必要性が大きいことから適用期間が数次にわたり延長されてきた。
しかし,この事業用資産の買換制度は,①買換えの認められる範囲が極めて広く,租税特別措置としての政策目的が必ずしも明らかでないこと,②土地の不急需要を招いたり,過密地域内での買換えや過密地域外から内への買換えにも特例の適用が認められるなど土地政策上好ましくない結果を生じていること,③譲渡代金以上の資産を購入して事業を拡張した場合は全く課税されないが,譲渡代金の一部を資産の購入に充てなかった場合のように事業を縮小した場合には課税されるという不公平が生ずることといった問題点があった。
上記問題点を解決するため,昭和44年度の税制改正に際し,従来の事業用資産の買換えの場合の課税の特例制度を,その適用期限(昭和45年3月31日)の到来とともに廃止し,土地政策又は国土政策に合致すると認められる買換え(ア 既成市街地から既成市街地以外への買換え。イ 大気汚染規制地域,騒音規制地域又は水質汚濁規制地域からこれらの地域以外への買換え。ウ 市街化区域内の農林業用土地等の市街化区域への買換え。エ 誘致区域外から誘致区域内への買換え。オ 新産業都市,工業整備特別地域又は低開発地区以外の地域から新産業都市,工業整備特別地域又は低開発地区内への買換え。カ 既成市街地区内での土地の計画的かつ効率的な利用に資するための買換え。キ 既成市街地区内での土地の計画的かつ効率的な利用に資するための買換え。ク 昭和44年以前に取得した土地等への減価償却資産への買換え。)に限ってその課税の特例を認めることとされた。
この昭和44年の改正で規定された特例制度は,数次にわたり改正がなされているが,本件特例と基本的に同様のものであった。
(2) 本件特例第1項22号の沿革及び立法趣旨
本件特例第1項22号で規定されている買換えは,経済対策の一環として,企業の長期保有資産を利用したリストラ等に資する設備投資の促進を図るため,平成6年の税制改革において,時限的な措置として本制度の対象とされた。
かつては,長期所有土地等から減価償却資産への買換え(いわゆる旧15号買換え)が認められていたが,地域の限定がないため,他の買換特例が利用されないといった弊害や,将来の設備投資の資金に充てるために余分の土地を取得し値上がり益を期待するような行為を助長するといった弊害がみられること等から,平成3年度の税制改革において廃止された。
しかし,依然として厳しい景気が続く中で,バブル経済の崩壊や国際情勢の変化等を背景に事業環境等への影響が大きい分野への適切な対応を行うことが必要となっており,土地税制についても,現在の土地を巡る諸状況,経済情勢等を十分に考慮した上で,現行の土地税制の基本的枠組みの範囲内において,国土政策等との調和に配慮しつつ土地の有効利用を促進する観点から,平成6年度の改正で,上記買換えが適用対象に追加された。
平成6年度の改正では,いわゆる旧15号買換えとは異なり,国土政策に合致しない既成市街地等内における買換え及び既成市街地等の外から内への買換えは,対象とされていなかったが,平成10年度の税制改革において,長期にわたる地価の下落,土地取引などの土地を巡る状況や厳しい経済情勢にかんがみ,土地の有効利用の促進や土地取引の活性化のために思い切った対応を図る観点から,土地税制の大幅な緩和が行われ,その一環として,買換資産の範囲について「既成市街地等以外の地域内にある」という地域限定を廃止し,既成市街地等の内から外,外から外に加え内から内及び外から内の買換えも適用対象とすることとされた。また,買換資産の範囲に土地及びその上に存する権利が加えられた。
(3) 本件特例第2項の立法趣旨
過密地域内の土地等を譲渡した代金のすべてで過密地域外の土地等を取得した場合は,譲渡した土地の面積に比し著しく広い土地等を取得することがある。このような場合にこの買換えの特例が認められることになると,不要不急の土地等の取得を税制面で奨励することとなり,土地政策上も好ましくない。そこで,取得した土地等のうち一定割合を超える部分の面積に対応するものは買換資産に該当しないこととする面積制限措置を設けて,上記弊害に対処することとした。本件特例第2項は,昭和44年度の税制改正において導入されたものである。
2 以上をふまえて検討する。
土地の不急需要を招くなど土地政策上好ましくない結果を生じていたことに対処するために規定された本件特例第2項の立法経緯及び趣旨は,建物のみを譲渡資産として土地等を買換資産とした場合にも妥当すること,本件特例第2項は,「前項の規定を適用する場合」と規定して本件特例第1項が適用されるすべての場合を予定し,面積制限の規定は,買換資産のうちに土地等がある場合に,買換資産に該当しないものとする範囲を面積の比較により規定しようとしたのであって,譲渡資産を建物のみとする場合を特に排除するような文言とはなっていないことなど,立法の経緯や趣旨及び条文の文言に照らすと,本件特例第2項は,土地等を譲渡資産とし,土地等を買換資産とする場合に,譲渡資産である土地等の面積に比較して不相当な面積の土地等が買換資産とされた場合だけでなく,建物のみを譲渡資産として土地等を買換資産とした場合も適用されると解すべきである。
3(1) 原告は,昭和44年改正や平成10年改正においても,個別的に建物から土地等への買換えが認められていたのであるから,建物から土地等への買換えが否定されるような解釈をとるべきではない旨主張するところ,原告の主張するように,建物から土地等への買換えのみを認める規定が個別的に設けられていたのであれば,そのような場合に本件特例第2項が適用されるとすると,結局,上記個別的規定は無意味な規定になってしまうから,本件特例第2項の規定は,建物から土地等への買換えには適用されないというように制限的に解釈すべきともいえる。
しかし,原告が主張する法の規定内容は,いずれも,建物から土地等への買換えのみを個別的に規定したものではなく,土地等あるいは構築物などを選択的にあるいは併存的に譲渡資産又は買換資産の対象とできるように規定されている。
したがって,本件特例第1項で建物から土地等への買換えが認められるからといって,本件特例第2項について,建物から土地等への買換えが否定されるような解釈をとるべきではないということはできない。
(2) 原告は,本件特例第2項や本件施行令が定めている面積制限の方法は,もともと建物から土地等への買換えには適用できないのであるから,このような制度を採用した立法者は建物から土地等への買換えに本件特例第2項が適用されることを想定していなかった旨も主張するところ,原告が指摘するように,本件特例第2項の面積制限を定めている部分の文言は,その文言だけをみると「上欄に掲げる土地等」と定めており,「建物」をあげていない。
しかし,本件特例第2項の面積制限の文言は,要するに,「買換資産の土地等に係る面積が」,「面積を超えるときは」,「その超える部分の面積に対応するものは,・・・買換資産に該当しないものとする」というものであり,その趣旨は,土地の不急需要を招かないようにするという土地政策の下で買換資産に該当しないものとする範囲を土地等に係る面積の比較により算出しようとするものであって,その比較の対象となる譲渡資産を土地等に限定する趣旨であるとはいえない。そして,比較の対象となる譲渡資産は「前項の規定を適用する場合」との規定により自ずと決まってくる。また,前記のように,本件特例第2項の立法趣旨は,建物を譲渡資産として,土地等を買換資産とする場合にも妥当するのであり,立法者が,この場合を除外して本件特例第2項を規定したとは解することができない。
したがって,本件特例第2項や本件施行令の面積制限の方法が建物から土地等への買換えには適用できず,立法者もこのような場合を想定していなかったという原告の主張は採用できない。
なお,原告は,被告の主張する「零面積論」によると,本件特例第2項の「土地等」に「建物」が含まれるという解釈をとらなければならなくなり,法解釈の統一性に反するとも主張するが,本件特例第2項の「前項の規定を適用する場合」には「建物」を譲渡資産とする場合が含まれており,そのうち買換資産である土地について「当該事業年度において譲渡した当該各号の上欄に掲げる土地等に係る面積」を比較するという趣旨であるから,「土地等」に「建物」が含まれると解釈する必要はないというべきであるので,原告の主張は採用できない。
4 以上によれば,本件において,本件特例第2項により原告が取得した土地は本件特例第1項22号の買換資産に該当しないとしてなされた本件各更正処分は適法であり本件課税処分は適法である。そうすると,原告の請求には理由がないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民訴法61条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋正 裁判官 和食俊朗 裁判官 和田将紀)