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松山地方裁判所 平成19年(わ)368号 判決 2008年5月15日

主文

被告人を罰金30万円に処する。

未決勾留日数中,その1日を金5000円に換算してその罰金額に満つるまでの分を,その刑に算入する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,Aが代表取締役を務め,同人が業務の全般を統括掌理する株式会社甲が行う事業等への投資の勧誘等を担当していたものであるが,上記A,同人の内妻であり株式会社甲の商品仕入れ・管理,資金の出納等の業務を担当していたB,株式会社甲総括本部長として上記投資の勧誘や勧誘者への紹介料の支払等を統括管理していたC及び株式会社甲北海道・東北地区本部長として東北地区における上記投資の勧誘や勧誘者への紹介料の支払等を統括管理していたDと共謀の上,法定の除外事由がないのに,別表記載のとおり,平成17年3月1日ころから同月31日ころまでの間,3回にわたり,Cが管理する有限会社乙名義の郵便貯金口座に振込みを受ける方法により,不特定かつ多数の相手方であるEほか1名から,現金合計525万円を,いずれも1年7か月後までに,同表「支払約束額」欄記載の元利金を支払うことを約して受け取り,もって業として預り金をしたものである。

(証拠の標目)

省略

(事実認定の補足説明)

1  争点

弁護人は,本件で,Aが,株式会社甲の代表取締役として,その資金繰りのため,CやDらとともに,真珠セットの購入名下に連鎖的に出資金を集めていたことは,実質的に争わないが,被告人は,連鎖の末端に組み入れられていたにすぎず,Aらと共謀していないし,その出資者への勧誘や説明を実行行為とは評価できないなどとして,共同正犯の成立を争うので,以下検討する。

2  前提となる事実

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

(1)  甲の会員募集の手法は何度か変更されたが,平成16年2月ころ以降は,真珠セットを現金又はクレジット契約で購入する形を取り,現金で購入する場合は,最初に1口分105万円を支払わせ,1か月目に3万円,2か月目から18か月目まで月に2万5000円ずつ,19か月目に81万5000円を甲から支払い,会員には真珠とともに127万円を戻すことを約束するものであった。

(2)  Cは,Aの指示の下,甲の統括本部長として甲の北海道・東北地区本部長をしていたDらとともに,同地区に在住する住民らに対し,入会の勧誘を行っており,勧誘に当たっては,上記の会員募集及び会員への金員支払の仕組みを説明するとともに,参加した会員が更に他の者を勧誘した場合は,「お手間代」と称する紹介料をその会員に支払うこととして多くの者の参加を促し,会員数を拡大させていった。また,Cは,各地域で自らが出席する食事会を開き,その席で,会員に対する勧誘の仕方の説明や,会員が連れてきた者に対する勧誘を自ら行った。

(3)  被告人は,平成16年8月下旬ころ,当時甲の会員で,福島県本部長をしていたFらから勧誘され,同月27日に,現金を支払って,甲の会員となった。

(4)  被告人は,入会の際,Fから,会員への月々の支払や,勧誘者に支払われる紹介料についての説明を聞いたほか,Cらが開く食事会にも出席し,その説明を聞いていた。

(5)  被告人は,会員となってから,紹介料欲しさに活発に勧誘を行い,被告人が直接勧誘した会員(被告人の「子」),被告人の子が勧誘した会員(「孫」)などを合わせると,そのグループの人数は100人を超えていた。被告人は,「子」や「孫」の立場の者が,他の者を勧誘するに当たり,自ら直接説明したり,食事会に連れて行って,Cからの説明を聞かせ,入会を決断させるなどしていた。被告人は,このようにして勧誘の実績を上げたことで,平成17年1月ころには,Cから,他の5名とともに福島地区のリーダーの一人に指名された。

(6)  被告人の夫であるGは,遅くとも平成17年2月ころまでには,被告人から甲の会員募集の手続や,会員に対する金員の支払について説明を受け,これを整理した文書を作成した。その文書の中には,甲が行う事業に参加すること,その方法として,真珠を1口105万円で購入する形で出資し,1年半後に配当金22万円が支払われることなどが記載されていた。

(7)  Eは,平成16年末ころか,平成17年初めころに,自宅の近くにあるHが営む商店に行った際に,Hから,クレジット契約をするだけで真珠がただで貰えるので,話を聞いて欲しいと頼まれた。その後,Eは,被告人と初めて会い,被告人からも,クレジット契約するだけで真珠がただで貰えると説明され,会員になるよう勧誘された。Eは,当初は渋っていたものの,その後もHや被告人から勧誘を受けたことから,クレジット契約を締結することとした。

そして,その約1か月後に,Eは,被告人から,現金105万円を投資すれば,1年半後には百二十数万円になるとの勧誘を受け,平成17年3月1日,Cが代表を務める乙名義の口座に105万円を振り込んだ。

さらに,Eは,被告人やHから,絶対に大丈夫なのでもう1口投資しないかなどと勧められ,平成17年3月25日,上記乙名義の口座に105万円を振り込んだ。

被告人は,上記2回の金員振込みに係る紹介料のうち,自らの取り分として11万円を懐に収めた。

(8)  Iは,平成16年秋ころ,姉であるJの家へ行った際,被告人と会った。Iは,これ以前にもFから甲への入会を勧められており,Fの後を引き継いだ被告人からも,同じような説明を受けて何度か勧誘されたが,高額の利益が出ることが,半信半疑であったこともあり,これに応じなかった。被告人は,Cが福島県を食事会で訪れた際にIとCを引き合わせた。Iは,平成17年2月ころ初めてCと会い,Cから何度か勧誘を受け,入会を決意し,平成17年3月31日,前記乙名義の口座に3口分315万円を振り込んだ。

被告人は,Iに対し,甲の入会申込書に記載させ,紹介料のうち,自らの取り分として15万円を懐に収めた。

3  検討

以上の事実を下に整理すると,

(1)  被告人は,紹介料欲しさという自己の利益を図るためにEやIらへの勧誘行為を積極的に行って多数の会員を集め,福島地区のリーダーの一人にまでなっており,甲の資金集めに消極的,受動的に関与していたわけではない

(2)  被告人は,遅くともEやIに対する勧誘を行う平成17年始めころまでには,Fの自らへの勧誘や,食事会においてCが会員に対して行う説明等から,金員を出資させる趣旨は,Aが展開する真珠養殖事業への参加であり,甲入会の際に現金を拠出した会員に対しては,約1年半後にこれを上回る金額の支払を約束する仕組みであることを理解していた

(3)  被告人は,Cらが入会を勧誘する際の説明と同じような内容の説明をEやIに対しても行い,これを聞いたEやIは,単なる真珠の売買ではなく,これに名を借りた甲の事業への出資であり,その出資金は,約1年半後に1口105万円に対し127万円の見返り,すなわち22万円の利益が生じるものと理解していた

(4)  Eについては,被告人の「子」に当たるHとともに,同人の経営する商店で複数回にわたり勧誘しており,被告人の勧誘がEが入会を決意する大きな要因となっている

(5)  Iについては,前任者のFから引き継いで何度か勧誘を行い,二の足を踏むIに対し,Cへの橋渡しをし,Cの説得によりIが入会を決意すると,その申込用紙の記入作成等に携わった

(6)  被告人は,(4),(5)により合計26万円の利得を得ている

と認められる。

これらの事実に照らすと,被告人が,遅くともEらに対する勧誘行為を行うまでには,甲の勧誘の手法が,実質的には元利の支払の約束にほかならないことを理解しながら,会員拡大を目指すCらの意を汲み,自らも利欲目的でこれに積極的に関わり,Cら甲幹部と意思を相通じ,E及びIに対して入会を決意するよう働きかけるなど,犯行実現に極めて重要な行為を行い,現実の利得を得ているといえるのであって,その関与の形態や果たした役割等に照らすと,弁護人が指摘する諸点を勘案しても,被告人に対し共同正犯の成立を認めることが相当である。

(法令の適用)

被告人の判示所為は包括して刑法60条,平成18年法律第115号附則31条1項により同法による改正前の出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)8条2項1号,出資法2条1項に該当するところ,所定刑中罰金刑を選択し,その所定金額の範囲内で被告人を罰金30万円に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中,その1日を金5000円に換算してその罰金額に満つるまでの分を,その刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は,被告人が,共犯者らと共謀し,元本及び配当を保証して真珠事業への投資名下に,2名から合わせて525万円の預り金をしたという,出資法違反の事案である。

本件の態様は,1口105万円を投資すれば,約1年半後に127万円が得られるとの高額の配当を保証した上,出資者が新たに会員の勧誘に成功した場合には,「お手間代」と称する紹介料を支払い,新たな会員をその下の組織に組み入れ,多数の者から金銭を集めるという,計画的かつ組織的な犯行である。そうした中で,被告人は,福島地区のリーダーの一人として勧誘行為を継続的かつ積極的に行っており,果たした役割は小さいとは言えない。被告人が関与したもののうち,起訴分だけでも,合計525万円を拠出させたが,そのうち約450万円が返還されず,預託者に損失を生じさせている。被告人は,紹介料欲しさに次々と勧誘行為を行って自己の利得を図っており,動機に酌量の余地は乏しく,起訴分に係るだけでも26万円の利得を得ている。

以上からすると,被告人の刑事責任は軽いものとは言えない。

他方,他の共犯者と比較して組織内での立場が高くなく,起訴に係る分が少ないこと,被告人は,結果として,多くの人に損失を与えた点を反省し,本件のような事業には二度と関わらないと述べていること,夫が当公判廷で今後の監督と支援を行う旨述べ,長男による支援も期待できること,これまでに,前科前歴がなく過ごしてきたこと,今回の件で相当期間にわたって身柄を拘束されたことなどの酌むべき事情も認められる。

そこで,被告人に対しては,主文掲記の刑に処するのが相当と判断した。

(求刑・罰金30万円)

(裁判長裁判官 村越一浩 裁判官 西前征志 裁判官 杉本敏彦)

(別表省略)

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