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松山地方裁判所 平成19年(わ)456号 判決 2008年7月30日

主文

被告人Xを懲役9年及び罰金250万円に,被告人Yを懲役7年及び罰金150万円に処する。

未決勾留日数中,被告人Xに対しては150日を,被告人Yに対しては50日を,それぞれその懲役刑に算入する。

被告人両名においてその罰金を完納することができないときは,それぞれ金1万円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置する。

被告人両名から,押収してある覚せい剤白色結晶性粉末1袋(平成20年押第6号の1)を没収する。

被告人両名から,金587万8000円をそれぞれ追徴する。

理由

(罪となるべき事実)

第1被告人両名は,営利の目的で,みだりに

1  Aと共謀の上,平成19年9月17日の昼ころ,松山市a町甲株式会社営業所において,Bに対し,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶粉末約1グラムを,代金4万円の約束で,高知県高岡郡d町前記Bあて宅配便で発送し,情を知らない宅配便配達員をして,同町コンビニエンスストア「乙店」駐車場まで配達させた上,同月18日午前9時30分ころ,同所において,前記Bにこれを受領させて同人に覚せい剤を譲り渡し

2  共謀の上,同年10月2日夕方ころ,東京都杉並区丙センターにおいて,Cをして,フェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤結晶性粉末約298.6グラム(平成20年押第6号の1はその鑑定残量)を,代金330万円で,愛媛県東温市Dあて宅配便で発送させ,情を知らない宅配便配達員をして,同市内の同社宅急便センターまで配達させた上,同月3日,同所において,被告人Xらから指示を受けた前記Dらにこれを受領させて前記Cから覚せい剤を譲り受け

たほか,薬物犯罪を犯す意思をもって,同年2月ころから同年10月3日ころまでの間,松山市内及びその周辺において,多数人に対し,多数回にわたり,覚せい剤様のものを覚せい剤として有償で譲り渡し,もって,覚せい剤等を譲り渡し,譲り受けることを業とした

第2被告人Xは,法定の除外事由がないのに,平成19年7月下旬ころ,松山市内の被告人X方において,猟銃である散弾銃2丁を所持した

ものである。

(証拠の標目)

省略

(累犯前科)

〔被告人Xについて〕

被告人Xは,平成13年6月20日山口地方裁判所岩国支部で覚せい剤取締法違反の罪により懲役1年8月に処せられ,平成14年12月19日その刑の執行を受け終わったものであって,この事実は検察事務官作成の前科調書によって認める。

(法令の適用)

被告人両名の判示第1の所為は刑法60条,国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)5条4号(覚せい剤取締法41条の2第2項,1項,麻薬特例法8条2項)に,被告人Xの判示第2の所為は包括して銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)31条の11第1項1号,3条1項にそれぞれ該当するところ,被告人両名につき各所定刑中判示第1の罪については有期懲役刑及び罰金刑を,被告人Xにつき判示第2の罪については懲役刑をそれぞれ選択し,被告人Xには前記の前科があるので刑法56条1項,57条により判示第1の罪の懲役刑及び判示第2の罪の刑にそれぞれ再犯の加重をし(ただし,判示第1の罪については同法14条2項の制限に従う。),以上の被告人Xの判示第1及び第2の各罪は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の懲役刑に同法14条2項の制限内で法定の加重をした刑期及びその所定金額の範囲内で被告人Xにつき懲役9年及び罰金250万円に,被告人Yにつきその所定刑期及び金額の範囲内で懲役7年及び罰金150万円にそれぞれ処し,同法21条を適用して未決勾留日数中,被告人Xに対しては150日を,被告人Yに対しては50日を,それぞれその懲役刑に算入し,被告人両名においてその罰金を完納することができないときは,同法18条により金1万円を1日に換算した期間,その被告人を労役場に留置し,押収してある覚せい剤白色結晶性粉末1袋(平成20年押第6号の1)は,判示第1の罪に係る覚せい剤で犯人の所有するものであるから,覚せい剤取締法41条の8第1項本文によりこれを被告人両名から没収し,判示第1の犯行により被告人両名が得た現金587万8000円は麻薬特例法11条1項1号の薬物犯罪収益に該当するが,既に費消するなどして没収することができないので,同法13条1項前段によりその価額を被告人両名からそれぞれ追徴することとする。

(量刑の理由)

本件は,被告人両名が(判示第1の1については,他の共犯者とも)共謀の上,平成19年2月ころから同年10月3日ころまでの間,覚せい剤や規制薬物(以下「覚せい剤等」という。)の譲渡しや譲受けを業としたという麻薬特例法違反,被告人Xが,自宅で猟銃2丁を所持したという銃刀法違反の各事案である。

被告人両名は,上記の期間覚せい剤等の密売を,被告人Xが仕入れや小分け等を,被告人Yが金銭の管理等を行うなどの役割を分担し,配下の密売人を使って組織的,継続的に行い,これによって多額の利益を得ている。扱う覚せい剤等は多量で取引の相手方も多く,被告人両名の犯行により社会に薬物の害悪が広がった点も厳しい非難に値する。また,被告人両名には覚せい剤取締法違反の前科が各5犯あり,いずれも薬物犯罪に対する規範意識は欠落しているといわざるを得ない。銃刀法違反の点については,本来厳重に保管すべき猟銃を安易に貸金の担保として預かった上,これを第三者に渡すなどしている。

以上からすると,被告人両名の刑事責任は重大である。

そうすると,被告人両名がいずれも犯行を認めるに至ったこと,判示第1の2の覚せい剤の譲受けに関しては,自ら積極的に働きかけたものではなく,相手方からの売込みに応じた面があること,幸いにしてその覚せい剤が発見,押収されたことで,その部分の拡散は防ぐことができたことなどの諸事情を考慮しても,被告人両名に対しては,それぞれ主文掲記の刑をもってその罪を償わせるのが相当である。

(求刑・被告人Xにつき懲役11年及び罰金300万円,被告人Yにつき懲役9年及び罰金200万円,被告人両名につき覚せい剤白色結晶性粉末1袋の没収,587万8000円の追徴)

(裁判長裁判官 村越一浩 裁判官 西前征志 裁判官 杉本敏彦)

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