松山地方裁判所 平成20年(わ)293号 判決 2009年1月15日
被告人
氏名 被告人A
被告人
氏名 被告人B
主文
(被告人Aについて)
被告人Aを懲役1年6月に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
(被告人Bについて)
被告人Bを懲役2年に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用(被告人Bの国選弁護人に関する分)は被告人Bの負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人Aは,別表1記載のとおり,同表「共犯者」欄記載の者と共謀の上,いずれも法定の除外事由がないのに,平成16年11月8日ころから平成19年5月27日ころまでの間,61回にわたり,愛媛県新居浜市a町所在のbホテル1階ロビーほか7か所において,不特定かつ多数の相手方であるVほか7名から,現金合計1億5230万円を,同表「支払期限」欄記載の期限までに同表「支払約束額」欄記載の元利金を支払うことを約して受け取り
第2被告人Bは,別表2記載のとおり,同表「共犯者」欄記載の者と共謀の上,いずれも法定の除外事由がないのに,平成16年11月8日ころから平成19年2月13日ころまでの間,60回にわたり,前記bホテル1階ロビーほか7か所において,不特定かつ多数の相手方であるVほか7名から,現金合計1億4630万円を,同表「支払期限」欄記載の期限までに同表「支払約束額」欄記載の元利金を支払うことを約して受け取り
もって業として預り金をしたものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
[被告人Aについて]
被告人Aの判示第1の所為は包括して刑法60条,出資法8条3項1号,2条1項に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人Aを懲役1年6月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,訴訟費用(被告人Aの国選弁護人に関する分)は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人Aに負担させないこととする。
[被告人Bについて]
被告人Bの判示第2の所為は包括して刑法60条,出資法8条3項1号,2条1項に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人Bを懲役2年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中70日をその刑に算入し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,訴訟費用(被告人Bの国選弁護人に関する分)は,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人Bに負担させることとする。
(量刑の理由)
1 本件は,被告人両名が,共犯者と共謀の上,被告人Aが代表を務める「甲」において,元本の保証と概ね年利3パーセントから12パーセントの高率の配当を約束して,平成16年11月から平成19年5月(被告人Bに係る分は平成19年2月)までの間に,8名から合計61回(同合計60回)にわたり現金合計1億5230万円(同合計1億4630万円)を受け取り,業として預り金をしたという出資法違反の事案である。
2 その態様は,大阪,富山,香川,徳島及び愛媛など各地に協力者としての「代理店」を設置し,その人脈を利用して多数の者に働き掛けて人を集め,被告人両名が各地に出向き,説明会を行って日本経済の危機と公的機関の信用不安を訴え,資産運用として「甲」への投資を呼び掛け,契約の締結に至るというもので,組織的,継続的な犯行である。起訴に係る預り金の総額は1億5000万円を超えているが,被告人Aが運用に失敗したことで,その約8割に相当する1億2700万円余りが預託者に返還されることのないままとなっている。このように,本件犯行による被害や社会的影響は広範に及んでおり,まさに出資法が許可等なく不特定多数からの預り金を禁止することで防止しようとした事態が現実化している。
3 預り金は,起訴分だけでも1億5000万円余り(その他を含めると48億円余り)であるが,このような多額の金員が集まった原因は,「甲」が預託者に高率の配当を約束していたことに加え,代理店等が「甲」の保証する運用益と預託者に支払う配当との差額である手数料等欲しさに積極的な勧誘活動を行ったこと,勧誘の際には,被告人Aが非常に優れた投資家であり,絶対に損はしないと,被告人A個人の一種のカリスマ性を強調して勧誘したことで預託者の拡大が図られたことにある。「甲」は被告人Aが設立したのであり,預り金の運用先や運用額,代理店等への手数料や配当率を決定していたのは被告人A自身であって,本件犯行の中心的存在として活動していたことからすると,その存在と行動は犯行実現に極めて重要な役割を果たしている。
以上によれば,被告人Aの刑事責任は重いといわなければならない。
そうすると,被告人Aが預り金を私的に流用するなど,積極的に私腹を肥やそうとした形跡はうかがえないこと,本件犯行を認め,預託者に損失を与えたことについて謝罪の言葉を述べるとともに,今後,預り金の返還に努力する旨述べていること,これまで前科前歴なく過ごしてきたことなど,有利に斟酌すべき事情も認められるが,本件の中心的役割を担った刑責はなお重いというべきであって,主文のとおりの実刑に処するのはやむを得ない。
4 被告人Bは,設立当初から「甲」の業務に関与し,被告人Aの指示により,勧誘活動や代理店との連絡,預託者からの金員の授受を行うなど,長年にわたり被告人Aの右腕としてその活動を支え,業務の拡大に貢献したものと認められるのであって,その果たした役割は大きいといえる。
以上からすると,被告人Bの刑事責任も決して軽くはない。
しかしながら,被告人Bについては,犯行への関与は従属的であったこと,本件犯行を認め,預託者に対し謝罪文を送付するなどして反省の態度を示していること,父親が公判廷に出廷して今後の監督を誓約したこと,罰金前科があるのみであることなどの事情も認められる。これらの事情を総合考慮すると,被告人Bに対しては,主文の刑に処した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。
(求刑・被告人Aにつき懲役2年6月,被告人Bにつき懲役2年)
(裁判長裁判官 村越一浩 裁判官 西前征志 裁判官 渡辺健一)
(別表1,2は省略)