松山地方裁判所 平成21年(わ)333号 判決 2009年11月26日
主文
被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中50日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成21年7月12日午後7時35分ころ,愛媛県伊予市内の駐車場において,飲酒運転しようとするのをA(当時61歳)から左腕をつかまれて制止されたことに立腹し,左腕を同女に向けて振り回し,左手甲を同女の胸部付近に打ち当てて,同女を仰向けに転倒させる暴行を加え,同女の後頭部を地面に打ちつけさせて急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ,よって,同月13日午前2時7分ころ,松山市内のB病院において,同女を前記急性硬膜下血腫により死亡させたものである。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法205条に該当するところ,なお犯情を考慮し,刑法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役2年6月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中50日をその刑に算入することとする。
(量刑の理由)
本件は傷害致死事件であり,その結果は重大である。被害者は,今回の事件で突如,61歳の命を奪われたもので,残された被害者の遺族が厳しい処罰を求めるのも当然である。
被告人は,被害者から腕をつかまれるまでして飲酒運転を制止されたにもかかわらず,なおも運転に及ぼうとして手を振り回して犯行に及んでいる。被告人が,以前,飲酒運転で処罰されたことがあるにもかかわらず,飲酒運転に及ぼうとしたこと自体,とがめられることであるし,被害者に対して暴行を振るった後も,車の運転をして駐車場から出ようとしたことをみても,飲酒運転に対する抵抗感は薄く,そのことが被害者に対する攻撃のきっかけとなったことは,重く評価せざるを得ない。
被告人が被害者に加えた暴行は,腕を振り回す行為を1回しただけで,執ようなものではない。しかしながら,被害者には何らの落ち度はないばかりか,被告人が違法行為に及ぼうとするのを止めようとして今回の被害に遭っているのであって,被告人の暴行がそのような被害者に向けられたということは,刑を重くする要素として考慮すべきである。
そうすると,被告人が,少なくとも今回と同様の事件を起こすことは考えにくいこと,事件後,自己の行為を後悔し,反省していること,被害者遺族に対し,慰謝料の一部として200万円を支払っていることなど,被告人に有利に考慮すべき事情をもってしても,被告人に今回の罪を償ってもらうためには,実刑を選択することが相当である。
なお,暴行が執よう,悪質なものとはいえないことなどを考慮して,酌量減軽の上,主文のとおりの刑とする。
(求刑・懲役5年)
(裁判長裁判官 村越一浩 裁判官 西前征志 裁判官 藤原未知)