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松山地方裁判所 平成21年(わ)599号 判決 2010年4月16日

主文

被告人を懲役4年6月に処する。

未決勾留日数中40日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1(平成21年12月25日付け起訴状記載の公訴事実)

金品を窃取する目的で,平成21年9月23日午前4時ころ,勤務先であった葬儀会社の経理部長が看守する松山市内の葬儀会社支店に,北西側の勝手口ドアを鍵で開けて侵入し,そのころ,同所において,同部長管理の現金10万6555円及び収入印紙35枚(額面合計7000円)ほか17点在中の缶箱1個を窃取し

第2(平成21年12月17日付け起訴状記載の公訴事実)

金銭を強奪する目的で,平成21年11月24日午後0時30分ころ,松山市内のA方に,郵便配達員を装って訪問して同女に玄関戸を開けさせて侵入し,同女方玄関において,同女(当時78歳)に対し,右手で同女の口をふさぎ,左手で同女の背中を押さえつけるなどして,同女を同女方廊下に引き倒した上,抵抗する同女の口に自己の右手に着けていた手袋を詰め込み,あらかじめ用意したガムテープを同女の口に貼り付けて口をふさぎ,さらに,抵抗する同女の右脇腹を右手の拳で数回殴りつけた上,同ガムテープで同女の両手首を後ろ手にして縛るなどの暴行を加え,同女に「金を出せ。」などと言って,同女を抵抗できないようにし,同女方4畳半仏間において,同女所有の現金24万円を強奪し,その際,前記暴行により同女に全治約2週間を要する右肋骨部打撲,両手圧挫傷及び口腔内裂傷の傷害を負わせた

ものである。

(証拠の標目)

省略

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為のうち,建造物侵入の点は刑法130条に,窃盗の点は刑法235条に,判示第2の所為のうち,住居侵入の点は刑法130条に,強盗致傷の点は刑法240条(負傷させた場合)にそれぞれ該当するが,判示第1の建造物侵入と窃盗との間及び判示第2の住居侵入と強盗致傷との間には,いずれも手段結果の関係があるので,刑法54条1項,10条によりいずれも1罪として,判示第1については重い窃盗罪の刑で,判示第2については重い強盗致傷罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中判示第1の罪については懲役刑を,判示第2の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により重い判示第2の罪の刑に法定の加重をし,なお犯情を考慮し,刑法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽をした刑期の範囲内で被告人を懲役4年6月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中40日をその刑に算入することとし,訴訟費用は刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  住居侵入,強盗致傷事件について

郵便配達員を装って家に入り,縛り上げるなど,あらかじめ犯行の段取りを考えた上で,ガムテープや,エクスパック,手袋,目出し帽などを準備して犯行に及んでおり,計画性が非常に高い。

高齢で小柄な女性を引き倒し,その脇腹を力一杯殴り,ガムテープで口や両手首を縛るなど,粗暴で非常に危険な行為である。

犯行の途中で目出し帽を被り,相手に顔を覚えられないようにしたり,犯行後に警察に通報されないよう脅した上で逃走するなど,犯行が発覚しないように行動している。

準備したカッターナイフを使用していないものの,状況次第では使用することも想定して準備していたもので,使用しなかったのは,被害者が激しい抵抗をしなかったからに過ぎない。

ただし,被害者が口腔内裂傷を負うこととなったのは,当初から被告人が意図したわけではなく,偶発的な面もある。

被害額は24万円と一般的にみても決して少額ではない上,被害者にとって貴重な生活資金である年金が含まれている。また,被害者は,全治約2週間を要する傷害も負っている。

本件は,当時勤務していた葬儀会社における顧客であった被害者が,一人暮らしの高齢の女性であることに目をつけ,被害者に狙いを定めて行ったものである。顧客情報を悪用し,会社の信用を傷付けたという点や,被害者の境遇を知りながら犯行に及んだという点は,重く見るべきである。

被害者は,夫に先立たれ,その心の傷が癒えないうちに今回の被害を受けており,今後の一人暮らしに強い不安感を覚え,被告人に対し,厳しい処罰を求めている。

被害場所は一人暮らしの高齢者が多い地域であったことから,付近住民に自分も同様の被害を受けるのではないかとの不安を与えた(もっとも,犯行後間もなく被告人が逮捕されたことにより,その不安は一定程度落ち着いたと考えられる。)。

2  建造物侵入,窃盗事件について

現金が保管されているのを知った上で,手袋をつけ,スニーカーを履くなどして犯行の発覚を防いだ上で犯行に及んでおり,計画性が認められる。

3  両事件の動機

借金返済のために闇金融に手を出し,その返済のため各犯行に及んだものである。その心情は,闇金融による取立ての対応に窮したということに加え,妻や親族に内緒でしていた借金がばれ,妻から離婚を迫られるのではないかと思い詰めた面がある。

4  その他

各事件の被害者に対し被害金額を上回る被害弁償をしている。

今回の事件により勤務先を懲戒解雇(ただし,今回の両事件の性質を考えると,当然の事態である。)され,離婚して長女とも別居せざるを得なくなるなどの不利益を受けている。

逮捕後,犯行を素直に認め,窃盗については自首しており,反省と被害者への謝罪の言葉を法廷で述べている。

犯罪歴はなく,真面目に仕事もしていた。

妹が監督を誓約しており,親戚が雇入れを申し出ている。

5  まとめ

以上の事実,とりわけ被害者の境遇を分かった上で行ったという強盗致傷事件の悪質性を考えると,被告人に対し実刑をもって臨むほかはない。

他方,先に指摘した被告人のために酌むべき事情,とりわけ被告人の反省と立ち直りに向けた態度等を勘案し,酌量減軽の上,主文のとおり判決する。

(量刑意見:検察官・懲役7年,弁護人・懲役3年執行猶予4年)

(裁判長裁判官 村越一浩 裁判官 中村光一 裁判官 松原経正)

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