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松山地方裁判所 平成21年(ワ)731号 判決 2011年3月01日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

松山地方裁判所平成20年(ケ)第234号不動産担保競売事件につき、新たな配当表の調整のために、平成21年9月4日に作成された配当表の下記部分をそれぞれ取り消す。

1  ニューヨークメロン信託銀行株式会社(被告株式会社スター・キャピタル被承継人)の項(A2)のうち、

(1)  債権額については、

ア 物件26との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

イ 物件27との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

ウ 物件28との関係では、損害金については0円を、元金については259万4480円を、合計については259万4480円をそれぞれ超える部分

(2)  配当実施額等については、6868万0857円を超える部分

(3)  別添案分計算結果一覧表においては物件28に関する配当額について259万4480円を超える部分

2  被告エル・ビー・シー有限会社の項(A3)のうち、

(1)  債権額については、

ア 物件26との関係では、損害金については0円を、元金については3492万円を、合計については3492万円をそれぞれ超える部分

イ 物件27との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

ウ 物件28との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

(2)  配当実施額等については、3492万円を超える部分

(3)  別添案分計算結果一覧表においては物件26に関する配当額について3492万円を超える部分

3  被告株式会社伊予銀行の項(A4)のうち、

(1)  債権額については、

ア 物件26との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

イ 物件27との関係では、損害金については0円を、元金については1031万5305円を、合計については1031万5305円をそれぞれ超える部分

(2)  配当実施額等については、1031万5305円を超える部分

(3)  別添案分計算結果一覧表においては物件27に関する配当額について1031万5305円を超える部分

第2事案の概要

1  本件は、別紙物件目録記載1ないし28の不動産(以下「本件各不動産」といい、そのうちの個別の不動産については、同目録の番号により「本件不動産1」などという。)についての松山地方裁判所平成20年(ケ)第234号不動産担保競売事件(以下「本件競売事件」という。)の債務者兼所有者である原告(破産者末広産業株式会社(以下「末広産業」という。)破産管財人)が、「末広産業は、破産手続に先行した同社に対する民事再生手続における別除権者である株式会社大和銀行(以下「大和銀行」という。)、商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)及び被告株式会社伊予銀行(以下「被告伊予銀行」という。)の3名(以下「本件各別除権者」という。本件各別除権者は、本件各不動産に設定された各担保権(以下「本件各担保権」という。)の権利者である。)との間で、それぞれ別除権協定(以下「本件各別除権協定」という。)を締結した。これにより、本件不動産26ないし28につき、各物件ごとに、その受戻価格が定められ、かつ、本件各担保権の被担保債権の額が受戻価格相当額に減額されたから、受戻価格相当額から既払分を控除した額を超える部分につき、債権者らの配当受領権が存在しない。」として、本件競売事件の債権者である被告らに対し、配当表の一部についての取消しを求める事案である。

なお、被告エル・ビー・シー有限会社(以下「被告エル・ビー・シー」という。)は、本件各担保権のうち、商工中金を権利者とする担保権をその被担保債権とともに承継取得した者である。また、被告株式会社スター・キャピタル(以下「被告スター・キャピタル」という。)は、本件競売事件の債権者であるニューヨークメロン信託銀行株式会社(以下「ニューヨークメロン」という。)の訴訟承継人であり、ニューヨークメロンは、本件各担保権のうち、大和銀行を権利者とする担保権をその被担保債権とともに承継取得した者である。

2  前提事実(争いのない事実等)

(1)  本件競売事件につき、執行裁判所が平成21年9月4日に作成した配当表(以下「本件配当表」という。)の内容は、別紙「配当表」(「案分計算結果一覧表」の部分を含む。)記載のとおりである(争いのない事実、甲2)。

本件競売事件の債務者である原告(本件各不動産のうち、本件不動産26ないし28については、同事件の所有者でもある。その余の各不動産は破産財団から放棄された。)は、同事件の平成21年9月4日の配当期日において、本件配当票のうち、債権者3名(ニューヨークメロン(被告スター・キャピタル被承継人)、被告エル・ビー・シー及び被告伊予銀行)に係る部分の一部につき、異議の申出をしたが、その申出の範囲は、原告が本訴請求において本件配当表の取消しを求める部分と同じ(前記第1記載のとおり)である(争いのない事実、甲2、丙5)。

(2)  本件各不動産につき、別紙「配当表」(「案分計算結果一覧表」の部分を含む。)記載のとおり、ニューヨークメロン(被告スター・キャピタル被承継人)、被告エル・ビー・シー及び被告伊予銀行を権利者とする根抵当権ないし抵当権(本件各担保権)が設定されていた。なお、ニューヨークメロンは、本件各担保権のうち、大和銀行を権利者とする担保権をその被担保債権とともに承継取得し、また、被告エル・ビー・シーは、本件各担保権のうち、商工中金を権利者とする担保権をその被担保債権とともに承継取得した(争いのない事実、甲2、3(枝番号を含む。))。

(3)  本件各別除権者は、末広産業に対する民事再生手続(大阪地方裁判所平成14年(再)第16号)開始決定時である平成14年3月20日現在、末広産業に対し、本件各担保権の被担保債権として、次の内容の債権を保有していた。

ア 大和銀行(被告スター・キャピタル関係)においては、貸付金元金12億5477万0122円、未収手数料1万4952円、一般固定金利貸出金手数料38万8280円及び遅延損害金1162万1673円(争いのない事実、甲5の1)

イ 商工中金(被告エル・ビー・シー関係)においては、貸付金元金7億1594万9667円及び遅延損害金398万1854円(争いのない事実、甲6の1)

ウ 被告伊予銀行につき、貸付金元金1億1896万7137円及び遅延損害金27万5646円(争いのない事実、甲7の1)

(4)  末広産業(当時、再生債務者)は、次のとおり、本件各別除権者との間でそれぞれ締結した本件各別除権協定により、本件各不動産の受戻価格の元金の額を定め、その後、現在までに、その一部を弁済した(争いのない事実、甲5ないし7(枝番号を含む。)、弁論の全趣旨)

(なお、本件の配当異議の対象外の物件については、その記載を省略する。)。

ア 被告スター・キャピタル関係

平成14年9月26日に大和銀行との間で締結した別除権協定により、本件不動産28の受戻価格の元金の額を688万8000円と定め、その後、現在までに、そのうち429万3520円を弁済した。また、本件不動産26、27の受戻価格をいずれも0円と定めた。

イ 被告エル・ビー・シー関係

平成14年10月9日に商工中金との間で締結した別除権協定により、本件不動産26の受戻価格の元金の額を5020万円と定め、その後、現在までに、そのうち1528万円を弁済した。また、本件不動産27、28の受戻価格をいずれも0円と定めた。

ウ 被告伊予銀行関係

平成14年10月29日に被告伊予銀行との間で締結した別除権協定により、本件不動産27の受戻価格の元金の額を1891万8900円と定め、その後、現在までに、そのうち860万3595円を弁済した。また、本件不動産26の受戻価格を0円と定めた(なお、被告伊予銀行は、本件不動産28につき担保権を有しない。)。

(5)  平成14年9月26日、再生債務者末広産業に係る再生計画認可決定がされ、その後、同決定は確定した(争いがない)。

しかし、末広産業の売上げが予想を下回ったこと等から、平成19年12月21日、同社の取締役2名が同社に対する破産手続開始の申立てをした(準自己破産)。そして、平成20年1月8日午前10時、その破産手続開始決定(以下「本件破産手続開始決定」という。大阪地方裁判所平成19年(フ)第10574号)がされ、原告は、その破産管財人に選任された(争いのない事実、甲4)。

(6)  被告スター・キャピタルは、本件訴訟の係属中である平成22年3月25日、ニューヨークメロン(信託受託者として前記(3)アの末広産業に対する担保権付債権を保有していた者)から、信託に関する任務の終了により、ニューヨークメロンの訴訟当事者(被告)の地位を承継した(弁論の全趣旨)。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  本件各担保権の被担保債権は、本件各別除権協定により減額されたか。

ア 原告の主張

(ア) 本件各別除権協定は、本件不動産26ないし28につき、各物件の受戻価格を定めて、その分割返済を合意するとともに、別除権不足額を定める等の内容を含んでおり、同協定によって、別除権不足額が確定されるとともに、本件各担保権の被担保債権の額が実体法的に受戻価格相当額に減額された。

なお、以上と異なる趣旨、内容(別除権の被担保債権の額を実体法的に受戻価格相当額に減額することを含まない等)の別除権協定をすることは、民事再生法88条、182条(別除権を有する再生債権者と別除権を有しない再生債権者との間の公平を図ること等を趣旨とする規定)に反し許されないというべきである。

(イ) なお、本件各担保権の被担保債権の減額の効果の発生には、その旨の登記を要しないというべきである。

仮に、登記を要するとしても、被告らは、末広産業から、本件各別除権協定により別除権不足額が確定したことを前提に、その再生債権としての再生計画に従った弁済を受けたのであるから、本件訴訟において、登記の欠缺を理由に、本件各別除権協定の効力(本件各担保権の被担保債権の減額)を否定することは、信義則に反し許されないというべきである。

イ 被告らの主張(被告らは、相互に相被告の主張を援用した。以下同じ)

(ア) 被告らの上記ア(ア)の主張を争う。

本件各別除権協定の基本的内容は、末広産業が約定の別除権の価格(受戻価格)に係る分割金の支払を遅滞なく継続する限り、別除権を行使せず、別除権の価格(受戻価格)が完済されれば、本件各担保権を解除し、その登記を抹消することを定めたにすぎないのであって、本件各担保権の被担保債権の額を別除権の価格(受戻価格)相当額に減額する等の内容を含まないし、その旨の確定的な合意をしたこともない。

また、本件各別除権協定には、別除権対象債権額から不動産担保権の価格(別除権の価格)を控除した残額である「別除権予定不足額」を合意するとの規定はあるが、そこには「確定」の文言はないことなどから、上記の「別除権予定不足額」の合意は、別除権不足額を確定する合意(民事再生法88条ただし書)とは趣旨を異にするものである。

さらに、本件各別除権協定は、末広産業が約定の別除権の価格(受戻価格)に係る分割金の支払を遅滞なく継続することを前提としており、その不履行により別除権を行使する場合を対象としていない(本件各別除権協定を定めた書面には、この点を明示した記載はない。)から、上記の場合には、本件各別除権協定の適用はなく、本件各別除権者は、本件各別除権協定の締結前の被担保債権の範囲で本件各別除権を行使することができる。

(イ) 別除権協定によって担保権の被担保債権の額が受戻価格相当額に減額されるという実体法的な効果が発生するためには、その旨の登記を要するというべきである(本件では、上記登記がない。)。

(2)  本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定により失効したか。

ア 被告らの主張

本件各別除権協定には、再生債務者末広産業に対する民事再生手続申立事件につき、再生計画認可決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可決定が確定すること、又は再生手続廃止決定がされることを解除条件として同協定を締結することを定めた規定(以下「本件解除条件規定」という。)がある(甲5ないし7(枝番号含む。))。その趣旨は、再生計画が失効するなど、再生手続がその目的を達成しないことが確定した場合に、本件各担保権の被担保債権の額を本件各別除権協定の締結(減額)前のものに復活させることにあり、本件解除条件規定は、破産手続開始決定により再生計画が失効した場合にも当然適用されるべきものであるから、本件解除条件規定所定の各解除事由(以下「本件解除事由」という。)は例示にすぎない。したがって、本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定により失効した。

また、再生計画の履行完了前に再生債務者について破産手続の開始決定がされた場合には、再生計画によって変更された再生債権が原状に復するところ(民事再生法190条1項)、本件各担保権の被担保債権のうち、別除権不足額に相当する債権は、「再生計画によって変更された再生債権」に当たり、本件各別除権協定は、別除権不足額を合意することにより、再生計画による部分を含むものであるといえるから、本件破産手続開始決定により、本件各別除権協定は、失効し、その結果、本件各担保権の被担保債権の額は、別除権不足額相当部分を含めたものになる(本件各別除権協定の額に復活した。)というべきである。

イ 原告の主張

民事再生法190条1項の規定は、再生計画により変更された債権を原状に復する旨を定めたものにすぎず、再生計画の外で締結された本件各別除権協定により内容が変更された債権については、上記規定の対象外であるから、上記規定をもって、本件破産手続開始決定により本件各別除権協定が失効することの根拠とすることはできない。

また、本件は、末広産業に対する再生計画が認可され、その効力が生じた後に、同社に対する破産手続開始決定がされた場合であって、本件解除事由のいずれにも該当しない。仮に、本件解除事由に該当するとしても、本件各別除権協定に係る分割弁済の開始後に何らかの事由により再生計画の効力が失われた場合に、本件解除条件規定の適用により本件各担保権の被担保債権を復活させることは、民事再生法88条、182条に反し許されないというべきである。

(3)  本件各別除権協定の原告の一方的破棄による失効の有無等

ア 被告らの主張

本件各不動産が一体的に末広産業の愛媛工場として使用されていることや、本件各担保権の設定順位が不動産ごとに異なる状態で設定されていることからすれば、本件各別除権協定は、一体として、そのうちの一つが失効すれば、他のものも失効せざるを得ない関係にあったといえる。

ところで、末広産業に対する破産手続開始の申立ての時点で、同社の事業収益を原資とした弁済が不可能となり、また、破産財団の資力は、本件各別除権協定で定められた受戻価格の残額の全部を支払うことができない状況にあった。そして、原告は、本件各別除権協定の対象物件のうち、受戻価格の残額が売却代金額を上回ることが見込まれたもの(本件不動産1ないし25)を財団から放棄したが、この行為は、受戻価格の残額が売却代金額を上回る場合には、別除権の受戻しを行わない旨の意思表示であり、本件各別除権協定の一方的な破棄に当たる。

したがって、本件各別除権協定は、原告による履行不能ないし一方的な破棄によって失効した。仮に、失効していないとしても、上記のように、原告は、本件各別除権協定上の義務を履行する資力がないため、本件各別除権協定が自己に不利益に適用される範囲(本件不動産1ないし25では、その義務の履行(受戻価格の支払)を拒否しておきながら、被告らに対し、原告に有利に適用される部分(本件不動産26ないし28)に限定して本件各別除権協定の有効性(被担保債権の減額の効果の発生)を主張しており、このような原告の主張は、公平の観点ないし信義則に反し許されない。

イ 原告の主張

被告らの上記アの主張は、本件各別除権協定が双方未履行の双務契約であること及び本件各別除権協定が一体として、そのうちの一つが失効すれば、他も失効するという関係にあったことの2点を前提としているが、いずれも失当であり、前提を欠き、理由がない。

第3当裁判所の判断

1  本件各別除権協定により本件各担保権の被担保債権が減額されたか。

(1)  前提となる認定事実

本件各別除権協定は、①別除権(担保権)の被担保債権の額を確認すること、②本件各不動産その他の不動産の価格及び別除権(担保権)の価格を確認すること、③本件各別除権者は、末広産業に対し、末広産業がその事業継続のため本件各不動産その他の不動産の使用を継続することを認め、他方、末広産業は、本件各別除権者に対し、別除権(担保権)の価格(なお、本件不動産26ないし28の各担保権の価格(受戻価格)は、前示(前提事実記載)のとおりである。)を分割して支払うこと、④上記①の別除権(担保権)の被担保債権の額から別除権(担保権)の価格等を控除した残額をもって、「別除権予定不足額」とすること等を内容としている(甲5ないし7(枝番号含む。))。

そして、末広産業は、平成14年11月から平成19年5月まで、上記④の「別除権予定不足額」につき、本件各別除権者(当該担保権付被担保債権が移転された場合は、被告エル・ビー・シー、ニューヨークメロンその他の中間及び最終の譲受人を含む。)に対し、その再生債権としての再生計画に従った弁済をした(甲8、弁論の全趣旨(平成22年7月12日付けの原告第2準備書面の1頁、同年9月30日付けの原告第3準備書面の1及び2頁))。

(2)  前示(1)の認定事実からすれば、本件各別除権協定における「別除権予定不足額」の合意(前記(1)④)は、本件各別除権者の有する再生債権(別除権の被担保債権)のうち、別除権(本件各担保権)で担保されない部分を合意により確定する趣旨のもの(民事再生法88条ただし書)であると認めるのが相当である。

以上の判断は、本件各別除権協定に係る協定書(甲5ないし7(枝番号を含む。))中に、「別除権予定不足額」が確定される旨の明示の記載がないこと等によって、左右されるものではない。

(3)  民事再生法は、別除権を有する再生債権者とこれを有しない再生債権者との間の公平を図る見地から、不足額責任主義(民事再生法88条、同182条)を採用して、別除権者は、再生債権である別除権の被担保債権のうち、別除権で担保されないことが確定した部分に限り、確定再生債権として、再生計画によって変更された後の債権を行使することができる(民事再生法182条)。そして、再生計画による権利の変更を行う前提として、別除権で担保されない部分(担保権の被担保債権額から別除権協定で定められた受戻価格を控除した残額がこれに当たる。以下「別除権不足額」という場合もある。)は、再生手続内のみならず、実体法的に確定することを要するものと解される。

また、一定額の別除権(担保権)の被担保債権のうち、別除権で担保されない部分(別除権不足額)の額が確定されれば、当然に、上記被担保債権のその余の部分(別除権で担保される部分)の額も確定される関係にあるから、再生債務者と別除権者との間の合意(民事再生法88条ただし書)によって、再生債権のうち、別除権で担保されない部分(別除権不足額)が実体法的に確定された場合には、これと同時に、別除権で担保される部分も実体法的に確定されたものといえる。

そして、別除権者は、再生債権(別除権の被担保債権)のうち、別除権で担保されない部分(別除権不足額。担保権の被担保債権から別除権協定で定められた受戻価格を控除した残額)については、再生計画に基づいてその支払を受け、また、別除権で担保される部分(上記受戻価格相当額)については、再生計画外で、別除権協定に基づいてその支払を受けることになる。

(4)  前示(2)のとおり、本件各別除権協定は、再生債権である別除権の被担保債権のうち、別除権で担保されない部分(別除権不足額。本件各担保権の被担保債権から別除権協定で定められた受戻価格を控除した残額)を確定する合意(民事再生法88条ただし書)を含むものであるから、これにより、本件不動産26ないし28につき、再生債権である別除権の被担保債権のうち、別除権で担保される部分が当該物件ごとの受戻価格相当額に減額されるとの実体法的効果が生じたことになる。

以上の判断は、本件各別除権協定の条項中に、本件各担保権の被担保債権を受戻価格相当額に減額することや、その旨の実体法的効果の発生に関する明文の定めがないことその他被告らが指摘する諸事情によって、左右されるものではない。

(5)  前示(4)の本件各担保権呑む被担保債権の減額につき、その実体法的効果が発生するためには、その旨の登記が必要であるとする明文の根拠がないこと等からすれば、同登記を要しないと解するのが相当である。

なお、仮に、登記を要するとしても、前示(1)のとおり、末広産業は、本件各別除権協定で合意した「別除権予定不足額」につき、本件各別除権者(当該担保権付被担保債権が移転された場合は、被告エル・ビー・シー、ニューヨークメロンその他の中間及び最終の譲受人を含む。)に対し、再生計画に従った再生債権としての弁済をしたこと等からすれば、被告らが、本件訴訟において、登記の欠缺を理由に、本件各別除権協定の効力(本件各担保権の被担保債権の減額)を否定することは、信義則に反し許されないというべきである。

(6)  被告らは、「本件各別除権協定は、末広産業が約定の別除権の価格(受戻価格)に係る分割金の支払を遅滞なく継続することを前提としており、その不履行により別除権を行使する場合を対象としていない。」と主張するが、この点に関する被告らの主張を踏まえて、本件各別除権協定を定めた協定書(甲5ないし7(枝番号含む。))の記載内容等を検討しても、そのように解すべき根拠を見出すことはできない。

2  本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定により失効したか。

別除権を有する再生債権者とこれを有しない再生債権者との間の公平を図るという不足額責任主義(民事再生法88条、同182条)の趣旨からすれば、別除権協定に基づく再生債務者の弁済の不履行を理由に別除権者が同協定を解除したとしても、別除権の被担保債権のうち、別除権で担保される部分が受戻価格相当額に減額されたという実体法的効果は、再生計画ないし再生手続が存続する限り、維持ないし固定されるものと解するのが相当である。

これに対し、本件は、前示(前提事実記載)のとおり、認可された再生計画の履行完了前に、再生債務者について破産手続開始決定がされた事案である。そして、民事再生法190条1項は、このような場合には、再生債務者の財産が破産財団に吸収され、再生計画の履行が不能となることから、再生計画が当然にその効力を失うとの考え方に立って、再生計画によって変更された再生債権が原状に復する(ただし、再生債権者が再生計画によって得た権利については、影響を及ぼさない。)ものとした。

上記規定は、直接的には、再生計画の履行完了前に、再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合における再生計画によって変更された再生債権の扱いを定めたものである。

しかし、前示1(3)からすれば、再生債務者と別除権者との間の合意(民事再生法88条ただし書)によって、再生債権(別除権の被担保債権)のうち、別除権で担保されない部分(別除権不足額。担保権の被担保債権から別除権協定で定められた受戻価格を控除した残額)が実体法的に確定される(そして、これと同時に、別除権で担保される部分(受戻価格相当額)も実体法的に確定される。)のは、確定再生債権につき、再生計画に基づく弁済をするため、再生計画による権利の変更を行う前提として、別除権で担保されない部分(別除権不足額)を実体法的に確定しておく必要があるからである。そうすると、このような実体法的な確定は、再生計画に基づく弁済のための手段にすぎないといえる。

ところが、再生計画の履行完了前に再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合には、前示のとおり、再生計画が当然にその効力を失って、これによる権利の変更の効果も失われ、再生計画によって変更された再生債権が原状に復するというのであるから、もはや別除権で担保されない部分(別除権不足額)及び担保される部分(受戻価格相当額)を実体法的に確定しておく必要が失われているといえる(この点において、別除権協定に基づく弁済の不履行があるが、再生計画ないし再生手続が存続する場合とは本質的に事情が異なる。)。

また、通常、別除権者としては、再生計画の履行完了前に再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合にまで、別除権協定による担保権の被担保債権の減額という実体法的な効果が維持ないし固定されることを想定して、別除権協定の締結に応じているとは考えにくい。のみならず、上記の場合にまで、上記の実体法的な効果が維持ないし固定されて、担保権の実行による債権回収が制限されることになるとすると、別除権者が別除権協定の締結に応ずることに躊躇する可能性が少なくなく、かえって、再生債務者の事業継続及び再生計画の履行を困難にするおそれも否定できない。

なお、別除権協定に基づく弁済の不履行があったが、再生計画ないし再生手続が存続する場合には、別除権協定による担保権の被担保債権の減額という実体法的な効果が維持ないし固定されない(当初額が復活する)とすると、再生計画の履行が完了したときと比べて、別除権者がより多額の債権回収をして不公平な事態が生ずる可能性を否定できないが、これに対し、再生計画の履行完了前に再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合には、再生計画が失効している以上、別除権者の債権回収額の多寡につき、再生計画の履行が完了した場合と比較すること自体に意味がない。

これらの点からすれば、再生計画の履行完了前に再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合には、別除権協定は、当然に失効し、別除権協定による別除権(担保権)の被担保債権の減額という実体法的効果も失われる(原状に復する)ものと解するのが相当である。

したがって、本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定により失効し、本件各担保権の被担保債権の実体法的減額の効果も失われる(原状に復する)ことになる。

3  以上判示したところに、弁論の全趣旨を総合すると、被告らは、本件配当表記載のとおりの被担保債権を有し、その配当受領権があるものと認められるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加島滋人 裁判官 永谷幸恵 丸山聡司)

(別紙)物件目録<省略>

配当表<省略>

手続費用計算書<省略>

案分計算結果一覧表<省略>

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