松山地方裁判所 平成22年(わ)235号 判決 2010年12月01日
主文
被告人を懲役1年6月に処する。
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,Aと賭け事をし,Aに勝ったことに乗じて,勝ち金支払名下にAから金員を喝取しようと企て,平成21年7月4日午後8時ころから同日午後9時ころまでの間,愛媛県a市の大型複合施設に隣接する駐車場からa市の小売店駐車場までを走行中の被告人運転の自動車内において,A(当時23歳)に対し,「残りの60万円も払え。」,「海に行って,足腰立たんようにしてやる。」,「おまえに取れるところがあるけん取るんじゃ。」などと語気鋭く申し向け,さらに,左の拳で,Aの顔面付近を1回殴打する暴行を加えて,現金の交付を要求し,もしその要求に応じなければ,Aの身体等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示してAを怖がらせ,よって,同月6日午後11時ころ,a市のコンビニエンスストア駐車場に駐車中の被告人使用の自動車内において,Bを介して,Aから現金10万円の交付を受け,同月8日午後2時ころ,a市の喫茶店内において,Bをして,Aから依頼を受けたAの父親であるCから現金40万円を受け取らせ,a市のゲームセンター店内において,Bから同金員の交付を受け,これらを喝取したものである。
(証拠の標目) 省略
(事実認定の補足説明)※ 以下,月日のみで示す日付は平成21年である。
1 被告人及び弁護人の主張
被告人は,①7月4日にAに対して恐喝はしていない,②7月6日に受け取った10万円は,Aに対する貸金の返済である,③7月8日にBから40万円受け取ったかどうかはよく覚えておらず,Bに勝ち金の集金を頼んだことはない旨,弁護人は,(ア)7月4日にAへの恐喝行為はなかった,(イ)仮に恐喝行為があったとしても,恐喝行為と40万円の金銭交付との間に因果関係は認められない旨主張するので,以下検討する。
2 証拠上動かし難い事実
(1) 被告人とBは,中学生のころからの知り合いであり,Bは,6月ないし7月から8月ころの間に,合計約1か月にわたり,被告人方で寝泊まりさせてもらっていた。
(2) Aは,平成20年ころ,パチンコ店で知り合ったEを通じて,被告人及びFとも知り合い,被告人は,一緒にパチンコや食事に行くなどAと親しく交際するようになった。Aは,3月ころ,被告人方を訪問した際,同所にいたBと知り合った。
(3) Aは,7月ころは,仕事をしておらず,貯金もなく,交際相手のDと同居していた。
(4) 被告人及びAは,6月末ころ,被告人方において,「めくり」と称する賭け事をし,最終的にAが被告人に120万円ほど負けた。賭け事をした当日,Aは,被告人の了解を得て,被告人方の掃除をすることなどを条件に,負け分を100万円に減額してもらった。
(5) Aは,7月3日,Dが消費者金融から借りて用意した60万円のうち,約15万円をB及びEに貸すなどし,残りの金員のうち,40万円を2回に分けて被告人に交付した。
(6) 被告人は,7月4日の夜,B,A及びFとともに,判示記載の大型複合施設内の居酒屋で食事をし,同日午後8時ころ,助手席にB,後部座席運転席側にA,後部座席助手席側にFを乗せた自動車を運転し,前記大型複合施設の駐車場を出て,a市内の埠頭岸壁付近等に立ち寄った後,同日午後9時ころ,判示記載の小売店松山店駐車場に到着した。被告人は,前記大型複合施設の駐車場から埠頭岸壁付近までの間を走行中の車内において,Aの顔面を左の拳で1回殴打した。Fも,埠頭岸壁付近に停車中の車内において,Aの左肩を殴り,更に同人を車内から引きずり出して,腹を一回殴ったところ,Bがこれを制止した。
(7) 被告人は,7月6日,Bとともに,Aが住んでいるマンションを訪れた。Aは,Bに立て替えてもらった金を返す必要があるなどと述べてDから金を借りることとした。Aは,被告人が運転し,B,Dも同乗する車両で判示記載のコンビニエンスストア駐車場に移動し,Dが店内のATMで自分の口座から引き出した10万円を受け取り,車内でBにその現金を手渡した。その後,被告人が,Bからその現金を受け取った。
(8) Aは,7月6日ないし7日に,Cに対し,電話で,現金31万円が入ったBの財布を落としてしまい,Bから50万円を払えと言われている旨述べて,金を払ってほしいと依頼した。これに対し,CがBと会わせてほしいと言ったことから,Aは,これをBに伝えるなどし,CとBは,同月8日に会うこととなった。
(9) 7月8日,Cは,Aらとともに,判示記載のゲームセンターに向かった。他方,被告人及びBも,同所に赴き,Bは,同所出入口付近において,Cらと合流して,近くにある判示記載の喫茶店に入った。その後,Cは,Bから,AがBの財布をなくした経緯についての説明を受けた後,Bに対し,50万円は高すぎる,40万円であればすぐに支払える旨述べたところ,Bがこれを承諾したことから,Cは,同日午後2時ころ,Bに対し,40万円を手渡した。
3 恐喝行為の存否(被告人主張①,弁護人主張(ア))
(1) Aは,当公判廷において,7月4日夜の出来事につき,概ね以下のとおり供述している。
「大型複合施設の駐車場を出て,5分前後経ったころ,被告人は,声を荒立て,『残りの60万円も払え。』と言ってきた。私は,減額してもらった100万円から40万円を引いた残りの金額を請求してきていると思った。賭け事をした翌日ころ,被告人方で一括で払うことを前提に,40万円に減額してもらっていたので,その件は終わったと思っていた。私が,『もう払えない。』などと言うと,被告人は,かなり大きな声で,『本当は,おれに持ってくるはずのお金を,EさんとかB君に渡しやがって。おれに先,持ってくるんが筋やろうが。』などと言った。私が『こらえてください。』などと言うと,被告人は,運転しながら,携帯電話を握った左手の甲で,私の顔を1回殴ってきた。私が黙っていると,被告人は,低い大きな声で,『払えんのだったら,体で払え。』,『海に行って,足腰立たんようにしてやる。』,『おまえに取れるところがあるけん取るんじゃ。』,『別に1億払え言(い)よんじゃなかろうが。60万払っておれらと縁切って,まじめに働いたらええが。』と言ってきた。払うと言わないと,誰もいない海で,被告人に殴られたり,足腰立たないようにされるのではないかと思った。その後,埠頭岸壁に到着し,被告人は,車を駐車させた。その車内で,Fから,Eに覚せい剤を使用したことを話したかと尋ねられ,認めたところ,Fに,左肩を殴られ,車から引きずり出されて,腹を1回殴られた。車内に戻ると,被告人は,『おれはFほど優し(く)ないぞ。足腰立たんようにするし,歯も折るぞ。』と言ってきた。その後,小売店の駐車場に駐車中の車内で,被告人に対し,60万円を支払うことを約束した。」
(2) Aの上記供述は,具体的で迫真性がある上,その内容も前後の出来事と整合している。すなわち,7月4日に「残りの60万円」を請求されたという点は,減額した負け分である100万円から,7月3日にAが被告人に支払った40万円を引いた残額を被告人が請求しているものと理解できるし,Aが,7月6日に被告人に対して10万円を支払い,7月8日に,結果的に40万円になったものの,50万円をBに支払うという話になっていたこととも整合する。そして,Aが,交際女性や父親に対し,真実とは異なる事実を述べてまで金を用立てたことは,被告人から脅迫されていたとのAの供述とよく整合している。
(3) 加えて,Bは,捜査段階において,「被告人が,『残りの60万円も払え。』などと,大きめの声でAに言っていた。これに対して,Aは,『はぁ。』などと,曖昧な返事をしていたと思うが,『勘弁してください。』などと断るような返事をしていたかもしれない。Aに対して,被告人は,『払えないんだったら,体で払え。』という内容の脅しをかけていた。また,正確な言い回しははっきりしないが,足腰立たないようにするというような意味の話もしたと思う。」などと,車内でのやり取りについて,Aの供述と概ね符合する供述をしている。
Bは,被告人の友人であり,約1か月ほど被告人方に居候をするなど,被告人と親しく交際をするとともに,その世話になっていたことからすれば,あえて被告人に不利な供述をする動機は認められない。弁護人は,Bが,捜査段階において,恐喝の共同正犯として取調べを受けていたところ,捜査官から,Aの供述を前提とすれば,Bは恐喝の幇助にすぎないとの示唆があり,Bが捜査官に迎合して供述したのではないかと主張する。しかし,Bは,当公判廷において,検察官の誘導的な質問に対して,そうかもしれないなどと迎合的な答えをしたとは供述したが,弁護人の指摘するような示唆があったとは述べていない。被告人による脅迫行為がなければ,Bは正犯であれ,幇助犯であれ,自らも罪に問われない関係にあり,Bもそのことはよく理解していたにもかかわらず,捜査段階で上記のような供述をしているのである。そして,自らに対する恐喝幇助被告事件の罪状認否においても,被告人の脅迫行為がなかったとは主張していない。弁護人の主張は,Bの捜査段階の供述の信用性を左右するものではない。
なお,Bは,当公判廷において,被告人は,Aに対して,60万円の支払を請求しておらず,脅してもいない旨供述し,捜査段階の供述と異なる内容の供述をしているが,Bと被告人との間の上記関係に照らせば,被告人に対する気がねや遠慮から,被告人の面前では被告人に不利益な供述はしにくいとの心情であったものと認められ,Bのこの点に関する公判供述は信用できない。
(4) 以上からすると,車内でのやり取りに関するAの前記供述の信用性は高いというべきである。
(5) これに対し,弁護人は,Aは,脅迫文言の一部について,平成22年5月16日の警察官による取調べの中では供述しておらず,同月28日の検察官による取調べの中で初めて供述しており,また,当初の警察官の取調べにおいては,Bが述べたと供述しながら,その後,被告人が述べた旨訂正するなど,被告人の刑責を重くする方向に供述が変遷していると指摘する。しかし,大型複合施設の駐車場から埠頭岸壁に向かって走行中の車内において,被告人から,60万円の支払を請求された上,支払わなければ,海に行って,足腰が立たないようにしてやると言われた旨の供述の根幹部分については,変遷があったとはいえず,弁護人の指摘する点は,Aの上記供述の信用性を左右しないというべきである。
また,弁護人は,Aが,7月4日以降も,被告人と従前どおり友人としての付き合いを続けたり,事件後,警察署に相談に行ったりした際にも恐喝の被害届を提出していないのは,恐喝された者の行動として不自然であると主張する。しかし,被告人を畏怖したがゆえに,被告人に言われるがまま交友関係を絶てず,被告人による報復を恐れたがゆえに,直ちに被害届が出せなかったとも考えられ,不自然であるとはいえない。
したがって,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
(6) 被告人は,当公判廷において,7月4日の車内において,Aを脅迫したことを否定し,勝ち金の話は出ておらず,Aの顔面を殴ったのは,居酒屋でのAの態度に腹が立ったからであるなどと供述する。しかし,その内容は,Aの公判供述及びBの捜査段階の供述と明らかに矛盾している上,Bが公判で認めている,車内で賭け事の支払の話が出ていたとの供述とも整合しない。公判において,被告人に有利な内容も述べているBが,被告人に不利な内容を述べているのであるから,その部分の信用性は非常に高いというべきであり,これに反する上記被告人供述は信用できないといわざるを得ない。
(7) 以上によれば,7月4日の車内において,被告人が,Aに対して,勝ち金回収名下に60万円の支払を請求して,判示記載の脅迫や暴行を行い,Aが同金額の支払を約束したものと認められる。
4 10万円交付の経緯(被告人主張②)
(1) 被告人は,7月6日に,判示記載の場所において,Bを介してAから10万円を受け取ったことは認めるものの,同金員は,Aに対する貸金の返済として受け取ったものである旨供述する。
(2) この点,Aは,当公判廷において,大要,「7月6日,被告人とBが,自宅マンションまで来て,同マンションの通路において,被告人が,残りの60万円はどうするのかと言ってきた。Dにちょうど給料が入ったので,10万円ぐらいなら用意できると思うから頼んでみる旨答えた。Bに対し,Bに立て替えてもらったお金を返さなければいけないという理由で,Dにお金を貸してくれるよう頼むので,受取人になってほしいと頼んで,Bの了解をもらった。そして,10万円をDから受け取り,Bに渡した。」などと供述する。Aの上記供述に,特段不自然,不合理な点はない。
(3) これに対し,被告人は,10万円は,賭け事の勝ち金とは別の貸金の返済であったと供述する。しかしながら,被告人の話を聞いても,いつのころの,どのような趣旨の貸金であったかがあいまいである。被告人によると,被告人は,Aに対してそれまでに二十数万円を貸していたが,金に困っていなかったことから特に返済は求めていなかったというのであるが,そうであるとすれば,7月6日に唐突に返済を求めたことになり,不自然な感を否めない。真に貸金の返済であれば,AがBへの立替金の支払であるとDに虚偽を述べるのも理解し難く,結局,被告人の上記供述は,信用できない。
(4) 以上からすれば,7月6日にAが10万円を支払った経緯は,Aが述べるとおりであり,結局,7月4日の脅迫,暴行に引き続きなされた被告人による勝ち金の支払要求に畏怖したAがやむを得ず応じたものであると認められる。
5 40万円交付の経緯(被告人主張③)
(1) 被告人は,7月3日以降,自ら勝ち金の支払を請求したことも,Bにその集金を依頼したこともなく,7月8日にゲームセンターでBから金員を受け取ったが,その金額は25万円くらいだなどと述べている。
(2) この点,Aは,当公判廷において,Cに支援を要請するまでの経過について,概ね,「7月7日,被告人に呼び出されて被告人方に行った際,Bが同席する中,被告人が,残りのお金をどうするのかと尋ねてきた。『もう払えない。』と答えたところ,被告人から,『交通事故を起こして相手にお金を払わなければいけないので,お金を出してほしいと親に頼んでみるように。』などと言ってきた。これに対し,Bは,『交通事故では,警察で話をしてくれなどと言われるかもしれないので,自分(B)の財布を落として被害弁償をしなければいけないからお金を出してほしいと頼んだ方がよい。』などと言ってきた。そこで,私は,両親に対し,電話で,人から預かっていた現金約30万円在中のエルメスの財布を落としてしまい,持ち主から50万円を請求されているという趣旨の話をした。」などと供述する。上記供述は,具体的であり,特段不自然,不合理な点はなく,客観的な事実経過にも沿うものである。
(3) また,Bは,当公判廷において,大要,「7月8日に,Cから40万円を受け取った後,ゲームセンターの中で,同金員を被告人に渡した,被告人は,その際,『ありがとうございました。』と言い,特に金の趣旨を聞いてくることはなかった,同所において,被告人から,10万円弱を受け取ったが,このお金は,自分が間に入って,現金をCから受け取って被告人に渡したことへのお礼だと思った。」などと供述する。その内容は,自然かつ合理的である上,報酬を得たという,自己に不利益な事実も隠さず供述している点で,信用性が高いといえる。
(4) 被告人は,前記のとおり,7月3日以降,Aに対し,勝ち金の支払を請求したことはなく,Bに対し,勝ち金の集金を依頼したこともないと供述するが,前記認定事実(7月4日にAに対し脅迫,暴行を行って60万円を支払うよう求め,同月6日にBとともにA方を訪れて更に支払を要求し,同日,Bを介して10万円を受け取っている事実)に反する上,被告人が7月8日に,Bから金員(被告人の公判供述を前提としても,25万円というまとまった金員をBから受け取っていることになる。)を受け取る理由が合理的に説明できない。結局,被告人の供述は信用できないといわざるを得ない。
(5) 以上からすると,AがCの支援を得た経緯は,Aが述べるとおりであり,7月4日の脅迫,暴行に引き続きなされた被告人による金員支払要求に畏怖したAがやむを得ず応じてCからBに40万円が交付されたものと認められる。そして,その後,Bが述べるとおり,この40万円が被告人の手に渡ったものと認められる。
6 40万円の取得と恐喝行為との因果関係について(弁護人主張(イ))
(1) 弁護人は,仮に恐喝行為が認められるとしても,Cは,40万円をBに支払うに当たり,自己の意思で行動していて,専らAの意思に基づいて行動したわけではないから,CをAの単なる使者と評価することはできず,本件における財物交付者はCであるから,被恐喝者と財物交付者が一致せず,恐喝行為と財物(40万円)の交付との間には因果関係が認められないと主張する。
(2) 確かに,本件40万円は,Aを経由することなく,CからBを介して被告人に交付されている。しかし,CとAは,親子であり,経済的に一体とまでは認められないものの,Aは,従前Cから多額の経済的援助を受けており,本件においても,Cとしては,息子であるAの不始末に対する解決金として,40万円の出捐を決意しており,A側の人間として金員を交付したものである。そして,40万円をBに渡した際には,Aも同席している。そうであるとすれば,40万円については,実質的にみると,Aが,Cから援助を受け,一旦自分が受け取った後に,被告人側に交付したのと何ら異ならず,実質的にはAが直接交付した場合と同視できる。
(3) 弁護人は,40万円については,CからAへの贈与であるから,財産上の被害者は,CであってAではないと主張するが,上記のとおり,Aが直接被告人側に交付した場合と同視できるのであるから,Cに対する返還義務の有無にかかわらず(なお,CはAに返還を求めるとしている。),実質的にはAが財産上の被害者であると評価できる。なお,Aが,Bらと相談し,財布を落としたなどと虚偽を述べてCから金員を引き出した事実について,AのCに対する詐欺罪として評価,構成することも可能であるが,この点は,被告人に,Aに対する恐喝罪が成立することの妨げにはならない。
以上を前提とすると,CがBに渡した40万円は,Aが,恐喝行為により畏怖した結果に基づくものであり,同金員と,前記認定に係る恐喝行為との間には,因果関係が認められる。
(累犯前科) 省略
(法令の適用)
被告人の判示所為は刑法249条1項に該当するが,前記の各前科があるので刑法59条,56条1項,57条により3犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中100日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,知人である被害者から賭け事の勝ち金支払名下に金員を喝取しようと企て,同人を脅迫・暴行し,現金50万円を喝取した事案である。
被害金額は多額であり,結果は重大である。被告人は,賭け事で大勝ちしたことに乗じ,被害者に対し,執拗に勝ち金を支払うよう要求していて,その態様も悪質である。被害者が,怠惰な生活を送る中,安易に被告人と大金を賭ける遊びに興じたことについては,軽率のそしりを免れず,その後の被害者の対応も,被告人の犯行及び被害結果を助長,拡大した面があることは否定できないが,もとより,被告人の金員要求は正当なものではなく,上記事情を過度に斟酌すべきではない。被告人には,同種前科はないものの,2度にわたり服役し,更生の機会を与えられたにもかかわらず,直近前科の出所後わずか1年で,本件犯行に及んでいることからすれば,法を守ろうとする意識が低いといわざるを得ない。加えて,被告人は,犯行を否認し,不合理な弁解に終始して責任を回避しようとするなど,反省の態度も見られない。
以上からすれば,被告人の刑事責任は重く,前記事情を考慮してもなお,主文の刑に処するのが相当である。
(求刑・懲役2年)
(裁判長裁判官 村越一浩 裁判官 中村光一 裁判官 松原経正)