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松山地方裁判所 平成22年(わ)276号 判決 2011年3月24日

主文

被告人を懲役6年に処する。

未決勾留日数中100日をその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1【平成22年7月27日付け公訴事実】

A(以下「A」という。)及びB(以下「B」という。)と共謀の上,金品窃取の目的で,平成22年5月21日午後8時23分ころ,松山市<以下省略>所在のa質店経営者Cが看守する同店舗に,同所南東側無施錠の出入口引き戸から侵入し,そのころ,同所において,同人所有のネックレスとブレスレットのセット1組及び指輪1個(時価合計16万5000円相当)を窃取した

第2【平成22年7月6日付け公訴事実第1】

A及びD(以下「D」という。)が,愛媛県伊予市<以下省略>所在のbショップ伊予店駐車場などにおいて,E(当時17歳。以下「E」という。)に対し,こもごも同人の顔面,腹部等を数回手拳で殴り,数回足で蹴るなどの暴行を加えた上で,Eを松山市<以下省略>所在の株式会社c松山事業所南側駐車場に連行し,同所において,Eに対し,こもごも数回手拳で殴り,数回足で蹴り,金属製はしごや角材を投げつけるなどの暴行を加えたところ,被告人自らが同所に到着するまでの間に,A及びDがEに対し暴行を加えて負傷させたことの概況を認識の上,これを自己の暴行遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,A及びDと共謀の上,平成22年5月26日午前4時過ぎころから同日午前5時ころまでの間,同所において,Eに対し,金属製はしごを何度も投げつけ,頭部や腹部を足で蹴るなどの暴行を加え,上記一連の暴行によって,Eに対し,加療約3週間を要する頭部外傷擦過打撲,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過等の傷害を負わせた

第3【平成22年7月6日付け公訴事実第2】

A及びDが,愛媛県伊予市<以下省略>F方南側路上において,G(当時17歳。以下「G」という。)に対し,こもごも数回手拳で殴り,数回足で蹴るなどの暴行を加えた上で,Gを上記株式会社c松山事業所南側駐車場に連行し,同所において,Gに対し,Aが,数回手拳で殴り,数回足で蹴り,金属製はしごを投げつけるなどの暴行を加えたところ,被告人自らが同所に到着するまでの間に,A及びDがGに対し暴行を加えて負傷させたことの概況を認識の上,これを自己の暴行遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,A及びDと共謀の上,同日午前4時過ぎころから同日午前5時ころまでの間,同所において,Gに対し,頭部,肩部,背部を多数回殴打するなどの暴行を加え,上記一連の暴行によって,Gに対し,加療約6週間を要する右母指基節骨骨折,全身打撲等の傷害を負わせた

第4【平成22年7月6日付け公訴事実第3】

Aと共謀の上,同日午前6時ころ,上記株式会社c松山事業所南側駐車場において,上記第2記載の傷害を受けたEが畏怖しているのに乗じ,被告人が「おれがもらう金やったんやが。」,「お前も一緒に段取れ。」などと語気鋭く申し向けて金員を要求し,もしこの要求を拒否すれば,さらに激しい暴行を加えられるものとEを畏怖させて脅迫し,その反抗を抑圧し,同人から現金約4800円を強取した

ものである。

(証拠の標目)<省略>

(事実認定の補足説明)

※ 以下,この項において月日のみで示す日付は平成22年のものである。また,人名を示すときは,初出以外氏のみで表記することがある。

第1建造物侵入,窃盗(判示第1)について

1  争点

AとBが判示第1の犯行を共同実行したことは当事者間に争いがなく,争点は,被告人とA及びBとの事前共謀の有無(共謀共同正犯の成否)である。

2  証拠上動かし難い事実

(1) Aは,被告人の2歳下で,被告人とは互いに中学生当時の約7年前に知り合い,最近は親しく付き合っていた。Bは,被告人の5歳下で,被告人とは,Bが中学生当時の平成17年ころ知り合い,平成22年に入ってから,顔を合わせることが多くなった。

(2) A及びBは,5月21日午後8時23分ころ,貴金属類等を取り扱う質店であるa質店(以下「被害店舗」という。)に侵入し,Bが,所携のバールを使ってショーケースをたたき割り,Aが,同ショーケース内の貴金属(ネックレスとブレスレットのセット1組及び指輪2個。なお,うち指輪1個については公訴事実の対象外である。)を手に取り,ともに店外に出て,原付で2人乗りして逃走した。Aは,逃走の際,指輪1個(公訴事実に係るもの。時価4万5000円相当)を被害店舗付近路上に落とした。

(3) 5月20日及び21日にかけての関係者の携帯電話機の受発信記録によれば,以下の通話が認められる。

① 20日午後8時16分から午後8時39分にかけて,3回にわたり,被告人からHへ

② 20日午後9時26分から午後9時45分にかけて,3回にわたり,AからIへ

③ 21日午後6時37分及び午後6時48分に被告人からAへ,午後7時にAから被告人へ

④ 21日午後7時4分にAからBへ

⑤ 21日午後8時35分にBからDへ,午後8時43分にDからBへ

(4) 被害品のネックレスとブレスレットのセット(時価12万円相当)については,事件後,Aから被告人の下に渡った。そして,6月1日,Jと氏名不詳の男性が,同被害品を,被害店舗とは別の質店に持ち込み,それを担保にして金を借りようとしたが,質店側から買い取りを持ちかけられ,他の誰かに連絡した上,結局7万5000円で売却した。

(5) 7月16日,松山市<以下省略>所在の通称「d」南側係留地の南西方の海中から,本件犯行の際にA及びBが着用していた衣服等が入った黒色ショルダーバッグ並びに本件犯行に使用されたバール等が発見された。

3  Aの供述について

(1) Aは,当公判廷において,判示第1の事件に関し,概ね以下のとおり供述している。

被告人は,暴力団のe組に入っていたことがあり,被告人に対しては,怒ると怖いというイメージがあった。自分が下手を打ったことで,被告人から殴る蹴るの暴行を受けたこともあった。周りの人で,被告人に反抗する人はおらず,被告人はグループのリーダーだった。

5月20日の夕方ころ,f店という店の前で,被告人及びBと話をしていたとき,被告人かBのどちらかが,被害店舗に入ろうと言い出し,バールでショーケースを壊し,貴金属を盗むという話になった。誰もこれに反対せず,自分も被告人の機嫌を損ねるのが嫌で反対しなかった。被告人は,盗品をどこかに売るという話もしていた。その後,被告人の指示で,Hの家に,犯行に使う服を取りに行き,被告人の案内で,知らない場所に,現場までの足代わりに使う原付を取りに行った。バールは,以前に被告人から受け取り,知人に預けていたものを使うことにして,別の友人に頼んで持って来てもらった。自分とBが,用意した服に着替えて,被害店舗に2人で行った。被告人は,自分とBに「終わったら連絡してきて。」と言い,一緒に被害店舗には行かなかった。その日は,結局,被害店舗に入ることができなかった。そのことを被告人に報告しようとしたが,被告人へは直接電話をかけないよう指示されていたため,知人のIの携帯電話に電話をかけ,被告人に報告した(2(3)②の通話)。被告人は,すぐには納得せず,「シャッター開けて入れんのん。」などと言っていた。その後,翌日に再び盗みをするという話になった。用意した原付や服等は,自分が当時付き合っていた彼女のマンションの駐車場に置いた。

翌21日,被告人から電話がかかってきて「行こうや。」と言われた(2(3)③の通話)ので,自分がBに電話で連絡し(2(3)④の通話),被告人,Bと合流した。その後,置いていた服や原付等を取りに行き,自分とBが,服を着替え,被害店舗に行った。被告人は,盗みには行かなかった。被告人からは,Dを通じて電話するよう言われた。Bと2人で盗みを行った後,原付で逃げた。逃走後,BがDに電話して(2(3)⑤の通話),被告人と合流した。被告人に盗みをしたことを報告したが,被告人は「これだけなん。」などと不満そうだった。盗んだ物は,移動する際,いったん自分が預かっておくことになった。その後,被告人の指示で,服やバールなどを被告人と共に海に捨てた。盗んだ物のうち,ブレスレットは,その日のうちに被告人に渡し,数日後にネックレスも被告人に渡した。被告人は,これらを担保に金を借りるという話をしていた。指輪は,自分の彼女に渡した。

(2) Aの前記供述は,具体的で迫真性があり,特段不自然,不合理な点はない上,携帯電話の通話履歴や犯行道具の発見状況等の前記客観的事実とも整合している。加えて,記憶がなかったり,あやふやな点はきちんと区別して供述するなど,その供述態度は真摯である。

弁護人は,Aは,自分の刑事責任を軽減するため,あるいは被告人に対する悪感情から,責任を被告人に転嫁していると主張する。しかし,AやBの供述内容から推認されるAと被告人の関係に照らせば,Aは被告人を怖がっていたと認められる上,証言時は,自らの事件について有罪判決を受け,これが確定していたのであるから,Aが被告人に恨まれる危険を冒してまで責任を押しつける必要性はない。また,Aは,自らの裁判において,本件より数日前にBほか1名と敢行した窃盗2件についても併せて処罰されているが,これらの事件については被告人が関与したとは述べていない。仮に,弁護人が述べるような意図で被告人に不利益な供述をするのであれば,本件と上記窃盗2件を区別する実益には乏しいのであるから,他の窃盗2件について被告人の関与を述べていないことは,弁護人が述べるような意図ではなかったことを裏付けるものである。以上からすると,Aが,責任転嫁ないし悪感情から被告人にあえて不利益な虚偽供述をしたとは考えられない。

また,弁護人は,Aの供述には,窃盗に至った経緯等について,捜査段階から不合理な変遷がみられると主張する。しかし,弁護人の指摘する点は,いずれも,事件後証言までに期間が経過したことで記憶が減退したと理解できるものか,又は,単に調書に記載されていないというだけで,矛盾とまでは評価できないものである。Aは,警察官から最初に話を聞かれたときに,すぐにすべては思い出せず,取調べを受けていくに当たって,だんだんと思い出していった部分があるとしており,その説明は,不合理とはいえない。

以上のとおりであって,A供述の信用性は高く,弁護人の指摘する点は,いずれもその信用性を否定ないし減殺するものではない。

4  Bの供述について

(1) Bは,当公判廷において,被告人の関与について,分からない,覚えてないなどと,不自然,曖昧な供述に終始しており,被告人とA,Bとの共謀について,積極方向にも,消極方向にも同供述を用いることはできない。そこで次に,被告人の関与を認めたBの検察官に対する供述の内容,証拠能力及び信用性について,上記公判供述その他の関係証拠に照らし,検討を加えることとする。

(2) Bは,検察官に対し,概ね以下のとおり供述している。

被告人は,周りの後輩に犯罪になるようなことをさせたり,指示に従わなければ暴力を振るうなど,正にグループのリーダー的存在だった。

事件の前日の夕方ころ,A及び被告人と話していた時,被告人から,被害店舗に強盗に押し入り,貴金属などを取ろうと提案された。被告人は,犯行の具体的方法として,バールでガラスケースをたたき割って貴金属を持ち出すことなどを指示していた。自分もAも強盗はやばいと思ったが,逆らうことはできず,話を合わせた。被告人は,どこかに電話し,商品の処分先を確保したなどと言っていた。その後,被告人の指示で,被告人及びAと一緒にHの家に服を取りに行った後,原付を取りにどこかに移動した。そして,被告人は,終わったら連絡するように言って,車に乗ってどこかに行ってしまった。被告人も一緒に行くと思っていたので驚いたが,Aと話をして,実行しないと被告人が納得しないと思い,Aと2人ですることにした。その日は,Aと被害店舗まで行ったが,実行できなかった。Aが被告人に盗みができなかったことを報告した。

5月21日の夕方ころ,Aから電話があり,被告人から被害店舗に行くよう言ってきていると聞いた。その後,被告人からも,直接指示された。それで,Aと2人で原付に乗って被害店舗に行き,盗みを行った。店から逃走した後,被告人に連絡した。Aが,被告人に盗んだ物を見せると,被告人は「とりあえず,持っとけ。」と言っていた。被告人は,盗んだ物が少なかったせいか,機嫌が悪そうだった。その後,被告人の指示で,盗みをしたときに使った服などを捨てることになった。被告人及びAらと,海の近くの広い駐車場があるところに行った。後で,被告人らが,服やバールを捨てたことを聞いた。ネックレスと指輪は,Aが警察に呼ばれている間,一時的にAから預かり,その後Aに返した。ブレスレットは,被告人の手に渡っていたようだった。

(3) 弁護人は,Bの検察官に対する供述は特信性に欠け,証拠能力がないと主張する。しかし,AやBの供述内容から推認されるBと被告人の関係に照らせば,Bも被告人を怖がっていたと認められ,そもそも被告人がいる公判廷では,供述しにくい心理状態にあったと認められる。弁護人は,Bの証人尋問の際に遮蔽措置が採られたことから,畏怖する可能性は除去された旨主張するが,Bの公判廷における供述内容及び態度をみても,とりわけ被告人の関与について供述を避けようとする傾向が顕著であるところ,これは,Bが,被告人が事件への関与を争っていることを認識した上での行動と理解することができ,結局,遮蔽措置によっては,弁護人の主張するような状態にはならなかったと見るほかない。

これに対し,検察官の取調べにおいては,公判廷に比し,少なくとも上記のような事情はなかったのである。その取調状況に問題があった様子はうかがえず,Bが,調書の内容を確認した上で署名押印したことも認められる(この点,Bは,当公判廷において,取調時は,否認するよりは認めた方が心証が良くなると考え,警察官から言われるとおりに答えた,検察官に対する調書は,警察官に対する調書と食い違うとややこしいことになるので,同じになるように作ってもらったなどと供述する。しかし,自分の罪を認める理由としてであれば別論,被告人の犯行への関与を認める理由,すなわち責任を一部他人に押しつける理由としては,納得し難いものであり,結局のところ,その供述を信用することはできない。)。

したがって,Bの検察官に対する前記供述には,公判供述よりも信用すべき特別の情況があり,証拠能力が認められる。

(4) そして,Bの検察官に対する供述の信用性について検討するに,同供述は,具体的で迫真性があり,特段不自然,不合理な点はなく,携帯電話の通話履歴や犯行道具の発見状況等の前記客観的事実とも整合している上,前記のとおり信用できるAの供述とも概ね符合し,相互に信用性を補強していることからすれば,Bの前記供述の信用性は高いというべきである。

5  関係者の供述について

f店の店長であるKは,被告人らが店舗において,事前に犯行を話し合っていたのを聞いていない旨,Aが,ネックレスを盗んだことをKに打ち明けた際に,被告人の名前を出していなかった旨述べている。しかし,K自身,被告人らがf店にいる間,常に一緒にいたわけではないことを認めており,その他の供述も,A,Bの前記供述と矛盾するものではなく,その信用性に影響しない。

6  被告人の供述について

被告人は,当公判廷において,5月20日にも21日にも,A又はBと窃盗の話はしていないなどと供述するが,信用性の高い前記A供述及びB供述と大きく食い違っている上,犯行前後のAやBとの連絡状況や,被告人が被害品の一部を預かった理由,その被害品が質店に持ち込まれた経緯等について,納得し難い説明をしており,到底信用できない。

7  判断

以上によれば,5月20日に,被告人,A及びBの間で,被害店舗に行き,バールでショーケースを壊し,貴金属を取ることを内容とする謀議が行われ,犯行道具を用意した上で,A及びBが,被害店舗に赴いたが,閉店していたことなどから,その日は実行されず,翌21日,被告人からAへの電話連絡等によって午後7時過ぎに3名が集合し,前日までの計画を実行に移すことを確認し,A及びBが被害店舗に赴き,本件犯行を行い,その後,被告人が,Aらから,盗品の一部を受け取ったものと認められる。

そうすると,被告人,A及びBの間で,遅くとも,5月21日夜,A及びBが被害店舗に赴くまでに,具体的には,3名が集合して計画を実行に移す確認をした時点で,本件犯行に関する共謀が成立したものと認めるのが相当であり,被告人の立場や果たした役割等に照らし,被告人には建造物侵入,窃盗の共謀共同正犯が成立する。

第2傷害(判示第2,第3)及び強盗(判示第4)について

1  争点

判示第2,第3の各傷害について,検察官は,A及びDが,伊予市<以下省略>のbショップ伊予店駐車場やF方南側路上,更に松山市<以下省略>の株式会社c松山事業所南側駐車場(以下「本件現場」という。)において,E及びGに対して暴行を加えていたところ,被告人は,それを認識・認容し,それに加担する意思の下,途中から犯行に加担してE及びGに暴行を加え,両名に傷害を負わせたもので,傷害罪の承継的共同正犯が成立する旨主張し,弁護人は,被告人自身が,E及びGに一定の暴行を加えたことは認めるものの,A及びDとの間に共謀はなく,被告人の暴行とE及びGの各傷害結果との間に因果関係はなく,被告人については傷害罪の承継的共同正犯は成立しない旨主張する。

また,判示第4の強盗について,検察官は,Eが前記傷害により畏怖しているところを,被告人及びAが,Eに対して金員を要求し,約4800円を強取したと主張し,弁護人は,被告人自身は,Eに金員を要求しておらず,Aが要求してEから金員を受け取ったことも知らなかったと主張する。

判示第2及び第3の各傷害は同時並行的に行われ,判示第4の強盗との間に時間的,場所的隔たりはなく,かつ,相互に関係があるので,当裁判所が,これらに関し,前記挙示の各証拠により認定した事実経過を示し,これを前提に,各犯罪の成否について,各当事者の主張を踏まえ,検討を加えることとする。

2  当裁判所が認定した本件に関する事実経過

(1) 本件を認定する上で重要な証拠は,被害者であるE及びG,共犯者であるA及びDの各公判供述であるところ,これら4名の供述は,一部食い違う部分はあるものの,その根幹において概ね一致しており,互いに信用性を補強し合っている。また,各人の供述内容に概ね不自然,不合理な点はなく,他の証拠とも特段矛盾がないことから,その信用性は高いというべきである。当裁判所は,これらの各供述を基に,以下の事実を認定した。

ア 本件の共犯者であるAと被告人との関係は,前記第1で認定したとおりであり,Dは,被告人の3歳下で,平成20年1月ころ,遊び仲間を通じて被告人と知り合い,親しく付き合うようになった。本件の被害者であるG及びEは,本件以前には被告人との直接の交流はなかった。

イ Gは,A,Dとは,以前からの知り合いであった。Aは,Gが,Aの知人女性から5万円を借り,約半年にわたって返さなかったことについて不満を持っており,5月20日ころ,松山市<以下省略>のゲームセンター「g」において,Gと会った際に,利息も含めて支払うよう要求し,Gに15万円支払うとの約束をさせた。また,被告人やAの遊び仲間であるLも,Gに貸したバッグが返却されないことや,GがLの妹と携帯電話機を交換する約束をし,同女から携帯電話機を受け取ったにもかかわらず,自分の携帯電話機は渡さなかったことについて不満を抱いていた。

ウ GとEは,5月21日深夜ないし22日未明,松山市<以下省略>のゲームセンター「h」に行き,被告人,A及びLらに会った。その場で,共通の知人であるMが,被告人やその仲間の悪口を言っているという話が出たことから,被告人は,Mの友人であるGに対し,Mを呼んでくるように指示した。Gは,Eの原付を借りてMを呼びに行ったが,そのまま帰って来ず,電話にも出なかった。被告人らは,Gが逃げたと受け止めた。

エ Gは,5月22日夕方,被告人らと会った際,被告人から,傘や素手で殴るなどの暴行を受けた上,「2万円を段取れ。」などと言われた。その場にはEもいた。その後,一緒に「g」に移動し,しばらくして,G及びEが帰ろうとしたところ,被告人は,Gに対し,「2万段取れ。次は飛ぶなよ。」などと伝えた。Aも,5月21日深夜や22日夜ころGと会った際に,Gに対し,15万円を支払うよう要求していた。その後,GとEは,被告人らに会わないよう,外出を控えていた。

オ Aは,Gが15万円払うと言っていたのに連絡が取れなくなっていること,Lは,前記事情から,Dは,Gが逃げるなと言われていたにもかかわらず逃げたことから,それぞれGに対して腹を立てており,Gの居場所を捜していた。

一方,被告人も,Gが自分の指示に従わず,連絡して来なかったことに腹を立て,Gを捜していた。

カ 被告人は,5月25日夕方,A,D及びLを呼び出し,「i」付近で集合した。その場には,他にNら被告人の遊び仲間も何名か集まっていた。その後,全員で松山市<以下省略>のjに移動し,被告人は,しばらくすると,女性も含む何名かでカラオケに行くと告げ,Aらと別れた。

キ A,D及びLは,Gを捜し出して殴ろうという相談をしており,被告人と別れた5月25日深夜ころ,Lの妹やその友人女性を使ってGをbショップ伊予店に誘い出した。Gと行動を共にしていたEは,女性からの連絡を怪しいと感じ,誘いに乗ることに反対したが,Gは聞き入れず,結局,EとGは一緒にbショップ伊予店に向かった。

ク 5月26日午前3時ころ,E及びGがbショップ伊予店に到着したところ,AとDが建物の陰から飛び出し,Dが,逃げようとするEを捕まえ,隣の駐車場まで連れて行き,Eに対し,複数回にわたり,手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打するなどの暴行を加えた。Aも,Eに対し,複数回にわたり,手拳やのぼり旗で殴打し,蹴るなどした。その後,A,D及びLは,車のトランクにEを押し込み,その際,Aは,Eの背中をドライバーで数回突いた。

ケ その後,Dは,F方軒下に隠れていたGを発見し,路上で,Gの髪をつかんで下に引っ張るなどの暴行を加え,Aも,Gに対し,複数回にわたり,殴ったり蹴ったり,背中をドライバーで突いたり,右手の親指辺りを石で殴打したりした。

コ A,D及びLは,その場で暴行を続けると人目につくことから,Gも車に乗せ,仲間内で,「○○」と呼んでいる本件現場に向けて車を進行させた。

サ Dは,被告人もGを捜していると思っており,被告人に連絡しなければ後で怒られるなどと考え,車で移動中の同日午前3時50分ころ,被告人に電話をかけ,Gを見付けたこと,これから○○に行くことを伝えた。

シ A及びDは,本件現場に到着後,G及びEを車から降ろした。Aは,Eに対し,殴ったり蹴ったり,ドライバーの柄の部分で頭を殴ったり,金属製のはしごや角材を上半身に向かって投げつけたりし,Gに対し,殴ったり蹴ったりした後,Gの髪をつかんで,Eのところに連れて行き,G及びEに対し,はしごを投げつけたり,数回殴るなどした。

Dも,Eに対し,跳び蹴りをし,全身を蹴ったり,金属製のはしごを投げつけるなどの暴行を加えた。

E及びGは,A及びDの前記各暴行により,被告人到着前において既に負傷し,血を流すなどしていた。

ス 被告人は,同日午前4時過ぎころ,本件現場に到着し,Aに対し,「どこにおるんぞ。」と聞いた。被告人は,その後,Eを見つけると,怒った様子で,「殺すぞ。何で逃げたんぞ。」などと言いながら,Aと共にEに近付いていった。

セ 被告人は,Eに対し,はしごを何回も投げつけ,頭や腹を蹴り,角材で背中や腹,足などを殴打した。その後,Aと共にGに近付きつつ,怒った様子で「絶対殺す。」などと申し向けた。被告人は,Gに対し,はしご,角材,素手で,頭,肩,背中などを多数回殴打した。さらに,被告人は,Aに命じてGの足を押さえさせ,その足を目がけてはしごを何度か振り下ろし,そのうち何回かは足に当たった。その後,被告人はEのところに戻ってきて,Eに対し「足出せ,折っちゃるけん。」と言いながら,Dが押さえている足を目がけてはしごを振り下ろしたが,Eが避けたため,足には当たらなかった。

Eに対しては,被告人がGのところに行っている間に,Dが,はしごでたたいたり,蹴るなどの暴行を加え,被告人がEから離れた後,A及びDが,Eを蹴るなどした。また,Gに対しても,被告人の暴行後に,Aが,角材でGの肩をたたくなどした。

ソ 被告人らによるE及びGに対する暴行は,同日午前5時ころまでの間続いた。E及びGは,被告人に殺されてしまうとの恐怖を感じた。

タ 暴行終了後,被告人は,Gに対し,「2万円を今日中に段取れ。」などと言った。Gは,知人に電話をして金を借りようとしたが,Gが借りるはずだった相手からEが先に金を借りていたので,金を借りられなかった。Gが被告人にそのことを伝えると,被告人は,Eに対し,「おれがもらう金やったんやが。」,「お前も一緒に段取れ。」などと言った。Eは,断ったら再び殴られると思って怖くなった。

チ Aは,Eに対し,「今持っとる金,どのくらいあるんぞ。」と聞きつつEのポケットを触った。Eは,隠しきれないと思い,現金約4800円の入っている財布をAに差し出した。

ツ Aは,その財布を被告人に渡そうとしたが,その際,小銭があることを被告人に伝えると,被告人から両替を要求された。そこで,Aは,自分の持っていた5000円札を被告人に渡し,財布の中に入っていた約4800円を自らのものとした。Aは,E及びGに対し,被告人があと1万5000円を用意するように言っていると伝え,被告人も,自ら1万5000円を要求した。

テ Eは,受傷後約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過等と診断され,Gは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創と診断された。

(2) 関係者間の供述が一部食い違う点について付言する。

上記(1)セについて,Dは,本件現場で被告人がはしごでEの足を折ろうとしていた時に,足を押さえたことはないと供述する。この点は,足を押さえていたとするEの供述と矛盾しており,Dが,自己に不利益な内容なので,供述を後退させているとみるべきであり,Eの供述どおり認定した。

上記(1)タについて,Dは,被告人が,暴行後にGに対して金員の要求をしたのを聞いていないと供述する。この点は,D自身の捜査段階の供述から変遷しており,その変遷について合理的説明がされていないことや,Dが被告人を恐れていることに照らすと,同供述は信用できず,E,G及びAの供述により,上記のとおり認定した。

上記(1)チについて,Aは,Eのポケットを触ったことを否定している。この点は,Aにポケットを触られたとするEの供述と矛盾していること,Eがその部分だけ虚偽の供述をするとは考えにくい一方,Aにとっては,その内容は,自らの責任を重くする事情であることに鑑み,Eの供述どおり認定した。

(3) 上記事実認定に係る弁護人の主張について検討する。

ア E及びGの各公判供述の信用性について

弁護人は,E及びGの各公判供述について,自分に不利な部分は覚えていないと述べているにもかかわらず,被告人から受けた暴行は克明に覚えており,不自然であると主張する。しかし,複数の者に暴行を受け,車のトランクに押し込められた上,人気のないところに連れて行かれて更に暴行を受けるという非日常的な事柄を体験した場合,その直後は,衝撃,狼狽等による記憶の混乱があることは格別,その状況に関して,両名が当公判廷において供述する程度の具体的な記憶をとどめていたとしても何ら不自然ではない。弁護人の指摘する,衝撃,狼狽等により誤った認識を持つ危険性や,被害感情により体験を誇張して述べる危険性は確かに存するが,両名の記憶が相互に又はA若しくはDの供述と符合している限度ではその危険性は小さいといえる。また,弁護人は,E及びGの公判供述が,捜査段階の供述と比較して不合理に変遷していると主張するが,弁護人の指摘する点は,いずれも,両名の各供述の根幹部分,すなわち,暴行の態様や,被告人のG及びEに対する金員の要求の存在についての信用性には関わらないものであるか,供述調書に記載がないというにとどまるものである。E及びGが受けた前記暴行の態様に照らせば,殺されるかも知れないと思ったとの両名の供述は,極めて自然であって,強度の恐怖ないし衝撃から,事件直後に記憶の混乱があったとしても不自然ではなく,事件直後は,冷静に話せる状態ではなかったとの両名の説明には合理性があり,捜査段階初期の取調べでは供述せず,捜査官による取調べを受ける中で,次第に記憶が喚起されていったとしても,不自然ではない。したがって,弁護人の上記各主張はいずれも採用することができず,その他,弁護人がE及びGの公判供述の信用性に関してるる主張するところを検討しても,その信用性は左右されない。

イ Aの公判供述の信用性について

弁護人は,Aの公判供述について,被告人に対する悪感情や報復として,被告人に責任を転嫁するおそれがあると主張するが,この点は,判示第1に係る判断で検討したとおり,Aが,被告人に責任転嫁する目的で被告人に不利益な虚偽供述をするとは考え難い。弁護人が指摘する,被告人がGを捜していたか否かなどについて曖昧な供述をしていることや,5月25日に集まった理由がGを捜すためであったか否かについて,Aの供述が変遷していることは,むしろ,Aが,曖昧な記憶に基づいて被告人に不利益な内容を話すのをためらったものと理解すべきであって,その供述態度が真摯であることを示しているといえる。

弁護人は,Aが,D及びLと本件現場に向かうまでに,被告人に誰が連絡するかということが話題になったということを公判廷で初めて話したことが不自然だと主張するが,被告人に連絡をしたことのきっかけに関する話をしていなかったというだけであり,それをあえて隠していたとも考えられない。

また,弁護人は,Aが,執拗にGに金員を要求していたにもかかわらず,本件現場では,先に払わなければいけない金員があるのであればそれを払うように言った旨不自然な供述をしていると主張するが,前記認定の被告人とAの関係に照らせば,Aが,被告人がGに金員を要求していると知った際に,被告人への支払を優先するように仕向けることは,むしろ自然なことである。

さらに,弁護人は,Aが,Eから受け取った財布をDの車に載せたままにしていて,Dが現場を離れている時に,Dに連絡して現場まで持ってこさせたと供述しているにもかかわらず,その述べる時間帯にAからDへの発信記録は残っていないと主張する。この点,Dは,財布をAに渡したことは記憶にないが,少なくともAから連絡があって時計を渡すなどしたことは認めているところ,発信記録によると,DからAに午前5時16分ころ電話をかけて通話をしており,DからAに電話をかけた中でやりとりをしたか,あるいはAが連絡したがつながらず,折り返しDから電話した際にやりとりがあったとみることができる。弁護人の指摘する点は,必ずしも客観的証拠と矛盾するとはいえない。

したがって,弁護人の上記各主張はいずれも採用できない。

ウ Dの公判供述の信用性について

弁護人は,Dの公判供述について,共犯者は,責任を他人に転嫁したり,他人を巻き込む危険があるから,共犯者供述の信用性は慎重に判断しなければならないと主張する。しかし,Dその他関係者の供述等を総合すると,Dもまた,リーダー的立場である被告人のことを恐れていたと認められ,弁護人が述べるような動機で,被告人にあえて不利益な供述をするとは考え難い。むしろ,Dは,前記のとおり,公判廷において,被告人がGに対して金員の要求をしたか否かについて,捜査段階の供述を変遷させ,「聞いていない。」などと被告人に有利ともとれる供述をしていることを勘案すれば,少なくとも被告人に不利益な内容を述べる点の信用性は高いというべきである。

弁護人は,本件現場を離れた後でAから連絡があったとするD供述が,客観的証拠と矛盾する旨主張するが,前記イで検討のとおり,必ずしも矛盾するとはいえない。

(4) 次に,被告人の公判供述の信用性について検討する。

ア 被告人の公判供述(要旨)

5月26日,カラオケ店にいる際に,Dから電話を受け,「Gと一緒に本件現場にいる,Mの件は終わっているのか。」などと言われた。

Mの件は終わっていたが,GがMに無理矢理連れられていないか心配だったので,本件現場に行った。EやGに暴行を加えたのは,2人の態度に腹が立ったからである。EやGに対して金員を要求したことはない。AかDが5000円札を渡してきたが,それはGが女の子に返すと言っているのを少し預かってほしいということであった。

イ 検討

被告人の前記供述は,前記のとおり信用できるE,G,A及びDの各供述のいずれとも大きく食い違っている。加えて,被告人の供述は,被告人が,EやGとろくに話すことなくいきなり暴行を加えていることと整合しないこと,被告人が5000円を受け取る理由がいかにも不自然であること,捜査段階において,Gが連絡して来なかったことに腹を立てており,自分もGを捜していたことや,EやGに暴力を振るった後,Gに対して現金2万円を要求したことを供述しながら,公判廷で合理的理由なくこれを翻していることなどに照らせば,被告人の公判供述は到底信用できない。

3  傷害罪の成否

(1) 承継的共同正犯について

前記認定のとおり,被告人が本件現場に到着してからは,A及びDとともに,E及びGに対して暴行を加えているところ,被告人が,加担後の行為についてA及びDとの共同責任を負うことは明らかである。しかるに,E及びGの傷害の大半は,被告人が本件現場に到着する前のA及びDの加えた暴行によるものか,あるいは被告人が加わった後の暴行によるものかが,証拠上必ずしも明らかではなく,傷害罪の成立を考える上で,いわゆる承継的共同正犯の成否が問題となる。

当裁判所は,承継的共同正犯は,後行者において,先行者の行為及びこれによって生じた結果を認識・認容するにとどまらず,これを自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,実体法上の一罪(狭義の単純一罪に限らない。)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような手段として利用した場合に限られると解するのを相当とし(大阪高判昭和62年7月10日高刑集40巻3号720頁同旨),このような観点から,本件事案に即して検討を加える。

(2) 検討

ア A及びDの先行行為との関係について

前記認定のとおり,A及びDによるE及びGに対する暴行は,伊予市<以下省略>のbショップ伊予店付近(対E)ないしF方付近路上(対G)及び本件現場(対E,G)において行われているところ,最初の各現場と本件現場との間の距離は,それほど遠くなく,その間車で移動しているので,比較的短時間で本件現場に到着したものと認められる上,移動の間,E及びGは,Aらに事実上拘束された状態にあったのである。Aらが場所を移動した理由は,人目につかない場所に連れて行き,更なる暴行を加えるためであり,最初の各現場での暴行も,逃走を防ぎ,抵抗を封じることが主眼であったと認められるところ,これら一連の暴行は,単一の犯意に基づく強い一体性を有するものとして,一罪の関係にあると認められる。

イ Dから被告人への電話連絡について

A及びDは,それぞれの理由からGに腹を立て,暴行を振るおうとしてGを捜していたのであるが,被告人がGに対し腹を立てているのを知っており,グループのリーダー格である被告人に連絡しないといけないと思い,本件現場に行く前に,Dが被告人に連絡して被告人を呼んだものと認められる。そして,Aらは,被告人に連絡した時点で,被告人が,本件現場に赴き,G及び一緒に逃げていたEに対して暴力を振るうであろうことを予測し,自分達もこれに協力しようと考えていたと認められる。

そして,被告人は,Dから連絡を受けた時点で,Gの身柄を確保していると知ったのであるが,Gが,被告人らとの接触を避けていたことから,AらがGを本件現場に連行するまでの間に,その逃走や抵抗を封じるためにある程度の暴行を加えるということは,十分予想し得たものと認められる。

ウ 本件現場到着後の行動について

A及びDは,被告人の到着前に,E及びGに対し,相当程度の暴行を加えており,両名とも怪我を負い,血を流している状態であった。したがって,いかに現場が暗かったとしても,被告人が,EやGに接近した時点では,同人らが負傷していることはすぐに分かる状況にあったといえる。しかるに,被告人が,E及びGの様子を見るや,直ちに暴行を加えていることからすれば,被告人は,自分が到着する前に,AらがGに一定程度の暴力を振るっていることを予測し,自らもこれに加わる意思で本件現場に赴き,到着後,E及びGの様子を見て,E及びGが一緒にAらに捕まり,Aらによって暴行を受けていたことを認識の上,自らもE及びGへの暴行に加わったとみるのが自然である。

エ 被告人の暴行の程度について

被告人が,本件現場において,Aらの協力を得ながらEやGに対して加えた暴行は,前記のとおり,Eに対しては,はしごを何回も投げつけ,頭や腹を蹴り,角材で背中や腹,足などを殴打し,共犯者に押さえつけさせた足目がけてはしごを振り下ろすというもので,Gに対しても,はしご,角材,素手で頭,肩,背中などを多数回殴打し,共犯者に押さえつけさせた足目がけてはしごを振り下ろすというもので,時間的にも午前4時過ぎころから午前5時ころまでと長く,執拗で激しいものであり,Eも,Gも,被告人の行為に死の恐怖まで感じている。被告人加担後は,被告人が終始積極的にE及びGに対して暴行を加えており,EやGの傷害もこれによって相当程度重篤化したものと認められる。

オ 結論

以上のとおり,A及びDによる先行行為としての暴行と,被告人加担後の暴行とは,一体性が強いこと,A及びDとしても,本件現場において本格的な暴行を振るうことを予定し,本件現場に向かう途中,Dから被告人にGを捕まえたことを連絡したこと,その時点で,Aらは,被告人が本件現場到着後にGらに暴行を加えることを予測して被告人に協力しようと,被告人も,Aらが,Gに対して暴行を加えていることを予測してこれに加担しようと考えていたこと,被告人が本件現場に到着し,E及びGの様子を見て,両名が負傷していることを認識した上で,A及びDと共謀の上,両名に対し暴行を加えたこと,被告人は,加担後は,終始積極的に激しい暴行を加えており,これにより,両名の傷害は相当程度重篤化したことなどからすれば,被告人は,A及びDが,自らが本件現場に到着するまでの間に,E及びGを捕まえて暴行を加え,その暴行の結果両名が負傷していることを認識,認容の上,E及びGがこれらの暴行等により抵抗できなくなった状態を,制裁目的での暴行という,自己の犯罪遂行に積極的に利用する意思の下に,A及びDの暴行に途中から共謀加担したものと認められる。

したがって,被告人は,被告人が加担する以前の,AやDによる傷害も含めた全体について,承継的共同正犯としてその責任を負うというべきである。

なお,前記昭和62年大阪高裁判決は,傷害事犯について,当裁判所と同じ一般論に立ちつつ,結論として承継的共同正犯の成立を否定している。しかし,同判決の事案は,後行者が加えた暴行が,被害者の顎を二,三回突き上げる程度で,被害者の傷害結果の大部分が後行者の加担前に生じており,その暴行に至る経過をみても,先行者の行為を積極的に利用しようとする意図までは見出し得ない事案であって,同列に扱うことはできないというべきである。

4  強盗罪の成否

前記2(1)タないしツで認定したとおり,被告人がEに金員を要求した後,Aが被告人にEの財布を渡していること,その際,被告人は,Aに対し,金員の趣旨を確かめることなく小銭の両替を要求していること,被告人が当初2万円をGやEに対して要求していたのが,5000円札を受け取った後は,被告人の要求額が1万5000円に減っていることなどからすれば,被告人は,Aから受け取った金員が,AがEから取り上げた財布に入っていた金員に対応するもので,自分達の要求に対してEから交付されたものであるということをよく理解していたものと認められる(この点,Nは,当公判廷において,被告人は,5000円札を受け取った後,不思議そうにしており,受け取った理由が分からない様子であったと供述するが,仮にそうであったとしても,被告人が,Nらの手前,単にとぼけた態度を取ったということも十分考えられ,上記認定を左右する事情にはならない。)。

Eは,上記のとおり,被告人らから,長時間にわたり激しい暴行を受け,被告人らに恐怖を感じており,被告人らの金員要求行為は,畏怖状態を利用して行われた脅迫行為と認められる。そして,被告人及びAは,自分達がEに金員を要求した時点で,Eが反抗抑圧状態にあることを十分理解した上で,要求行為を行っていたと認められ,被告人及びAは,Eから金員を強取することに関して,黙示の共謀を遂げた上で,Eに金員を要求し,その財布に在中していた約4800円を強取したと認められる。

以上のとおり,被告人及びAの間で,本件強盗に関する共謀の成立が認められ,被告人には,強盗罪の共同正犯が成立する。

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為のうち建造物侵入の点は刑法60条,130条に,窃盗の点は刑法60条,235条に,判示第2,第3の各所為はいずれも刑法60条,204条に,判示第4の所為は刑法60条,236条1項にそれぞれ該当するところ,判示第1の建造物侵入と窃盗との間には手段結果の関係があるので,刑法54条1項(牽連犯),10条により1罪として重い窃盗罪の刑で処断することとし,判示第1ないし第3の罪について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中100日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の理由)

1  本件は,被告人が,①共犯者らと共謀の上,共犯者らにおいて,被害店舗に侵入し,貴金属を窃取した建造物侵入,窃盗(判示第1),②自らが現場に到着するまでの間に,共犯者らが知人2名に対して暴行を加え,その暴行の結果,各人が負傷していることを認識の上,これを自己の暴行遂行の手段として積極的に利用する意思の下,その暴行に途中から共謀加担して暴行を加え,前記一連の暴行により各人を負傷させた傷害(判示第2,第3),③前記暴行により負傷した1人に対し,同人が畏怖しているのに乗じ,共犯者と共謀の上,金員を要求して脅迫し,現金約4800円を奪った強盗(判示第4)の各事案である。

2  ①の建造物侵入,窃盗については,換金等により金員を得る目的でなされたもので,動機に酌むべき事情はなく,その態様は,バール等の犯行用具を用意した上で,営業時間中に無施錠の出入口から侵入し,バールを用いてショーケースをたたき割って貴金属を盗み出すという大胆かつ手荒いものである。被害品こそ少ないものの,時価合計16万5000円の貴金属類2点を盗んでいて,被害結果は決して小さくない。

被告人は,共犯者らに犯行を指示し,犯行用具を用意するなど,終始積極的,主導的な役割を果たしている。

3  ②の傷害については,被害者両名に加えた暴行は,いずれも長時間に及ぶ危険かつ執拗なものであって,被害者両名は,それぞれ約3週間及び約6週間の加療を要する重傷を負っている。暴行の際は死の恐怖まで感じるなど,精神的苦痛も非常に大きく,結果は重大である。

被告人は,被害者らが自分との約束を破って接触を絶ったなど,些細なことに立腹して暴行を加えたもので,その動機は身勝手というほかない。被告人は,途中から犯行に加わったとはいえ,加担後の暴行は終始積極的,主導的であり,他の共犯者らの各暴行に比しても非常に苛烈であって,従属的犯行とみることはできない。被害者らが,被告人に対する厳重な処罰を求めているのも至極当然である。

4  ③の強盗については,一連の強度の暴行により畏怖している状態を利用して,理不尽な要求をし,金員を強取し,その利益を自らの下に収めるなど,悪質な犯行である。

5  被告人は,各犯行について,暴行の一部を認めるほかは,自らの犯行への関与を否認して,不合理な弁解に終始しており,その反省の態度は不十分である。被告人は,前刑(懲役10月,執行猶予3年付保護観察)の執行猶予期間中に本件各犯行に及んでおり,その規範意識は鈍麻しているといわざるを得ない。

6  以上によれば,被告人の刑事責任は重く,①の窃盗の被害品は被害者に還付され,又は還付される見込みであること,②の傷害につき,被告人が,自らの暴行の一部を認め,反省の弁を述べ,各被害者に対し,被害弁償の準備をしていること,③の強盗の被害額が少額であることのほか,被告人の婚約者が今後の監督を誓っていること,前刑の執行猶予が取り消されて受刑中であり,本件が確定すれば,引き続きその刑の執行を受けると予想されること,他の共犯者との刑の均衡など,被告人にとって酌むべき事情を最大限考慮しても,被告人については主文の刑に処するのが相当である。

(求刑・懲役7年)

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