松山地方裁判所 平成24年(行ウ)1号 判決 2013年9月25日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第3当裁判所の判断
1 前記前提となる事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、納骨堂を開設することを企図し、本件許可申請までに、原告の寺院の境内地内に本件施設を築造した(原告代表者)。本件施設は、コンクリートによって築造された前部が階段状となっている構築物であり、その内部には6段の棚が、後部にはアルミ製の引き戸が設けられている。棚上には骨壼を並べて焼骨を安置することができ、階段部分の上には、家名を彫った墓石のようなものが並べられている(乙1、7ないし9)。
(2) 原告は、本件許可申請までに、本件施設の利用者の募集を開始した。その際に原告が作成した広告には、「第一期募集中」、「第一期募集価格 永代供養料25万円」、「一霊ごとに納骨料5万円」との記載があり、「宗旨宗派を越えてどなたでも安心してご利用頂ける永代供養墓です。」などの記載があるが、受入可能数の記載はない(乙1・48、49頁)。また、原告は、インターネットを通じての募集も開始し、そのインターネット上の広告には、「全国から送れる『永代供養堂』」、「送骨パック利用 納骨供養5.5万円」との記載とともに、「X寺では宗派に問わず、全国各地、永代供養を5.5万円から受付いたします。」との記載及び永代供養の特徴として、「もし無縁になられても50年間、X寺が責任持って永代にわたって供養と管理をいたします。50年間お預かりした後は合祀いたします。」、「ゆうパックを使った簡単手順で、納骨供養を5.5万円という他には見られない安心の低価格で行います。維持管理費用もかかりません。1年を通して清掃もX寺が行います。」との記載があるが、受入可能数の記載はない(乙5)。
(3) 原告は、本件許可申請までに、少なくとも約400件の利用申込みを受け、約100体の焼骨を郵送により受け取った(乙17、原告代表者)。
(4) 原告は、平成23年4月28日、被告に対し、本件許可申請をしたが、被告は、同年12月1日、本件不許可処分をした(甲2、乙1)。
2 法10条1項は、墓地等を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない旨規定するのみで、その許可の要件について特に規定していない。これは、墓地等の経営が、高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等に依存する面を有し、一律的な基準による規制になじみ難いことに鑑み、墓地等の経営に関する許否の判断を所轄行政庁の広範な裁量に委ねる趣旨に出たものであり、法は、墓地等の経営管理が国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする法の趣旨に従い、行政庁が、公益的見地から、墓地等の経営の許可に関する許否の判断を行うことを予定しているものと解される(最高裁平成10年(行ツ)第10号同12年3月17日第二小法廷判決・裁判集民事197号661頁参照)。そうすると、行政庁による法10条1項の許可あるいは不許可処分の判断が、法が行政庁に裁量権を付与した趣旨に照らし合理的裁量の範囲内にとどまるものである限り、当該処分は違法となるものではないと解すべきである。
以上を前提として、本件不許可処分の各理由の適否について以下検討する。
3 争点1(本件処分理由(1)について)
(1) 被告は、死者の血族あるいは姻族から依頼を受けて当該死者の焼骨を埋蔵等する場合には、法2条6項にいう「納骨堂」には該当せず、同条4項にいう「墳墓」に該当するものと主張する。しかしながら、法2条6項は、「納骨堂」を「他人の委託を受けて焼骨を収蔵するために、納骨堂として都道府県知事の許可を受けた施設」と規定しているところ、ここにいう「他人」とは、焼骨を安置し管理する者との関係において判断されるものと解すべきである。そうすると、本件施設は、原告及び原告代表者との関係において、「他人」から委託を受け、焼骨を収蔵するために設置されたものであるから、法2条6項にいう「他人の委託を受けて焼骨を収蔵」する施設に該当するものというべきである。被告は、当該「他人」を死者との関係において判断すべきとするが、独自の見解であり採用できない。
(2) 次に、被告は、納骨堂というためには堂宇を備えた建物でなければならず、本件施設はそのような構造のものではないから、墳墓に当たるものであると主張する。しかしながら、被告の主張する点を考慮しても、法が、納骨堂を堂宇を備えた建物に限定していると解することはできない。また、被告の引用する東京都の墓地等の構造設備及び管理の基準等に関する条例の規定は、納骨堂の構造設備を規定するに当たり、納骨堂が壁、柱、床や出入口等を有するものであることを前提としているような規定となっているが、当該規定は、公衆衛生及び国民の宗教感情などの観点から、焼骨が適切に管理されるために、納骨堂の構造は堅固で防火・衛生管理等に優れたものでなければならないことを定めた趣旨のものと解することができ、一般に、納骨堂が堂宇を備えた建物でなければならないとする趣旨のものではないというべきである。そして、堂宇を備えた建物でなくても、その形態に応じた堅ろう性を有する施設であれば、これを納骨堂として利用することが法の趣旨目的に反するということはできないのであるから、納骨堂を堂宇を備えた建物に限定し、これに当たらないものは墳墓であるとする被告の解釈、主張は採用の限りでない。
(3) したがって、本件施設が法2条4項にいう「墳墓」に当たるとの理由で本件不許可処分をすることは、著しく不合理なものというべきである。
4 争点2(処分理由(2)について)
(1) 前記1(2)のとおり、原告は、「ゆうパックを使った簡単手順で、納骨供養を5.5万円という他には見られない安心の低価格で行います」と謳い、殊更に安価な価格で、かつ簡便な手続であることを強調して、インターネットを通じ、全国から本件施設の利用者を募るなどしていることが認められる。
(2) この点、原告代表者は、少子化、核家族化に伴い、継承者のない遺骨が増加する可能性のあることや、墓地の高額化などの問題に対処するため、他の寺院の納骨堂経営を参考として、本件施設の経営を企図するようになったと述べる(甲6)。このような社会的な需要が存在すること自体は否定し難いものであって、比較的簡素な焼骨の収蔵施設の利用権を安価に提供する行為が、直ちに公共の福祉に反するものとはいえない。しかし、①本件不許可処分の当時、インターネットを通じて全国から利用者を募集し、郵送により焼骨を受け取るという方法による納骨堂の運営形態が広く一般的に利用されていたとは言い難い状況下にあったことに加えて、②宗旨・宗派を問わないとする点や、③殊更に安価な価格であることや、遺骨を持参して住職と面談することなく郵送により受け入れるなどと簡便であることを強調していることなどを総合的に勘案すると、前記(1)のような利用者の募集方法が、商業主義的との印象を与えるものであることは否定し難い。また、原告は、利用者を募集する際に、その受入可能数を明示しておらず、原告が、当該地域はもとより原告とすら何ら縁のない遺骨を無制限に募っているとみられかねない事情もあった。
そうすると、被告地域における風俗習慣等に照らし、前記のような本件施設の運営方法が、地域住民の宗教感情に適合しないものであるとした被告の判断が、合理性を欠くということはできない。
また、原告が本件許可申請に先立って本件施設を完成させ、無許可の状態で利用者の募集を開始し、焼骨を受託していたことも、地域の宗教感情等への配慮が求められる納骨堂の経営者において必要とされる、納骨堂の運営管理の健全性に疑念を生じさせる一つの事情となるといわざるを得ない。そうすると、被告がこの点をも問題視して、原告による本件施設の経営が、国民の宗教感情等に悖ると判断したことも、一概に不合理なものということはできない。
(3) したがって、本件施設の経営実態が、国民の宗教感情に反するとしてされた本件不許可処分が、被告に与えられた合理的裁量の範囲を逸脱したものということはできない。
5 争点3(本件処分理由(3)について)
被告は、地域住民及び地元の排水に関する関係者の同意書の提出がないことを本件不許可処分の理由として主張する。しかしながら、法は、地域住民の同意や排水に関する関係者の同意を許可処分の要件とはしていない。また、地域住民の同意や排水に関する関係者の同意があることは、地域住民の宗教感情との適合性や公衆衛生上の支障の有無を判断する上で重要な一資料となることは否定されるものではないが、これらの者の同意がないからといって、直ちに、本件施設の設置が国民の宗教感情に反するとか、公衆衛生の見地から支障があると判断されることになるものではないから、地域住民の同意や排水に関する関係者の同意がないことをもって、納骨堂経営を不許可とすることは著しく合理性を欠くものといわざるを得ない。したがって、地域住民の同意や排水に関する関係者の同意がないことを、本件不許可処分の理由とすることは許されないものというべきである。
6 以上によれば、本件処分理由(1)ないし(3)のうち、同(1)及び(3)により本件不許可処分とすることは許されないが、同(2)により本件不許可処分をすることについては、被告に与えられた合理的な裁量の範囲を逸脱するものということはできないから、本件不許可処分は適法である。
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森實将人 裁判官 岡本陽平 村井美樹子)