松山地方裁判所 平成25年(わ)165号 判決 2014年1月22日
主文
被告人を懲役5年6月に処する。
未決勾留日数中180日をその刑に算入する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は
第1A(当時9歳)が13歳未満であることを知りながら,平成24年8月25日午後3時13分頃,松山市(以下略)路上において,同女の上半身の着衣をまくり上げさせてその胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
第2B(当時11歳)が13歳未満であることを知りながら,同年10月14日午後2時49分頃,同市(以下略)公園において,同女に対し,仰向けに寝かせた上,同女の唇にキスするなどし,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をした。
第3C(当時11歳)が13歳未満であることを知りながら,同日午後3時48分頃から同日午後3時50分頃までの間,同市(以下略)神社境内において,同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させ,同女の着用するパンツをずり下ろして陰部を露出させた上,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
第4D(当時10歳)が13歳未満であることを知りながら,同年12月24日午後3時30分頃,同市(以下略)畑において,同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
第5E(当時11歳)が13歳未満であることを知りながら,平成25年2月3日午後2時40分頃,相模原市(以下略)駐車場において,仰向けに寝かせた同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させた上,同女の両腕を中央に寄せて胸部の膨らみを強調した姿態をとらせ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
第6F(当時10歳)が13歳未満であることを知りながら,同月28日午後5時47分頃,松山市(以下略)路上において,同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
第7G(当時10歳)が13歳未満であることを知りながら,同年3月9日午後4時52分頃,同市(以下略)空き地において,同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって13歳未満の女子に対しわいせつな行為をするとともに,児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
第8
1 H(当時13歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,同月15日午後6時14分頃,同市(以下略)倉庫南側敷地内において,甘言を用いて仰向けに寝かせた同女の上に馬乗りになって同女の上半身の着衣をまくり上げる暴行を加え,その胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,さらに,同女の背後から抱きつく暴行を加え,着衣の上から胸や陰部を触るなどし,もって強いてわいせつな行為をし,引き続き,同市(以下略)公園北側通路において,同女から逃れるため,同女に対し,その首を手で押さえ付け,右顔面を拳で殴るなどの暴行を加え,その際,前記暴行により,同女に加療約4日間を要する右眼窩打撲・腫脹,頭部打撲,頚部打撲の傷害を負わせた。
2 同日午後6時14分頃,前記倉庫南側敷地内において,同女が18歳未満の児童であることを知りながら,前記1のとおり,甘言を用いて仰向けに寝かせた同女の上に馬乗りになって同女の上半身の着衣をまくり上げて胸部を露出させ,その状況をデジタルカメラで撮影して同デジタルカメラに挿入されたSDカードに記録し,もって児童に衣服の一部を着けず性欲を興奮させ,かつ,刺激する姿態をとらせ,これを電磁的記録に係る記録媒体に描写することにより,児童ポルノを製造した。
【証拠の標目】(略)
【事実認定の補足説明】
1 被害者Hに対する強制わいせつ致傷事件(判示第8の1)については,犯行態様に一部争いがあるので,以下,検討する。
前提として,被告人がHの写真を撮影した後,Hが被告人を兄に突き出そうと考え,被告人の腕をつかんで引っ張っていこうとした際,被告人がHの後ろに回り込んで抱きつき,Hの胸及び陰部を触ったこと,いったん被告人とHの体が離れた後,再び被告人を捕まえようとしたHに対し被告人が手で首を押さえ付け,また,顔面を拳で殴ったこと,被告人がHを転倒させた後,その場から逃走したことは,おおむね当事者間に争いがなく,証拠上も優に認められる。
2 そこで,以上の事実を前提に,まず,被告人が逃走する前に,転倒したHに対し,殴る蹴るの暴行を加えたかについて検討する。
被告人は,Hが転倒した後の暴行の事実を否定するのに対し,Hは,被告人に目の辺りを拳で殴られて倒れた後,更に被告人から目の辺りを殴ったり蹴ったりされたと供述し,また,蹴る態様についてはボールを思いっきり蹴るような感じであったと供述する。
しかしながら,Hの右目付近の傷は,比較的軽微なものであって,Hの上記供述内容との整合性については少なからず疑問が残る。わざわざしゃがんでまでHの顔面を殴るという,Hが供述する暴行態様は,それ自体不自然さが拭えず,倒れた後のHに更に暴行を加えることは,その場から逃げようとしていた被告人の行動として合理的なものともいい難い。他方,Hの足の付け根を蹴って倒した後は直ちに逃走し,暴行を加えていないという被告人の供述は,事実の流れとして自然である上,Hの負った傷の状況とも矛盾しない。
そうすると,この点についての被告人の供述を虚偽として排斥することはできず,Hが倒れた後も更に暴行を加えたとの事実は認められない。
3 次に,被告人がHの着衣の中に手を差し入れて胸及び陰部を触ったかについて検討する。
Hは,被告人に服の中に手を入れられて胸と陰部を触られたと供述する一方,被告人は,胸や陰部を触ったのは服の上からであると供述する。
確かに,Hがあえて嘘をついてまで被告人を陥れるとは通常は考え難い上,男に触られた時に肌と肌が当たるような感じがしたなどと,ある程度具体的な供述もしており,真実を語っているようにも思われる。とはいえ,Hの供述は,胸をもむように触られたとしながら,左右どちらの胸を触られたかは覚えていないとするなど,不確かさが残るものであり,手を入れられたのがシャツの首の方からか裾の方からかという点についても捜査機関に対する供述からの変遷がある。これらに加え,既に説示したとおり,暴行被害についてのHの供述には一部信用し難い点があり,これが着衣の中に手を入れられたとする供述部分の信用性の判断に一定の影響を及ぼすことは避けられない。
他方で,Hに腕をつかんで引っ張られるなどしている状況で,Hが嫌がることをすれば離れてくれるだろうなどと考え,服の上からHの胸や股間を触ったとの被告人の供述は,それ自体特に不自然なものではない。むしろ,抵抗するHに対し,両手を同時に着衣の中に差し入れてその胸や陰部を触るという行為に及ぶのは,かなりの困難を伴うのではないかとも考えられる。
以上に照らせば,上記Hの供述を全面的に信用し被告人の供述を虚偽として排斥することはためらわれる。そうすると,被告人がHの着衣の中に手を差し入れて胸及び陰部を触ったとの事実が合理的な疑いを超えて立証できているとはいえない。
4 なお,Hの首を押さえ付けた被告人の手について,Hは当公判廷において「両手」であると供述するが,捜査機関に対しては「左手」であると供述していたものであり,また,Hの負傷箇所が首の右側のみであることも考慮して,被告人が片手でHの首を押さえ付けたと認定した。
【法令の適用】
被告人の判示第1及び第3ないし第7の各所為のうち,各児童ポルノ製造の点はいずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)7条3項,1項,2条3項3号に,各強制わいせつの点はいずれも刑法176条後段に,判示第2の所為は同条後段に,判示第8の1の所為は同法181条1項(176条前段)に,判示第8の2の所為は児童ポルノ法7条3項,1項,2条3項3号にそれぞれ該当するが,判示第1及び第3ないし第7の各所為はいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪としてそれぞれ重い強制わいせつ罪の刑で処断することとし,判示第8の1の罪について所定刑中有期懲役刑を,判示第8の2の罪について所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第8の1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役5年6月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中180日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。なお,判示第8の罪数関係について付言するに,判示第8の1におけるわいせつ行為には,判示第1及び第3ないし第7における場合と異なり,児童の胸部を露出させた上での撮影行為だけでなく,胸や陰部を触るという児童ポルノ製造罪の実行行為ではない行為が含まれており,加えて,被告人が児童から逃げるための暴行にも及んでいることからすると,強制わいせつ致傷と児童ポルノ製造は,その行為の一部に重なる点があるに過ぎず,それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるから,強制わいせつ致傷罪と児童ポルノ製造罪は刑法45条前段の併合罪の関係にあると判断した。
【量刑の理由】
被告人は,女性の裸を撮影したいという欲望を満たすため,犯行が容易な未成熟の年少者8名に対して,同様の犯行を繰り返しており,その自己中心的な動機や根深い常習性は,強い非難に値する。その態様を見ても,学生服を着て高校の写真部員を装って声を掛けるなど,年少者の警戒心の低さや善意につけ込んだ計画的で卑劣なものである。特に,最も重い強制わいせつ致傷事件の被害者は,胸を露わにされて写真を撮影されるなどしたばかりか,着衣の上からとはいえ胸や陰部を触られたり,顔面を殴られるなどしており,大きな被害を受けている。そのほかの被害者についても,見ず知らずの被告人から胸や陰部を露わにされるなどした上,その姿を写真や動画に収められており,その精神的被害は到底見過ごせない。強制わいせつや児童ポルノ製造の被害に遭った被害者やその親は,一様に被告人の厳重処罰を望んでいる。そうすると,被告人に対しては実刑をもって臨むほかなく,その刑期として法定刑の下限付近が相当ともいえない。
とはいえ,いずれの事件においても,わいせつ行為の悪質性は,他の同種事案に比べて特に高いものとはいえない。強制わいせつ致傷事件の被害者に対する暴行も,わいせつ行為の手段としてされたものではなく,その傷害結果も加療約4日間にとどまることにも照らせば,本件が,強制わいせつ致傷のほか,複数の強制わいせつ等に及んでいる事案として,特に重い部類に属するとまではいえない。
加えて,被告人には,被害者や目撃者に追いかけられたりした後もすぐに再び犯行に及ぼうとするなど,罪の意識や他者に対する共感性に乏しい面がうかがわれたが,被害者やその親の話を聞くなどした結果,自分の犯した罪の重大さを自覚し始めている。被告人が,当公判廷において,心許ないところはあるものの被告人なりに反省の言葉を述べていること,被告人がいまだ年若く,本件が初犯であること,父親が出廷して監督を誓約していることも考慮すれば,被告人に対しては主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(検察官の求刑―懲役8年,弁護人の量刑意見―懲役3年・5年間執行猶予(付保護観察))
(検察官中井優介及び同小川紀子並びに国選弁護人安田慶太(主任)及び同藤原諭各出席)
(裁判長裁判官 足立勉 裁判官 澤田博之 裁判官 河村豪俊)