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松山地方裁判所 平成4年(わ)91号 判決 1992年7月15日

本籍

愛媛県南宇和郡城辺町久良五八一番地

住居

同町久良四五二番地

漁業

中道辰明

昭和一九年二月二七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官関隆男出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金八万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、愛媛県南宇和郡城辺町久良四五二番地において、まき網漁業を営んでいる者であるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外して仮名定期預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年分の実際総所得金額が七二八六万八二九一円であったにもかかわらず、平成元年三月一五日、同県宇和島市堀端町一番三八号所在の所轄宇和島税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が一三二〇万九六二一円で、これに対する所得税額が二六二万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二九三二万六六〇〇円と右申告税額との差額二六七〇万一四〇〇円を免れた

第二  平成元年分の実際総所得金額が六六四二万五二六〇円であったにもかかわらず、平成二年三月一四日、前記宇和島税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が一三一二万六六二八円で、これに対する所得税額が二五六万六四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二七八八万二六〇〇円と右申告税額との差額二五三一万六二〇〇円を免れた

第三  平成二年分の実際総所得金額が五八一四万六六〇四円であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、前記宇和島税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が一五二一万二三八三円で、これに対する所得税額が三四四万一二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額二四一六万二九〇〇円と右申告税額との差額二〇七二万一七〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

<証拠名下等の括弧内の漢数字は、記録中の証拠等関係カードに記載された検察官請求証拠番号を示す。>

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(八七)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(八一ないし八六)

一  中道萬壽美(六九ないし七一)、田畑孝志(七五)の検察官に対する各供述調書

一  中道萬壽美(五六ないし六八)、田畑孝志(七二ないし七四)、中井香(七六)、岡田靖(七七)、舟田篤弘(七八)及び森朝子(七九)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書(四)、減価償却費調査書(五)、給料賃金調査書(六)、船舶関係費調査書(七)、燃料費調査書(九)、支払手数料調査書(一〇)、雑費調査書(一一)、除却損調査書(一二)、専従者給与調査書(一三)、事業専従者控除額調査書(一四)、青色申告控除額調査書(一五)、利子所得(受取利息)調査書(一六)、その他所得(損益科目)調査書(一九)、現金調査書(二〇)、当座預金調査書(二一)、普通預金調査書(二二)、定期積金調査書(二三)、財形定期調査書(二四)、定期預金調査書(二五)、売掛金調査書(二六)、貸付金調査書(二八)、建物調査書(二九)、船舶調査書(三〇)、車輛調査書(三一)、機械装置調査書(三二)、器具備品調査書(三三)、土地調査書(三四)、事業主貸調査書(三五)、事業主借調査書(三六)、支払手形調査書(三七)、未払金調査書(三八)、借入金調査書(三九)及びP/L不突合調査書(四〇)、

一  検察事務官作成の捜査報告書(八〇)

一  押収してある<秘><秘>と表記のノート一冊(平成四年押第三八号の6)

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の譲渡所得調査書(一七)

一  押収してある日報ノート一冊(平成四年押第三八号の4)

判示第一の事実について

一  被告人作成の63年分の所得税の確定申告書(一般用)の謄本(四七)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一)、車輛関係費調査書(八)、水揚先別売上検討表(四一)及び給料賃金合計表(昭63年分)(四四)

一  押収してある金銭出納帳一冊(平成四年押第三八号の1)

判示第二及び第三の各事実について

一  押収してある日報ノート一冊(平成四年押第三八号の5)

判示第二の事実について

一  被告人作成の元年分の所得税の確定申告書(一般用)の謄本(四八)

一  大蔵事務官作成の脱税計算書(二)、雑所得調査書(一八)、仮払金調査書(二七)、水揚先別売上検討表(四二)及び給料賃金合計表(平元年分)(四五)

一  押収してある金銭出納帳一冊(平成四年押第三八号の2)

判示第三の事実について

一  被告人作成の平成2年分の所得税の確定申告書(一般用)の謄本(四九)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(三)、水揚先別売上検討表(四三)及び給料賃金合計表(平2年分)(四六)

一  押収してある金銭出納帳一冊(平成四年押第三八号の3)

(法令の適用)

一  罰条

いずれも刑法六条、一〇条、所得税法二三八条一項(懲役刑及び罰金刑を併科)、二項、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条(裁判時においては右所得税法各条、右改正後の刑法一五条)

一  併合罪加重

懲役刑につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき刑法四五条前段、四八条二項

一  労役場留置

刑法一八条

一  懲役刑の執行猶予

刑法二五条一項

一  訴訟費用の負担

刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の理由)

本件は、愛媛県南宇和郡においてまき網漁業を営んでいた被告人が、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿して三年間にわたり合計七二七三万円余りの所得税を脱税した事案であって、そのほ脱金額は多額であるうえ、ほ脱率も通算で約九〇パーセントもの高率であり、その犯行動機は、叔父や兄が経営していた漁業が不漁続きなどにより倒産してしまったのを目の当たりにし、その二の舞を避けるためには業績が悪化した場合に備えて裏金をプールしておかなければならないと思ったなどというものではあるが、かかる事情が脱税を正当化するものでないことはいうまでもなく、また、犯行の態様も、経理を担当している妻に脱税を命じ、妻において種々の方法で所得を秘匿し、右秘匿した金銭については架空名義、借名名義の定期預金をするなどして税務当局に所得を把握されないような方策を講じていたもので、巧妙かつ悪質である。そして、被告人のこのような行為が、税負担の公平を害し、租税制度に対する国民の信頼を失わせるものであることに鑑みれば、被告人の刑事責任は重大である。

しかしながら、被告人は、本件について国税局の査察を受けた後は素直に犯行を認め、合計一億五七六三万円にのぼる本税・重加算税等(昭和六二年ないし平成二年分)を納付し、すでに税法上の制裁措置を受けていること、事業についてもこれを有限会社とし経理処理を明確にして再犯なきを誓っているほか、反省の態度も認められること、被告人には古くに罰金前科が二犯あるほか特に前科はないこと等被告人にとって有利または同情すべき事情が認められるので、これらの事情を総合考慮して、被告人に対しては、主文掲記の刑を量定し、相当期間懲役刑の執行を猶予するのが相当であると認めた。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 浦島高広)

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