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松山地方裁判所 平成8年(行ウ)6号 判決 2001年4月18日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告が、平成七年五月二二日付けで原告興進海運株式会社に対してなした、左記各賦課決定処分を取り消す。

(一) 平成元年八月一日から平成二年七月三一日までの事業年度(平成二年七月期)の法人税の重加算税 一一九七万三五〇〇円

(二) 平成二年八月一日から平成三年七月三一日までの事業年度(平成三年七月期)の法人税及び法人臨時特別税の各重加算税

(1) 法人税 二一一八万八〇〇〇円

(2) 法人臨時特別税 五〇万四〇〇〇円

(三) 平成三年八月一日から平成四年七月三一日までの事業年度(平成四年七月期)の法人税及び法人特別税の各重加算税

(1) 法人税 二五九二万一〇〇〇円

ただし、二三八九万一〇〇〇円を超える部分

(2) 法人特別税 六一万九五〇〇円

ただし、五九万五〇〇〇円を超える部分

(四) 平成元年八月一日から平成二年七月三一日までを課税期間とする消費税の重加算税 八六万一〇〇〇円

(五) 平成二年八月一日から平成三年七月三一日までを課税期間とする消費税の重加算税 二〇万〇〇〇〇円

(六) 平成三年八月一日から平成四年七月三一日までを課税期間とする消費税の重加算税 二一〇万七〇〇〇円

ただし、二〇三万七〇〇〇円を超える部分

2  被告が、平成七年五月二二日付けで原告共栄海運株式会社に対してなした、左記各賦課決定処分を取り消す。

(一) 平成二年二月一日から平成三年一月三一日までの事業年度(平成三年一月期)の法人税の重加算税 一五八五万一五〇〇円

(二) 平成三年二月一日から平成四年一月三一日までの事業年度(平成四年一月期)の法人税及び法人臨時特別税の各重加算税

(1) 法人税 二四〇六万六〇〇〇円

(2) 法人臨時特別税 五七万四〇〇〇円

(三) 平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度(平成六年一月期)の法人税の過少申告加算税及び重加算税

(1) 過少申告加算税 四万八〇〇〇円

ただし、二万七〇〇〇円を超える部分

(2) 重加算税 一三五万一〇〇〇円

ただし、二二万四〇〇〇円を超える部分

(四) 平成二年二月一日から平成三年一月三一日までを課税期間とする消費税の重加算税 九万一〇〇〇円

ただし、八万七五〇〇円を超える部分

(五) 平成三年二月一日から平成四年一月三一日までを課税期間とする消費税の重加算税 三一万八五〇〇円

ただし、三〇万四五〇〇円を超える部分

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二事案の概要等

一  本件は、原告らが、法人税等の確定申告にあたり所得金額を脱漏し、法人税等の賦課を免れていたとして、被告から重加算税の賦課決定処分を受けたことにつき、①右重加算税賦課決定処分は違法に収集された資料を基礎にして行われた点で、適正手続を保障した憲法に反し、違憲、違法なものである、②また、原告らは自主的に修正申告をしているから、国税通則法(以下「法」という。)六八条一項、六五条五項(以下「本条項」ともいう。)により重加算税は免除されるべきであるとして、右重加算税賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

二  前提となる事実

1  原告らは、いずれも砂利採取を業とする同族会社であり、原告興進海運株式会社(以下「興進海運」という。)の代表者は平成七年一月二〇日までが訴外A、同日以降がBであり、原告共栄海運株式会社(以下「共栄海運」という。)の代表者はBの夫であるCである。原告らの本社事務所は同一場所にあり、実質的な経営は両社ともCが行っていた。

2  原告興進海運は平成二年七月期、平成三年七月期、平成四年七月期の各事業年度の、原告共栄海運は平成三年一月期、平成四年一月期の各事業年度の法人税等の確定申告をするにあたり、売上金額の除外、架空経費の計上を行って、所得金額を隠し、それをもとにした確定申告書を作って、それを同和団体を通じて、P税務署に提出した。

3  従前から原告らの関与税理士をしていたD税理士は、平成六年四月一一日、P税務署に赴き、同署のE副署長に対し、原告らが売上げを除外して申告しているが、修正申告をすれば受理するかどうかと尋ねたところ、E副署長は、修正申告は自由である旨答えた。

4  平成六年四月一二日午後一時過ぎころ、E副署長は、D税理士に電話をかけて、職員を原告らの事務所に行かせる旨告げ、P税務署法人課税部門の国税調査官F(以下「F調査官」という。)、同G(以下「G調査官」という。)が、原告らの事務所を訪れた。

5  F調査官らは、Cらから事情を聴取するとともに、原告ら二社の帳簿類を持って帰り、法人課税部門第一統括国税調査官H(以下「H統括調査官」という。)らに対し、報告するとともに、預かってきた資料を手渡した。

6  H統括調査官は、高松国税局調査査察部(以下「査察部」という。)の統括主査I(以下「I統括査察官」という。)に電話をかけ、原告らの法人名、脱税金額、関係金融機関、原告らが修正申告したいと言明していることを告げ、原告らから預かった資料のうちから除外金額集計表、預金明細書、通帳コピーをファクシミリで送信した。

7  査察部は、平成六年四月一三日、高松簡易裁判所に対し、原告興進海運を法人税法違反の嫌疑者とする捜索差押許可状の発付を請求し、同日、その発付を受けて、同月一四日午前九時ころから、原告興進海運事務所、原告ら関係者の自宅等において捜索を行って、帳簿類、資料を押収した。

8  原告らは、平成六年六月二一日、査察部から、押収された書類のうち修正申告に必要な書類のコピーの交付を受け、税理士J(以下「J税理士」という。)に依頼して、同年七月六日、修正申告書をP税務署に提出した(以下「第一次修正申告」という。)。

9  平成七年四月一四日、原告興進海運は平成二年七月期及び平成三年七月期の各法人税、平成三年七月期の法人臨時特別税、平成二年七月課税期間、平成三年七月課税期間及び平成四年八月一日から平成五年七月三一日までの課税期間の各消費税について、修正申告書を被告に提出した。

また、同日、原告共栄海運も、平成元年二月一日から平成二年一月三一日までの事業年度、平成三年一月期及び平成四年一月期の各法人税、平成四年一月期の法人臨時特別税並びに平成四年二月一日から平成五年一月三一日までの課税期間及び平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの課税期間の消費税について、修正申告書を被告に提出した(以下「第二次修正申告」という。)。

10  被告は、平成七年五月二二日、原告らに対し、第一次修正申告に伴う加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行った。また被告は、同日、第二次修正申告について、原告らに対し、加算税の賦課決定処分を行うとともに、第一次修正申告の法人税額等の一部を減額する更正処分並びに第一次決定処分による加算税の一部を減額変更する賦課決定処分(以下「本件減額決定処分」という。)を行い、それぞれ通知した。

原告らは、平成七年六月一九日、被告が行った本件賦課決定処分の取消しを求めて、異議申立てを行ったが、被告は、同年九月一九日、これを棄却した。原告らのなした確定申告、修正申告及び異議申立て並びに被告のなした賦課決定処分等に関する具体的金額は、別紙一覧表記載のとおりである。

11  また、原告らは、平成七年一〇月九日、本件賦課決定処分について、国税不服審判所長に対し審査請求を行ったが、平成八年六月一九日、審査請求を棄却する旨の裁決がなされたため、同年九月一三日、本訴を提起するに至った。

第三争点及び争点に対する当事者の主張

一  本件課税処分のための資料収集手続に違憲、違法な点はあるか。

(原告らの主張)

被告が本件賦課決定処分をするに際して用いた証拠の収集には、以下のとおり違憲、違法な点があり、これに基づく本件賦課決定処分は違法である。

1 課税処分にあたって行われる調査の手続に関して、刑罰法規に触れる、公序良俗に反する、又は社会通念上相当の限度を超えて濫用にわたるなどの重大な違法性が認められる場合、これによって得た資料に基づいて課税処分をすることは違法である。

2 ところで、法人税法等に基づく調査(以下「税務調査」という。)と、国税犯則取締法に基づく犯則事件の調査(以下「犯則調査」という。)は、調査の目的、手続、組織上の権限を異にするから、両者は厳格に区別して行使されるべきであり、犯則事実発見の手段として税務調査を利用したり、租税の賦課、徴収のために犯則調査権限を行使することは許されない。税務調査による調査結果を直ちに犯則調査に利用することは、法人税法一五六条等が禁止しているし、刑事制裁を背景にする税務調査への応答義務を課しつつ、犯則調査に直ちに利用することは、令状なくして犯則事実の証拠資料を強制的に収集することを認めることになるから、憲法三一条、三五条、三八条に違反する。

また、税務署職員が査察部門へ通報することは、公務員の守秘義務違反の罪をも構成する違法行為である。

3 ところが、本件で、P税務署のH統括調査官は、平成六年四月一二日、F調査官らを原告ら事務所に派遣し、資料を持ち帰らせるとともに、原告代表者らに事実関係を供述させ、そのように収集した犯則事実に関わる資料を査察部に提供している。すなわち、H統括調査官は、この時点で、継続調査の予定をしておらず、かつ、調査の結果を査察部に通報する可能性を前提にしていながら、質問検査権を犯則調査の手段として行使してしまっているのである。

そして、実際にも、査察部は、H統括調査官から資料が送付されたことをきっかけとして強制調査に乗り出し、捜索差押許可状請求にあたって犯則事実を構成する資料としたり、嫌疑事実を確認する材料にするなどしたうえ、さらには、右資料を疎明資料として捜索差押許可状の発付を受けて、原告ら事務所を捜索した。また、原告らがP税務署に預けていた資料についても、P税務署に指示して一旦原告らに返還させ、すぐにその場で押収して犯則調査を進めているのである。なお、査察部が原告らの修正申告書提出に先んじて強制調査を行おうとしたのは、自主的修正申告があると犯則調査をそれ以上に進めることができないという実務上の取扱いがあるからである。

4 結局、P税務署職員は、原告らが応答義務を負う質問調査権を行使することによって、犯則事実に関する供述を得たり、証拠資料を提出させて持ち帰りて、証拠を保全し、その結果を直ちに査察部に通報して、査察部による犯則調査に協力したのである。しかも、被告は、右犯則調査によって得られた資料の引継ぎを受けて、本件賦課決定処分をした。

5 したがって、原告らに対する査察部の犯則調査は、P税務署による税務調査を利用してなされた点で著しい違法があり、これにより収集された資料は違法収集証拠というべきであるところ、同時に、右資料の引継を受けて被告がなした本件賦課決定処分も違法であるというべきであって、取り消されなければならない。

(被告の主張)

原告らの主張は争う。被告が本件賦課決定処分をするについて行った資料収集に違法な点はない。

1 一般に、税務調査と犯則調査は、調査の目的、手続、組織上の権限を異にしている。たしかに、更正処分等を行うために国税犯則取締法上の調査権限を用いたり、逆に、犯則事実の発見のために税務調査を行うことは許されてないが、しかし、適正な税務調査により犯則事件が探知された場合に、これを端緒として犯則調査が開始されることは何らの問題もない。

2 本件において、査察部は、平成六年二月ころから、原告らについて脱税容疑で内偵調査を行っていた。査察部は、H統括調査官の連絡を受け、原告らに罪証隠滅のおそれがあると判断し、当初の犯則調査の着手予定を早めてはいるが、これは、原告らの確定申告を阻止するためではない。また、P税務署から提供を受けた資料は、その一部を、一箇所に対する臨検、捜索、差押えの疎明資料として使用したにすぎない。

3 原告らは、本件税務調査が、当初から査察部の強制調査に協力する意図をもってなされた違法なものである旨主張するが、平成六年四月一二日、H統括調査官が査察部に連絡するまでの間、P税務署と査察部との間で本件に関する連絡はなされていないから、税務署で、査察部が立件するであろうからと推測したり、証拠保全のために質問検査権を行使して調査を行うことなどといった事態はあり得ない。本件税務調査は、P税務署内での協議の上でなされた法人税等に係る課税調査であり、犯則事実発見のために行われたものではない。査察部への情報提供は、右課税調査の結果、多額の脱税の疑いが強まったためなされたものであって、違法性はない。

4 原告らは、P税務署職員が、本件税務調査において収集した資料を査察部に提供したことは、公務員の守秘義務に違反すると主張するが、適切公平な課税をする職責を担う税務職員が、税務調査に際して脱税となるべき事実を発見した場合、収税官吏に通報するのは、公務員の告発義務に係る当然の義務であって、守秘義務違反の問題は生じない。

5 仮に、本件税務調査につき違法性が認められるとしても、課税庁は税務調査により課税標準の存在が認められる限り課税処分をしなければならないから、調査手続に何らかの瑕疵があったとしても、そのことは原則として更正処分に影響を及ぼすものではない。例外的に、もし、調査の手続が刑罰法規に触れ、公序良俗に反する等、重大な違法性を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものと評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があると解すべきである。しかし、本件税務調査には、そのような重大な違法性はみられず、本件賦課決定処分に取消原因はない。

6 原告らは、修正申告がなされると、犯則調査に着手することができなくなるとか、刑事処罰を科することができなくなることから、査察部が原告らの修正申告を阻止したかのように主張するが、自発的に修正申告をした場合には犯則調査ができないとする規定はなく、実際にも、そのような運用がされてはいない。

二  原告らの修正申告が、法六八条一項、六五条五項の「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当するか。

1  査察部による本条項の「調査」があったか。

(原告らの主張)

査察部が原告らに対する「調査」を行っていた事実はない。

(一) 被告は、平成六年四月一一日以前から、査察部が原告らの法人税法違反の嫌疑を抱いて内偵調査をしていたと主張するが、事実は異なる。

(二) 仮に、右内偵調査がなされていたとしても、「調査」とは「納税者に対する当該国税に関する実地又は呼出等の具体的調査」を意味するから、内偵調査は本条項の「調査」には該たらない。国税庁が公表した事務運営指針による解釈・運用でも、単に資料を把握しているだけでは「調査」に該たらないと説明されており、本件訴訟における被告の主張とは矛盾する。被告は、本件訴訟で、課税当局がなすあらゆる態様の調査活動は「調査」に含まれると主張するが、同主張は本件訴訟限りの主張にすぎない。

(三) また、内偵調査は、厳格な密行性のもとに進められ、一般に納税者等に知れることはないのであるから、内偵調査が納税者に知れることはごく稀である。したがって、被告が、原告らがこれを察知していたと主張するのであれば、被告において、内偵調査が原告らに察知されていたという事情を、具体的に主張、立証されるべきである。しかし、本件においてかかる主張、立証はなされていない。

(被告の主張)

原告らに対しては、平成六年二月ころから、査察部によって「調査」が行われていた。

(一) 原告らは、内偵調査は本条項にいう「調査」に該当しないと主張するが、査察部は、平成六年二月ころから、原告らの内偵調査を行っており、法人税逋脱の事実を把握し、同年三月二二日には、不正がほとんど分かった状態に至って、内偵立件決議もなされた。

(二) 納税者が「更正があるべきことを予知」できる状況は、千差万別であり、本件規定にいう「調査」を原告らの主張するように制限的に解釈すべき理由はない。「調査」とは、納税者が自らの申告に対して更正があるべきことを予知する可能性のあるものならば、課税庁の証拠資料の収集開始から具体的な処分を行うに至るまでの間の一連の判断過程の一切を指すものと解すべきである。

(三) 内偵調査は、事柄の性質上、納税者等に察知されることなく実行されるべきものであるが、しかし、納税者において何らかの事情で内偵調査を知ることとなった場合には、そのときには、「更正があるべきことを予知」できる状態になったということができる。内偵調査を本件規定の「調査」から除外する合理的な理由はない。

(四) 原告らは、被告の主張する「調査」の意義に関して、国税庁の公表した事務運営指針と明らかに異なるとも主張するが、右運営指針は、「調査」の意義、範囲に関する解釈について述べたものではなく、典型的なケースにおいて、修正申告の自発性の有無についての解釈例を挙げて、説明したものにすぎないのであって、被告の解釈と矛盾しない。

(五) 原告らが本件修正申告書を提出したのは平成六年七月六日であるが、その以前に、査察部による犯則「調査」がなされていたことは、前述したところから明らかである。

2  犯則調査が認められるとして、原告らに「更正があるべきこと」についての「予知」がなかったといえるか。

(原告らの主張)

原告らには、犯則調査による「更正あるべきこと」についての「予知」はなかった。

(一) 前述のとおり、原告らに対する「調査」は行われておらず、したがって、「更正があるべきこと」について「予知」することもあり得ない。

(二) また、仮に、被告の主張のとおり、国税局からの原告らを調査対象者とした調査回報があったとしても、それが原告らに察知された事実はないから、これによって「予知」したということもあり得ない。

(三) なお、被告は、納税者が更正を予知する契機となった調査の主体や内容を勘違いしていたとしても、当該申告に係る国税についての調査が存在する限りは、更正を予知していたことに変わりがない旨主張する。しかし、右主張は、当該納税者の申告内容とは無関係の第三者に対する調査を、当該納税者が勝手に勘違いして、自己に関係のある調査であると誤信し、それを契機として修正申告に至った場合でも、更正を「予知」したものと解すべきであるということになる。そのような解釈は「その申告に係る国税についての調査があったことにより」と規定している本条項の文言を無視している。

(被告の主張)

原告らには、犯則調査による「更正あるべきこと」についての「予知」があった。

(一) 条項が適用されるための要件は、自発的な修正申告があったことであるから、「調査」の察知は、抽象的なもので足りるというべきである。

「更正があるべきことを予知」する契機となった「その申告に係る国税についての調査」が存在する限りは、その調査の主体や内容などが納税者の想定したところと一致しなくとも、自発的な修正申告に該たるかどうかの判断を左右するものではない。

(二) 本件についても、前述のとおり、査察部は法人税法違反に関して、原告らの「調査」を行っており、これに対して、原告らも、原告興進海運宛の高松国税局査察部門が動いている旨の匿名の手紙によって、調査が行われているとの情報を得て、C自らが取引銀行に出向き、調査の事実を確認するなど、内偵調査が実施されていると確信して、観念し、修正申告をしょうと決意するに至っているのであるから、到底自発的な修正申告であるわけがない。原告らが察知したとされる査察部による調査内容が、実際に査察部が行っていた具体的な調査内容と一致しなかったとしても、「更正があるべきことを予知して」いたことに該たるというべきである。

3  P税務署による「調査」があったか。

(原告らの主張)

原告らは、平成六年七月六日、被告に対して修正申告書を提出しているが、それ以前にP税務署による「調査」はなされていない。

(一) 被告は、平成六年四月一二日、原告ら会社事務所に、F調査官らが臨場したことをもって、本条項の「調査」があったと主張するが、右「調査」は前述のとおり、P税務署と査察部との協力、連携によりなされた重大な違憲、違法行為であるから、右「調査」の存在を主張することは許されない。

(二) また、自主的修正申告を奨励する本条項の立法趣旨からすると、本条項でいう「調査」とは、課税当局が主体的、能動的な立場で独自に調査を開始した場合をいい、少なくとも、納税者の修正申告意思の表明を受けて初めて課税当局が事実関係を認識し、その後に調査を開始したような場合は含まれない。

(三) 本件で、P税務署は、原告らの依頼を受けたD税理士の修正申告表明行為を受けてから、初めて事情を知り、原告らに対して資料の提出と説明を求めたにすぎない。P税務署の臨場は、修正申告書の受付とその後の審査事務を円滑に進めるための事前協議であり、主体的、能動的な「調査」というものには該たらない。

(四) また、その後になされた査察部による犯則調査、P税務署による税務調査は、前述のとおり、違憲で、かつ、重大な違法であるから、これを本条項にいう「調査」に該たるということはできない。

(五) したがって、原告らが修正申告書を提出する以前に、本条項にいう「調査」はなされていないというべきである。

(被告の主張)

原告らの主張は争う。原告らが修正申告書を提出するまでには、P税務署によって「調査」がなされている。

(一) 修正申告を含む納税の申告は、申告書の提出によってする要式行為であり、申告書作成の基礎となる書類等が提出されても、それだけでは正式の申告とはいえないし、納税者本人及び代理人の出頭ないし明細書の提出により申告を了したものとみることもできない。

(二) 原告らが修正申告書を提出したのは平成六年七月六日に至ってからであるところ、P税務署はこれに先立つ同年四月一二日から原告らの脱税行為について税務調査を開始しており、平成六年七月六日までには「調査」がなされていたことは明らかである。前述のとおり、右調査には違法な点もない。

(三) 原告らは、平成六年四月一二日の法人税等調査が「調査」に該たらないと主張するが、いかなる経緯であれ、税務調査の必要性が認められる場合に「調査」を実施することは至極当然のことである。納税者から修正申告の相談があった場合でも、事前の相談内容を翻して修正申告を行わなかったり、過少に修正申告するなどして、証拠を隠滅する事例もみられることからすると、現実に修正申告書が提出されず、具体的に納税義務も確定していない以上は、納税者の事務所等に臨場するなどして、右相談内容の信憑性等について「調査」を実施することも許されるというべきである。逆にこれを実施しないことは課税庁の職責に反する。

(四) 本件では、原告らに、関西新空港建設に関連する他の国税局での調査が波及して修正申告の必要に迫られた可能性があること、西瀬戸自動車道に関連した漁業補償を受けるための粉飾決算の可能性があること等の理由から、F調査官らが原告らの事務所を訪問し、法人税調査を実施したものである。右行為が「調査」に該当することは明らかである。

(五) 仮に、修正申告の意思を表明した後の調査が、本条項にいう「調査」に該当しないとなると、修正申告書の提出があった場合における加算税は一定の場合に例外的にこれを課さないこととした同条項の規定に反することになるし、法の根拠なしに加算税免除の範囲を拡大しすぎることになる。そして、ひいては、当初から適法に申告、納税した者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正し、申告納税制度の信用を維持し、もって適正な期限内申告の実現を図ろうとする趣旨を没却することになって、不当である。

4  P税務署による「調査」によって、原告らが「更正があるべきことを予知」していなかったといえるか。

(原告らの主張)

原告らは「更正あるべきことを予知して」修正申告してはいない。

(一) 本条項が自発的な修正申告がなされた場合には加算税を賦課しない旨規定した趣旨に鑑みると、重要なことは、修正申告書がいつ提出されたのかではなく、修正申告を行う決意がどの段階で成立していたのかである。調査着手後になされた修正申告であっても、調査着手以前に修正申告を行うことを決意していたならば、自発的な修正申告として、同条項を適用する余地が認められなければならない。したがって、「更正があるべきことを予知して」とは、税務職員がその申告に係る国税についての調査に着手して、さらに調査が進行し、前の申告内容が不適正で、更正に至るであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後において、納税者がそのことを認識することである。換言すれば、納税者が、右事実を認識するより前に、自ら進んで修正申告を確定的に決意し、その後に修正申告書を提出したという場合には、加算税が賦課されることはないというべきである。

(二) 原告らは、D税理士に修正申告を依頼し、D税理士は、調査着手前の平成六年四月一一日に、E副署長に対して従来の経緯を説明し、原告らの法人名を明らかにして、約五億円の売上金額の除外をしていること、原告らが修正申告を決意していることを告げ、その手続にも着手していたのであるから、原告らが同日までに修正申告することを決意していたのは明らかである。

(三) なお、原告らが、現実に修正申告書を提出したのは、平成六年七月六日に至ってからであるが、これは、平成六年四月一二日に、修正申告に必要な帳簿類をF調査官らに持ち帰られ、同年六月二一日に、査察部から帳簿類の返還を受けるまで、修正申告書の作成ができなかったためであって、その遅延は原告らの責めに帰すべきものではない。

(四) 以上のとおり、原告らは、平成六年四月一一日までに修正申告書の提出を決意しており、したがって、平成六年七月六日にした修正申告は「更正があるべきことを予知して」なされたものには該たらないから、被告の原告らに対する本件賦課決定処分は違法である。

(被告の主張)

原告らの主張は争う。原告らの修正申告は、「更正があるべきことを予知してされたものでない」とはいえない。すなわち、

(一) 本条項の「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」とは、その文言上、「修正申告書の提出があった場合」の規定であり、調査前に修正申告の意思表明があった場合の規定ではない。法文上も、加算税は、修正申告書の提出があったときでも原則として賦課されるとされていて、例外的に、修正申告書の提出が「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に加算税が賦課されないとされるのである。したがって、「調査があったことにより更正があるべきことを予知してされたものでない」とは、税務職員の調査の手が入る前に自ら従前の申告に誤りがあることを認識し、これを一切修正申告することを進んで決意し、かつ修正申告書を提出することと解すべきであって、修正申告書が調査前に提出されることが本条項適用の要件なのである。税務職員の調査前に修正申告書の提出がない以上、仮に修正申告の意思表明が「調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知する」以前になされたとしても、本条項適用の余地はない。

本件では、原告らの本件修正申告書の提出は平成六年七月六日であるところ、前述のとおり、それまでに「調査」がなされていることは明らかであるから、本条項が適用される余地はなく、原告らの主張は失当である。

(二) また、たとえ修正申告の意思の表明が修正申告書を提出する以前に自発的になされたものであっても、修正申告書の提出のない限り、申告義務違反の状態は継続しているから、加算税が免除されることはあり得ない。現実に修正申告書が提出された場合に初めて本件規定の適用の可否が問題となるが、原告ら主張の立場によれば、どのような方式であれ、税務官署に対して修正申告の意思表明さえしておけば、相当期間経過して修正申告書を提出した場合であっても、加算税を賦課することができないということになりかねない。

(三) 仮に、調査開始後の修正申告書提出であっても本条項の適用を受けることがあり得るとしても、少なくともその修正申告が税法を遵守するという目的を有する自発的な意思に基づくものであることが要求されると解すべきであるから、調査が開始されていると認識して、そのことにより更正があるべきことを予知してなされた修正申告である以上、客観的な調査の進行状況を問わず、本条項は適用されないと解すべきである。

(四) 原告らは、修正申告を決意し、平成六年四月一一日にその決意をE副署長に表明しているから、本件修正申告は「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当する旨主張する。

しかし、D税理士は、E副署長に対し、修正申告をしたいとの相談を持ちかけてはいるものの、修正申告書がいつ提出されるのか具体的な話も、資料の提出もなく、一事業年度約五〇〇〇万円の売上除外が五年間程続いている旨概略的な数字を述べるだけで、経費の水増し(架空経費の計上)の話もなく、会社名も伏せており、面談が終了する直前に、E副署長の質問に応じてようやく原告らの名前を告げたにすぎない。D税理士が説明した売上除外の額と原告らが提出した修正申告書の申告額も大きく異なっている。そして、面談において、D税理士は、E副署長に対し、単に修正申告が可能であるかどうかの確認をした程度にとどまり、E副署長も、一般的な相談であると認識していたのである。そうすると、原告らの修正申告の意思表明は極めて不確定なものであって、原告らが修正申告を確定的に決意し、表明したということはできない。

(五) なお、原告らは、修正申告の決意をしていながらも、修正申告書の提出が平成六年七月六日となったのは、同年四月一二日にF調査官らが修正申告書の作成に必要な帳簿等を持ち帰ったためであり、その遅延は原告らの責めに帰すべきではない旨主張するが、右帳簿類は、F調査官らが、原告らから任意に提出を受けて預かったものの、同月一四日には原告らに返却しており、P税務署の管理下にはない。右帳簿類は、同日、査察官によって差押、領置されているのであって、修正申告書の提出が遅れた理由が関係帳簿等がなかったことによるとしても、被告とは無関係であって、本件賦課決定処分には影響しない。

三  被告の本件賦課決定処分は、信義則に反するか。

(原告らの主張)

被告の本件賦課決定処分は、信義則に反し違法である。

1 租税の減免は、法律上の根拠に基づいてのみ行われるのが原則であるが、事情によってはその原則を犠牲にしても納税者の信頼を保護することが必要と認められる場合もある。このような場合、租税法律関係にも信義則(禁反言)が適用され、租税行政庁が、自己の過去の言動に反する主張をすることは許されない。具体的には、①租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公の見解を表示したこと、②その表示に対する納税者の信頼が保護に値すること、③納税者が表示を信頼して何らかの行為をなしたことの三条件を充たす場合には、租税行政庁は遡ってその表示を覆すことができず、それに反する処分は信義則に違反して違法な処分となる。

2 E副署長は、原告らの依頼を受けたD税理士から修正申告の意思表明を受けて、これを受け付ける旨の見解を示し、その翌日には、F調査官らが原告ら事務所を訪問して、修正申告に必要な書類を見せてほしいと告げたことから、原告らもこれを信頼し、F調査官らに帳簿類を交付したのである。

3 このように、P税務署は副署長が修正申告を受け付ける旨表示し、原告ら代表者はこれを信頼して、過少申告に関わる重要書類を提供したのであるから、被告が、後日になって修正申告書の提出がなかったことを理由に、本条項の適用を排斥し、重加算税賦課決定処分をすることは、信義則に反すること著しい。本件賦課決定処分は違法である。

(被告の主張)

被告の本件賦課決定処分は信義則に反するものではなく、適法である。

1 一般に、信義則を適用して、行政処分を違法として取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用について慎重でなければならない。したがって、課税処分にあたっては、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしても、なお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情の存する場合に、初めて右法理の適用の是非が問題となる。

2 そして、右特別の事情が存するといえるためには、少なくとも、①課税庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けること、③納税者が課税庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないことが必要である。

3 E副署長は、平成六年四月一一日、修正申告書の提出について、D税理士に対し、一般論として、任意の修正は自由である旨を回答したにすぎず、原告らが修正申告書を提出すれば、本条項の適用がある旨信頼の対象となる見解を表明したことはないから、原告らがこれを信頼することはあり得ない。この点、D税理士も、原告らに対し、重加算税の賦課を免れた旨の話はしていない旨証言している。仮に、E副署長が加算税の免除に関して何らかの発言をしていたとしても、それは一般的な説明であって、加算税を賦課しないことを約束したものではない。

4 原告らの被告に対する本件修正申告書作成に必要な資料の提出が、課税庁に対する信頼に基づく行動であり、その行為が結果として修正申告書の提出を遅延させる原因であったとしても、F調査官らによる右資料の提出依頼は適法な調査権限に基づき行われたものであり、合理的な裁量の範囲内であったというべきである。

5 したがって、本件賦課決定処分は信義則に何ら反しない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する。

第四当裁判所の判断

一  前記前提となる事実に加え、証拠(甲一の1ないし7、二の1ないし7、三の1ないし7、四の1、2、六の1ないし5、七の1ないし6、八、一一の1ないし5、一二の1ないし5、一三ないし二四、二六ないし四一、四二の1、2、四三の1、2、四九、五二ないし七〇、七二、七四ないし八二、乙四ないし一一、証人E、同D、同H、同F、同K、同L、同M、同N、原告共栄海運代表者C及び原告興進海運代表者B)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告らは、いずれもCが実質的に経営する同族会社であり、従前は、B、Aが両社の経理事務を担当し、D税理士が関与税理士となって、所得脱漏のない確定申告書を作成し、被告に提出していた。

2  平成二年ころ、Cは、同和団体を通じて確定申告書を提出すれば、税金が安くなり、国税局もこれを黙認し、調査もされないと聞き及び、原告興進海運につき平成二年七月期、平成三年七月期、平成四年七月期、原告共栄海運につき平成三年一月期、平成四年一月期の各法人税確定申告書を同和団体を通じて提出した。右確定申告書は、決算時に、D税理士が、まず原告らにおいて作成した試算表に基づいて当期利益を算出し、その結果を一旦原告らに報告してから、さらに原告らの指示に従って販売手数料等の費目の振替伝票を作成し、これを計上した修正を行うという経緯で作成されていた。

D税理士は、Cから同和団体に手数料を支払うと聞いていたので、架空経費の計上をしているとは理解していたが、売上除外の存在や所得脱漏の詳細についてまでは把握していなかった。原告らは、右経緯で作成された確定申告書を右同和団体を通じて被告に提出したが、D税理士は関与税理士として確定申告書に署名押印をしなかった。

3  その後、右同和団体の代表者が死亡したので、原告共栄海運の平成五年一月期と平成六年一月期の、そして原告興進海運の平成五年七月期の税務申告については、関与税理士としてD税理士が確定申告書を作成し、被告に提出した。D税理士は、原告共栄海運の平成五年一月期の確定申告書提出の際、Bから、原告共栄海運が売上除外の方法によっても所得脱漏をしていた事実を聞かされたので、同期になされていた売上除外の総額一億一四一四万六八〇〇円を正規に計上した上で、同期の確定申告書を作成した。その際、D税理士は、Bに対し、他の期についても売上除外の事実はないか尋ねたところ、Bはこれを否定した。

4  平成六年二月ころ、査察部は、原告らが違法な手段で法人税を免れているとの疑いを抱いて原告らを犯則嫌疑者とする内偵調査を開始し、その結果、原告らの嫌疑の概要が明らかになったことから、同年三月二二日、原告らを法人税法違反の嫌疑者とする内偵立件決議を行った。そして、同月二三日には原告興進海運を、同月二四日には原告共栄海運を、それぞれ犯則嫌疑者として広島国税局調査査察部長に対する調査嘱託を行い、同月三〇日には、原告興進海運を犯則嫌疑者として東京国税局査察部長に対する調査嘱託を行って、同年四月八日までには回報を得た。

5  一方、Bは、平成六年二月下旬ころ、訴外株式会社愛媛銀行P支店に第三者名義で開設していた定期預金口座を、自己の名義に書き換えようとして、同支店に赴いたところ、同行員から、現在国税局が来ているからもう少し時間をおいて書き換えた方がよいのではないかと告げられた。Bから右経緯を聞いたCは、すぐに、同銀行に対し、国税局の調査内容について問い合わせたが、同銀行から明確な回答はなく、国税局のどの部署がいかなる調査を行っているのかまでは明らかにならなかった。

6  そして、平成六年四月六日には、原告らに対し、匿名の手紙が送られてきて、それには、高松国税局の査察部門が興進海運ともう一社を調べていると書かれてあった。原告らは、査察部によって脱税が公にされるようなことがあれば、原告らの持っている砂利採取の許可が取り消され、事業が成り立たなくなるかもしれないと危惧し、事態を改善、収拾する方法を探るため、D税理士に相談することとした。

7  平成六年四月七日午前一〇時すぎころ、D税理士は、Cらの自宅に呼ばれ、Cから、銀行に査察部が来て調べている、早く税理士に相談した方がよい旨の匿名の投書があったなどと説明したうえで、約五億円の売上除外をして脱税しているが、世間一般でいう自首に該たるものはないかなどと相談した。これに対してD税理士は、自首に該たるものが修正申告である旨回答し、修正申告を勧めたが、その時点で、Cらは、明確な結論を出さなかった。その際、Cは、架空経費計上の事実については触れなかったが、D税理士は、以前にCから同和団体を通じての確定申告の場合、架空経費を計上する方法により所得を脱漏すると聞かされていたし、販売手数料等の費目の振替伝票も作成していたため、原告らの所得脱漏額の約五億円は、売上除外、架空経費計上を合わせたものと判断した。

8  平成六年四月九日、Cは、D税理士の事務所を訪問し、修正申告の手続をとるように依頼した。D税理士は、修正申告の対象となる期の確定申告書が同和団体を通じて出されていること、修正額が約五億円にも上ることから、直ちに修正申告書を提出すべきかどうかを迷い、他の税理士に相談したうえで、P税務署の副署長に今後の指示を仰ぐことがよいのではないかと判断した。

9  平成六年四月一一日午前、D税理士は、P税務署を訪問し、副署長室においてE副署長と面談した。D税理士は、E副署長に対して、砂利採取業のある会社が五年間にわたり約五億円の売上除外をして所得を脱漏していること、自分はその会社の関与税理士とはなっていないが、自分が申告書を作成し、同和団体を通じて確定申告を行っていたこと、脱税の事実が公表されると砂利採取の許可が取り消され死活問題となることなどを告げてから、修正申告をしてもよいものかどうかを尋ねた。

これに対し、E副署長は、一般的に任意の修正申告は自由である旨回答し、修正申告書は十分に検討して提出するようにと求めた。D税理士はこれを聞いて退室しようとすると、E副署長から、その会社はどこの会社かと尋ねられたため、D税理士は、その段階で、原告ら二社の名を上げた。また、最後に、D税理士が、E副署長に対して重加算税が賦課される見込みについて尋ねたところ、E副署長は、任意の修正の場合、通常はかからない旨回答した。

10  同日の午後、D税理士は、原告ら事務所を訪れ、Cらに対し、E副署長から、修正申告は出してよい、重加算税は任意の申告の場合であれば通常はかからない旨告げられたと報告した。そして、D税理士は、修正申告書提出を準備するため、Bに対し、定期預金の一覧表作成を指示し、同時に、売上帳、手形帳、請求書等を預って、自ら除外売上金一覧表を作成する準備にかかった。

11  一方、E副署長は、平成六年四月一二日午前九時ころから、前日、D税理士から修正申告の相談があったことについて、H統括調査官、法人課税部門第三統括国税調査官O(以下「O統括調査官」という。)と協議し、協議の結果、原告らの修正申告の動機が不明確であること、漁業補償に関して粉飾決算をする可能性があること、関西新空港工事に関連した他局の調査で査察部が動くこともあり得ることなどの事情を考慮して、原告らに対する税務調査を行うこととした。

O統括調査官及びH統括調査官は、同日午後一二時三〇分ころ、F調査官、G調査官に、原告らの事務所に赴いて、不正の内容、方法、修正申告書提出の理由を調査するとともに、原告らから預かることができる帳簿、書類を持ち帰るようにと指示した。他方、E副署長は、同日午後一時すぎころ、D税理士に電話をかけ、実情を聞くためにP税務署職員を原告ら事務所に行かせる旨告げた。

そこで、D税理士は、原告らから預かっていた売上帳、手形帳、請求書や、作成途中の集計表等を持って、同日の午後二時ころ、原告ら事務所に出かけた。

12  F調査官らは、平成六年四月一二日午後一時三〇分ころ、原告ら事務所に到着した。そして、同所において、売上除外の動機、方法、金額、除外金額の決済方法、使途、修正申告の動機等についてCらに質問し、Cらから、興進海運につき約二億六〇〇〇万円の売上除外をしていたこと、除外された売上の決済は手形を用いて行っていたこと、除外した売上は原告ら代表者や第三者名義の定期預金としたり、または関連会社への貸付金等としていたこと、同和団体を通じて確定申告する方法で脱税していたこと、犯則調査が行われているという情報が入り、これがマスコミ等で取り上げられると砂利採取の許可が取り消されるおそれがあるので修正申告を行う決意をしたことなどにつき、供述を得た。

また、F調査官らは、Cらに対し、帳簿、書類等の提示を求め、その場で、売上帳の内容、売上金額集計表、総勘定元帳等について、簡単に確認した。Bは当初、普通預金通帳、定期預金証書、定期預金メモについて、提示するのを躊躇していたが、Cの指示で、これらを提示するに至った。F調査官らは、また、帳簿類を預からせてほしいとも求め、Cらから、総勘定元帳六冊、売上帳二冊、請求書四冊、手形帳一冊を預かり、これらにつき預かり書を交付した外、Bからは、定期預金メモ、売上除外に係る金員を取り立てていた普通預金通帳の一頁見開き部分、除外金額集計表の各コピーの交付を受けて、いずれもこれを持ち帰った。

13  H統括調査官は、F調査官らの復命を受けて、査察部が告発してもおかしくない案件と判断し、自ら、査察部のI統括査察官に電話して、原告ら両社がそれぞれ各期約五〇〇〇万円の所得脱漏をしている旨を告げ、原告らから受領した書類のうちの、定期預金メモ、普通預金通帳の一頁見開き部分、除外金額集計表をファクシミリで送信した。

14  他方、査察部は、右同日の平成六年四月一二日、職員を派遣して、松山地方法務局P支局において原告らの商業登記簿謄本の交付を、また、α役場においてC、B、Aらの戸籍謄本の交付を、さらにP市役所において、C、B、Aらの住民票の交付をそれぞれ受けて、内定調査の資料収集を行っていた。

また、査察部では、前述のとおり、原告らに対する内偵調査中であったところ、H統括調査官からの連絡を受けたことで、原告らに罪証隠滅のおそれがあると判断し、当初の予定を早めて、平成六年四月一三日、高松簡易裁判所に対し、原告興進海運を嫌疑者とする法人税法違反の事実で捜索差押許可状の発付するように求めた。その際、金融機関一箇所に対する捜索差押許可状請求の疎明資料として、P税務署からファクシミリで送信された資料を添付した。

そして、査察部は、同日発付された右許可状に基づき、同月一四日、原告興進海運事務所、代表者ら自宅等を捜索し、帳簿類を押収した。また、F調査官らが原告らから預かり、P税務署で保管していた帳簿類についても、P税務署から一旦原告らに返還された後、直ちに査察部が押収した。

15  原告らに対して査察部による強制調査がなされたことを知ったD税理士は、査察事件に関与した経験がないため、その経験を有する税理士に事件の処理を依頼するのがよいと考え、平成六年四月一四日、国税局勤務経験のある税理士K(以下「K税理士」という。)の事務所を訪ねて、原告らを紹介する旨告げ、それ以降、原告らの本件所得脱漏に関する問題は、K税理士が関与することになった。

K税理士は、犯則調査が行われた以上、調査が終了してから修正申告をなせばよいと考えて修正申告書の作成を行わなかった。Cは、平成六年六月二日、K税理士に電話して、原告らの修正申告書を提出するように頼んだが、K税理士は、修正申告しようにも、関係書類は押収済みであり、各事業年度の所得金額を確定することが困難であると説明して、修正申告書は犯則調査の終了後に提出すればよいと答えた。Cは、その後も、K税理士に対して修正申告書を提出したい旨述べたが、K税理士は、原告らの利益にならないとして、これを拒絶していた。

16  原告らの反則調査を担当した査察部の査察官L(以下「L査察官」という。)は、平成六年六月八日、P税務署でK税理士、Cと面談したが、その際、Cは、税金は納めるから事件にしないでほしい、修正申告をしたい旨の希望を述べていた。L査察官は、犯則調査を続行するが、修正申告書を提出するのであれば受理は拒否できないと答えた。そこでCは、平成六年六月一九日と二〇日の二回、D税理士に対して、修正申告書の提出を依頼したが、D税理士は、既にK税理士が関与していることから、これを拒絶した。

17  原告らは、平成六年六月二一日、査察部に要請して、押収された書類のうち、修正申告に必要な書類のコピーをもらい、修正申告をJ税理士に依頼した。そして、同年七月六日、P税務署に修正申告書を提出し、第一次修正申告を行った。

その後、原告らは、平成七年四月一四日、犯則調査の結果から修正を要することとが判明した部分についての再度修正した申告書を、P税務署に提出し、第二次修正申告を行った。

18  被告は、平成七年五月二二日、本件賦課決定処分を行うとともに、本件減額決定処分を行い、原告らにそれぞれ通知した(別紙一覧表参照)。

二  争点に対する判断

1  本件賦課決定処分のための資料収集手続に違憲、違法な点があるか。

前述のとおり、原告らは、P税務職員による査察部の反則調査への協力は適正手続を保証した憲法に反して許されず、被告は、右反則調査によって得られた資料の引継を受けて、本件賦課決定処分をしたものであるから、同処分は違憲、違法である旨主張する。そして、P税務署のH統括調査官が、平成六年四月一二日、査察部のI統括査察官に対し、電話で原告らに犯則の嫌疑がある旨告げ、原告らから預かった資料の一部をファクシリで送信して提供したこと、さらに査察部は、右資料の一部を捜索差押許可状を請求する際の疎明資料として利用していることは、当事者間に争いがない。

そして、税務調査と犯則調査は、調査の目的、手続、組織上の権限を異にしており、税務調査における質問検査権を犯則調査若しくは犯罪捜査のための手段として行使することは許されていないのであるから(法人税法一五六条等参照)、P税務署のH統括調査官及びその指示を受けたF調査官らが、その質問検査権を、犯則調査若しくは犯罪捜査のための手段として行使したと認められるのであれば、その行為は違法なものと評価される余地もあると解される。

しかしながら、法人税法一五六条等の規定は、税務調査中に犯則事件が探知された場合に、その税務調査を端緒として、収税官吏による犯則事件の調査に移行することをも禁ずる趣旨とは解されない(最高裁判所第二小法廷昭和五一年七月九日判決最高裁判所裁判集(刑事)二〇一号一三七頁)。本件においては、前認定の経緯から明らかなように、H統括調査官が事前に査察部と連絡をとったり、査察部の指示によってF調査官らを原告ら事務所に派遣したといったことはなく、また、H統括調査官が、査察部への通報を決意したのも、F調査官らから調査結果の復命を受けた後のことと認められることからすると、H統括調査官が犯則調査若しくは犯罪捜査のためにF調査官らを原告ら事務所に派遣したとは判断することができない。原告らは、P税務署において原告らへの調査を継続する予定がなかったとも指摘して、そのことはF調査官らの原告ら事務所への臨場が査察部への協力のために行われたことの証左であるとも主張するのであるが、税務調査の結果、巨額の脱税を行っている会社があることが判明した段階で、その調査を継続するか否か、継続するとしてそれを何時、どのようにして行うのかは、調査結果の内容や、担当者の日程、その他諸般の事情に照らして、決定されることである。したがって、F調査官ら原告ら事務所に派遣すると決めた段階で、その後の継続調査の予定が立てられていなかったとしても、そのことを理由にして、F調査官らが犯則調査若しくは犯罪捜査のために原告ら事務所に派遣されたと認めることもできない。

このようなことからすると、P税務署職員が原告らに対して行使した質問検査権は、犯則調査若しくは犯罪捜査のための手段として行使されたものとはいえず、H統括調査官らP税務署職員の行為に違法な点があるとは認めることができない。

2  査察部による内偵調査は本条項の「調査」といえるか。

原告らは、本条項にいう「調査」について、納税者に対する当該国税に関する実地又は呼出等の具体的調査を意味するものであり、内偵調査は、本条項における「調査」には該当しない旨主張する。

しかし、加算税制度は、期限内の自主的な納税を原則とする申告納税制度のもとで、これを遵守しない納税者にペナルティーを課し、もって期限内の納税を促進するのと同時に、期限内に正当な納税を了した者とこれを遵守しなかった者との間に不公平感が生じないようにするためのものであり、定められた期限内に正しく申告納税が行われなかった場合には、その後に修正申告書の提出があったとしても、加算税を賦課することが原則で、賦課されない場合は例外的なものである。そのことは、本条項の規定が、加算税の賦課を免れるには、その修正申告が「更正があるべきことを予知してされたものでない」ことを要件としていることからも明らかなところと思われる。加算税を賦課しない範囲を不用意に拡張することで、納税者に対し、期限内に納税しないでおいて、脱税が発覚するような事態に至ってから修正申告をしたとしても、何らの不利益を課される心配がないといった印象を与えるようなことは避けなければならないところである。そこで、本条項の適用範囲は、期限内に正当な納税を行った善良な納税者が抱くであろう不公平感にもかかわらず、加算税を賦課しないことに相当の理由があり、一般に納得できる場合に限定される必要がある。

このように見てくると、加算税が課されない場合を、修正申告が「更正があるべきを予知してされたものでない」ことと限定しているのは、少なくとも修正申告が自発的になされたものであることを必要とするとの趣旨に理解すべきものであろう。その結果として、納税者が過少申告を認識していた場合には「更正があるべきことを予知」することが容易であるため、自発的な修正申告であるといいうる場面は限局されることになるし、納税者にそのような認識がなかった場合には「更正があるべきことを予知」することも困難であるから、自発的な修正申告と認められる場合は比較的広く考えられることになると思われる。

以上のような観点からすると、本条項における「調査」には、何ら限定が付されておらず、解釈上も、何らかの限定を付すべき理由は見当たらない。本条項における「調査」には、納税者が「更正があるべきことを予知」する可能性のある調査のすべてが含まれるものと解すべきであり、したがって、「調査」とは、課税要件事実の充足を認識するための一連の判断過程の一切をいうと解することが相当である。

なお、原告らは、「調査」というためには、納税者に対する当該国税に関する実地又は呼出等の具体的調査が必要であるとか、あるいは、帳簿書類の調査の開始、反面調査で不正が発覚したことが必要であるとするのが先例となっているなどと主張するが、これらの事情は、それが存在すれば調査がなされていることを外形上容易に知り得ることができ、納税者が「更正があるべきことを予知」していたと認定されるべき場合が多いというものにすぎないのであって、これらの事情がなければ「調査」に該当しないとすることには結びつくことがない。そもそも、内偵調査は、通常、密行性を保って行われるので、外部から知り得ず、内偵調査の段階では、「更正があるべきことを予知」する事案というのも、ほとんど考えられないことではあるが、しかし、そうであるからといって、内偵調査が行われている事実が外部に知れることが絶無とはいえず、したがって内偵調査はそもそも「調査」に該たらないという理由もない。

本件においては、前記認定のとおり、平成六年二月ころから査察部において、原告らに関する法人税法違反の事実について資料の収集を行って嫌疑の概要を明らかにしており、同年三月二二日には内偵立件決議がなし、現に広島国税局調査査察部長らに対して調査の嘱託を行っていたというのであるから、本条項における「調査」があったと認められる。

3  査察部による内偵調査が存在していても、原告らの修正申告は「更正があるべきことを予知してされたものでない」といえるか。

原告らは、査察部による内偵調査の存在を知らずに修正申告を決意したのであるから、「更正があるべきことを予知」していたことはあり得ない旨主張する。

しかし、本件においては、査察部による調査が平成六年二月ころから開始され、同年三月二二日には原告らを法人税法違反の嫌疑者とする内偵立件決議も行われるに至っていたこと、そして、原告らが修正申告を決意した時期は、原告の主張をそのまま認めたとしても同年四月九日ないし同月一一日ころのことにすぎないことは前述したとおりである。しかも、その間、原告らは、査察部が調査している旨の匿名の手紙を受け取って、取引銀行に調査の有無を問い合わせ、調査対象者は明らかにならなかったものの、取引銀行の行員から高松国税局の査察部が調査を行っていることを聞き及んでいること、その結果、原告らは、原告らに対し、査察部による調査及び更正が行われるおそれがあるとの危倶感を抱き、D税理士に相談を持ちかけ、修正申告を行うことを決意したという経緯があることも、前述したとおりである。

以上のことからすると、原告らの行った修正申告は、査察部による内偵調査の結果、原告に対する調査及び更正がされることを怖れてなされたものと認める他はないし、実際にも、原告らに対する内偵調査が進んでいたことも前述したとおりであることからすると、原告ら行った修正申告が、「更正があるべきことを予知してされたものでない」とは、到底いうことができないと解される。

なお、原告らは、課税庁側が、「更正があるべきことを予知」していたことを理由に本条項の適用を排除すべき旨主張するのであれば、具体的な調査を行っていたことについて、課税庁側が主張、立証すべきであり、特に査察部による内偵調査が外部に漏洩することは特異な事態であることも、その必要がある旨主張する。

しかし、前述したように、「調査」とは課税要件事実の充足を認識するための一連の判断過程の一切をいうのであり、その調査内容は問わないのであるから、ここでも調査の存在が明らかになっていればそれで足り、調査の内容まで具体的に明らかにしなければならないという必要はない。繰り返すことになるが、本条項の適用の有無を判断するにあたっては、いかなる調査が行われていたかが問題なのではなく、申告納税制度の趣旨に沿ったといえるような自発的な修正申告が行われているかどうかなのである。したがって、納税者が具体的な「調査」の内容までは知らなかったとしても、「調査」が行われていることを認識し、「更正があるべきことを予知」して修正申告を行ったという以上は、自発的な修正申告があったということができず、本条項の適用は排除されて、加算税の賦課を免れることはできないのである。原告らの主張するところは、当裁判所の採るところではない。

4  P税務署による「調査」があったか。

原告らは、平成六年四月一一日には修正申告をする意思を確定し、D税理士がE副署長を訪問し、その意向を伝えているのであるから、その後に、P税務署が原告ら事務所に臨場した行為というものは、修正申告書の受付とその後の審査事務を円滑に進めるための事前協議であって、本条項にいう「調査」には該当しない旨主張する。

しかし、前述したとおり、本条項の「調査」には、何ら限定を付すべき理由はない。ここで「調査」とは、課税要件事実の充足を認識するための一連の判断過程の一切を指し、必ずしも能動的なものであることを要しないから、原告の主張するところは理由がない。原告らの主張中、原告らが修正申告の意思を固め、その意思を表明していれば、それは事前協議であって、調査ではないとする点も、その後に修正申告書の提出がされるとは限らず、提出があったとしても、修正すべきすべての事項にわたって正しく修正がされているとは限らないことを考えるならば、納税者から修正申告の意向を表明があれば、その後のことは事前協議であって、「調査」ではないと解することもできないというべきである。本件においても、D税理士がE副署長を訪問し、修正申告の可否を相談していることに照らすと、原告らが、その時点で、修正申告の意向を有していたものと認めることはできるが、将来、修正されるべき内容については詳細は明らかになっておらず、P税務署が原告らに対する調査を行う必要も、根拠も失われていないということができ、右調査を、本条項にいう「調査」から除外することは理由がない。

なお、このように解するときは、納税者又はその依頼を受けた税理士が収税官吏に修正申告について相談し、その相談を受けたことを契機として、所得脱漏があることを知った課税庁が、改めて「調査」し、修正申告書提出前に「調査」があったと主張して、加算税の賦課決定処分をするという事態が生ずることを怖れるむきもあるようである。しかし、本条項は、修正申告書の提出が、「調査があったことにより(中略)更正があるべきことを予知されたものでない」場合に加算税を賦課しない旨規定しているから、修正申告書を提出する時点では「更正があるべきことを予知」するに至っていたとしても、「調査」の存在と「更正があるべきことの予知」との間に因果関係がなければ、加算税を賦課しないものと解されるのであって、懸念される問題はない。結局、「調査」について、限定的に解釈すべきであるとの原告らの主張は採ることができない。

以上のとおりであるから、P税務署のF調査官らが、平成六年四月一二日に原告ら事務所を訪問し、関係書類の提示を求めるなどした行為も、また、本条項の「調査」に該当すると認められる。

5  P税務署による「調査」が存在していても、原告らの修正申告は「更正があるべきことを予知してされたものでない」といえるか。

原告らは、D税理士を通じて、平成六年四月一一日、P税務署のE副署長に修正申告を確定的に決意したことを告げているから、同月一二日になされた「調査」によって「更正があるべきことを予知」したものではない旨主張する。

ところで、「調査」の存在と、「更正があるべきことを予知」したこと及び修正申告書の提出との間に因果関係が認められなければ、「調査があったことにより(中略)更正があるべきことを予知」したことといえないことは前述したとおりであるが、しかし、本件で、D税理士は、E副署長に対して、何らの資料も提示せず、原告らの会社名も積極的には告げずに、一括的に会社の事業内容、脱税額等を告げて、修正申告が可能か否かを相談しているにすぎないことは、前認定したところがら明らかである。したがって、それが所得脱漏額のすべてについて明らかにする趣旨なのか、いつ修正申告書を提出する趣旨なのかも暖味なままであり、修正申告すべき額の確定もないのである。しかも、その会話中に現れた脱税方法は、売上除外のみであって、原告らが行っていた架空経費の計上という方法については話題に上っていないことも前認定したとおりである。このような面談内容からすると、この時点で、原告らが修正申告書の提出を検討し、その意向を表明していたとは認められるが、しかし、直ちに修正申告が行われることが表明されてはおらず、すべての脱漏所得について正確な修正申告がされるとの期待が持てるとまで断言できる状況ではなかったというほかはない。実際にも、D税理士は、その後に、修正申告書の作成に着手したが、作成に着手した段階では、具体的な修正申告内容が明らかとなっているといった状況にはなかったのである。

いずれにせよ、本件で、原告らが平成六年七月六日になした修正申告書の提出が「調査」の存在とは関係なく行われたとまで認めることはできない。そして、他に、原告らの修正申告書提出が、「調査」が存在しているにもかかわらず、「調査があったことにより(中略)更正があるべきことを予知してされたものでない」と認めるに足りるような事情もない。いずれにせよ、本件で、本条項を適用する余地はない。

6  被告の本件賦課決定処分は、信義則に反するか。

原告らは、E副署長が、原告らの修正申告を受け付ける旨の見解を表明し、係官を原告ら会社事務所を訪問させ、過少申告に関連する帳簿類も提出させておきながら、これによって収集した資料を基礎に重加算税を賦課することは、信義則違反である旨主張する。

課税処分も、信義則の法理によって取り消すことができる場合があるとは解されるが、しかし、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係にあっては、右法理を適用した結果、納税者間の平等、公平を犠牲にすることも出てくることを考えると、その適用には一定の限界を設けることが必要であって、信義則違反を理由として課税処分を取り消すことができる場合というのは、当該課税処分にかかる課税を免れしめて、なお、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理が適用されるというべきであろう。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断にあたっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、納税者がその表示を信頼して、その信頼に基づいて行動したのに、後になって、右表示に反する課税処分がされ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうかとか、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかなどについての考慮が必要となるのである(最高裁判所第三小法廷昭和六二年一〇月三〇日判決訟務月報三四巻四号八五三頁)。

これを本件についてみると、原告らは、D税理士が、E副署長から、修正申告を受け付ける旨見解を示され、原告らもこれを信頼して、F調査官らに帳簿類を交付したのであるから、後日になって、修正申告書の提出がなかったことを理由に重加算税賦課決定処分をすることは、信義則に反すると主張するのであるが、前認定したとおり、E副署長は、P税務署の副署長の任にあるが、D税理士との面談では、原告らの脱税の規模、方法の詳細は明らかにされず、何らの資料も提示されてない段階であったというのであるから、その時点で、原告らの修正申告を直ちに受け付ける旨の公的見解を表明したとは到底考えることができない。前認定したとおり、E副署長は、D税理士に対し、任意の修正申告は自由である、十分に検討して提出するようにと告げているが、それも修正申告の一般的な取扱いについて説明をしたものと理解することが可能であって、原告らから修正申告があればそれを直ちに受け付けるとまでの公式見解を示したものとは理解することができない。Cは、E副署長と面談したD税理士から、修正申告は受け付けられたと告げられた旨供述しているが、修正申告書の提出がなく修正申告の中身も、その根拠も明らかになっていないところで、E副署長やD税理士が修正申告を受け付けるとの確約をするとは考えにくく、Cの右供述部分は採ることができない。

そうすると、本件において、P税務署やその関係者が納税者である原告与らに対して、信頼の対象となる公的見解を示したとの事実はなく、原告らがこれを信頼するということもあり得ないから、本件賦課決定処分が信義則に反するということまではできない。

第五結論

以上の次第で、原告らの本件請求は、いずれも理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上原裕之 裁判官 中山典子)

裁判官 島戸真は、填補のため署名、押印することができない。 裁判長裁判官 上原裕之

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