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松山地方裁判所 平成9年(行ウ)4号 判決 2000年3月29日

甲事件原告

西尾建設有限会社(X1)

右代表者代表取締役

西尾一豊

乙事件原告

西尾一豊(X2)

右両名訴訟代理人弁護士

河野敬

山口広

井上正実

甲事件被告

明浜町(Y1)

右代表者町長

酒井正直

右訴訟代理人弁護士

田中重正

三井康生

酒井精治郎

山下清

乙事件被告

(明浜町長) 酒井正直(Y2)

右訴訟代理人弁護士

米田功

市川武志

大熊伸定

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第二 事案の概要〔中略〕

二 前提となる事実(証拠を引用する外は、争いがない。)

1  原告会社は、港湾関連の土木工事を主たる目的とする資本金一六〇〇万円の有限会社であり、昭和六二年、特定建設業の許可を取得している。

2  被告町の町長は、同町を代表するとともに統轄し、同町の建設土木工事に関する指名競争入札の実施及び入札参加資格認定の職務権限を有して、その事務を管理、執行しており、昭和五三年から現在に至るまで、被告酒井町長が同町の町長を務めている。

3  被告町は、同町発注の建設土木工事に関して、二年毎に建設土木業者から「建設工事入札参加資格審査申請書」を提出させ、指名競争入札に参加する業者をA、Bの二ランクに分類して認定している(右各認定を、以下「Aランク認定」、「Bランク認定」といい、右各認定を受けた業者を「Aランク業者」、「Bランク業者」という。)。そして、Aランク業者は、契約額四五〇〇万円以上の大型工事についても入札に参加することができるが、Bランク業者は、右大型工事の入札には参加できない。

4  被告町の町内に本社事務所がある建設土木業者のうち、Aランク認定を受けているのは、訴外山口建設株式会社(以下「訴外山口建設」という。)、同平野建設株式会社(以下「訴外平野建設」という。)及び同有限会社大塚工務店(以下「訴外大塚工務店」という。)の三社である。

5  原告会社は、昭和六〇年度以降、被告町からBランク業者と認定されており、平成九年三月一九日、被告町に対し、平成九年及び平成一〇年度の建設工事入札参加資格審査申請を行ったところ、被告酒井町長は、同年四月一四日付で、原告会社に対し「Aランク業者としての認定は現状においてはできません。」としてAランク認定をしない旨決定し、同月一六日、原告会社に通知した。

6  原告西尾は、平成九年七月一〇日、被告酒井町長が指名権を濫用して違法に原告会社をAランク業者に認定しなかったため高山漁港環境整備工事と高山漁港改修工事について高額な発注をして明浜町が損害を被ったと主張して、同町監査委員に対し住民監査請求をしたが、同年九月一日、被告酒井町長が同町に不当な損害を与えているとは認められないとして棄却された。〔中略〕

第四 争点に対する判断

一  原告会社に対するAランク不認定の経緯等について

前記前提となる事実に加え、〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  被告町における指名競争入札の実施と指名業者のランク分け

(一)  被告町は、発注する公共土木工事について、工事費が一三〇万円未満のものは、条例により、随意契約ができるが、一三〇万円以上のものは、慣例により、全て指名競争入札によることにしている。これは、一般競争入札を実施すると公平な入札機会が与えられる反面、多数の業者の入札が予想され、町行政として対応しきれなくなることから、一三〇万円以上の公共土木工事については、一定の業者に絞って入札参加資格を認める指名競争入札制を採用しているものである。

(二)  被告町は、指名競争入札への参加資格を有する業者(指名業者)をAないしCの三ランクに分けて格付していたが、昭和六〇年ころから、これをAランクとBランクの二ランクに分け、四五〇〇万円を超える工事はAランク業者に、四五〇〇万円以下の工事はBランク業者に、それぞれ受注させる扱いにしてきた。このような指名業者のランク分け(格付)は、国及び県や他の市町村でも行っており、公共工事の確実性や信頼性の保障の観点から、工事規模に応じて施工能力のある業者を選定しようとする趣旨に基づくものである。

2  被告町における指名業者の選定と格付認定の基準

(一)  被告町は、昭和六〇年四月一日に明浜町発注建設工事指名選定基準(内規)(〔証拠略〕、平成二年四月一日改正後は、〔証拠略〕、以下「指名業者選定基準」という。)を定め、右基準に従って、指名業者の選定を行っている。

(二)  被告町の右指名業者選定基準によればも指名競争入札に参加を希望する業者から、建設工事入札参加資格申請書と経営事項審査結果通知書の提出を求め、これらの書類を基に、(1)不誠実な行為の有無、(2)経営状況及び経営規模、(3)施工能力(技術者数及び従業員数)、(4)完成工事高、過去の実績、(5)安全管理の状況、(6)地理的条件、以上の点を総合的に勘案して、指名業者を選定することにしている(ただし、経営事項審査結果通知書の提出並びに安全管理の状況及び地理的条件の項目は、平成二年の改正により追加されたものである。)。

(三)  被告町は、二年に一度、約二〇〇社の業者からの指名願いを受け、指名業者選定基準に基づいて、指名業者の選定を行っているが、大型公共工事の確実性と信頼性を確保するため、前記のとおり、指名業者の中から、さらに、A、Bのランク分け(格付)を行っている。

(四)  被告町は、A、Bのランク分け(格付)について、明文の審査基準は設定していないが、指名業者選定の際に提出された建設工事入札参加資格申請書に基づき工事実績、常用労務者の確保、工事用機械の保有数等を調査し、さらに、経営事項審査結果通知書(愛媛県知事作成)による経営状況に関する総合評点(以下、「経審総合評点」という。)や県の評価(ランク分け)等を総合的に勘案して決定している。そして、Aランクの認定基準としては、四五〇〇万円以上の大型工事に十分対応できる能力を有しているという観点から、おおよそ、(1)過去の完成工事高が継続して一億円を超える実績を有するか、(2)大型工事に対応できる重機を十分備え、常用労務者を五名以上確保しているか、(3)経審総合評点が七五〇点を継続して超えているか、(4)県の評価(ランク分け)は高いか、(5)その他、不誠実行為の有無も安全管理、労働福祉等の状況に問題はないか、以上の点を総合的に考慮することにしている。

3  被告町の町内の指名業者に対する格付認定

(一)  被告町の指名業者のうちAランク業者の認定を受けるには四五〇〇万円以上の大型工事に十分対応できる能力を有していることが条件となるため、県や他の市町村の大型工事の実績がある町外の業者が多く認定され、昭和六〇年以来、町内の指名業者のうちAランクと認定されたのは、訴外山口建設と同平野建設の二社だけで、原告会社及び訴外大塚工務店等の残り七社はBランクに認定されてきた。

(二)  その後、平成三年に、訴外大塚工務店がAランクに認定され、Aランク業者は三社となったが、被告会社を含む残る六社は、従前どおり、Bランクに認定されてきた。

(三)  なお、被告町では、地場産業育成の見地から、四五〇〇万円未満の工事については、全て、町内のBランク業者を指名する扱いにしている。

4  原告会社の経営能力と他の町内Aランク業者との比較

(一)  原告会社の経審総合評点は、平成二年度が一六三点、平成六年度が七五四点、平成七年度が七四五点、平成八年度が七三六点、平成九年度が七二三点、平成一〇年度が六七七点となっているところ、町内のAランク業者の経審総合評点は、右各年度において原告会社の右点数を上回っており、Aランクと認定された業者のうち最も評点の低い訴外大塚工務店でも、平成二年度が一六七点、平成六年度が七七二点、平成七年度が七八五点、平成八年度が八二三点、平成九年度が七六一点、平成一〇年度が七五三点となっている(〔証拠略〕)。

(二)  原告会社の完成工事高は、平成二年度が約九九九〇万円、平成三年度が約七三九八万円、平成四年度が約一億〇七二八万円、平成五年度が約五九一六万円、平成六年度が約七一五七万円、平成七年度が約一億一三二八万円、平成八年度が約五七四二万円、平成九年度が約五〇〇七万円となっている。これに対し、訴外大塚工務店の完成工事高は、平成二年度が約九六四七万円、平成三年度が約二億〇八五三万円、平成四年度が約一億四八三五万円、平成五年度が約二億六六二二万円、平成六年度が約一億二一〇三万円、平成七年度が約二億〇四四〇万円、平成八年度が約一億六五六〇万円、平成九年度が約二億二二〇三万円となっており、他のAランク業者である訴外山口建設、同平野建設の完成工事高は、各年度において原告会社を大幅に上回っている(〔証拠略〕)。

(三)  愛媛県の土木業者に対するランク分け(格付)については、公式に発表されていないが、被告町で把握しているところによると、AランクからDランクまで四段階に分けられ、原告会社はCランクに、町内のAランク業者のうち訴外山口建設はAランクに、同平野建設、同大塚工務店はいずれもBランクに(なお、平野建設は平成一一年からAランク)、それぞれ認定されている(〔証拠略〕)。なお、県発注工事のうち、原則として、三〇〇〇万円までの工事がCランク、五〇〇〇万円までの工事がBランクの各業者に入札が許されている(〔証拠略〕)。

5  原告会社の不誠実行為

(一)  昭和六一年一一月一四日、明浜漁業協同組合長から、原告会社施工の俵津漁港局部改良工事により海が汚染したとして、真珠養殖漁業に被害が生ずるおそれがあるので建設業者の扱いを検討されたい旨の要望書(〔証拠略〕)が被告町長宛に出され、被告町は、原告会社を六か月間の指名停止処分にした。

(二)  昭和六三年度狩浜漁港海岸保全施設整備工事において、原告会社代表者である原告西尾は、被告町の監督員が訪れていた現場に、社名入りのジャケットを着た町議会議員を同伴して、暗に圧力をかける行為に出た。

(三)平成四年二月一三日、狩浜漁港海岸保全工事において、原告会社が土砂の混入した捨石を海中に投入したため、真珠養殖業者から苦情が出され、被告町が捨石業者を仲介するに至った。ところが、被告町が、平成四年一一月に原告会社に請負代金を支払ったにもかかわらず、原告会社は、捨石業者への代金の支払を平成五年四月まで遅延し、捨石業者から被告町に苦情が寄せられるに至った。

(四)  原告会社は、俵津漁港物揚場災害復旧工事について、工期が遵守できず、被告町に対し、延期願いを提出するとともに、延期された工期内に工事が完成しなかった場合は指名停止処分を受けても異議を申し出ない旨の確約書(〔証拠略〕)を提出した。

6  原告会社に対するAランク不認定と本訴提起

(一)  原告会社は、平成九年二月二四日付の内容証明郵便で、原告ら訴訟代理人弁護士両名を代理人として、被告町に対し、四五〇〇万円以上の工事の指名から除外されていることの不当性を指摘するとともに、指名業者の基準等を明確にするよう求めた。

(二)  その上で、原告会社の代表者である原告西尾と右弁護士両名は、平成九年三月一四日、被告町の町役場を訪問し、被告町の安藤芳夫建設課長らと面談した。その席上、安藤課長らは、右弁護士両名らに対し、被告町の指名選定基準(〔証拠略〕)を提示するとともに、愛媛県による経営事項審査結果や業者の工事施工能力、完成工事高等を総合的に勘案して指名業者をAランク、Bランクに格付している旨説明し、さらに、原告会社の不誠実行為として、昭和六一年の俵津漁港局部改良工事の件、平成四年の狩浜漁港海岸保全工事の件、平成四年の俵津漁港物揚場災害復旧工事の件の三件を挙げ、これらが同社のランク分け評価に影響している旨告げた。

(三)  その後、原告会社は、平成九年三月一九日、被告町に対し、建設工事入札参加資格申請書を提出し、同年三月二一日付の内容証明郵便(通知書)で、原告ら訴訟代理人弁護士両名から、被告酒井町長に対し、原告会社をAランクに認定するよう申入れがなされた。

(四)  被告町は、平成九年度の指名業者の選定及び格付について、前記の審査基準に従って手続を進め、平成七年、平成八年の経審総合評点、完成工事高、愛媛県のランク分け等を総合勘案した結果、町内の指名業者九社については、従前どおり、訴外山口建設、同平野建設及び同大塚工務店の三社をAランクに認定し、原告会社を含む六社をBランクに認定した。

(五)  そして、被告町は、平成九年四月一四日、原告会社の代理人山口広弁護士に対し、同日付の内容証明郵便(回答書)により、原告会社をAランク業者として認定できない旨通知した。

(六)  その後、原告会社から、平成九年七月一〇日、本件甲事件訴訟が提起され、続いて、原告西尾から、同年九月三〇日、本件乙事件訴訟が提起されるに至った。

以上の事実が認められる。

二 原告会社に対するAランク不認定の違法性(争点1)について

原告らは、被告酒井町長が、指名競争入札に参加する指名業者の格付につき原告会社をAランクに認定しなかったことが、被告町の町長としての権限を濫用した違法なものである旨主張するので、以下検討する。

1  一般に、普通地方公共団体がある契約を締結するに当たっては、契約の必要性、相手方、価格、契約内容の適否等を十分考慮しなければならないことはいうまでもなく、ことに、契約金額も高額で施工による危険の大きい土木工事の発注に際しては、その施工により、万が一にも普通地方公共団体やその住民らに損害を及ぼすことのないようも契約相手となる業者を慎重に選定することを要する。そして、公共土木工事の発注において指名競争入札制が採用された場合の参加資格を有する業者(指名業者)の選定やその格付についても、右趣旨からして、指名権者である普通地方公共団体の長(本件では、被告町の町長)に裁量権が与えられていると解するのが相当であり、その指名権の行使が明らかに不合理で、裁量権を逸脱ないし濫用していると認められる場合に限り、違法と評価されるというべきである。

2  これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、被告町は、指名業者選定基準を制定して、二年毎に、約二〇〇社の業者から建設工事入札参加資格申請書と経営事項審査結果通知書を提出させ、不誠実な行為の有無、経営状況及び経営規模、施工能力(技術者数及び従業員数)、完成工事高、過去の実績、安全管理の状況、地理的条件を総合的に勘案して、指名業者の選定を行っていることも指名業者のうちのA、Bランクの審査基準についでは、明文の規定は設けていないが、工事実績、常用労務者の確保、工事用機械の保有数等を調査するとともに、愛媛県知事作成にかかる経営事項審査結果通知書の総合評点(経審総合評点)や愛媛県における評価(ランク分け)等を総合的に勘案して、その認定を行っていること、原告会社は、従来からBランク業者として格付されてきたもので、平成九年度においてもAランクに認定されなかったが、Aランクに認定された町内の指名業者三社と比較して、経審総合評点、完成工事高、愛媛県の評価(ランク分け)が、いずれも劣り、しかも、これまでに数件に及ぶ不誠実行為があったもので、これらを総合勘案すればも被告酒井町長が、原告会社を従来からBランクと認定し、平成九年度もAランクと認定しなかったことは、不合理とはいえないというべきである。

なお、原告らは、Aランク認定において過去の工事実績を考慮することは被告野の大型工事に参加できない原告会社らBランク業者に不利な扱いである旨主張するが、高額な公共土木工事の確実な施工のためAランク認定に工事実績を考慮することには合理的根拠があり、右工事実績には、被告町発注の工事だけでなく、愛媛県や民間からの発注工事も含まれていることが窺えるから(〔証拠略〕)、右主張は当を得ていないというべきである。

3(一)  原告らは、被告町における指名業者のAランク、Bランクの格付は客観的な基準がなく恣意的な運用がなされてきた旨主張するが、右格付は、指名業者のうちから四五〇〇万円を超す大型工事を施工するに相応しい業者を選定するものであるから、指名業者選定基準(〔証拠略〕)を基礎に、より優れた業者をAランク業者に認定すべきことは当然であり、その趣旨から、明文の規定は制定されてないものの、工事実績、常用労務者の確保、工事用機械の保有数等に加え、経審総合評点や愛媛県の評価等を総合的に勘案してAランク認定をするという、前記認定の被告町の審査基準は十分合理性があるというべきである。

なお、原告らは、訴訟代理人弁護士両名が平成九年三月一四日に被告町の安藤建設課長らと面談した際、原告会社のAランク不認定の理由は三件の不誠実行為であると説明されたに過ぎないと主張するが、前記認定のとおり、当日、安藤課長らから被告町の指名業者選定基準(〔証拠略〕)が提示されるとともに、愛媛県による経営事項審査結果や業者の工事施工能力、完成工事高等を総合的に勘案して指名業者をAランク、Bランクに格付している旨説明されており(右説明のあったことは、原告ら訴訟代理人作成の平成九年三月二一日付通知書(〔証拠略〕)の文中で認めている。)、それ以上に具体的審査基準や三件以外の不誠実行為の説明がなかったとしても、被告町の担当者として発言を控えることも考えられるところであって、これらが存在していなかったと直ちに認めることはできない。

(二)  次に、原告らは、原告会社が起重機船を保有し、少なくとも海事工事に関しては四五〇〇万円以上の工事を施工する能力が十分にあるのでAランク業者として認定されるべきである旨主張するが、前記認定のとおり、Aランク、Bランクは、海事工事に限らず、土木工事全般に関する格付であり、〔証拠略〕によれば、Aランク業者が施工する大型工事には大型の起重機船が必要になるところ、原告会社が所有する起重機船は愛媛県の積算基準に適合しない小型船であり、効率のよい起重機船とはいえず、大型の起重機船をチャーターして使用する方が効率がよくコストも安い面があること、さらに、原告会社においては右積算基準によって必要とされる乗員も確保されてないことが認められる。したがって、右起重機船の保有も、他の業者と比して原告会社の評価を必ずしも高めるものではなく、むしろ、〔証拠略〕によれば、原告会社は、町内のAランク業者と比べて、保有する重機類が充実しているとは認め難く、従業員数も技術職員数が比較的多いものの絶対的員数は少数であることが認められるので、原告らの右主張はにわかに採用できない。

(三)  また、原告らは、原告会社が愛媛県から特定建設業の許可を受け、また、県ではCランクと認定されているものの実際は五〇〇〇万円までの工事の入札が認められているから、被告町においてもAランク業者として認定されるべきである旨主張するが、前記認定のとおり、原告会社は愛媛県からの経審総合評点が、町内のAランク業者三社と対比して低く、県の評価もCランクに止まっていて本来は三〇〇〇万円まで工事しか受注できないことからすれば、右主張も採用できない。

(四)  次に、原告らは、被告町が指摘する原告会社の八件の不誠実行為は存在しないか、事実誤認である旨主張する。しかしながら、少なくとも、前記認定のとおり、過去に四件の工事のトラブルが発生したことが認められ、これらは、不誠実行為と評価せざるを得ない(原告らは、昭和六一年の俵津漁港局部改良工事の件について明浜漁業協同組合長作成の要望書を自作自演した文書の疑いがある旨主張し、原告会社代表者である原告西尾は海面を汚濁した事実はない旨供述するが、当時の同漁協の役員会議事録(〔証拠略〕)にも、原告会社の右工事による海の汚染は目に余るものがある旨記載されており、原告西尾の右供述は信用できない。)。なお、指名業者のうちからA、Bのランク付の認定をするには、客観的な工事施工能力を最大の審査基準とすべきであるが、発注者である被告町との信頼関係も重要であり、指各業者選定基準に不誠実行為の存在が挙げられていることからしても、不誠実行為の存在を付随的に斟酌してA、Bランクの格付認定をすることに問題はないというべきである。

なお、原告らは、原告会社の施工した工事はいずれも被告町の工事検査復命書では合格点が得られていることを強調するが、仮に不良個所があって補修工事がなされても、工事月体が完成すれば、工事検査復命書上では合格点が付されることが認められ(〔証拠略〕)、Aランク認定において右事実はそれ程斟酌されるべき事柄ではないというべきである。

(五)  次に、原告らは、原告会社が被告町から差別的取扱いを受けているとして、Aランクに認定されないことは恣意的である旨主張するところも前記認定のとおり、原告会社は昭和六一年に俵津漁港局部改良工事の件で、被告町から六か月間にも及ぶ指名停止処分を受けてているところ、〔証拠略〕によれば、右処分の際には告知や弁解の機会も与えられておらず、また、他の指名業者に対する処分例と比較して停止処分の期間が長いことが認められる。そうすると、被告町の原告会社に対する右処分については問題なしとしないが、前記認定のとおり、原告会社の経審総合評点や完成工事高等については、他の町内のAランク業者に劣後していることは明らかであり、原告が主張するように被告町や被告酒井町長が不当な差別的取扱いによって原告会社を恣意的にAランク認定から排除しているとまで認めるには足りない。

なお、原告らは、被告町が他の業者に対し原告会社を下請として使用してはならないと圧力をかけたとか、原告会社に対してのみ差別的に工事完成保証書の提出を要求したと主張するが、これらの事実を認めるに足りる証拠はない。

(六)  さらに、原告らは、被告町や被告酒井町長が訴外平野建設ら特定のAランク業者を不当に優遇しているとして、A、Bランクの認定が恣意的である旨主張するところ、〔証拠略〕によれば、被告町の発注する工事の過半数以上は訴外平野建設が落札しており、平成二年には一旦他の業者の落札が決定した工事について、読み間違いがあったとして訴外平野建設が落札し直した上、工事金額が大幅に増額されたこともあって、被告町議会においても問題にされたことが認められ、確かに、公共土木工事の特定の一社への集中は問題があるといわなければならない。

しかしながら、訴外平野建設に対する落札の集中に問題があるとしても、このことが直ちに原告会社に対するAランク不認定の不当性に結びつくものではなく、前記認定のとおり、原告会社は、町内三社のAランク業者と経審総合評点や完成工事高等において劣っており、訴外平野建設は、経営状況、完成工事実績や保有する機械器具類等を比較すると原告会社を遥かに凌いでいることが認められるところであって(〔証拠略〕)、原告らの右主張は採用できない。

なお、原告らは、被告町の四五〇〇万円以上の工事をAランク業者に施工させること自体が特定業者のみを不当に優遇する扱いである旨の主張をし、また、分割発注が可能な工事を四五〇〇万円以上の工事になるようにしてAランク業者を不当に優遇している旨主張するが、Aランク業者に施工させる大型工事を四五〇〇万円以上と設定していることが不合理とは認められず、また、公共土木工事のうち国や愛媛県から補助金の交付を受けて実施する工事については、一旦認可を受けた事業計画の変更は困難であることが窺え(〔証拠略〕)、被告町や被告酒井町長が、原告会社らBランク業者を排除するために、あえて高額工事として発注したと認めるに足りる証拠もない。

4  以上のとおりであって、被告酒井町長が、原告会社をAランク業者として認定しなかったことには合理性があり、被告町の町長として右認定権限について与えられた裁量権を逸脱ないし濫用したとは認め難いから、右不認定をもって違法と評価することはできない。

第五 結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、甲事件及び乙事件とも、その余の判断に立ち入るまでもなく、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤武彦 裁判官 熱田康明 島戸真)

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