松山地方裁判所 昭和28年(ワ)147号 判決
原告 野島宏夫
被告 田中平八
一、主 文
被告は原告に対し金参拾参万六千六百弐拾壱円及びこれに対する昭和二十八年八月十一日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。
原告其余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は原告において金五万円の担保を供するときは原告勝訴の部分に限り仮りにこれを執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告は原告に対し金三十五万円及びこれに対する昭和二十七年八月三十一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え訴訟費用は被告の負担とするとの判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、被告は訴外田村豊成に宛て昭和二十七年五月十五日額面金三十五万円支払期日同年八月三十日支払地愛媛県周桑郡丹原町支払場所株式会社伊予銀行丹原支店振出地愛媛県周桑郡国安村とせる約束手形一通を振出したものであるが、原告は昭和二十七年五月二十二日訴外田村豊成より右手形の裏書譲渡を受け該手形の所持人となつた、そこで原告は右手形金の支払を受くるため同年六月十六日取立委任のため株式会社高知相互銀行へ裏書譲渡したところ、同銀行は同年八月二十一日株式会社百十四銀行へ取立委任の為にする裏書譲渡をなし更らに株式会社百十四銀行は同月二十二日株式会社伊予銀行へ取立委任裏書をした、仍て同銀行は満期日に支払場所に該手形を呈示して支払を求めたが、預金不足のため支払を拒絶して原告へその手形を返戻して来たのである、仍て原告は被告に対し元金三十五万円及びこれに対する満期日の翌日たる昭和二十七年八月三十一日より支払済に至るまで年六分の割合による遅延利息の支払を求むるため本訴に及ぶと陳述し、被告の抗弁に対し原告が訴外田村豊成に対する本件手形金三十五万円及び金六万一千八百円の手形債権による債務名義で同訴外人の財産に対し強制執行をした結果、昭和二十八年八月十日金三万五千五百九十五円の配当金を受領したことはこれを認めるが、債務者たる田村豊成においてどの債務の弁済に充当するかについて何等の指定がなかつたので、原告はその翌日同訴外人に対し右配当金を金六万千八百円の手形金の弁済に充当する旨意思表示したところ同訴外人はこれに同意した、従つて本件手形金三十五万円の債権については何等弁済を受けていない、其他被告の抗弁は理由がないと述べた。<立証省略>
被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、被告は原告主張の事実は全部これを認むるも(一)原告は本件手形について支払拒絶証書を作成していないから原告の本訴請求は不当である。(二)原告は本件手形金について訴外田村豊成に対し強制執行をした結果その一部の弁済を受けているので全額の請求には応じられないと抗弁した。<立証省略>
三、理 由
被告が訴外田村豊成に宛て昭和二十七年五月十五日額面金三十五万円支払期日同年八月三十日支払地愛媛県周桑郡丹原町支払場所株式会社伊予銀行丹原支店、振出地愛媛県周桑郡国安村とせる約束手形一通を振出したこと、原告が昭和二十七年五月二十二日訴外田村豊成から右手形の裏書譲渡を受け該手形の所持人となつたこと及び原告が同年六月十六日株式会社高知銀行へ取立委任のためこれを裏書譲渡し、同銀行は又同年八月二十一日株式会社百十四銀行へ取立委任のため裏書譲渡し更らに右百十四銀行が同月二十二日株式会社伊予銀行へ取立委任裏書をなし、同銀行において支払期日に支払場所に該手形を呈示して支払を求めたが支払を拒絶せられたので、原告がその手形の返戻を受けたことはいずれも当事者間に争のないところである。
仍て、先ず、(一)の抗弁について考えて見るに、支払拒絶証書の作成を必要とするのは所謂前者に対する遡及権を行使する場合であつて、支払拒絶証書の作成がないからと言つて約束手形の振出人が手形金の支払を免れることはできないから(一)の抗弁は採用することはできない。次に(二)の抗弁について考察するに、原告が本件の手形金三十五万円と訴外田村豊成振出の金六万千八百円の約束手形金との債務名義で訴外田村豊成の財産に対し強制執行をした結果金三万五千五百九十五円の配当金を受領したことは原告の認めるところである、原告は右配当金はその受領の日の翌日訴外田村豊成の承諾を得て同人に対する金六万千八百円の債権の弁済に充当したと主張するけれども、成立に争のない甲第三号証によれば、原告は訴外田村豊成に対する金三十五万円と金六万千八百円との二個の債務名義に基いて同時に債務者の有体動産を差押えた結果、配当金三万五千五百九十五円を得たのみで該債権の全部を消滅せしむるに足らなかつたことが認め得られる。而して斯る場合においては、宜しく執行吏において合理的に弁済の充当を為すことを要するものにして債務者の自由なる意思に基く法律行為的支払でないから民法第四百八十八条を適用する余地がないものと解するを相当とする。従つて配当金受領の翌日債務者たる訴外田村豊成が原告の指定する債権の弁済の充当に承諾したか否かを判断するまでもなく、原告の再抗弁は失当であるから採用することができない。而して前記甲第三号証中高知地方裁判所執行吏島谷末広の記載部分によれば「本件請求金の合計四十一万五百五十三円(四十一万千八百円の誤記と認められる)の所昭和二十八年執行第二〇四号強制執行競売事件にて執行費用金三千七百十三円を支払ひたる外金三万五千五百九十五円也の配当金を交付せり」とありてそのいずれの債権に幾何の配当金を交付したか文意必らずしも詳らかでないが、これは執行吏が民法の規定に従つて合理的に配当金を交付したものと推認するに難くなく、即ち先ず前記二個の債権の昭和二十八年八月十日迄の遅延利息の支払に充当し尚その余は民法第四百八十九条の規定に従つて弁済の充当が為されたものと解するを相当とする。
仍て、先ず、右基準に従つて計算すると、右金三十五万円の手形債権については昭和二十七年八月三十一日より昭和二十八年八月十日迄、又金六万千八百円の手形債権については昭和二十七年十二月二十日より昭和二十八年八月十日迄、いずれも年六分の割合による遅延利息は前者一万九千八百四十九円後者は二千三百六十七円となること算数上明であるから、右配当金三万五千五百九十五円を以つて右遅延利息の弁済に充当すると残額は金一万三千三百七十九円となり、これを弁済期の先ず至りたる前記三十五万円の債権の弁済に充当すると本件債権は元金三十三万六千六百二十一円となる、従て右金額及びこれに対する昭和二十八年八月十一日以降完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求むる範囲で、原告の本訴請求は正当であるがその余は不当であるから棄却さるべきである。
仍て民事訴訟法第八十九条第百九十六条に則り主文のように判決する。
(裁判官 大西信雄)