松山地方裁判所 昭和37年(行)1号 判決 1966年4月18日
松山市一番町甲七番地
原告
第一タクシー株式会社
右代表者代表取締役
村重嘉三郎
右訴訟代理人弁護士
木村秀太郎
同
伊東甲子一
松山市西堀端
被告
松山税務署長
高市春三
右指定代理人検事
杉浦栄一
同
法務事務官 武智茂雄
同
大蔵事務官 片岡甲子夫
右当事者間の法人税額決定等取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
一、原告訴訟代理人は「被告が昭和三三年八月二九日原告に対してなした清算所得金額二〇、七二四、九三〇円、法人税額九、二六七、〇一〇円、無申告加算税額二、三一六、七五〇円の法人税課税処分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求めた。
二、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。
第二、原告の主張
一、原告の請求原因
(一) 原告はタクシー業を営む株式会社であるが、被告は、昭和三三年八月二九日、原告に対し、原告が昭和三二年五月一三日訴外道後タクシー株式会社(以下道後タクシーという)を吸収合併した件につき、その清算所得金額を二一、九八二、七三七円、法人税額を九、八〇六、一九〇円、無申告加算税額を二、四五一、五〇〇円、違加算税額を四、九〇三、〇〇〇円とする法人税課税処分をした。
原告はこれを不服として昭和三三年九月二五日被告に対し右課税処分に対する再調査の請求をなしたところ、右請求は同年一二月二六日国税局長に対する審査請求とみなされ、高松国税局長は昭和三七年二月二一日原処分の一部を取消し、清算所得金額を二〇、七二四、九三〇円、法人税額を九、二六七、〇一〇円、無申告加清税額を二、三一六、七五〇円とし、重加清税は全部取消す旨の審査決定をなし、右決定は同年三月一日原告に到達した。
しかして、右課税処分の理由は、原告が道後タクシーを吸収合併したが、その合併前に同社の株式を取得しており、法人税法施行規副第二三条の一〇に該当するというのである。
(二) しかしながら、原告は道後タクシーとの合併前に同社の株式を取得していた事実はなく、被告は、原告が道後タクシーとの合併前に同社の営業財産の一部を譲り受けた事実を、その際同社の株式を譲り受けたものと誤認して前記課税処分を行なつたものである。これを詳述すれば次のとおりである。
(1)、原告は、昭和三二年二月三日、吉良権太郎を介して道後タクシー(当時の代表取締役白石五郎)から、同社が一般乗用族客自動車運送事業につき免許を受けた乗用自動車八輛及び電話加入権を代金一、一〇〇万円で買受け、代金支払について、当時道後タクシーが右自動車の購入先である愛媛日野自動車株式会社に対し三七八、七六八円、愛媛日産自動車株式会社に対し九四二、〇〇〇円合計一、三二〇、七六八円の自動車月賦買入代金債務を負担していたので、買主の原告において内一三〇万円の債務につき免責的に債務を引受け、前記売買代金からこれを控除した九七〇万円を直接支払うこととし、併せて道後タクシーが営業所として使用していた松山市大字道後八七三番地所在の建物を昭和三四年一月末まで賃借することを約し、同三二年二月五日右吉良を介して手付金一〇〇万円を道後タクシーに支払つた。(なお、右契約に当り、原告は同業者の妨害工作を警戒し買主が原告であることを表面に出さず道後タクシーに対してもこれを明かさなかつたが、手付金の授受を了してその必要がなくなつたので、原告が買主であることを明らかにし、同日松山市二番町料亭志奈乃において原告の専務取締役兵頭進と道後タクシー代表取締役白石五郎との間で右契約は確認された。」その後、原告は、同年同月二七日原告振出の額面八七〇万円の小切手を右吉良に交付し同人を通じて残代金八七〇千円の支払いを了し、同年三月一日道後タクシーから前記売買物件の引渡を受けた。
(2) ところで、自動車旅客運送事業は認可を要する事業であつて、原告が譲り受けた自動車をその営業に使用するためには、関係官庁に対し増車の申請をしてその認可を受けるか、または道後タクシーと合併するかのいずれかの方法による外ないのであるが、当時前者の方法を採ると同業者の反対を受ける虞れがあつたので反対の少ない合併の方法を採ることとなり、同年五月一三日道後タクシーを吸収合併した。
しかし、これより先、道後タクシーは同年二月二八日(前記売買代金を支払つた日の翌日)現在において、総額四、九三二、三二二円の資産と総額五、一一七、二一五円の負債を有していたが、その後原告と合併するまでの間に、道後タクシー代表取締役白石五郎が事実上の清算を行ない、前記自動車等の売買代金と共にこれを全部処分していたので、合併当時道後タクシーには資産も負債も共に皆無であつた。そのため原告は合併に当り被合併会社である道後タクシーの株主に対して合併による株式の割当、合併交付金の交付を行なわず、道後タクシーの資本金一九〇万円と別途積立金四五、〇〇〇円を原告の資本に組入れるについても、当時の社長木村秀太郎に対し組入資本額に相当する一、九四五、〇〇〇円を立替支払つたようにして記帳整理したような次第であつて、結局合併とはいつても、叙上の如き考慮から単に形式的に合併の形をとつたに過ぎないのである。
(3) なお、株式の譲渡については商法第二〇五条により株券の裏書によるか、または株券及びこれに株主として表示された者の署名をした譲渡証書を交付するかのいずれかの方法によることを要するところ、道後タクシーは合併に至るまで株券を発行していなかつたのであるから、そもそも原告にこれを譲渡するに由なきものであつたのである。
また、原告が前記売買代金として道後タクシーに交付した金員は手付金一〇〇万円を含めて九七〇万円であること、道後タクシーの自動車購入先に対する売買代金債務につき債務引受をしたこと及び道後タクシー代表取締役白石五郎が吉良から残代金を受取つた後も合併に至るまでの間に、道後タクシーの資産及び債務を自らの手で全部処分していることは、本件が株式の譲渡ではなく営業財産の一部の譲渡であつたことを示すものである。
(4) 以上のとおり、原告は道後タクシーとの合併前にその営業財産の一部を譲り受けたことはあるが、その株式を取得していた事実はない。
(三) よつて、法人税法施行規則第二三条の一〇を適用してなされた被告の前記課税処分は違法であるから、原告はその取消を求める。
二、被告の主張に対する答弁
(一) 被告主張(一)の合併の点以外の事実は争う。(二)の(1)、(2)、<5>(但し、原告が株式を取得したとの点を除く)、及び(6)の事実は認めるがその余はすべて争う。(三)は争う。
(二) なお、被告の主張に対し次のとおり附言する。
(1) 被告の主張(二)の(1)の事実については、本件は営業の譲渡ではなく営業財産の一部の譲渡であるから、本来株主総会の特別決議を要しないものであり、仮りに特別決議を要するとしても、右決議の存否と営業財産の一部の譲渡契約が現実に行われたか否かとは直接関係のないことがらである。運輸大臣の認可の点も同様である。
(2) 同(二)の(2)の事実については、原告は、当時譲り受けた自動車を営業用に使用することにつき前記の如く関係官庁の認可を受け難い事情があつたため、道後タクシー代表取締役白石五郎と協議の上、譲り受け後便宜上道後タクシーの名義でこれらの自動車を使用して営業を行ない、これによる収益についての法人税の申告も道後タクシーの名義で行なつた。その関係で収益の基本である右自動車等道後タクシーのものとして記載しておかなければ辻褄が合わないのでそのように記載したに過ぎない。
(3) 同(二)の(3)の事実については、仮りにそのような決議がなされているとすれば、それは右白石五郎が、株式の譲渡とすれば道後タクシーに税金がかからないところから、営業財産の譲渡による課税を免れるために、そのように作為したものである。
(4) 同(二)の(5)の事実については、原告が道後タクシーと合併するにあたり、道後タクシーにおいても手続上取締役会を開く必要があつたが、既に道後タクシーの従来の取締役が全員辞任していたので、議事録に原告の関係者等の氏名を便宜株主として掲げ、これらの者によつて取締役を選任したように記載して形式をととのえたのである。
第三、原告の請求原因に対する被告の答弁及び主張
一、請求原因に対する被告の答弁
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実中、原告が道後タクシーと合併するに際し、その株主に対し合併による株式の割当及び合併交付金の交付を行なわなかつたこと及び道後タクシーが合併に至るまで株券を発行していなかつたことは認めるが、その余はべて争う。
なお、原告は、道後タクシーにおいては株券を発行していなかつたから、原告がその株式を取得するに由ないと主張するが株券が未発行であつても株式の譲渡は可能であつて、ただ会社に対しその効力を生じないに止まることは商法第二〇四条第二項に徴して明らかであるのみならず、そもそも法人税法施行規則第二三条の一〇にいう「法人が合併した場合において合併前に合併法人が取得した被告合併法人の株式」とは株券発行前の株式の譲渡による事実上の株式の取得をも含むものと解すべきであつて、このことは税法における実質課税の原則からいつても当然である。
二、被告の主張
(一) 原告は、昭和三二年五月一三日道後タクシーと合併する以前に同社との合併を企図してその全株式を取得していたものである。
すなわち、原告は松山市道後地区にタクシーの営業所を設置することを企図し、昭和三一年一二月頃、当時保険会社の外交員をしていた吉良権太郎に対し、買主が原告であることを口止めして道後タクシーの買収方を依頼した。しかして、当時道後タクシーは資本金一九〇万円、額面株式の券面額五〇円、発行済株式総数三八、〇〇〇株、株主数二二名であつたが、右吉良は、昭和三二年二月上旬頃、道後タクシーの当時の代表取締役白石五郎を介して、同社の株主全員からその所有株式全部(三八、〇〇〇株)を一株当り二五〇円、合計九五〇万円で買受けることを約し、その内金として八〇万円を右白石に交付し、同月下旬頃、右白石から道後タクシー全株主の白紙委任状つき株式引受証及び右吉良宛の株式譲渡証及び全役員の辞任届の交付を受けるのと引換に、残代金八七〇万円を白石に交付した。ところで、右取引において、吉良権太郎は仲介人に過ぎず、原告が真の買受人として右株式を取得したものであることは、右買収の経緯及び当時右吉良は保険会社の一外交員に過ぎず、前記買収資金もすべて原告から支出され、右株式引受証等も右吉良からその頃原告に引渡されていることに徴して明らかである。
かくして、同年二月二七日以降道後タクシーの経営は原告の掌握するところとなり、同年三月一六日原告と道後タクシーとの間に、合併契約がなされ、同年五月一三日その登記を経由し、原告は道後タクシーを合併するに至つた。
(二) なお、原告は、右の点につき株式の売買ではなく営業財産の売買である旨主張するが、然らざることは次の諸事実によつても明らかである。
(1) 原告の主張によれば、譲受物件は道後タクシーの営業用自動車及び電話設備の全部に及び、かつ道後タクシーの営業用建物をも賃借したというのであるが、かかる重要な営業財産の譲渡につき、道後タクシー、原告とも株主総会の特別決議がなされていない。また営業譲渡につきその有効要件である道路運送法第三九条による運輸大臣の認可も経ていない。
(2) 原告の専務取締役兵頭進が、道後タクシーの代表取締役に就任後、その資格において被告に提出した道後タクシーの昭和三一年四月一日から翌三二年三月三一日までの事業年度に関する法人税確定申告書添付の同年度未現在の貸借対照表には、原告主張の自動車及び電話加入権が依然として道後タクシーの資産として計上されている。
(3) 道後タクシーにおいては、昭和三二年一月二四日開催された臨時株主総会において、株主は全株式を一株当り二五〇円で前記吉良に売却する旨の決議がなされている。
(4) 道後タクシー代表取締役白石五郎が吉良から受け取つた前記九五〇万円は同社に受け入れられることなく、そのまま同社の各株主に配分されている。
(5) 道後タクシーの従来の株主数は前記のとおり二二名であつたが、昭和三二年二月二七日行なわれた役員改選のための臨時株主総会の議事録には、同日現在の株主は四名で、しかも原告の当時の代表取締役木村秀太郎、同じく専務取締役兵頭進等が株主として記載され、更に同年三月一六日に行なわれた合併承認のための臨時株主総会の議事録にも同様の記載があり、これは右木村等は名義株主であつて当時既に原告が道後タクシーの株式を取得していたことが示すものである。
(6) 原告は合併に際し前記のとおり道後タクシーの株主に対し新株の割当、合併交付金の交付を全く行なつていない。
(三) 本件課税の根拠
原告は、前叙のとおり道後タクシーとの合併前に合併を企図してその株式を取得しており、合併に際し道後タクシーの株主に対し合併による株式又は金銭の交付を行なわず、ために被合併法人である道後タクシーには通常の合併ならば生ずべき清算所得を生じないことになり、原告の右株式取得により道後タクシーの合併による清算所得が不当に減少するので、法人税法施行規則第二三条の一〇を適用すべき条件に該当し、右株式取当に要した金額は、合併法人たる原告が被合併法人たる道後タクシーに対し合併により交付する金銭とみなされる。以下その計算根拠を示す。
(1) 交付金とみなされる税金を含まない清算所得金額の計算
所得金額の計算原告が前記株式の取得に要した九五〇万円は、法人税法施行規則第二三条の一〇により合併法人である原告が被合併法人である道後タクシーの株主に対し合併により交付する金銭とみなされ、法人税法第一二条の二により別紙計算表中(1)記載のとおり交付金とみなされる税金を含まない清算所得金額を七、六〇〇、〇〇〇円と算定した。
なお、積立金からなる部分の金額二三六、六七六円は道後タクシーの昭和三二年三月三一日現在の積立金であつて、法人税法第一六条によつて算定したものであり、その明細は別紙積立金明細書のとおりである。
(2) 交付金とみなされる税額の計算
被合併法人である道後タクシーは、合併により消滅するため合併法人たる原告が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税等は法人税法施行規則第二三条の九の規定により合併交付金等とみなして被合併法人の清算所得を計算することとなるが、この場合みなし交付金が増加すれば清算所得も増加し、当該みなし交付金と清算所得に対する法人税等とは相互に循環的に増加する関係にあるので、これを一致させるため、「改正法人税法(昭和二八年八月改正)等の施行に伴う法人税の取扱について」(昭和二八年一〇月三一日直法一一一九―四七)の通達により、別紙計算表中(2)の算式によりみなし交付金の金額を一三、一二四、九三〇円と算定した。
(3) 課税標準となる清算所得金額及び法人税額の計算
課税標準となる清算所得金額は、別紙計算表(3)のとおり(1)により算出した金額七、六〇〇、〇〇〇円と(2)により算出した金額一三、一二四、九三〇円の合計額二〇、七二四、九三〇円である。これに対し清算所得に対する税率を乗じし法人税額を算出することとなるのであるが、右清算所得金額のうちには、積立金からなる部分の金額二三六、六七六円及び積立金以外から成る部分の金額二〇、四八八、二五四円が含まれているので、それぞれの区分に従い法人税法第一七条第一項第二号所定の税率(前者20/100%、後者45/100%)を乗じて法人税額を算定すると、前者につき四七、三二〇円、後者につき九、二一九、六九〇円、合計九、二六七、〇一〇円となる。
(4) なお、無申告加算税額については、原告は本件清算所得についての確定申告書を法定の提出期限である合併後二ケ月以内に提出せず、かつ提出しないことについて正当な理由がないから法人税法第四三条第二項第三号の規定により、右法人税額九、二六七、〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)に対し税率一〇〇分の二五を乗じて、その額を二、三一六、七五〇円と算定した。
(四) 以上のとおり本件法人税課税処分は適法であるから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がない。
第四、証拠関依
一、原告訴訟代理人は、甲第一号証、同第二号証の一、二、同第三、四号証、同第五、六号証の各一、二、同第七号証、同第八号証の一、二、同第九ないし一六号証、同第一七号証の一の1、2二ないし四、五の1ないし7、同第一八号証の一ないし六、同第一九、二〇号証、同第二一号証の一ないし三、同第二二号証を提出し、証人兵頭進、同清水志津代、同田窪正雄、同友沢喜美夫、同上田五郎、同石田敏次、同篠永長典、同大野仁臣、同浅野平二郎、同原正昭(第一、二回)、同吉良権太郎、同宮崎季雄の各証言を援用し、乙第一五号証の一ないし五は不知、その余の乙号各証の成立(乙第一一ないし一四号証は原本の存在も)は認めると述べた。
二、被告指定代理人は、乙第一号証、同第二号証の一、二、同第三号証、同第四号証の一、二の1ないし3、同第五、六号証、同第七号証の一、二、同第八ないし一四号証、同第一五号証の一ないし五、同第一六ないし一八号証、同第一九号証の一ないし五を提出し証人上田五郎、同藤原克己、同安永延秋、同佐藤見直、同石田敏次、同山本昭、同久保立身、同吉良権太郎の各証言を援用し、甲第四号証、同第五、六、八号証の各一、二、同第一五、一六、二二号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立は認めると述べた。
理由
一、原告主張の請求原因(一)の事実については当事者間に争いがない。
二、本件の争点は、要するに、原告が道後タクシーと合併する以前において、同社との合併を企図してその全株式を取得していたと被告が主張するのに対し、原告は、これを否定し、原告が譲受けたのは道後タクシーの営業財産の一部である乗用自動車八輛及び電話加入権である旨主張する。そこで、以下この点について検討する。
原告が、昭和三二年五月一三日、原告と道後タクシー間において同年三月一六日になされた合併契約に基づき、道後タクシーを吸収合併したこと及びその際原告が道後タクシーの株主に対し合併による株式の割当、合併交付金の交付を行なわなかつたことは、当事者間に争いない。
成立に争いない乙第二号証の一、二、同第四号証の一、二の1ないし3同第五、六号証、同第七号証の一、二、同第八ないし「四号証、同第一六ないし一八号証、同第一九号証の一ないし五、証人石田敏次の証言により成立の真正を認める甲第六号証の一、二、証人上田五郎(一部)、同藤原克己、同安永延秋、同佐藤見直、同石田敏次、同山本昭、同吉良権太郎(一部)、同清水志津代(一部)の各証言を総合すれば、
(一) 原告は、事業拡張の一環として松山市道後地区にタクシー営業所を設置しようと企図していたが、たまたま昭和三一年一二月頃、道後タクシーがその事業を手放す意向のあることを知り、これを買収すべく原告の専務取締役兵頭進をその任に当らせた。しかし、当時原告に対しては同業者間に不信感もあり公然と買収に乗り出せば同業者の反対を受け、また道後タクシーにおいてもこれに応じないおそれがあつて所期の目的を達成しがたいことを慮り、右兵頭は、当時保険会社外交員をしていた吉良権太郎に買収方法については一任し、只買主が原告であることを口止めして道後タクシーの買収方を依頼した。
(二)、右吉良は、原告の意図を体し、その頃道後タクシーの当時の代表取締役白石五郎(後に上田と改姓)に対し、久万の山持ち某が経営するので道後タクシーを譲り受けたい旨申し入れた。当時道後タクシーは、右白石を中心とする同族会社で、資本金一九〇万円(発行済株式総数三八、〇〇〇株、一株の金額五〇円、株主数二二名)、主たる資産としては営業用免許自動車八台を有し、収支漸く相償う程度であつたが、右申し入れを受けた白石は、その別途経営にかかる道後映画劇場株式会社に事業を一本化し、タクシー事業は条件如何によつてはこの際整理してもよいと考え、売却方法につき関与税理士石田敏次に相談した結果、営業譲渡の方法によると道後タクシーに多額の税金が課せられるので株式譲渡の方法によるのが得策である旨の助言を得たので、吉良に対し売却方法は全株式の譲渡とし、売却価額は道後タクシーの実質的なほとんど唯一の負債である前記自動車の購入先である愛媛日野ヂーゼル株式会社、愛媛日産自動車株式会社に対する自動車月賦買入代金の残債務一、三二〇、七六八円を考慮して一株二五〇円の線を崩さない限りその値段でならば道後タクシーを手放してもよい旨申し出て、同人の了承を得た。そこで白石は、昭和三二年一月二四日、道後タクシーの株主を招集して臨時株主総会を開き、各株主はその所有株式を一株二五〇円で売却することを決議し、白石にその折衝を委ねた。
(三) しかして、昭和三二年二月三日頃、右吉良と白石との間において、道後タクシーの借入金中、伊予銀行からの四、四五〇、〇〇〇円の借入金は前記道後映画劇場に対する仮払金と相殺勘定となつており実質上同劇場の債務であるから白石が責任をもつて処理することを約した上、道後タクシーの全株式三八、〇〇〇株を吉良の依頼人に対し一株当り二五〇円、合計九五〇万円で売却する旨の契約が締結され、同日及び同月二七日頃、右株式譲渡の対価として九五〇万円の金員が、原告の出捐において、吉良から白石に対し交付され、右金員は道後タクシーに受け入れられることなく、同人から株主に分配され、なお一部は株主の了解を得て白石が経営する道後映画劇場株式会社に対する貸付金又は出資金に転化された。一方、右代金完済と引換えに道後タクシー全株主の白紙委任状付株式引受証及び全役員の辞任届が、白石から吉良に交付され、同人を通じその頃原告に渡された。
かくて、道後タクシーの経営の実権は原告の掌握するところとなり、右取得株式に基づき原告の代表取締役木村秀太郎、同じく専務取締役兵頭進らが名義株主となつて、右兵頭進を道後タクシーの代表取締役に就任させ、同年三月一日役員改選の登記を経由し兵頭進が道後タクシーの経営の衝に当ることとなつた。
(四) 右白石は、前記代金受領後間もなく原告の関係者が道後タクシーの営業所に派遣されてきてはじめて買主が原告であると察知し、同時に吉良からもこれを打明けられ、日頃同業者間でとかく風評のある原告に経営を委ねることを心良く思わなかつたが、既に代金の受領後であつたのでやむなくこれを了承し、同年三月上旬頃松山市二番町料亭志奈乃のおいて右兵頭進と会合し、道後タクシーの経理その他の事務引継を行なつた。
以上の事実を認めることがで、これに当事者間において争いない次の事実、すなわち、(1)原告、道後タクシーとも、営業財産譲渡譲受のための株主総会の決議、及び道路運送法第三九条による運輸大臣の認可申請の手続がなされていないこと、(2)道後タクシーの昭和三二年二月二七日付役員改選のための臨時株主総会議事録には、株主が四名となり、このうち原告の当時の代表取締役木村秀太郎、前記兵頭進が株主として記載されており、更に同年三月一六日付合併承認のための臨時株主総会議事録にも同様な記載がある 、(3)右兵頭進が道後タクシー代表取締役の資格で被告に提出した道後タクシーの昭和三一年四月一日から昭和三二年三月三一日までの事業年度に関する法人税確定申告書添付の同年度末現在における貸借対照表には、原告主張の自動車及び電話加入権が依然として道後タクシーの資産として計上されていること、及び前叙合併についての争いない事実を併せ考えると、本件は営業財産の一部の譲渡ではなく、被告主張の如く、原告は昭和三二年五月一三日道後タクシーを吸収合併する以前において、道後タクシーとの合併を企図し、同社の全株主から発行済総株式三八、〇〇〇株を代金九五〇万円で買受けていた事実を肯認するに十分である。
以上の認定に関し、原告提出にかかる反対証拠のうち、(1)、甲第一号証(自動車営業譲渡譲受契約書)には、昭和三二年二月七日、吉良権太郎と原告代表取締役木村秀太郎との間で、吉良が同月三日道後タクシーから譲り受けたタクシー事業の営業権、営業用自動車八輛及び既設電話一基を代金一、一〇〇万円で原告に譲り渡す旨の記載があり、また甲第三号証(領収書)には、吉良が同月二七日右売買代金一、一〇〇万円の残代金一、〇〇〇万円のうち、愛媛日野ヂーゼル株式会社及び愛媛日産自動車株式会社に対する車輛三輛の未払金一三〇万円を差引いた残金八七〇万円を原告から受領した旨の記載がある。しかし、前示認定の資料に供した各証拠及び当事者間に争いない前敍(1)ないし(3)の事実に対比すれば、右甲第一号証及び同第三号証の記載をもつて原告主張に副う証左と解することは到底困難であり、これにより前示認定を動かすに足りない。もつとも、右甲第一号証及び同第三条証記載の代金額の点に関し、成立に争いない甲第二号証の一、二、同第一八号証の一ないし三、乙第一八号証、同第一九号証の一ないし五によれば、吉良は、原告から交付された同月四日付原告振出の額面二〇万円及び八〇万円の小切手二通、同月二七日付同じく原告振出の額面八七〇万円の小切手二通、同月二七日付同じく原告振出の額面八七〇万円の小切手一通を自己の取引銀行である株式会社香川相互銀行三津浜支店の当座預金口座に振込んだ上、同月五日頃同人振出の額面一〇〇万円の小切手一通、同月二七日頃総額八七〇万円の小切手四通を白石に交付した事実が認められるので、前叙株式の譲渡価額と二〇万円の差を生じ、その限りにおいては、被告主張の株式譲渡価額にそごを来たし、ひいては株式譲渡自体をも否定すべきかのようであるか、前額乙第五号証及び同第八号証に徴すれば、少くとも株式譲渡の対価そのものとしては前叙九五〇万円と認めるに支障なく、右交付金額の差異は、吉良または白石の不明朗な所為に帰することは格別、本件が株式譲渡であるとする前示認定を左右するものではない。なお、右乙第三号証記載の自動車購入代金残債務の点に関し、証人兵頭進の証言により成立の真正を認める甲第五号証の一、二、証人大野仁臣、同浅野平二郎同松永長典の各証言によれば、原告が、道後タクシーの愛媛日野ヂーゼル株式会社及び愛媛日産株式会社に対する自動車月賦購入代金残債務中一三〇万円を支払つた事実を認めることができる。しかし、前示認定のとおり本件株式譲渡の対価は道後タクシーの右債務を考慮しこれを新経営者側に引継ぐことを前提として取極められたものであり、右債務は本来道後タクシーにおいて支払うべきものであることはいうまでもないが、道後タクシーの全株式を取得しその実権を握つた原告が右債務を引受けて支払つたとしても、企業所有と企業経営の一致する本件においては別段異とするに足らず、このことは前示株式譲渡の事実と矛盾するものではない。(2)成立に争いない甲第一〇号証(家屋賃貸借契約書)によれば、道後映画劇場株式会社が、昭和三二年三月一日から、その所有の松山市大字道後八七三番地所在の家屋(道後タクシーの営業所)を原告に家賃一ケ月二万円で賃貸する旨約した事実を認めることができる。なるほど、原告が道後タクシーの全株式を取得し、道後タクシーの名義で営業を継続するのであれば、従前からの賃貸借を承継できるので、かかる契約を改めて締結することは一見不要のようにも考えられる。しかしながら、前示認定の、道後タクシーと道後映画劇場株式会社がいずれも白石五郎の経営にかかる同族会社であつた事実に、証人上田五郎の証言を併せ考えると、同人が従前通り道後タクシーの経営を続けている限り利益の実質的帰属に影響はなかつたが、第三者が経営することになれば事情を異にし右劇場会社としては賃貸関係を明確にし賃料を確保する必要があつたことを推認でき、従つて右賃貸借契約の存在も前示株式譲渡の事実の認定の妨げとなるものではない。(3)甲第一七号証の一の1。2。二ないし四、五の1ないし7には、前示認定の(四)の会合の日時の点に関し、原告関係者が昭和三二年二月一日から同年三月末日までの間に、料享志奈乃において飲食したのは、同年二月五日、二五日の両日だけで、五日には原告の専務取締役名義で四名が飲食した趣旨の窺える記載がある。けれども、料享業者が馴染客または即金払の客に対し常に請求書や領収書を作成し、これを帳簿に記載するとは限らないばかりか、この点に関する証人清水志津代の証言によつて成立の真正を認める甲第一五号証の記載、証人清水志津代の供述及び前叙代金支払方法に照らし、さらには証人吉良権太郎の証言によつて成立の真正を認める甲第一号証、前顕甲第六号証の一、二の各作成日付に徴しても、冒頭掲記の甲号証の記載は、この点に関する前示認定を動かす資料として採用できない。(4)この外、前示認定に反する甲第九、一五号証、証人兵頭進、同吉良権太郎、同清水志津代、同田窪正雄、同宮脇季雄、同上田五郎の各証言は以上の説示に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
なお、原告は、道後タクシーにおいては株券が発行されていなかつたので、株式を譲渡するに由なきものであつた旨主張するが、株券未発行でも株式譲渡が可能であることは商法第二〇四条第二項の規定に徴して明らかである。
三、ところで、法人税法施行規則第二三条の一〇(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令」による改正前のもの)には「法人が合併した場合において、合併前に合併法人が取得した被合併法人の株式があり、その取得により被合併法人の清算所得金額が不当に減少する結果となると認められるときは、当該株式の取得に要した金額は、合併法人が被合併法人の株主、社員又は出資者に対し合併により交付する金銭とみなし、当該株式については、合併法人の株式の割当又は引当があつたものとみなして被合併法人の清算所得金額を計算する」と規定されており、本件において、原告が道後タクシーを吸収合併する前に合併することを予期して被合併法人たる道後タクシーの全株式を取得していたこと前段認定のとおりで、このため被合併法人である道後タクシーには通常の合併ならば生ずべき清算所得を生じないことになり原告の右株式取得により道後タクシーの合併による清算所得が不当に減少するに至つたことも前説示のところから容易に肯認し得るところであり、なお、同条にいう「株式」とは税法における実質課税の原則からみても株券発行前の株式の譲渡による事実上の株式の取得をも含まれると解すべきであるから、本件は同条所定の要件に該当する。
そこで進んで、本件課税標準たる清算所得金額及びこれに対する法人税額の計算根拠について検討する。(1)先ず法人が合併した場合の清算所得の計算は法人税法第一二条の二(昭和三七年法律第四五号「法人税法の一部を改正する法律」による改正前のもの)によることとなるが、本件においてはその計算基礎として前示法人税法施行規則第二三条の一〇により原告が前叙株式取得に要した九五〇万円は合併交付金とみなされる結果、交付金とみなされる税金を含まない清算所得は、別紙計算表(1)記載のとおり、右金額から前示道後タクシーの資本金額を控除した七六〇万円と算定される。なお、成立に争いのない乙第三号証によれば、道後タクシーの積立金は別紙積立金明細書記載のとおり合計二三六、六七六円と認められるので、右清算所得のうち、積立金からなる部分の金額及び積立金以外からなる部分の金額はそれぞれ同計算表掲記のとおりとなる。次に、(2)法人税法施行規則第二三条の九(昭和三七年政令第九五号「法人税法施行規則の一部を改正する政令」による改正前のもの)により合併法人が納付する被合併法人の清算所得に対する法人税又はその法人税にかかる地方税額に相当する金額は合併交付金とみなされて被合併法人の清算所得金額を計算することとなるが、この場合の計算は、次の通達、すなわち「改正法人税法(昭和二八年八月改正)等の施行に伴う法人税の取扱について(昭和二八年一〇月三一日直法一―一一九―四七)」によることとなり別紙計算表(2)の算式により右みなし交付金の金額は一三、一二四、九三〇円と算定される。(3)本件の課税標準となる清算所得金額は、結局同計算表(3)記載のとおり右(1)、(2)で算定した金額の合計二〇、七二四、九三〇円となると考えられるので、このうち積立金からなる部分の金額及び積立金以外からなる部分の金額の区別に応じ、法人税法第一七条第一項第二号(昭和三三年法律第四〇号「法人税法の一部を改正する法律」による改正前のもの)に則り所定の税率(前者20/100% 後者45/100%)を乗じて算出すれば、本件合併による清算所得に対する法人税額は九、二六七、〇一〇円となることが計算上明らかである。
なお、無申告加算税額については、原告が本件清算所得に関する確定申告書を決定の提出期限である合併後「一ケ月以内に提出しなかつたことは弁論の全趣旨に徴して明らかに原告の争わないところであり、かつその提出しなかつたことにつき正当な理由があつたとの事実は原告が主張も立証もしないところなので、法人税法第四三条第二項第三号(昭和三七年法律第六七号「国税通則法の施行等に伴う関係法令の整備等に関する法律」による削除前のもの)により右法人税額九、二六七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)に対し税率一〇〇分の二五を乗じて算出した二、三一六、七五〇円の加算税も当然追徴されることとなる。
四、以上の次第で、被告のなした原告に対する本件法人税課税処分(審査決定で取消された部分を除く)には、何ら違法な点は存しないので原告の請求は理由がない。
よつて、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷本益繁 裁判官 上野智 裁判官 尾崎俊信)
右は正本である。
昭和四一年四月一八日
同庁裁判所書記官 高岡寿夫
計算表
(1) 交付金とみなされる税金を含まない清算所得金額の計算
A 交付金とみなされる株式取得金額 9,500.000円
B 道得タクシーの合併時間の資本金 1,900,000円
A――B 7,600,000円
内訳{積立金からなる部分の金額 236,676円
積立金以外からなる部分の金額 7,363,324円
(2) 交付金とみなされる税金の計算
<省略>
積立金明細書
<省略>
Y=清算所得のうち積立金からなる部分の金額(100円未満の端数切捨)
Z=切捨清算所得のうち積立金以外からなる部分の金額(100円未満の端数切捨)
A=Yに対する法人税の税率(20%)
B=Zに対する法人税の税率(45%)
O―県、市民税の税率(15.1%)
D=県民税の税率(12%)
<省略>
(3) 課税標率となる清算所得金額
<1>による算出金額+(2)による算出金額=課税標準となる清算所得金額
7,600,000円+13,124,930円=20,724,930円
内訳{積立金からなる部分の金額 236,676円
積立金以外からなる部分の金額 20,488,254円