大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松山地方裁判所 昭和37年(行)3号 判決 1963年3月11日

愛媛県南宇和郡城辺町甲一、七七〇番地の一

原告

木田利雄

宇和島市堀端町

被告

宇和島税務署長

末光謹也

右指定代理人

村重慶一

天野定義

武智茂雄

内田敦見

右当事者間の昭和三七年(行)第三号所得税課税標準額変更請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が昭和三六年七月一四日原告に対してなした昭和三五年度分所得税の総所得金額を四〇六、三〇〇円とした更正決定中総所得金額二七〇、〇〇〇円を超える部分を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として

原告は洋品店を経営しているものであるが、昭和三六年三月一三日昭和三五年度分所得税につき総所得金額を二七〇、〇〇〇円として確定申告をなしたところ、被告は同年七月一四日原告に対し総所得金額を四六七、二〇〇円とする旨の更正決定をした。原告はこれを不服として同年八月一一日被告に対し再調査の請求をなしたところ、被告は更正決定の一部を取消し総所得金額を四〇六、三〇〇円とする旨の再調査決定をし、更に原告において同年一二月一三日高松国税局長に対し審査請求の手続をとつたが、翌三七年四月五日請求却下の決定の通知に接した。しかしながら原告の右年度の総所得金額は前記のとおり二七〇、〇〇〇円であり、被告のなした前記更正決定は充分な調査もせずになされた推定課税であつて違法であるから、その取消を求める。

と述べ

被告の本案前の抗弁に対し、本件更正決定に関する再調査の決定がなされた日及び右決定の通知書が原告方に到達した日は知らない。原告は昭和三六年一一月六日から同月一四日までの間、松山市三津浜在住の原告の義姉玉井操方へ同女の夫が死亡したため出向き、一四日の晩に帰宅したところ右通知書が届いていたので、通知のあつたことを現実に知つた日から一カ月以内に審査の請求をすればよいものと考え、右期間内にその手続をとつたものである。なお右審査の請求をした後高松国税局の担当官が原告方を訪れ帳簿等について調査を行つた事実があり、右事実は被告側においても右審査の請求を適法と認めて実体的審査をする意思があつたことを示すものである。

と述べ、乙号各証の成立はいずれも認めると答えた。

被告指定代理人は、「本件訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本案前の抗弁として、

本件更正決定に関する原告の審査請求は、右更正決定に関する再調査決定が昭和三六年一一月八日になされ、右決定の通知書が同月九日原告方に到達していたのにもかかわらず、当時施行の所得税法第四九条第一項所定の審査請求期間である一カ月を徒過し、同年一二月一四日になされたため却下されたものである。しかして所得税更正決定の取消、変更を求める訴は同法第五一条第一項により適法に審査の決定を経なければ出訴できないのであるから、本件訴は結局訴願前置の要件を欠いた不適法な訴として却下されるべきである。なお、原告が前記審査の請求をした後、被告側において原告方を訪れ調査した事実はあるが、それは右審査の請求の期間徒過の点について事情を聴取したものであつて、実体について調査を行つたものではない。

と述べ

本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

原告主張の請求原因事実中、本件更正決定が充分な調査をせずになされた違法な処分である旨の主張は争うが、その余の事実はすべて認める。

本件更正決定には何等違法な点は存しない。

と述べ、

証拠として、乙第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一乃至七を提出した。

理由

まず本件訴の適否について考察するに、被告が原告に対しその主張の如き所得税更正決定をなし、原告がその主張の日に被告に対し右更正決定につき再調査の請求をなしたことは当事者間に争いがない。そして成立に争いがない乙第二号証、同第三号証の六及び七の各記載に弁論の全趣旨を総合すると、右再調査の請求に対する決定は昭和三六年一一月八日になされ、右決定の通知書は即日郵便で発送されて翌九日原告方に配達され少くともその受領権限を有する者においてこれを受領したことを肯認することができる。ところで当時施行の所得税法第四九条第一頃には、審査の請求は、再調査の決定の通知を受けた日から一カ月以内になすことを要する旨規定されており、右通知を受けた日とは再調査請求者において右決定を客観的に了知しうる状態になつた日を意味し、決定通知書が郵送された場合には、右郵便が再調査請求者方に配達され、その受領権限を有する者においてこれを受領した以上、請求者において客観的にこれを了知しうる状態になつたものと解すべきであるから、本件において原告が再調査決定の通知を受けた日は同年一二月九日とみるべきところ、原告が高松国税局長に対し審査の請求をした日は原告の主張すところによつても同年一二月一三日であるから、右審査の請求が法定期間経過後になされたものであることは明らかである。そして右法定期間を徒過したことについてかりに原告主張の如き事情があつたとしても、そのような事情は前記所得税法第四九条第三項、第二五条の三所定の已を得ない事由がある場合には該当しないものと解せられ、他に已を得ない事情があつたことを認めるに足る資料もないから原告のなした右審査の請求は不適法といわなければならない。なお原告は、右審査の請求後高松国税局の担当官が原告方の帳簿等について調査をした事実があり、右事実は被告側において右審査の請求を適法と認めて実体的な審査をする意思を有していたことを示すものである旨主張するが、かりにそのような事実があつたとしても、そのことから直ちに原告主張のようには推断し難く、かえつて前掲乙第三号証の六、及び成立に争いがない乙第三号証の三乃至五の各記載によれば、高松国税局の原告に対する調査は右審査請求が法定期間を徒過している点について原告に已を得ない事由があつたか否かを調査することを主眼としてなされたものであつて、右調査の結果その事由がないものと認めて実体的な審査をすることなく請求を却下したことが認められるので、原告の右主張も採用できない。

しかして所得税更正決定が違法であるとしてその取消を求める訴は、審査の決定を経た後でなければ提起できないことは前記所得税法第五一条第一項の規定に徴して明らかであるから、右審査の請求が不適法である以上本訴は結局審査の決定を経ないで提起されたものに帰し、訴提起の要件を欠く不適法なものといわなければならない。

よつて本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢島好信 裁判官 谷本益繁 裁判官 吉田修)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例