松山地方裁判所 昭和39年(ワ)322号 判決 1965年2月15日
原告 伊予日産モーター株式会社
被告 拓南建設株式会社 外一名
主文
(一) 被告らは、連帯して原告に対し、金一七一、六七〇円及び内金一二八、四四四円に対する昭和三九年九月一日から完済まで年五分の金銭の支払をせよ。
(二) 原告のその余の請求を棄却する。
(三) 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告、その余を被告らの各負担とする。
(四) この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実
(原告の申立)
「被告らは、連帯して原告に対し、金二三二、三九六円及び内金一八九、一七〇円に対する昭和三九年九月一日から完済まで年五分の金銭の支払をせよ。訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求める。
(原告の請求原因)
一、原告は、自動車の販売、修理を業とする会社であり、被告拓南建設株式会社は、建築業を営む会社である。
二、原告は、昭和三八年一一月二八日、被告会社に対して、一九六四年式ニツサン自動車一台(型式GC一四一、車台番号四-C一四一-〇二〇〇九)を次の約定により売渡した。
(1) 売買代金 金一、三一〇、〇〇〇円
(2) 支払方法 被告会社の提供した下取自動車の価格を金一二〇、〇〇〇円として右代金の一部に弁済充当し、さらに、同日金五〇、〇〇〇円の支払を受けたので、残代金一、一四〇、〇〇〇円に月賦手数料金一五〇、五九〇円を加えた合計金一、二九〇、五九〇円を、昭和三八年一二月から昭和四〇年一一月まで毎月二五日、第一回は金五三、八八〇円、第二回以後は金五三、七七〇円宛割賦弁済する。
(3) 所有権 被告会社が右代金を完済するまで、本件自動車の所有権は原告に留保したまま、その使用を被告会社に許す。
(4) 契約解除 被告会社が右割賦金の支払を怠つたときは、原告は、何ら通知催告を要しないで契約を解除することができる。契約が解除されたときは、原告は、本件自動車の返還を求め、これを他に処分した場合、その価格を損害に充当することができる。
(5) 遅延損害金 被告会社が右割賦金の支払を怠つたときは、一〇〇円につき日歩一〇銭の遅延損害金を支払う。
三、被告大西恵は、同日、右契約における被告会社の債務につき連帯保証した。
四、被告会社は、昭和三八年一二月二五日第一回の割賦金五三、八八〇円、昭和三九年五月一八日第六回の割賦金五三、七七〇円、同年八月二五日、第九回の割賦金五三、七七〇円の以上合計一六一、四二〇円を支払つたのみで、その余の支払をしないので、原告は、同年同月三一日、前記特約に基づいて、本件売買契約を解除し、さきに被告会社から引渡を受けていた本件自動車を同日他に金九四〇、〇〇〇円で売却した。そこで、右契約解除による原告の損害は、売買残代金一、一二九、一七〇円から右売却代金を控除した金一八九、一七〇円となる。
五、右契約解除の日以前に支払期日が到来した割賦金に対する日歩一〇銭の割合による約定損害金は、別紙計算書<省略>のとおり、合計金四三、二二六円である。
六、よつて、原告は、被告らに対して、(1) 契約解除による損害金一八九、一七〇円、(2) 右遅延損害金四三、二二六円、(3) (1) の金銭に対する解除の翌日である昭和三九年九月一日から完済まで年五分の遅延損害金の連帯支払を求める。
七、なお、被告らの抗弁事実は争う。
(被告らの答弁)
被告らは、本件口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものとみなされた答弁書には、次の記載がある。
(請求に対する答弁の趣旨)
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
「(請求原因に対する答弁事実)
一、訴状記載の自動車を原告より割賦払の契約にて買受けていたことは事実である。
二、右契約の際被告の中古自動車を一二万円として原告に引渡し、外に当日内入金として金五万円を支払い残金を割賦払の約であつた。
三、原告に対する割賦金の支払いは第一回より第九回まで回り手形等をもつて割賦金の決済、即ち原告に対する支払は済んでいる。
四、被告は右自動車の必要性に乏しいので原告と話合いで昭和三九年七月一四日右売買契約を解除して右自動車を原告に引渡したが、その際原告方の自動車販売課長は被告に対し余り自動車も使用しないため消耗してないので、今自動車を引取れば割賦金も相殺して今後この自動車の割賦金の請求をしないと明言しており、右自動車の引渡と同時に右自動車に対する債務は一切残つていない。
以上のとおりであるから訴状請求に応ずることはできないのみならず、不当の請求である。」
(証拠関係)<省略>
理由
建築業を営む被告会社が、昭和三八年一一月二八日、原告から本件自動車を割賦販売契約により買受けたこと、右契約の約定が原告主張のとおりであること、及び被告大西が右契約における被告会社の債務につき連帯保証したことは、いずれも被告らの明らかに争わないところであるから、これを自白したものとみなす。そして、証人長尾神六の証言、これにより成立を認めうる甲第一号証、第二号証の一、二及び弁論の全趣旨を綜合すると、被告会社は、昭和三八年一二月二五日第一回、昭和三九年五月一八日第六回、同年八月二五日第九回の各割賦金合計金一六一、四二〇円を原告に支払つたこと、原告は、同年七月八日、被告会社から本件自動車を預つた上、延滞している割賦金の支払を催告したが、第二回ないし第五回及び第七、八回の割賦金の支払がなかつたので、同年八月三一日、約定に基づき、被告会社の代表者である被告大西に対し、口頭で本件契約解除の通告をし、同日本件自動車を他に金九四万円で売却したことが認められる。
被告らは、原告が、本件自動車を引取る際、今後割賦金の請求をしない(損害賠償をも請求しない意味?)旨明言したと主張するが、その事実を認めるに足りる証拠はないから、被告らの抗弁は採用できない。
そこで、右契約解除による損害賠償について案ずるに、自動車の割賦販売契約において、買主の債務不履行によつて契約が解除され、かつ、売主が自動車の返還を受けたときの売主の通常こうむるべき損害は、一応、自動車の販売価格と解除時の価格との差額であると考えられる。そして、前記甲第一号証によると、本件契約には、契約が解除された場合、売主は、すでに受領した代金を損害の全部又は一部に充当する旨の約定が認められ、原告が右約定に基づいて充当する趣旨であることは計算上明らかであるので、本件について見ると、本件自動車の割賦販売価格金一、四六〇、五九〇円(原告主張の売買代金と月賦手数料を合計したもの)から、契約時の入金額一七〇、〇〇〇円及び前記割賦金の入金額一六一、四二〇円を控除し、さらに、右解除時の本件自動車の価格金九四万円(他に特段の立証のない本件においては、原告が処分した前記代金額をもつて、本件自動車の当時の適正な価格と見るほかはない。)を控除した残額一八九、一六〇円が本件契約解除によつて原告がこうむつた通常損害といえるようである。(結局、この金額は、原告の主張する本件自動車の売買残代金と右処分価格との差額ということになる。)
しかし、本件契約のように、損害賠償額の予定又は違約金の定めの認められない割賦販売契約において、解除による損害賠償の範囲を定めるについて、当然に月賦手数料を加算した割賦販売価格を基準とすることに、果して合理性があるであろうか。
一般に、債務不履行による債務者が金銭の給付をすべき者(買主)である場合には、契約解除による填補賠償額は本来の給付額と一致するのが原則であり、もし、右賠償額が本来の履行利益を上廻るような事情のあるときには、特段の約定がない限り、解除によつて債権者がえた利益として、損益相殺の対象となるべきものと解するのが相当である。ところで、自動車の割賦販売においては、割賦販売価格と現金販売価格の二本建をとるのが、通常の形態であり(割賦販売法第三条)、その場合その差額(本件契約では月賦手数料と呼ばれる。)が、買主に代金の割賦弁済の利益を与える代償として、売主のために現金販売価格(但し、割賦金ごとに逓減する。)に対する一定の割合から算出された金利の合計額にあたり、各割賦金がいずれも右金利分を加算した金額であることは、周知の事実である。そうすれば、本来買主において割賦弁済の利益を保持しながら支払うべき割賦金がその主要部分を占める割賦販売価格を、当然に契約解除による損害算定の基準とすることは、解除によつて割賦弁済の利益を奪われる買主の立場を無視することになり、反面、売主に本来の履行利益以上の損害賠償をえさせる結果になる。
以上のような観点から、当裁判所は、割賦販売契約解除による損害賠償を算定するには、割賦販売価格から、解除後に支払期日の到来する各割賦金中月賦手数料に相当する分を控除することが合理的であると考える。
本件については、前記甲第一号証によると、契約解除の昭和三九年八月三一日以降支払期日の到来する割賦金は、第一〇回以降の分であり、これに包含される月賦手数料の合計は金六〇、七二六円であることが認められる。従つて、本件契約解除によつて原告のこうむつた通常損害の額は、前記計算による金一八九、一六〇円から右金額を控除した残額一二八、四四四円といわねばならない。
次に、割賦金について原告主張のような遅延損害金の約定があることは、前記のとおり被告らの争わないところと認められ、契約解除前に支払期日の到来した割賦金に対する右遅延損害金は、別紙計算書のとおり金四三、二二六円に達する。
よつて、原告の請求は、被告らに対して、契約解除による損害金一二八、四四四円及び右約定遅延損害金四三、二二六円の合計金一七一、六七〇円と右前者に対する解除の翌日である昭和三九年九月一日から完済まで年五分の遅延損害金の連帯支払を求める限度において正当であるから、これを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第九二条、第九三条、仮執行につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 橋本攻)