松山地方裁判所 昭和40年(ワ)57号 判決 1965年9月16日
原告 伊予日産モーター株式会社
被告 千葉昭三
主文
被告は原告に対し金六、七九三円およびこれに対する昭和四〇年七月一八日からその支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担、その余を被告の負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し金六四、七九三円およびこれに対する昭和四〇年七月一八日から支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。
一、原告は自動車の販売を営む会社であるが、被告に対し昭和三八年一二月一〇日ニツサン・ジユニア貨物自動車一台(以下単に「ジユニア」と略称する。)を金四二九、〇八〇円で売渡し、その支払方法として、被告は金五〇、〇〇〇円を売買と同時に支払い、残代金三七九、〇八〇円を一五回に分割し、昭和三八年一二月から昭和三九年三月まで金一〇、〇〇〇円づつを毎月二〇日限り、昭和三九年四月から昭和四〇年二月まで金三〇、八〇〇円づつを毎月二〇日限り支払うこと、割賦金の支払を一回でも怠つたときは割賦払の利益を失い、即時に残額を支払うことおよびその他の特約事項を定めた。
二、さらに原告は被告に対し昭和三九年五月二五日ニツサン・セドリツク・ライトバン一台(以下単に「ライトバン」と略称する。)を金三七三、〇〇〇円で売渡し、その代金支払方法として、被告所有の自動車を金一三〇、〇〇〇円と評価してこれを売買代金の支払の一部に充当し、残代金二四三、〇〇〇円を一五回に分割し、昭和三九年六月から昭和四〇年八月まで金一六、二〇〇円づつを毎月末日限り支払うこと、割賦金の支払を一回でも怠つたときは割賦払の利益を失い即時に残額を支払うことおよびその他の特約事項を定めた。
三、そして、原告は昭和三九年一一月二〇日現在でジユニアについては金一二三、二八〇円、ライトバンについては同年同月三〇日現在金一六二、〇〇〇円の各割賦払債権を有していたものであるところ、被告は当時支払不能の状態にあつたため、昭和四〇年一月末頃前記自動車の占有を原告に移し、その売却方を原告に申出てきたので、原告は売却代金を割賦債権の一部支払に充当し、かつ、売却代金の一割ないし一割五分を原告販売手数料として取得することを条件としてこれを受諾した。また、右自動車はそのままの状態では売却できないので、被告の委任をうけて、これを補修したところ、ジユニアについては金八四、三四二円、ライトバンについては、金八七、一七一円を要した。そうして、原告は、昭和四〇年二月二六日ライトバンを訴外一柳秀雄に対し金二二〇、〇〇〇円で売却したが、右売買に当つて、訴外成田吉夫に対し仲介料として金一〇、〇〇〇円を支払つた。また、原告は同年三月三一日ジユニアを訴外山崎正雄に対し一二回月賦払の約にて金二四〇、〇〇〇円で売却した。
四、そこで、原告は、ジユニアの売買価格金二四〇、〇〇〇円から補修費の立替金八四、三四二円と右売買価格の一割五分に相当する販売手数料金三六、〇〇〇円とを控除した金一一九、六五八円を前記割賦未払金一二三、二八〇円の一部支払に充当した。また、原告は、ライトバンについては、その売買価格金二二〇、〇〇〇円から補修費等の立替金九七、一七一円と売買価格の一割に相当する販売手数料金二二、〇〇〇円を控除した金一〇〇、八二九円を割賦未払金一六二、〇〇〇円の一部支払に充当した。
よつて、原告は被告に対し、割賦未払金から前記支払充当分を控除した残額金三、六二二円(ジユニア分)および金六一、一七一円(ライトバン分)との合計金六四、七九三円およびこれに対する本訴準備書面送達の翌日である昭和四〇年七月一八日からその支払済に至るまで商法所定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
被告は適式の呼出をうけながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、かつ答弁書その他の準備書面も提出しない。
理由
被告は、前記の如く本件口頭弁論期日に出頭せず、前記書面を提出しないから、原告の主張事実を自白したものと看做す。
さて、原告の主張事実三および四によれば、被告は昭和四〇年一月末頃前記各自動車の占有を原告に移し、その売却方を原告に申出てきたので、原告は売却代金を割賦債権の一部支払に充当し、かつ売却代金の一割ないし一割五分を原告の販売手数料として取得することを条件としてこれを承諾し、その結果、原告はジユニアの売買価格金二四〇、〇〇〇円の一割五分に相当する販売手数料金三六、〇〇〇円およびライトバン売買価格金二二〇、〇〇〇円の一割に相当する販売手数料金二二、〇〇〇円との合計金五八、〇〇〇円を被告に対し請求できるものとして、これを未払割賦金から控除するというのである。
しかしながら、割賦販売法第六条は、「割賦販売業者は、指定商品に係る割賦販売の契約が解除された場合には、損害賠償の予定又は違約金の定めがあるときにおいても、次の各号に掲げる額とこれに対する法定利率による遅延損害金の額とを加算した金額をこえる額の金銭の支払を購入者に対して請求することができない。」と規定しかつ、同条一号は、「当該商品が返還された場合、当該商品の通常の使用料の額(当該商品の割賦販売価格に相当する額から当該商品の返還された時における価格を控除した額が通常の使用料の額をこえるときは、その額)」と明定している。この規定は、要するに、月賦販売業者が特約をもつてしても、購入者に対し不適正な損害賠償等を請求することを禁じ、もつて月賦販売契約において弱者の立場にある購入者の利益を保護しようとする趣旨と解されるところ、その立法趣旨に鑑みれば、月賦販売契約の解除の場合における特約に基づく損害賠償請求等はもとより、購入者の利益保護の見地から右と同様の法律関係にある場合についても、適用があると解すべきである。これを本件についてみるに、なるほど、本訴における原告の主張は、割賦販売契約の解除を前提としてこれに基づく損害賠償を請求しているものではないが、原告が本件自動車の月賦購入者たる被告から前記自動車の返還をうけるにあたり、たとえそれが被告の依頼に基づくにせよ、右自動車を他に売却して割賦未払金の支払に充当するということを条件にしている以上、月賦販売業者たる原告は被告に対し割賦販売法第六条および同条第一号所定の制限をこえて金銭を請求しまたは未払割賦金に支払充当することは許されないものと考える。
そうだとすれば、原告が未払割賦金の支払に充当したもののうち、自動車の補修費金一七一、五一三円および訴外成田吉夫に対して支払つた仲介料金一〇、〇〇〇円は前記自動車の売却に必要な経費として是認されるが、自動車販売手数料金五八、〇〇〇円を控除したのは、かかる特約の存在にかかわらず、許されないところであるといわなければならない。
よつて、原告の本訴請求は、原告に対して有する未払割賦金債権合計金二八五、二八〇円、自動車補修費金一七一、五一三円および前記仲介料金一〇、〇〇〇円の総計金四六六、七九三円から前記自動車売却代金合計金四六〇、〇〇〇円を控除した残額金六、七九三円およびこれに対する本訴準備書面送達の翌日であること記録上明らかな昭和四〇年七月一八日以降その支払済まで商法所定年六分の割合による損害金の支払を求める限度において正当であるが、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第九二条本文に従いこれを五分してその四を原告の負担とし、その余を被告の負担と定め、勝訴部分の仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 糟谷忠男)