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松山地方裁判所 昭和41年(わ)270号 決定 1966年10月03日

被告人 N・N(昭二三・二・五生)

主文

本件を松山家庭裁判所に移送する。

理由

本件公訴事実は

被告人はA(一六年)B(一五年)C(一五年)D(一五年)と強姦しようと企て共謀のうえ、昭和四一年五月○○日午後八時過より伊予郡○○町大字○○附近路上において軽四輪貨物自動車と自動二輪車で婦女を物色中同日午後九時四五分頃同町大字○○×××附近県道上を歩いて帰宅中の○屋○根(二〇年)を認めるやB、Cの両名が下車のうえ同女の両腕を掴み男帯で口をふさぎ「一緒に来い、殺すぞ」と申し向けて畏怖させ、右軽四輪貨物自動車に引張りこみ通称○○山のみかん畑に連行し、同日午後一〇時一〇分頃より同一一時一〇分頃までの間同所においてこもごも「させ、言うことをきかんと池の中に放り込んで殺すぞ」等と申し向けて脅迫し、その場に押し倒してその反抗を抑圧し全裸にした後、A、D、被告人の順にその場において、二人以上共同して姦淫し、その際同女に対し左頬骨部擦過傷、会陰部表皮損傷、処女膜破綻による全治約五日間を要する傷害を与えたものである。というにあつて、

右事実は被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官、及び司法警察員に対する各供述調書、共犯者の検察官、及び司法警察員に対する各供述調書各謄本、被害者の司法警察員に対する供述調書謄本等を綜合すると十分これを認めることができる。

よつて被告人に対する所遇について考えてみるに、

他の共犯者はいずれも当時漸く一六歳に達したばかりかそれ未満の年少少年であるのに被告人のみは既に一八歳を超えており、かつ被告人は被害者を自動車に乗車させこれを運転して犯行現場に連行して共犯者と共に輪姦したものでその演じた役割は重大で、その責任も重く刑事処分に付したとて、必ずしも不当に重いということはできない。

しかしながら被告人の素質、本件犯行の原因、その他の情状について仔細に検討するに鑑別結果報告書、診断書、その他一件記録を綜合すると被告人は知能は低く限界級であるうえ、慢性てんかん病に罹患しており、意思薄弱で、自制力乏しく、環境に支配せられやすい性格の持主であり、共犯者中最年長者ではあるが主動的役割を果したものとはいい難く、むしろ年少の共犯者に追従して本件犯行に及んだものと認められる節もあり、被告人は道路交通法違反を除き未だ他に非行なく、その非行性は必ずしも矯正し難いほど重症のものとはいうことができず、その後改悛の情も認められ、また、被告人の父は被害者に対し、相当の慰藉の方法を講じ、宥恕を受けると共に被告人の更生に力を致すことを誓つており、以上諸般の情状を綜合すると、被告人に対してはこの際ただちに刑事処分に付するよりは寧ろ他の共犯者と同様保護処分に付することにより矯正教育を施すと共に持病の治療をなさしめ、もつて心身の改善更生を図らしめることを相当と思料する。

よつて、少年法第五五条により本件を松山家庭裁判所に移送することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢野伊吉 裁判官 早川律三郎 裁判官 友添郁夫)

参考

受移送家裁決定(松山家裁 昭四一(少)一四六八号 昭四一・一二・一四決定 報告四号)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、A(一六年)・B(一五年)・C(一五年)・D(一五年)と婦女を強姦しようと企て共謀の上、昭和四一年五月○○日午後八時過より伊予郡○○町大字○○国鉄○伊予駅附近で軽四輪貨物自動車と自動二輪に分乗して婦女を物色していたところ、同日午後九時四五分頃同駅から降りて帰宅中の会社員○屋○根(二〇年)を認めるや、これを追尾して同町大字○○○××附近の県道上に至り、B・Cの両名において下車のうえ同女の両腕を掴み男帯で口を塞ぎ「一緒に来い、殺すぞ」と申し向けて畏怖させ上記軽四輪貨物自動車に引張り込んで、同所から伊予市○○○通称○○山のみかん畑内まで連行し、同日午後一〇時一〇分頃より同一一時一〇分頃までの間、同所においてこもごも「させ、言うことをきかんと池の中に放り込んで殺すぞ」等と申し向けて脅迫し、同女をその場に押し倒して全裸にする等の暴行を加えてその反抗を抑圧したうえ順次同女に乗りかかつて姦淫し、その際同女に対し左頬骨部擦過傷、会陰部表皮損傷、処女膜破綻による全治五日間を要する傷害を与えたものである。

(法令の適用)

少年の上記の所為は刑法第一八一条・第一七七条・第六〇条に該当する。

本件は当初少年法第二〇条により検察官送致となつたが、刑事裁判所において審理の結果、少年に対し直ちに刑事処分をなすよりむしろ保護処分により矯正教育を施すのが相当であるとして、同法第五五条により当庁に再送致されたものである。

そこで少年に対する処遇について考えるに、少年は幼時より精神障害(慢性てんかん)を有し、両親から甘やかされて適切な躾がなされず心身とも発育が遅れて義務教育も満足に受けられない状況で中学校を卒業したが、その頃から親戚関係にある非行少年(共犯者Bの兄)と交わり同人宅を集合場所として不良交遊をなし、本件非行へと発展したものであつて、資質面においても、上記精神障害の外、知能は限界級で性格特性として意志薄弱で被影響性が強いうえ自制力も乏しく、精神障害に対する劣等感も加わり他人に同調して危険な逸脱行為に暴走する傾向がある。本件犯行の態様は極めて悪質であり被害者及び地域社会に与えた打撃や不安は著しく、少年の年齢の点を考慮すると刑事処分もあながち不相当とは考えられないが、少年は最年長者であるけれども、本件の主謀者とはいい難く、また従前ともかく道路交通法関係を除き非行歴を有しないこと及び上記精神障害の点等を考慮すると、むしろ保護処分の対象とするのが相当である。しかしながら、少年は、本件の刑事裁判中保釈されその直後上記問題少年との交友関係を復活し、二回にわたつて入墨をしており、この事実だけに徴しても少年自身の反省心の欠如はもとより保護者の監護能力にも期待すべきものがなく、在宅保護の方法によつては、少年の再非行を防止しその性行の改善を図ることは困難と認められる。従つて、この際少年を適当な施設に収容して矯正教育を施す必要があるが、少年の上記精神障害に対する医療措置を必要とするので、収容施設としては当面医療少年院が適当である。

よつて、少年法第二四条第一項第三号・少年審判規則第三七条第一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 尾崎俊信)

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