松山地方裁判所 昭和41年(わ)559号 判決 1970年5月15日
本籍
広島県豊田郡安浦町大字三津口八九九番地
住居
松山市道後湯之町一番三八号
金融業
西本信行
昭和四年六月一七日生
右の者に対する暴力行為等処罰に関する法律違反、わいせつ図画陳列、脅迫、銃砲刀剣類所持等取締違反、火薬類取締法違反、わいせつ図画販売目的所持、殺人(認定罪名殺人幇助)ならびに所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官吉野勝夫出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役七年に処する。
未決勾留日数中七三〇日を右刑に算入する。
押収してある猟銃一丁(証一〇号)拳銃二丁(証一一、一二号)猟銃用実包一四発(証一三号)拳銃用実包四八発(証一四、一五号)および白黒わいせつ写真八八〇枚(証一六号)を没収する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、松山市道後湯之町一の三八に事務所をおく暴力団西本会の会長であるが、
第一、暴力団渡部組組長渡部実の兄弟分として同組においても羽振を利かしていたものであるところ、同組幹部柳川重夫こと柳三述がその輩下である相原誠一らと共に、かねてより組内の勢力争いから右柳と険しい対立関係にあり、しかも右組長渡部にさえ楯つき組の人望を失つていた同組幹部高橋高美(当時三七年)を殺害しようと企て、右相原が昭和三八年一月一六日午後一一時一五分ごろ、松山市二番町二丁目クラブヤングこと和田正夫方東側路上において右高橋に対し所携の猟銃を発射して同人の背部ならびに頭部に命中させ、その場において同人を右顔右頭部爆創のため即死させ殺害の目的を遂げたものであるが、その頃事前に、その情を知りながら、前記柳に対し、右猟銃を貸与し、更には再三に亘り暗に右殺害行為の決行を激励するかのごとき言辞を弄し、もつて同人らの右殺人を容易ならしめてこれを幇助し
第二、同市道後湯之町四番四号所在のヌードスタジオなどにおいて観光客等に対するわいせつ映画の上映、わいせつ写真の販売、知人らに対する金員の貸付けなどを行ない、更に同市道後湯之月町一七〇番地一所在のバー「峠」に売春婦をおき、その売春料の一部を収受するなどして利得をえていたものであるが
(一) 昭和三九年分の所得は、一九、八〇二、〇二一円でその所得税額は九、三四七、七〇〇円であつたにかかわらず所得税をほ脱する意図のもとに、その収益の一部を架空名義あるいは他人名義で預金するなどして所得を秘匿し、更に会計帳簿等その収支を記載した一切の書類を作成しないなどの不正の行為をなしたうえ、法定の申告期限である昭和四〇年三月一五日までに同市本町一丁目三番四、所轄松山税務署に対し、昭和三九年分の所得税確定申告書を提出せず、もつて昭和三九年分の所得税九、三四七、七〇〇円をほ脱し
(二) 昭和四〇年分の所得は一八、六一八、四八〇円でその所得税額は八、六七五、〇〇〇円であつたのにかかわらず前同様の意図のもとに前同様不正の行為をなしたうえ、法定の申告期間である昭和四一年三月一五日までに前記松山税務署長に対し昭和四〇年分の所得税確定申告書を提出せず、もつて昭和四〇年分の所得税八、六七五、〇〇〇円をほ脱し
第三、輩下の国貞保行、同丹下幸三が共謀のうえカフエー「オリンピツク」(経営者沖田百野)の女給藤井博子こと松本博子(当時一七才)に対し、右国貞の経営するバーで働く約束をないがしろにしたとして、昭和四〇年二月一三日頃治癒までに約七日間を要する傷害を負わせた上、沖田百野から因縁をつけて翌日金三万円を喝取したが、その件が警察官に発覚することをおそれ、被害の届出を阻止すべく同年三月上旬頃右沖田を前記西本本会事務所に呼びつけた上同所において同女に対し「わしはお前とこの店を叩きつぶせとは言うてないぞ、前にわしがこの町でカスリを取っていた事件で警察にやられたことがあるが、その時わしのことを言うた者はあとでこの町で店をやつていけんようになつたんぞ、お前らが警察で話したことは一字一包も違わんようにわしにわかるんじや、店をつぶしたすこと位世話はないぞ、店の表と裏に若い衆を二、三人づつ立てておいたら客も入らずに店がつぶれようが、国貞らのことを警察に言うとるんならすぐ取り下げせい、それがお前らの身のためじや」などと申し向け、暗に同女の生命、身体、財産などに対して危害を加えるべきことをもつて脅迫し、
第四、法定の除外事由がないのに、同年一一月頃より昭和四二年二月二日までの間前記西本会事務所、同市祝谷の西本義子方および同市樽味町市営住宅二号松本佐太郎方等において、米国製口径〇・二二吋自動装てん式けん銃、口径八ミリ九四式自動装てん式けん銃および有鶏頭単身元折変装猟銃各一丁ならびに火薬類である口径〇・二二吋ロングライフル型実包三四個、南部大型自動けん銃用実包一四個および一二番猟銃用実包一四個を所持し、
第五、(一) 越智武および福岡淳が同市内道後湯泉の旅館においてわいせつ映画を上映し利益を得ていることを知り、同人らに因縁をつけ暴力しようと企て、輩下の国貞保行、同西本義行、同佐々木重夫、同和田農彦、同園延昭治らと共謀のうえ、昭和四一年三月六日午後九時すぎ頃右国貞ほか二名において同市多幸町道後ストア前付近路上から右福岡および越智を同市道後湯之町四の四所在ヌードスタヂオ二階広間に連行し、出入口に施錠したうえ、右国貞ら数名が右両名をとりかこみ、こもごも「お前らが旅館でエロ映画をして金もうけをしたことを知つとるんぞ、お前ら痛い目に会わんと本当のことがいえんのか」などと怒号しながら、手拳や棒、ハンガー等で右両名の頭部、背部等を殴打し、足で踏む蹴るの約二時間にわたる暴行を加え、もつて数名共同して暴行し、
(二) 輩下の国貞保行、同園延昭治、同和田農彦、同加藤春市同玉井昭男、同沖久、同丹下幸三らと共謀のうえ、輩下の佐々木重夫が西本会名義でバーなどに借金をかさね西本会を疎んじるに至つたことに対して制裁を加えようと企て、同年四月下旬頃の午後八時頃同市二番町バー「ヤング」で同人を発見するや前記西本会事務所へ連行し、右国貞ら数名がこもごも同人の顔面頭部等を殴打し、足蹴りにしたうえ、さらに右加藤、玉井において同人を前記ヌードスタヂオに連れ込み、同人の頭部等を椅子などで殴打し、もつて数人共同して暴行し、
(三) 輩下の国貞保行、同加藤春市、同玉井昭男、同和田農彦同東谷昭らと共謀のうえ、広瀬義孝が西本会に無断でわいせつ映画を上映し、同会の客を横取りしているものと邪推し、同人に暴行を加えようと企て、同年七月三一日午後一〇時頃右加藤および東谷が前記ヌードスタヂオ二階において右広瀬に対して、こもごも木剣などで同人の腰部等を数回殴打する等の暴行を加えたうえ、さらに、右加藤、玉井、和田および東谷が同人を同市大字湯山の内甲四四三番地の水田に連行し、同人の両足を縛り手拳で頭部等を殴打し又は足蹴りにし、水田の泥水に顔面を押しつけるなどし、もつて数人共同して暴行し、
第六、前記園延昭治と共謀のうえ
別表記載のとおり昭和四一年三月初旬頃から同年八月下旬頃までの間前後二一回にわたり宮岡秀雄ほか七名に対し男女性交などの場面を露骨に撒影したわいせつ写真合計五七〇枚を一組一〇枚につき金五〇〇円で販売し、もつてわいせつ図画を販売し、
(二) 昭和四二年一月一九日同市道後湯之町四の四江戸多喜男方において、販売の目的をもって男女性交などの場面を露骨に撒影したわいせつ写真八八〇枚を所持し、
第七、前記国貞保行および沖久らと共謀のうえ、昭和四一年一一月二七日午後八時四〇分頃同市湯月町一丁目一の二五元商栄組合事務所二階において、森貫治ほか二〇名位の観客に一人当り金一、〇〇〇円の科金を徴収して、「歪んだ情事」ほか二巻の男女性交の場面を露骨に撒影した八ミリカラーわいせつ映画フイルムを二台の映写機を用いて映写してこれを観覧させ、もつて公然わいせつ図画を陳列し、
たものである。
(証拠の標目)
判示冒頭の事実につき
一、被告人の司法警察員に対する昭和四一年一一月二八日付
供述調書
判示第一の事実につき
一、医師梶原勘一の死体検案書の謄本
一、司法警察員田中勝作成の実況見分調書(昭和三八年一月二八日付)の謄本
一、森岱義作成の猟銃の鑑定書の謄本
一、第三回(昭和四三年三月六日)、第四回(同年三月二九日)および第五回(同年四月一七日)公判調書中の証人柳三述の供述部分
一、第六回公判調書中の証人大崎三郎の供述部分
一、第八回公判調書中の証人相原誠一の供述部分
一、第九回公判調書中の証人柳外述の供述部分
一、第一四回公判調書中の証人伊藤武夫、同田村勲の各供述部分
一、柳三述の検察官に対する供述調書四通
一、相原誠一の検察官に対する昭和四二年九月二三日付供述調書
一、田村勲の検察官(昭和四二年九月二〇日付)および司法警察員(同年九月一六日付)に対する各供述調書
一、被告人の当公判廷における供述
判示第二の事実につき
一、証人吉井健一の当公判廷における供述
一、吉井健一の検察官に対する供述調書の抄本
一、岩永朝一郎の検察官に対する供述調書五通(昭和四二年九月二三日付、同年一〇月一三日付、同年一一月四日付、昭和四三年一月二三日付、同年一月一八日付)
一、西本義子の検察官に対する供述調書三通(昭和四二年九月一八日付、同年一〇月二日付、昭和四三年一月一九日付)
一、中岡政夫、伊藤政義、小玉辰己および江戸多喜男の検察官に対する各供述調書
一、愛媛相互銀行道後支店長作成の当座勘定元帳、普通預金元帳(口座番号、四三一七号、三七三五号、四三七八号、五四〇〇号、五六一七号、四三五三号、三九一一号、五〇二〇号、五一二九号、三八一三号、三八三二号、三八四三号、五〇三二号、四一五〇号)、定期預金記入帳(二通)、西本信行関係定期預金等残高調書、手形貸付金元帳、エプロン貯金入金状況表(番号四三ノ一六六)およびエプロン貯金元帳の各写
判示第二の(一)の準実につき
一、松山税務署長作成の被告人および西本義子の昭和三九年分所得確定申告書ならびに昭和三九年分所得税の更正加算税賦課決定通知書の各写
一、愛媛相互銀行道後支店長作成の普通預金元帳(口座番号五八四〇号、四四〇六号、四三四四号、四五一二号、四二九二号)および定期預金元帳(番号四一-一二八、番号四一-一四七)の各写
判示第二の(二)の事実につき
一、松山税務署長作成の被告人および西本義子の昭和四〇年分所得税確定申告書ならびに昭和四〇年分所得税の更正、加算税賦課決定通知書の各写
一、愛媛相互銀行道後支店長作成の普通預金元帳(口座番号五四二一号)およびエプロン貯金元帳の各写
一、香川相互銀行松山支店長作成の定期預金元帳の写
判示第三の事実につき
一、沖田百野の検察官および司法警察員に対する各供述調書
一、沖田忠雄の検察官および司法警察員に対する各供述調書
一、藤井博子の検察官および司法警察員に対する各供述調書
判示第四の事実につき
一、西本義子の検察官に対する昭和四二年二月四日付供述調書
一、松本和夫の司法警察員に対する供述調書謄本
一、鑑定人技師森岱義、仙波忠男共同作成の鑑定結果報告書
一、押収にかかる猟銃一丁、拳銃二丁、猟銃用実包一四発、拳銃用実包合計四八発(証一〇号ないし一五号)
一、被告人の司法警察員に対する同月一四日付および同月一六日付各供述調書
判示第五の(一)の事実につき
一、佐々木重夫の司法警察員に対する昭和四二年一月一七日付供述調書の謄本
一、佐々木重夫の司法警察員に対する同月三一日付供述調書
一、越智武の司法警察員に対する昭和四一年八月三一日付供述調書
一、越智武および福岡淳の検察官に対する各供述調書
一、被告人の検察官に対する昭和四二年一月二七日付供述調書
判示第五の(二)の事実につき
一、和田農彦の司法警察員に対する昭和四二年一月二三日付および同年二月九日付各供述調書の謄本
一、併合前の第六回(昭和四二年一〇月三日)公判調書中の証人佐々木重夫の供述記載部分
一、佐々木重夫の検察官に対する供述調書中、第二項三〇行目から三九行目までの部分
一、押収してある金属製三角椅子(証二〇号)
一、被告人の司法警察員に対する同年二月一日付供述調書
判示第五の(三)の事実につき
一、広瀬義孝の検察官に対する供述調書二通
一、白石昭二郎の司法警察員に対する昭和四一年一二月一五日付、昭和四二年一月一〇日付および同月二八日付各供述調書
一、白石昭二郎の検察官に対する昭和四二年二月一日付供述調書
一、和田農彦の司法警察員に対する昭和四二年一月二五日付供述調書の謄本
一、司法警察員美濃照雄作成の実況見分調書
一、被告人の検察官に対する昭和四二年二月二五日付供述調書
判示第六の(一)の事実につき
一、園延昭治の司法警察員に対する昭和四二年二月一四日付供述調書
一、宮岡秀雄、阿部肇、島サツキ、高場ハル、西原八重子、雪下寿美子、大上八重子および坂田ハツの司法警察員に対する各供述調書
一、被告人の司法警察員に対する同月八日付供述調書
判示第六の(二)の事実につき
一、園延昭治の司法警察員に対する昭和四二年一月二〇日付供述調書
一、江戸多喜男の司法警察員に対する供述調書二通
一、江戸孝子の司法警察員に対する供述調書
一、押収にかかる白黒わいせつ写真八八〇枚(証一六号)
一、被告人の司法警察員に対する同年二月九日付供述調書
判示第七の事実につき
一、沖久の検察官に対する昭和四一年一二月五日付、同月一五日付、同月二八日付各供述調書
一、玉井昭男の検察官に対する同月六日付、同月一七日付各供述調書
一、山崎達之、土居健、森貫治、菅野久夫、能美秋男の司法警察員に対する各供述調書
一、押収にかかる八ミリカラー映画フイルム合計三巻、八ミリ映写機合計二台および映写幕一枚(証一号ないし六号)
一、被告人の司法警察員に対する同月二三日付、昭和四二年一月二三日付、同月二四日付各供述調書
(法令の適用)
被告人の判示第一の所為は刑法六二条一項、一九九条に該当するので所定刑中有期懲役刑を選択し、右は従犯であるから同法六三条六八条三号により法律上の減軽をし、判示第二の(一)の所為は昭和四〇年三月三一日法律三三号による改正前の所得税法六九条一項(右法律付則三五条)に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、判示第二の(二)の所為は、所得税法二三八条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、判示第三の所為は刑法六〇条二二二条一項、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、判示第四の所為中、けん銃などを所持した所為は包括して銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二の一項、三条一項に、実包などを所持した所為は包括して、火薬類取締法五九条二号二一条に各該当するところ、右は一個の行為にして二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段一〇条により一罪として重いけん銃などを所持した所為の罪の刑で処断することとし、所定刑中懲役刑を選択し、判示第五の各所為は、いずれも刑法六〇条、暴力行為等の処罰に関する法律一条、罰金等臨時措置法三条一項二号に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、判示第六の所為は包括して、刑法六〇条、一七五条、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、判示第七の所為は、刑法六〇条一七五条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文一〇条により最も重い殺人幣助の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役七年に処し、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち七三〇日を右の刑に算入することとし、押収してある猟銃一丁(証一〇号)拳銃W-TNEY一丁(証一一号)拳銃九四式一丁(証一二号)猟銃用実包一四発(証一三号)拳銃用実包四八発(証一四、一五号)は、いずれもそれぞれ判示第四の罪を組成したものであり、白黒わいせつ写真八八〇枚(証一八号)を判示第六の(二)の罪を組成したものであつていずれも犯人以外の者に属しないから、同法一九条一項一号二項によりこれらを被告人から没収することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤龍雄 裁判官 上本公康 裁判官 田村秀作)
別表
<省略>
計五七組