松山地方裁判所 昭和41年(ワ)86号 判決 1966年12月23日
主文
(一) 松山地方裁判所昭和四〇年(手ワ)第八八号約束手形金請求事件の手形判決及び仮執行宣言を認可する。
(二) 異議申立後の訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
(当時者の求める裁判)
一、原告
主文第一項と同趣旨。
二、被告
1 主文第一項掲記の手形判決を取消す。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
(原告の請求原因)
一、被告は、次の約束手形一通を振出した。
金額 二〇〇万円
満期 昭和四〇年七月三一日
支払地・振出地松山市
支払場所 株式会社阿波銀行松山支店
振出日 同年五月二五日
受取人 三栄電機株式会社
二、右手形は、三栄電機株式会社から土井昭雄に、土井昭雄から原告に順次裏書譲渡され、原告が現にこれを所持している。
三、右手形は、満期に支払のため呈示されたが、支払を拒絶された。その後、被告は、原告に対して、手形金内金として一八万円を支払つた。
四、よつて、原告は、被告に対して、手形金残金一八二万円とこれに対する満期後の昭和四〇年八月一一日から完済まで年六分の損害金の支払を求める。
(被告の答弁)
原告の請求原因を認める。
(被告の抗弁)
一、原告は、昭和四〇年四月三〇日、愛媛トラスト名刺株式会社(当時の商号は三栄電機株式会社。以下便宜三栄電機と称する。)との間に、実用新案第七二五九四四号トラスト写真入り名刺の実用新案権の愛媛県下における実施権を、代価四〇〇万円で売買する旨の契約をし、右代価の支払方法として、三栄電機が本件手形を原告に交付した。
二、本件手形は、被告が三栄電機の要請によつて振出した融通手形である。
三、原告は、無価値な名刺販売権を三栄電機に売買し、その対価として本件手形を詐取したのである。三栄電機(なお、手形面上は、三栄電機と原告間に土井昭雄が介在しているが、同人と三栄電機とは経済的に一体をなすものであり、実質的には、三栄電機が直接原告に裏書譲渡したと同視されるべきである。)は、実質的には本件手形を裏書譲渡する具体的意思はなかつた。原告も、これを知つて本件手形を取得した者であるから、正当な手形所持人ではない。
四、第一項の売買契約に際して、原告と三栄電機との間に、原告が昭和四〇年七月三一日までに特約店一六店を獲得してこれを三栄電機に譲渡した上、三栄電機の営業の目安が立つてから、本件手形の支払を求めるという特約があつた。しかるに、原告は、三栄電機に対する授助を何ら行わず、もともと営業として成算の疑わしい権利をあたかも営業価値のあるかのように宣伝して本件売買契約を結ばせたのである。
したがつて、本件手形の原因関係たる売買契約には、内容に重大な錯誤があり無効である。
五、仮に、錯誤が認められないとしても、原告は、前項の特約店譲渡の特約を履行しなかつたので、三栄電機は、昭和四一年一月二〇日付内容証明郵便をもつて、原告に対し、債務不履行を原因として本件売買契約を解除する意思表示をした。
したがつて、本件手形の原因関係は消滅した。
六、以上のとおりであるから、被告は、本件手形の支払義務がない。
(抗弁に対する原告の答弁)
一、抗弁第一項を認める。
同第二項は知らない。
同第三項から第五項は否認する。但し、第五項中被告主張のような意思表示があつたことは認める。
二、被告の融通手形の抗弁は、本件手形振出人と受取人間の事由であり、その他の抗弁は、三栄電機と原告間の事由であり、いずれも被告の抗弁とはなりえないから、主張自体失当である。
(証拠関係)(省略)